古村治彦です。
2月上旬、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はイギリスをサプライズ訪問した。イギリスではリシ・スーナク首相、リンジー・ホイル下院議長、更にはチャールズ国王と会談を持った。ウクライナ戦争が始まって以来、ウクライナを離れる機会がほぼなかったゼレンスキー大統領がイギリスを直接訪問し、これまでの支援を感謝し、更なる支援、特に戦闘機の支援を求めたことには重大な意味がある。それは、「ウクライナ戦争の停戦が困難なのはイギリスがいるからではないか」「日露戦争をアナロジーとして考えると、ウクライナを利用してロシアを消耗させようとしているのはイギリスではないか」ということが考えられるからだ。
ウクライナ支援について見ていくと、アメリカが圧倒的な割合を占めている。イギリスは2番目だと威張っても、その割合は小さなものだ。NATO分で出しているという主張もあるだろうが、大英帝国だと威張っている割にはその額は少ない。しかし、戦争が始まって以来、イギリス政府関係者は声高に対ロシア憎悪を言葉にしている。
西洋諸国はウクライナ支援を行っているが、ウクライナが求めているジェット戦闘機の供与だけは行っていない。また、飛行禁止区域設定も行っていない。これはそのようなことをすれば、供与を行う国々が戦争当事国となり、ロシアから宣戦布告されて、戦争に巻き込まれ、ロシアからのミサイル攻撃(核兵器使用を含む)を受けるという懸念があるためだ。アメリカ国内ではウクライナ戦争の停戦を求める声、ウクライナへの支援を減額するように求める声、ロシアからの天然資源輸入を再開するように求める声が出ている。アメリカとイギリスの間にはウクライナ戦争をめぐる態度で温度差がある。
戦争を継続してウクライナ領土の再獲得を目指しているヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は今の状態で停戦すれば、国民からの批判に晒されることが考えられる。クリミア半島を含む1991年に独立した際の領土を全て再獲得するまでは戦争を止めることはできない。戦争を止めれば自身の政権も危うい。そうなると、頼るのはイギリスということになる。アメリカはいつ手の平を返すか分からない。イギリスは北海油田の産油を西ヨーロッパに売りつけたいという意向もある。戦争継続はイギリスとゼレンスキー政権の共通の「利益」である。
戦争では誰が儲かるのか、利益を得るのかという視点から事態を見ていくことも大事だ。そうすれば戦争の別の側面も見えてくる。
(貼り付けはじめ)
ゼレンスキー大統領が訪英、英首相や国王と会談 議会で演説し戦闘機求める
2023年2月8日
更新 2023年2月9日
https://www.bbc.com/japanese/64567813
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が8日、イギリスを訪れ、首相官邸でスーナク首相と会談した。昨年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ゼレンスキー氏の訪英は初めて。その後、議会で演説し、イギリスの支援に感謝するとともに、戦闘機の供与を求めた。
ゼレンスキー氏の訪英は、イギリス軍がウクライナ兵に実施してきた訓練を、ウクライナの戦闘機パイロットや海軍歩兵にも拡大するとの見方が出ているタイミングで行われた。
ウクライナのパイロットが将来的に北大西洋条約機構(NATO)水準の戦闘機を操縦できるようにする計画は、以前から発表されていた。ウクライナはかねて、これを主要な要請として掲げていた。
首相官邸は、スーナク氏がゼレンスキー氏に対し、ウクライナの重要な国家インフラを標的にするロシアの能力を削ぐ「長距離能力」の提供を申し出るとしていた。
また、イギリスによるウクライナ兵の訓練を拡大し、さらに2万人を対象とする見込みだとした。
イギリスの支援に感謝
ゼレンスキー氏はスーナク氏との会談後、議事堂のウェストミンスター・ホールに移動し、上下両院の議員らを前に英語で演説。「塹壕(ざんごう)の中にいて、ウクライナを敵のミサイルから守ってくれている、戦争の英雄たちの代理として」自分はやって来たのだと述べ、イギリスがウクライナ兵に装備と訓練を提供していることに感謝した。
また、ロシアが侵攻した「初日から」イギリスはウクライナを支援していると強調。ボリス・ジョンソン元首相を名指しし、「ボリス、あなたは絶対に、絶対に無理だと思われていた時に、諸外国を団結させた。ありがとう」と語りかけると、聴衆からは大きな拍手が湧いた。
ゼレンスキー氏はさらに、ウクライナとイギリスの国民は共に、第2次世界大戦で自由を守り抜いたと指摘。「私たちの国民は危機に見舞われた」ものの、粘り強さを発揮したとした。
その上で、「自由は勝利する」、「ロシアが負けるのは明らかだ」と強調し、拍手を浴びた。
戦闘機を求める
ゼレンスキー氏は演説で、戦闘機を「自由のための翼」と表現。ウクライナへの供与を、英議員らと世界に対して要望した。
ロシアが今月後半にも新たな攻勢をかける見通しの中、西側諸国はウクライナへの支援をどう増強するか検討している。
イギリスは戦闘機の供与について、「現実的ではない」としている。スーナク氏の報道官は先週、英軍の戦闘機は「極めて高度で、操縦を覚えるのに何カ月もかかる」と述べた。
一方でイギリスはすでに、主力戦車「チャレンジャー2」を14台供与すると発表している。ウクライナ軍に操作の訓練も提供する予定だ。
これを踏まえてゼレンスキー氏は、演説の中で戦車の供与に言及。「防衛面でのこの強力な一歩について、感謝しています、リシ」とスーナク氏に語りかけた。そして、「世界は本当に自由を守る勇者を助け、新たな歴史を作っていく」と述べた。
ゼレンスキー氏はまた、演説の途中で、リンジー・ホイル下院議長にウクライナの戦闘機パイロットのヘルメットを贈った。
ヘルメットには「私たちには自由がある。それを守るための翼を与えてください」と書かれていた。
英政府はこの日、ロシアへの新たな制裁を発表。IT企業や、ドローンやヘリコプターの部品などの軍事機器を製造する企業などを対象にした。
ゼレンスキー氏は演説で、「ロシアが戦争資金を調達する可能性がなくなるまで」制裁を続けるよう、イギリスと西側諸国に求めた。
英国王と会見
ゼレンスキー氏は議会での演説後、バッキンガム宮殿でチャールズ国王と会見した。
国王がゼレンスキー氏に会うのはこれが初めて。
ゼレンスキー氏は議会での演説で、国王はまだ皇太子だったころからウクライナを支援してくれたとし、全国民の感謝の気持ちを伝えるつもりだと述べていた。
フランス大統領府の報道官によると、ゼレンスキー氏はこの後、パリ・エリゼ宮に移動し、エマニュエル・マクロン大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談する予定だという。
ゼレンスキー氏は9日には、欧州連合(EU)首脳会合に参加する見込みとなっている。
ゼレンスキー氏は昨年3月、英下院でビデオ演説した
ゼレンスキー氏は昨年3月に、英議会にビデオリンクで参加。英下院で演説した初の外国人首脳となった。
同氏がロシアによる侵攻以降で外国を訪問するのは、昨年12月のアメリカとポーランドに続いて3カ国目となる。
昨年の訪米では議会で演説。「ウクライナは決して降参しない」と述べ、何回かスタンディングオベーションを受けた。
ジョー・バイデン大統領もその際、「パトリオット」ミサイル防衛システムの供与など、ウクライナへの支援拡大を約束した。
ゼレンスキー大統領をめぐっては、今週ベルギーのブリュッセルを訪問するとのうわさが流れていた。9日に欧州議会で演説し、欧州連合(EU)の首脳会談にも参加するとみられている。
ただ、この情報が今週初めに流出したため、セキュリティー上の懸念からブリュッセル訪問は中止になるとの見方も出ている。
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ウクライナでのロシアの戦争が1年近く経過した中で、ゼレンスキーはイギリスを訪問した理由(Why Zelenskyy visited the U.K. nearly 1 year into Russia's war on
Ukraine)
ウィレム・マルクス筆
2022年2月8日
NPR
https://www.npr.org/2023/02/08/1155360051/zelenskyy-russia-ukraine
ロンドン発。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、約1年前にロシアがウクライナに侵攻して以来、ほぼ行ってこなかった国外訪問の1つとして、イギリスを訪問し、人々を驚かせた。
ゼレンスキー大統領は、予想されるロシアの攻勢と領土を取り戻すためのウクライナの反撃を準備するために、ウクライナの強力な国際的支援者からより高度な武器をウクライナ軍に供与するように求めている。
ウクライナの指導者はリシ・スーナク首相と会談し、イギリス議会で演説を行い、イギリスの支援と兵器に感謝した後、すぐに更なる支援(特に戦闘機)を要求した。また、チャールズ3世とも会談した。
フランス政府は、水曜日にゼレンスキーがパリを訪れ、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相と夕食を共にすることを確認したばかりで、今回の外遊はゼレンスキーの予告なしのヨーロッパツアーの最初の足取りとなる。木曜日には、EU理事会のシャルル・ミシェル議長が彼を招待したため、他のEU首脳との会談のためにブリュッセルに移動する可能性もある。
ゼレンスキー大統領がイギリスを訪問した理由は以下の通りだ。
●規模第2位のウクライナ支援者(Ukraine's second-biggest
backer)
イギリス議会によれば、イギリスはアメリカに次いでウクライナにとって2番目に大きな支援国であり、2022年2月以降、27億ドル相当の軍事支援を約束しており、今年もそれに匹敵する支援を約束するとしている。イギリスは、ロシアの侵攻に対して経済制裁を加える上で重要な役割を担っている。そしてスーナク首相もまた、前任者と同様にキエフを訪問している。
また、スーナク首相は先月、ウクライナにチャレンジャー2戦車を贈ることを約束したが、これは米国とドイツが戦車供与を発表する2週間前のことだった。ウクライナ軍の要因たちが1月29日にイギリスに到着し、イギリスの戦車で訓練を受けた。
しかし、ウクライナは更に一歩踏み込んで、戦闘機の提供を求めている。
ウクライナの防空は、ロシアがウクライナ領土の広い範囲を支配することをほぼ防いできた。しかし、自国の格納庫には、ソ連時代のスペアパーツに頼らない運用可能な航空機がほとんど残っていないと英国のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute)」の国際安全保障担当部長ニール・メルビンは指摘している。メルビンによれば、西側の航空機システムの採用を拡大しなければ、ウクライナ軍は長期的に、陸上部隊の攻撃力に見合うだけの空戦力を身につけるのに苦労することになると主張した。
●イギリスは戦闘機の訓練を約束したが、今のところジェット機の提供はない(Britain
promised warplane training, but so far no jets)
ゼレンスキー大統領は、12月のアメリカのように、国防費を決定するイギリス議会から承認を求めるという他の国々で使ってきた戦術を継続した。
水曜日にウェストミンスター・ホールで行われた演説で、彼はリンゼイ・ホイル下院議長に象徴的な贈り物をした。その贈り物とは「我々は自由を持っている、それを守るために翼を与えよ」と書かれた戦闘機パイロットのヘルメットだった。
イギリス政府は、ウクライナ軍に対する軍事訓練を、戦闘機のパイロットまで拡大すると発表した。「この訓練によって、パイロットは将来的にNATO標準の高性能戦闘機を操縦できるようになる」とイギリス政府は声明の中で述べた。
この誓約には戦闘機の提供を約束するとまでは書かれていない。
しかし、ロイター通信は、イギリス政府報道官は記者団に対し、「スーナク首相は国防相に、どのようなジェット機を提供できるかを調査するよう命じたが、はっきり言って、これはウクライナが今最も必要としている短期の能力ではなく、長期の解決策である」と述べたと報じた。
●イギリス国民の支持を維持する(Maintaining public support)
何世紀もの歴史を持つイギリス議会の衣装や儀式用ローブの中で、いつものアーミーグリーンのスウェットシャツを着たこの戦時大統領の姿は、イギリス国民にウクライナの軍事的必要性を思い起こさせるものとなるだろう。
ロシアと戦うウクライナに対するイギリス国民の支持は依然として高い。戦争が始まって数カ月、ウクライナ人の家族を家に迎え入れた何万人もの英国人に代表されるように、ウクライナの人々に対する関心も高いのである。
1月24日に発表されたイプソス社の世論調査の結果では、イギリス人はウクライナ人を助け、ロシアを孤立させる努力を続けることに、調査対象の他の国よりも強い支持を表明しているということになった。
ゼレンスキーは、この支持を当然とは考えていないようだ。今回の訪問は、政治家だけでなく、イギリス国民にも戦争がまだ終わっていないことを思い知らせるためのものなのかもしれない。
アレックス・レフがワシントンからこの記事の作成に貢献した。
(貼り付け終わり)
(終わり)

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