古村治彦です。
アメリカ国民が「タカ派的」になっていく中で、民主、共和両党ともに「タカ派路線」を進むことになり、そのためにランド・ポールは総攻撃に遭って負けてしまうだろうという記事です。2017年からの世界が暗澹たるものになっていくのであろうと今からため息が出ます。
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ハトはタカとの戦いには勝てない(A Dove Can’t Win a Hawk
Fight)
―ランド・ポールの微妙な外交政策では、強硬な態度が好まれる共和党の予備選挙を勝ち抜くチャンスはない
マイケル・A・コーエン(Michael A. Cohen)筆
2015年4月8日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2015/04/08/a-dove-cant-win-a-hawk-fight-rand-paul-gop-primary/
もしあなたが2016年の大統領選挙に出馬することになった共和党の政治家とするならば、選挙期間における最高の日となるのは、あなたが共和党の大統領選挙候補者になったと発表する日となるだろう。喝采を送る聴衆、賛辞、色とりどりの吹き流しと風船、希望と高まる期待、その日1日だけは何でもできると思えてくる。共和党の大統領選挙候補者にとっては、この日よりもより良い日を迎えることはないだろう。
それでも未来はやって来る。
共和党の予備選挙に参加することを発表した、ケンタッキー州選出連邦上院議員ランド・ポールをこの文章で取り上げる。4月7日の火曜日、ケンタッキー州ルイヴィルで彼は笑顔と幸福感に包まれていた。こんなことは言いたくないのだが、ランドさん、そこからあなたは落ちていくだけになりますよ。
ベン・カーソンを一言で言うなら「狂気」だし、リック・ペリーは「頭の悪さ」となり、クリス・クリスティの場合は「クリス・クリスティらしさ」ということになる。ランド・ポールの場合は、「ハト派」となる。共和党の予備選挙で大きな力を持っているのは強硬なタカ派の人々であり、ランド・ポールは招かれざる客なのである。彼は共和党の馬鹿げた外交政策を少しはまともにしようと努力しているが、彼の訴えに耳を傾ける共和党支持者は少ない。一言で言えば、彼は自身の外交政策に関する考え方のために共和党の大統領選挙候補者になれないのである。
ランド・ポール
火曜日、ランド・ポールはルイヴィルで、友人、家族、歓声を上げる支持者たちに囲まれていた。その中で、彼は国家安全保障とアメリカの世界における位置づけに関して正しいことを述べようとした。
彼はまず宣言した。「敵は急進イスラムだ。私たちはそれから目を背けることはできない」
彼は自分の目標とする人物の名を挙げた。「私は、レーガン大統領がそうしたように、強さを通じて平和を維持する国防政策を実行する」。
彼は続けて主敵を攻撃した。「オバマ大統領と私との違いを言うならば、彼は弱者の立場から交渉が可能だと考えているように見えるということだ」。
しかし、彼がどれほど努力しても、ポールは自分自身の信念と彼のこれまでの政治行動の記録から逃れることはできない。
ポールは、オバマ大統領のイランとの合意を批判しながらも、イランの将来の核開発を巡る交渉は支持している。彼は過去にイスラエルに対する軍事援助を削減するように主張したこともあった。これは現在の共和党では、「ねぇ、オバマってそこまで悪くないよね?」と言うことよりも悪いこととなっているのだ。昨年、ポールは新聞の論説ページに投稿し、その中で、キューバに対する経済制裁を止めるように主張した。彼は更に「私は孤立主義者ではない」という何の捻りもない題の別の文章でもこのことを主張した。2011年、ポールは、保守派政治活動会議(CPAC)の総会で、保守派であるならば、その人は「軍事予算には多くの無駄がある」という主張に同意すべきだと述べた。
彼のこれまでの発言から分かることは、ポールは「アメリカは抑制的な外交政策と国家安全保障政策を行う必要があり、軍事力の行使は最終手段だとすべきだ」と考えていることが分かる。
これらは微妙な考えである。言わずもがなの事であるが、こうした考えを共和党の幹部たちは共有していない。
例えば、CBSニュースの世論調査によると、共和党支持者の86%がイスラム国(IS)をアメリカにとっての大きな脅威と見なしている。民主党支持者になるとこの数は25%も低くなる。共和党支持者の72%がイラクやシリアへの地上軍の派遣を支持している。民主党支持者よりも22%も高い数字だ。イランとの核開発を巡る交渉が枠組みで合意に達する前、共和党員の過半数はイランを封じ込めるために軍事力を行使すべきだと考えていた(この数字は民主党員よりも25%も高かった)。昨年8月、イラクにおいてイスラム国と戦うべきかという質問に対し、共和党員の34%は反対し、戦わないことに57%が反対した。一方、民主党員の場合はこの数字がほぼ逆転し、戦うことに62%が反対し、25%が賛成した。共和党員は、アメリカがイラクに米軍を残しておくべきで、アフガニスタンでは正しいことをやったと考える傾向にあり、「圧倒的な軍事力」こそがテロリス無二大勝する最良の方法であると強く信じているのである(このように考える民主党員は30%しかいない)。
こうした数字を見るだけでも、ポールのイデオロギー傾向から彼が共和党の大統領候補の指名を受けることは困難だということは分かる。しかし、更に彼にとって障害となるのは、現在の共和党は外交政策においてより強硬な路線を取りつつあるという事実だ。イスラム国の勢力拡大、ロシアにウクライナ侵攻、オバマ大統領が憎むべきイランの最高指導部と取引をしようとしていることに直面し、共和党は少なくとも現在のところ、国家安全保障について政治的に有利な立場に立っている。
共和党側は2016年の大統領選挙を外交政策の選挙だと見なしている。そして民主党側はいつもの通り、恐怖感を募らせている。中道派の民主党員のグループ「サードウェイ」は2月にレポートを発表した。その中で、「民主党と共和党との間の安全保障に関する考え方の違いが発生し、その違いはこれまで以上に大きくなっている。これが選挙においては問題になる」と主張した。それへの対処として、サードウェイは、民主党が「アメリカに対する脅威」の存在をしっかりと認識していることをアピールすること、そして民主党が国民を守るために「全力を傾けている」と有権者に分かってもらうようにすることを提言している。ヒラリーがこの提言をしっかりと受け止めていることは明らかだ。結果として、民主、共和両党は可能な限りタカ派的な主張を行うようになるだろう。その一環として、アメリカが直面している脅威をその実態以上に過大に強調するだろう。
ポールがどれほど過去の行動から現在の自分は違うと訴えても、彼が共和党の大統領候補になっている姿を想像することは不可能だ。彼が出馬を正式に表明する演説を終える前に、外部の諸団体は予備選挙が行われる各州でテレビコマーシャルを流し、その中で、「ポールはオバマ大統領のイランと交渉を支持するという間違いを犯した危険な人物だ」とレッテル貼りをし、「イランが“我が国の国家安全保障にとって脅威となる”と考えるのは馬鹿げている」とポールは主張していると攻撃した。
こうした攻撃はこれからもっと激しくなっていくだろう。ポールは国家安全保障に関しては守勢に回らざるを得なくなるだろう。彼は選挙戦に参加している限り、保守派からの攻撃に晒され続けるだろう。少なくとも、彼のライヴァルたちは全員、共和党の幹部たちのタカ派性にアピールをすることは間違いないところだ。
更には、ランド・ポールには簡単に逃れられないもう1つの問題が存在する。それは、ルイヴィルの集会にも参加していた父親ロン・ポールである。
ロン・ポール
多くの有権者はランド・ポールという名前を聞いたらロン・ポールを連想することになるのは想像に難くない。ランド・ポールは国家安全保障で中間的な立場に立ち、外交政策についてのタカ派のようにオバマ政権に対して最低限度の批判を加えようとしている。しかし、父ロン・ポールは、全く妥協せずにアイソレーショニスト的な考えを隠さずに主張している。イスラエル、国防予算、イラク、対テロ戦争に関して、ロン・ポールは、アメリカ国内のいかなる現実政治家たちよりも共和党主流派の考えから距離を取っている。ランド・ポールとロン・ポールの関係を知らない共和党の予備選挙に参加する有権者たちに対して、共和党の予備選立候補者たちは、討論会で国家安全保障に関して父と同じ考えを持っているかどうかを質問してアピール機会を狙っている。これまでに述べた3つの弱点はポールにとっての足かせとなり、ポールに痛みを強いることになるだろう。
ここまで長々と述べてきたが、最後に一言。「ランドさん、太陽の光が降り注ぐ素晴らしい日を楽しんでください」。ただそんな日は長くは続かないだろうけれども。
(終わり)