古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ロバート・ケーガン

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。今回取り上げるヴィクトリア・ヌーランドについても詳しく書いています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカの強硬な対ロシア政策とウクライナ政策をけん引してきた、ヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官(省内序列第3位)が退任することが、上司であるアントニー・ブリンケン米国務長官によって発表された。ロシア政府関係者は「ヌーランドの退任はアメリカの対ロシア政策失敗の象徴」と発言している。まさにその通りだ。ウクライナ戦争に向けて散々火をつけて回って、火がコントロールできなくなったら、責任ある職から逃げ出すというあまりにも無様な恰好だ。ヌーランドは職業外交官としては高位である国務次官にまで昇進した。しかし、その最後はあまりにもあっけないものとなった。

 アメリカ政治や国際関係に詳しい人ならば、ヌーランドが2010年代から、ウクライナ政治に介入し、対ロシア強硬政策を実施してきたことは詳しい。私も第3作『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)で詳しく書いてきた。ヌーランドは家族ぐるみでネオコンであり、まさにアメリカの対外介入政策を推進してきた人物である。
 ウクライナ戦争はその仕上げになるはずだった。アメリカがロシアを屈服させるために、ウクライナに誘い込んで思い切り叩く、それに加えて経済制裁も行って、ロシアをぼろぼろにするということであった。しかし、目論見はものの見事に外れた。現在、ウクライナ戦争はウクライナの劣勢であり、アメリカが主導する西側諸国の支援もなく、情勢はロシア有利になっている。ヌーランドはまずこの政策の大失敗の詰め腹を切らされた形になる。

 そして、バイデン政権としては、ウクライナ問題で消耗をして、泥沼に足を取られている状態を何とかしたい(逃げ出したい)ということもあり、アジア重視に方針を転換しようとしている。対中宥和派であったウェンディ・シャーマン国務副長官が昨年退任し、国務次官ヌーランドが代理を務めていた。彼女としては、このまま国務副長官になるというやぼうがあったはずだ。しかし、バイデン政権は、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)でインド太平洋調整官(アジア政策担当トップ)を務めていたカート・キャンベルを国務副長官に持ってきた。先月には連邦上院で人事承認も行われた。ヌーランドは地位をめぐる政治的な争いに負けたということになる。また、アジア重視ということで、ヌーランドの重要性は失われて、居場所がなくなったということになる。

 ヌーランドは7月からコロンビア大学国際公共政策大学院で教鞭を執ることも発表された。ヌーランドが国務省j報道官時代に直接仕えた、ヒラリー・クリントン元国務長官がこの大学院の付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めており、ヌーランドは客員教員を務めることになっている。この大学院の大学院長であるカリン・ヤーヒ・ミロはイスラエルで生まれ育った人物で、国際関係論の学者であるが、アメリカに留学する前はイスラエル軍で情報将校を務めていたという経歴を持っている。ネオコンは、強固なイスラエル支持派でもあるということもあり、非常に露骨な人事である。

 ヌーランドがバイデン政権からいなくなるということは、ウクライナ戦争の停戦に向けての動きが出るということだ。アメリカは実質的にウクライナを助けることが難しくなっている。ウクライナ支援を強硬に訴えてきた人物がいなくなるということは、方針転換がしやすくなるということだ。これからのアメリカとウクライナ戦争の行方は注目される。

(貼り付けはじめ)

長年の対ロシアタカ派であるヴィクトリア・ヌーランドが国務省から退任(Victoria Nuland, Veteran Russia Hawk, to Leave the State Department

-仕事熱心な外交官であり、ウクライナ支持を断固として主張してきたヌーランドは、国務省のナンバー4のポストから辞任する。

マイケル・クロウリー筆

2024年3月5日(改訂:3月7日)

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2024/03/05/us/politics/victoria-nuland-state-department.html

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2021年に連邦上院外交委員会で証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド

国務省で序列4位の高官であり、ウラジーミル・V・プーティン政権のロシアに対する強硬政策を断固として主張してきたヴィクトリア・J・ヌーランドが、30年以上の政府勤務を終えて今月退職する。

アントニー・J・ブリンケン国務長官は火曜日、自由、民主政治体制、人権、そしてアメリカによるこれらの大義の海外での推進に対するヌーランドの「激しい情熱(fierce passion)」を指摘する声明の中で、ヌーランドの国務次官職からの辞任を発表した。

ブリンケンは、ウクライナに関するヌーランドの取り組みを指摘し、それは「プーティン大統領の全面的な侵略に対抗するために不可欠(indispensable to confronting Putin’s full-scale invasion)」であると述べた。

ヌーランドは報道官など国務省の役職を数多く歴任し、ディック・チェイニー副大統領の国家安全保障問題担当副大統領次席補佐官を務めたこともある。しかし、ヌーランドは、プーティンの領土的野心と外国の政治的影響力に対して強い抵抗を組織することを長年主張し、ロシアの専門家として名を残した。

オバマ政権時代には国務省のロシア担当高官として、ウクライナ軍の対戦車ミサイル武装を主張したが失敗したが、バイデン政権ではより多く、より優れたアメリカ製兵器をウクライナに送ることを最も支持してきた。

熟練した官僚的実務家であるヌーランドは、鋭い機知と率直な態度で自分の主張を展開し、同僚から賞賛と恐怖が入り混じった反応を引き出した。ブリンケン国務長官は声明の中で、「彼女はいつも自分の考えを話す」と穏やかな表現を使った。

ヌーランドは2014年、ウクライナ政治に関する電話での通話で、ヨーロッパ連合(European UnionEU)を罵倒するような発言をしたことがきっかけとして、多くの人々に知られるようになったが、その通話は録音され、その録音が流出した。アメリカ政府当局者たちはこの流出をロシアの仕業だという確信を持っている。

バイデン政権下、ヌーランドはアメリカのウクライナ支援に懐疑的な人々の避雷針(lightning rod)となった。テスラの共同創設者イーロン・マスク氏は昨年2月、ソーシャルメディアサイトXに、「ヌーランドほどこの戦争を推進している人はいない」と書いた。

ヌーランドはロシアを弱体化させ、更にはプーティンを打倒しようという共同謀議を企てていると見なされている、ワシントン・エスタブリッシュメントの代理人(化身)としてモスクワで非難された。ロシア政府当局者や露メディアは、2014年初頭にキエフの中央広場で、最終的にクレムリンが支援するウクライナ指導者を打倒した、当時欧州・ユーラシア問題担当米国次官補だったヌーランドがデモ参加者たちに食料を配った様子を常に回想している。

ロシアのセルゲイ・V・ラブロフ外相は昨年、「2014年にウクライナでヴィクトリア・ヌーランド国務次官がテロリストにクッキーを配った後、政府に対するクーデターが起きた」と述べた。ヌーランドさんはクッキーではなくサンドイッチを配ったと語っている。

ヌーランドの辞任は、クレムリン支援の英語ニュースサイトRTによって重大ニューズとして扱われ、トップページに赤いバナーと「ヌーランド辞任」という見出しが掲げられた。

RTはロシア外務省報道官マリア・ザハロワの発言を引用し、ヌーランドの辞任は「バイデン政権の反ロシア路線の失敗」によるものだと述べた。ザハロワは、「ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症(Russophobia)が、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる」と非難した。

ヌーランドは、バイデン政権の最初の2年半の間、国務次官を務めた。その間、国務副長官を務めたウェンディ・シャーマンの退任に伴い、国務副長官代理を兼務して過去1年の大半を費やした。

ヌーランドはシャーマンの後任としてフルタイムで当然の候補者と見なされていた。しかし、ブリンケン長官は、国家安全保障会議(National Security CouncilNSC)アジア担当トップのカート・キャンベルを国務副長官に抜擢した。キャンベルの国務副長官就任は2月6日に連邦上院で承認された。

ブリンケン長官は、後任が決まるまで国務省のジョン・バス管理担当国務次官が代理としてヌーランドの職務を引き継ぐと述べた。

アナリストの一部は、ロシアのウクライナ侵略がバイデンの外交政策の多くを消耗させたにもかかわらず、キャンベルの選択を、バイデン大統領とブリンケン国務長官がアメリカと中国との関係の管理を最優先事項と考えていることの表れと解釈した。

ヌーランドは先月、人生の何百時間も費やしてきたウクライナの将来について公に語った。

ヌーランドは、ワシントンの戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)での講演で、「プーティ大統領がウクライナで勝利すれば、そこで止まることはないだろうし、世界中の独裁者たちは力ずくで現状を変えようと大胆になるだろう」と警告した。

ヌーランドは、「プーティンは私たち全員を待っていられると考えている。私たちは彼が間違っていることを証明する必要がある」と述べた。

2024年3月7日に訂正:この記事の以前の版ではヴィクトリア・ヌーランドの国務省での序列について誤って記述した。ヌーランドは序列第4位の役職であり、序列3位の外交官である。

※マイケル・クロウリー:『ニューヨーク・タイムズ』紙で国務省とアメリカの外交政策を取材している。これまで30カ国以上から記事を送り、国務長官の外遊に同行している。

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国務省の主要なリーダーであるヴィクトリア・ヌーランドがバイデン政権から離脱(Victoria Nuland, key State Dept. leader, to exit Biden administration

-長年外交官を務めてきたヌーランドはロシアに対する厳しい姿勢で知られていた。クレムリンはヌーランドの反ロシア姿勢を悪者扱いしてきた。

マイケル・バーンバウム筆

2024年3月5日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/03/05/victoria-nuland-retires/

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2022年、キプロス。記者会見でメディアに対して話すヴィクトリア・ヌーランド

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日、ジョー・バイデン政権の最も強硬なロシア強硬派の1人で国務省序列第3位のヴィクトリア・ヌーランドが数週間以内に退任する予定であり、中東の危機を受けてアメリカ外交のトップに穴が開くと述べた。そしてウクライナでは大規模な大火災が発生する恐れがある。

ヌーランド政治問題国務次官は、以前はバラク・オバマ政権時代に国務省のヨーロッパ担当外交官のトップを務め、国務省の職員たちの間で広く人気があった。時には当たり障りのない態度や用心深さが報われる厳格な官僚制の中で、彼女はありのままの意見とクレムリンに対する厳しいアプローチで際立っており、クレムリンは彼女を悪者扱いした。

ヌーランドはウェンディ・シャーマンの退任後、昨年から7カ月間、国務省序列第2位の役職である国務副長官代理を務めていた。しかし彼女は、先月承認された元ホワイトハウスアジア戦略官トップのカート・キャンベルの国務副長官正式就任を巡る政権内争いに敗れた。バイデン大統領の決定は彼女の辞任の要因の1つであった。今回の人事異動により、国務省の最上級指導者トリオの中に女性は1人も残らないことになる。

ブリンケンは火曜日の声明で、ヌーランドが国務省内の「ほとんどの職」を歴任し、「幅広い問題や地域に関する百科全書的な知識と、私たちの利益と価値観を前進させるためのアメリカ外交の完全なツールセットを駆使する比類のない能力」を備えていたと述べた。

ヌーランドは1990年代にモスクワに勤務し、その後、ヒラリー・クリントン国務長官の下で国務省報道官になるまで、NATO常任委員代表を務めた。2013年末にキエフでクレムリン寄りの指導者に対する抗議活動が発生し、ロシアの不満の焦点となった際、彼女はヨーロッパ問題を担当するアメリカのトップ外交官として、キエフでのアメリカ外交で積極的な役割を果たした。記憶に残るのは、当時の大統領が打倒される前に、彼女がキエフ中心部マイダンでキャンプを張っていた抗議活動参加者たちにクッキーとパンを配ったことだ。

ヌーランドは、ドナルド・トランプが大統領に就任した後の2017年初頭に国務省を離れ、2021年に序列第3位の政治問題担当国務次官として復帰した。

ブリンケンは、ヌーランドの「ウクライナに関する指導層について、外交官や外交政策の学生が今後何年も研究することになる」と述べ、ロシアが2022年2月の侵攻に先立って軍を集結させる中、キエフを支援するヨーロッパ諸国との連合構築の取り組みをヌーランドが主導したと指摘した。

ロシア外務省はヌーランドの退職の機会を利用し、これはアメリカの対ロシア政策が間違っていたことを示す兆候だと宣言した。

ロシア外務省報道官マリア・ザハロワはテレグラムに「彼らは皆さんに理由を教えてくれないだろう。しかし、それは単純だ。バイデン政権の反ロシア路線の失敗だ。ヴィクトリア・ヌーランドがアメリカの主要な外交政策概念として提案したロシア恐怖症は、民主党を石のようにどん底に引きずり込んでいる。」と書いた。

職業外交官で管理担当国務次官を務めるジョン・バスが一時的にヌーランドの代理を務めることになる。

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反ロシア主張で知られる米幹部外交官であるヴィクトリア・ヌーランドが近く退職(High-ranking US diplomat Victoria Nuland, known for anti-Russia views, will retire soon

ブラッド・ドレス筆

2024年3月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/4509471-victoria-nuland-anti-russia-retire-ukraine/
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2023年1月26日、連邦議事堂にて。連邦上院外交委員会でロシアの侵攻について証言する政治問題担当国務次官ヴィクトリア・ヌーランド(中央)、国際安全保障問題担当国防次官補セレステ・ワーランダー(左)、米国際開発庁(U.S. Agency for International Development)ヨーロッパ・ユーラシア担当副長官エリン・マッキー。

ウクライナへの熱烈な支持と反ロシアで、タカ派の主張で知られるヴィクトリア・ヌーランド政治問題担当国務次官が数週間以内に退任する

アントニー・ブリンケン国務長官は火曜日にこのニューズを発表し、ヌーランドが「私たちの国と世界にとって重要な時期に外交を外交政策の中心に戻し、アメリカの世界的リーダーシップを活性化させた」と称賛した。

ブリンケンは声明の中で、「トリア(ヴィクトリア)を本当に並外れた存在にしているのは、彼女が堅く信じている価値、つまり自由、民主政治体制、人権、そしてそれらの価値観を世界中に鼓舞し推進する、アメリカの永続的な能力のために戦うことへの激しい情熱だ」と述べた。

ヌーランドは30年以上国務省に勤務し、6人の大統領と10人の国務長官の下で様々な役職を務めた。ヌーランドはキャリアの初期に、モスクワの米大使館で働き、モンゴル初の米国大使館の開設に貢献した。

ヌーランドは国務省の東アジア太平洋局にも勤務し、中国の広州に外交官として赴任した。 2003年から2005年まで副大統領(ディック・チェイニー)の国家安全保障問題担当補佐官を務め、その後、NATO常任委員代表を務めた。ヨーロッパ・・ユーラシア問題担当国務次官補を務め、2021年にジョー・バイデン大統領の下で国務次官に就任した。

ヌーランドはおそらく、2014年の事件で最もよく知られている。この事件では、彼女が駐ウクライナ米大使との通話中に「ファックEU」と発言した録音が漏洩し、世界中のメディアの注目を集めた。

ヌーランドのロシアに対する強い主張とウクライナへの支持は、彼女のその後のキャリアを決定付け、その間、キエフで親ロシア派の大統領が追放された後、モスクワがクリミア半島を不法併合した際の紛争で中心的な役割を果たした。

ヌーランドはロシアに対するタカ派的主張を理由に、アメリカの一部の右派から標的にされていた。彼女のコメントは、昨年クレムリンが非武装化されたクリミアに関する彼女のコメントを非難したことも含め、ロシア国内でも厳しい非難を集めた。

それでも、ブリンケンは、自分とバイデン大統領はヌーランドに感謝していると語った。ブリンケンは、彼女が「常にアメリカの外交官を擁護し、彼らに投資し、彼らを指導し、高揚させ、彼らとその家族が彼らにふさわしいもの、そして私たちの使命が求めるものを確実に得られるようにしている」と語った。

ブリンケンは火曜日、声明の中で次のように発表した。「ヌーランドは最も暗い瞬間に光を見出し、最も必要なときにあなたを笑わせ、いつもあなたの背中を押してくれる。彼女の努力は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領の全面的なウクライナ侵略に対抗し、プーティン大統領の戦略的失敗を確実にするために世界的な連合を組織し、ウクライナが自らの足で力強く立つことができる日に向けて努力するのを助けるために必要不可欠だった」。

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ヴィクトリア・ヌーランド大使がコロンビア大学国際公共政策大学院の教員に加わる(Ambassador Victoria Nuland Will Join SIPA Faculty

2024年3月6日

https://www.sipa.columbia.edu/news/ambassador-victoria-nuland-will-join-sipa-faculty

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ヴィクトリア・ヌーランド大使は30年以上にわたりアメリカの外交官を務め、最後の3年間は政治問題担当国務次官を務めた。更には2023年7月から2024年2月まで国務副長官代理を務めた。ヌーランドは7月1日付で、コロンビア大学国際公共政策大学院(School of International and Public AffairsSIPA)国際外交実践担当キャスリン・アンド・シェルビー・カロム・デイヴィス記念教授に就任することが決定した。

ヌーランドはまた、国際公共政策大学院国際フェロープログラムの指揮を執る。このプログラムは、国際問題を研究するコロンビア大学の大学院生たちのための学際的なフォーラムを提供するものだ。更には、国際政治研究所(Institute of Global PoliticsIGP)客員教員に加わる。国際政治研究所は、国際政治研究所の使命を推進するための研究プロジェクトを実行する選ばれた学者と実務形で構成されている。

国務次官として、ヌーランドは地域および二国間政策全般を管理し、とりわけ世界中のアメリカ外交使節団を指導する国務省の複数の地域部門を監督した。

2021年に国務次官に就任する前、ヌーランドは民間のコンサルタント会社であるオルブライト・ストーンブリッジ・グループの上級顧問を務めていた。彼女はまた、ブルッキングス研究所、イェール大学、民主政治体制のための全米基金(National Endowment for DemocracyNED)でも役職を務めた。

国際公共政策大学院長カリン・ヤーヒ・ミロは次のように述べている。「ヴィクトリア・ヌーランド大使を私たちの教員として迎えられることを大変光栄に思う。ワシントンおよび海外での経験を反映した彼女の、苦心して獲得した多様な専門知識は、私たちの教室の教員として、また政策活動のリーダーとしての彼女の貢献をさらに高めることになるだろう。民主党と共和党の両政権の下で勤務した高官として、トリア(ヴィクトリア)は党派間の隔たりを乗り越える能力を実証しており、あまりに分断されている現在の社会を考えると、彼女は生徒たちのモデルとなるだろう。私は国際公共政策大学院コミュニティ全体を代表して、彼女を迎えることができて本当に嬉しく思う」。

ヌーランドの国務省からの退職は、3月5日にアントニー・J・ブリンケン米国務長官によって発表された。ヌーランドはオバマ政権下、国務省報道官(2011年5月-2013年4月)、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補(2013年9月-2017年1月)を務めた。国務省報道官時代は、当時のヒラリー・クリントン国務長官に直接仕えた。ヒラリー・クリントンは現在、国際公共政策大学院付属の国際政治研究所教職員諮問委員会委員長を務めている。

ヌーランドは、2005年6月から2008年5月まで、ジョージ・W・ブッシュ(息子)大統領の下で、アメリカ合衆国NATO常任委員代表を務めた。

ヌーランドは、ロシア語とフランス語に堪能であり、ブラウン大学で学士号を取得した。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回はアメリカのネオコン内の「名家」ケーガン一族の次男フレデリック・ケーガンの論稿をご紹介する。ケーガン一族はネオコンの「名家」ということになる。まず父親のドナルド・ケーガン(Donald Kagan、1932-2021年、89歳で没)がネオコンの第一世代ということになる。父ドナルドはコーネル大学やイェール大学で教鞭を執った歴史学者(専攻はギリシア古代史)だ。ドナルドはリトアニア生まれのユダヤ人であり、1970年代まではリベラル派であったが転向した。これはネオコン第一世代の特徴である。トロツキー主義から反共主義へと転向し、対外的には対ソ強硬路線、国内的にはリベラルな政策志向というのが特徴だ。対ソ連、対ロシア強硬というのはドナルドがリトアニア出身のユダヤ人ということも影響しているだろう。リトアニアは歴史的にポーランドと近く(同君連合を形成していた時期も長かった)、その影響もあり、ロシアに対しては複雑な感情を持つ人々が多い。ネオコンについては拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)を是非読んでいただきたい。

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ドナルド・ケーガン

 ドナルドにはロバート・ケーガンとフレデリック・ケーガンという息子たちがいる。彼らは現在のネオコン派の論客ということになる。ブルッキング研究所研究員である長男ロバート・ケーガン(Robert Kagan、1958年-、63歳)について、私は早い段階で『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』(ビジネス社)という著書を翻訳して日本に紹介した。ケーガンは1997年に発足した「アメリカ新世紀プロジェクト(Project for the New American Century)」というネオコン系のシンクタンクの共同設立者であり、現在も理事を務めている。

ロバート・ケーガンは2001年の911同時多発テロ事件後に軍事力でテロを抑え込み、イラクとアフガニスタンの体制転換を図ることを狙ったジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカとそれに批判的なヨーロッパ諸国を対比させて、「火星人と木星人」ほども違い、お互いに理解ができない存在になっているとし、ヨーロッパ諸国を非難した。これが大きな議論を呼んだ。現在のウクライナ戦争について米欧は一致して行動しているが、これはロバート・ケーガンにとっては何とも望ましい状態ということになる。

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ロバート・ケーガン

ロバート・ケーガンの配偶者ヴィクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland、1961年-、60歳)についてはここではもう詳しく書かない。現在は国務省序列第3位の政治問題担当国務次官の地位にある。このブログの記事についているタグでヌーランドに関する記事を検索してお読みいただきたい。

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ヴィクトリア・ヌーランド

さて、今回ご紹介するのはロバートの弟フレデリックの論稿である。アメリカン・エンタープライズ研究所研究員を務めるフレデリック・ケーガン(Frederick Kagan、1970年-、52歳)もまたネオコンの論客である。フレデリックはウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校の戦史担当の教授を務めた経歴を持つ。フレデリックは2010年に国際治安支援部隊(ISAF)司令官兼アフガニスタン駐留アメリカ軍司令官に任命されたデイヴィッド・ペトレイアスから政治腐敗担当の顧問に任命された。以下の論稿にあるように、NATOの対ロシア方策の強化を訴えてきた。

フレデリックの配偶者キンバリー・ケーガン(Kimberly Kagan、1972年-、50歳)は、2007年に自ら戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクを立ち上げ、現在も所長を務めている。このシンクタンクは毎日ウクライナ戦争に関するレポートを発表し、所属している研究員たちは活発にマスコミに出て発言を行っている。キンバリーも2010年からアフガニスタン駐留アメリカ軍司令官となったペトレイアスの顧問を務めた。

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イラク訪問時のフレデリックとキンバリー

 ケーガン一族については、2022年4月8日にインターネット上で発表されたエマニュエル・トッドの『文藝春秋』に掲載された記事(有料)でも言及があり、トッドはキンバリー・ケーガンが所長を務める戦争研究所が発表している分析(これが西側マスコミの報道でも使われている)について、その内容に疑義を呈している。

 このブログでも繰り返し指摘しているように、現在の状況はネオコンにとって非常に好ましい状況となっている。しかし、それは世界にとっては大きな不幸ということになる。

(貼り付けはじめ)

ロシアと戦うウクライナをアメリカはどのように支援しているか(How the US is helping Ukraine fight Russia

ジョーダン・ウィリアムズ筆

2022年3月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/596824-how-the-us-is-helping-ukraine-fight-russia

アメリカは過去1年間、ウクライナ軍を支援するために10億ドル以上を供与し、ロシアによるウクライナに対する1週間にわたる戦争が続く中、更なる支援を約束している。

アメリカ政府は、最新の防衛支援(package of defensive aid)の一部として数百発のスティンガーミサイルを送ったと伝えられている。一方、ホワイトハウスは水曜日、ウクライナに対する安全保障、人道、経済支援として更に100億ドルを承認するよう議会に求めた。

しかし、戦争が進むにつれて、アメリカは支援をどのようにウクライナに届けるかについての戦略を変更しなければならないし、安全保障と人道的援助を通じてウクライナがより長期的な紛争を生き残るのを助ける方法を評価しなければならないだろう。

バイデン大統領は過去6カ月間に3度、立法府の承認なしに大統領が不測の事態に対応できる権限である大統領権限を行使している。

バイデン大統領がこの権限を最近使う機会となったのは2月26日に3億5千万ドルの安全保障支援を承認したことだ。

政治・軍事問題担当国務次官補ジェシカ・ルイスは木曜日に連邦下院軍事委員会に出席し、支援パッケージには、一人で持ち運び発射できる、ジャヴェリン対戦車ミサイルが含まれていると述べた。

アメリカン・エンタープライズ研究所のクリティカル・スレッツ・プロジェクト(Critical Threats Project)のフレデリック・ケーガン部長は、「ジャヴェリン対戦車ミサイルはおそらく、アメリカがウクライナに提供できる最もインパクトのある武器だろう。それは、ジャヴェリン対戦車ミサイルは待ち伏せや様々な状況において個人で使用でき、かなり確実にロシア戦車を倒せるからだ」と語った。

アメリカはまた、ウクライナに数百のスティンガー対空ミサイル防衛システムを送ったと伝えられている。このシステムは、地上軍が空中の標的を撃つために配備することができる。

ケーガンは、対空システムでロシアの航空機を落とすのは難しいが、「ロシアのヘリコプターにとっては絶対に悪夢になる」と述べた。

アントニー・ブリンケン米国務長官は水曜日、アメリカは二国間パートナー協定を結んでいる諸国と協力してウクライナに防衛用装備を急いで送るようにし、そうした装備はロシアと戦う部隊に届けられつつあると述べた。

しかし、ロシアが侵攻を続ける中、ウクライナに追加の装備を送ることは難しくなるだろう。

時間的な制約もあることから、ウクライナ軍は、すぐに訓練できる武器、つまり弾薬やジャヴェリン対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイルといった武器を必要とするだろう。

「戦略国際問題研究所(CSIS)の国際安全保障プログラムの上級アドヴァイザーであるマーク・カンシアンは、「これは、非常に短期間に集中しなければならないので、私たちが提供できる支援には大きな制約がつくことになる」と述べた。

カンシアンは「現代の戦争では弾薬が大量に消費されるため、時間が経つにつれて、より多くの弾薬が提供されると思う。それは、現代の戦争は弾薬を大量に使うが、軍隊は通常そこまでの弾薬を貯蔵していないからだ。従って、私たちは弾薬のような武器を提供することになるだろう」と述べた。

アメリカは、紛争状態によりウクライナ領空を直接飛行機で飛ぶことができないため、兵器の運搬方法も考え直さなければならない。しかし、小型の兵器システムであれば、地上輸送(ground transportation)で送ることができる。

国防総省に勤務した経験を持ち、現在は大西洋評議会に所属するリー・ショイネマンは、安全保障上の支援を届けるために使われている地上ルートの一部は、紛争から逃れようとするウクライナ人の退避にも利用されていると指摘する。

ショイネマンは「アメリカ軍ほどロジスティクスが得意な国はない。現在、連邦議会で検討されている支援計画について話す時、その支援が実際に国に届く必要があるように、私たちはこれらの重要な陸路を維持するのを助けることができる」と述べた。

バイデン政権は、過去数ヶ月の間にNATOの東側陣地を強化するためにおよそ15千人の軍隊を送ったが、紛争に直接アメリカ軍を送らないことを明確に表明している。

ウクライナ領空に飛行禁止区域を設けるというアイデアは、ワシントンでは却下された。不幸禁止区域を設定すれば、アメリカ軍がロシアの航空機を撃墜する可能性があり、事態が急速にエスカレートする懸念が高まるからだ。

複数の専門家によれば、アメリカ軍を直接紛争に投入しないが、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するためには、まだ他の選択肢があるということだ。

カンシアンは「戦争が長引く場合、他にできることがあるはずだ。ウクライナ国外にいるウクライナ人を訓練することもできる。新しいタイプの装備の導入も考えられるが、それは戦争が何カ月も続けばの話だ」と述べた。

ウクライナの人々が戦争に対処できるように、食料、医薬品、燃料の供給などの人道支援を送ることも同様に重要だろう。

ケーガンは「ウクライナ人に武器を届けることに注力する一方で、紛争を乗り越え、ウクライナ人に必要なすべての生命維持装置を届けることにも注力する必要があると思う」と述べた。

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プーティンは世界を変えてしまった。そして、アメリカはそれに適応するか負けるかだ(Putin has changed the world — and the US must adapt or lose

フレデリック・W・ケーガン筆

2022年2月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/595304-putin-has-changed-the-world-and-the-us-must-adapt-or-lose

ウラジミール・プーティンは、私たちが知っている冷戦終結後の世界を根本的に変えてしまった。

冷戦後の秩序は、ロシアの通常兵器による深刻な脅威が存在しないことを前提に構築された。アメリカの軍事態勢、NATOの軍事費と配備、戦争計画、国家安全保障戦略は、30年間にわたり、ヨーロッパにおける大規模な通常兵器による紛争のリスクを想定してこなかった。

今日、ウクライナの周辺やウクライナに進出している何千台ものロシア軍の戦車は、その前提を足元から打ち砕いているのである。アメリカとNATOは、国家安全保障戦略、防衛予算、配備を根本的にそして長期的に考え直さなければならない。

プーティンはこの10年間、ロシアの通常戦力を再構築するために多額の資金を投入してきた。ロシアが経済的に困窮しているにもかかわらず、これほどまでに軍事費を投入するのは、武力のために国民の幸福を犠牲にするソ連的な意思(Soviet-like willingness)を示すものだ。このプロセスは、2008年のグルジア侵攻におけるロシア軍の不振の後に始まり、過去数年間で劇的に加速した。ロシア軍の地上部隊は、大規模な機動戦を行えるように再編成された。プーティンは全軍をより近代的な装備になるように再整備している。最も重要なことは、ロシア軍は年に数回、陸海空、核、サイバー軍を含む大規模な軍事演習を予告なしに定期的に行っていることだ。このような演習は非常にコストがかかる。また、軍隊を戦争に備えるために不可欠なものでもある。

プーティンは、ベラルーシ軍のロシア軍への事実上の編入を完了し、ロシア軍をポーランドとベラルーシの国境に移動させることによって、ロシア国境を300マイル西に静かに移動させたことになるのだ。ロシアはすでにカリーニングラード外郭(Kaliningrad exclave)にあらゆる種類の軍隊を多く集中させ、ポーランドとリトアニアの両国に脅威を与えていた。この飛び地はロシアの他の地域から孤立しているため、これらの軍隊を使ってNATOを攻撃することは考えにくく、非常に危険なことだった。カリーニングラードから攻撃するロシア軍は、ベラルーシからの迅速な増援を期待できるようになり、ポーランド、リトアニア、あるいはその両方への挟撃が考えられるようになったのである。

プーティンは、NATOの境界付近にいる部隊だけでなく、NATOを脅かすために全軍を動員する能力を実証している。彼は、ロシアの極東と中央アジア地域から何万人もの軍隊を移動させ、ポーランドとウクライナの国境に駐留させている。太平洋からベラルーシまで、これほど多くの軍隊を移動させたことは、西側諸国が受け取り、対応しなければならないメッセージである(繰り返すが、非常にコストがかかるものである)。NATOに対するロシアの通常兵器による脅威は、大きく、現実的で、永続的である。

プーティンは、今回の危機における要求の中で、NATOに別のメッセージを送っているが、その中でウクライナに言及しているのは一部だけだ。プーティンは、冷戦終結後にNATOに加盟した国々、つまり東欧とバルカン半島から軍事インフラをすべて撤退させるようNATOに要求している。NATOの拡大凍結は、少なくとも旧ソ連諸国全体に対する宗主権(suzerainty)という大きな要求に包含されている。彼はまだバルト三国に同盟からの脱退を要求していないが、彼の動きをけん制しなければ、そこまで要求をエスカレートさせる可能性がある。

プーティンの最終目的について言えば、ヒトラーについて推測する必要があったのと同じように、疑うべくもないものだ。プーティンは、NATOを破壊し、アメリカをヨーロッパから追い出し、ソ連の勢力圏を再確立するつもりだと、いつ私たちに示唆している。

冷戦後のNATO加盟国に関するプーティンの要求は、彼がその勢力圏を旧ソ連の国境にとどまるものとは考えていないことを強く示唆している。彼は、NATOが現在東側加盟諸国に保有している軍に真剣に挑戦し、場合によっては打ち負かすことができる軍を構築するために膨大な資金を投入してきた。

ウクライナで何が起ころうとも、この脅威を真剣に受け止め、それが何事もなく過ぎ去ってしまうことはないと理解するための時は、遅きに失した感は否めないが、それを理解する時とはまさに今だ。

アメリカは国家安全保障と国家防衛に関するこれまでの戦略草案を破り捨てることから始めるべきだ。中国は1つの脅威であるが、ロシアは別の脅威である。この2つの脅威は大きく異なる課題を提起し、それらに対応するためには異なる要件を課すことになる。

プーティンは従来の機械化部隊を再現し、大規模に使用する意思を示した。そうした状況下で、アメリカは、現在の文書や予算が提案するような、従来の機械化戦争に必要な戦力から太平洋での戦闘に不可欠な航空・海軍戦力に転換することはできないということが明らかになった。アメリカ軍は、ロシアのような「レガシー」軍隊による大規模な攻撃を打ち負かす能力の再建を犠牲にして、中国が提起している課題である近代化に注力することもできないのである。

アメリカはまた、ヨーロッパでの迅速で前例のない攻撃に備えて、軍の態勢を再構築しなければならない。2000年代に始まった、ほとんどのアメリカ軍機械化部隊のヨーロッパからアメリカへの撤退は常に誤りであった。アメリカとヨーロッパの間には大西洋が存在し、起こりうる紛争を抑止することが難しくなった。現在の状況下でその誤りを続けることは許しがたいことである。アメリカは、NATOに対するロシアの攻撃を事実上予告なしに阻止するために必要な規模で、ヨーロッパに大規模な部隊を恒久的に再配置する必要がある。世界最先端の防空・防波堤システムを突破するために必要なステルス機やその他の航空・海事資産をヨーロッパにおいて維持しなければならない。

同時に、アジアでの前方展開を強化し、中国の侵略を抑止し、必要なら打ち負かすために緊急に必要な空・海・陸軍を増強し、中国の技術的進歩に対応し、それを上回るよう近代化する必要がある。さらに、アメリカは中東、アフリカ、南北アメリカ大陸に依然として重要な国家安全保障上の利益を有している。アメリカは、冷戦終結後初めて、広く分離した複数の戦域で同時に戦い、勝利する能力を再構築する必要に迫られているのだ。

当然のことだが、それはアメリカだけではできない。NATOは軍事費を大幅に増やし、東側諸国の防衛のために通常戦力を再配置しなければならない。NATOは、東方からの主要な通常兵器の脅威を阻止し、防衛するという本来の目的を再認識しなければならない。プーティンが冷戦を復活させ、鉄のカーテンを再び打ち立てようとしていることを認識する必要がある。

これらの提案は、費用がかかり、不人気なものになるだろう。アメリカ人もヨーロッパ人も、どこでもいいからとにかく戦いたいとは思っていない。軍拡競争も、戦争も、冷戦も、熱戦も好んでいる訳ではないのだ。

しかし、私たちは現実を直視しなければならない。戦争をするのは1人であり、2人ではない。プーティンは、自分が望むものを得るためには戦うことを避けるようなことはしないと示した。彼が望むものは、70年以上にわたってヨーロッパの平和を守ってきた西側同盟の破壊である。私たちは、それを守るために戦う意志を持たなければならない。そして、そのための代償を払う意志も持たなければならない。

※フレデリック・W・ケーガン:「クリティカル・スレッツ・プロジェクト」の部長、ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員を務めている。また、戦争研究所のロシア専門ティームに助言を行っている。

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NATOは今すぐ東側陣地を強化せねばならない(NATO must reinforce its Eastern flank right now

フレデリック・ケーガン、ジョージ・バロス筆

2022年1月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/591008-nato-must-reinforce-its-eastern-flank-right-now

現在ベラルーシに進出しているロシアの機械化部隊は、ウクライナだけでなく、NATOに対しても直接的に脅威を与えている。アメリカと同盟諸国は、ロシアによるウクライナ侵攻の明白な準備に注目し、モスクワを抑止しようとするのは当然の動きだ。ベラルーシ南東部の陣地に移動するロシア軍は侵略の準備をしている可能性があり、西側諸国はその文脈で対応する必要がある。しかし、ロシア軍はワルシャワから約100マイル以内のポーランド国境やその付近、リトアニア国境付近にも陣地を構えている。 このような場所への配備は、ウクライナ侵攻計画の一環としてはほとんど意味をなさない。しかし、ポーランドに対するロシアの脅威を劇的に増大させ、NATOがバルト諸国を防衛する能力をさらに低下させることになる。アメリカと西ヨーロッパの同盟諸国は、ロシアがウクライナを攻撃するか否かにかかわらず、同盟に対するこの脅威に対応しなければならない。

7個から10個の機械化大隊(2個から3個の旅団に相当、兵力は4200人から9000人)がロシア極東からベラルーシに移動している。また、ロシアの最新鋭防空システムS-400の2個大隊と最新鋭戦闘機Su-35 12機もベラルーシに配備された。ロシア国防省は、これらの部隊は2月中旬までベラルーシで演習を行うと発表している。演習は主にブレスト(ポーランド国境)、バラノビチ(ブレストの北東)、グロドノ(リトアニアとポーランド国境付近)、ミンスク付近の訓練場で行われるとされる。これらの地域はウクライナ侵攻に最適な場所ではないが、バラノビチはロシア軍が攻撃の準備をするのに適した後方基地である。しかし、ベラルーシ南東部にはすでにロシア軍の一部が出現しており、発表された訓練地から遠く離れ、ウクライナ侵攻に理想的な立地の1つとなっている。つまり、ロシア新軍はウクライナとNATOの両方を同時に脅かしている。

ロシアのベラルーシへの進出は、突発的なもの(spur-of-the-moment)でも、日和見的なもの(opportunistic)でもない。プーティンが何年も前から進めてきた長期計画の一部であり、だからこそ我々は何カ月も前から予測してきた。プーティンは少なくとも2015年から、ベラルーシに軍事空軍基地を開設する意向を示してきた。ロシアは、ベラルーシとの合同演習の強化を通じて、少なくとも2020年9月からベラルーシに戦力を投射する準備を進めてきた。また、ロシア軍は、燃料や弾薬などの必需品をベラルーシの近くで供給するなど、ロシア軍をベラルーシに投入するために必要な兵站や指揮統制のリハーサルを行ってきた。

ここ数年、ベラルーシで演習するロシアの地上軍は、プーティンがS-300防空システムとロシア航空機を常駐させてベラルーシで共同航空パトロールを行い、2021年8月にベラルーシに共同訓練センター(航空基地)を開設したが、いつもロシアに帰っている。今ベラルーシに移動している部隊も、はっきり言って帰国するかもしれない。しかし、プーティンがベラルーシに軍隊を常駐させることに対するベラルーシの政治的制約をついに克服したため、彼らは今回留まるかもしれないし、急速に他の軍隊に取って代わられるかもしれない。

プーティンとベラルーシのアレキサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシがロシアとの連合国家の一部となるための条件を20年以上にわたって交渉してきた。ルカシェンコ大統領は、モスクワからの独立の名残を保とうと、このプロセスを引き延ばしてきた。しかし、2021年11月、ルカシェンコはついに、ロシアとベラルーシの共同軍事ドクトリンの改訂を含む、これまで引き延ばしてきた協定の全て、あるいはほとんどを批准した。また、2021年12月末には新憲法草案を発表し、今年2月に採択される可能性が高い。新憲法は、ベラルーシの中立を約束し、ベラルーシに核兵器を駐留させることを禁止する2つの重要な条項を現行憲法から削除している。ベラルーシのロシアとの政治的・法的統合は、ここ数カ月で急速に完了に向かって進み、ベラルーシにロシア軍を恒久的に配備するための条件が整った。

こうした活動は全て、ウクライナへの侵攻を脅かすロシアの積極的な準備よりずっと前に、ロシアが長年にわたって行ってきた入念な計画と努力の結晶である。プーティンが単にチャンスを掴むだけでなく、長期にわたって首尾一貫した戦略を構想し、追求する能力を備えていることを示すもう一つの例である。そして、プーティンは常に、ウクライナだけでなくNATOを脅かすことを意図している。

ベラルーシにロシア軍が地上軍を展開することによるポーランドとバルト三国への脅威は、私たちが他の場所で論じたように、非常に深刻だ。NATOはこの脅威に対して緊急に対応しなければならない。アメリカ、カナダ、西ヨーロッパのパートナー諸国は、ポーランド北東部と東部への機械化部隊の配備を直ちに開始し、それらの部隊を無期限に維持する準備をしなければならない。

NATOがロシアのウクライナ侵攻に軍事的に対応しない場合、部隊と戦闘車両の移動だけでは、NATO最東端の加盟国に同盟が引き続き防衛する意思と能力があることを安心させるには十分ではないだろう。

また、今ポーランドに軍を配備することは、軍事的脅威に対するアメリカの軍事的対応を考慮する意思を示すことで、プーティンのウクライナでの冒険主義を抑止するのに役立つ。また、プーティンがウクライナを攻撃すればコストを負わせると脅すだけでなく、危機を長引かせることでプーティンに実際のコストを負わせることで、これまでのアメリカとNATOの危機対応のもう1つの弱点を緩和することができるだろう。

2022年1月19日のバイデン大統領の発言を受けて、具体的な行動が急がれる。NATOの東側陣地を強化することは、プーティンの冒険主義を止め、NATOとウクライナを守るには十分ではないが、必要な次のステップとなる。

※フレデリック・W・ケーガン:ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼常勤研究員。戦争研究所(インスティテュート・フォ・ザ・スタディ・オブ・ウォー、ISW)においてロシア担当ティームに助言をしている。

※ジョージ・バロス:戦争研究所ロシア・ウクライナ研究の研究員。戦争研究所に参加する前、連邦下院外交委員会の委員に対するウクライナとロシア専門補佐官として連邦下院に勤務した。ツイッター:@georgewbarros.

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ウクライナで何が起きているのか、なぜそれがアメリカと同盟諸国にとって重要なのか(What's at risk in Ukraine, and why it matters to America and its allies

フレデリック・ケーガン

2021年12月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/584646-whats-at-risk-in-ukraine-and-why-it-matters-to-america-and-its

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させたが、それを使うつもりはさらさらないようだ。しかし、プーティンはウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させている。バイデン政権とNATOは、プーティンを抑止するために必要な声明を出し、いくつかの軍事行動を起こしたが、西側諸国のコミットメントは依然として曖昧なままである。

そうであってはならない。アメリカ人とヨーロッパ人は、ウクライナの独立が、私たちにとってもウクライナにとっても極めて重要であることを理解し、ウクライナの独立が保持されるように行動しなければならない。それがプーティンを抑止する最良の方法でもある。

1991年のソ連崩壊後、ウクライナとベラルーシが独立したことで、ロシアの国境は数百マイル東に移動し、ロシアと中欧の間に事実上の緩衝地帯(a de facto buffer)が形成された。アメリカとヨーロッパはこの緩衝地帯を頼りにして軍備を大幅に縮小してきた。

しかし、ロシアがウクライナを占領する場合、ポーランドとルーマニアの国境にロシアの深刻な通常兵器の脅威が再び出現し、ヨーロッパの戦略的状況は一変する。NATO諸国は再動員され、これらの国境に大規模な軍隊を配備する必要がある。黒海はロシアの湖と化し(Black Sea into a Russian lake)、トルコ(問題はあるにせよ、依然としてNATOの同盟国である)への圧力が高まるだろう。アメリカ、ヨーロッパ連合、NATONATOの東側諸国を防衛する意思に重大な疑問を投げかけることになる。ウクライナの4500万の人口と重工業基盤(heavy industrial base)がロシアに加わることになる。そして、中国や他の略奪者たちに西側の弱さを示す壊滅的なシグナルを送ることになる。特に、アメリカがアフガニスタンから不名誉な撤退をした後ではそうである。

プーティンのウクライナに対する脅威は、ベラルーシを着実に吸収していることを背景にしている。プーティンは既にロシア軍をベラルーシに戻し、更に多くのロシア軍を送り込もうとしている。ポーランドとリトアニアは、NATOのバルト諸国と他の同盟諸国を結ぶ唯一の地上連絡線である重要なスウォーキー回廊(Suwalki Corridor)の近くで、ロシアの機械化部隊に直面することになりそうだ。更にロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにさえも存亡の危機が訪れるだろう。このような危機には、新たな鉄のカーテン(Iron Curtain)となり得る場所に、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開することでしか対応できないだろう。

欧米諸国がウクライナ防衛に対して曖昧な態度を取らざるを得ないのは、ウクライナの独立国家としての存在意義に対する混乱が一因である。ロシアのプロパガンダや専門家の一部が、ウクライナがロシアから独立していることの「社会文化的」根拠、少なくともウクライナ東部がウクライナ一国に含まれることの「社会文化的」根拠を疑問視している。しかし、主権国家はその社会文化的独自性(socio-cultural uniqueness)を証明する義務はない。国際社会と国連に無条件で承認されれば、いかなる国家も、それがどんなに小さく、弱く、文化的に他の国家と似ていても、他の国家と同じ主権的権利を持つ。

ウクライナは30年前に現在の国境(クリミアと東部を含む)内において独立国家として、当時独立したばかりのロシア連邦にも承認されたのである。ドイツがフランスからアルザスやロレーヌの返還を要求したり、チェコ、オーストリア、ポーランドに住むドイツ系住民を守る権利を主張したりしたのと同様、ロシアがウクライナの一部の返還を主張する法的根拠はない。他国の領土に対するロシアの特別な権利の主張に同意することは、全ての国の主権を損なう。それは、世界をホッブズ的な状態に戻そうとする国際的な捕食者(international predators)を招き入れることになる。

ウクライナ国境付近へのロシアの配備は防衛的な性格のものではなく、侵略の恐れがある。ウクライナはロシアにとって軍事的な脅威ではない。プーティンは、ウクライナ政府が自国の領土であるロシア占領下のドンバス地域への侵攻を準備していると誤った主張をしている。しかし、欧米の議論では、キエフがドンバス奪還に動いたとしても、ロシアには対応する権利があるという、同様に誤った根拠を受け入れることが多い。この問題におけるロシアの想定される権利は、2014年にロシアがクリミアを掌握・併合して始めた紛争を凍結し、その後ドンバスへの暗号侵攻と占領を開始したミンスクII協定に由来している。プーティンは、ウクライナが奪ったものを取り戻すのを阻止する権利を主張している。なぜ西側諸国はその主張を尊重しなければならないのか?

状況は実にシンプルだ。ロシアは2014年にウクライナに侵攻し、その一部を併合し、代理人を通じて別の一部を占領し、そして今、残りの国土に対して更なる侵略をすると脅している。

本当に困ったことに、西側諸国はこの戦いに対して気迫がなくかなり困難な状況にある。

プーティンはウクライナの近くに十分な戦力を集めており、ほとんど予告なしに侵攻を開始することができる。アメリカ地上軍の大半がヨーロッパから撤退し、ヨーロッパ自体の軍事力が低下しているため、ロシアの侵攻を阻止するために西側諸国の機械化部隊を展開することは不可能である。そのため、NATOはウクライナの持つ防衛力、あるいはNATOが共有する意思のある防衛力に主として依存することになる。NATOの航空戦力やミサイル戦力を利用するにしても、ロシアの高性能な防空システムには問題がある。NATOは、ロシアの攻撃を阻止するために、艦船や潜水艦発射のミサイルとともに、多くのステルス航空機を配備しなければならないだろう。

航空戦力だけではその攻勢を止めることはできないだろうが、ロシアの軍隊に多大な犠牲を強いることができる。そこに、そもそも攻撃を抑止するための鍵がある。

ロシアは貧しい国で、実のところ、経済が機能していない。泥棒経済(kleptocracy)が確立されている。ロシアのGDPはアメリカやヨーロッパの10分の1以下、NATO諸国合計の20分の1以下である。西側諸国は、戦闘で失われた高価な兵器システムも交換する余裕があるが、ロシアにはない。プーティンはそれを知っている。

ロシアの軍事ドクトリンは、軍隊が動員されたNATOに対してロシアは通常戦争で勝てないという前提のもとに成り立っている。プーティンは、NATOがウクライナ防衛のためにそのような戦争をしないだろうと考えているが、このことは彼が侵略を考える上で重要な要素となる。この信念を、NATOは本当に戦ってくれるという確信に置き換えることが、プーティンを抑止する鍵である。

バイデン政権とNATOは、この方向でいくつかの重要なステップを踏んだが、さらに多くのステップを踏まなければならない。キエフにミンスク協定を守らせる必要性について、侵略の脅威を感じながら話すのは止めなければならない。このような状況でウクライナ国内の問題解決について議論することはないのだということをプーティンに明確に伝えなければならない。プーティンに侵略の代償を示すために、航空機を配備し、艦船を配備し続けなければならない。そして、プーティンが攻めてきた時にウクライナを守れるかどうかの不安を払拭しなければならない。

プーティンは、こうした行動はすべて挑発(provocations)だと主張するだろう。それは侵略者や独裁者がよく使う言葉だ。しかし、NATOはロシアと同様に、自国の国境と領海内に軍を展開する権利を持っており、脅威を受けているパートナー国に防衛兵器を提供したり売却したりする権利も持っている。これらの活動は、攻撃を意図し、優位性を失うことを恐れる人間にとってのみ憂慮すべきものである。もし、それを行うことでロシアの侵攻を促すのであれば、ロシアの侵攻はすでに始まっているとも言えるのだ。

西側諸国は、侵略を「誘発する(provoke)」ことを恐れるよりも、ウクライナとロシアと中欧の間の重要な緩衝地帯(vital buffer)を失うことを心配することにもっとエネルギーを使わなければならない。国際システムの中核をなす原則を失い、世界が混沌に陥ることを心配しなければならない。

それらは今日のウクライナにおける重要な問題である。西側が戦う準備をしなければならない利害関係に関わる問題だ。

※フレデリック・ケーガン:ワシトンDCにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼研究員。『勝利の選択(Choosing Victory)』の著者でイラクにおける香華的軍事戦略の立案者となった。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ネオコンという言葉はジョージ・W・ブッシュ(子)政権(2001-2008年)時代に日本でも知られるようになった言葉だ。私の師匠である副島隆彦先生が『現代アメリカ政治思想の大研究 <世界覇権国>を動かす政治家と知識人たち』(筑摩書房)でネオコンについて日本でほぼ初めて紹介したのが1995年で、2000年代に入ってネオコンという言葉が日本のマスコミで使われるようになって「何を今更」の感があった。今回のロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカのネオコンの動きがあったということで、ヴィクトリア・ヌーランドの名前を挙げて説明している論稿もあるが、こちらもまた「何を今更」である。私は2012年に出した『アメリカ政治の秘密』でネオコン(共和党)とカウンターパートとして「人道的介入主義派(humanitarian interventionists)」(民主党)について詳しく説明した。ネオコンだけではなく、人道的介入主義派も危険だということは早い段階で指摘した。

 アメリカ政治に詳しい方なら「ネオコンは共和党のジョージ・W・ブッシュ政権の時にアメリカの外交政策と軍事政策を牛耳った人々ではないか。それが民主党のジョー・バイデン政権で重要な政策決定に関与できるのか」という疑問を持つだろう。だから大事なのは、民主党内のネオコンのカウンターパートである、人道的介入主義派なのである。今度は人道的介入主義派の出番ということになるのだ。ネオコンと人道的介入主義派は立場が近い。ネオコンの論客ロバート・ケーガン(共和党員)は2016年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ当選を阻止したいと考え、民主党のヒラリー・クリントンの政治資金集めのためのパーティを計画したことがあった。アイソレイショニズムのトランプよりも党は違うヒラリーの考えの方が近いということになるのだ。

 昨年出版した『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』について、ありがたいことに最近になって評価をして下さる方が少しずつであるが増えてきている。私の主張や思考はとにかくシンプルで、バイデン政権とはヒラリー政権が4年遅れでやって来た存在に過ぎず、ヒラリーが当目である人道的介入主義派が多く政権に入ればそれだけ危険だということから思考を組み立てている。私のこれまでの著作を是非お読みいただきたい。

 バイデン政権はウクライナ戦争が勃発してから武器や物資の供与は行うがアメリカ軍が直接関与することは回避している。ウクライナの国土とウクライナ人の生命と財産が失われる状況でアメリカの軍需産業は大儲けをしている。その原資はアメリカ国民の血税であるが、日本人もまた高みの見物ということはできない。日本もまた相応の負担を強いられることになる。急速に進んだ円安とエネルギーコストの急上昇によって生活が苦しくなる一方であるが、それに加えて戦争税が課されることは間違いない。

 アメリカ国内でもアメリカ軍の直接的な関与を求める声が高まっている。そのためのキーワードが「戦争犯罪(war crime)」だ。ロシアによる戦争犯罪を裁く、もしくはウラジミール・プーティンを権力の座から引きずり下ろすためにはアメリカ軍が出張っていってロシア軍を破らねばならない。しかし、そんなことをすれば戦争は拡大し、エスカレートし、その行き着く先がどうなるか予想ができない。核戦争の可能性が大いに高まる。アメリカ国内も安全ということはなくなる。ネオコンと人道的介入主義派の動きは非常に危険だ。私たちは感情と思考を区別して置かれた状況でより賢い選択をするという思考ができるようにしなければ大きく騙されて大事な生命と財産を危険に晒すことになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンにとっての最大のウクライナ問題はプーティンではない。それは戦争マシーンだ(Biden’s Biggest Ukraine Challenge Isn’t Putin, It’s the War Machine

-ウクライナ国境で軍事紛争が起きる場合、バイデン政権はアメリカによる介入を煽る応援団に抵抗しなければならない。

マイケル・トマスキー筆

2022年2月16日

『ニュー・リパブリック』誌

https://newrepublic.com/article/165380/ukraine-russia-neocon-media-war

ウラジミール・プーティンは手を引きつつあるのか? 火曜日の朝の『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ワシントン・ポスト』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙の見出しは、ロシアがウクライナ国境からいくつかの部隊を撤退させ、他の軍事演習が続いている間にも、そのことを伝えている。プーティンは今日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、侵攻は水曜日に行われると一見警戒しているように見えたが、メディアを通過する際に訳がわからなくなった皮肉な発言であったことが判明した。とはいえ、アメリカ政府は一時的に米国大使館をキエフからより安全な西のリヴィウに移した。

このようにまだ明らかになっていないことは多いが、バイデン政権にとっての明確な最低ラインは明確になっている。それは、「戦争に行くな、以上(Don’t go to war. Period.)」だ。

今日のニュースが一時的な休息、あるいは策略であることが判明し、ロシアが侵攻した場合、ケーブルニュースは少なくとも数日間は侵攻の映像を流し続けることになる。ロシアの残虐行為やウクライナ市民の死が強調されることになるだろう。アメリカのネオコンとその一部の上院議員、特に民主党のロバート・メネンデスと共和党のマルコ・ルビオは、ドナルド・トランプの犯罪を謝罪していない時に侵略が進む場合、多くの放送時間を得るだろう。ちなみに、この最後の点は、主流メディアが民主政治体制(democracy)を失敗させている重要な点の一つである。外交政策について優れた演説ができる人物は、たとえ10年か20年の間全てを間違っていたとしても、テレビはその人物を専門家として任命する。

太鼓が鳴り、衣服が裂け始めるだろう。これを見よ! スターリンが再びやって来るぞ!これは民主政治体制の死だ。バイデンを見てみろ、何もしていない! アフガニスタン、そし

て今はウクライナ。そして、この展開を見ている中国が何を考えているか想像してみよう。

しかし、バイデンはこれら全ての誇大広告に対して毅然とした態度で臨まなければならない。バイデン政権はこれまで、ウクライナでいかなる状況が起きてもアメリカ軍を駐留させないという、見事なまでに明確な態度を示してきた。これは良いスタートだ。しかし、プーティンが引き金を引くようなことがあれば、政権も踏ん張らなければならない。

バイデン政権の立場は変わらないと思う。しかし、私は少しばかり神経質になっている。バイデンは連邦上院議員時代、ウクライナをNATOに加盟させることを支持していたが、私はいつもそれを恐れていた。バルト三国の場合はそうだろうが、そこでも私は疑問に思った。アメリカ国民の何%が、聞いたこともないエストニアの町(ナルヴァ)を守るためにアメリカ人の命が失われることを喜んで支持するのだろうか? 世論が外交政策を左右するべきだというわけではない。少なくともヒトラーが宣戦布告をするまでは、ほとんどのアメリカ人は第二次世界大戦でドイツと戦うことに反対していた。しかし、民主的に選ばれた指導者は、ある状況がなぜアメリカの介入を必要とするのか、アメリカ国民に説明しなければならない。ウクライナの場合、それは無理な話だ。

そう、そこにネオコンがいるのだ。ありがたいことに、彼らは2002年から2003年にかけてのイラク戦争のときのように電波を支配しているわけではない。昨年12月、フレデリック・ケーガンは『ザ・ヒル』誌に、アメリカは戦争マシーン(war machine)を強化する必要があると書いた。彼は賢いので「戦争」という言葉は使わなかったが、これらの文章はそのポイントを伝えている。そのポイントは次の通りだ。

・本当に問題なのは、西側諸国がこの戦いに対する気概(stomach)を持っていないことだ。

・空軍力だけでは攻勢を止めるのには十分ではない。

・ティーム・バイデンはプーティンがウクライナを攻撃した場合の防衛について不安を払拭しなければならない。

こうした人々は何事も学ばない。もっとありそうなのは、自分たちの世界観から学ぶべきことを学ぶということだ。つまり、もう少し強力な決意と火力があれば、そして宥和派からの干渉がもっと少なければ、今日の軍事介入は大成功だっただろうという風に考えるということだ。

しかし、私には、歴史的な大成功の記憶はない。その代わり、記録にあるのは、ヴェトナムとイラクの悲惨な泥沼(disastrous quagmires)である。また、軍事や情報諜報の観点から「成功」したとされる介入(interventions)も、広い意味では悲惨な結果に終わったものがほとんどである。1954年、私たちはイランで迅速なクーデターを起こしたが、その後どうなったか。私たちは冷酷な親米政権を設立し、イラン国民は1979年についにこれを追放した。この政権は、ネオコンの好戦によって、冷酷な反米政権に取って代わられ、世界的とは言わないまでも、恐らくすぐに核兵器能力を持つ地域大国に変貌することになった。イランが本格的に核開発を始めたのは、ジョージ・W・ブッシュがイランを「悪の枢軸(axis of evil)」の一部と烙印を押した後であることを思い出そう。

私はかつて、当時の流行語であった「人道的介入(human interventions)」というものをアメリカがうまくやってのけると信じたかった。当時、スーザン・ソンタグやクリストファー・ヒッチェンスといった人々が、血と土(blood-and-soil 訳者註:民族主義的なイデオロギーのスローガン)の暴君に対抗するために、西側はまだ始まったばかりの多民族民主主義を支援しなければならないという道徳的説得力を持つ主張をしていた。その中心となったのは1990年代のボスニアだった。当時のベイカー国務長官が議会で「私たちはこの戦いに関与しない」と発言したことに私は愕然とした。

ボスニアは、ある種の軍事介入が正当化されるケースだった。主にNATOの空爆が行われ、最終的には和平合意(peace accords)に至った。しかし、その10年後、ボスニアのような人道的介入になるという理由で、イラク侵攻を主張する人たちがいたことをよく覚えている。何だと? ある国に攻め込んで、その国の隅々まで作り直すことと、大量殺人者が別の国で大量虐殺を行うのを阻止することが、どうして同じことだと言うのだろう?

そう、違うのだ。そして、ウクライナの状況と似たような比較をするような強制は避けるべきだ。教訓は次のようなものだ。歴史的類似性(historical parallels)を安易に使うことには常に注意を払うこと。ウクライナに軍事的に関与するということは、ロシアとの戦争に巻き込まれるということであり、脅威冷戦時代の越えられない一線、核兵器による消滅というを越えることである。プーティンは引き下がるかもしれない。しかし、彼が引き下がらなかったとしても、ここでの戦いはあくまで経済的なものだ。バイデンがかつてウクライナをNATOに加盟させることを熱望していたとしても、彼は今の状況を理解している。もしプーティンが参戦し、好戦派が国を熱狂の渦に巻き込もうとし始めたら、彼は自分の戦争への非関与を貫くべきだ。

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ネオコンたちがウクライナで新たな惨事を引き起こそうとしている(Neocons bent on starting another disaster in Ukraine

-アメリカの外交政策は、明らかに、毒舌で欲張り、そして何よりも無謀なエリート集団の人質となっている。

ジェイムズ・カーデン筆

2021年12月15日

『アジア・タイムズ』紙

https://asiatimes.com/2021/12/neocons-bent-on-starting-another-disaster-in-ukraine/

いずれにしても、ワシントンのネオコンたちは、生き残るための正確な本能を持っている。2001年9月11日のテロ攻撃以来20年間、イラク戦争からリビアとシリアでの大失敗に至るまで、数々の惨事を引き起こしてきたネオコンたちは、失敗の芸術を完成させているようだ。

ハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルトは「ネオコンであることは、決して謝る必要がないということを意味する」と述べたことがある。この点でケーガン一族の話は参考になる。

『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであり、ブルッキングス研究所の上級研究員で、『ザ・ジャングル・グロウズ・バック(The Jungle Grows Back)』のような偽史の著者でもあるロバート・ケーガンは、長年にわたってアメリカの軍国主義(American militarism)の主唱者であった。

弟のフレデリックはネオコンが主流派となっているアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員である。2021年12月7日付の『ザ・ヒル』にフレデリック・ケーガンが寄稿し、ロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにも存亡の危機が訪れると主張し、それは新しい鉄のカーテン(Iron Curtain)となりうるものだ、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開させることによってのみその状況に対応できる、と主張した。

フレデリック・ケーガンと妻キンバリーは戦争研究所を率いている。夫妻は失脚した元CIA長官デーヴィッド・ペトレイアスの側近だった。実際、フレデリック夫妻は、2007年から2008年にかけて、ジョージ・W・ブッシュ政権が追求した米軍増派戦略のブレインとして頻繁に言及される存在だった。

しかし、ケーガン一族で最も有力なのは、フレデリックの兄ロバートの妻で政治担当国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドだ。

バラク・オバマ政権で、ヌーランドは米国務省報道官を務めた。彼女は明らかに不適格であり(現報道官の資質を考慮すればなおさらだ)、その後、ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補に就任した。

2014年2月にウクライナで民主的に選ばれたヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領の転覆を画策し、国連によると1万3000人以上が死亡した内戦(civil war)を招いたのは、ヌーランドがその役割を担っていたからだ。

アメリカがロシアとの戦争という重大なリスクに晒されている理由の一つは、ここまでに至った政策についてほとんど議論されていないが、ワシントンの外交政策が事実上、排他的なサークルによって行われていることだ。

そして、このサークルはケーガン一族のような人々によって独占され、支配されている。

ワシントンの既存メディアは、官僚機構のための永続的なエコーチェンバーとして機能することで、こうした外交政策を永続させる役割を担っているのである。その証拠としては、『ワシントン・ポスト』の社説では、ウクライナ危機が始まった当初から、外交と関与を求める声を軽率に退け、その代わりに、完全な戦争(outright war)を呼びかけている。

その一例が2014年8月21日にワシントン・ポスト紙の社説に掲載された見解だ。

「停戦や、外交交渉につながる何らかの一時的な停止を模索したくなるところだ。しかし、一時停止と外交で何が達成されるだろうか? ウクライナに禍根を残すような交渉は避けなければならない。受け入れられる唯一の解決策は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略を撤回させることだ」。

『ナショナル・インタレスト』誌の編集者ジェイコブ・ヘリブラウンと私が当時次のようにコメントした。「無慈悲な態度とほぼ同程度に悪いのは、率直さの欠如である。ワシントン・ポストは、プーティンの侵略を逆転させるためにどのような提案をするのかについて何一つ実際に説明していない」。

これは現在でも変わらない。ウクライナをめぐってロシアと戦争すると豪語するアームチェア・ウォリアー(安楽椅子に座って戦争を論じる言葉だけお勇ましい人)たちは、そのような「逆転」がどのように行われるのか、更に言えば、米露間の戦争が成功する確率はどの程度なのか、まったく議論していないのだ。

ウクライナ危機が始まった約8年前からあまり変わっていない。2021年12月7日のアメリカ連邦上院外交委員会(SFRC)でヌーランドが行った「米露政策の最新情報」に関する証言について少し考えてみよう。

ヌーランドは次のように証言した。

"ロシアのプーティン大統領がウクライナへの攻撃や政府転覆を決定したかどうかは分からない。しかし、そのための能力を高めていることは確かだ。この多くは、2014年のプーティンの脚本に沿ったものだが、今回は、より大規模で致命的な規模である。したがって、正確な意図やタイミングが不明であるにもかかわらず、私たちはロシアに方向転換を促すとしても、あらゆる事態に備えなければならない」。

ヌーランドは更に、アメリカ政府は2014年以来、ウクライナに24億ドルの「安全保障分野での支援」を行い、本年度分としてこれまで4億5千万ドルがその中に含まれていると指摘した。

この巨額の投資に対して、アメリカはどのような見返りを得たのだろうか?

連邦上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、ロシアが自国の国境で圧倒的な軍事的優位性を持っていないという印象を抱いているようだ。同様に、民主党のベン・カーディン連邦上院議員は、ロシアがウクライナに侵攻すれば「私たち(アメリカ)にはエスカレートする必要がある」と言い切った。

一方、共和党所属のトッド・ヤング連邦上院議員は、ヌーランドに対して「ロシアの侵略に対抗するために、政権はどのような方策を検討しているのか」と迫り、民主党所属のジャンヌ・シャヒー連邦上院議員は、エストニアの国会議員との対話の中で「ウクライナ問題に関するヨーロッパの結束」の重要性について語られたと述べた。

また、エストニアの国会議員共に、ポーランドなどの東欧諸国の国会議員たちも、「バルト諸国にさらに軍隊を駐留させるか、させないかについて懸念を表明したとシャヒーン議員は述べた。

この日、最も鋭いコメントをしたのは共和党のロン・ジョンソン連邦上院議員だった。ジョンソン委員は外交委員会が珍しく超党派の合意を達成したことに明らかに誇らしげだった。彼はさらに、アメリカはウクライナを支持し、ロシアに対抗するために「団結」しているのだと強調した。

そしてジョンソンの発言内容は全く正しいものだ。外交委員会は、アメリカが何の条約上の義務も負っていないウクライナをめぐる紛争を望むことで完全に一致した。

実際、ヌーランドも連邦上院外交委員会も、アメリカの国益が存在しない場所を見ているようだ。より心配されるのは、制裁と軍事的脅威を組み合わせることで、アメリカから何千キロも離れた場所で起きている紛争の結果を形成する、アメリカの能力、いや、義務に対する盲信のようなものを持っているように見えることである。

今回の連邦上院外交委員会の公聴会が明確に示したことは、アメリカの外交政策が毒と欲にまみれたおり、そして何よりも無謀なエリート集団の人質になっていることだ。そのエリートには、外交委員会の委員たち、公聴会で証言する政府高官たち、外交委員会にブリーフィングするスタッフたち、スタッフが信頼する学者や政策担当者たち、そして「匿名」の政府筋から聞いたことを無批判に書き写す記者やジャーナリストが含まれる。

このように、われわれが直面している最も緊急な問題は、次のようなものだ。手遅れになる前に、良心のあるアメリカ人はどうやって彼らの権力支配を断ち切るか?、である。

※ジェイムズ・W・カーディン:『ザ・ネイション』誌の外交専門記者を6年間務めた。その他に様々な出版物に記事や論稿を掲載してきた。それまでは米国務省の顧問を務めたサイモン・ウィール政治哲学センター理事、アメリカ・ロシア協力アメリカ委員会上級コンサルタントを務めている。

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ネオコンであることは決して謝罪する必要がないということだ(Being a Neocon Means Never Having to Say You’re Sorry

-この人たちはイラクのあらゆる面で間違っていた。なぜまだ彼らの言うことを聞かなければならないのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2014年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2014/06/20/being-a-neocon-means-never-having-to-say-youre-sorry/

2001年から2006年のある時点まで、アメリカはネオコンヴァティヴィズムを信奉する人々(ネオコン)が外交政策の中核をなすプログラムに従った。この巨大な社会科学的実験の悲惨な結果(disastrous results of this vast social science experiment)は、これ以上ないほどに明らかである。ネオコンのプログラムは、米国に数兆ドルとアメリカ軍将兵の数千人の死傷をもたらし、イラクとその他の地域に殺戮と混沌をもたらした。

リンドバーグやマコーミックのようなアイソレイショニズムの信奉者たちが、第二次世界大戦で、ディーン・ラスク元国務長官がヴェトナム戦争で疎外されたように、ネオコンたちの信用は永遠に失墜するのではないかと考える人もいるだろう。たとえ、ネオコンが自分たちの愚行が引き起こした失敗にもめげず、自分たちの主張に固執し続けるとしても、合理的な社会は彼らにほとんど注意を払わないだろうと予想される。

しかし、アンドリュー・バセヴィッツ、ジュアン・コール、ポール・ウォルドマン、アンドリュー・サリヴァン、サイモン・ジェンキンス、ジェイムズ・ファローズといった、多くの論客が落胆したように、ネオコンの論客たちは今日も健在である。CNNをはじめとするニュースチャンネルの一般視聴者たちは、ポール・ウォルフォヴィッツ、ディック・チェイニー、ビル・クリストルらの空疎な(vacuous)分析に接しているのである。

より懸念されることは、バラク・オバマ大統領が圧力に屈して、イラクの無能で悩めるマリキ政権を助けるために300人のアメリカ軍顧問団を派遣したと思われることだ。いつものように、オバマ大統領は新たな泥沼を警戒し、アメリカの関与を制限しようとしているようだ。しかし、彼は滑りやすい坂道への第一歩を踏み出し、この最初の動きが成功しなければ、もっとやるようにという追加の圧力に直面することになるだろう。

一体何が起こっているのか? ネオコンの最新の戦争推進キャンペーンの論理を破壊している人々がいる。ネオコンの一連の悪いアドヴァイスに対する強力な再反論は、前述の論客たちの記事を読むとよい。あるいは、バリー・ポーゼンが『ポリティコ』誌に寄稿した、ネオコンのあまりにも有名な妨害行為に対する有効な警告を提供している記事も読んで欲しい。

しかし、過去の失敗を考えると、ネオコンがあらゆるレヴェルの説明責任(accountability)から免れているように見えるのはどうしてだろうか? 一つのグループが、これほど頻繁に、これほど高いコストをかけて間違いを犯しながら、それでもなお、上層部でかなりの尊敬と影響力を維持できるのはなぜなのか? アメリカがネオコンに少しでも耳を傾けることは、ワイリー・E・コヨーテにロードランナーの捕まえ方を聞いたり、故ミッキー・ルーニーに結婚のアドヴァイスを求めたり、バーニー・マドフに退職金の運用を任せたりするようなものである。

私の知る限り、ネオコンが奇妙なほど持続しているのは、相互に関連する4つの要因によるものである。

(1)厚顔無恥(No. 1: Shamelessness

ネオコンサヴァティヴィズムが生き残っている理由として、そのメンバーが、自分たちがどれだけ間違っていたか、あるいは善悪そのものを気にしていないことである。トロツキー派やシュトラウス派のルーツに忠実なネオコンは、政治的目標を達成するために、常に真実を弄ぶことを厭わない。例えば、彼らはイラク戦争を売り込むために、情報を捏造し、とんでもない虚偽の主張をした。そして今日、彼らは現在のイラクの混乱に対する自らの責任を否定し、オバマによって浪費された戦争の大成功を描くために、同様に虚偽の物語を構築しているのだ。そして、この運動全体が先天的に誤りを認めることができず、自分たちが浪費したり取り返しのつかない損害を与えたりした何千人もの人々に謝罪することができないようだ。

著名なネオコンの知識人で、イラク戦争の初期の推進者ロバート・ケーガンが、来月行われるヒラリー・クリントンの選挙資金調達パーティのトップを務めることが、『フォーリン・ポリシー』誌によって明らかにされた。この動きは、クリントン陣営が著名な共和党員と関わりを持とうとする姿勢の変化を示すものであり、ドナルド・トランプ大統領の誕生を阻止するために、共和党の離反者がどこまでやる気があるかを示す最新の兆候である。

つまり、リチャード・ニクソンやシルヴィオ・ベルルスコーニと同様に、ネオコンたちは、自分たちが何度間違っていたかを気にせず、世間の注目を浴びるためならどんなことでもする、あるいは言う、という姿勢でカムバックを繰り返している。また、自分たちの度重なる政策の失敗がもたらす悲劇的な人的結果には、まったく無関心であるように見える。ネオコンであることは、決して「申し訳ございません」と言う必要がないことを意味するようだ。

(2)資金援助(No. 2: Financial Support

ネオコンの生き残りの第二の源泉は資金だ。アメリカの開かれた政策アリーナでは、雇用を維持し、活動するためのプラットフォームと組織を提供する資源さえあれば、ほとんど誰でもプレイヤーになることができる。2003年にアメリカを崖っぷちに追い込んだネオコンは、ベルトウェイ(ワシントンの内部)で疎外されるどころか、『ウィークリー・スタンダード』誌、アメリカン・エンタープライズ研究所、カーネギー財団、外交問題評議会、戦争研究所、ハドソン研究所など、資金力のあるシンクタンク、雑誌などを出す組織から支持され続けている。エリオット・エイブラムスのように何度失敗しても、資金力のある外交評議会の上級研究員になれるのなら、アメリカの政策論議において間違ったアドヴァイスが目立つようになるだろう。

(3)言い分をそのまま受け入れ共感するメディア(No. 3: A Receptive and Sympathetic Media

ネオコンは、主流メディアが彼らに注目し続けなければ、その影響力はかなり小さくなる。彼らは自分たちの雑誌を出版したり、フォックス・ニューズに出演したりすることもできるが、大きな力を発揮するのは、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ワシントン・ポスト』紙などのメディアで彼らが注目され続けていることだ。ネオコンは依然として論説ページに頻繁に登場し、外交政策の様々な問題について記者たちからよく引用されている。

このような傾向は、主要メディアの重要なメンバーが、自らネオコンであったり、その基本的な世界観に強く同調していたりすることも一因となっている。ニューヨーク・タイムズのデイヴィッド・ブルックス、ワシントン・ポストのチャールズ・クラウトハマーとフレッド・ハイアット、ウォールストリート・ジャーナルのブレット・スティーヴンスは、いずれもネオコン信奉者で、もちろん当初から戦争推進派では著名な発言者だった。ニューヨーク・タイムズ紙は2005年にクリストルを起用し、論説コラムを書かせたが、それはイラク情勢が既に悪化していた後だった。クリストルの論稿がそれほど退屈で杜撰な内容でなかったなら、彼は今日もまだコラムニストを続けているかもしれない。

しかし、ネオコンが主要な報道機関に存在し続けるということだけが問題ではないのだ。

ネオコンが影響力を持ち続けているのは、アメリカの他のメディアが「バランス」にこだわっているからであり、無頓着な記者たちは、オバマ政権やよりハト派的な声から何を言われても、いつでもタカ派のネオコンの言葉を引用してバランスを取れることを知っているからである。記者が正確さよりもバランスが重要だと考えている限り、新保守主義者は自分たち特有の外交政策に関する当てにならない商品(スネークオイル、snake oil)を売り込む場所をたくさん見つけることができるのだ。

(4)リベラル派の同盟者(No. 4: Liberal Allies

ネオコンの持続性にとっての最後の源泉は、彼らの近いいとこである、リベラル派の介入主義者(liberal interventionists)から継続的な支持を得ていることである。ネオコンは、イラク侵略というアイデアを作り出したかもしれないが、様々な種類のリベラルなタカ派から多くの支持を得ていたのである。前にも述べたように、この2つのグループが唯一意見を異にする主要な問題は、国際機関の役割についてであり、リベラル派は国際機関を便利な道具と見なし、ネオコンはアメリカの行動の自由を妨げる危険な制約と見なしている。つまり、ネオコンはリベラルな帝国主義者のステロイド版であり、リベラルなタカ派は実際にはより親切で優しいネオコンに過ぎないのだ(Neoconservatives, in short, are liberal imperialists on steroids, and liberal hawks are really just kinder, gentler neocons.)。

リベラル派の介入主義者たちはネオコンの計画に加担しているため、ネオコンをあまり批判したがらない。それは、そんなことをしてしまうと、ネオコンの悲惨な計画における自らの過失に注目が集まるからだ。したがって、ピーター・ベイナートやジョナサン・チェイトのようなリベラルなタカ派が、イラク戦争を支持していたにもかかわらず、最近になって、ネオコンの立場を厳しく批判しつつ、イラクをめぐる新しい議論に参加するネオコンを擁護していることは、驚くにはあたらない。

ネオコンとリベラル派の同盟は、事実上、ネオコンの世界観を再正当化し、アメリカ主導の戦争に対する彼らの継続的な熱意を「正常(normal)」に見せているのである。オバマ政権にサマンサ・パワーやスーザン・ライスのような熱心な介入支持者がいて、アン・マリー・スローターのような元オバマ高官が、シリアに武器を送る必要性についてネオコン的な議論をしているとき、ネオコンは米国政策コミュニティの中で完全に立派な一派のように聞こえ、むしろ彼らの考えが実際にはどれほど極端で信用できないものであるかが強調されているのである。

圧倒的な証拠を前にしてもなお、影響力と地位を維持するゾンビのような能力は、F・スコット・フィッツジェラルドが間違っていたことを教えてくれる。アメリカの人生には実際、無限の「セカンドチャンス」があり、アメリカの政治システムにはほとんど、あるいはまったく説明責任がない。ネオコンの持続力はまた、アメリカが無責任な言説から逃れられるのは、それが非常に安全だからだということを思い起こさせる。イラクは大失敗で、アフガニスタンでの敗北への道を開くことになった。しかし、一日の終わりには、アメリカは帰ってきて、おそらくちょうどいい状態になる。確かに、ネオコンの空想に耳を傾けなければ、何千人もの市民が今日も元気に暮らしていただろうし、1993年以降の彼らの処方箋を儀礼的に無視していれば、アメリカ人は海外でもっと人気があり、国内ではもっと繁栄していただろう。何十万人ものイラク人も生きていただろうし、中東の状態もいくらか良くなっていただろう(これ以上悪くなりようがない)。

ネオコンの影響力を適切な次元(つまり、ほとんどゼロ)まで低下させるものがあるとすればそれは何だろうか? もし、この10年間がネオコンの信用を失墜させなかったとすれば、これからどうなるかは明確ではないということだ。モスクワや北京の指導者たちは、この事実から大きな安心感を得ているに違いない。アメリカが危機から危機へ、そして泥沼から泥沼へと転落し続けることを確実にするためのより良い方法はどんなものだろうか? この社会が、確実に間違っている人ではなく、一貫して正しい人の意見に耳を傾けるようになるまでは、私たちは同じ過ちを繰り返し、同じ悲惨な結果を招くだろう。ネオコンはそんなことを気にしないだろうが。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 ネオコンの著名な評論家であるロバート・ケーガンが、ヒラリー・クリントンの政治資金集めのイヴェントを開催するという情報が入りました。たったこれだけのことですが、『フォーリン・ポリシー』誌では記事になりました。こんなことは、それだけ、「奇妙なこと、おかしなこと」なのです。

 

 共和党ではドナルド・トランプが大統領選挙候補者に内定していますが、これに対して、共和党内の外交政策専門家たち、特にネオコンに属する人々は、トランプに嫌悪感を示しています。このブログでもご紹介しましたが、共和党内の外交専門家たちは、3月にはトランプに反対する公開書簡を発表しています。

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ロバート・ケーガンとヴィクトリア・ヌーランド 

 

 ですが、ついに、ヒラリーの政治資金集めにまで協力するネオコンが出てきました。それは、ロバート・ケーガンです。ロバート・ケーガンは一家そろって、父親も夫人も、弟夫婦もネオコンという筋金入りです。奥さんのヴィクトリア・ヌーランドについても何度もご紹介していますが、こちらは国務省のキャリア外交官です。ヒラリーが国務長官の時にはヌーランドは国務省報道官を務めていましたし、ロバート・ケーガンは長官直属の超党派の諮問会議のメンバーでした。

 

 個人的には関係が深いというのは分かるのですが、資金集めをやるとなると、これは共和党に対する裏切り行為です。こういう動きが出てきているというのは、共和党内部に相当な亀裂とダメージがあるということの証拠になります。

 

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スクープ:共和党所属でネオコンとして有名な人物がヒラリー・クリントンのために資金集めを行う(Prominent GOP Neoconservative to Fundraise for Hillary Clinton

 

ジョン・ハドソン筆

2016年6月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/06/23/exclusive-prominent-gop-neoconservative-to-fundraise-for-hillary-clinton/

 

 著名なネオコン派の論客にしてイラク戦争を早くから主張していたある人物が、来月、ヒラリー・クリントンの選挙資金集めの集まりを開くことが『フォーリン・ポリシー』誌の取材で明らかになった。この動きはヒラリー・クリントン陣営が著名な共和党員や共和党支持者たちと協力する姿勢になっていること、更には共和党員や支持者の中にドナルド・トランプの大統領選挙当選阻止のためにかなりの禁じ手をやる人たちが出てきていることを示している。

 

 ブルッキングス研究所上級研究員で、シンクタンク「プロジェクト・フォ・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー」の共同設立者であるロバート・ケーガンは、7月21日にワシントン市内のローガン・サークル地区で「ヒラリー・フォ・アメリカ」の資金集めのための集まりを開く予定だ。本誌が入手した招待状には次のような文言が記載されている。「このイヴェントでは、アメリカのNATO、ヨーロッパの主要な同盟国とパートナー、そしてEUに対するこれからも続けられる投資に関してオフレコの会話も行われる予定です」。

 

 本誌はケーガンにコメントを求めたが返答はなかった。

 

 ヒラリー・クリントン陣営では、トランプの高い不人気と彼の攻撃的なコメントのために、伝統的な共和党支持者たちからの得票を期待できると考えている。そして、陣営では共和党支持者たちに積極的に働きかける動きが始まるだろう。

 

 ヒラリー陣営ではしかし、このような動きについては慎重になっていた。それは、民主党左派で予備選で激しく闘ったバーニー・サンダースや彼の支持者からの批判を受けたからだ。サンダースはヒラリーが上院議員時代の2002年にイラク戦争に賛成の投票を行ったこと、ヘンリー・キッシンジャーの様な批判が多い共和党側の人物たちやウォール街とも深い関係を持っていることを批判した。

 

 2月に行われた討論会で、サンダースは「ヒラリー・クリントン氏は著書と今回の討論において、ヘンリー・キッシンジャーからの推薦、もしくは支持をとりつけようとしている。私は驚き以上のものを感じている。それは、ヘンリー・キッシンジャーがアメリカ史上最もアメリカを破壊した国務長官であると私は考えるからだ」と述べた。

 

 共和党内の外交政策の専門家たちの多くがトランプを非難しているが、ヒラリーを支持すると公言している人の数はもっと少ない。しかし、亀裂は表に出始めている。

 

 6月22日、ヒラリーは共和党のブレント・スコウクロフトの推薦を取り付けた。スコウクロフトは、ジョージ・HW・ブッシュ(父ブッシュ)、ジェラルド・フォード両大統領の大統領国家安全保障担当補佐官を務めた。また、リチャード・ニクソン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領には助言者として仕えた。

 

スコウクロフトは声明の中で、「ヒラリー・クリントン氏は国際問題の分野の経験が豊富で、世界に対する理解も深い。これらの要素はアメリカ大統領に不可欠だと私は考えている」と述べている。

 

 しかし、スコウクロフトは共和党内のリアリストに属している。彼はリベラル派の中のグループと同じく、「アメリカはあまり外国に介入すべきでない」という世界観を持っている。一方、ケーガンはネオコンに属している。ネオコン派、軍事力の行使、独裁者の軍事力を使った排除、民主政治体制の世界への拡散を中心に据えたイデオロギーだ。

 

 民主党の大統領選挙予備選が熱を帯びていく過程で、サンダースを支持する有名人たちは、ヒラリーとケーガンやネオコンのよりタカ派的な政策を結び付けようとした。彼らはそのために、ケーガンのヒラリーに対する好意的な発言を引っ張り出してきた。

 

 2014年、『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対して、ケーガンは次のように述べている。「外交政策の面で、ヒラリー・クリントンと一致する点は多い。彼女がやりたいだろうなと私たちが考える政策を彼女がやったら、それはネオコン的な政策と呼ばれるものになるだろう。しかし、彼女の支持者たちはそれをネオコン的とは呼ばないだろう。何か他の言葉を付けるだろう」。

 

 ここ数年、ケーガンは、シリアにおける5年にわたる内戦にアメリカが介入していないことと、ウクライナ紛争においてロシアに対してより強硬な姿勢を取らないことに関し、オバマ政権を厳しく批判してきた。ケーガンはまた、連邦予算において国防予算の増額を求めている。ケーガンの考えは、彼が最近『ニュー・リパブリック』誌に掲載した論稿のタイトル「超大国は引退などできないのだ」に要約される。彼は論稿の中で、世界においてアメリカは更に外交的、軍事的存在感を増すようにすべきだと主張している。

 

 ケーガンはNATOの熱心な支持者であり、擁護者である。そのため、トランプの考えとは真っ向から対立する。トランプは軍事同盟を「時代遅れ」なものであり、ヨーロッパに同盟諸国には、自国のGDPの2%以上を防衛費として支出しないのなら、制裁を加えるべきだと考えている。NATOに加盟している28カ国でこの基準を満たしている国はほとんどない。ヒラリー・クリントンは最近の複数の演説でNATOを擁護している。

 

 ケーガンはヒラリー・クリントンが国務長官を務めていた時期に国務省報道官を務めたヴィクトリア・ヌーランドの夫である。ヌーランドは現在、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めている。ヌーランドは、オバマ政権に対して、ウクライナでの紛争でアメリカはより積極的な役割を果たすように強く主張したことで知られる。

 

 カンブリアホテルで開催されるイヴェントの入場券の値段は1枚100ドルだ。イヴェントのスピーカーと主催者と話が出来るパーティーに出席できるVIPチケットは1枚250ドルだ。「主催者」の待遇を得るためのチケットは500ドルである。

 

(終わり)

 






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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

ヌーランドとホワイトハウスとの間で考えは一致していないが、民主、共和両党に属する連邦議員たちは、ヌーランドの言っていることは正しいと確信を持っている。

 

 連邦下院外交委員会で民主党側を率いる議員でミュンヘン安全保障会議にも出席したエリオット・エンゲルは次のように発言している。「彼女の話を聞くと元気が出る。私たちはウクライナに対して防衛を目的とした武器を供与すべきなのだ。ロシアがいつもウクライナを打ち破るという主張に私は与しない。それは敗北主義的態度だと思う」。

 

 エンゲルのタカ派的態度は彼だけのものではなく、連邦議会上下両院の議員たちの多くの態度でもある。

 

 2014年12月、連邦議会は多くの議員の賛成により、大統領に対してウクライナに、弾薬、兵士が操縦する調査用のドローン(無人飛行機)、対戦車兵器を含む最終的な支援を与える権限を与える法律を可決した。オバマ大統領も可決された法案に署名することに同意した。それはこの法律は大統領にウクライナへの支援を強制する内容ではなかったからだ。連邦上院は今週、新しい戦術を試すために、法律の改正を行おうとしている。この改正は、対ウクライナ支援のための予算のうちの20%までが使われるまでの間、ウクライナの安全保障支援のための3億ドルの半分の執行を停止するという内容だ。この法律改正についてはホワイトハウスが反対している。それは、アメリカが最終的な支援を行うことでウクライナにおける流血の惨事がエスカレートし、プーティンには更なる暴力的な侵攻を行うための口実を与えることになるとホワイトハウスは恐れているのだ。

 

 アメリカ連邦議会とホワイトハウスの政策の違いが、ヌーランドと彼女に応対するヨーロッパ諸国の外交官たちの間の不和の原因だという説明もなされているが、彼女の厳しい姿勢もまた原因だと主張する人々もいる。

 

ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究所(SAIS)の上級研究員フェデリガ・ビンディは「ヌーランドの攻撃的な姿勢は、少なくともヨーロッパの外交界においては行き過ぎのように感じられている」と述べている。

 

 ヌーランドを擁護する人々は、ヌーランドの「厳しい愛情」という特徴こそ、昨年のロシアによるクリミア併合後のロシアに対するアメリカ政府の対応に必要であったと述べている。

 

 ホワイトハウスの戦略は、厳しいが非軍事的な方法を混合させた形の対ロシア政策を実施し、それによってヨーロッパの団結を図るというものである。この政策に含まれるのは、昨年9月に開始されたアメリカとEUによるロシアのエネルギー国営企業、武器製造企業、金融部門を標的とした経済制裁、G8からのロシアの除外、同盟諸国に対してプーティンをそれぞれの首都に招かないこと、もしくはロシアを国賓待遇で訪問をしないように求めることだ。

 

ヨーロッパの団結を維持するのは易しい仕事ではない。

 

 ロシアを軍事的に抑止する問題について、ヨーロッパは混乱している。バルト海沿岸諸国はより攻撃的な対応を求めているが、イタリアとギリシアは外交による対応を求めている。EUの中で最も力を持つドイツとフランスはこの2つの解決策の中間的な解決を求めている。

 

 制裁については、ヨーロッパ諸国の首脳はアメリカよりも腰が引けている。それは、ヨーロッパ諸国はロシアの各企業との間で長年にわたり、友好的な関係を築いているからだ。禁輸政策の結果、フランスの農産物輸出とイタリアの観光業は大きな痛手を蒙っている。

 

 ヨーロッパ諸国が対ロシア制裁から離脱する場合、ヌーランドに対してそれを伝えねばならない。これはなかなか荷厄介で一筋縄ではいかない。

 

 2015年3月中旬、ヌーランドはローマを訪問した。この時、イタリア首相マッテオ・レンツィは、ロシアがクリミアを併合して以来、ヨーロッパ諸国の首脳としてモスクワを初訪問し、プーティンと会談してイタリアに帰国したばかりであった。

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マッテオ・レンツィ 

 

 イタリアはプーティンを孤立させることを目指す西側の政策に批判的であった。ヌーランドはレンツィがロシア訪問を行った後初めてイタリアを訪れたアメリカ政府高官であり、レンツィに圧力をかけるという困難な仕事を行った。ある外交関係者によると、ヌーランドはレンツィに対して激しい言葉遣いで非難を行い、レンツィは侮辱されたと感じ、怒り狂ったということである。

 

 あるオバマ政権高官は、このメッセージはレンツィに届ける必要があるものだったと協調している。この高官は次のように述べている。「オバマ政権の政策は、同盟諸国がプーティンを首都に招かない、またプーティンから国賓待遇で招待されてもそれを受けないように求めることだ。アメリカ政府の高官たちは、イタリア政府に対して、レンツィ首相の訪露に対して懸念を持っていると伝えてきた」。

 

 ヨーロッパ諸国からの不信感があることは認めながらも、この高官は、ヌーランドのメッセージは「怒りではなく、失望をヨーロッパ諸国に与えた」と述べた。

 

 この厳しい姿勢を理由にして、アメリカ政府や連邦議会の人々はヌーランドを賞賛しているのである。

 

エンゲルは、「彼女は率直にあるがままに話す。何か守ろうとかごまかそうとかしない」と語った。

 

* * *

 

 ヌーランドはフランス語とロシア語を不自由なく操る。20代の頃、ロシア語を学ぶために数カ月にわたり、ソ連のトロール漁船に乗船したのだが、この時にソ連(ロシア)に対する激しい憎しみを抱いたと言われている。

 

ヴィクトリア・ヌーランドの父シャーウィン・ヌーランドは既に亡くなっているが、イェール大学教授として有名であった。ヴィクトリアの夫ロバート・ケーガンはネオコンに属する有名な評論家である。彼女の人生は力を持った、人々の心を動かす表現者たちに囲まれていると言える。

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 ロバート・ケーガン

 

 ケーガンは、新アメリカ世紀プロプロジェクト(PNAC)の創設者の1人であり、悲惨な結果に終わったアメリカ軍のイラク侵攻を最も強力に主張した人物である。枯れもまたヨーロッパの人々を苛立たせた人物として有名である。彼は外交政策分野におけるアメリカとヨーロッパの分裂について論稿を書いた。この中で、軍事力の使用について、「アメリカ人は火星から、ヨーロッパ人は金星から生まれたくらいに違いがある」と書いた。

 

 ヌーランドは宣誓式において、自分の結婚生活について、夫ケーガンの論稿に言及しながら次のように述べた。「彼は私の火星であり、金星であり、そして地球です」。

 

 昨年、ヌーランドとケーガンは、『ポリティコ』誌の取材に対して、最初の数回のデートで民主政治と世界におけるアメリカの役割について話したことで意気投合し、恋に落ちたと語った。

 

 ヌーランドがケーガンと結婚しているため、ヨーロッパ人の殆どは、彼女が共和党員だと思っている。しかし、彼女のロシアに対するタカ派的なアプローチはオバマ政権内部で彼女だけが採っているものではない。

 

 複数のアメリカ政府関係者によると、アメリカ政府の最高首脳たちも私的な場ではウクライナへの武器供与を支持しているということだ。その中には、ケリー国務長官、アシュトン・カーター国防長官、ジョー・バイデン副大統領、ミュンヘン安全保障会議でヌーランドと共にブリーフィングを行ったブリードラヴ空軍大将も含まれている。カーターは自分の考えを公然と話し、それが放送された。カーターは2015年2月の上院軍事委員会に出席し、「私はウクライナへの武器供与を支持する。それは、ウクライナが自国防衛をすることをアメリカが支援しなくてはならないと考えているからだ」と述べた。

 

 オバマ政権内でヌーランド以外にもウクライナ問題について発言している人物が2人いる。1人は国家安全保障会議ヨーロッパ問題担当上級部長チャールズ・カプチャンであり、もう1人はロシア・ユーラシア担当上級部長セルスティ・ワーランダーである。カプチャンとワーランダーの考えは、彼らの学問研究の成果から生み出されたものだ。カプチャンは長年にわたり、NATOに対して疑義を持っていた。彼は危機的状況の軍事力による解決に疑念を持ってきた。彼の存在と疑念によって、よりタカ派的な解決策が国家安全保障会議を通過することはなく、まさに知的な防波堤と言うことが出来る。

 

 ヌーランドは、国務省の人々の多くが持つウクライナ危機に関する主流の考えから逸脱してはいない。しかし、ヨーロッパの人々のヌーランドが大変なタカ派であるとい印象を和らげることはすぐにはできないだろう。それは彼女が取り返しのつかないことで有名になってしまったからだ。ウクライナ国内の反対勢力とウクライナ元大統領のヴィクトール・ヤヌコヴィッチとの間の政治的対立が大きくなっていた2014年、彼女の私的な電話での会話が録音され、何者かによって漏洩されたのである。

 

 皮肉なことに、この会話録音の漏洩によってヌーランドは有名になったが、彼女が国務次官補としてやってきた仕事を誰も理解しようとはしなかった。

 

 アメリカ、ヨーロッパの外交筋からの情報だと、その当時にさんざん報道された内容とは異なり、ヌーランドの余計なひと言は、EUのヤヌコヴィッチ政権に対する姿勢に対する不満、またはEUに対するヌーランドの日ごろの考えから出たものではないということだ。

 

 F爆弾(fuckという言葉を使ったこと)が世界を駆け巡ったのだが、これは2014年1月初頭まで遡る技術的な不同意の結果として生まれたことなのである。当時、数多くの人々がキエフの独立広場での抗議活動に参加し、ヤヌコヴィッチ大統領の辞任を求めた。ヤヌコヴィッチは親露的な人物で、多くの公約違反を犯したが、EUとの政治・貿易協定への署名を見送った。

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ウクライナ反対派(ネオナチ勢力)と仲の良いヌーランドとマケイン

 

 アメリカ政府高官たちは、ヤヌコヴィッチに対してその当時の政権を放棄して、反対勢力の指導者たちを参加させるテクノクラート政府の樹立を行うように求めた。数週間の抵抗の後、ヤヌコヴィッチは態度を軟化させ、反対勢力に対して新政府で2つの地位を与えると提案した。これは外交上大きな転換点となった。ずる賢い政治家ヤヌコヴィッチにしてやられることを恐れた反対勢力は、話し合いに第三者、理想的にはEUが加わることを求めた。EUが話し合いへの参加を拒絶したことで、ヌーランドは怒り、そして後に後悔することになった激しい言葉遣いとなってしまったのだ。彼女はヨーロッパ諸国を遠ざけ、国連に肩代わりをさせるとことを考えたのだ。

 

 ヌーランドは次のように語った。「これは良いアイディアなのよ。状況を改善し、国連にその手助けをさせるというのは。ああそうそう、その点ではEUはダメね、クソ喰らえだわ」。

 

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はヌーランドの電話での会話内容を「全く持って容認しがたい」ものだと述べた。ジョン・ケリー国務長官はEUの首脳たちに対してヌーランドの発言内容について謝罪した。

 

 人々の殆どは、電話の録音はロシアの諜報機関が漏洩させたもので、その目的はEUとアメリカとの間の溝を大きくすることだと考えている。

 

 しかし、ここまでのところ、この戦略はうまくいっていない。アメリカとヨーロッパは禁輸政策で多少混乱はしたが、一致した行動を取っている。2015年6月17日、EUは対ロシア禁輸を更に6カ月延長することに合意した。ロシア政府は延長をしないように激しく働きかけを行ったが失敗に終わった。しかし、ロシアの諜報機関は、ヌーランドとヨーロッパ諸国の交渉相手との関係は悪化しているという鵜沢を流し続けている。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 
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