古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ロシア

 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

 アメリカは外交政策において、インド太平洋(Indo-Pacific)という地域概念を持ち出して、中国とロシアを封じ込めようとしている。これはバラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官から顕著になっている。「アジアへの軸足移動(Pivot to Asia)」という概念と合わせて、アメリカの外交政策の基盤となっている。

 インド太平洋から遠く離れたヨーロッパ諸国がインド太平洋でプレイヤーとなろう、重要な役割を果たそうという動きを見せている。国際連合(the United NationsUN、正確には連合国)の常任理事国であり、空母を備える海軍を持つイギリスとフランスを始めとして、オランダ、ドイツなどの小規模な海軍国が艦船をインド太平洋地域に派遣している。昨年には、NATOの東京事務所開設という話が出て、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によって、いったん白紙となった。ヨーロッパから遠く離れたインド洋、太平洋地域でヨーロッパが全体として役割を果たそう、プレイヤーになろうという動きが高まっている。
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 ヨーロッパ側の主張、理由付けは、インド太平洋地域の航行の自由を守ることが、自分たちの貿易を守ることにつながるというものだ。これは、中国の存在を念頭に置いて、中国が航行の自由を阻害するという「被害妄想」でしかない。その「被害妄想」を理由にして、何もないインド太平洋地域にまで艦船を送るというのはご苦労なことである。

 ヨーロッパがインド太平洋地域において役割を果たすというのは、アメリカの手助けをするという理由もある。アメリカが中国と対峙している地域であり、ここでアメリカを助けることが必要だということである。更に言えば、アメリカの要求によって、ヨーロッパ各国は国防費の大幅増額、倍増を求められているが、艦船を派遣することで、「取り敢えず頑張っています」という姿勢を見せることで、少しでもこうした動きを和らげようということであろう。

 しかしながら、ヨーロッパはまず自分の近隣地域の平和な状況を作り出すことを優先すべきだ。ユーロピアン・アイソレイショニズム(European Isolationism、地域問題解決優先主義)を採用すべきだ。ロシアとの平和共存を目指し、ロシアの近隣諸国の中立化(武装解除ではない)を行い、ロシアとの関係を深化させることで、相互依存関係(interdependency)を構築し、戦争が起きる可能性を引き下げることだ。

 落語などでもよく使われる表現に「自分の頭の上のハエも追えない癖に、人様の世話ばかりしやがって」というものがある。ヨーロッパはまず、自分の近隣地域の安全も実現できていないのに、他人様の家にずかずか入り込んでくるものではない。まさに「何用あってインド太平洋へ」である。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはインド太平洋のプレイヤーになりたいと考えている(Europe Yearns to Be an Indo-Pacific Player

-ヨーロッパ地域で戦争が続いているが、ヨーロッパの戦略的・海軍的な願望は世界の裏側にある。

キース・ジョンソン筆

2024年3月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/19/europe-navy-indo-pacific-strategy-maritime-security/

地政学的なアイデンティティを探し続けた年月を経て、ヨーロッパは国際関係において最も争いが頻発している分野でより大きなプレイヤーになることを目指し始めている。ヨーロッパが目指しているのはアジア地域を含む海洋安全保障分野(maritime security)での主要なプレイヤーである。

長年にわたる貧弱な国防費とハードパワーへの嫌悪感から立ち直り、ヨーロッパ全体、そしてヨーロッパの主要国の多くは、身近なところから地球の裏側まで、海洋安全保障への関心を急速に高めている。それは、ブリュッセル、パリ、ロンドンから矢継ぎ早に発表される野心的な戦略文書だけでなく、ヨーロッパ諸国の小さいながらも有能な海軍が、より多くの場所で、より多くのことを行い、争いの絶えない水路を確保し、自由航行と世界的なルールの尊重を取り戻すために、配備を拡大していることからも明らかである。

ヨーロッパの海軍は既にイエメンからのフーシ派ミサイル攻撃に対抗するために紅海で任務遂行をしており、ますます多くのヨーロッパのフリゲート艦や航空母艦が、大陸全体でのより大規模で広範囲にわたる責任への移行の一環として太平洋を巡行している。

10年ほど前の地中海での海上警備活動から始まったヨーロッパ連合(European UnionEU)の活動は、現在ではインド洋を含むさらに遠方への野心的な展開へと広がっている。先月、ヨーロッパ連合は紅海、ペルシャ湾、アラビア海で航路を確保するための海軍作戦を開始したばかりだが、これは同じ海域でより好戦的な米英の作戦とは別のものだ。

ウクライナでの大規模な陸上戦争が3年目を迎えている現在でも、ヨーロッパはインド太平洋の安全保障においてより大きな役割を果たすことにますます真剣になっている。ヨーロッパ連合はインド太平洋戦略と、この地域に改めて重点を置く新たな海洋安全保障戦略の両方を掲げている。

ブリストル大学の海軍専門家であるティモシー・エドマンズは、「ヨーロッパ連合の最新の海洋安全保障戦略で印象的なのは、海洋における国家間の紛争や対立の重要性と、そして政治的ダイナミクスの変化を認識し、本格的な転換を図ろうとしていることだ。特にインド太平洋地域とその中でのヨーロッパ連合の役割がそうだ」と述べている。

個々の国もまた、この活動に参加している。イギリスはアジアへの「傾斜(tilt)」を更に強化しようとしている。ヨーロッパ連合加盟国で唯一インド太平洋に領有権を持つフランスは、中国の台頭とバランスを取り、フランスとヨーロッパの重要な経済的利益を守るため、インド太平洋地域における海軍と外交のプレゼンス強化に全力を挙げている。ドイツやオランダのような中堅の地政学的プレイヤーでさえ、インド太平洋戦略を持っている。イギリス、フランス、その他いくつかのヨーロッパ諸国は、遠く離れた太平洋の海域に艦船を置いて、その願望をバックアップしている。

フランス国際関係研究所の軍事部門の研究員ジェレミー・バシュリエは、「インド太平洋における安全保障環境の悪化は、フランスとヨーロッパの利益に重大な脅威をもたらしている。インド太平洋における抑止力と軍事的対応努力は主にアメリカに依存しているが、ヨーロッパ連合加盟諸国は今や、台湾海峡、北朝鮮、南シナ海における危機や紛争など、この地域における危機や紛争の世界的影響を十分に理解しなければならない」と述べている。

ウクライナ戦争は、ヨーロッパの関心と武器を吸収した。それでもなお、ヨーロッパの東方シフト(European shift to the east)は続いており、その勢いは増している。それは、ウクライナ戦争がヨーロッパにとって紛争の真のリスク、特に世界の多くの国々と同様にヨーロッパが依存している世界貿易とエネルギーの流れの要であるインド太平洋における紛争の真のリスクについて警鐘を鳴らしたからでもある。

ハーグ戦略研究センターのポール・ファン・フフトは「インド太平洋地域におけるヨーロッパの存在感を高めようという意図は、ヨーロッパでの戦争にもかかわらず、まだ生き続けている。ウクライナ戦争がなければ、資源を確保するのは簡単ことだろうが、その一方で、今は新たな深刻な問題が出ている」と述べている。ヨーロッパのアジアへの軸足移動(The European pivot to Asia)が注目されるのは、フランスとおそらくイギリスを除けば、ヨーロッパ諸国がもともとインド太平洋地域のプレイヤーではないからだ。しかし、フランスとイギリスの空母に加え、ドイツ、イタリア、オランダの小型水上艦船がこの地域に派遣されている

ヨーロッパが、目の前に多くの課題があるにもかかわらず、地球半周分も離れた地域の争いに力を入れている理由はいくつかある。それらは、攻撃的な中国の台頭、商業とエネルギーの自由な流れを保護する必要性、そして、アメリカが、旧大陸が今後数十年間に形成されつつある重大な安全保障上の諸問題において、さらに前進し、主要な役割を果たすことができるという願望である。

長年にわたり、ヨーロッパは中国との間でバランスを取ろうと努め、中国からの投資を歓迎する一方で、北京に対するワシントンの好戦的な姿勢をますます強めていることから距離を置いてきた。しかし、中国による略奪的な貿易や経済慣行、南シナ海での威圧、太平洋における自由航行への脅威、そして台湾併合というあからさまな計画の組み合わせは、今やヨーロッパを、より明確なアプローチへと押しやっている。

前述のティモシー・エドマンズ「中国との関係の方向性は、ヨーロッパ連合全体で変化している。海外投資(foreign investment)であれ、一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)であれ、太平洋での活動であれ、中国の破壊的な役割がますます認識されるようになっている。それらの国々の目からは日々鱗が剥がれ続けている状況だ」と語った。

オランダのような中堅諸国は、インド太平洋における自国の将来を、戦争に参加して実際に戦う海軍国としてではなく、むしろ投資、能力開発、安全保障支援を活用して、アジア諸国を中国の支配に対する防波堤となりうるより広範なグループへと呼び込むことができる外交国になるようにと考えている。ファン・フフトは「私たちにできることは、パートナー諸国に対して、“私たちは本当に気にかけているが、支援は別の形でなければならない”と伝えることだ」と述べている。

エマニュエル・マクロン大統領の下、フランスは長年にわたり、多くの人がバランシング姿勢とみなすものを追求しようとしてきたが、インド太平洋で何が起こるかについて、より現実的な見方にますます傾いている、と前述のジェレミー・バシュリエは述べている。「フランス政府は、アメリカ、インド、日本、オーストラリアで構成されるクアッド(Quad)のようなグループにはまだ正式に参加していないが、インドとのラ・ペルーズ海軍演習のような、考えを同じくする国々と以前よりも多くの演習に参加している」とバシュリエは語っている。

台湾や西太平洋をめぐる潜在的な紛争だけでなく、フランスやその他のヨーロッパ諸国が特に懸念しているのは、自由航行(free navigation)やエネルギーなどの重要物資の自由な流れ(free flow)に対する脅威である。これは、紅海における数ヶ月に及ぶフーシ派の活動や、イランによるホルムズ海峡閉鎖の威嚇によって浮き彫りにされ、世界有数の輸送量を誇る航路を自分専用の湖(a private lake)に変えようとする中国の明白な意志によって強調されている。このことは、海洋法を守り、自国の近くだけでなく、ヨーロッパに影響を及ぼすあらゆる場所で海運を保護したいというヨーロッパ共通の願望につながる。

ファン・フフトは「航路がますます攻撃に対して脆弱になっていることは誰の目にも明らかであり、海洋安全保障の関心は必然的にインド太平洋へと移行しつつある。依存関係(dependencies)を考えれば、航路を確保するという問題を無視することはできない」と語っている。

海洋での取り組みを拡大するというヨーロッパの取り組みは、アジアのパートナー諸国や潜在的なライヴァルだけでなく、アメリカにもメッセージを送っている。数十年とは言わないまでも、何年もの間、米政府はヨーロッパのNATO加盟諸国に防衛費を増額する必要性について説得しており、遅ればせながら、増額を始めている国もある。しかし専門家たちは、特にヨーロッパの近隣地域と、それを遠く越えた地域での海洋安全保障能力の強化は、ヨーロッパ全体がアメリカに真の支援を提供できる分野の1つであると主張している。

これには紅海やホルムズ海峡でのヨーロッパ諸国の任務のような巡回活動が含まれるが、米空母打撃群の長期間の派遣を具体化するためのヨーロッパ諸国からの水上艦艇の定期派遣も含まれる。

ファン・フフトは「これらの任務は全て、大国ではない国の海軍でも役割を果たすことができる、非常に具体的な方法である」と述べている。

しかし、より正確には、どのような役割となるのだろうか? ヨーロッパで最も強力な2つの海軍、イギリス海軍とフランス海軍は、合わせて3隻の中規模空母と40数隻の主要な水上艦艇を保有している。アメリカ海軍は、太平洋艦隊だけでも常時それ以上の数を保有している。イタリア、スペイン、ドイツ、オランダといった国々のより小規模な海軍は、ほとんどが小型のフリゲート艦と一握りの水陸両用艦で構成されている。それでも、フランスとイギリスの空母は、他のヨーロッパ諸国の艦船に護衛されながら、今年後半から来年にかけてインド太平洋に向かう予定であり、どちらもアメリカ軍との相互運用性(interoperable with U.S. forces)を高めるための訓練を受けている。

しかし、だからといって、台湾や南シナ海をめぐって太平洋戦争が勃発した場合、ヨーロッパの軍艦がアメリカやパートナー諸国の海軍を直接支援できるかというと、そうではないとバシュリエは主張している。ヨーロッパ北西部から南シナ海までは到着までに約2週間かかり、南シナ海での後方支援もないため、ヨーロッパの海軍はたとえその意志があったとしても、紛争が起きた場合に大きな役割を果たすことは難しいだろう。

より間接的ではあるが、アジアの海洋環境を形成する上で最終的により有益な役割は、もう少し身近なところで果たせるかもしれない。紅海やインド洋西部で既に海賊やテロリストに対する活動を開始しているヨーロッパ諸国の海軍は、シーレーン保護(sea lane protection)の任務を全面的に担うことができ、アメリカとそのパートナー諸国海軍は太平洋に集中することができる。

バシュリエは「アジアで紛争が発生した場合、ヨーロッパはおそらく、海上交通の安全保障と管理を確保し、スエズ運河とマラッカ海峡の間の“後方基地(rear bases)”を監視しなければならなくなるだろう」と語っている。

バシュリエは更に「バブ・エル・マンデブ海峡からベンガル湾のマラッカ海峡の開口部までの範囲で活動するヨーロッパの海軍は、ヨーロッパのエネルギー権益を維持しつつ、北京の戦略的供給を制約することができる」とも述べている。

※キース・ジョンソン:『フォーリン・ポリシー』誌記者(地経学・エネルギー担当)。ツイッターアカウント:@KFJ_FP

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。ウクライナ戦争について詳しく分析しました。是非お読みください。

 ヨーロッパには、ヨーロッパ連合(European UnionEU)とNATO(北大西洋条約機構)という大きな国家連合、協力の枠組みがる。NATOはヨーロッパを超えて、アメリカやトルコも加盟している。EUは元々が経済協力のための枠組みであったヨーロッパ経済共同体(European Economic CommunityEEC)が前身のため、経済活動がメインとなる。もちろん、軍事組織もあるが、それがメインではない。NATOは、冷戦下に、対ソ連の集団防衛を目的としたもので、ソ連崩壊後も存続し、現在はロシアの脅威に対抗する組織となっており、安全保障がメインだ。NATOがヨーロッパの防衛、安全保障のメインの枠組みということになり、これは、アメリカが大きな役割を果たすということになる。アメリカ側皮すれば、好意的に解釈すれば「アメリカにとって重要なヨーロッパ地域の安全保障に貢献する」ということになるが、悪く解釈すれば「ヨーロッパはアメリカのお金と軍隊にただ乗りして、自分たちをアメリカに守らせている」ということになる。ドナルド・トランプ前大統領は、アメリカ軍の引き上げ、ヨーロッパ諸国の負担増を求めたが、これはアメリカ国民の多くの意思を反映している。

 ヨーロッパは、2022年2月からのウクライナ戦争を受けて、自分たちの防衛について真剣に考えねばならなくなった。アメリカに頼るのか、アメリカに頼るにしてもどの程度頼るようにするか、自分たちでどれだけのことができるか、ロシアの脅威はどれくらいで、自分たちの負担はどれくらいになるか、負担をどのように分担するかということが問題になってくる。ヨーロッパの防衛のためには、各国の協力が不可欠であるが、以前に昇華した論稿にもあったが、それぞれの国の軍事装備の基準の違いやインフラの規格の違いなどから、協力は大変難しい状況だ。それでも、ウクライナ戦争を受けて、防衛協力について、真剣に考えねばならないようになっている。

 しかし、ここで考えねばならないことは、ロシアがヨーロッパ諸国にとって脅威とならないように対応するということだ。ロシアがヨーロッパを脅威と捉えて侵攻するということがないような状況を作ることも大切だ。戦争が起きない状況を作ることも真剣に考えねばならない。アメリカやイギリスが「作り出す」ロシアの脅威という幻想に踊らされないことが何よりも重要だ。これは日本にも言えることだ。「中国の脅威」「台湾危機」といった言葉に安易に踊らされないようにしたいものだ。

(貼り付けはじめ)

何故ヨーロッパは軍事行動を合同して行えないのか(Why Europe Can’t Get Its Military Act Together

-ヨーロッパ大陸は、軍事的自立(military autonomy)への道のりで複数の障害に直面している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年2月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/21/europe-military-trump-nato-eu-autonomy/

ドナルド・トランプ前米大統領は選挙集会で、自身が防衛義務を怠っていると判断した国々について、ロシアに対し「やりたいことは何でもする(do whatever the hell they want)」よう促すと述べ、ヨーロッパに警鐘を鳴らした。ヨーロッパ諸国は既に、トランプの2度目の大統領就任の可能性について懸念していたが、今回の発言でこうした懸念がさらに高まった。ヨーロッパ委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は数日後、『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、ヨーロッパは「より荒れた(tougher)」世界に直面しており、「私たちはより多くの支出をしなければならないし、より賢く支出をしなければならないし、そしてヨーロッパのための支出をしなければならない」と語った。

しかし、疑問が残る。ヨーロッパは自らを守るために十分なことを実行するだろうか? ヨーロッパ諸国がアメリカの保護に過度に依存し(overly dependent)、十分な防衛力を維持しようとしないという、アメリカ側の不満には長い歴史があり、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで警鐘が鳴らされたが、ヨーロッパの使える軍事力が劇的に向上することはまだない。たしかに、NATO加盟諸国は現在、より多くの資金を費やしており、EUは最近、ウクライナへの追加的な500億ユーロの財政支援を承認した。しかし、数週間以上にわたって実戦部隊を維持するヨーロッパの能力は、依然として微々たるものだ。つまり、いくつかの重要な能力は依然としてアメリカに依存しており、NATO加盟諸国の一部には、自分たちが攻撃された場合、そのパートナーが助けようと努力したとしても、それほどのことができるのか疑問を持つ国もある。

確かに、ヨーロッパの高官たちのレトリックはより激しくなっている。デンマークのトロエルス・ルンド・ポウルセン国防相は最近、ロシアは「3年から5年以内に」NATOの相互防衛条項を試すかもしれないと警告し、別のNATOの幹部外交官は、もはや「ロシアがウクライナで止まってくれると考える余裕はない」と考えていると述べた。別の上級外交官によれば、ロシアが2030年までにNATO加盟諸国を攻撃する「意図と能力(intent and capability)」は、現時点では同盟内の「ほぼ総意(pretty much consensus)」だと述べた。ヨーロッパが独自に十分な能力を開発するには10年以上かかる可能性があるため、熱心な大西洋主義者たちは、アメリカの時間、注意力、資源に対する競合する全ての要求にもかかわらず、アメリカをヨーロッパにしっかりと関与させ続けたいと考えている。

ヨーロッパは行動を共にできるのか? ここでは、2つの確立された理論体系(well-established bodies of theory)が関連する。1つは、私が貢献しようとしている「力の均衡(balance of power)」(あるいは「脅威の均衡[balance of threat]」)理論である。この理論では、ヨーロッパの安全保障に対する深刻な外的脅威(external threat)、たとえば強力な軍事力と高度な修正主義的な野心を持つ大国が近隣に出現した場合、その脅威を抑止するために(あるいは必要であれば、その脅威を打ち負かすために)、これらの国のほとんどが力を合わせると予測している。このような衝動は、もしこれらの国々が、自分たちは他の誰にも保護を頼ることができないと理解すれば、より強くなるだろう。最近のヨーロッパの国防費の増加とスウェーデンとフィンランドのNATO加盟決定は、脅威に晒されている国々が完全に均衡(バランス)を取る傾向を示しており、この確立された傾向により、ヨーロッパが自らの防衛に対してより大きな責任を負う能力と意欲について、私たちがより楽観的になれるはずだ。

しかし、残念なことに、2つ目の理論体系がこの明るい結果を確実なものにはしていない。安全保障は「集合罪(collective good)」であるため、同盟関係にある国家は、自国の安全保障を維持するために、たとえ自国の貢献が少なくても、パートナーが十分な貢献をしてくれることを期待して、他国の努力を「バックパス(back-pass)」したり、もしくは、フリーライド(ただ乗り、free-ride)したりしたくなる。この傾向は、同盟の最強メンバーが集団的努力に不釣り合いなほど貢献する傾向がある理由を説明するのに役立つ。同盟の主要メンバーが攻撃を抑止または撃退するのに十分な働きをすれば、小規模なメンバーの貢献は余計なものになるかもしれない。結局のところ、同盟は彼らの努力を倍増させたとしても、それほど強くはならないのである。それゆえ、強力なアクターが自らの利己的な利益のために十分なことをしてくれると確信し、力の弱いアクターたちはより少ない貢献をする誘惑に駆られるのである。しかし、もし十分な数のメンバーが、より大きな負担を他のメンバーに負わせる誘惑に屈したり、他の利己的な利害が協力の必要性に打ち勝ったりすれば、同盟は安全確保に必要な統合能力(combined capabilities)と協調戦略(coordinated strategy)を生み出さないかもしれない。

これら2つのよく知られた理論を合わせると、NATOが今日直面しているディレンマが浮き彫りになる。良いニューズとしては、NATOのヨーロッパ加盟諸国はロシアよりもはるかに潜在的な力を持っているということだ。ヨーロッパの人口はロシアの3倍から4倍、経済規模はロシアの10倍にも達する。いくつかのヨーロッパ諸国は、優れた兵器を生産できる高度な軍事産業を持っており、冷戦後期には強大な地上軍と空軍を保有していた国もある(ドイツなど)。さらに驚くべきことに、NATOのヨーロッパ加盟諸国だけで、毎年少なくともロシアの3倍以上の防衛費を費やしている。人件費の高騰や努力の重複、その他の非効率を考慮したとしても、潜在的な能力が適切に動員され、指揮されることを前提にすれば、ヨーロッパにはロシアの攻撃を抑止したり、撃退したりするのに十分すぎるほどの潜在的戦力がある。ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアの軍事力と国防生産能力は大幅に向上しているが、数が少なく、武装も不十分なウクライナ軍を打ち負かすのは難しい。バフムートやアブディフカを占領するのに数カ月かかる軍隊が、他の誰に対しても電撃戦(blitzkrieg)を成功させることはできない。

悪いニューズは、有能なヨーロッパ防衛力を構築するための持続的な取り組みが大きな障害に直面していることだ。第一に、NATOのヨーロッパ加盟諸国は主要な安全保障問題のレヴェル、あるいはその正体についてさえ意見が一致していない。バルト三国やポーランドにとっては、ロシアが最大の危険をもたらしていることは明らかである。しかし、スペインやイタリアにとっては、ロシアはせいぜいが遠い問題であり、不法移民の方が大きな課題である。アナリストの一部とは異なり、私はヨーロッパがこうした状況にあっても、ロシアに対して効果的な防衛を行うことを邪魔するとは考えない。しかし、負担の分担や軍事計画の問題をより複雑にしている。ポルトガルにエストニアを支援するよう働きかけるには、ちょっとした説得が必要だろう。

第二に、ヨーロッパに更なる努力を求める人々は、微妙なディレンマに直面している。深刻な問題があることを人々に納得してもらわなければならないが、同時に、その問題を解決するのにそれほど費用がかかったり困難であったりする訳ではないと納得してもらわなければならない。ロシアの軍事力を誇張し、ウラジーミル・プーティンを無限の野望を抱く狂人として描くことで、大規模な防衛力増強への支持を集めようとすれば、ヨーロッパが直面している課題は克服不可能に見え、アメリカに頼ろうという誘惑が強まるかもしれない。しかし、ロシアの力と野望がより控えめであり、それゆえ管理可能であると信じられれば、今大きな犠牲を払い、長期にわたって真剣な努力を維持するようにヨーロッパ各国の国民を説得することは難しくなる。より大きな自主性を機能させるためには、ヨーロッパの人々にロシアが危険であることを信じさせねばならないが、同時に、たとえアメリカの力が大幅に弱まったとしても、自分たちならこの問題に対処できると信じさせねばならない。このため、アメリカの全面的な関与を維持するために、ヨーロッパ諸国が自国を防衛することは単に不可能だと主張することは、ヨーロッパの真剣な取り組みを抑制し、アメリカがいずれにせよ関与を縮小することになれば、逆効果になりかねない。

第三の障害は、核兵器の曖昧な役割である。核兵器が大規模な侵略行為を抑止すると確信している場合、英仏の核戦力とアメリカの「核の傘(nuclear umbrella)」が、どんな状況下でも、ロシアの攻撃からNATOを守ってくれると考えるだろう(ウクライナはNATO加盟国ではないことを覚えておく価値がある)。そうであれば、大規模で高価な通常戦力を構築する必要はない。しかし、拡大核抑止の信頼性に確信が持てない場合や、低レヴェルの挑戦に対して核兵器使用の威嚇をする必要がない場合は、能力のある通常戦力が提供するような柔軟性を求めることになる。この問題は、1960年代の「柔軟な対応(Flexible Response)」をめぐる同盟内論争や1980年代の「ユーロミサイル(Euromissiles)」論争が示すように、冷戦期を通じてNATO内で争点となった。核兵器が存在し続けることで、通常戦力を停滞させる誘惑に駆られる国が出てくる可能性があるという点で、この問題は今日でも関連している。

第四に、ヨーロッパ諸国は武器の標準化や共通戦略や防衛計画の策定に協力する代わりに、依然として自国の防衛産業や軍隊に投資することを好んでいる。戦略国際​​問題研究所の2023年の報告書によると、2014年にロシアがクリミアを占領して以来、ヨーロッパ全体の国防費は急激に増加しているものの、共同調達努力(cooperative procurement efforts)に充てられる割合は、2021年まで着実に減少し、EUによって設定された、以前の目標である35%に近づくことはなかった。 EU諸国は、支出が少ないにもかかわらず、約178の異なる兵器システムを配備していると報告されており、アメリカよりも148も多い。単独で行動しようとする頑固な傾向は、ヨーロッパが潜在的な挑戦者に対して享受している膨大な潜在的資源の優位性を無駄にしており、もはや余裕のない贅沢である可能性がある。

最後の障害は、少なくとも現時点では、ヨーロッパの自立を奨励することに対するアメリカの長年の曖昧さである。アメリカは一般に、ヨーロッパのパートナー諸国が軍事的に強いが強力すぎないこと、政治的に団結しているが団結しすぎていないことを望んでいる。それは何故か? それは、NATOは、有能ではあるが従属的なパートナーの連合に対するアメリカの影響力を最大化したからである。アメリカ政府は、NATOの残りの国々が有用であるだけでなく、アメリカの要望に完全に従うのに十分な強さを持たせたいと考えており、これらの国々がより強くなり、一つの声で発言し始めれば、現状のNATOを維持するのは難しくなるだろう。ヨーロッパの依存と従順さを維持したいという願望により、歴代のアメリカ政権は、ヨーロッパの真の戦略的自治につながる可能性のあるあらゆる措置に反対するようになった。

しかし、そうした時代は終わりを告げようとしている。アメリカが「全てを持つことはできない」こと、そして集団的防衛(collective defense)の重荷をヨーロッパのパートナー諸国にもっと転嫁する必要があることを認識するのに、トランプ的である必要はない。しかし、過去の例を見る限り、ヨーロッパの指導者たちが、どんな状況下でもアメリカが「全面的(all-in)」に関与してくれると信じているのであれば、ヨーロッパがその責任を負うことはないだろう。1950年代初頭にヨーロッパ経済統合が推進された背景には、アメリカがやがて大陸から軍を撤退させ、ワルシャワ条約機構に対抗する能力が、大規模で統一されたヨーロッパ経済秩序の構築によって強化されるというヨーロッパ全体の懸念があったことは、思い出す価値がある。ヨーロッパ統合の背後にある安全保障上の衝動は、アメリカの残留が明らかになった時点で後退したが、アメリカの関与に対する疑念の高まりは、ヨーロッパの優れた経済力と潜在的な軍事力を、純粋に自己の利益のために、より効果的に動員する十分な動機を与えるだろう。

来年のホワイトハウスが誰になるかにかかわらず、アメリカ政府関係者たちはこの動きを後押しすべきである。以前にも主張したように、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパに戻すプロセスは、大西洋間の新たな役割分担の一環として、徐々に行うべきである。アメリカへの依存度が下がれば、ヨーロッパはより精力的にバランスを取るようになり、この方向にゆっくりと、しかし着実に進むことで、同盟諸国は必然的に生じる集団行動のディレンマを克服する時間を得ることができる。ヨーロッパ諸国はロシアよりもかなり多くの軍事的潜在力を持っているため、これを完璧に行う必要はなく、かなり安全な状態にすることができる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。週刊ダイヤモンド2024年3月2号にて、佐藤優先生にご紹介いただきました。ウクライナ戦争の分析に関して「説得力がある」という評価をいただきました。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ウクライナ戦争は開戦から2年半が過ぎ、現在は膠着状態、ロシア側が有利な展開となっている。ウクライナ側は2023年に春季大攻勢(Spring Offensive)を実施してロシアに打撃を与えると内外に宣伝し、ロシア側がそれを受けて守りを固めているところに、攻撃を仕掛けて、結果的に失敗に終わった。それ以降はウクライナには厳しい状況が続いている。アメリカ連邦議会、共和党が過半数を握っている連邦下院で、ウクライナ支援のための予算が否決されるなど、共和党とアメリカ国民の過半数はウクライナ支援に反対である。もう止めたい、十分にしてやったではないか、もう疲れた、というのがアメリカ国民の本音だ。
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 それでは、ウクライナを今すぐNATO(北大西洋条約機構)に入れて、ヨーロッパ全体で守ってやるべきだ、もしくは停戦してから加盟させて、今後のロシアの侵攻に備えるべきだという意見もある。しかし、こうした意見が無視しているのは、2014年のロシアによるクリミア半島併合の前後に、NATOはウクライナを加盟させなかったということだ。ウクライナを本気で守ってやろう、ロシアの侵攻に徹底的に対抗してやろうということならば、欧米諸国が実質的にどんどん軍事物資や要員、資金を提供して、ウクライナの軍事強化を行って、「実質的に」加盟させているような状況を作りながら、正式には「ウチとは関係ありませんから」という極めて無責任は態度を取るはずがない。NATOは分かっている、ウクライナなんぞを正式加盟させたら、自分たちがロシアからの攻撃を受ける、最悪の場合には核兵器による攻撃があるということを。

 また、ロシアの今回のウクライナ侵攻は、ウクライナのNATO加盟阻止という目的もあるので、ウクライナがNATOに加盟すれば、その目的が達成されないということになるので、戦争が長引く。ロシアとしては、ウクライナがEUに加盟することは認めているので(EUが赤字財政と腐敗と人権侵害のウクライナの世話をしてみろという態度)、中立化するということであれば停戦も可能である。こうしたことは2022年の段階で既に話されているもので、今更目新しく述べるようなことでもない。しかし、こうしたことは、再確認するためにも改めて書かねばならない。それが戦争を早期に集結させ、戦争に関わって苦しんでいる人たちを救うことにつながると私は確信している。

(貼り付けはじめ)

NATOは、ウクライナのために、ウクライナを受け入れるべきではない(NATO Should Not Accept Ukraine—for Ukraine’s Sake

-西側同盟の拡大がキエフをさらに不利にする5つの主要な理由について語る。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/05/nato-ukraine-membership-russia-war-west/

戦局がウクライナに不利に傾き、アメリカ連邦議会が新たな支援を承認するかどうかが疑問視される中で、元NATO司令官アンダース・フォッホ・ラスムッセンや元NATO米常任代表イヴォ・ダールダーといった影響力のある専門家たちは、ウクライナを早急にNATOに加盟させるべきだという以前の呼びかけを繰り返している。この措置は、ロシアにその軍事作戦ではウクライナを同盟から締め出すことはできないと納得させる方法であると同時に、最終的に戦争が終結したときにウクライナに十分な安全保障を提供する必要があるとして売り込まれている。

合理的な人々は、この勧告の賢明さについて同意できないし、また同意しないだろう。なぜなら、対立する立場は不確実な将来についての予測に基づいているからだ。事実上、私たちは皆、ウクライナを持ち込むことでどのような影響があるかについて賭けをしているのだ。私自身の立場を明確にしておくと、もし私がアメリカ連邦議員だったら、躊躇することなく、追加支援策に投票するだろう。なぜなら、私はウクライナが依然として支配する領土を固守することを望んでおり、ロシアにはその努力を理解させたいからである。ロシアが更に多くのウクライナの領土を占領することはコストがかかり、困難になるだろう。今日の追加援助は、おそらく11月の米大統領選挙後に本格的な議論が始まる際に、キエフの交渉上の立場を改善するだろう。そうは言っても、今ウクライナをNATOに加盟させるのは悪い考えであり、戦争が長引き、時間の経過とともにキエフはより悪い立場に置かれることになる。

まず、北大西洋条約(North Atlantic Treaty)が、一定の基準を満たせばどの国にも加盟する権利を与えている訳ではないことを思い出して欲しい。第10条では、「締約国は、全会一致の合意により、この条約の原則を促進し、かつ、北大西洋地域の安全保障に貢献する立場にある他のヨーロッパ諸国に対し、この条約に加盟するよう要請することができる」と述べているだけである。NATOの現在の「門戸開放(open door)」政策は、より最近のことである。NATOの加盟基準を満たせば、加盟を希望するいかなる国も加盟できるという正式な約束と見なされることもある。事実上、門戸開放政策はNATOから加盟希望国へと微妙に主体を移すものであり、加盟希望国に対して「門戸は開かれており、私たちの基準を満たせば自由に加入してよい」と告げるものだ。既存の加盟諸国が、新加盟国を受け入れることが「条約の原則を促進し、北大西洋地域の安全保障に貢献する」と集団的に合意するまで、ドアは閉ざされているのだ。その時点で加盟諸国はドアを開け、招待状を出すことを決定できる。当初の条約が同盟の拡大に積極的であるという前提を設けていない以上、この違いは重要である。スウェーデンのNATO加盟を数年間遅らせようとしたハンガリーの最近のキャンペーンは、このプロセスが実際にどのように機能しているかを思い起こさせる。スウェーデンには、他の加盟国全てが同意するまで加盟する「権利(right)」はないのだ。

ウクライナに目を向けると、今(あるいは近い将来)にウクライナをNATOに加盟させるのは賢明ではないという私の信念は、いくつかの前提に基づいている。1つは、ウクライナが昨年の挫折を経て、より多くの兵器を入手し、軍隊を再編成する時間がない場合、戦場で状況を逆転させ、失われた領土を再征服することはできないということだ。深刻な(おそらくは回復不可能な)人的資源不足に悩まされており、無人偵察機、大砲、ロシアの広大な要塞の組み合わせにより、キエフが領土の面で大規模に進出することは困難あるいは不可能になるだろう。西側諸国というウクライナ応援団は昨春、その後の反撃について楽観的な予想を示したのは間違いだったが、彼らはウクライナが形勢を変える方法はまだたくさんあると示唆して、この間違いを繰り返している。そうでなければ良いのだが、私たちは、世界がどうなりたいかではなく、世界の現状に基づいて政策を選択する必要がある。

私の第二の前提は、ロシアの指導者たちは欧米諸国よりもウクライナの運命を気にかけているということだ。もちろん、ウクライナ人以上に気にしている訳ではないが、彼らにとっては、ほとんどのNATO諸国の指導者や国民よりも重大な関心事なのだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領とその側近たちは、ウクライナで戦って死ぬために何千人もの兵士を送ることを厭うことはない。先週、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が不意にNATO軍派遣の可能性を提起した際、彼は即座にドイツのオラフ・ショルツ首相とNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長に叱責された。これは、NATOがウクライナの運命に関心がないということではなく、ロシアがもっと関心を持っているということだ。

第三に、プーティンが2022年2月に違法な侵攻を開始した主な理由の1つは、ウクライナが西側諸国に接近し、最終的に同盟に加盟するのを阻止するためだったと私は推測している。CIAとウクライナの諜報機関との協力関係が着実に深まっていることが最近明らかになったこと、2014年以降、欧米諸国がウクライナの防衛力強化に努めてきたこと、そしてNATOがウクライナを同盟に参加させるという約束を何度も繰り返していることが、モスクワの懸念を煽ったことは間違いない。プーティンの行動には、ウクライナ人とロシア人の文化的一体性に関するある種の信念も反映されているかもしれないが、ウクライナがNATOに加盟するという見通しがプーティンに行動を取るように駆り立てたという証拠を否定することはできない。実際、ストルテンベルグNATO事務総長はこのことを何度も公然と認めている。プーティンはNATOの意図を読み違え、彼らがもたらす脅威を誇張したかもしれないが、外国の危険を誇張した世界の指導者は彼だけではない。

これら3つの前提を踏まえて、ウクライナがNATOに加盟すべきでない理由の主要な5つは以下の通りとなる。

(1)ウクライナは加盟基準を満たしていない。ウクライナの民主政治体制はまだ脆弱である。汚職はいまだに蔓延しており、選挙は戦争が始まって以来実施されておらず、ウクライナ社会には民主政体規範への関与について疑問視される有力者たちがまだ存在する。エコノミスト・デモクラシー・インデックスは昨年、こうした理由も含めて、ウクライナを「ハイブリッド政治体制(hybrid regime)」と評価した。加えて、ウクライナは標準的なNATO加盟行動計画の条件をまだ満たしていない。この事実を認識したNATOは、昨年夏の年次首脳会議でこの基準を免除することに合意し、事実上、ウクライナの加盟プロセスを「2段階プロセスから1段階プロセス」に変更した。同盟加盟の基準を水増し(緩和)することで、この決定は将来的に悪しき前例となる可能性がある。

(2)NATOが第5条の約束を守るかどうかは定かではない。以前の記事でも指摘したように、北大西洋条約第5条は、他の加盟国が攻撃された場合に、加盟国が参戦を約束する仕掛けになっていない。アメリカの主張により、第5条は加盟国に対し、ある加盟国への攻撃を全ての加盟国への攻撃とみなし、「必要と考える行動(such actions as it deems necessary)」を行うことを義務づけているだけである。それにもかかわらず、この条項は、攻撃を受けている加盟国を防衛することを約束するものと広く解釈されており、重大な侵略があった場合にどの加盟国も助けに来なければ、同盟全体が疑問視されることになる。したがって、新たな加盟国を受け入れる前に、同盟の他の国々は、自国が攻撃された場合に自国の軍隊を危険にさらす意思があるかどうか、じっくりと考えるべきである。

これまでの私の指摘を繰り返す。これまでのところ、アメリカも他のNATO諸国も、ウクライナのために軍隊を派遣する意志を示していない。武器と資金は支援している。もしその意志があるのなら、既に軍隊を派遣しているはずだ。今やる気がないのに、5年後、10年後、20年後にウクライナのために戦うと暗黙のうちに約束することに意味があるのだろうか?

更に言えば、アメリカ連邦上院がウクライナの加盟を批准するかどうかも決して明らかではない。条約を批准するには3分の2以上の賛成が必要で、十分な票を集めるのは難しいかもしれない。確かに、今回の支援策には70人の連邦上院議員が賛成票を投じたが、その法案にはイスラエルへの追加支援も含まれており、それが票を動かした可能性もある。より重要なのは、共和党の事実上の指導者であるドナルド・トランプがNATOにウクライナを参加させることに反対していることで、彼の反対によって十分な数の共和党議員が反対票を投じ、批准に手が届かなくなる可能性がある。

(3)NATO加盟は魔法の盾(magic shield)ではない ウクライナを早急に加盟させる主な根拠は、そうすることでロシアが後日に戦争を再開するのを阻止できるというものだ。キエフが追加の保護を望む理由は簡単に理解できるが、この議論は、NATOに加盟することが、ほぼ全ての状況下でロシアの軍事行動を確実に阻止する魔法の盾であると仮定している。これと同じ仮定が、NATO をバルト三国のような脆弱な地域に拡大するという以前の決定を引き起こした。NATO拡大の支持者らは、延長される安全保証は決して現金化されない小切手であると単純に想定していた。

NATO加盟は多くの状況で攻撃を抑止するかもしれないが、魔法の盾ではない。実際、最近になって、今後数年のうちにロシアがNATOに挑戦してくる可能性について憂慮すべき警告を発する声が高まっている。もしプーティンがウクライナでの戦争を終結させ、ボロボロになった軍隊を再建するために小休止を取り、フィンランドやエストニア、あるいは他のNATO加盟国に新たな攻撃を仕掛けると本当に信じているのなら、魔法の盾がそれほど信頼できるものだとは思っていないはずだ。となると、NATOの現在の加盟諸国は、自国の死活的利益とは何か、どの国を守るために本当に戦う気があるのか、じっくり考えなければならないということだ。そこで2番目の理由に戻る。

(4)今の時点でのNATO加盟は戦争を長引かせるだけだ。キエフのNATO加盟を阻止するためにモスクワが攻撃したというのが私の見立て通りだとすれば、ウクライナを今加盟させることは、ウクライナが現在負けている戦争を長引かせるだけだ。そのためにプーティンが「特別軍事作戦(special military operation」」を開始したのだとすれば、自軍の戦力が中々に健闘し、ウクライナのNATO加盟がまだテーブルの上にあるのであれば、プーティンが戦争を終わらせることはないだろう。その結果、ウクライナは更に大きなダメージを受けることになり、自国の長期的な将来が危険にさらされることも考えられる。ウクライナは開戦前からヨーロッパで最も急速に人口が減少している国の1つであり、戦闘の影響(難民の逃亡、少子化[declining fertility]、戦場での死亡など)はこの問題をさらに悪化させるだろう。

(5)中立(neutrality)はそれほど悪いことではないかもしれない。ロシアとウクライナの関係の歴史(過去10年間の出来事も含めて)を考えれば、多くのウクライナ人が中立の立場を受け入れたくないのは理解できる。しかし、ロシアに近接する国家にとって、中立は必ずしも悪いことばかりではない。フィンランドは1939年から1940年にかけてソ連と戦い、戦費がかさみ、最終的には不成功に終わり、戦前の領土の約9%を割譲しなければならなかった。しかし、今日のウクライナのように、フィンランドは英雄的に戦い、はるかに大きなソ連に大きな代償を払わせた。その結果、当時のソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、第二次世界大戦後にフィンランドをソ連に編入したり、ワルシャワ条約機構に加盟させたりすることはなかった。その代わり、フィンランドは中立国として民主政治体制を維持し、ソ連と西側の両方と貿易を行う市場経済を持った。

この結果は「フィンランド化(Finlandization)」と揶揄されることもあったが、かなり成功した方式であることが証明された。もしフィンランドがこの時期にNATOに加盟しようとしていたら、ほぼ間違いなく大きな危機、あるいは予防戦争(preemptive war)を引き起こしただろう。この2つの状況は完全に類似している訳ではないが(特に、ロシア人とウクライナ人の文化的一体性[cultural unity]についてのプーティンの見解を考えると)、形式的な中立が、ウクライナが強固な民主政体を確立し、西側諸国と広範な経済的結びつきを持つことを妨げるものではないことを示唆している。

これらの理由から、ウクライナのNATO加盟を急ぐのは得策ではない。その代わりに、西側諸国のウクライナ支持者たちは、戦後の休戦協定や和平協定の文脈においてウクライナを安心させることができる別の安全保障体制を創造的に考える必要がある。キエフは、モスクワが戦争を再開させないように安全確保する必要がある。モスクワを刺激して戦争を再開させない方法で、十分な保護を提供する方法を見つけ出すのは容易ではない。戦争を長引かせ、長年苦しんできたウクライナをこれまで以上に不利な状況に追いやる可能性が高い。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント: @stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 下に紹介しているシェンゲン協定(Schengen Agreement)とは、ヨーロッパ諸国間で国境での審査や検査なしで国境通過を許可する協定だ。加盟している国(ヨーロッパの国)の国民であれば、加盟している国々の間を自由に往来できる。日本のパスポート所有者であれば、それに近い形で往来ができる。ヨーロッパ連合(European UnionEU)の加盟諸国とほぼ重なるが、EUに加盟していなくてもシェンゲン協定に加盟している国があるし、逆にEUに加盟していながら、シェンゲン協定には加盟していない国もある。

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シェンゲン協定に関するヨーロッパの現状

 今回ご紹介している論稿では、「ヨーロッパ諸国の間での武器や装備品の軍事移動が自由にできるようにすべきだ」という内容だ。ヨーロッパはEUNATOという枠組みでまとまっている(加盟していない国もあるが)。両組織共に、大雑把に言ってしまえば、「対ソ連(現在は対ロシア)でまとまる」ということになる。ロシアが戦車部隊と先頭にして退去として押し寄せてくるというイメージがあるようだ。

 それが、2022年2月からのウクライナ戦争で現実のものとなるかもしれないとヨーロッパ諸国で懸念が高まった。また、ロシアがウクライナ戦争への参戦はロシアに対する敵対行為となり、核兵器による攻撃の可能性も排除しないということになって、ヨーロッパ諸国、特に西ヨーロッパの先進諸国は及び腰となった。ウクライナが戦闘機をはじめとする、より効果の高い、より程度の高い武器の供与を求めているのに、西側諸国は、ロシアからの核攻撃が怖いものだから、ウクライナの要請を聞き流している。ヨーロッパ諸国の考えは、「自分たちにとばっちりが来ないようにする、火の粉が降りかからないようにする」というものだ。

 ヨーロッパ諸国はまた、アメリカの力の減退、衰退を目の当たりしている。そこで、「これまではアメリカに任してきたし、本気で取り組む必要がなかった、対ロシア防衛を本気で考えねばならない」という状況に追い込まれた。ロシアはヨーロッパの東方にあり、もし戦争となれば、ロシアに隣接する、近接する国々の防衛をしなければならないが、これらの国々は小国が多く、とても自分たちだけでは守り切れない。そこで、西ヨーロッパからの武器や装備人の支援が必要となる。しかし、これが大変に難しい。
 ヨーロッパはEUとして一つのまとまりになっているが、それぞれの国の制度が個別に残っているので、道路や鉄道の規格が異なるために、武器を陸上輸送するだけも大変なことだ。軍事移動の自由がかなり効かない状態になっている。まずはそこから何とかしなければならないということになる。

 今頃になって慌てているヨーロッパ諸国、NATOはお笑い草だが、ロシアが西ヨーロッパに手を出すと本気で心配して慌てだしているのは何とも哀れだ。経済制裁を止めて、エネルギー供給を軸にした以前の関係に戻れば何も心配はいらない。そのうちにこう考えるようになるだろう、「アメリカがいるから邪魔なんじゃないか」と。ヨーロッパのウクライナ戦争疲れからアメリカへの反発が大きくなっていくかもしれない。

(貼り付けはじめ)

「軍事シェンゲン圏」時代が到来(The ‘Military Schengen’ Era Is Here

-ヨーロッパ共通の軍事的野心の第一歩は自由な移動について理解することである。

アンチャル・ヴォーラ筆

2024年3月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/04/europe-military-autonomy-nato-schengen/

2024年1月下旬、ドイツ、オランダ、ポーランドの3カ国は、3カ国の間に軍事輸送回廊(military transport corridor)を設置する協定に調印し、ヨーロッパ全域の軍事的流動性(military mobility)を向上させるという、長い間議論されてきたがほとんど追求されてこなかった目標に大いに弾みをつけた。ドイツ国防省のシェムティエ・メラー政務次官は、この回廊によって軍事移動が「真の軍事シェンゲン圏(true military Schengen)への道を歩むことになる」と述べた。ヨーロッパの政策立案者たちが、シェンゲン圏内の人と商業物資のヴィザなし移動を、ヨーロッパ全域の軍隊と軍事装備の移動に適応させるというアイデアを浮上させたのは、これが初めてではない。しかし、このアイデアは現在、明らかに勢いを増している。

軍事シェンゲン圏構想が浮上したのは、ロシアによるクリミア併合の後だった(2014年)。ロシアによるクリミア併合から10年、ウクライナへの侵攻から2年が経過した今、ヨーロッパはロシアのウラジーミル・プーティン大統領が更に西側への軍事行使に踏み切る可能性に備える必要があることを認識しつつある。ヨーロッパの軍事関係者たつは、冷戦で学んだ教訓を掘り下げている。その中には、軍の機動性に関する具体的な教訓も含まれている。

しかし、複数の専門家、外交官、軍関係者が本誌に語ったところによると、その進展は望まれているよりもはるかに遅れている。ポーランドのNATO常任代表であるトマシュ・シャトコフスキは本誌に対し、「ルールの自由化は誰もが支持している。しかし、問題は2015年以来、私たちはそれについて話し続けてきたということだ」。彼らは、ヨーロッパは冷戦時代の緊張が戻ってきた可能性があることを認めており、ヨーロッパ諸国が兵員や物資を効果的に移動させるには「長い道のり(long way to go)」があると述べた。

ヨーロッパにおける軍事ミッションに関連するあらゆるものの通過には、官僚的なハードルから決定的な遅れの原因となるインフラのギャップまで、さまざまな障害がつきまとう。バルト三国であるエストニアのヨーロッパ連合(European UnionEU)議員で、外務委員会の副委員長を務めるウルマス・パエトは、軍事的機動性を10段階の中で3段階でしかないと評価し、現在、バルト三国に物資を送るには「数週間から少なくとも1週間以上」かかると述べた。

書類仕事は煩雑で大変だ。様々な国の様々な省庁から、時には国内の様々な地域から、いくつもの承認を得る必要がある。ほとんどの道路や橋は民間用に建設されたものであり、重い軍事機材の重量に耐えられるとは考えられない。中央ヨーロッパの燃料パイプラインは東部諸国に伸びていないため、燃料供給の遅れが長期化すれば、決定的な要因となりかねない。更に言えば、旧ソ連諸国の鉄道の軌間はヨーロッパの鉄道の軌間とは大きさが異なり、戦時に数千人の兵員や装備を列車から別の列車に移すことは、さらに時間のかかる作業となる。

軍事シェンゲン圏の最初の提唱者であり、この言葉を作ったと思われる、NATO司令官を務めたベン・ホッジス中将は、少なくともここ数年、軍事移動性について議論が盛り上がっているのは良いことだと評価している。ホッジス司令官は最近のミュンヘン安全保障会議に出席し、本誌の取材に対して、「現在、様々な国の様々な政府機関の閣僚たちが軍事シェンゲン圏について話しているのを聞くようになっている」と語った。

ホッジス元司令官は、危機に際して迅速に行動する能力は、軍事抑止ドクトリンの重要な部分であると述べた。彼は更に、軍隊が動員され、迅速に移動する能力は、敵にとって目に見えるものでなければならず、そもそも攻撃することを抑止するものでなければならない、と述べた。

ホッジスは「私たちは装備や兵力だけでなく、迅速に移動し、予備部品を供給し、燃料や弾薬を保管する能力など、真の能力を持たなければならない。ロシアに私たちがそうした能力を持っていることを理解させる必要がある」と述べた。

ホッジスは、ドイツ、オランダ、ポーランドの合意は素晴らしいスタートだと称賛し、このような回廊は他にも数多く検討されていると述べた。ブルガリアのエミール・エフティモフ国防長官は、同盟諸国はギリシャのアレクサンドロウポリスからルーマニアへの回廊と、アドリア海からアルバニアと北マケドニアを通る回廊を優先すべきだと述べた。

ホッジスは続けて、「彼ら(同盟諸国)はギリシャからブルガリア、ルーマニアまでの回廊を望んでいる。これら全ての回廊の目的は、インフラの面でスムーズなルートを確保するだけでなく、税関やすべての法的なハードルを前もって整理しておくことだ」と述べた。

ドイツ、オランダ、ポーランドの回廊は多くの構想の中の最初のものであり、ボトルネックを特定して解決し、将来の回廊のモデルとなる可能性があると期待されている。匿名を条件に本誌の取材に応じたあるドイツ軍幹部は、この回廊ではあらゆる問題を調査すると述べた。この軍幹部は、ドイツでは各州、つまり連邦州が領土内を通過する軍隊や危険な装備について独自の法律を定めているため、平時においては当局が連邦手続きを円滑化することも可能になると述べた。戦争時には、回廊は「単なる通り道以上のもの(much more than a road)」になるだろうと彼は付け加えた。

上述の軍幹部は「危機発生時にはおそらく10万人以上の兵士が出動するだろう。移動を停止し、休憩し、スペアパーツを保管する倉庫や燃料保管センターにアクセスできる場所が必要となるだろう。そのようなシナリオには、戦争難民の世話をするための取り決めも必要になるだろう」と述べた。

これは、3カ国の間でさえ難しいことだ。20数カ国の加盟国間の協力、特に武装した兵士や危険な機械が関係する協力には、更に数え切れないほどの規制が課されることになる。前述のウルマス・パエトは、「防衛は、『国家の権限(a national competence)』であり、各国は共有したいものを共有する」と述べた。軍事的な荷重分類があり、重戦車の重量に耐えられる橋がどこにどれだけあるかといったような重要なインフラの詳細については、各国はなかなか共有しない。

ヨーロッパ外交評議会(European Council of Foreign Relations)というシンクタンクの防衛専門家であるラファエル・ロスは、インフラの必要性に関するカタログは存在しないと述べた。ロスは「どこにどのようなインフラが必要なのか、明確になっていない」と本誌に語った。ヨーロッパ政策分析センター(Center for European Policy AnalysisCEPA)が2021年に発表した報告書によると、欧州では高速道路の90%、国道の75%、橋の40%が、軍事的に分類される最大積載量50トンの車両を運ぶことができる。ウクライナの戦場でロシアを相手にステルス性を証明したレオパルド戦車やエイブラム戦車は、重量がかなりある。

ホッジスは次のように語っている。「レオパルド戦車の重量は約75トンで、エイブラムス戦車はもう少し重い。これらの戦車のほとんどは、重装備輸送車(heavy equipment transportersHETs)の荷台に載せられて輸送され、HET1台あたりの重量は約15トンから20トンだ」。CEPAは、トラック、トレーラー、重戦車の組み合わせは120トンをはるかに超える可能性があると指摘し、軍事的移動に適したインフラはほぼ存在しないことになる。

EUは、軍民両用インフラに資金を提供する必要性を認めており、既に95件のプロジェクトへの資金提供を承認している。ポーランド大使とホッジスはともに、EUのインフラ資金調達手段であるコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(Connecting Europe FacilityCEF)に割り当てられた資金が65億ユーロから17億ユーロに削減されたことを懸念していると述べた。

CEFを通じて資金提供される国境を越えた鉄道プロジェクト「レイル・バルティカ(Rail Baltica)」は、ヨーロッパの鉄道網をリトアニア、エストニア、ラトビアのバルト三国まで拡大する計画で、2030年までに機能する予定だ。しかし、資金面での懸念が現地のニューズで報じられている。更に、フランス、ベルギー、そしてドイツでさえも、ヨーロッパの集団的自衛権にGDPの大きな部分を費やすことが多い東ヨーロッパ諸国への中央ヨーロッパパイプラインの拡張に費用をかけることに強い抵抗がある。

EUの防衛協力を調整するヨーロッパ防衛庁は、陸空の移動に関する官僚的プロセスの標準化と事務手続きを簡素化するための共通フォームの開発に取り組んでいる。しかし、これは25の加盟国によって合意されているものの、これらの「技術的取り決め(technical arrangements)」を国内プロセスにまだ組み込んでいない加盟国は消極的である。

EUの27カ国、NATOの30カ国以上の全加盟国を合意に導くのは大変に困難だが、リトアニアのヴィリニュスで開かれた前回のNATO首脳会議以来、ホッジスには希望を抱くことができる理由がある。昨年7月、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は3つの地域防衛計画(regional defense plans)を発表した。ストルテンベルグ事務総長は、北は大西洋とヨーロッパ北極圏、中央はバルト海地域と中央ヨーロッパ、南は地中海と黒海における抑止力を計画・強化すると述べた。これらの計画によって、NATO加盟国は正確な防衛要件を評価し、それを各同盟国に配分し、その過程で具体的な後方支援の必要性を理解することができる。ホッジスは、これが「ゲームチェンジャー(game changer)」となることを期待している。

※アンチャル・ヴォーラ:ブリュッセルを拠点とする『フォーリン・ポリシー』誌コラムニストでヨーロッパ、中東、南アジアについて記事を執筆中。ロンドンの『タイムズ』紙中東特派員を務め、アルジャジーラ・イングリッシュとドイツ国営放送ドイチェ・ヴェレのテレビ特派員を務めた。以前にはベイルートとデリーに駐在し、20カ国以上の国から紛争と政治を報道した。ツイッターアカウント:@anchalvohra

(貼り付け終わり)

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。ウクライナ戦争についても詳しく分析し、『週刊ダイヤモンド』誌2024年3月2日号で、佐藤優(さとうまさる)先生に「説得力がある」という言葉と共に、ご紹介いただいております。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ウクライナ戦争についてはあらゆる角度からの多種多様な論稿や記事が発表されている。今回ご紹介する論稿は、ロシア内戦介入戦争(シベリア出兵)についての著作を基にして、ウクライナ戦争との比較を行っている。日本ではシベリア出兵(Siberian Intervention)で知られるロシア内戦介入戦争(Allied intervention in the Russian Civil War)は、1917年にロシア革命(10月革命)で成立したボリシェヴィキと、ロシア帝国存続を目指す反ボリシェヴィキである白系ロシアによるロシア内戦に第一次世界大戦の戦勝諸国が介入した戦争を指す。日本もアメリカなどと共に、シベリア地方に出兵し、一部を占領した。ロシア内戦は白系ロシアの敗北、ボリシェヴィキの勝利で終わった。
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 今回のウクライナ戦争では、ウクライナに侵攻したロシアに対して、西側諸国がウクライナに資金や軍事装備を支援している。ウクライナ戦争については、ロシア側をボリシェヴィキ、ウクライナ側を白系ロシアに見立てている。この類推(アナロジー、analogy)がそのまま正しいと、ウクライナが戦争に負けることになる。

 この記事の著者セオドア・バンゼルは、ウクライナを勝利に導くためには、「西側諸国が、明確な長期戦略を策定し、緊密な連携を継続し、自国民に訴えかけることで国内の支持を強化することを続けることだ」としている。残念なことだが、バンゼルの挙げた条件を西側諸国が実行することはほぼ不可能だ。

まず、長期戦略を策定することが既にできていない。戦争の落としどころ、最終目標を決めてそれに向かって進むということができていない。場当たり的に、その場しのぎでウクライナに支援を与えているが、ざるに水を入れているようなもので、その効果は薄れ続けている。西側諸国が緊密な連携をしているということもない。取りあえず、金と適当な武器をウクライナに与えているだけ、誰(どの国)が音頭を取っているかもよく分からない。ヨーロッパの諸大国はアメリカ任せ、自分のところにとばっちり(ロシアからの攻撃、最悪のケースは核攻撃)がないようにしているだけのことだ。西側諸国の国民の間に「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が蔓延し、アメリカ国民の過半数が「ウクライナにはもう十分してやった」と考えているほどだ。これでは支援継続は難しい。

 こうしてみると、結局、ロシア内戦介入戦争と同様に、ウクライナ戦争は西側諸国の敗北ということになる。いまさら言っても詮無きことではあるが、長期戦になる前に、ウクライナは良い条件で停戦できるときに停船をすべきだった。私は2022年3月の時点でこのことを述べている。こうして見ると、人間は賢くない。謙虚に歴史から学ぶという姿勢が重要である。

(貼り付けはじめ)

西側諸国による最後のロシア侵攻からの大きな教訓(The Big Lesson From the West’s Last Invasion of Russia

-ロシア内戦への連合国の介入が今日のウクライナについて教えてくれること。

セオドア・バンゼル筆

2024年33

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/03/the-big-lesson-from-the-wests-last-invasion-of-russia/?tpcc=recirc_latest062921

ほぼ全員がミシガン州出身だったとは言え、アメリカ軍兵士にとってロシア北部は厳しい寒さに感じられたに違いない。1918年9月4日、4800人のアメリカ軍が北極圏からわずか140マイルしか離れていないロシアのアルハンゲリスクに上陸した。その3週間後、彼らはイギリス軍やフランス軍とともに、そびえ立つ松林や亜寒帯の湿地帯の中で赤軍(Red Army)との戦いに突入した。最終的に、2年間の戦闘で244人のアメリカ兵が死亡した。アメリカ軍将兵の日記には、最初の遭遇戦の悲惨な様子が描かれている。

「私たちは機関銃の巣に突っ込んで早々に退却した。[ボリシェヴィキはまだ激しく砲撃してくる。私の分隊のペリーとアダムソンは負傷し、銃弾は私の両肩を撃ち抜いた。ひどく疲れ、腹が減った。他の隊員もそうだ。この攻撃で4人が死亡、10人が負傷した]

これらの不運な魂は、ロシア内戦への連合国による介入という、広大かつ不運な事態の一端に過ぎなかった。1918年から1920年にかけて、アメリカ、イギリス、フランス、日本は、バルト海からロシア北部、シベリア、クリミアに数千の軍隊を送り込み、反共産主義の白系ロシアに数百万ドルの援助と軍事物資を送った。これは20世紀における外交政策の失敗の中でも最も複雑で忘れられがちなものの1つであり、アンナ・リードの新著『厄介な小さな戦争:ロシア内戦への西側の介入(A Nasty Little War: The Western Intervention Into the Russian Civil War)』では、鮮明にかつ詳細に語られている。

リードが参戦した将兵たちの個人的な日記と並行して見事に織り成す紛争の詳細は、しばしば別世界のように感じられる。日本軍はロシア極東のウラジオストクを占領した。当初は連合国の中で最もタカ派介入支持者だった、気まぐれなフランスはウクライナ南部の占領を主導し、ムイコラーイウ、ヘルソン、セヴァストポリ、オデッサといった読者にはおなじみの都市をめぐって赤軍と争った。 6万人の軍隊を含む介入に最も多くの資金を投入したイギリスは、迫りくるトルコ軍からバクーを守り、バルト三国でボリシェヴィキに対して海軍の破壊活動を行い、最終的には黒海の港から白人を避難させ、ロシアの周縁部全域を徘徊していた。赤軍の猛攻撃の前に崩壊した。

リードの優れた著書に漂う不穏な疑問は、西側諸国が歴史を繰り返す運命にあるのかということである。介入(intervention)は失敗に終わり、目を凝らして見ると、今日のウクライナへの介入も、物資、人的資源、政治的意志が無限に湧き出るように見える広大で断固としたロシアを前にすると、同様に無駄に見えるかもしれない。アメリカ連邦議会共和党の極右派、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相、ドナルド・トランプ元米大統領たちはそう信じ込むだろう。ロシア介入中にロシア北部の連合国軍のイギリス軍司令官エドマンド・アイアンサイドが語った絶望感は、「ロシアはあまりにも巨大なので、息が詰まるような気分になる」というものだった。

しかし、歴史的な反響が強いにもかかわらず、この2つの介入の違いは、その類似点よりも示唆に富んでいる。綿密な研究は、おそらく更に大きな問いを投げかけている。対外介入を成功させる条件とは何か? 確かに連合国は失敗を犯したが、公平を期すなら、失敗の大半は自分たちの手に負えないことが原因だった。最も制限的な要因は、白系ロシアの同盟者たちが無能かつ有害だったことだ。白系ロシアは反ボリシェヴィキの社会主義者と無能な元ツァーリ将校からなるバラバラのグループで、根っからの大ロシア独裁者(Great Russian autocrats)だった。白系ロシアはロシア国民の支持を得られず、また決定的なことに、ウクライナ人からバルト人に至るまで、少数民族の宝庫である帝室主義(Tsarist)ロシアをロシアの庇護下に置こうとしていた。

今日のウクライナの置かれた状況ははるかに有利だ。アメリカとヨーロッパ諸国は、目もくらむような道徳的明快さとの闘いにおいて、ヴォロディミール・ゼレンスキー政権のウクライナにおいて統一された断固たる支持者たちを擁している。ロシア経済は戦時中の状況にあるかもしれないが、全体として見ると西側諸国ははるかに多くの資源を手元に持っている。そして、この任務、つまりやる気に満ちたウクライナを敵対的な侵略から守るということは、世界最大の国の政府を打倒するという試みに比べるとはるかに野心的ではない。実際、この2つの介入を冷静に比較すれば、当時の西側諸国の首都のように今は衰えつつある自国の政治的意志が邪魔にならない限り、西側はウクライナを最後までやり遂げるという決意を強めるはずだ。

対外介入に欠かせないのは、明確で達成可能な目的、信頼できる現地の同盟者たち、攻撃可能な敵国、物質的手段、そして最後までやり遂げる政治的意志である。連合軍のロシアへの介入は、ほとんどすべての面で致命的に欠けていた。

リードの物語で最も印象的なのは、連合国軍がロシアで一体何をするつもりだったのかがしばしば不透明なことだろう。確かなことは、全ての西側諸国政府がボリシェヴィズムを嫌悪し、その膨張主義的で感染力のある可能性を恐れていたということだ。しかし、それ以上の戦略や目的はほとんど共有されていなかった。実際、西側諸国の軍隊は当初、ドイツ軍の手に渡ることを恐れたロシア北部と東部の鉄道と連合軍の軍事倉庫を警備するために派遣された。しかし、1918年11月にドイツが降伏した後、状況は少し複雑になった。ジョージ・F・ケナンがその名著『介入の決断(The Decision to Intervene)』の中で述べているように、「アメリカ軍がロシアに到着して間もない頃、ワシントンが考えていたアメリカ軍がロシアに駐留するほとんど全ての理由が、歴史によって一挙に無効にされた」のである。

現地にいた熱心なイギリス軍将校たちは、ウィンストン・チャーチル陸軍長官のような国内のタカ派閣僚に後押しされ、気まぐれなロシアの冒険を擁護して自らの政治資金をほとんど使い果たしてしまったが、すぐに積極的に介入して赤軍と戦うイニシアティヴを確保した。ウクライナ南部など他の地域では、現地の白軍を支援する任務が明確であったが、フランスは一連の挫折と反乱に見舞われたため、すぐに意気消沈し、1919年4月に帰国の途に就いた。

この曖昧さを象徴するのが、ウッドロー・ウィルソン大統領が1918年7月に個人的に書いたメモに書かれたアメリカ軍介入の指示である。ウィルソン大統領はこの決断に苦悩し、「ロシアにおいて、何をするのが正しく、実行可能かについて分かるために血の汗を流している」というのが特徴的だった。ウィルソンはメモの冒頭で、軍事介入は「ロシアの現在の悲しい混乱を治すどころか、むしろ助長する」と警告し、シベリアで活動するチェコ軍団を支援するためと、「北方でロシア人組織が組織的に集まるのを安全にする」ためにロシア北部に米軍を派遣することを約束した。これらは明確な内容とは言い難い。

アメリカ軍将校たちは、これらの指示を疑わしそうに受け止めた。シベリアで8000人の将兵たち(doughboys)を指揮していたウィリアム・グレイブス大将は、アメリカが紛争に関与していることに明らかに懐疑的であり、ウィルソンの指示を赤軍と戦うのではなく鉄道の警備のみを許可するものと解釈していた。グレイブス大将は後に回想録の中で、ワシントンが何を達成しようとしているのか全く分からなかったと書いている。これは全て、シベリアでのより介入寄りのイギリスの同僚たちとは反対の考えであった。彼らは代わりに、白軍の恐ろしく無能な「最高支配者(supreme ruler)」アレクサンドル・コルチャク提督を積極的に支援した。アレクサンドル・コルチャック提督はロシア黒海艦隊の元司令官であり、内陸のシベリアの奥地で、不得意な陸戦を展開していた。ちなみに、コルチャック提督を現ロシア大統領ウラジーミル・プーティンは熱烈に支持している。

ここから白系ロシアの話に移る。おそらく、外国介入、特にウクライナとロシア内戦の両方に対する西側介入のような野心的な介入の必須条件は、現地の同盟国である。それは、西側諸国によるリビア介入後の混乱と、バルカン半島への介入の成功との違いだ。この点で白系ロシアは惨めな失敗を喫した。

どこから始めたらいいのか分からない。コルチャックの他にも、ロシア南部で白軍を率いていた無能なアントーン・デニーキン将軍がいた。彼は、自分の監視下で白軍が行ったウクライナのユダヤ人に対するおぞましいポグロムについて、連合国政府に対して嘘を言ってごまかした。また、11の時間帯にまたがるロシアの全周囲を網羅する、ありえないほど広大でバラバラの戦線で活動する以上に、複雑怪奇な白軍の派閥は、基本的に軍閥(warlords)として行動し、忠誠心や協調性はほとんど存在しなかった。

白系ロシアにとって致命的だったのは、首尾一貫した、あるいは説得力のあるイデオロギーが存在しなかったことだ。アントニー・ベーバーは、彼の素晴らしいロシア内戦史の中で、白系ロシアの敗因を政治的プログラムの欠如と分裂的性質の両方にあると指摘している。「ロシアでは、社会主義革命家たちと反動的君主主義者たちのまったく相容れない同盟は、共産主義者の独裁一本やりにほとんど歯が立たなかった」。

これら全てを赤軍と比較してみる。彼らはモスクワとサンクトペテルブルクの工業の中心地を支配し、より強力な国内通信網を使って内外に活動した。このおかげでレオン・トロツキー政治局員、リードによれば、彼は「洞察力があり、決断力があり、限りなく精力的という、天才に近い戦争指導者として開花した」、白軍がロシア東部と北部から前進する中、劣勢な前線を強化するために装甲列車に飛び乗ることができた。ボリシェヴィキは、破滅的な経済政策を実施し、国内でテロの第一波を引き起こしたにもかかわらず、士気が高く、少なくともその時点では地元住民たちにある程度のアピールをする明確なイデオロギーを持っていた。

そして根本的に、彼らの意志は白系ロシアや西側諸国よりもはるかに強かった。第一次世界大戦の荒廃の後、連合国政府はボルシェビズムの蔓延を恐れたが、疲弊した国民を巻き込むことはできなかった。この点で、歴史的な反響は最も厄介である。国民の支持は当然のことながら低迷し予算は逼迫した。1919年、イギリスの『デイリー・エクスプレス』紙が、今日のアメリカ共和党のレトリックを利用して次のように述べた。「イギリスは既に世界の半分の警察官であるが、全ヨーロッパの警察官にはなれない。東ヨーロッパの凍てつくような平原は、イギリスの擲弾兵一人の骨にも値しない」。シベリアとロシア南部での白系ロシアの挫折は、棺桶に釘を打つようなものだった。当時も今もウクライナでは、介入に対する外国の政治的支持は、戦場での勢いの感覚に最も依存していた。

外交政策立案者たちの仕事は、自分たちがコントロールできるものとコントロールできないものを区別することだ。同盟諸国、地理、敵の脆弱性など、有利な条件を直観できる限り、戦略と目標、政治的意志の動員、努力を支援する資材の提供、調整など、自分たちが管理できる事柄に焦点を当て、同盟諸国とそれらを最適化することが課題ということになる。

現在、西側諸国の首都に蔓延している悲観論にもかかわらず、今日のウクライナ戦争は、ロシア内戦中に連合諸国が直面した状況とは異なり、政策立案者たちが望むことができる、より好ましい状況のいくつかを提示している。白系ロシアと異なり、ウクライナは価値ある有能な同盟国であり、意欲の高い国民を背景に領土を守るために戦っている。ウクライナの大義は正義にかなったものであり、二項対立の特質を西側諸国の国民に容易に説明できる。プーティン大統領の勝利への個人的な意志は強い一方で、ロシア社会を全面的に動員することへの躊躇とその行動を見れば、彼が国民に求めることの限界を感じていることは明らかだ。ロシアの人的資源と物資はウクライナよりも多いが、ウクライナの武装と戦闘を維持するために必要な量は完全に管理可能である。現在連邦下院の共和党極右派が停止させている、アメリカからの600億ドルの補助金は、その見返りに比べれば微々たるものである。ウクライナを擁護することで西側の価値観を擁護する。ロシアを戦略的な落とし穴にはまり込ませ、NATOの東側面の残りの部分を脅かすロシアの能力を低下させる。そして大西洋横断同盟を強化する。現在、西側諸国の首都は、1918年当時に比べてはるかに団結しており、各首都間の防衛連携も強固になっている。彼らはウクライナの終盤戦に対する共通の感覚を鋭くすることはできるが、紛争が何らかの交渉による解決で終わることは誰もが知っている――問題は誰の条件によるものか、である。

もしアメリカとその同盟諸国が、ロシア内戦への西側の介入の落とし穴を避けることができれば、つまり、明確な長期戦略を策定し、緊密な連携を継続し、自国民に訴えかけることで国内の支持を強化することができれば、プーティンに打ち勝つ可能性は十分にある。このような好条件を考えると、長期的な成功への主な、そしておそらく唯一の障害は、この仕事をやり遂げる政治的意志があるかどうかである。

※セオドア・バンゼル:ラザード社地政学顧問会議議長兼執行委員。駐モスクワ米大使館政治部門、米財務省で勤務した。

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