古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:レックス・ティラーソン

 古村治彦です。

 

 今回は、ロシア軍参謀総長ゲラ下布野発言をご紹介します。

 

 簡単に言うと、北朝鮮周辺で日米韓が軍事訓練を行うことで、状況を不安定化させる、というものです。私たちは、この私たちの常識とは異なる発言を、馬鹿なことを言っている、と馬鹿にしながら打ち捨てるべきではありません。この発言内容にも一理あると考えてみることが重要だと思います。

 

 「北朝鮮がミサイルを発射いているから状況が悪化している」というのが国際社会の認識ですし、私たちもそう考えがちです。北朝鮮からしてみれば、自衛のためにミサイルを飛ばしているのだ、ということになります。国際社会は、「いやいやそんな、私たちが北朝鮮を攻めて滅ぼすことはないよ」と言いますが、それを信じさせるということはできていません。

 

 相手にこちらの発言を信じさせるには、行動と発言の内容が一致していなければなりません。約束したことは必ず守るということをしなくてはいけません。北朝鮮と国際社会(アメリカ)はお互いが相手を出し抜こうとして、裏切り合いや約束の破り合いをしたために、「こちらの意図が分かってもらえない、信じてもらえない」という状況になっています。

 

 過去のことはすべて水に流して、まっさらな状態から交渉を始めて、言動と行動が一致するようにして、それを積み重ねていけば信頼関係ができていくでしょうか、そのような時間は両者にはありません。ですから、信頼し合えないながらも、どこかに妥協点を見つけて、一時的な信頼、裏切られることを前提にした最低限の信頼による合意をするしかありません。アメリカとイランの核開発をめぐる合意はこのようなものであったと思います。

 

 アメリカのレックス・ティラーソン国務長官は交渉を粘り強く呼びかけるということをやっています。これがポーズなのかどうなのかは分かりません。しかし、日米開戦直前のハルノートのようなものはまだ出ていないようです。ですから、少なくとも平昌オリンピック・パラリンピックまではこのようなにらみ合いの状況が続くのだろうと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

ロシア軍高官:韓国と日本と共同のアメリカ軍の訓練は「ヒステリーを増長する」だけだと発言(Russian official: US exercise with S. Korea, Japan will only ‘heighten hysteria’

 

ブレット・サミュエルズ筆

2017年12月11日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/international/364238-russian-official-us-exercise-with-s-korea-japan-will-only-heighten

 

ロシア軍最高首脳は月曜日、北朝鮮がミサイルを発射した後のこの時期に行われる、アメリカ、日本、韓国が参加するミサイル追跡訓練は地域の緊張を高めるだけの結果に終わるだろうと発言した、とロイター通信が報じた。

 

ロシア軍参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフは「北朝鮮周辺で軍事訓練を実施することはヒステリーを増長させるだけのことだろう。そして状況を不安定にするだろう」と語った。

 

ロイター通信は、中国政府は軍事訓練を継続することは誰に対しても最大の利益をもたらさないと発言し、アメリカと北朝鮮に対して軍事訓練を取りやめるように求めている、とロイター通信は報じた。

 

月曜日から始まる共同訓練は、日米韓3か国がミサイル追跡情報を共有するための6度目の訓練となる。

 

先月末、北朝鮮は新たに大陸間弾道ミサイルを発射した。北朝鮮はそれまで約2か月間ミサイル発射を行っていなかった。ミサイルは日本海に着水した。

 

ミサイルは2800マイル上空まで到達し、600マイル以上飛行したと言われている。北朝鮮がこの火星15号ミサイルはアメリカの領土全体に到達する能力を持つと主張している。

 

先週、アメリカと韓国は空中における共同軍事訓練を行った、アメリカ空軍、海兵隊、海軍から総勢1万2000名と航空機約230機が訓練に参加した。

 

北朝鮮政府は、米韓合同訓練を受けて、これは「アメリカが戦争を心の底から望んでいる」ことを示すサインだという内容の談話を発表した。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)






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 古村治彦です。

 

 今回はアメリカのレックス・ティラーソン国務長官(日本で言えば外務大臣に相当)の発言についての記事をご紹介します。

 

 ティラーソン国務長官がワシントンにあるシンクタンクで講演を行い、「北朝鮮とは最初の爆弾が落ちる直前まで外交交渉を続ける」と発言しました。

 

米朝のどちらが「先に爆弾を落とすのか」ということが問題になります。ティラーソンの発言の文脈では、どちらとも言えないですが、「アメリカはあくまで外交努力を続ける、先制攻撃をするにしても外交上の全ての努力が効果を挙げないということが分かった時だ」というのがティラーソンの言いたいことのようです。

 

 ティラーソン国務長官の行っているのは、リアリズムに基づいた外交です。リアリズムとは、自国の国益を第一に考え、理想に走らず、与えられた状況下で最大の成果を得る(目的を達成する)という考えです。

 

 しかし、ティラーソン国務長官は外交がうまくいかなければ、次はジェイムズ・マティス国防長官の出番となり、「マティス長官は自分の出番となれば、自分の仕事をうまくやり、成功を収めると確信している」ともティラーソン国務長官は発言しました。これは、軍事的な方法を放棄してはいないということを示唆しています。

 

 ドナルド・トランプ大統領はアイソレーショニズム(国内問題優先主義)を掲げて当選しましたので、外交は外国にあまり関わらないということを基本線にしています。従って、ティラーソン国務長官の外交姿勢が基本線ですが、同時に、北朝鮮に対しては強硬な姿勢も保っています。硬軟両路線いずれも選べるということは、相手を迷わせる、疑心暗鬼にさせるのに適したやり方です。

 

 しばらくはティラーソン国務長官に外交努力を続けてもらい、もうどうしようもないとなったら、北朝鮮に対して強硬路線ということになるでしょう。強硬路線と言ってもかなりアメリカにとってかなり自己限定した内容になると思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

ティラーソンは北朝鮮との交渉の扉を開いている(Tillerson Open To Talks With North Korea

―ティラーソン国務長官は「最初の爆弾が落ちる直前まで」交渉を行うだろうと述べた。核兵器をめぐる対決の脅威を減らそうと外交努力をさらに高めると示唆した。

 

ロビー・グラマー筆

2017年12月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/12/12/tillerson-open-to-talks-with-north-korea-asia-state-department-china-pyongyang-nuclear-weapons-program-nonproliferation-diplomacy-pressure-campaign/

 

レックス・ティラーソン国務長官は北朝鮮との交渉に向けてドアを大きく開けた。今週火曜日、北朝鮮政府から準備が整ったというシグナルが送られたらすぐに無条件で交渉を行うと述べた。

 

火曜日、ワシントンにあるシンクタンクであるアトランティック・カウンシルでのイヴェントでティラーソンは「私たちは無条件で初めての会談を行う準備が整っている」と語った。ティラーソンは続けて次のように語った。「まずは会ってみよう。もし相手が望むなら天気の話だってできる。もしこれが楽しいというなら、交渉のテーブルの形を四角にするか丸にするかだって話せる。少なくとも交渉の席に座り、お互いの顔を見てみることができる」。

 

ティラーソンはこのイヴェントの後に交渉を申し出る条件を提示した。ティラーソンは、北朝鮮に対してミサイル発射テストを凍結するように求めた。ティラーソンの一連の発言は、トランプ政権から北朝鮮政府に対しての現在における外交交渉開始の明確な提案である。ティラーソンは、ドナルド・トランプ大統領は北朝鮮政府と間で対話を行う必要性について認識しており、「とても現実的」であると述べた。トランプ大統領は彼の発言とツイッター上の書き込みで戦争の恐怖を高めているように見られている。

 

ティラーソンは「私は最初の爆弾が落とされる直前まで外交努力を続けるだろう。しかし、交渉が打ち切りとなってマティス国防長官は彼の出番となったら物事をうまく進めて成功させるだろうという確信を持っている」と述べた。ティラーソンは交渉が行き詰まったら、軍事的に解決するという計画があることを示唆しつつ発言を行った。今年2月から北朝鮮は16回の試験で23発のミサイルを発射した。結果として朝鮮半島における戦争の危険性が高まった。最新のミサイル発射テストは11月29日に行われた。この時の実験ではミサイルの新しい機能が示された、このミサイルはワシントンを攻撃するのに十分な高度と距離を飛ぶことが出来ることを示した。

 

北朝鮮は核兵器とミサイル開発を大きく進めている。ティラーソンは何カ月もかけて北朝鮮の首にかけた経済的、外交的に、北朝鮮の首にかけられた処刑ロープを少しずつ締めながら、北朝鮮を交渉のテーブルに座らせようとしている。ティラーソンのやっていることは、外交政策についてのトランプ政権の複雑な姿勢の中で、明確な試みとなっているが、トランプの外交に対する否定的な姿勢が続く中で、これは効果が削減されてもいる状況だ。

 

北朝鮮に圧力をかける動きの中で勝利が得られている。イタリア、スペイン、メキシコ、ペルー、クウェートは北朝鮮の大使を国外退去とした。北朝鮮からの労働者を出国処分とし、北朝鮮との間の限定的な交易関係を断つ国々も出ている。労働力輸出と貿易は金正恩政権にとっての主要な収入源だと見られている。

 

ティラーソンは「金政権は大使が送り帰されたことで、こうした状況に気づいている、ということを私たちはつかんでいる」と語った。

 

専門家たちは、こうした小さな勝利の積み重ねは遅々として進まない厳しい試みであっても、やがて大きな勝利をもたらすことが出来ると述べている。センター・フォ・ニュー・アメリカン・セキュリティーのパット・クローニンは次のように語っている。「これは重要な責務である。法的、外交的な障害は多く存在している。しかし、ティラーソン国務長官の下で確実に事態は前に進んでいると私は考えている」。

 

外交的な下準備を進めているが、ティラーソンの前には厳しい仕事が待っている。クローニンは、「外交によって、危機を完全に取り去ることはできず、一時的な妥協しか成立しないかもしれない」と発言している。しかし、戦争を避けるために外交はあくまで進める価値がある。北朝鮮に対して、ほぼ条件をつけずに交渉を開始しようとしたのは今回の政権が初めてという訳ではない。2001年にコリン・パウエルが国務長官だった時に交渉を行おうとした。

 

対決的な状況に対する切り札は中国だ。中国はアメリカやアメリカの同盟諸国から、北朝鮮に対する姿勢を変えるように常に圧力を受けながらも、北朝鮮の金政権にとっての経済的、外交的な頼みの綱を与えている。中国は隣国である北朝鮮の体制が突然崩壊して、難民が押し寄せることを危惧している。

 

今年になって、中国は北朝鮮政府に対してより圧力をかける方向に進んでいる兆候を見せている。中国は繊維、石炭、石油、燃料などの北朝鮮向け輸出を削減し、北朝鮮の労働力輸出を厳しく取り締まるようになった。ティラーソンは、ティラーソンとトランプは次の段階として北朝鮮向けの石油輸出の更なる削減を中国に求めている、と語った。

 

クローニンは次のように語った。「中国はできることをやっているが、それがどれほどの効果があり、そもそも十分なのかははっきりしないというのは事実である。しかし、中国がこれまでにないほど熱心に取り組んでいるのは確かだ」。

 

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(終わり)







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 古村治彦です。

 

 今回は、ヘンリー・キッシンジャーによる北朝鮮問題の分析記事をご紹介します。北朝鮮は金正恩委員長の指導の下、ICBMを開発し、アメリカの領土を射程に捉えたという報道がなされています。ICBMは第二次世界大戦中にドイツが開発したV(報復)1ロケット(イギリス国内を攻撃した)がその原型と言われています。世界大戦から72年も経過し、その当時、最先端技術であった原子爆弾も長距離攻撃ミサイルも作ろうと思えばどの国でも作ることが可能なものとなりました。

 

 北朝鮮はアメリカとの交渉を求めています。6か国協議という枠組みはありますが、北朝鮮は多国間協議の枠組みには何も決める力がないのだから、アメリカとの直接交渉しかないと考えています。韓国や日本、ロシアや中国を無視している状況です。一方、アメリカはトランプ大統領が激しい言葉遣いをしていますが、ティラーソン国務長官は交渉最優先という立場を取っています。

 

 北朝鮮とアメリカは両国ともに交渉を求めていますが、北朝鮮はアメリカとの直接交渉、アメリカは中国に北朝鮮への対応を求めつつ交渉は6か国協議で、とそれぞれ異なる主張を行っています。

 

 ヘンリー・キッシンジャーがトランプ政権の外交指南役であることはすでにこのブログでも数度にわたってご紹介しました。キッシンジャーの考えはトランプ政権の外交に反映されるのですから、彼の考えを知っておくことは重要です。

 

キッシンジャーは北朝鮮の「非核化(denuclearization)」を目的としています。そのためには武力行使という選択肢を完全に排除しないとしながらも、交渉を優先するという立場を取っています。そして、キッシンジャーは北朝鮮の体制転換を求めず、核兵器を放棄した場合に、その機に乗じて北朝鮮を攻撃しないということを国際社会が約束することを条件にすべきだと述べています。

 

キッシンジャーは中国の存在と思惑を考慮しながら、アメリカと中国が衝突することなく、非核化(北朝鮮だけでなくアジア地域全体)という共通の目的を達成すべきだとしています。

 

私は北朝鮮という国家は、力の空白の中に存在する稀有な国であると考えています。野球で打球が野手の間に落ちてしまうということがありますが、野手の一人が無理をすれば打球をキャッチできるのに、誰も怖くて無理をしないために結局キャッチできない、ということになります。北朝鮮はまさにこのような打球であると考えます。

 

北朝鮮が存在することで、中国はアメリカと直接陸上で対峙しなくて済むという状況にあります。ロシアも同様です。長年中国の圧力を受けるという歴史を経験してきた朝鮮半島の国家である韓国からすれば、逆のことが言えます。そうした中で、どの国も「北朝鮮は存続して欲しいが、核兵器は持ってほしくない」と考えることになります。

 

私は最近、韓国の大学教員の方と話をしました。北朝鮮について質問すると、「韓国と北朝鮮は、言葉は同じだが、全く異質の国同士となってしまった。これを急に統一することはかえって危険である。韓国には急激な統一に耐えられるほどの経済力もない。また、国民の中にも北朝鮮と統一したいと考える人はそう多くない」と答えました。

 

私の中には、朝鮮半島の分断状態は良くないことなので出来るだけ早く統一すべきだという考えが前提にありましたが、「二国共存状態(two-state solution)」ということも考慮しなければならないのだと考えを改めました。

 

北朝鮮としてはアメリカに対して、体制保障と不可侵を求めています。そのための交渉のカードとして核兵器やICBMを開発しています。朝鮮半島問題について考える場合に、「朝鮮半島は統一されるべきだ、それも韓国に吸収される形でというのが望ましいし、それ以外は無理だ」という考えが前提となりますが、統一ではなく、まずは二国共存で、北朝鮮をより開放された、中国のような国にすると考えると選択肢が広がり、短期的には危機が回避されるではないかと思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

「北朝鮮危機をどのように解決するか」

―アメリカ政府と中国政府との間の理解が不可欠の前提条件である。日本政府と韓国政府もまた重要な役割を果たすことになる

 

ヘンリー・A・キッシンジャー筆

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

2017年8月11日

https://www.wsj.com/articles/how-to-resolve-the-north-korea-crisis-1502489292

 

30年以上にわたり、国際社会は北朝鮮の核開発プログラムに対して、非難と有罪判決宣告の引き伸ばしという矛盾した対応を取ってきた。

 

北朝鮮政府の無謀な行為は強く非難されている。核兵器開発に向けた動きは受け入れられないという警告が国際社会から発せられている。しかし、北朝鮮の核開発プログラムは加速される一方だ。

 

2017年8月5日に国連安全保障理事会によって北朝鮮に対する制裁決議が満場一致で可決された。これは大きな前進を意味する。もっとも、合意されるべき決議はまだ議論されたままで残っている。しかし、大きな一歩は踏み出された。

 

しかし、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの発射実験を成功させた。これによって、更なるごまかしを行う余地が失われることになった。

 

金正恩が中国とアメリカによる反対と国連安保理の満場一致の制裁決議があるにもかかわらずに核開発プログラムを推進するならば、重要なプレイヤーである諸大国間の地政学的な関係を変化させることになるだろう。

 

国際社会が困惑している間に北朝鮮が全面的な核攻撃能力の開発を完成させてしまったら、アジア地域、特にアメリカの同盟国である日本と韓国におけるアメリカの核の傘の信頼性を一気に失わせるという深刻な事態を招来することになるだろう。

 

北朝鮮は長年にわたり核開発を行ってきた。そして、北朝鮮による核の脅威がアメリカの領土に到達するということになり、北朝鮮の核兵器が存在することによる無秩序が生み出される可能性も出てきている。北朝鮮が実用に耐えるICBMを持つには、弾頭の小型化、ミサイルへの弾頭の設置、複数のICBMの製造が必要であり、これにはしばらく時間がかかる。

 

しかし、アジア諸国は、北朝鮮が既に開発している短距離、中距離のミサイルによる攻撃という脅威に直面している。

 

この脅威が増していくと、ヴェトナム、韓国、そして日本といった国々において自国の防衛のために核兵器を開発するという動機が急速に大きくなっていくだろう。これは、アジア地域や世界全体にとって良くない転換点ということになる。

 

北朝鮮が既に開発した核技術から後退させることは、更なる開発を防ぐことと同じく重要になる。

 

アメリカ単独、もしくは複数の国による対北朝鮮外交はこれまで成功していない。それは主要諸国の目的を一本化させることができないためだ。特に中国とアメリカとの間で北朝鮮の核兵器開発を実際にどのように阻止するかという点で合意が形成されていないためだ。

 

アメリカは北朝鮮に対して核開発プログラムを終了することも求めている。しかし、アメリカからの要求は何らその効果を示していない。軍部を含むアメリカの指導者たちは、軍事力の行使には消極的だ。ジム・マティス国防長官は朝鮮半島における戦争は「破滅的なものとなる」という見通しを述べた。

 

北朝鮮では数千本の大砲が韓国に向けて据えられている。それらは韓国の首都ソウルを射程内に捉えている。これは、ソウルと周辺地域に住む3000万人の人々を人質にとるという北朝鮮の戦略を反映している。

 

アメリカ単独による先制軍事行動は中国との衝突を引き起こすという大きなリスクをはらんでいる。中国は一時的にはアメリカの軍事行動を許容するだろうが、それでも中国の鼻先でアメリカが決定的な結果をもたらそうとする戦略を実行することを我慢して受け入れることはないであろう。1950年代の朝鮮戦争において中国は戦争に介入したという事実は中国がアメリカと衝突する可能性があることを示している。

 

軍事力の使用は注意深く分析されねばならない。そして、軍事力使用に関する言葉遣いもまた抑制的でなければならない。しかし、軍事力の行使の可能性を排除することはできない。

 

これまで述べたような考えを前提にして、トランプ政権は中国に対して、北朝鮮の非核化を実現するための外交的な努力を行わせようと試みている。こうした努力はこれまでのところ、部分的にしか成功していない。

 

中国はアメリカが持つ核兵器の拡散に関する懸念を共有している。実際のところは、中国こそは北朝鮮の核兵器によって最も影響を受ける国なのである。しかし、アメリカは北朝鮮の非核化という目的を明確に示しているのに対して、中国は北朝鮮の非核化がもたらす政治的な結果に直面することを嫌がっている。

 

北朝鮮は核兵器開発プログラムに国の資源の多くの部分を投入している。その割合は国力に釣り合わないものだ。そうした中で、核兵器開発プログラムの放棄、もしくは実質的な削減や後退は北朝鮮国内で政治的な混乱を引き起こし、更には体制転換にまで至る可能性がある。

 

中国はこのことをよく理解している。従って、最近の外交上の大きな成果としては、中国が原則として北朝鮮の非核化を支持しているということを中国が明確に示したことだ。しかし、同時に、北朝鮮国内の分裂や無秩序状態が起きることは、中国にとっての2つの大きな懸念を引き起こす。

 

一つ目の懸念は北朝鮮国内の危機が、中国の政治と社会に与える影響である。中国の1000年に及ぶ歴史で繰り返された出来事が再び繰り返されるのではないかという懸念である。

 

二つ目の懸念は北東アジア地域の安全保障に関するものだ。中国は北朝鮮の非核化に貢献する誘因が存在する。そして、中国としては北朝鮮の非核化から朝鮮半島全体の非核化を行いたいと考えている。現実には韓国には現在のところ、核兵器開発プログラムは存在しない。計画の発表すらない。しかし、国際的な核兵器開発禁止は別の問題となる。

 

中国は非核化につつく北朝鮮の政治的な発展についてもある程度の利害関係を持っている。それは、朝鮮半島において二国共存状態を維持するか、統一を行うか、といことであり、北朝鮮地域における軍事力の展開に制限をするかどうか、ということでもある。

 

これまでのところ、トランプ政権は中国に対して北朝鮮へ圧力をかけるように求めてきた。アメリカは自国の目的のために中国を下請け業者のように扱ってきた。より良い、唯一実現可能なアプローチはアメリカと中国両国の努力と試みを一本化し、共通の立場に立ち、他の国々の参加を求めていくということだ。

 

「我々の目的は北朝鮮を利害関係諸国が参加する会議に出席させることだ」とアメリカ政府は何度も発表している。こうした発表は、交渉こそがアメリカの目的だという前提の存在を反映している。交渉は自国の都合の良いタイミングで行われ、交渉に相手を引きずり出す圧力とは関係なく、交渉は最終的な合意まで続けられるべきだとアメリカは考えている。

 

しかし、アメリカの外交は、過程ではなく、結果によって最終的に判断される。アジア地域の安全保障構造は危機に瀕していると考える国々とって、アメリカが「我々は自国のみの利益を求めない」と繰り返し主張するだけでは不十分なのだ。

 

どの国が、何について交渉すべきなのか?朝鮮半島の非核化にとってアメリカと中国との間の理解と同意は必要不可欠な条件となる。皮肉な展開なのは、現時点の中国がアジア諸国の会兵器開発を阻止することについて、アメリカよりもより大きな関心を持っているかもしれないということだ。

 

中国は「北朝鮮に対する圧力が不十分だ」と非難されてアメリカとの関係を悪化させてしまうという危険に直面している。北朝鮮の非核化には持続した協力が必要である。経済的な圧力だけで非核化を実現することは不可能だ。米中間の非核化以後の事態、特に北朝鮮の政治的な発展と北朝鮮領土内の軍事力展開の制限に対する共通理解と対策が必要だ。このような共通理解がなされても、既存の日本や韓国との間の同盟関係を変化させてはならない。

 

半世紀に及ぶ歴史に照らしてみると逆説的に見えるかもしれないが、このような理解こそが朝鮮半島における行き詰まりを打開する最良の方法なのである。

 

米中が目的を明確とする共同声明を発表し、暗黙の裡の行動を行うことで、北朝鮮は孤立を痛感し、非核化という結果を守るために必要な国際的な保証の基礎が確立することになる。

 

韓国と日本はこの過程において重要な役割を果たさねばならない。韓国以上に北朝鮮の核開発に最初から関与してきている国は存在しない。韓国はその置かれている地理的な位置とアメリカとの同盟関係によって、政治的な結果に対して大きな発言力を持っている。

 

韓国は外交における解決によって最も直接的な影響を受けることになるだろう。また、軍事的な不測の事態が起きた際には最も危険な状態に陥ることになるだろう。アメリカとその他の国々の指導者たちが、北朝鮮の非核化を利用することはないと宣言することは重要だ(訳者註:核兵器を放棄した北朝鮮を攻撃しないという宣言を行うこと)。韓国はより包括的で正式な考えを表明することになるだろう。

 

同様に、日本は歴史的に朝鮮半島とは1000年以上のかかわりを持っている。日本の安全保障に関する基本的な概念に照らすと、日本が自国で核兵器を所有する状態にない中で、核兵器を持つ国家が朝鮮半島に存在することを許容することはないだろう。アメリカとの同盟関係に対する日本による評価は、アメリカの危機管理において日本の懸念をどの程度考慮してくれるかということにかかっている。

 

アメリカと北朝鮮の直接交渉という代替案も魅力的ではある。しかし、アメリカの直接交渉の相手である北朝鮮は、非核化の実行について最も利益を持たず、米中間を離反させることに最大の関心を持つ。

 

アメリカが中国との間で理解を共有するためには、最大限の圧力と実行可能な保証が必要となる。そして、北朝鮮は最終的な国際会議に出席することができるようになる。

 

核兵器の実験の凍結によって最終的な非核化に向かうための一時的な解決が出来ると主張する人々がいる。この主張の通りに行うことは、アメリカとイランとの間で結ばれた核開発を巡る合意という過ちを繰り返すことになるだろう。アメリカとイランの合意は、技術的な側面のみに限定して地政学的な戦略における問題を解決しようというものだ。これが間違いだったのだ。両国の合意は、「凍結」の定義がなされ、調査手続きが確立されたが、核開発放棄の引き伸ばしに対する口実を与えることになる。同じことが米朝間の合意でも起きるだろう。

 

「北朝鮮は手続きに時間をかけて、彼らの真の目的を隠す戦術を取っている。それは、言い逃れや引き延ばし工作をして長年の悲願を達成しようとしている」という印象を持っている人も多いだろう。北朝鮮はこのような印象を人々に持たせるのは得策ではない。段階的なプロセスを踏むということは考慮するに値するアイディアかもしれないが、それはあくまで北朝鮮の核兵器能力と研究プログラムを短期間のうちに実質的に削減することにつながるものである場合に限られる。

 

北朝鮮が一時的にも核兵器能力を保持することは、永続的な危険性を構造化してしまうことになる。その危険性は次のようなものだ。

 

・貧しい状態にある北朝鮮が核技術を他国に販売することになるかもしれない。

 

・アメリカの北朝鮮の非核化に向けた努力が自国の領土を守ることにばかり集中し、実際に北朝鮮の核の脅威に直面しているアジア地域をほったらかしにしているという印象を与えてしまうことになる。

 

・他国も北朝鮮、相互、そしてアメリカに対抗し、抑止するために核兵器開発を行う可能性も出てくる。

 

・非核化交渉が進まないことに対する不満が中国との間に争いを激化させることになる。

 

・核兵器の拡散はその他の諸地域で加速するだろう。

 

・アメリカ国内で行われる議論はより対立的なものとなるだろう。

 

非核化に向けた実効性のある進歩、それも短期間での非核化こそが最もよく考えられた慎重な望ましい方向ということになる。

 

※キッシンジャー氏はニクソン政権とフォード政権で国務長官と大統領国家安全保障問題担当補佐官を務めた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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 古村治彦です。

 

 先週、アメリカがシリアの空軍基地に59発のトマホーク・ミサイルを撃ち込みました。これは、シリア国内で起きた化学兵器を使用した攻撃で、子供を含む民間人に多数の死傷者が出た事件を受けての報復攻撃でした。アメリカ政府は化学兵器使用をシリアのバシャール・アサド政権の責任だとしています。しかし、私は、化学兵器使用は事実だと認めますが、誰が使ったのかについて、シリア軍だと断定するのは間違っていると思います。また、シリア軍が使ったとしても、そこにアサド大統領の命令があった、もしくは許可があったということにも疑問を持たざるを得ません。

 

 今回のアメリカによるミサイル攻撃に合わせて、トランプ政権の高官たちは、一斉に、ロシアを非難しています。非難の内容は、簡単に言うと、「ロシアは2013年にアサド政権に化学兵器をすべて廃棄させるとアメリカに約束した。しかし、今回のようなことが起きた。これはロシアが責任を果たしていないからだ」という非難です。

 

 アメリカはロシアがシリアや中東の情勢が安定するように支援してきたことに対して、失敗だと非難しています。大変身勝手な主張であると言えます。アメリカは世界の警察官を自認しながら、シリア情勢を改善するための動きは何もしていませんし、中東の情勢やテロ攻撃に関しては、アメリカ自体が「問題」であり「原因」です。

 

 2011年の「アラブの春」からリビアのムアンマール・カダフィ大佐殺害からベンガジ事件まで、アメリカの火遊びのせいで中東情勢は混沌化し、ISが出現しました。そもそも論を言えば、アメリカの失敗をロシアが何とかしようとしていることに対して、アメリカは厚顔無恥にも文句を垂れ流すという状況になっています。呆れてしまってものも言えません。

 

 下に掲載した記事では、ニッキー・ヘイリー国連大使、レックス・ティラーソン国務長官、H・R・マクマスター大統領国家安全保障問題担当補佐官がテレビに出て、ロシアを非難している様子を伝えています。また、米国防総省でも、ロシアの責任を追及する構えであることが伝えられていますが、最高責任者であるジェイムズ・マティス国防長官は直接的には何も発言していません。

 

 ここまで身勝手なことをロシアに対して言うというのは、少し芝居じみているとも思いますが、表に出てきている閣僚たちの発言を見ていると、トランプ政権の行動に関しては失望してしまうというのが感想です。国家安全保障会議の再編も含めて、もうしばらく様子を見て、何が起きており、何が意図されているかを見極めねばなりません。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ政権の最高幹部たちがロシアに対しての批判を激化させる(Top Trump officials turn up heat on Russia

 

レベッカ・サヴランスキー筆

2017年4月9日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/328019-top-trump-officials-turn-up-heat-on-russia

 

トランプ政権の最高幹部たちは日曜日、先週シリアで起きた化学兵器を使った攻撃で多くの死傷者が出た事件を受けて、ロシアに対する批判を激化させた。

 

トランプ政権の幹部たちは過去に結ばれた化学兵器に関する合意履行に関するロシアの責任について疑義を呈し、アメリカはロシアがシリアのバシャール・アサド政権を庇うことは許さないと強調した。

 

アメリカは先週、シリアの空軍基地1か所にミサイル攻撃を行った。これは、シリア北部で起きた化学兵器を使った攻撃で民間人に死傷者が出た事件に対する報復であった。この事件では、アメリカはアサド率いるシリア軍に責任があると断じ、非難していた。

 

日曜日、トランプ政権の幹部たちは、批判の矛先をロシア政府に向けた。ロシア政府は、シリアで内戦が勃発して以降、アサド政権の支援者となってきた。

 

米国連大使ニッキー・ヘイリーは、あるインタヴューの中で、アメリカのミサイル攻撃はロシアに対してメッセージを送ること目的に遂行されたと述べた。

 

ヘイリーはNBCの「ミート・ザ・プレス」に出演し、「トランプ政権は全員一致で何かをやらねばならないと考えていました。アサドに対してメッセージを送る必要があると考えていました」と語った。

 

ヘイリーは続けて次のように語った。「よろしいでしょうか、それに加えて、ロシアについても知らせねばならないことがあるとも考えていました。それは、あなた方はこれ以上、アサド政権を庇うことはできないだろうということを伝えねばならないと考えていました。私たちは、無辜の人々に対してこのような出来事が起きることは許しません」。

 

ヘイリーは、アメリカは「穏健なアプローチ」を取ったが、更なる手段を取ることができると述べた。彼女はロシアを批判し、化学兵器攻撃に対するロシアの反応はシリア政府の擁護になっていると述べた。

 

ヘイリーは「ロシアはどうしてそんなに早くシリア政府を擁護したのでしょうか?」と疑問を呈し、「死傷者への気遣いは後回しになっていました」と述べた。

 

ヘイリーは、アメリカは「ロシアがこれ以上アサド政権を支援すること」を許さないと述べた。

 

「私たちが言いたいのは、“化学兵器使用問題で違反があり、国連安保理決議を何度も破り、この戦争犯罪人であるアサド大統領を守るために7回も拒否権を発動しましたね、そんなあなた方を私たちは糾弾しますよ”ということです」とヘイリーは述べた。

 

「私たちは、化学兵器使用という事実とそれを隠蔽しようとしているあなた方を糾弾します」とヘイリーは語った。

 

国務長官レックス・ティラーソンもヘイリーと同じくロシアを批判し、ロシアは責任を果たしていないと述べた。

 

2013年、ロシアはアメリカと交渉し、シリアが貯蔵していた化学兵器をすべて破壊するという合意を結んだ。ティラーソンは、ロシア政府がこの合意内容の遂行に失敗している、もしくは無視していると非難した。

 

ティラーソンは日曜日、ロシアが「安定したシリアを実現するプロセスを支持する」ことを希望すると述べた。

 

ティラーソンは、ABCの「ディス・ウィーク」に出演し、「シリアにおける本当の失敗は、2013年の化学兵器を巡る合意内容をロシアが守ることができなかったことにあると考えており、私はこのことについて失望しています」と述べた。

 

ティラーソンは、「シリア国内の化学兵器の管理、破壊、監視の継続という役割はシリア政府とロシア政府が行うべきものです」と述べた。

 

ティラーソンは、シリア国内での化学兵器を使った攻撃は「大きな部分で、ロシアが国際社会に対する責任を果たさなかったこと」に原因があると断じた。

 

ティラーソンは、「私は、ロシアがバシャール・アサドとの同盟関係の継続について注意深く考慮することを願っています。このような恐ろしい攻撃が起きるたびに、ロシアの責任はどんどん重くなっていくのです」と述べた。

 

このティラーソンの主張は、大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターも繰り返している。マクマスターはロシア政府に対して、アサド大統領に対する支援について再考するように求め、「問題解決」にはロシアが参加すべきだと主張している。

 

マクマスターは日曜日、フォックス・ニュースに出演し、「ロシア政府は“自分たちはここで何をしているんだろう”と自問自動すべきです」と述べた。

 

マクマスターはまた次のように語った。「自国民を大量に殺害し、最も憎むべき武器を使用する殺人者が率いる政権を私たちはどうして支援しているのだろう、と考えてみるべきです」。

 

マクマスターは、アメリカのシリアに対する姿勢の見直しは、ロシアにとって行動の見直しのための良い機会になるとも述べた。

 

「ロシアは問題解決に参加できます。現在のところ、世界のほぼすべての国々はロシアが問題の大きな部分を占めていると考えています」とマクマスターは述べた。

 

マクマスターは、ロシア政府がどのような形の米ロ関係を望んでいるのか、という疑問を発した。

 

マクマスターは「彼らは競争と将来は衝突が起きるかもしれない形の関係を望んでいるのでしょうか?私はそれがロシアの利益になるとは思いません。それとも、相互利益となる協力できる分野を見つけることができる関係を望んでいるのでしょうか?」と述べた。

 

マクマスターは更に「今回のシリアでの内戦や中東全体の破滅的な状況が続くことが一体だれの利益になるのでしょうか?」と発言した。

 

シリアのイドリブ県で化学兵器を使った攻撃が発生した、これはアサド政権が実行したものだと批判の声が上がった。これを受けて、トランプ大統領は先週、シリアのシャイラット空軍基地にミサイル攻撃を行うように命令を下した。化学兵器攻撃によって子供を含む民間人の多くが死亡し、また負傷した。

 

国防総省(ペンタゴン)によると、59発のトマホーク・ミサイルが発射され、基地内の戦闘機、戦闘機格納庫、燃料貯蔵庫、武器貯蔵庫、レーダー、防空詩システムが標的となった。

 

トランプは今回の決定について土曜日に連邦議会に送付した書簡の中で説明している。彼は書簡の中で、攻撃実行の決断は、アメリカの「国家安全保障上、外交政策上の重大な国益」に基づいて行われたと述べた。彼はまた、必要とあれば、アメリカ政府には更なる軍事行動を取る用意があるとも述べた。

 

米軍幹部は金曜日、国防総省が、シリア国内の化学兵器攻撃について、また、病院に対する攻撃について、ロシアが参加、もしくは支援していたのかどうかを調査していると述べた。

 

ある米軍幹部は国防総省での取材に応じ、記者団に対して、「私たちは今回の化学兵器攻撃にロシアが関与しているのかどうか分かりません。しかし、私たちが調査を行うことで、その証拠が見つかるかもしれません」と述べた。

 

 

国防総省は、2013年にシリアで化学兵器を使った攻撃が発生したことについて、ロシアがアサド政権をコントロールすることに失敗したので起きたと主張した。

 

ある幹部は次のように語った。「当時、ロシアはシリアに既に介入していました。この時、ロシアはシリア政府の化学兵器能力を除去し、完全に消去することを保証すると述べました。その当時、ロシア政府は、シリア政府が所有する全ての化学兵器を集め廃棄したと報告してきました」。

 

この幹部は更に「ロシア政府は彼らを頼っているシリア政府をコントロールすることに失敗したのです」と語った。

 

もしロシアが化学兵器を使った攻撃に参加したことを示す証拠や合理的な告発が出てきたら、「私たちはそれらに基づいて、私たちの持つ能力を最大限に発揮することになるでしょう」とこの幹部は述べた。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)






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 古村治彦です。

 

 先週木曜日に、アメリカは、シリアの空軍基地へミサイル攻撃を行いました。シリア国内で化学兵器を使った攻撃が行われ、子供を含む多数の民間人に死傷者が出たことに対しての報復攻撃と、これ以上の化学兵器使用と拡散を防ぐための予防的攻撃ということでした。世界のほとんどの国々の政府は今回の攻撃を承認しています。

 

 私は今回のシリア国内における化学兵器を使った攻撃から疑問を持っています。化学兵器が使用されて、子供たちを含む民間人が多数死傷したことは間違いありません。問題は誰が化学兵器を使用したのかということです。全体として、「バシャール・アサド大統領が命じてシリア軍が使用したのだ」ということになって、それでシリア軍の空軍基地にミサイル攻撃がなされました。私は、化学兵器使用の責任が誰にあるのかはっきりしていないではないかと思っています。

 

 米軍の攻撃についてですが、トマホークという有名なミサイルをシリア軍の空軍基地1か所に59発撃ちこんだということですが、その割に被害者がほとんどいない、報道されないというのは不思議です。空軍基地は広大な規模でしょうが、米軍が誇るトマホークが59発も撃ち込まれたら、一面火の海でしょうし、周囲にも甚大な被害が及ぼされるはずです。ただ鉄の塊を撃ち込んだだけなら、警告以上の意味を持たないものに高価なミサイルを59発も撃ち込んだことになります。アメリカが本気でアサド政権を倒そうとしていないことは明らかです。

 

 空軍基地には司令部、パイロット、整備部門で多くのシリア軍の将兵が勤務していたでしょうし、現在はロシア軍の支援を受けていますから、ロシア軍の将兵もいたでしょう。アメリカはロシア軍の将兵に被害が出ないように事前通告をしたということですが、それなら、現場でロシア軍将兵が退避するという動きが起きる訳で、ロシアが仮にシリア側に通報していなくても事態は察知できるでしょうし、ロシアはシリア側に通報していたでしょう。ですから、今回の攻撃はあらかじめ仕組んであった、ロシア、シリア、中国にあらかじめ話を通してあったものではないかと思います。

 

 米中首脳会談のタイミングでもあり、いろいろとシナリオが考えられています。対北朝鮮の危機を煽る報道も目立ってきています。アメリカのトランプ政権内の路線対立によって、政策がぶれる、もしくは行き当りばったりになるということも予想されています。

 

 アメリカと中国とロシアが関係を悪化させず、表向きは悪化させても裏できちんとつながって、話を通しておけば、深刻な事態になることは避けられるでしょう。今回のケースは米中露が「危機を演出」しているのではないか、と思います。戦争を本気でやりたい、やらせたいと考えている勢力に、「本当にやるのか、大変なことになるんだぞ、戦争とはそんなに甘いものじゃないんだぞ、甘く考えるな」という警告を与える効果があったと思います(日本政府には当然のことながら、アメリカから事前通告はありませんでした)。この効果が一番に効いたのは日本の安倍晋三政権ではないかと私は考えています。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの対シリア政策における主要なプレイヤーたち(Key players in Trump's Syria policy

 

エレン・ミッチェル筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/defense/327926-key-players-in-trumps-syria-policy

 

トランプ大統領は木曜日、シリアの空軍基地へのミサイル攻撃を命じた。これは、バシャール・アサド政権に対するアメリカ初の攻撃であった。

 

今回のミサイル攻撃は、子供を含む民間人数十人が殺害された化学兵器を使った攻撃に対する対応であった。トランプ政権は、アサド政権が将来化学兵器を使用することを止めることを意図として今回ミサイル攻撃を行った。

 

発足して間もないトランプ政権において、今回のミサイル攻撃は最大の軍事的な決定となった。

 

ここにトランプの決断を導いた人々とトランプの対シリア政策に置いて重要な役割をこれから果たすであろう人々を紹介する。

 

●国防長官レックス・ティラーソン(Secretary of State Rex Tillerson

 

ティラーソンは国務長官就任以降、スポットライトを避けてきた。木曜日のミサイル攻撃は、アメリカの外交官トップとして初めての重要な瞬間であった。

 

攻撃前の最後の会議で、ティラーソンはトランプと一緒に机を囲んでいた。ガスを使った攻撃が国際的なニュースとなって以降、ティラーソンのシリアに対する発言内容は大きく変わっている。

 

つい先日、ティラーソンはトルコを訪問した。この訪問中、ティラーソンは「アサド大統領の任期が長くなるかどうかはシリア国民によって決定されるだろう」と述べた。

 

しかし、シリア空爆実施直前の午後、ティラーソンは次のように語った。「将来のアサドの役割は不明確だ。明確なことは、彼がこれまで取ってきた行動から考えると、彼がシリア国民を統治するという役割を与えられることはないだろうと思われる」。

 

トランプがシャイラット空軍基地に59発のトマホークミサイルを発射する命令を下した直後、ティラーソンは、「今回の行動は、必要とあれば、大統領は決定的な行動を取ることを躊躇しないということを明確に示した」と語った。

 

ティラーソンはロシアに対する厳しい姿勢を取っている。ロシア政府がアサド政権の存続を支援し、シリアに対する軍事攻撃を避けるために、ロシアとオバマ政権との間で結んだ2013年の合意内容をアサドが破らせたと批判している。ロシアはアサドが貯蔵している化学兵器を全て廃棄させることを確約していた。

 

ティラーソンは次のように語った。「ロシアは2013年の約束を実行する責任を果たせなかったことは明らかだ。ロシアがシリアと共謀しているか、ロシアは合意内容の目的を達成する能力を持っていないかのどちらかだ」。

 

ティラーソンはエクソンモービル社でのキャリアを通じてウラジミール・プーティンとの関係を築いた。ティラーソンは来週、モスクワを訪問する予定だ。アメリカによるシリア攻撃によってティラーソンのモスクワ訪問の緊張は高まることだろう。

 

しかし、ティラーソンは、トランプが、アサドを権力の座から引きずりおろそうという目的で攻撃をエスカレートさせる可能性を否定した。木曜日、シリアにおけるアメリカの軍事行動についてのアメリカの政策全体には変化しないと述べた。

 

●大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスター陸軍中将(National Security Adviser Lt. Gen. H.R. McMaster

 

マクマスターは学者政治家として知られる。彼は過去と現在に関する世界各地での紛争に対する知識が豊富である。マクマスターは、シリアとロシアがどう反応するか、アメリカが物事を進めるために何をすべきかについて、彼独自の視点を提供できる。

 

マクマスターは更迭されたマイケル・フリンの後任となった。マクマスターの補佐官就任は防衛分野における人々の多くに安心感を持った。そして、政権内部で急速に影響力を確立している。

 

マーアラゴでのシリアへのミサイル攻撃直前の最終会議には、トランプ大統領、ジム・マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター補佐官が出席した。マクマスター補佐官は、「会議ではトランプと側近たちにシリアへの対応に関する3つのオプションについて議論した」と語った。

 

マクマスターは、ミサイル攻撃を行っても、アサド政権から化学兵器を使った攻撃を実行する能力を除去することはないだろうと語った。

 

マクマスターは、「アサド政権は化学兵器を使った大量殺人を行う能力をこれからも維持するだろうことは明らかだ。空軍基地を1カ所攻撃しても能力を削ぐことはないと考えている」と述べた。

 

マクマスターはしかしながら、アメリカによる空爆は「アサドの計算に大きな変化」をもたらすだろうとも述べた。

 

今回の攻撃の目的は、メッセージを送ることだったのか、それともアサド政権の軍事能力にダメージを与えることだったのかと問われ、マクマスターは次のように答えた。「今回の攻撃は、現アサド政権、そして彼の父親の政権時代を含めて、アメリカによる初めての直接的な軍事行動であった。今回の大規模な殺人に対応するという大統領の決断が行われたことは重要であるし、2013年に国連決議が発行して以降、起きた50以上の化学兵器を使った攻撃に対処することになるという点で重要である」。

 

マクマスターは続けて次のように語った。「従って、質問に対する答えは、その両方ということになる。攻撃目標は化学兵器を使った大量殺人を行える能力であった。しかし、そのような攻撃能力に関連する施設全体を攻撃する規模と広がりを持つものではなかった」。

 

●国防長官ジェイムズ・マティス(Defense Secretary James Mattis

 

マティスもまた、トランプの意思決定プロセスにおいて、重要な、しかし静かな役割を果たした。

 

アメリカ中央軍の元司令官として、マティスは中東地域に関しては豊かな知識と深い洞察を持っている。そして、攻撃が引き起こす結果についても十分な考察と予測を立てている。マティスは空軍基地に対する「集中攻撃(saturation strike)」のためのアメリカ中央軍の計画をトランプに説明した。

 

マティスはまた注意深くロシアに対応する方法を知っている。また、オバマ政権時代に中央軍司令官として経験したリスクの現実化ということも理解している。ロシア人に死傷者が出る危険性にマティスはこだわったと報じられている。また、中東地域にいるアメリカ軍や外交関係者が報復攻撃の標的になることを懸念していた。

 

木曜日の夜に国防総省は攻撃の詳細を発表した。ロシアとシリアの軍関係者と民間人へのリスクを最小限にするための用心深い計画が立てられていたことを国防総省は強調した。

 

マティスは、攻撃後の記者会見で、マクマスターとティラーソンと一緒に姿を現すことはなかった。また、攻撃以降、一切発言していない。

 

●米国連大使ニッキー・ヘイリー(U.S. Ambassador to the United Nations Nikki Haley

 

シリアでの化学兵器を使った攻撃に対するアメリカのミサイル攻撃に関して、ヘイリーは国連の場で徹底的に正当性を主張している。そして金曜日、アメリカはシリアに対して更なる軍事行動を取る準備をしているという警告を発した。

 

ミサイルによる空軍基地攻撃後、ヘイリーは国連安全保障理事会の席上、「アメリカは昨晩、入念に準備された行動を取った。私たちは更なる行動を取る準備をしている。しかし、そのような行動が必要とならないことを願っている」と述べた。

 

シリアにおける化学兵器を使った攻撃が起きた後、ヘイリーはホワイトハウスを代表して、もっとも多く発言してきた。ヘイリーは空軍基地攻撃についてトランプ政権の立場を主張し、攻撃は「完全に正当化できる」と述べた。

 

ヘイリーはティラーソンと同様に、アサドに対する姿勢を急速に変化させてきた。先週、ヘイリーは、アメリカの優先順位について、「ただ座っているということは終わり、アサドを追い落とすために注力することになる」と木曜日の記者団の取材に答えたとAFPが報じている。

 

ヘイリーは、化学兵器使用の停止は、アメリカにとっての「安全保障上の重要な国益」であると主張している。

 

ヘイリーは国連安保理理事会で苦しんでいる子供たちの写真を掲げた。ヘイリーは金曜日、ロシアがアサド政権を支援してきたと非難した。

 

ヘイリーは次のように語った。「アサドが化学兵器を使った攻撃を行ったのは、それによって報復攻撃を避けることができると考えたからであろう。彼が報復攻撃を避けることができると考えたのは、ロシアが後ろにいると考えたからであろう。彼の計算は昨晩で変化しただろう」。

 

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トランプが連邦議会にシリア攻撃を説明する書簡を送付(Trump sends Congress letter explaining Syria strike

 

マックス・グリーンウッド筆

2017年4月8日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/327962-trump-sends-congress-letter-explaining-syria-strike

 

トランプ大統領は土曜日、今週行ったシリアへのミサイル攻撃を命じたことについて議会に説明と弁明のための書簡を送付した。書簡の中で、連邦議会の指導者たちに対して、アメリカ政府には必要であれば、更なる軍事行動を取る用意があると述べた。

 

トランプは書簡の中で、「安全保障と外交政策の分野におけるアメリカの重大な国益に基づいて私は行動した。合衆国憲法で大統領に認められた、外交を行う権威、アメリカ軍最高司令官、アメリカ連邦政府の最高責任者の職責に従った」と書いている。

 

彼は続けて、「アメリカ合衆国は、必要がありそれが適切であれば、重要な国益を更に追及するために、追加的な行動を行うだろう」と書いている。

 

トランプ大統領からの書簡は、アメリカ連邦下院議長ポール・ライアン(ウィスコンシン州選出、共和党)とアメリカ連邦上院仮議長(the Senate president pro tempore)オリン・ハッチ(ユタ州選出、共和党)連邦上院議員宛てに送付された。

 

戦争権限法では、大統領は軍事行動から48時間以内に武力使用に関する説明をしなければならないという規定がある。トランプ大統領の今回の行動に関しては、提出期限は土曜日夜までとなっていた。

 

トランプの書簡の内容は、木曜日の夜にミサイル攻撃から1時間後に行ったトランプの声明発表を繰り返したものだ。声明の中でトランプは、ミサイル攻撃をアメリカの「重大な安全保障上の国益」だと述べた。

 

トランプはフロリダ州マーアラゴにあるリゾートで中国の習近平国家主席を迎えていたが、トランプはミサイル発射後の声明発表で、「強力な化学兵器の拡散と使用を阻止することは、アメリカの安全保障にとって、致命的に重要な国益である」と発言した。

 

世界各国の指導者たちは金曜日になって、アメリカの攻撃を支持した。シリアのイドリ県で化学兵器が使用されたがその責任はシリアのバシャール・アサド大統領にあるという非難があり、化学兵器使用は、必要なそして適切な対応であったと各国の指導者たちは賞賛した。

 

シリア政府と、アサド政権を長年にわたり支持し軍事援助を与えてきたロシアは、ミサイル攻撃を非難した。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の報道官は金曜日、ミサイル攻撃を「主権国家に対する侵略的攻撃」の行動と呼び、アメリカが国際法に違反したと非難した。

 

アメリカ連邦議会の議員たちは攻撃に対しておおむね支持を表明した。しかし、多くの議員はシリアに対する更なる軍事作戦を行う前には議会の承認を得るように求めている。

 

連邦上院共和党院内総務ミッチ・マコンネル上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領は軍事行動に関して更なる承認を求める必要はないと主張した。

 

マコンネルは、2001年9月11日の同時多発テロ発生後に連邦議会で通過し、2002年にも認められ、イラク戦争が容認された基盤となった武力行使容認決議によって、トランプ大統領の今回の行動は正当化されると主張した。

 

マコンネルは金曜日、保守派のラジオ番組に出演し、司会者であるヒュー・ヒューイットに対して次のように語った。「私たちは2001年と2002年に決議を通した。オバマ前大統領は中東で私たちがやってきたことを自分もできるのだということを認識していたと思う。私はトランプ大統領も同じように考えるように期待している」。

 

トランプは、もし必要であれば、シリアに対して更なる攻撃を実行する用意があると主張した。金曜日、アメリカ国連大使のニッキー・ヘイリーも同様の主張を行った。ヘイリーは、ロシアからの非難に反論し、トランプ大統領の行動を正当化した。

 

ヘイリーは「アメリカは昨晩、周到に準備された行動を取った。私たちには更なる行動を取る用意があるが、そうした行動が必要ではなくなることを願っている」と語った。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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