古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:中国

 古村治彦です。

 アメリカの中央情報局(CIA)の対外活動(スパイ活動)はただの監視や情報収集には留まらない。非民主国家や民主国家でもアメリカに敵対的な態度を取る国家の政権を転覆させ、体制自体を変更するということもCIAにとっての重要な仕事である。政治学では「非民主的な体制の崩壊(breakdown of non-democracies)」「民主政体への移行(transition to democracy)」「民主政体の確立(consolidation of democracy)」という段階を経る体制転換を「民主化(democratization)」と呼ぶ。世界各地の「民主化」にCIAが深くかかわっているということは良く知られている。付け加えれば、日本の場合には、自民党に長年にわたりCIAから資金が流入していたということも明らかになっている。詳しく知りたい方はティム・ワイナーの『』を是非読んでいただきたい。 

CIAが民主化運動やクーデターに絡んで体制転換を行っている(行わさせている)。最近で言えば2011年に起きた「アラブの春(Arab Spring)」があるが、これにいかに国務省とCIAUSAID(米国国際開発庁、United States Agency of International Development)が関わっていたか、その源流はジョン・F・ケネディ政権にあったことについては拙著『』を読んでいただきたい。その枠組みは現在も大きく変わっていない。

 昨年あたりから、反米陣営の主要な国々である、イラン、中国、ロシア各国の国内で政権批判、反体制的なデモや騒乱が起きている。これが偶然なのか、CIAが関わっているのかということであるが、おそらくCIAが関わっている部分もあるだろうが、中国、イラン、ロシアの各国でスパイ活動を行うことはかなり難しいのではないかと思われる。

 問題は、これらの国々で反体制運動やデモが行われる場合に、「あれはCIAがやらせているんだ」「ああいう動きは外国(アメリカ)に煽動されているんだ」ということを国内外に印象付けられてしまうということだ。自発的な運動が起きたとしても、それが自発的な動きだと見られないということになる。それが、アメリカが公然もしくは非公然の形で外国に介入してきた副産物である。そして、これらの国々がこうした反対運動を抑え込む際に、「外国(アメリカ)からの介入を防ぐ」という大義名分ができることになる。

 2001年の911事件後に、「ブローバック」という言葉が知られるようになった。これは2000年に『通産省と日本の奇跡』の著者として知られる日本研究の泰斗チャルマーズ・ジョンソンが使った言葉である。ブローバックを日本語に訳すと「吹き戻し」という意味になる。そして、アメリカの外国介入が結果として反撃を食らうということである。アメリカの外国介入は20世紀にはうまくいったが21世紀に入って反撃を受け続けている。それはアメリカの国力の減退を示す兆候である。

(貼り付けはじめ)

アメリカのライヴァル諸国が騒乱に直面している。その原因は幸運(偶然)なのか、それとも作為か?(U.S. Rivals Are Facing Unrest. Is It Due to Luck or Skill?

-大規模な抗議行動は諜報機関にとって好都合な環境を作り出すが、中国、イラン、ロシアではCIAは慎重に行動すべきだろう。

ダグラス・ロンドン筆

2022年12月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/07/china-iran-protests-mass-unrest-cia-luck-or-skill/

ここ数週間、アメリカの主要な敵対国である中国とイランで大規模な街頭デモが発生し、ロシアでは経済と軍事の崩壊の中で戦闘年齢にある男性たちが大量に国外脱出している。これは幸運(偶然)なのか? 偶然の一致か? CIA長官ウィリアム・バーンズは完璧な天才なのか? それとも、アメリカの政策志向を強化するために、このような事態を招来するための周到な準備の結果なのだろうか? 答えは複雑であり、この状況を利用する際のアメリカ政府当局者たちの選択肢もまた複雑となる。

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争が欧米諸国の干渉によるものだとするのと同様に、ロシア国内の抗議行動を扇動する欧米ウ諸国を非難することを何年も前から常々行っている。中国政府は、コストのかかる新型コロナウイルスゼロ政策への怒りに端を発した中国共産党への抗議が続いていることについて、「何かしらの魂胆を持つ勢力(forces with ulterior motives)」のせいだと非難した。全国で抗議活動を行う群衆が増えるにつれ、民主政治体制と自由の拡大を求める声が上がり、中には中国の指導者である習近平の解任を求める声も出るようになった。

イランのエブラヒム・ライシ大統領と最高指導者アリ・ハメネイ師は、イラン北西部出身の22歳のクルド人女性マフサ・アミニが警察に拘束されて死亡した後に始まった抗議行動が続いていることについて、アメリカとイスラエル政府を非難している。彼女は、女性にヒジャブ(スカーフ)の着用を義務づける同国の厳しい規則に違反したとの理由で、テヘランの道徳警察(morality police)に逮捕されていた。イランはまた、反体制派のクルド人グループが騒乱を扇動したと非難し、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard)やクルド人居住区へのミサイル攻撃や無人機攻撃で対抗している。もちろん、アメリカはこの地域のクルド人グループと関係をもっている。

ロシア国内では、プーティンの戦争に対する抗議は限定的であったが、『ワシントン・ポスト』紙が最近取り上げた調査によれば、根底にある亀裂や進行中の地下の反対運動を十分に反映していないかもしれない。徴兵を避けるために何千人ものロシアの軍人たちが国外に逃亡している状況で、ロシア国内での破壊工作は、必ずしもウクライナ人だけがやっている訳ではないようだ。プーティンと彼の戦争を支持する強硬派でさえも批判を強めている。民間軍事会社ワグネル・グループの創設者エフゲニー・プリゴージンやチェチェンの指導者ラムザン・カディロフなどプーティンの取り巻きは、ロシアのセルゲイ・ショイグ防衛大臣やロシアの上級軍司令官に対する攻撃をあからさまに行っている。

アメリカの敵対諸国の中には、国内の敵対勢力に珍しく譲歩しているようにさえ見える国もある。中国では、習近平が3期目の政権を獲得し、香港を掌握し、台湾との統一を目指し、世界有数の軍事・経済大国であるアメリカに挑戦するという、言葉通りの勝利の階段を上るように見えた矢先、新型コロナウイルス規制などの不満から内乱が発生し、その混乱に対応するため、習近平が譲歩しているようにみえる。

習近平政権の国務院副総理の孫春蘭は最近、国家衛生当局に対し、上海を含むいくつかの地域で患者数が増え続けているにもかかわらず、ロックダウンを解除し始め、国は「新しい段階と使命(new stage and mission)」に入りつつあると述べた。孫副首相は、「オミクロン変異体の病原性が低下していること、ワクチン接種率が上昇していること、感染症対策と予防の経験が蓄積されていること」などを理由に変化を予測した。

同様に、イラン国内でも、政権は少なくともある程度は自制しているようだ。モハンマド・ジャファル・モンタゼリ司法長官が、「設置された場所から閉鎖された」と述べたため、その服装規定を執行する道徳警察の状況について、現在、不確実性が生じている。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、この未確認の動きをデモ隊に譲歩した可能性があると報じたが、イランの地元メディアは、モンタゼリ長官の発言は「誤解されている(misinterpreted)」とすぐに指摘した。しかし、イランの高官たちは通常、自ら台本を破ることはなく、今回の発言は試運転のようなものだったのかもしれない。

こうした興奮するような状況にもかかわらず、アメリカ国家情報長官のアヴリル・ヘインズは最近、ジャーナリストたちの取材に応じて次のように述べた「イランの政権が国内の抗議活動を彼らの安定と影響に対する差し迫った脅威と認識しているとは見ていない。一方で、彼ら実際に課題を抱えており、全国的にも散発的な事業の閉鎖が見られる。私たちの観点からは、これは時間の経過とともに不安と不安定のリスクを高める可能性があることの1つだ。イランは高インフレと経済の不確実性により、更なる不安に直面する可能性がある」。

敵を内部から弱体化させることは、プーティンのハイブリッド戦争戦略の1つである。アメリカの主要な敵対諸国の間で明らかになった不安は、機会と同じくらい多くのリスクをもたらす。私は、アメリカの諜報活動が大きな成功の時期があったと私は考えるが、ウクライナにおけるプーティンの意図と紛争に対する中国の対応に関する機密解除された報告によって最も公に反映されているように、イランと中国の現在の不安にアメリカが直接手を差し伸べることを示唆する陰謀論者は失望するだろう. .

不安の種をまくことはアメリカが持つ手段の1つではあるが、結果を制御する手段を持たずにそうすることは一般的に勝利のアプローチとはならない。不安定性は、絶望的な独裁者たちがリスクの高い解決策を海外に求める可能性があるけれども、予測不可能性とエスカレートする可能性につながることになる。国内の影響は、アメリカの利益にとって以前よりも悪化する可能性がある。イラン政府またはロシア政府が打倒された場合、後継者がより民主的で暴力的でないという保証はない。彼らはさらに残忍になる可能性がある。

体制転換を促進することも厄介なビジネスだ。そのような行為には、複雑な政治的、経済的、軍事的なリスク計算があり、その仕組みは、徹底的なアメリカの秘密行動の法的権限と要件によって管理されている。イラン、キューバ、チリ、アフガニスタン、イラクでの長年にわたるアメリカの体制転換の取り組みについては、正確に考慮されておらず、誤った前提に基づいていたが、少なくとも計画は存在した。

体制転換の利益になるか、もしくは単に敵の負担を増やすためであるかにかかわらず、市民の不安を助長することは、予測可能なものもあればそうでないものもある、一連の二次的および三次的な状況につながる可能性があり、実際にそうである。少なくとも、アメリカの諜報機関に多数いる弁護士たちは、このような騒動を助長することは暴力につながることが予想されると警告を発するだろう。その結果には必然的に人の生命が失われることが含まれ、大統領の書面による指示とその後の当局、および連邦議会指導部とその情報監視委員会への通知の覚書が必要になる。

アメリカは、イラクとアフガニスタンで軍事介入(military intervention)を行い、体制転換(regime change)を追求し、それぞれの国の反対勢力に対して、公然の関与と秘密の関与を組み合わせることにより、シリアのバシャール・アル・アサドに対抗した。結果は好ましいものではなかった。1953年8月にイランのムハンマド モサデク首相を打倒したクーデターは、冷戦時代のアメリカの政策立案者たちの目には短期的な利益をもたらしたかもしれないが、イラン人がアメリカをどのように見ているかという永続的な代償は、アメリカの安全保障上の利益に打撃を与え続けている。

CIAが2013年に発表したその役割を認めた文書によると、イギリスの諜報機関MI6とCIAは、今日のロシア、中国、またはイランよりもはるかに寛容で有利な環境で作戦を遂行してきた。1953年のイランは、比較的開放的で民主的な社会だった。クーデターを支援するにあたり、アメリカとイギリスはイスラム教聖職者の間から同盟者たちを募り、賄賂を利用してイランのマジュリス(majlis 訳者註:アラビア語で議会、集会、社交界)と軍の上級将校の協力を確保し、群衆を分断することに成功した。そのようなアプローチは、今日ではより困難になっている。

ロシア、中国、イランなどのより制限的な環境に対して、アメリカは過去に亡命グループと協力して国内の変化を促進してきた。たとえば、アメリカは、サダム・フセインのイラクに対抗して、米国防総省が支援するイラク国民会議のリーダーであるアーメド・チャラビに何よりも依存していたが、彼やそのようなグループが国を代表していないことや、人々からの支持を得ていないことに気づいたのは遅すぎた。

ロシア、中国、またはイランの国外の反体制グループの間で利用できる選択肢は限られている。イランの場合、モジャーヘディーネ・ハルグ (MEK) が存在する。アメリカ諜報機関のイランの専門家たちは、この組織は暴力を放棄し、講演会には超党派の講演者を招聘しているにもかかわらず、かなりカルト的でマルクス主義に傾倒している組織であるので、適度な距離を保つよう、歴代のホワイトハウスに長い間警告してきた。

私のCIAでのキャリアで、自国の体制を変えるための支援を求めてアメリカ政府との関係を求めている政治的反体制派や反乱グループからアプローチされることは珍しくなかった。信頼できるものはほとんどなく、中には、置き換えようとしている政権よりもアメリカの利益にとって潜在的に大きなリスクを提供したものもあった。合法的で進歩的な国内の反対運動を支持することでさえも、アメリカからの協力が暴露されてしまうとそれらの運動の信頼性を損なってしまう。そうなればアメリカの協力は諸刃の剣になる可能性がある。

全ての優れたスパイは、混沌の中にチャンスがあることを知っている。私が3月に『ウォールストリート・ジャーナル』紙に書いたように、「スパイはプーティンを滅ぼすだろう(Spies Will Doom Putin)」。そして、諜報機関のためにそのような機会を利用する幸運(偶然)は、多くの準備と適切な人々との関係の長期的な育成がもたらす。アメリカが対抗している独裁的な権力全体の不安定さと不安は、作戦上偶然で標的が多数存在する環境を作り出している。

CIA は戦略的諜報機関であり貯法活動に長けてはいるが、人々の情熱や動きを把握したり、正統な政治的反対派に関与したりすることは上手にできない。そうしたことはそもそも活動内容としては想定されていない。 CIA は、秘密と権力にアクセスできる者と内密に関与することを得意としており、ロシア、中国、およびイランでの活動はうまくやれていると私は考えている。

CIAの作戦局副局長であるデイヴィッド・マーロウは、ウクライナ侵攻はプーティンにとって大失敗であると形容し、西側諸国の諜報機関が、プーティンに不満を抱いたロシア人たちを結集させる機会につながる可能性があると主張している。マーロウは、限界に追いやられ、外国の諜報機関と協力する傾向にあるロシア人たちについて話した。こうしたロシア人たちの多くが西側諸国と協力する動機は、愛国心(patriotism)、不満(disgruntlement)、今後起こりうる困難な時代に対する保障の追求(the pursuit of an insurance policy against harder times possibly to come)である。

しかし、体制への反対派を活気づけることに成功したことが、アメリカが弱めようとしている独裁政権による建設的な対応につながったとしたらどうだろうか? そのような干渉は、市民の要求に対応するライヴァル(である独裁者たち)を実際に強化し、それによってより強力で有能な敵になることが可能となるのではないか?

 

 

中国では、習近平国家主席による新型コロナウイルス対策制限の緩和は、中国経済を回復させるための救済策になり得るだろうか? イランの神学者たちは、社会的制限の一時的かつ表面的な緩和の可能性に対する反応を測定し、国家主義的なテーマを活用することができるだろうか? プーティン大統領は民主的な譲歩を操作して、幻想の人気を作り出し、それを現実のものにするつもりなのだろうか?

中国は除外できる可能性があるが、そうした可能性は低い。イランには操縦する余地が存在しない。現在の指導者は、権力を維持するために必要な抑圧と残虐行為を正当化するために、保守的な宗教的資格を必要としている。過去の蜂起におけるイラン政権の行動は、1979年の革命から学んだ教訓を反映している。その教訓とは、「国王が失脚する前に試したような部分的な妥協はより大胆な反対を助長するだけだ」というものだ。

プーティンも同様で、彼の無敵のイメージの必要性を確信しているはずだ。「プーティンは弱い」と人々に思わせてしまうような公の場での振る舞いによって損なわれる。このことは、人々がプーティンの外見や振る舞いに慣れてしまうことが引き起こす可能性があるとプーティン自身が認識している。そして、習近平でさえ、抗議者たちの期待とリスク許容度を高めることなしに進める地点はそこまで遠くないが、政治的制限を緩和する必要はほぼないと言える。習氏の最も差し迫った課題は、政治に関して中国共産党を尊重する代償として、14億人の中国国民に強固な経済を提供するという社会契約を維持することだ。経済の安定を回復するには、厳しいロックダウンの後、いくらかの開放が必要になるかもしれない。

ロシア、中国、イランにおいて西側の諜報機関が利益を得ることができる状況と環境は、後退するのではなく、西側に有利な形で構築される可能性が高い。

アメリカは、これらの専制独裁政権の不正行為と悪意のある行動を明らかにし、限定的かつ慎重に検討された例外的な場合を除いで、冷戦中に行ったのと同じように、専制独裁政権の国々の有機的な反対政府グループを組織化し、活性化する必要がある。その支援は、勇気ある国内の努力を損なうことのない方法で必要な範囲で展開されるべきだ。それはそうした国々を正当に反映するグループに拡大されるべきであり、アメリカ政府が解決を望んでいた問題よりも更に大きな問題をアメリカ政府に残すようなことがあってはならない。

※ダグラス・ロンドン:ジョージタウン大学外交学部諜報学教授。中東研究所非常勤研究員。ロンドンは34年以上にわたり主に中東地域、南アジア、中央アジア、アフリカにおいて、ロシア語担当工作オフィサー、CIAクランデスタイン・サーヴィスを務めた。元ソヴィエトの共和国を含む3か所で責任者を務めた。著書に『リクルーター:スパイ技術とアメリカ諜報機関の失われた技術(The Recruiter: Spying and the Lost Art of American Intelligence)』がある。ツイッターアカウント:@DouglasLondon5

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2022年の世界規模の大きな課題は、中国と台湾とアメリカの関係とウクライナとロシアの関係であった。これらについては2021年の段階で既に火種がまかれていた。アメリカでジョー・バイデン政権が発足し、アメリカは対ロシア、対中国で強硬姿勢を鮮明にした。サイバー上でロシアと中国がアメリカに攻撃を加えているので、サイバー安全保障を早急に整えねばならないということをバイデン政権は述べていた。私はバイデン政権の動きから、中露両国とアメリカの間でサイバー上において激しい戦いがあると考え、拙著『』(秀和システム)を書いた。

 しかし、実際には人々の死と大規模な破壊を伴う戦争が起きた。ウクライナは欧米諸国(NATO)の対ロシア最前線であった。欧米諸国はウクライナに中途半端に強力な軍事支援を行ってロシアを挑発した。ロシアという国は敵対する勢力と直接国境を接することを極度に怖がるという習性をもっている。これは歴史的に見ても明らかだ。だから、ロシア本国の周りに緩衝国(buffer state)をつくってきた。

冷戦の終結で、ロシアは身ぐるみをはがされて裸にされた形になり、「冷戦に勝った、勝った」と浮かれた欧米諸国はロシアを馬鹿にするだけ馬鹿にして悦に入っていた。それでも旧ソ連時代からのロシア軍の実力を恐れ、何とか封じ込めようとしてきた。東欧まではロシアもまだ我慢した。しかそ、ウクライナと春と話は別だ。ウクライナが中立でなければロシアの南部国境は危うくなる、黒海周辺でのバランスが大きく変わるということになった。

 ジョー・バイデンがバラク・オバマ政権時代に副大統領としてウクライナを私物化し、軍事支援などを積極的に行ってきたことも今から考えれば、ロシアにしてみれば「バイデンが大統領になったらどういうことになるか分からない」という懸念を強めることになっただろう。国務省次官にヴィクトリア・ヌーランドを起用したこともその懸念に拍車をかけたことだろう。結果として、ロシアは誘い込まれるようにして、ウクライナに侵攻した。欧米諸国がロシアの懸念を理解し、ウクライナの中立化(欧米並みの機能する民主政治体制[ネオナチが排除され、汚職や腐敗が撲滅されたもの]ではあるが軍事力は限定的)を進めていれば世界は不幸にならなかった(軍事産業は不幸だっただろうが)。

 中国と台湾の関係はそのまま中国とアメリカの関係ということになる。「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻める」というスローガンが2022年前半にはやかましかった。しかし、その後は静かになった。そもそもアメリカは中国と本気で事を構えることはしたくない。

ウクライナ戦争でアメリカ軍将兵の生命を損耗することなく、武器だけはじゃんじゃん送ってウクライナ人が命を落としながら、武器を大量消費して軍事産業がウハウハという状態になっているが、アメリカ軍自体の武器貯蔵が減ってきて、生産が追い付かないで困っているという状態である。ウクライナ戦争が終わって、武器の貯蔵が回復するまでは、まず中国軍と戦うことはできない。「アメリカ軍が本気で台湾のために戦ってくれない」ということを台湾の人々は良く認識するようになっているので、「アメリカから煽って火をつけないで欲しい」と窘められる始末だ。

2021年の段階で米中関係、中台関係は戦争まで行かないという予想が大半でそれは当たった。ウクライナ戦争については戦争が起きるだろうか、その目的と地域は限定的で、ロシア系住民の保護のためにウクライナ東部に集中するという予測がなされていたが、それははずれる格好になった。

今年に入ってもウクライナ戦争は継続されてもうすぐ1年ということになる。焦点は停戦合意に向けた話し合いになると私は考える。バイデン大統領が仲介をする形になるだろうが、ウクライナが素直に言うことを聞くだろうかという不安がある。バイデンは再選を控えている。

そうした中で、バイデンのバカ息子であるハンターのウクライナとの関係で、ウクライナ側が何か新事実を出すとか、ハンターと汚職企業の関係を調査するとかと言うことになると再選に響く。そうしたことを行わないことを条件にして支援を続けるように、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が交渉する(脅す)ことくらいはやりかねない。困ったバイデンの選択はゼレンスキーの排除ということになる。飛行機事故でもヘリコプター事故でも交通事故でも反感を持つに至った側近による暗殺でも、アメリカのCIAがこれまでやってきたオプションから選ぶだけで良い。

属国の指導者の運命とははかないものである。それを私たちは昨年まざまざと見せつけられた。そして、国際政治は非情なものである。

(貼り付けはじめ)

過去を見返すことで2023年に向けて未来を見通す(Looking Ahead to 2023 by Looking Back

-昨年の外交政策の中で今年の外交政策について教えてくれることが可能なものとは。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/04/looking-ahead-to-2023-by-looking-back/

2023年に入る前に、2022年が私の予想通りであったかどうか、振り返ってみることにした。2021年の最後のコラムで、私は「バイデンの2022年外交政策やること(To-Do)リスト」を紹介した。何が正しくて、何が間違っていたのか、そしてバイデン政権はどの程度の成果を上げたのか?

(1)中国と台湾。私の最初の予想は、「2022年に台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう」であったが、これは正しかった。2022年8月にナンシー・ペロシ前連邦下院議長が無思慮に台湾を訪問したため、若干緊張が高まったが、冷静さ(cooler heads)が勝り、その後、北京とワシントンの双方が当面の温度を下げることを決定した。北京もワシントンも忙しいのだから、この判断は驚くには当たらない。少なくとも今のところ、ジョー・バイデン政権は中国に対する宣戦布告をせずに済んでいるように見えるが、この作戦が成功するかどうかはまだ分からない。アジア(およびヨーロッパ)の同盟諸国は、先端チップ技術の輸出規制や政権の広範な経済計画の保護主義的要素に不満を持っており、これは中国にとって好機となる可能性がある。私は、2023年に東アジアが平和になることを確信している。

(2)ウクライナ。この件に関しては、一部ではあるが、私は間違っていた。2021年12月下旬の記事で、私は、ロシアは侵攻しないと予想した。しかし、100%の確信があったのではなく、もしモスクワが侵攻してきたとしても、ドンバス地方を中心とした「限定的な目標(limited aims)」の侵攻であり、グルジアと同じような「凍結された紛争(frozen conflict)」になる可能性が高いと予想すると私は述べている。私はなぜそう考えたか? 限定的な作戦であれば、「西側からの強力で統一的な反応を引き起こす可能性が低い」からである。限定的な侵略は、ジョー・バイデン大統領とNATOを「勝ち目のない」状況(“no-win” situation)に追い込むことにもなる。「アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で銃撃戦を行う意図をアメリカは持たないからだ。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、大規模な侵攻はウクライナの激しい抵抗を引き起こし、「モスクワには到底払えないような費用のかかる痛み」を生じさせることを理解していると私は考えた。

プーティンはロシアの軍事力を過大評価し、ウクライナの軍事力を過小評価し、侵攻に踏み切ったことは私たちが全員知っていることだ。また、ロシアの当初の目的はドンバス地方に限られたものではなかった。しかし、私はロシアの行動がウクライナの激しい抵抗を招き、欧米諸国が「強力で統一された(strong and unified)」反応を示すと考えたがこれは正しいかった。しかし私は見誤った。それ以来、バイデン政権は、ロシアの自信過剰、度重なるロシアの失態、活発で創造的かつ英雄的なウクライナの抵抗に少なからず助けられながら、かなりの戦術的技術で西側諸国の対応を主導してきた。このバイデンの任務は、私の予想とは異なる結果となったが、戦闘が始まってからの彼と彼のティームの総合的なパフォーマンスは高く評価できる。

しかし、前途に見えているのは厳しい状況である。戦争はまだ終わっておらず、バイデン政権、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が率いる政府、そして他のNATO諸国にとって、2023年は昨年以上に困難な年になると私は危惧している。ロシアによるウクライナのインフラへの攻撃は甚大な被害をもたらしてはいるが、その規模と人口からして、キエフが外部から支援を受けられる限り、消耗戦(war of attrition)が続くが、戦争状態は継続する可能性がある。私が「可能性がある」と言うのは、双方の実損害、予備戦力、将来にわたる戦力維持能力について、公表されている情報だけで信頼できる情報を分析することは困難だからである。ロシアもウクライナも妥協(compromise)しようとする様子がなく、双方が本気で望んでいたとしても、実行可能な取引(workable deal)を考案するのは難しいだろう。ウクライナの戦場での成功は今年も難しいだろう。膠着状態(stalemate)が長引くと、「欧米諸国の支援を強化し、ウクライナがロシアに直接戦いを挑むことを求める」という意見もあれば、「停戦を促すべきだ」とする意見も出てくるはずだ。どちらが勝つかは分からないが、来年もバイデンの話題はウクライナに集中することは間違いない。そして、戦争が長引けば長引くほど、傍観者であり続けた国々(中国、インドなど)が大きな受益者となるであろう。

(3)イスラエルとイラン。2021年、私はバイデンがイランに対する軍事行動への新たな圧力に直面する可能性があると警告した。2022年には、この問題は全く沸騰することはなかった。しかし、ベンジャミン・ネタニヤフがイスラエル首相に返り咲き、イスラエル史上最も右派的な政権を率いている。イランの核開発を制限する新たな合意に達する可能性は、今や夢物語のように思われる。ドナルド・トランプ前大統領は、当初の協定から離脱するという愚かな決断を下したため、テヘランは包括的共同行動計画が有効であったときよりもはるかに爆弾に近づいている。イランの現在の指導部は、新しい制限の交渉よりも、さらに高濃縮ウランの備蓄と核インフラの強化に関心があるようである。イランはウクライナに対抗するためにロシアに無人機(ドローン)を提供することを望んでいるため、この方面での外交的進展はさらに望めなくなった。ネタニヤフ首相はすでに、イランの核開発を阻止することが外交政策の最重要目標の1つであると語っており、それはバイデン政権がより積極的な行動を支持するよう後押しすることを意味する。中東での戦争は、おそらくバイデン大統領とアントニー・ブリンケン米国務長官が今一番望んでいないことだろうが、だからといってネタニヤフ首相とアメリカ国内の彼の同盟者たちが自分たちの主張を押し通すのを止めることはないだろう。何度も何度も繰り返し主張し続けるだろう。

一方、イスラエルの新内閣が占領地におけるイスラエルの不当な制度を深化させることを明確に約束したことは、既に進歩的な人々の間に警鐘を鳴らし、アメリカ国内のイスラエルの支持者の一部からは手厳しい声が上がっている。アメリカは、イスラエルの政策に「懸念(concern)」を表明し、「二国間解決(two-state solution)」という死語のようなお決まりの呪文を唱える以上のことを期待しない方がいい。ネタニヤフ新政権が何を決定しようとも、パレスチナ人の権利を擁護するとか、アメリカがイスラエル支援を縮小するとかと考える人間はネタニヤフ政権にはいない。このような状況は、バイデン政権の民主政治体制と人権に対する美辞麗句と実際の行動との間のギャップを更に露呈することになる。しかし、中東を相手にする場合、このような偽善は目新しいものではない。

(4)信頼性に関する懸念は続く。予想コラムで、私はバイデンには信頼性の問題があると述べた。それは、アフガニスタンからの撤退という彼の正しい決断をしたからではなく、アメリカが世界的な公約を全て果たすことは不可能であり、諸外国はトランプ流のアイソレイショニズム(isolationism)がいずれ再び勢いを増して戻ってくるかもしれないと懸念しているからである。良い点としては、ウクライナ問題への強力かつ効果的な対応と、バイデンがヨーロッパやアジアの伝統的な同盟諸国に働きかけを続けていることが、こうした懸念を一時的に和らげている。しかし、悪いことに、複数のより根本的な構造的問題が残っている。アジアのパートナーたちは、ウクライナが中国への対抗措置の妨げになることを懸念し、ヨーロッパは共和党内にトランプ主義がまだ残っていることを心配し、アメリカ国内のタカ派は、年間1兆ドルに迫る国防予算では米国の遠く離れたグローバルな公約を全て達成するためにはまだ十分でないと言い続けている。

皮肉なことに、アメリカの保護に対する信頼が多少低下しても、他国が自国を守るためにもっと努力するようになり、地域の安定にもっと関与するようになれば、それは有益なことであろう。したがって、バイデンの課題は、今後1年間、アメリカの同盟諸国に対し、もっと頑張るという公約を履行し、今日の決意を明日の能力に変えるよう説得することである。しかし、この目標は、世界的な不況下では、厳しいものとなる可能性がある。

(5)人道的危機(humanitarian crisis)が起きるか? 2021年、私は、人道的危機がどこで、どのような形で発生するかは分からないが、多く発生する可能性が高いと警告した。悲しいことに、これは事実であることが判明した。世界経済フォーラムの報告によると、現在、世界にはウクライナだけで790万人の難民(refugees)が発生し、国内の590万人が国内避難民となっている。ほぼ全ての大陸で悲劇が起こり、大規模な移民の流れ(アメリカ南部国境での危機継続も含む)を助長し続けている。バイデン政権はこれに対する具体的な答えを持っていない。救援物資(relief aid)を送ることしかない。他の誰も答えを持っていない。この問題が来年大幅に減少すると期待するのは、間抜けな楽観主義者だけだろう。この冬、ウクライナの電力網が完全に破壊されれば、本当に恐ろしい結果になる可能性がある。

(6)優先順位を決めそれを守る。2021年、私はバイデンの最後の課題は「最新の危機に巻き込まれないようにすること」だと提案した。その点では、既に手一杯だったという理由だけで、政権はまずまずの成果を上げたといえる。アメリカは今、同時に2つの大国に決定的な敗北をもたらそうとしていることを忘れてはならない。ウクライナがロシアに軍事的敗北を与えるのを助け、中国には先端技術の輸出規制、アメリカ半導体産業への補助金、台湾への軍事支援の強化、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどをこれらの取り組みの背後に配置するキャンペーンを通じて、経済的に大きな敗北を与えようと試みている。これらはかなり野心的な目標であり、追加的な聖戦の余地はほとんどない。バイデンはまた、ロシアのウクライナ侵攻の後に、同様の重大な問題が発生しなかったという点で、幸運でもあった。野球選手の故レフティ・ゴメスの「善良であるよりも幸運である方がいい」という言葉には含蓄がある。バイデンの幸運が続くことを望むのみだ。

(7)国内での戦争。国内の機能不全(domestic dysfunction )について私が最も恐れていたことは現実化しなかった。2021年後半、インフレは上昇し、トランプは再出馬の準備を始め、ほぼ全員が中間選挙での「赤い波(red wave)」を予想し、連邦最高裁は、ほとんどのアメリカ人の意見と大きく対立する保守派に取り込まれ、中間選挙が選挙違反や選挙後の悪ふざけで汚されるのではないかという懸念が広がっていた。このような懸念は、私1人だけのものではなかった。私は、この腐敗を解決するには、大幅な憲法改正しかないとまで言い切った。

ここで、私の考えが間違っていることが証明されたことを喜んでいる。中間選挙は深刻な問題なく終了した。トランプの新しい選挙運動はまだ燃えておらず、法的問題は山積みで、彼が支援した候補者の多くは大敗した。共和党は連邦下院で過半数を僅差で獲得したが、連邦上院では過半数を獲得できず、連邦下院での民主党との僅差の議席差と党内の分裂により、大きな害を与える(あるいは大きな利益をもたらす)には限界があるかもしれない。インフレは徐々に抑制され、アメリカ経済は他の先進資本主義諸国を凌駕している。ジョージ・サントスやその他誰であろうとも、選挙やその他の政治的なふざけ合いが思い出させるように、アメリカはまだ危機を脱したとは言えない。しかし、焦土と化した(scorched-earth)政治を終わらせ、建設的で現実に基づいた党派間競争に戻ることを切望する人々は、昨年起こったことに勇気付けられるはずである。それでも心強くはあるが、満足はしていない。

そして、いつもになく明るい雰囲気の中で、私は皆さんにとって幸せな年となることを願っている。理想を言えば、より平和で豊かな年でありたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

=====

バイデン:アメリカはサイバー安全保障を改善するために「緊急的な」ステップを進んでいる(Biden: US taking ‘urgent’ steps to improve cybersecurity

マギー・ミラー筆

2021年2月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/cybersecurity/537436-biden-says-administration-launching-urgent-initiative-to-improve-nations/

ジョー・バイデン大統領は木曜日、ロシアと中国による悪意のある取り組みへの懸念を指摘し、政権が国家のサイバー安全保障(cybersecurity)を向上させるための「緊急イニシアチヴ(urgent initiative)」を開始すると述べた。

バイデン大統領は、国務省で行われた国家安全保障に関する演説の中で、「私たちは政府内でサイバー問題の地位を高めてきた。私たちは、サイバースペースにおける私たちの能力(capability)、即応性(readiness)、回復力(resilience)を向上させるための緊急イニシアチヴを立ち上げている」と述べた。

バイデン大統領は、サイバーと新興テクノロジー担当の国家安全保障問題担当大統領次席補佐官の新しいポジションの創設を含む、政権による進歩を指摘した。先月、国家安全保障局のサイバー安全保障局長を務めていたアン・ノイバーガーが同職に任命された。

バイデン大統領は、自身の政権が具体的に講じる他の措置について詳しく説明せず、ホワイトハウスは本誌が更なる詳細についてコメントを求めたが答えなかった。

バイデン大統領はこれまでにも、特に最近発覚したロシアによる IT グループ「ソーラーウィンズ(SolarWinds)」社への侵入事件に関するコメントを通じて、サイバー攻撃から国を守ることへの関与を強調しており、連邦政府の大部分に1年以上にわたって危険が及んでいたことを明らかにした。

バイデンは12月の講演で、このハッキングが「国家安全保障に対する重大な脅威(grave threat to national security)」であると述べ、更に同月下旬には、新たなリスクに対処するために国の防衛力を近代化(modernization of the nation’s defenses)することを要求した。

バイデン大統領はまた、1兆9000億ドルの新型コロナウイルス復興提案の一部として、100億ドル以上のサイバー安全保障と情報テクノロジーの資金を盛り込み、提案では国家のサイバー安全保障を「危機(crisis)」と形容している。

バイデン大統領は木曜日午後の演説で、ロシアと中国からの挑戦など、国際的なサイバー安全保障の懸念についても言及した。

バイデン大統領は特にロシアを取り上げ、就任後の最初の電話会談で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対し、様々な干渉行為に対してバイデン政権が反撃することを強調した。

バイデンは、「私はプーティン大統領に、前任者とは全く異なる方法で、アメリカが攻撃的な行動、選挙への干渉、サイバー攻撃、市民の毒殺に直面する時代は終わったと明言した。私たちは、ロシアに対するコストを引き上げ、私たちの重要な利益と国民を守ることに躊躇しない」と述べた。

バイデン大統領はまた、自身の政権がロシアと中国の両政府と協力できることを望む一方で、彼が「我が国にとっての最も深刻な競争相手(our most serious competitor)」と形容した中国の責任も追及すると指摘した。

バイデンは「私たちは中国の経済的濫用に立ち向かい、人権、知的財産(intellectual property)、グローバルガバナンスに対する中国の攻撃を押し返すために、その攻撃的で強制的な行動に対抗するが、アメリカの利益になるときは北京と協力する用意がある」と述べた。

バイデン大統領のロシアに関する発言は、その日のうちに国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンがホワイトハウスで記者団に語った、選挙妨害やソーラーウィンズ事件のような大規模なハッキングなど、「行われた様々な悪質行為についてロシアの責任を問うための措置をとる」という発言に呼応したものだ。

サリヴァンは「そして、そのようなコストと結果を課すことが、今後のロシアの行動に影響を及ぼすと信じている。もちろん、そうではない。もちろんそうではない。しかし、ロシアの侵略や悪行に対して、より強固で効果的な一線を画すことができるようになると私たちは信じているのか? そのように信じている」と述べた。

ロシアはアメリカの各情報機関からも厳しく監視されており、バイデンは先月、選挙干渉やソーラーウィンズ社へのハッキングの影響などの問題について、ロシアの悪意ある取り組みを分析するよう命じた。

国土安全保障省(DHS)の元長官のグループは木曜日、バイデン大統領に対し、ロシアに対して強い姿勢を取るよう求め、ロシアがサイバースペースにおいて脅威を与え続けていることを強調した。

ジョージ・W・ブッシュ大統領に仕えたマイケル・チェルトフ前国土安全保障長官は、カリフォルニア大学バークレー校が主催したインターネット上のイヴェントで、ロシアに言及し、「次期バイデン政権の大きな問題の1つは、私たちは暴力に苦しむことなく、私たちの統一やシステムを破壊する努力に力強く対応するという非常に明確なメッセージを送ることであろう」と述べた。

バラク・オバマ政権時代の国土安全保障長官ジェイ・ジョンソンは、アメリカが過去1年間選挙の保護に固執していた一方で、ロシアのハッカーたちは、ソーラーウィンズ社へのハッキングを通じて別の方法で連邦政府を攻撃したと指摘し、外国の敵が干渉しうる様々な方法に焦点を当てる必要があることを強調した。

ジョンソンは「私が就任時に国土安全保障省の職員に伝えた考えは、前回の攻撃を想定するのではなく、次の攻撃を想定し、敵の次の動きを予測することだった」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 以下の論考は、リアリズムの立場から、アメリカの外交政策に関与することになった人たち、具体的には連邦議会議員やそのスタッフたちに対する「アドヴァイス」である。著者ハーヴァード大学スティーヴン・M・ウォルト教授だ。彼のアドヴァイスの要諦は「現実を認識すること」である。それこそがリアリズムの要諦でもある。アメリカ国内の状況、国際社会の状況とアメリカの国際社会における地位について、自分の先入観やこれまでの歴史にこだわるのではなく、現実の世界を直視するということだ。

 アメリカは第二次世界大戦後には世界の超大国となった。ソ連との冷戦で勝利を収め(ソ連が崩壊したがアメリカは繁栄した)、世界で唯一の超大国となった。西洋社会の普遍的な価値観である民主政治体制、人権、資本主義、法の支配の擁護者にして伝道者を自任して、世界中にそれらを拡散することをアメリカの使命・アメリカの運命と心得ていた。「世界の警察官」という異名を奉られ、世界最強のアメリカ軍を各地に派遣して、敵対勢力を駆逐してきた。これが「素晴らしいアメリカ」の「イメージ」である。

 しかし、アメリカの国力は衰退し、中国が追い上げている。アメリカの軍事力の優越は変わっていないが、最近の介入は失敗続きである。アフガニスタンやイラクと言った国々を見れば分かる。ジョー・バイデン政権は対中、対ロシア強硬姿勢を続けている。対ロシアで言えば、ウクライナという対ロシア最前線でアメリカと西洋諸国、NATO加盟諸国が「火遊び」をした結果として、ウクライナ戦争が勃発した。バイデンは、バラク・オバマ政権の副大統領時代からウクライナに関わってきた。

今回ウクライナ戦争が勃発したことで、明らかになったことは、国際社会の分裂線である。西洋諸国(the West)対それ以外の国々(the Rest)の分裂である。沈みゆく先進諸国と勃興する新興諸国という構図である。GDPを見てみても、先進諸国であるアメリカ(第1位)と日本(第3位)は力を落とし、新興諸国である中国(第2位)とインド(第5位)が伸びている。興味深いのはドイツ(第4位)だ。ドイツは西洋諸国に所属しているが、新興諸国との関係も深めている。どちらの側とはっきりと色分けしにくい。そうした中で、ドイツが日本を再逆転して3位に浮上するのではないかという報道が出た(1968年に日本が当時の西ドイツを抜いて世界2位になった)。アメリカが中国に抜かれ、日本がドイツとインドに抜かれるのは時間の問題ということになっている。

 アメリカは「自分たちは特別なのだ、神に選ばれた国なのだ」という「例外主義(exceptionalism)」という「選民思想」を捨てて、より現実を見なければならない。中露と敵対関係を継続することが果たして国益に適うことなのかを考えねばならない。そして、アメリカの下駄の雪である属国日本もまた同様に良く考えておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

おめでとう、皆さんは連邦議会のメンバーになりました。それでは聞いて下さい(Congrats, You’re a Member of Congress. Now Listen Up.

-アメリカ立法部の新しいメンバーたちに対してのいくつかの簡潔な外交政策面でのアドヴァイス

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/11/congrats-youre-a-member-of-congress-now-listen-up/

アメリカでは新しい連邦議会が開会されている。少し手間取ったが、連邦下院の新議長が選出され、連邦上下両院の新連邦議員86人(共和党48人、民主党38人)も誕生した。このコラムは、彼ら(より正確には実際の仕事をするスタッフたち)のために書いたものだ。

まず、皆さんの多くは国際情勢にそれほど関心がないだろうし、有権者の多くもそうだろう。アメリカの外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、世界を管理するために(そして機会があればリベラルな価値観を広めるために)長時間労働をしているかもしれないが、ほとんどのアメリカ人は、911同時多発テロ事件のような悲劇的な事件の後を除いて、外交政策の問題について無知であり、ほとんど関心を持っていない。世界情勢における「積極的な役割(active role)」を広く浅く支持しているが、ほとんどのアメリカ人は国内の問題の方が重要だと考えている。アメリカは世界で大きな役割を果たし、連邦予算の大部分を外交政策と国家安全保障に割いているにもかかわらず、国民の関心は通常、自国内部や自国に近いところに釘付けになっている。このようなパラドックスが存在する。

私は皆さんに再選の方法を教えるようというのではない。皆さんの方が私よりも票を獲得する方法については詳しいということは既に証明されている。その代わり、私は自分の専門にこだわり、より広い世界とその中でのアメリカの位置づけについて、皆さんが知りたいと考えるだろう、いくつかのことに焦点を当てる。もしあなたが資金調達に参加しなければならず、時間がないのであれば「国際関係学の学位を5分で取得する方法」という私の以前のコラムを読んで欲しい。

ここで、最初によく理解して(wrap your brain around)欲しいことがある。世界におけるアメリカの地位は、かつての地位とは違うということがそれだ。誤解しないで欲しいのは、アメリカは依然として世界で最も強力な国であり、国内外で多くの過ちを犯さない限り、その見通しは明るいということだ。アメリカの軍事力は依然として強大であり(1990年代に見られたような全能感[omnipotent]はないにしても)、アメリカ経済は他の多くの国よりも優越な地位を保ち、世界の金融秩序に不釣り合いな影響力を保持している。アメリカの支援と保護は、かつてほどではないにしても、多くの場所で歓迎されている。

それでは相違点はどこかということになる。1990年代初頭にソヴィエト連邦が崩壊した時、アメリカは前例のないほどの優位な立場(unprecedented position of primacy)にあることを認識した。おそらく、皆さんの多くが職業人生を歩み始めた頃、あるいは政治に関心を持ち始めた頃だと思う。この時代、アメリカは他のどの国よりもはるかに強く、ロシアや中国を含む世界の主要諸国全てと比較的良好な関係を持っていた。ロシアが復活し、中国が急成長を続け、アメリカが愚かな戦争で何兆ドルも浪費するなど、「一極集中の時代(unipolar moment)」がなぜ短かったのか、後世の歴史家が正確に論じることになるだろう。しかし、私たちは再び競争的な大国間関係(competing great towers)と利害関係が高まり(rising stakes)、間違いを犯してしまったら本当に深刻な結果になる世界に戻ってきたことを理解しなければならない。このような世界で効果的に競争するためには、自国の利益を明確に理解し、優先順位を決めてそれを守る能力、そしてアメリカのパワーで何ができ、何ができないかを冷静に認識することが必要である。また、国内の分裂を抑制する(within bounds)ことも重要である。党派的争いは決して良いことではないが、そのレヴェルは私たちが受け入れられないほどに深刻化している。

第二に、他国には他国の利益と目標があり、友好諸国の利益と私たちの利益が常に一致するとは限らないことを認識する必要がある。たとえばインドはインド太平洋地域における有用なパートナーだが、ウクライナ紛争については断固として中立を保ち、今でもロシアの石油とガスを大量に購入している。イスラエルとサウジアラビアはアメリカの長年の同盟国だが、どちらもウクライナを助けるために指一本動かそうとしない。サウジアラビアは最近、中国の習近平国家主席を招いて一連の首脳会談を行った。アメリカは、ロシアの戦力低下とインフレ抑制のために石油生産の削減を避けるようにサウジアラビアに求めたが、サウジアラビアはアメリカの要求を拒絶した。ヨーロッパとアジア地域のアメリカの同盟諸国は、世界第2位の経済大国である中国との経済関係を悪化させる恐れがあるため、中国との「チップ戦争」が賢明なことなのかどうかについて疑問を抱いている。

私のアドヴァイスは次のようなものだ。それは「慣れること」だ。出現しつつある多極化する世界(emerging multipolar world)では、私たちが自国の利益を追求するのと同じように、他の国も自国の利益を追求する。もし、私たちが他国からの支持を望むなら、実際望んでいるのだが、私たちは彼らの利益が何であるかを理解する必要があり、彼らが単に一線に並ぶことを期待しないようにしなければならない。

ここでもう1つ知っておいて欲しいことがある。アメリカは関与しないとか、「自制(restraint)」の大戦略(grand strategy)を採用するとか、アイソレイショニズム(isolationism)に退くとかそんなことはまったくない。その逆なのである。アメリカは今、2つの大国に対して同時に決定的な敗北をもたらそうとしている。ウクライナがロシアに軍事的敗北をもたらすのを助けようとしている。戦争が始まった直後にロイド・オースティン米国防長官が言ったように、「ロシアがウクライナに侵攻したようなことができない程度に弱体化することを望んでいる」のである。同時に、中国に経済的、技術的敗北を与え、中国の台頭を遅らせ、今後数十年にわたりアメリカの支配を維持しようと考えている。世界経済を混乱させたり、台湾への攻撃を誘発したり、中国との経済的な関係を維持したい同盟諸国を混乱させたりすることなく、中国を弱体化させようとしているのである。この戦略が何であれ、それは「縮小(retrenchment)」ではない。

ウクライナ戦争は、軍事力を含むハードパワーが引き続き重要であること、そして国家がそれを不用意に使用すると厄介なことになることも明確に示している。軍事力は、国家を守る最高機関が存在しない現実の世界では残念なことではあるが必要なものである。しかし、その効果を予測しにくい粗雑な手段でもある。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の不適切な侵攻は、指導者がいかに誤算(miscalculate)を犯しやすいかを示している。しかし、成功した軍事作戦でさえ、意図しない結果を生み出し、それが解決しようとした本来の問題と同様に、新た田事態に対しての処理が困難になる可能性も出てくる。

この問題に言及したのは、連邦議員、行政府の幹部職員、利益団体のロビイスト、外国の大使、あるいはシンクタンクの権威ある専門家などが、一刻も早く対処しなければならない危機が迫っていると言ってくる可能性があるためだ。彼らは、何もしない無策の危険は重大であり、武力行使のリスクは最小であり、今行動することのメリットは非常に大きいと説得しようとしてくる。そして、彼らが正しいということもかろうじてあり得る。

しかし、私からのアドヴァイスは 「懐疑的(skeptical)になること」である。たくさん質問すべきだ。バックアップの計画はあるのか、計画した作戦が完了した後にどうするつもりなのか、といった質問をしてみて欲しい。反対派や第三者がどのように反応すると考えているのか? その予測の裏にはどのような証拠があるのか? 他の選択肢が検討されたかどうかを厳しく追及して欲しい。彼らの評価の根拠となる情報について質問してみる。予防戦争(preemptive war)は国連憲章(U. N. Charter)の下で違法であり、かつてオットー・フォン・ビスマルクが予防戦争を「死を恐れて自殺すること(committing suicide for fear of death)」に例えたことを思い出して欲しい。最近のアメリカの軍事介入は、最初はうまくいったが、結局は金のかかる泥沼状態(quagmires)に陥ったことを指摘することもできるだろう。彼らがオフィスを去った後、スタッフに頼んで異なる見解を持つ人物たちと連絡を取り、そうした人々の言うことに耳を傾けてほしい。アメリカは実際、非常に安全な国であり、武力行使は最後の手段(last resort)であって、第一に起きるべき衝動(impulse)ではないことを忘れてはならない。アメリカは、好戦的・攻撃的(trigger-happy)に見える時よりも、自制と忍耐(restraint and forbearance)をもって行動する時にこそ、他国からより多くの支持を集めることができるという傾向がある。

もう1つ、心に留めておいて欲しいことがある。それは、私たちは相互依存の世界(interdependent world)に生きている、ということだ。確かにアメリカは依然として世界最大の経済大国であり、他の国々に比べれば対外貿易への依存度ははるかに低い。しかし、「依存度が低い(less dependent)」ということは、他国との経済交流から大きな利益を得られないということではない。保護主義(protectionism)が拡大すれば、アメリカ人はより貧しく、そしてより弱くなる。

同様に重要なことは、自国での愚かな政策(boneheaded policies)が、外国や企業に、そして何百万人ものアメリカ人にとって事態を悪化させるような対応を取らせる可能性があるということだ。連邦議会が国家債務上限(debt ceiling)を引き上げられず、アメリカが債務不履行(default)に陥ったとしても問題ないと同僚が言った時、このことを心に留めておいて欲しい。もし、あなたや同僚議員たちが劇的な景気後退を引き起こす手助けをすれば、一見、安全な議席を持つ現職議員でさえ、職を探す羽目に陥ることになるかもしれないのだ。

新しいオフィスや配属された委員会に慣れたら、緊急性の高いものと本当に重要なものを区別するようにして欲しい。24時間365日のニューズサイクルは残酷な愛人(cruel mistress 訳者註:良い面と悪い面の両方があるという意味)である。また、皆さんは既に再選のことを気にしていることだろう。このような状況下では、その時々の危機に対応する誘惑に抗うことは困難だろう。しかし、危険なのは、私たちの長期的な未来に最も大きな影響を与えるトレンドや関係性を見失ってしまうことだ。

私が言いたいのはこういうことだ。現在、ロシアのウクライナ戦争はより直接的な問題であるが、より長期的な課題としては中国が挙げられる。アメリカの経済的将来と安全保障全体は、クリミアやドンバスを誰が最終的に支配することになるかで決まるものではない。個人的にはキエフであって欲しいが、モスクワになったとしても、アメリカにとってはそれほど重要ではないだろう。重要なのは、アメリカが最も重要な先端技術の分野でリードしているかどうか、アメリカ国内の大学や研究機関が依然として世界の羨望の的であるかどうか、そして平均気温が1.5上昇するか2上昇するか、あるいはそれ以上上昇するかということであろう。もしあなたやあなたの同僚たちが、アメリカがこれらの大きな問題で正しい側に立つのを助けることができれば、あなたは将来の世代に大きな恩恵を与えることになるだろう。

最後に、アメリカが政治的に深く対立していることは、今さら皆さんに言わなくても分かっていることだろう。しかし、連邦議員に就任した以上、世界が皆さん方を見ているということを忘れないで欲しい。自分の住む州や地区では良いが、海外では国のイメージに大きなダメージを与えるようなふざけた態度を取ってはいけない。分極化(polarization)と行き詰まり(gridlock)は、アメリカに残された優位性を維持し、アメリカ人がより安全で豊かな生活を送るための政策を実現することを難しくしてしまう。連邦下院の議場でのささいなしかもふざけたじゃれ合い(あるいはそれ以上のもの!)は、アメリカのブランドを汚すことになる。アメリカの指導者たちは、自国の政治システムがこれほどみすぼらしくそして機能不全(tawdry and dysfunctional)に陥っているというのに、どうして他国にその改善策を指示できるだろうか? アメリカの外交官たちが他国に政府を説得し、アメリカの公約と引き換えに行動を修正させることは、次の選挙後もその公約が守られるかどうか分からない状況では、ほぼ不可能である。民主政治体制国家はこの問題を完全に回避することはできないが、最近この国で見られたような極端な気分の変動(extreme mood swings)は、同盟諸国と協力したり、ライヴァル諸国に対して効果的に対処したりする能力を損なうものだ。

私の主張の内容がナイーヴに聞こえることは承知している。政策の違いを真剣に議論し、党派的な大言壮語(grandstanding)、陰謀論(conspiracy theorizing)、裸の自己顕示欲(naked self-promotion)を否定することを期待するのは、絶望的なまでに理想主義的だ。しかし、皆さんの中から、狭い私利私欲を乗り越え、自分のエゴや役得(perquisites)よりも国家を優先してくれる人が出てくることを期待して、とりあえず言っておきたいことがある。マーク・トウェインがかつて忠告したように、「正しいことをしなさい。正しいことをすれば、一部の人は満足し、残りの人は驚くだろう(Do the right thing. It will gratify some and astonish the rest)」。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今や世界において中国の動向は重要な要素となっている。中国がどのように動くかで国際社会の動向が決まるということになっている。アメリカも重要であるが、中国もその重要度を増している。2023年の中国はどのように動くかということに多くの人々は関心を持っている。

 最近の中国に関する報道と言えば、「新型コロナウイルスゼロ」政策を放棄し、行動の緩和が実施されている。そのために新型コロナウイルス感染者数が増大しているが、公式発表では死者数が極端に抑えられているということだ。中国はこれだから信用できないということになる。

対外的には台湾問題に注目が集まっている。昨年2月24日のウクライナ戦争勃発後、「ウクライナの次は台湾だ」、つまり「中国が台湾に侵攻する」という主張が声高に叫ばれ、米中間の関係も緊張をはらむものとなった。最近では台湾からも「あまり危機感を煽らないで欲しい(特に日米両国)」という声が出ている。中国は国内問題もあり、また、現在の国際秩序の中で経済力を高める段階にあり、保守的な状況である。

 下に紹介にした論稿では5つのポイントで中国に関する予測を行っている。簡単にまとめると、「(1)新型コロナウイルス感染拡大で死者数が増える、(2)経済の回復は遅い、(3)旅行業界だけは活況を呈する、(4)人々の不満が小規模な抗議活動ということで噴出する、(5)米中関係は穏やかになり、台湾問題は静けさを保つ」ということになる。

 上記の予測ポイントについて、私なりの考えを書いていきたい。新型コロナウイルス感染拡大に関しては、中国は世界で最初に対処した国であり、その対処方法を模索し、開発し、改善してきた。病院の整備などのスピード感は群を抜いていた。自然免疫に方向転換を行っても、ある程度の管理を行うものと思われる。経済活動は、世界経済と連動している部分もあるが、国内需要がこれから増大していくだろう。そのスピードと規模をうまく予測できる人はいないだろう。ただ、国内需要が経済回復をけん引するだろう。旅行については既に私たちが目撃しているように活況を呈している。人々の不満が収まれば抗議活動は沈静化するだろう。国際関係について言えば、アメリカが敵対姿勢を弱めれば中国も穏やかになるだろうし、台湾問題もアメリカが煽動しなければ落ち着いたまま進んでいくだろう。

 新型コロナウイルス対策もウィズコロナに変更されていく中で、経済と社会が少しずつ動き始めているのは世界共通だ。中国も例外ではない。巨大船舶と同じで、少しの動きが他の小さな船舶に比べれば大きなものとなる。あまりに急激な動きは世界に及ぼす波も大きくなってしまう。中国はそろりそろりと動いてくれるのが最善なのである。

(貼り付けはじめ)

2023年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2023

-新型コロナウイルスをめぐる悲劇から弱体化する習近平まで、来年に起こる可能性があることを述べていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/28/china-predictions-2023-covid-xi-jinping/

今年(2022年)は中国にとって非常に悪い年であった。しかし、このニューズレターが昨年予測したように、事態は常に更に悪くなる可能性がある。14億人の人口を抱える国について推測するのは難しいし、中南海(中国政府中枢)のシャッターの内側を覗き込もうとするのもまた難しい。しかし、2023年にどのような悪いことが起き、そしてどのような良いことが起こるかについて、以下に私が最善を尽くして行った予想を書いていく。

(1)新型コロナウイルスに関する悲劇(A COVID-19 Tragedy

中国はつい2度目の新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面しており、その様相は悲惨なものとなっている。中国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and PreventionCDC)の内部ブリーフィングによると、2022年12月1日から12月20日の間に2億5000万人が感染したと推定され、12月7日に政府が新型コロナウイルスゼロ政策を解除したのは封じ込めシステムの失敗に対する性急な対応だったことが明白に確認された。中国疾病予防管理センターの推定では、先週の火曜日の1日だけでおよそ3700万人が感染していることになる。

中国の医療制度は、長年の準備不足と治療よりも封じ込めに重点を置いてきたこともあり、既に対応に追われている状況だ。オミクロンBA.2亜型の致死率0.3%に基づいて計算すると、2億5000万人の感染者の中から75万人が死亡する可能性があることになる。この指数関数的な増加率からすると、第一波は2023年1月末までに中国の人口の60%に到達する可能性があります。この場合、9億人が感染し、270万人が死亡することになる。

もちろん、未知の部分も多く、現在中国で流行している変異株は致死率が低い可能性もある。私はそうであって欲しいと願っている。『フォーリン・ポリシー』が正式に確認したのではないが、中国の友人たちは、家から一歩も出ていないのに、新型コロナウイルスに感染したという話を語っており、アパートの集中空調システムを通じて感染している可能性を示唆している。

多数の死者が出れば、特に新型コロナウイルスゼロの価値があるかどうかという点では、心理的に大きな影響を与えるだろう。インドの新型コロナウイルス感染拡大の経験から、中国でもウイルスが猛威を振るえば、2020年には数百万人の死者が出る可能性があった。しかし、救われた命では、それぞれの喪失の悲しみや辛さを軽減することはできない。しかし、中国で公的な政治的危機が起こるとは思わないで欲しい。新型コロナウイルスによる死亡の影響は、犠牲者の多い国においても、世界的には驚くほど小さい。

更に言えば、2億5千万人の感染を経て、12月23日現在、中国が公式に報告した死者はわずか8人である。中国が死者数について明らかに嘘をつき、馬鹿げた計算方法を用い、メディアで危機を取り上げないようにしているのは、国民の怒りを恐れてのことだ。たとえ公式発表の数字が事実でないと分かっていても、危機的状況をテレビ画面から遠ざけることで、かえって危機を身近なものとして感じられるかもしれない。

(2)弱含みの経済回復(Weak Economic Recovery

中国の新型コロナウイルスの死者数は2023年の怪しいデータだけしか存在しないのではない。政治体制は、プロパガンダのためと内部の政治的理由のために、たとえ判断が不可能であっても統計事態は要求する。今回の新型コロナウイルス感染の波の規模からすると、ヴェトナムなどのように新型コロナウイルス感染対策を解除したからと言って、中国経済が以前のレヴェルに回復することはないだろう。

中国においては、消費者の潜在的な需要はたくさん存在が、新型コロナウイルスに感染することへの不安やリスクを回避しようとする志向が強いため、その需要は少しずつ出てくるのではないかと考えられる。厳しい2年間を経て、地方政府も中央政府もポジティブなデータを出すようにという政治的圧力が非常に強くなっている。それは人口の数字にも影響を及ぼしている。研究者たちは、中国の人口はすでに減少しており、新型コロナウイルスによる死亡はその問題をより厳しいものにすると主張している。

更に言えば、新型コロナウイルスは、病気や死亡によって主要な労働者がいなくなることで、サプライチェインに打撃を与える。また、最悪のシナリオでは、大きな流行を経験していない村や小さな町が、感染拡大当初と同じように、訪問者を隔離し、旅行を阻止する方法を採用する可能性がある。中央政府は2020年よりもずっとこうした方法を敵視するだろうが、地方における中央政府の執行能力は遅くしかも弱くなる可能性が高い。

挙句の果てに、中国は新型コロナウイルス感染拡大の結果ではない、多くの経済問題を抱えている。経済成長の大半を支えてきた不動産セクターはゆっくりとした崩壊を続け、アメリカは自国経済と中国経済を切り離す試みを本格化させ、世界的な景気後退の危機が迫っている。中国政府は、景気刺激策で不動産ブームを少しは下支えできるかもしれないが、いつかは現実を直視しなければならないだろう。

同様に、中国のテクノロジーを標的にしたアメリカの政策は、中国のテクノロジー産業に対する中国の公式な巨額の投資を生み出す可能性が高い。しかし、それは政府のコネに依存し、半導体向けのビッグファンドの失敗のように、多くの腐敗を伴うことになるだろう。

(3)旅行ブーム(A Travel Boom

2023年に甦る可能性があるのは旅行業界だ。国内需要は現在の新型コロナウイルス感染の波が過ぎるまで回復しないが、10月の大型連休には過去最高を記録する可能性がある。また、海外旅行もより早く回復するだろう。検疫期間が短縮され、完全に終了する可能性が高いため、中国人は大量に海外旅行に出かけることになる。この記事はクリスマス前に書いたが、検疫は12月26日に終了し、飛行機の予約ラッシュとなった。3年間も世界から隔離されていたため、旅行する余裕のある人は、アメリカの学校に通う子供たちを訪ねたり、タイのビーチに行ったりなど、国外に出ることに必死だ。

また、若者の間では、常に後退しているように見えるこの国から移住したいという願望も存在する。欧米諸国は、移民に対する偏執的な嫌悪感を維持するのではなく、潜在的な才能の大きな波を拾い上げることに目を向けるべきだ。

(4)より小規模な抗議運動(More Small Protests

2022年末の抗議デモの波の後、中国では来年も小規模なデモが続くと考えられる。新型コロナウイルスゼロ政策終了を求めるデモのような統一されたシナリオはないだろう。しかし、不正な金融会社から盗まれたお金を取り戻すか、新型コロナウイルス感染拡大による封鎖を終わらせるかにかかわらず、当局に圧力がかかる可能性があることは明白だ。

習近平国家主席の退陣を求める思想的なデモ参加者は嫌がらせや逮捕を受けたが、新型コロナウイルスゼロ政策反対のデモ参加者のほとんどは報復を免れた。このことは、人々が他の問題についても限界に挑戦することを促すかもしれない。残念ながら、不動産業界にとっては更に悪いニュースだ。過去10年間、中国で最も一般的で成功した抗議活動の1つは、資産税導入の試みに反対するものであった。

また、習近平の立場も非常に弱くなっている。習近平は、中国メディアが常にその成功を誇っていた「新型コロナウイルスゼロ」政策と密接に結びついていた。これに加えて、経済が減速しているため、中国の政治エリートは習近平の指導力に対して深刻な疑念を抱いている。問題は、2022年10月の中国共産党大会で習近平がいかにうまく立ち回ったかを考えると、彼らが何かできるのかということだ。

今年、習近平が国民と中国共産党の両方に対する権力を再強化するために、政治的統制を強化することはあり得る。しかし、長年にわたるイデオロギー的な弾圧の後に、何を締め付けるのだろうか?

(5)より穏健な言葉と静かな海峡(Softer Words and a Quiet Strait

中国の国内問題の数々は、国際舞台では、主に非公式な場でではあるが、より良い言葉につながっているようだ。アメリカをはじめとする外交官たちは、中国側が以前よりも対話に前向きになっていると報告しており、2022年11月のG20サミットでジョー・バイデン米大統領と会談した習近平国家主席は、両国間の経済摩擦の激しさにもかかわらず、笑顔のトーンを維持する可能性がある。

しかし、その部分的な雪解けは非常に不透明であり、ちょっとした危機でも関係が再び凍結する可能性がある。中国の国営メディアは、10年前よりも外国嫌いで反米的であり、中国の問題をアメリカのせいにしようとする強い動機がある。

これら全ての問題は、今年、台湾をめぐる大きなトラブルを期待しない方が良いということを示唆している。中国政府は単に国内で対処すべき問題が多すぎて、戦争はおろか、新たな危機を迎える余裕もないのだ。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問をめぐる一時的な騒動は、結局のところ大げさなものであったことが判明した。だからといって、いわゆる統一への執着や台湾への政治的干渉がなくなる訳ではなく、おそらく現状維持にとどまるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 昨日は、国際関係論の一学派リアリズムの泰斗であるスティーヴン・M・ウォルトのリアリズムによる新型コロナウイルス感染拡大に関する分析論稿を紹介した。今回ご紹介する論稿はウォルトの論稿に対する反論という内容になっている。

 新型コロナウイルス拡大が国際的な問題となって3年が経過した。各国は医療体制の拡充や補助金の新設や増額などで対応してきた。日本も例外ではない。そうした中で、国家の役割が増大し、人と物、資本が国境を越えて激しく動き回る、グローバライゼーションの深化はとん挫した形になった。国際機関に対する信頼も小さくなっていった。

 しかし、今回ご紹介する論稿の著者ジョンストンは、初期段階の対応はリアリズムで分析できるが、これからはそうではないと述べている。もう1つの学派であるリベラリズム(Liberalism)によって分析・説明が可能になると主張している。

 リベラリズムとは、各国家は国益を追求するために、進んで協力を行う、国際機関やNGOなどの非国家主体が国際関係において、重要役割を果たすと主張する学派だ。新型コロナウイルス感染拡大の初期段階では各国は国境を閉じ、人の往来を制限して、国内での対応に終始した。しかし、これから新型コロナウイルス感染拡大前の世界に戻るということになれば、国際的な取り決めや協力が必要になり、国際機関の役割も重要になっていく。グローバライゼーションの動きがどれくらい復活をしてくるかは分からないが、おそらくこれまでのような無制限ということはないにしても、人、物、資本の往来はどんどん復活していくだろう。

 社会科学の諸理論は、社会的な出来事を分析し、説明し、更には予測することを目的にして作られている。理論(theory)が完璧であればそれは法則(law)ということになるが、それはなかなか実現できないことだ。諸理論は長所と短所をそれぞれ抱えており、また、現実の出来事のどの部分を強調するかという点でも違っている。理論を構成していくというのは、言葉遊びのようであり、まどろっこしくて、めんどくさいのように感じる。

 しかし、そうやって遅々としてか進まない営為というものもまた社会にとって必要であり、いつか大いに役立つものが生み出されるのではないかという希望を持って進められるべき営為でもある。日本においては官民で、学問研究に対する理解も支援も少なくなりつつあるように感じている。それは何とも悲しいことだし、日本の国力が落ちている、衰退国家になっているということを実感させられる動きだ。

(貼り付けはじめ)

感染拡大とリアリズムの限界(The Pandemic and the Limits of Realism

-国際関係論の基本的な理論であるリアリズムはそれが主張するよりも現実的ということではない。

セス・A・ジョンストン筆

2020年6月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/06/24/coronavirus-pandemic-realism-limited-international-relations-theory/

スティーブン・ウォルトの「コロナウイルス感染に対するリアリズム的ガイド」は、彼の他の論文とともに、国際関係の現実主義者がコロナウイルスをこの学派の思想の正当性を証明するのに役立つと見ている説得力のある例である。現実主義者が自信を持つには十分な理由がある。新型コロナウイルス感染拡大への対応は、主権国家の優位性(primacy of sovereign states)、大国間競争の根拠(rationale for great-power competition)、国際協力への様々な障害(obstacles to international cooperation)など、リアリズムの伝統の主要な信条を実証するものとなった。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大は、政策を成功に導く源泉としてのリアリズムの欠点も露呈している。リアリズムが得意とするのは、リスクや危険を説明することであり、解決策を提示することではない。リアリズムの長所は治療や予防よりも診断にある。新型コロナウイルスに最も効果的に対処するためには、政策立案者たちは、過去4分の3世紀の他の大きな危機への対応に、不本意ながら情報を与えてくれたもう1つの理論的伝統に目を向ける必要がある。

リアリズムは多くのことを正しく理解しており、それが、少なくともアメリカにおいて、リアリズムが国際関係論の基礎となる学派であり続ける理由の1つである。新型コロナウイルス感染拡大は、世界政治の主役は国家であるというリアリズムの見識を浮き彫りにしている。新型コロナウイルスが発生すると、各国は国境を閉鎖または強化し、国境内の移動を制限し、安全保障と公衆衛生の資源を結集して迅速に行動した。世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は当初、こうした国境管理に反対するよう勧告し、企業は経済活動の低下を懸念し、個人は移動の自由の制限に苦しんだが、これは秩序を維持し出来事を形成する国家の権威を強調するものだ。

しかし、国の独自行動がいかにリアリズムから理解できるものであっても、また予測できるものであっても、その不十分さは同じである。国境管理と渡航制限によって、各国が新型コロナウイルス感染拡大から免れることはなかった。たとえ完璧な管理が可能であったとしても、それが望ましいかどうかは疑問である。島国であるニュージーランドは、物理的な地理的優位性と国家の決定的な行動により、新型コロナウイルスに対して国境を維持し、比較的成功を収めていることについて考える。ニュージーランドが国家的勝利を収めたとしても、感染拡大が国境を越えて猛威を振るう限り、それは不完全なものに過ぎない。再感染し、国際的な開放性に依存する産業が経済的なダメージを受け続ける危険性がある。つまり、自国内での感染を防ぐことは国益にかなうが、他の国が同じことをしない限り、その国益は実現しないのだ。経済や安全保障の競争は、「相対的利益(relative gains)」やゼロサムの競争論理といったリアリズム的な考察に合致しやすいが、疾病のような国境を越えた大災害は、「無政府状態(anarchy)」の国際システムにおける個々の国家の限界を露わにする。

国境を越えるようなリスクと国益との間の断絶は、資源をめぐる国家の奔走という別の問題にも関連している。ここでもリアリズムがこの問題の診断に役立っている。なぜ各国が医療用マスク、人工呼吸器、治療やワクチンのための知的財産といった希少な品目をめぐって争うのかを説明している。このような争いは、ゼロサムの論理の性質を持つ。しかし、協調性のない行動は非効率的な配分(inefficient allocation)をもたらし、時間と労力を浪費し、コストを増大させる。これら全ては、感染症の発生を阻止するという包括的なそして共通の利益を損なうものである。同じ資源をめぐるアメリカの州や自治体の無秩序な争いは、国内でもよく見られる光景である。リアリズムが提示する建設的な選択肢はほとんどない。

リアリストたちは国際機関を信用しないよう注意を促す。例えば、国連もWHOも新型コロナウイルスを倒すことはできない。国際機関が自律的な国際的なアクターであるとすれば、それは弱いものであることは事実である。しかし、この批判は的外れである。国際機関は、国家の行動に代わるものでも、国際関係における国家の主要な地位に対する挑戦者でもない。むしろ、外交政策や国家運営(statecraft)の道具である。国家が国際機関を設立し、参加するのは、予測可能性(predictability)、情報、コスト削減、その他機関が提供できるサーヴィスから利益を得るためである。リアリズムの著名な学者であるジョン・ミアシャイマーでさえ、国際機関は「事実上、大国が考案し、従うことに同意したルールであり、そのルールを守ることが自分たちの利益になると信じているからである」と認めている。制度学派のロバート・コヘインとリサ・マーティンが数十年前にミアシャイマーとの大激論で述べたように、国家は確かに自己利益追求的であるが、協力はしばしば彼らの利益になり、制度はその協力を促進するのに役立つのである。ミアシャイマーは、最近、他の分野でもアメリカの利益に資するために、より多くの国際機関を創設するよう主張したので、最終的には同意することになったのかもしれない。また、制度学派も、安易な協力を期待することの甘さに対するリアリズムの警告を認めている。日常生活において、隣人との協力は簡単でも確実でもない。しかし、アメリカ人の多くが感染拡大にもかかわらず、街頭に出て要求したように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値があるのだ。

主要な違いは、制度主義(institutionalism)の方が、自己利益追求的な協力の現実的な可能性をより強調することである。この強調の仕方の違いによって、リアリズムと制度主義の間にある実質的な共通点が曖昧になりかねない。両方とも、国際協力(international cooperation)が望ましいことは認識しているが、より困難な問題は、それをどのように達成するかということである。この点では、現実主義的な洞察(insight)が大いに貢献する。覇権的なパワー(hegemony power)が国際的な制度を押し付けると、その制度は覇権を失った後も存続しうるという古典的な考え方がある。また、ジョセフ・ナイのリーダーシップに関する議論でも、パワーは中心的な役割を果たし、コストを下げ、成果を向上させるために、パワーのハードとソフト両面の「賢い(smart)」応用が必要であるとしている。さらに他の研究者たちは、制度設計(institutional design)が強制、情報共有、その他の設計上の特徴を通じて、不正行為(cheating)、恐怖(fear)、不確実性(uncertainty)のリスクを縮小することができると指摘している。これらの資源は完璧ではないが、パワー、リーダーシップ、制度設計に対する影響力など、その全てがアメリカで利用可能であることは朗報である。

日常生活において、隣国との協力は簡単でも確実でもない。しかし、感染拡大にもかかわらず、アメリカ人の多くが街頭に立って要求しているように、代替案よりも望ましいことであるから、それを得るために努力する価値はある。国益は、利用可能な資源やヴィジョンと相まって、アメリカや他の国々が過去の危機の際に国際機関を設立し、行動してきた理由を説明する。国際連合(United Nations)は、第二次世界大戦中にアメリカが連合国(the Allies)に対して作った造語であり、終戦時に制度化されたものである。イスラム国(Islamic State)討伐のための国際的な連合は、国際テロ対策という共通の利益を更に高めるために数十カ国が結集し、それ自体は2014年のNATO会議の傍らで考案されたものである。2008年の金融危機の際、各国は経済政策を調整し、コストを分担し、経済を救うために、G20を再発明した。

アメリカはこうした制度の創設を主導し、莫大な利益を得た。第一次世界大戦後の国際連盟(League of Nations)への加盟を拒絶し、911後のテロ対策では、当初はやや単独行動的(unilateral)であったように、国際協力は必ずしもアメリカの最初の衝動では無かった。しかし、アメリカは最終的に、国際的な協調行動とリーダーシップによって、自国の利益をよりよく実現することができると判断したのである。

新型コロナウイルスの大流行に対する国家の初期反応については、リアリズムで説明することができるが、より良い方法を見出すためには、他の諸理論に建設的な政策アイデアを求める必要がある。これまでの世界的危機と同様、アメリカは国際機関に国益を見出す努力をすることができるし、そうすべきである。

※セス・A・ジョンストン:ハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ