古村治彦です。

 私が現在翻訳を進めている、The Tyranny of Big TechJosh Hawley著)の邦訳を『ビッグテック5社に解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著)とすることに、編集者と話し合いを持ち、決定しました。来月に刊行できるように作業を進めています。素晴らしい内容ですので、楽しみにお待ちください。
joshhawley501

ジョシュ・ホウリー
 今回は、バイデン政権の「ビッグテック包囲網」の要、リナ・カーンについての論稿を紹介する。2本目の記事はリナ・カーンだけではなく、連邦議会での「ビッグテック包囲網」を形成する重要な議員たちが紹介されている。アメリカでは「ビッグテックを何とかしろ」「解体せよ(
Break Up)」という声が超党派で高まっている。『ビッグテック5社を解体せよ』を読むと、アメリカでの動きがよく分かるようになっている。
linakhan502
リナ・カーン

 リナ・カーンは弱冠32歳で、コロンビア大学法科大学院准教授から連邦取引委員会委員長に抜擢された。連邦取引委員会(FTC)は、日本で言えば公正取引委員会に相当する。連邦取引委員会が仕事をサボっていたために、ビッグテックが野放しになったということで、今回リナ・カーンが起用された。リナ・カーンの名前が知られるようになったのは、イェール大学法科大学院在学中に「アマゾンの反独占に関するパラドックス(Amazons Antitrust Paradox)」というタイトルの論文を発表したことだ。その内容は、アマゾンが取引業者を虐めて低い価格での物品を販売を行っているが、これまでの独占禁止法の執行(物価や価格に焦点を当てる)に当てはめると、消費者にとっては安い価格でものが買えるということで、独占禁止法違反での執行ができないということになる、というものだ。彼女は、ビッグテックに対する批判を主導する立場に就いた。

 リナ・カーンはイェール大学法科大学院在学中から、新アメリカ財団というシンクタンクの上級研究員を務めていた。このシンクタンクには、グーグル元CEOエリック・シュミットから多額の資金が投入されていた。カーンが、EUがグーグルに対して独占禁止法違反で多額の罰金を科したことについて、肯定的なコメントをツイッターに投稿したことがあった。シュミットはこのコメントに激怒し、結果として、カーンの解雇、カーンのアシスタントをしていた職員たちの解雇、カーンが責任者を務めていた部門の閉鎖が行われた。

 リナ・カーンの連邦取引委員会委員長就任は、バイデン政権のビッグテック包囲網の本気度を示すものとして受け止められた。これは非常に重要なことである。前回紹介した司法次官補ジョナサン・カンターと一緒になって、行政府におけるビッグテック包囲網形成に、リナ・カーンは重要な役割を果たす。

(貼り付けはじめ)

バイデンは独占禁止法専門の学者リナ・カーンを連邦取引委員会委員長に指名する意向(Biden to nominate antitrust scholar Lina Khan as FTC commissioner

クリス・ミルズ・ロドリゴ筆

2021年3月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/technology/544379-biden-to-nominate-antitrust-scholar-as-ftc-commissioner

バイデン大統領は月曜日、影響力の高い独占禁止法専門の学者リナ・カーンを連邦取引委員会(FTC)委員長に指名する意向であることを明らかにした。

カーンは32歳、コロンビア大学法科大学院准教授を務めている。上院での人事承認がなされれば、史上最年少の委員長ということになる。

リナ・カーンはイェール大学法科大学院在学中に、「アマゾンの反独占に関するパラドックス(Amazon’s Antitrust Paradox」というタイトルの論文を書いたことで有名になった。この論文はEコマースの巨人がいかにして独占禁止法を違反できているかを詳述した内容だった。

最近では、カーンは連邦下院司法委員会独占禁止法小委員会が主要なデジタルプラットフォームの独占力を調査している間、補佐官として働いていた。

進歩主義派内のビッグテックに対する批判者たちはカーンの指名を求めてきた。

アメリカン・エコノミック・リバティーズ・プロジェクトのサラ・ミラー上級部長は次のように述べている。「小規模事業、企業家たち、働く人々の擁護者であるリナ・カーン教授は連邦取引委員会にとって素晴らしい選択である」。

ミラーは続けて次のように述べている。「カーン教授は、法学分野におけるこれまでにない業績によって国際的に認知されている学者だ。また、右派左派や党派を超えて働くことができる能力や政策における専門性でも知られている。連邦取引委員会において、数十年にわたる組織の特性による失敗から、連邦取引委員会を導き、脱出させるために、カーン教授は重要な役割を果たすことだろう」。

連邦取引委員会において、カーンはフェイスブックの独占禁止法違反容疑の事件について監督を行う上で重要な役割を果たすだろう。カーンはその他にも、シリコンヴァレーの巨大企業や他の産業分野の企業に対する新たな独占禁止法違反容疑事件にも関与するだろう。

正式な発表が行われた後、カーンはツイッターに「今回の指名は光栄でありかつ謹んでお受けするものです。人事承認をいただけるだけの幸運に恵まれましたら、私は委員長としての仕事が出来るのだと思い、今から楽しみにしているところです」と投稿した。

カーンの指名が連邦上院で承認されると、バイデン大統領は5名で構成される連邦取引委員会の委員を充足させるために、もう一枠の委員の指名が必要となる。

バイデンは今年1月に連邦取引委員会委員レベッカ・ケリー・スローターを委員長代理に任命したが、彼女をそのまま委員長代理として処遇することも選択できる。

月曜日の発表の前、バイデンは、もう一人のテクノロジー産業の巨大企業の批判者であるティム・ウーをテクノロジー・競争政策担当大統領特別補佐官に指名した。

=====

ビッグテックに対する独占禁止をめぐる戦いで見るべき5人の重要なプレイヤー(Five big players to watch in Big Tech's antitrust fight

レベッカ・クレアー、クリス・ミルズ・ロドリゴ筆

2021年4月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/technology/549855-five-big-players-to-watch-in-big-techs-antitrust-fight

アメリカ政府は、アメリカ国内の最大のテクノロジー企業群の市場支配力を抑制するための努力が強化している。

バイデン大統領は、就任してから、反トラスト法関連の行動についてはほとんど発言をしていないが、ビッグテックに批判的な2人の人物を執行機関や諮問機関の重要ポストに指名し、任命している。

連邦上院では、民主、共和両党の議員たちが、反競争的な行為に対する懸念を抑制することを目的とする法案を提出している。連邦下院司法委員会独占禁止法小委員会は、今週初めに、アップルとグーグルの役員たちを招聘して重要な聞き取りを行った。先週には、委員会の民主党側の議員たちが昨年発表した、グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブックの4社が市場力を濫用するために採用している方法についてまとめた報告書を、全会一致で正式に承認した。

これからビッグテックの戦いを進める、5人の注目すべき重要なプレイヤーたちを紹介していく。

(1)リナ・カーン(Lina Khan

バイデンのハイテク産業の巨大企業の市場支配力を制限したいという考えを示しているのは、連邦取引委員会(FTC)委員長にリナ・カーンを指名したことだ。

カーンは反トラストについての研究者であり、影響力を持っている。彼女はビッグテックを批判する進歩主義派の人々から後押しを受けている。カーンは、論文「アマゾンの反トラスト・パラドックス(Amazons Antitrust Paradox)」で知られている。この論文は、カーンがイェール大学法科大学院の学生の時に書いたものだ。彼女はまた、連邦下院司法委員会独占禁止法小委員会のテクノロジー産業の巨大企業群の市場支配力の調査の際に補佐官として参加した。

連邦上院商務委員会でのカーンの人事承認をめぐる証言が水曜日に実施された。その席上、カーンは、グーグルとアップルがアプリストア部門において享受している市場支配力は、「深刻な問題」であり、詳細に調査されるべきだと述べた。

彼女は更に、子供たちのプライヴァシー保護手段の拡充を支持し、議員たちに対して、現行のルールは「天井ではなく、床であるべきだ(これが上限ではなく、最低限のものであるべき)」と述べた。

カーンについては民主党側から称賛の声が上がっている。特に、連邦上院司法委員会独占禁止法小委員会委員長エイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出)は、カーンを「従来の枠にとらわれない発想の持ち主」、「競争政策における先駆者」と呼んだ。

公聴会の雰囲気は和やかなものだった。それでも共和党所属の議員たちからいくばくかの懸念が表明された。マーシャ・ブラックバーン連邦上院議員(テネシー州選出)はカーンの前歴や背景、そして経験について質問を行った。マイク・リー連邦上院議員(ユタ州選出)からは、カーンが連邦下院独占禁止法関連報告書に関与したことを理由に、いくつかの案件に関わらないのではないかという質問が出たが、強いて彼女の指名の人事承認を撤回させようという議員は誰もいなかった。

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)でさえもカーンに対して、「私は貴方と一緒に仕事ができることを楽しみにしている」と述べた。これは、ビッグテックに対峙しようという超党派の意気込みを示すものだ。

クルーズは「現在、非常に不透明な状況にあるビッグテックの透明性を確保するために、当委員会ができることはたくさんあると考えている」と述べた。

人事が承認され連邦取引委員会委員長に就任した場合、カーンには既にバイデン政権内に強力な協力者たちが存在する。

バイデンは先月、ビッグテックに対する批判で有名なティム・ウーをテクノロジー・競争政策担当大統領特別補佐官に任命した。

水曜日には、連邦上院は、バイデンのヴァニタ・グプタの司法省序列第3位(司法次官)への指名の人事承認を行った。ここ数年、グプタは、「リーダーシップ・カンファレンス・オン・シヴィル・アンド・ヒューマン・ライツ」の代表者として主要なソーシャル・ネットワーク・メディア・プラットフォームに対して、敵対者となってきた。

カーンは、連邦取引委員会がフェイスブックに対して訴訟を提起している時期に重要な時期に連邦取引委員会に参加する。連邦取引委員会と46州、ワシントンDC、グアムが反競争的な合併容疑で訴訟を提起した。

(2)エイミー・クロウブッシャー(Amy Klobuchar)連邦上院議員(ミネソタ州選出、民主党)
amyklobuchar101

エイミー・クロウブッシャー
クロウブッシャー議員は2020年の大統領選挙に出馬したが、バイデンとは良好な関係を持っている。これからの戦いで注目すべき、重要な民主党所属の連邦上院議員である。ミネソタ州選出の議員であるクロウブシャーは今年初め、「競争と独占禁止法執行改革法案」を提案した。この法案の目的は独占禁止法の執行を再び強化するというものだ。その一環として、連邦取引委員会と司法省独占禁止法局の年間予算を増額するということが提案されていた。

クロウブシャーの提案した法案は、クレイトン法を修正して、同法にリスクベースの基準を加え、独占を生み出す合併は同法に違反することを明確にすることで、反独占的な合併を難しくすることを目的とするものでもあった。

クロウブシャーは連邦上院司法委員会独占禁止法小委員会の委員長を務めている。クロウブシャーは委員長として小委員会で一連の公聴会を開催し、テクノロジー企業の反競争行為の可能性を調査し、法案を検討すると述べた。

水曜日に実施された最新の公聴会では、クロウブシャー議員を筆頭に小委員会のメンバーの議員たちが、アプリストアのポリシーについて、グーグルとアップルの役員たちに質問を行った。

クロウブシャーは公聴会で次のように発言した。「私たちはアップルとグーグルが、私たちの時代の特徴を生み出しているテクノロジーの多くを想像する手助けをしていることに感謝している。これは素晴らしいことだ。私たちは成功に対して怒っているのではない。私たちはただ、資本主義がこれからも全ての人々に対して公正であるように、力強い道筋を進み続けるように望んでいるだけなのだ」。

クロウブシャー議員は更に次のように述べた。「資本主義とは競争なのだ。資本主義とは新しい製品が生み出され続けることだ。資本主義とは新しい競争者たちが参加し続けることだ。私にとって、現状は、そのようなことが起きているようには見えない」。

(3)マイク・リー(Mike Lee)連邦上院議員(ユタ州選出、共和党)
mikelee502

マイク・リー
リー議員は連邦上院司法委員会独占禁止法小委員会の共和党側の幹事メンバーである。彼もまたビッグテックに照準を合わせている。しかし、クロウブシャー議員とはいささか異なる考えを持っている。

リーは、2021年1月6日の連邦議事堂での暴動の後、テクノロジー巨大企業が過激なソーシャル・ネットワーク・メディア・アプリ「パーラー(Parler)」に対して行った行動を、反競争行為として非難している。

リーは、保守派に偏っているという根拠のない主張を、テクノロジー巨大企業を非難する共和党の同僚議員たちと一緒に行っている。しかし、反競争慣行の告発では、クロウブシャーやその他の議員たちと一緒になって、テクノロジー巨大企業の責任を追及している。

水曜日の公聴会で、リーは、グーグルとアップルに対して、一部のアプリにかかる最大30%の手数料と、手数料の対象となるアプリとそうではないアプリの区別について、グーグルとアップルに厳しく質問をぶつけた。

グーグルとアップルの役員たちは、ウーバーのような物理的な商品を配送するアプリは手数料の対象外だが、ティンダーのような出会い系アプリはデジタルサービスを提供しているとみなされるので、手数料の対象になると答えた。

リーは次のように反論した。「ウーバーは、文字通り、流通の分野で見知らぬ人と出会うという内容のサーヴィスだ。流通分野で見知らぬ人に出会うことと夕食の席で見知らぬ人と出会うことの違いを私は理解することができない」。

ジョシュ・ホウリー連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)ももまた、ビッグテックの巨大企業の力を弱めるための立法上の行動を提案している。

ホウリーは、「21世紀の独占破壊法」を発表した際に、言論を「コントロール」しようとする「意識の高い巨大企業」を非難しました。

しかし、クロウブシャーの提案と同じく、ホウリーの提案は、規制当局が支配的な企業を解体することを容易にするために、クレイトン法を改革するという内容だ。

(4)デイヴィッド・シシリーニ(David Cicilline 連邦下院議員(ロードアイランド州選出、民主党)
davidcicilline501

デイヴィッド・シシリーニ
ロードアイランド州選出デイヴィッド・シシリーニは、連邦下院司法委員会独占禁止法小委員会で、民主党側で独占禁止法を担当するトップの立場にある委員であり、民主党のビッグテック分野へのアプローチの形成を主導してきました。

先週、独占禁止についての報告書が承認された委員会で会合の後、シシリーニは「我々が提起した重大な懸念に対処する法案を作成することを楽しみにしている」と発言した。

ロードアイランド選出の連邦下院議員であるシシリーニは、今春中に最大10本の独占禁止法関連法案を発表する予定だ。より積極的な政策を民主党に支持してもらうためには、いくつかの作業が必要となるだろう。

この報告書の中には法案化が可能な解決策が複数記載されている。それらは、大手企業の買収を決定前に凍結すること、いくつかの企業には一分野のビジネスを追求することを義務化する構造分離の実施、連邦取引委員会と司法省独占禁止法局の予算と権限を拡充することである。FTCDOJの反トラスト局の資金と権限の拡大などが挙げられます。

このような内容を限定した提案は、大きな改革を連邦上院で進めるために必要な共和党の支持を集めやすくする。

シシリーニは、報告書で取り上げられた独占問題に対する立法上の解決策を作成するために、競争の活性化に焦点を当てた3つの公聴会を現在の議会で既に開催している。

(5)ケン・バック(Ken Buck)連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)  
kenbuck501
ケン・バック

連邦下院司法委員会独占禁止法小委員会において、民主党所属のシシリーニ議員に対応するのは、ケン・バック連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)である。バック議員は、いかなる提案についても、共和党側で支持を取りまとめる上で重要な役割を果たすことになる。

バックは、先週行われた報告書の最終折衝において、ビッグテックの市場支配力に関する報告書にまで結実した調査について、「完全に超党派」で実施されたものだと認めたが、報告書に対する賛成票を投じることはなかった。その理由は、報告書の中で書かれていた是正案が民主党側だけで書かれたものだったからだ。

コロラド州選出の下院議員であるバックは、共和党所属の議員たちの支援と支持を得て独自の報告書を発表し、独占禁止規制当局への予算や人員の配分と、合併案件の立証責任に関する改革の必要性について、超党派の合意を得た。バックは、今議会で既に独占禁止法改革法案(ジャーナリズム分野における競争と意地に関する法案)について支持を表明している。

バックはまた、アップル、グーグル、アマゾンがパーラーに対して行った行為をきっかけに、アプリストアやウェブホスティングサービスに対するテクノロジー巨大企業の利用させるかどうかの決定に伴う支配力についても積極的に発言している。

バックとリーは、グーグルとアップルが、アプリストアからパーラーを削除したことについて、またアマゾンがウェブホスティングサービスからパーラーを削除したことについて、手紙を書いた。これらのビッグテックの巨大企業は、パーラーがコンテンツ・モデレーション・ポリシーを持たず、連邦議事堂での死者を出した暴動についての投稿を許したことを理由に排除する行動を起こした

アップルは今週議員たちに宛てた書簡の中で、承認されたアップデートを行った後で、アプリストアにパーラーのアプリを戻すことを許可する予定だと述べた。

バック議員はグーグルとアマゾンに対して同様の措置を取るように訴えている。

バック議員は水曜日に発表した声明の中で次のように述べている。「グーグルとアマゾンはアップルの例に倣う時だ。検閲を止めろ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める