古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:中国

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。イスラエルとハマスの紛争についても分析してします。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカはイスラエルの建国以来、イスラエルを支援し続けている。イスラエルに対する手厚い支援は、アメリカ国内にいるユダヤ系の人々の政治力の高さによるものだ。そのことについては、ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト著『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(副島隆彦訳、講談社、2007年)に詳しい。

 アメリカが世界帝国、世界覇権国であるうちは、イスラエルもアメリカの後ろ盾、支援もあって強気に出られる。今回、ハマスからの先制攻撃を利用して、ハマスからの攻撃を誘発させて、ガザ地区への過剰な攻撃を行っているのは、二国間共存路線の実質的な消滅、破棄ができるのは今しかない、アメリカが力を失えば、パレスティナとの二国間共存を、西側以外の国々に強硬に迫られ、受け入れねばならなくなる。その前に、実態として、ガザ地区を消滅させておくことが重要だということになる。

 アメリカは自国が仲介して、ビル・クリントン大統領が、パレスティナ解放機構のヤセル・アラファト議長とイスラエルのイツハク・ラビン首相との間でオスロ合意を結ばせた。二国共存解決(two-state solution)がこれで進むはずだった。しかし、イスラエル側にも、パレスティナ側にも二国共存路線を認めない勢力がいた。それが、イスラエル側のベンヤミン・ネタニヤフをはじめとする極右勢力であり、パレスティナ側ではハマスである。両者は「共通の目的(二国共存路線の破棄)」を持っている。そして、残念なことに、イスラエルの多くの人々、パレスティナの多くの人々の考えや願いを両者は代表していない。しかし、武力を持つ者同士が戦いを始めた。ハマスを育立てたのはイスラエルの極右勢力だ、アメリカだという主張には一定の説得力がある。

 アメリカとしてはイスラエルに対しての強力な支援を続けながら、ペトロダラー体制(石油取引を行う際には必ずドルを使う)を維持するためにも、アラブの産油諸国とも良好な関係を維持したい。しかし、中東地域の産油国の盟主であり、ペトロダラー体制を維持してきた、サウジアラビアがアメリカから離れて中国に近づく動きを見せている。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がブリックスに正式加盟したことは記憶に新しい。

 こうしたこれまでにない新しい状況へのアメリカの対応は鈍い。これまでのような対イスラエル偏重政策は維持できない。しかし、アメリカは惰性でこれからも続けていくしかない。こうして、ますます中東における存在感を減退させ、役割が小さくなっていく。

(貼り付けはじめ)

バイデンの新しい中東に関する計画は同じことの繰り返しである(Biden’s New Plan for the Middle East Is More of the Same

-改訂されたドクトリンでは、変化はほとんど期待できない。

マシュー・ダス筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/biden-middle-east-plan-gaza-hamas-israel-netanyahu/

2023年10月7日の同時多発テロを受け、ジョー・バイデン米大統領とバイデン政権は、10月7日以前の状況に戻ることはあり得ないと強調している。バイデン大統領は10月25日の記者会見で、「この危機が終わった時、次に来るもののヴィジョンがなければならないということだ。私たちの見解では、それは二国家解決(two-state solution)でなければならない」と述べた。

先月(2024年1月)、バイデン大統領は、長年にわたるお気に入りの、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるトム・フリードマンを通じて、新しい中東に関する計画の予告を発表した。フリードマンは、「ガザ、イラン、イスラエル、そして地域を巻き込む多面的な戦争に対処するため、バイデン政権の新たな戦略が展開されようとしている」と書いた。

フリードマンは、「もし政権がこのドクトリンをまとめ上げることができれば、バイデン・ドクトリンは1979年のキャンプ・デービッド条約以来、この地域で最大の戦略的再編成(strategic realignment)となるだろう」と書いている。

私はフリードマンの熱意には感心しているが、中東に対する「大きく大胆な」ドクトリンに関しては、彼の判断に大きな信頼を置くことはできないということだけは言っておきたい。フリードマンがこれほど興奮しているように見えたのは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子の革命的ヴィジョンに熱中していたときが最後だった。フリードマンが提示するバイデンの中東に関する計画には、目新しいことや有望なものはほとんどなく、アメリカの政策が何十年も続いてきた同じ失敗の轍にとどめる危険性がある。

フリードマンが伝えるところによると、この計画には3つの部分がある。パレスティナ国家樹立のための再活性化、アメリカが支援するイスラエルとサウジアラビアの国交正常化協定(サウジアラビアとの安全保障同盟を含むが、最初の部分についてはイスラエルの支援が条件となる)、そしてイランとその地域ネットワークに対するより積極的な対応である。

第一に、ポジティヴなことに焦点を当てよう。アメリカが管理する和平プロセスの主な問題の1つは、それが概して弱い側であるパレスティナ人に結果を押し付けていることだ。イスラエルにはニンジン(carrot)のみを与え、パレスティナ人には主に棒(stick)を与える。現在、バイデン政権がこのパターンを変える準備ができているという兆候がいくつかある。ヨルダン川西岸の過激派イスラエル人入植者と彼らを支援する組織に制裁を課すことを可能にする最近の大統領令は、アメリカが最終的に双方に結果を課す用意があることを示す小さいながらも重要な兆候である。この命令が単なる粉飾決算(window dressing)であると主張する人は、米財務省金融犯罪捜査網(Financial Crimes Enforcement NetworkFinCEN)からの通知を見て、その内容について説明できる人を見つけるべきだ。

最近のホワイトハウスの覚書でも同様であり、軍事援助には国際法の遵守が条件となっており、バイデン大統領は以前この考えを「奇妙だ(bizarre)」と述べていた。覚書の必要性には疑問があるが、政府は援助条件を整えるために必要なツールと権限を既に持っている実際、そうすることが法的に義務付けられているため、それは正しい方向への一歩である。もちろん、バイデン政権がその方向に進み続けており、新たなプロセスをイスラエルによる人権侵害に関する信頼できる申し立てを書類の山の仲に隠すための単なる手段として扱っている訳ではない。

しかし、パレスティナ人への配慮を除けば、バイデンの2023年10月7日以降の計画は、バイデンの10月7日以前の計画とよく似ている。それは、根本的な優先順位が同じだからだ。バイデンの新たな計画は、中国との戦略的競争(strategic competition)、つまり、バイデン政権が外交政策全体を見るレンズである。アメリカとサウジアラビアの安全保障協定は、中国を中東地域から締め出すために必要なステップであり、バイデン政権にこのような協定を売り込む唯一の方法は、サウジアラビアとイスラエルの正常化協定(もちろん、両国が独自に追求する自由はある)というお菓子で包むことである。このような合意には多くの疑問があるが、重要な疑問がある。何十年にもわたるイスラエルとアメリカの緊密な関係と比類なき軍事支援によって、アメリカがガザでの戦争の行方に影響を与えたり、イスラエルの武器の誤用を抑制したりすることができなかったとしたら、ムハンマド・ビン・サルマン王太子との合意によって、サウジアラビアによる責任ある武器の使用が保証されるのだろうか?

ここ数カ月の出来事が、アブラハム合意の大前提である「パレスティナ人は全くもって重要な存在ではない」ということを、いかに完全に打ち壊したかを認識するために、時間を使うだけの価値はある。これは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と、ワシントンにいる彼の同盟者たちにとって、彼らが長年主張してきたことの証明として提示されたものだった。それは政治的動機に基づく願望であることが判明した。これは驚くべきことではなかった。何しろネタニヤフ首相は、イラク侵略もイラン核合意からの離脱も素晴らしいアイデアだと断言した人物なのだ。彼は、この地域についてほとんど完璧なまでに間違っている。

バイデン政権は現在、アブラハム合意の論理を受け入れて、地域住民の間でのパレスティナ解放の永続的な重要性を大幅に過小評価していたことを理解している。これは歓迎すべき修正であるが、まだ不完全なままだ。 2023年10月以前の中東に関する計画は、パレスチティ人への永続的な弾圧を前提としていたという理由だけで欠陥があったのではない。この政策には欠陥があり、安定をもたらすと約束した虐待的で代表性のない政府による、アメリカ主導の地域秩序を再強化しようとして、地域の全ての国民に対する永続的な弾圧を前提としていたからだ。 10月7日に私たちは再び酷いことを学ばなければならなかったので、このような取り決めはしばらくの間は安定しているように見えるかもしれないが、そうでなくなる時期を迎えるだろう。

緊急の優先課題は、ガザでの殺害を終わらせ、ハマスが拘束している人質の解放を確実にすることだ。2023年10月7日の直後から、バイデン政権は「未来(day after)」についての対話には積極的だが、イスラエルが日々、無条件かつ絶え間ないアメリカの支援を受けながら、現場で作り出している恐ろしい現実がある。この現実こそが、アメリカが語る空想上の未来において、実際に何が可能かを決定することになることを、アメリカ側は十分に理解していないようだ。イスラエルの戦争努力は、殺戮の終了同時に自分の政治的キャリアが終わることを知っており、それゆえに戦闘を長引かせる動機を持っているネタニヤフ首相によって率いられているのだから、深刻に継続していくのである。

人命と家屋、地域と世界の安全保障、そしてアメリカの信用に与えたダメージの多くは、既に取り返しのつかない程度にまでなっている。デイヴィッド・ペトレイアスがアブグレイブの拷問スキャンダルについて語ったように、私たちの国の評判への影響は「生分解不可能[微生物が分解できない]non-biodegradable)」となっている。バイデン大統領が任期を越えてもこの状態は続くだろう。しかし、イスラエルとパレスティナの紛争に関するアメリカの政策を国際法に沿ったものに戻すことから始め、ダメージを軽減するために政権が選択することのできる措置はある。1967年に占領された地域が実際に占領地であると明確に表明することだ。これらの領土におけるイスラエルの入植は違法であるという国務省の立場に戻すことだ。ドナルド・トランプ大統領が閉鎖し、バイデンが再開を約束した在エルサレム総領事館を、パレスティナ人のための米大使館として再開することだ。ロシアのウクライナでの戦争と同様に、国際刑事裁判所があらゆる側面の戦争犯罪の可能性を調査することを支持することだ。国連加盟国の72%にあたる139カ国がパレスティナ国家を承認している。

結局のところ、パレスティナの解放を推進する真剣な取り組みには、バイデンがイスラエルに圧力をかける必要がある。それは避けられない。しかし同時に、バイデン政権が現在の危機を単に地域政策への挑戦としてだけでなく、政権が守ると主張する「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」全体への挑戦として捉えることも必要だ。パレスティナ人への対処を前面に出しても、権威主義的支配の耐久性を前提とした安全保障戦略の論理に根本的な欠陥があることには対処できない。ジョージ・W・ブッシュの「フリーダム・アジェンダ(Freedom Agenda)」のバイデン版を私は求めていない。しかし、たとえブッシュの処方箋が間違っていたとしても、彼の基本的な診断、つまり抑圧的な体制に安全と安定を依存することは悪い賭けだということは、認識する価値がある。私たちの政策は、このことに取り組む必要がある。

※マシュー・デス:センター・フォ・インターナショナル・ポリシー上級副会長。2017年から2022年にかけて、バーニー・サンダース連邦上院議員の外交政策補佐菅を務めた。ツイッターアカウント:@mattduss

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。私は現職のジョー・バイデン大統領が、合法・非合法あらゆる手段を用いて、大統領に再選されると考えています。これを打ち破って、トランプ大統領が再び登場するとなれば、アメリカの民主政治体制も捨てたものではないということになりますが。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカの衰退基調は止められない。長期的な視点を持てばそれは明らかだ。短期に小さな変化があるにしても、衰退という流れを止められない。ジョー・バイデンが再選されようが、ドナルド・トランプが2度目の大統領になろうが、それは変わらない。トランプのスローガンである「Make America Great AgainMAGA)」は、「アメリカを再び偉大に」という意味であるが、「現在のアメリカは偉大ではない」という認識が根底にある。トランプとトランプ支持者にとっては残念なことであるが、アメリカが再び偉大になり、世界に冠たる超大国である状態にはもう戻れない。

西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)をリードする中国にとって、この長期的な視点から見ると、アメリカ大統領には誰がふさわしいのかということは一般的な常識とは異なる答えが出る。

 中国にとって、長期的な視点に立てば、トランプ大統領が望ましいということになる。トランプは前回の大統領時代に中国との貿易戦争を開始した人物であり、「そんな人物は中国にとってはふさわしくないのではないか、ジョー・バイデンの方がいいのではないか」と私たちは考えてしまう。しかし、長期的な視点では、トランプの方が良いということになる。
その理由を下に掲載した記事の著者デマライスは5つを挙げている。
 アメリカはもう世界を管理する力を失いつつある。「アメリカ(軍)は国に帰ろう」というのがトランプの考えだ。そうなれば、アメリカのグリップが緩む。世界システムは西側手動から大きく変化する。トランプはヨーロッパを「敵(貿易面では)」と呼び、かつ、アメリカからタダで守ってもらっている、安全保障をただ乗りしていると考えている。

トランプが大統領になれば、米欧間の不信感は大きくなる。トランプとロシアのウラジーミル・プーティンは仲が良い間柄だ。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、トランプ、プーティン、そして、中国の習近平の関係を「新しいヤルタ体制」と呼んだ。そうなれば、ヨーロッパは、「トランプとプーティンに挟まれている」という考えを持ち、焦燥感に駆られるだろう。そこに中国が付け込む隙ができるし、ロシアはエネルギー供給を利用して、ヨーロッパを取り込むこともできる。アメリカはヨーロッパ本土から駆逐されて、イギリスにまで下がる可能性がある。
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 アジア太平洋地域で見る場合に、大事なのは「列島線(island line)」である。最近では、「第3列島線」という言葉まで出ている。トランプとアイソレイショニスト(isolationists、国内問題解決優先派)は恐らく、第3列島線まで下がることを容認するだろう。バイデンをはじめとするエスタブリッシュメントは、第1列島線の固守にこだわるだろう。しかし、アメリカの長期的な衰退においては、第3列島線までの後退は避けられない。中国にしてみれば、トランプが大統領になって、米軍の縮小や撤退があれば好都合ということになる。
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 下の記事では、既に経済の最先端分野では中国が主導権を握っているものがあるということで、アメリカが輸出規制をしてくれれば好都合ということや、発展途上国からすれば中国の方が付き合いやすく、トランプが大統領になればその流れが加速するということが書かれている。こうしてみると、トランプこそはアメリカ帝国の解体を促すことができる、最有力の存在ということになる。

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なぜ中国は熱心にトランプを応援しているのか(Why China Is Rooting for Trump

-中国政府の長期戦は、トランプの政策と、トランプが即死するアメリカ国内の分裂によって、はるかにうまくいくことになるだろう。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月7日

https://foreignpolicy.com/2024/02/07/china-trump-biden-us-presidential-election-2024/

2017年1月にドナルド・トランプが米大統領に就任する前の世界の様子を思い出すと、印象的な光景が鮮明に思い出される。当時、北京が世界の安全保障に脅威を与えているという考えはワシントンでは主流ではなかった。ヨーロッパからの輸入品に関税を課すことは考えられなかった。そして、冷戦終結以降、徐々に使われなくなっていた技術輸出の規制は、一部の政策マニアの領域だった。

良くも悪くも、特にアメリカと中国の関係に関して言えば、トランプが世界を変えたことは否定できない

米中貿易戦争の激化を約束するなど、中国に対するトランプ大統領の扇動的な発言を考慮すると、中国の指導者たちが共和党大統領選挙候補となる可能性が高いトランプよりも現職のジョー・バイデン大統領を好むと考えるだろうというのは簡単に推測できることだ。

しかし、この見方はおそらく近視眼的(shortsighted)であり、全体像を覆い隠してしまう。おそらく中国はトランプを応援していることだろう。

中国政府は、トランプ政権下でもバイデン政権下でも、その他の米大統領の下でも、アメリカとの関係改善の見込みがないことを承知している。西側諸国に対する中国の長期戦の観点からすれば、トランプ大統領のホワイトハウス復帰は、少なくとも経済分野では中国に有利になる可能性が高い。その理由を5つ挙げていく。

(1)トランプはアメリカとヨーロッパの間の分断をさらに拡大するだろう。(Trump would increase divisions between the United States and Europe.

「貿易において、彼らが私たちにしていることから見て、ヨーロッパ連合(EU)は敵だと思う」 (トランプ、2018年7月)

2023年12月、『フィナンシャル・タイムズ』紙は、中国の諜報機関が元ベルギー上院議員フランク・クレイエルマンを何年にもわたってエージェントとして利用していたと報じた。彼を担当していた中国の当事者は、関係の目的について要約し、「私たちの目的はアメリカとヨーロッパの関係を分断することだ」と簡潔に語った。

中国政府の論拠は単純だ。共同輸出規制など、中国の利益を損なう大西洋横断政策の出現を防ぐには、アメリカとヨーロッパとの間に不信感を醸成し強固にすることが最善の方法だ。その観点からすれば、トランプの第二期大統領就任は中国の思う壺ということになる。トランプ大統領は2018年に「貿易において、彼らが私たちにしていることから見て、ヨーロッパ連合(EU)は敵だと思う」と述べたが、この考えが変わったこと示す兆候はない。

もしトランプが当選すれば、おそらく全面的に10%の関税を課すという公約を実行するなど、ヨーロッパとの貿易戦争を再開したいという衝動に抗うことはできないだろう。貿易戦争が起これば、中国の利益を損なう可能性のある措置に関するアメリカとEUの協力が停止する可能性が高い。もちろん、中国からの輸入品に最低60%の関税を課すというトランプの最近の約束も、中国にとっては苦痛となるだろう。しかし、大局的に見て、アメリカとEUの分裂が実現できるのであれば、中国政府はそのような代償を払う価値があると考えるかもしれない。

(2)トランプは対ロシア制裁について撤回する可能性がある。(Trump could make a U-turn on sanctions against Russia.

「彼らはロシアに対して制裁を行っている。ロシアと良い取引ができるか試してみよう」(2017年1月)

トランプの外交政策は予測不可能であるにもかかわらず、一貫しているのは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領と良好な関係を築きたいという明らかな傾向である。これは2018年にフィンランドで行われた米ロ首脳会談で、トランプが自国の諜報機関よりもプーティン大統領の方を信頼していると示唆した際に最も顕著に表れた。プーティン大統領への称賛の気持ちが変わらなければ、トランプは大統領就任後すぐに対ロシア制裁の解除を決定する可能性が十分にあり、ヨーロッパ諸国に大きな懸念を持たせている。

このような状況はモスクワを喜ばせるだけでなく、中国にとっても有利となるだろう。ロシアと中国の無制限の友好宣言にもかかわらず、現実には中国企業はロシアとの取引に慎重になっている。中国のロシアへの輸出は2022年以降急増しているが、これは低いベースからのものであり、これまでのところ中国企業がロシアへの投資を急いでいるという証拠はほとんどない。

これは、アメリカ政府がモスクワに二次制裁を科し、世界中の企業がアメリカとロシアの顧客のどちらかを選択するよう迫られるのではないかとの懸念のためだ。このようなシナリオでは、ほとんどの中国企業にとってアメリカ市場に固執するのは当然のことだろう。その結果、中国企業はロシア企業との関係構築にはほとんど関心がなく、近いうちに断念する必要があるかもしれない。トランプが対モスクワ制裁を解除すれば、中国企業にとってこの問題は解決されることになるだろう。

(3)トランプ氏は中国による代替金融メカニズムの推進を後押しするだろう。(Trump would give a boost to China’s push for alternative financial mechanisms.

「中国は米ドルを人民元に置き換えたいと考えているが、それは私たちには考えられないことだ。考えられない。決して起こらないだろうし、起こってはならない。しかし、今、人々はそれについて考えている」(2023年8月)

中国は長年、非ドル化、西側管理のSWIFT世界銀行システムに代わる代替手段の創設、あるいは国境を越えた決済のためのデジタル人民元の計画などを通じて、アメリカの制裁から逃れようとしてきた。しかし、中国は単独でこの戦略を達成することはできない。中国の金融構造が確立された西側諸国の金融構造に取って代わるためには、中国の貿易相手国も同様に非西側の代替手段を選択する必要がある。そこに至るまでの道は険しいだろう。ほとんどの企業や銀行は、完全に機能する SWIFT を捨てて、はるかに小規模な中国製の代替手段を試す必要はないと考えている。

トランプが第二期大統領に就任すれば、この推論が変わる可能性がある。 2018年のロシアのアルミニウム生産会社ルサールの事件はその理由を物語っている。何の警告もなくルサールに制裁を加えた後、トランプ政権はその措置が世界に多大な波及効果をもたらすことを認識し、急いで制裁を撤回して解除しなければならなかった。

この話から得られる教訓は明らかだ。トランプ政権下では、どんなことでも起こる可能性があり、誰もが警告なしに制裁に晒される可能性がある。その結果、トランプがホワイトハウスに復帰した場合、多くの国はこうした措置から先制的に自分たちを守ろうとするだろう。現段階での最善の方法は、中国政府の代替金融メカニズムに切り替えることだ。それは中国にとってもう1つの勝利となるだろう。

(4)トランプが勝利すれば、新興国からの重要資材調達における中国の支配力が高まるだろう。(A Trump win would increase China’s domination for critical materials sourcing from emerging countries.

「なぜクソみたいな国からこんな人たちがここにやって来るんだ?」(2018年1月)

影響力をめぐる世界的な戦いにより、コバルト、銅、黒鉛、リチウム、ニッケルなど、グリーンエネルギーへの移行に不可欠となる原材料へのアクセスを確保するために、西側諸国は中国と対立している。これまでのところ、この戦いは主にボリビア、ブラジル、コンゴ民主共和国、ギニア、インドネシアなどの資源豊富な新興諸国で行われている。中国はこの競争において、群を抜いたリーダーであり、例えば世界のリチウム供給の精製の約50から70%を支配している。

2度目のトランプ大統領就任は、かつてトランプ大統領がまとめて「クソ国家」と軽蔑していた発展途上諸国に、重要な原材料の供給でアメリカと提携するよう説得するのには役立たないだろう。 2018年のイラン核合意からの突然の離脱が示したように、多くの鉱物資源諸国はトランプ大統領の約束にはほぼ価値がないのではないかと懸念を持つだろう。

その上、トランプの発展途上国経済への軽蔑、移民の抑制の可能性、そしてイスラム教に関する扇動的な発言は、アフリカ、東南アジア、南米諸国の指導者たちとの緊張を正確に打ち砕く訳ではない。中国は自らをその場にいる余裕のある大人のような存在、つまりビジネスと政治を混同しない信頼できるパートナーとして振る舞うことで、新興国経済における自国の利益を喜んで推進し続けるだろう。

(5)中国はアメリカのクリーンテクノロジー輸出規制から恩恵を受けるだろう。(China would benefit from U.S. export controls on clean tech.

「地球温暖化という概念は、アメリカの製造業の競争力を失わせるために中国によって生み出された」(2012年11月)

輸出制限は、アメリカ政府が中国に重点を置いた経済リスク回避戦略を実行するための重要な手段である。これらの措置は、半導体、人工知能、量子技術など、二重用途を持つ技術を対象としている。これまでのところ、クリーンテクノロジーはアメリカの輸出規制から逃れられているが、トランプ大統領の誕生でおそらく状況は変わるだろう。共和党は中国に対してよりタカ派的な姿勢をとり、バイデン政権よりも幅広い分野に輸出規制を適用することを明らかにしており、その中には再生可能エネルギーや電池技術などのクリーンテクノロジーも含まれるだろうと考えられる。

中国から見れば、アメリカのグリーン商品の輸出規制は素晴らしいニューズとなるだろう。中国企業は太陽光パネル、風力タービン、電気自動車などの分野で、既に世界のリーダーであるため、短期から中期的には、こうした措置は中国企業にほとんど影響を及ぼさないだろう。

長期的には、中国企業もこうした規制から恩恵を受ける可能性がある。世界最大の市場を奪われ、アメリカ企業は収益が減り、研究開発予算の削減を余儀なくされるだろう。寛大な公的補助金の支援を受けて、中国企業は研究を倍増させ、次世代のクリーンテクノロジー機器の開発で米国企業を追い越すことができるだろう。加えて、アメリカのクリーンテクノロジー削減のシナリオは、中国が将来のクリーンテクノロジー製品の世界基準に影響を与えるのに役立ち、最終的には中国政府の全面的な勝利につながるだろう。

2016年の選挙集会で、トランプは「私は中国を愛している」と高らかに述べた。これが真実であるかどうかに関係なく、中国政府はトランプの第二期大統領就任について、一見予想よりも高く評価している可能性が高い。貿易、制裁、金融インフラ、重要原材料へのアクセス、輸出規制などの主要な経済分野において、トランプ2.0シナリオは中国の長期的利益に十分に影響を及ぼす可能性がある。

もちろん、経済学以外にも考慮すべき領域はある。しかし、中国にとってもう1つの重要な問題である台湾の防衛にはあまり熱心ではないというトランプの最近の発言も中国政府を喜ばせるだろう。中国から見ると、2024年11月のトランプの勝利は、それによって引き起こされる混乱、分断、そしてアメリカの威信への打撃から利益を得られる魅力的な機会に見える可能性が非常に高い。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。日本がアメリカの下請けで武器を製造するということは、私が本の中で予想していた通りの展開です。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 岸田文雄と自民党をめぐっては、スキャンダルもあり、増税もあり、非常に厳しい状況になっている。それでも何とか予算を通すことができた。今年4月には、岸田首相は、国賓としてアメリカを訪問する。アメリカ連邦議会の上下両院合同会議で演説を行うことが決まっている。国賓待遇なので、ジョー・バイデン大統領主催の晩餐会や、岸田首相主催の答礼となる晩餐会もあるだろう。私の記憶では、連邦議事堂で演説を行った日本の首相は、故安倍晋三元首相以来だと思う。「属国」の首相に対して、これだけの「好待遇」をするということは、それ相応の「お土産」がいる。それが下記の記事にあるアメリカ向けの軍事装備部品の共同生産体制の強化、増産ということである。
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 ウクライナ戦争が開戦して2年以上経過し、状況はウクライナにとって不利になっている。アメリカをはじめとする西側諸国では、ウクライナに対する支援が厳しくなっている。最大の支援国であるアメリカでは、アメリカ連邦下院でウクライナ支援に反対する共和党強硬派がいる。大統領選挙の共和党候補者となること学実となっているドナルド・トランプも反対している。アメリカ国民の多くも「既に十分にしてやった」と考えている。これらのことは、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で詳しく書いている。

 また、アメリカは工業生産力が落ちている中で、多くの武器をウクライナに送っているために、アメリカ軍の装備自体が足りなくなっているということは、2022年の段階で既に報じられている。工業生産力は中国、ドイツ、日本に劣っている。また、軍事用品は一般使用できないために、簡単に増産はできないし、雇用を増やすということもできない。そうした中で、アメリカとしては武器の生産に困っているという状況だ。そうした中で、便利使いされるのは日本だ。これらのことも私は『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の中で予想していた。その通りになった。
 アメリカで足りない武器を日本が代わりに作らせていただく、しかも日本のお金で、ということになる。これは「ウクライナ支援」という大義名分がつく。アメリカが武器とお金を渡してウクライナ人に戦わせるというのがウクライナ戦争の大きな構図であるが、ここに日本人がお金を出すということが加わる。

 アメリカは「民主政治体制防衛のための武器庫(arsenal of democracy)」(フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領の言葉)という大義名分を守るために、属国・日本を使う。貧乏くじを引かされるのは日本ということはこれからもそうだったし、これからも続くだろう。
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●「アメリカ向け装備部品増産へ、日米首脳会談で連携強化調整…日本がウクライナ支援を下支え」

2024/03/10 05:00

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240309-OYT1T50255/
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 日米両政府は4月に予定する首脳会談で、防衛装備品を巡る「共同生産体制の強化」について合意し、成果文書に明記する方向で調整に入った。ロシアによる侵略が続くウクライナ支援で米国の生産体制は 逼迫ひっぱく している。日本がウクライナ支援を下支えすることで日米同盟の結束を示し、抑止力維持にもつなげる狙いだ。

 複数の日米両政府筋が明らかにした。米ワシントンで4月10日に行われる岸田首相とバイデン大統領との会談では、日米の防衛産業間の連携強化が主要なテーマとなる。米側には、ウクライナ支援の長期化などで砲弾やミサイルが在庫不足に陥りかねないとの危機感がある。

 日本は昨年12月、防衛装備移転3原則と運用指針を改正した。これに合わせ、米国のミサイル不足を補うため、地対空誘導弾パトリオットミサイルの米国への輸出を決めた。

 首脳会談では、こうした補完関係を加速させる方針を確認する見通しだ。覇権主義的な動きを強める中国もにらみ、装備品のサプライチェーン(供給網)を強化したいとの考えがある。

 具体的には3原則と運用指針の改正で防衛装備品の部品輸出を幅広く認めたことを踏まえ、主に部品の生産拡大を想定しているとみられる。ウクライナで大量に消費されているりゅう弾砲の部品などが浮上しており、日米は今後、弾薬なども含めて対象とする装備品の特定を急ぐ。

 日米両政府は日本企業が米軍装備品の整備や修理を定期的に行う事業の本格化も検討しており、首脳会談でも議題とする方向だ。

 米海軍第7艦隊を中心に日本に前方配備された艦艇が対象候補に挙がっている。現在、大規模な整備は米本土で行われているが、日本で実施できれば、整備の際の運用休止期間の短縮や費用の抑制につながる。日本にとっては防衛生産・技術基盤の強化も期待できる。

 艦艇に加え、最新鋭ステルス戦闘機「F35A」なども候補として浮上している。

 ただ、日本政府内では、日本の艦艇整備拠点の受け入れ余地が少ないとの指摘もある。米議会では一連の事業を日本が行うことになれば米国の雇用に影響しかねないとの警戒感もあるとされ、慎重に詰める方針だ。

 今回の首脳会談は国賓待遇で招かれて行うもので、首相は米議会の上下両院合同会議で演説する。

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(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界の構造は大きく変化しつつあります。「衰退し続ける西側諸国(ザ・ウエスト、the West)対発展し始めた西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」の二極構造が出現しつつあります。英米対中露の争いとも言えます。こうしたことを分析しました。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界の物流の重要地域である紅海で、イエメンの反政府組織フーシ派が民間船舶に対する攻撃を断続的に行い、それに対して、イギリスとアメリカが攻撃を行っている。地中海とスエズ運河を通じてつながっている紅海は、そのままインド洋、太平洋ともつながっており、世界の海運の最重要ゾーンと言える。ここを通れない船舶は、アフリカ大陸を迂回するルートを選択することになり、日数と輸送料、保険料が増えていくことになる。結果として、それが物価に影響を与え、食料やエネルギーの価格が高騰することになる。
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 イエメンの反政府組織フーシ派は、イエメン内戦に政府側として介入してきたサウジアラビアと戦っている。しかし、同時にサウジアラビアはフーシ派と交渉を続け、停戦に持っていこうとしていた。しかし、英米による攻撃によって、この交渉が頓挫してしまった。フーシ派と長年にわたり戦ってきたサウジアラビアが英米の攻撃に冷淡なのは、サウジアラビアからすれば、「余計なことをして状況を悪化させやがって」という不快感を持っていることを示している。
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 中国の一帯一路構想は、こうした状況にうまく対処できる方策を示している。それは、ヨーロッパと中国を陸路で結ぶ「シルクロード構想」でる。鉄道や高速、一般道路、パイプラインなどを通じて、海運の代替輸送が可能になっている。ヨーロッパ諸国にとって中国は最大の貿易相手国である。スエズ運河を使えず、紅海を使えないとなればそれは死活問題となるが、陸路という代替手段があることは重要である。中国は現在のような状況を予見していたかのように、2013年から一帯一路構想を推進してきた。
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 私は更に、この一帯一路構想は、インドを締め上げるという意図と、更には、アメリカを国際物流から切断することもできる方策を持つ意図があるのだろうと考えている。BRICSにおいて、西側に一番気を遣っているのがインドである。それはそれで戦略として正しいが、インドが裏切らないようにするために、中露は北と南から包囲する形を取っている。また、ユーラシアとアフリカ、南米をつなぐ、BRICS圏と一帯一路を完成させることで、北アメリカを孤立させることもできる。

 紅海危機(Red Sea Crisis)は、フーシ派はパレスティナ支援の一環として、西側の船舶を対象にして攻撃を行うようになっている。イスラエルの過剰なガザ地区への攻撃は、国際的な非難を浴びている。イスラエルだけではなく、イスラエルを支援するアメリカに対しても非難の声が上がっている。今回の紅海危機は、フーシ派が攻撃を行っていることで起きているが、紅海湾岸の諸国や中東諸国は静観している。英米とは一線を画している。フーシ派にはイランが支援を行っており、イランの大後方には中国が控えている。イギリスとアメリカが中東地域の安全保障分野における大きな役割を果たしてきた。しかし、中東諸国は、今回、そうした動きを謝絶している、そのように私には見える。

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紅海危機は中国が先手を打っていたことを証明した(The Red Sea Crisis Proves China Was Ahead of the Curve

-一帯一路構想は邪悪な陰謀ではなかった。それは、不確実性(uncertainty)と混乱(disruption)の時代に全ての国が必要とするものの青写真だった。

パラグ・カンナ筆

2024年1月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/20/url-red-sea-houthis-china-belt-road-suez-trade-corridors/

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2021年3月27日、エジプト。紅海の港湾都市スエズ近郊のスエズ運河南口で、スエズ運河通貨を待つために停船している船舶の航空写真。

過去2カ月にわたり、紅海とアラビア海を結ぶ戦略上重要なバブ・エル・マンデブ海峡でフーシ派反政府勢力の攻撃が激化し、世界最大規模の海運各社はスエズ運河の航行を数週間停止し、更にはルート変更をしなくてはならなくなった。アメリカとイギリスがイエメンへの攻撃を開始し、状況がエスカレートしたため、民間の船舶はこの地域を避けるようになった。

地中海やアラビア海峡を行き来する船舶が選択肢を検討している一方で、バブ・エル・マンデブ海峡を完全に迂回する船舶もある。2023年12月中旬、サウジアラビアは、アラブ首長国連邦のジェベル・アリやバーレーンのミナ・サルマンといったペルシア湾の港に滞留している物資について、トラックでイスラエルのハイファ港まで自国領内を通過できるようにするための、アラビア湾から地中海への「陸橋(land bridge)」の構築を承認した。

これで分かるだろう。2023年10月7日のハマスからのイスラエルへの激しい攻撃によってアブラハム合意(UAEとイスラエルの国交正常化合意)が破棄されることはなかった。また、サウジアラビアとUAEは二国家共存によるパレスティナ紛争解決を強く支持しているが、紅海上の混乱に対処するために両国ともイスラエルとのインフラ協力を加速させている。サウジアラビアとUAEはイスラエルとの協力姿勢を崩していない。そして、紅海上の混乱を収めようとするのは、もちろん、通常であればエジプトの金庫に流れ込むであろう通過料金がきちんと徴収されるようにするためでもある。しかし、陸路輸送を促進することで、ペルシア湾岸・イスラエル間の航路が紅海の海上ルートから10日間短縮されるのは大きな利益となる。

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地図が示している通り、アラビア海から紅海に入り、スエズ運河を通って地中海に出る紅海周辺の国々サウジアラビア、イエメン、エジプト、イスラエルは、世界的な貿易の重要地点である。

出典:アメリカエネルギー情報局

紅海での海上テロやロシア・ウクライナ戦争による地政学的ショックは、世界経済、とりわけ発展途上各国が新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)による財政的痛手からの回復に苦闘している中で、物流コストと食料品価格を押し上げている。最近もアイスランドで火山が噴火し、航空運賃が上昇した。

今日の永続的な変動に対する解決策は、北京とワシントンの首脳会談やG7のグループ・セラピー・セッション、あるいは世界経済フォーラムや国連気候変動会議のようなトーク・フェスティバルからは生まれないだろう。その代わりに、深刻な相互不信と予測不可能な危機に悩まされる世界が、世界的な公益のために意味のある集団行動を起こすための道筋は、まさに1つしかない。供給ショックの解決策は、サプライチェィンを増やすことである。経済ベルト(belts)を増やし、通行路(roads)を増やすことだ。

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2023年10月18日、北京の人民大会堂で開催された第3回「一帯一路」国際協力フォーラムの開幕式で演説する中国の習近平国家主席。

中国はこのことを何年も前から認識し、それに基づいて行動してきた唯一の国だ。中国が昨年10月、こうした構想を象徴する、一帯一路構想(Belt and Road Initiative BRI)発足10周年を記念して130カ国以上の指導者や代表を北京に招集した際、10年前と同様、多くの西側諸国の指導者たちは不快感を示した。西側の指導者たちは、中国を世界貿易ネットワークの中心に置くことで西側主導の国際秩序を弱体化させるステルス計画として、一帯一路構想を捉えてきた。

しかし、機能的な観点から見れば、一帯一路構想は全ての国が自国の国益のために行うべきことを象徴している。すなわち、国家の利益は、不測の事態に対するヘッジ(hedge、備え)として、また自国の資源や製品とのアクセス性と影響力を高めるために、需要に見合った供給経路をできるだけ多く構築することである。

このようなヘッジの必要性は、2021年、巨大コンテナ船エバー・ギブン号がスエズ運河で座礁し、新型コロナウイルス感染拡大不況の中で世界が貿易の復活を模索していた矢先、ヨーロッパとアジア間の貿易が全面的に凍結されたことで明らかになった。滞貨の大部分は2週間以内に解消されたものの、世界のジャスト・イン・タイムのサプライチェィンにとっては、摩擦のない貿易を前提に、メーカーや小売業者が部品や商品の在庫を低く抑えている中で、不安な経験となった。また、出荷が遅れた場合の保険料も毎週高額となった。

海上のチョークポイントの脆弱性が、紅海でのフーシ派のテロ、黒海でのロシアの穀物封鎖、パナマ運河の干ばつ、あるいはマラッカ海峡近くの潜在的な南シナ海紛争によって露呈したとしても、世界経済の最大ゾーンである北アメリカ、ヨーロッパ、アジアは、このような散発的で制御不能な出来事の人質とされるべき理由は存在しない。

確かに、船舶はアフリカの喜望峰を巡るスエズ運河以前のルートを選択し、通常の20から 30日の輸送時間に、更に10から14日追加される可能性がある。しかしその代わりに、中国とヨーロッパ諸国(互いの最大の貿易相手国)はより賢明な方法を選択した。ユーラシア大陸横断鉄道の貨物輸送は、2021年初頭に月間1000本の貨物列車となり、列車数が倍増して、信頼性と定時性が向上した。

ユーラシアを網羅する高速道路や鉄道、インド海や北極海沿いの港湾の更なる建設・整備は、世界経済の適切な機能に依存する世界の貨物・商品貿易に柔軟性と代替ルートを生み出すために不可欠である。このような投資は、保護主義、地政学、気候変動から生じるインフレショックに対する効果的な予防措置となる。

一帯一路構想が変革をもたらしていないと主張するのは難しい。 2013年以来、約1兆ドルの資金が建設プロジェクトや非金融投資として一帯一路加盟諸国に流入した。

特に人口過密の発展途上諸国にとって、国内需要に対応し、経済乗数効果(economic multiplier effects)を生み出し、世界経済との接続を構築するには、強固なインフラが不可欠だ。ハンガリーやセルビアなどのヨーロッパの周縁諸国も一帯一路構想の受益者であるが、ザンビアやスリランカなどの他の国々と同様、過剰債務(excessive debt)と中国による一部の政治的支配という代償を払ってこれらを実現した。

西ヨーロッパに関しては、イタリアが2019年に一帯一路構想に加盟し、2023年末に離脱したが、これは大規模な二国間貿易において中国市場への十分な相互アクセスが得られなかったことに対するヨーロッパの不満の表れである。

一方、昨年9月にニューデリーで開催されたG20サミットでは、提案されている200億ドル規模の多様なインド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor IMEC)は、一帯一路のライバルとして、アメリカによってすぐに歓迎されたが、それははるかに地元密着型である。

一例を挙げると、インドのナレンドラ・モディ首相も、イラン経由でロシアへの貿易回廊(trade corridor)を宣伝しているが、これはワシントンの耳にはまったく愉快な音楽ではない。同様に、サウジアラビアとUAEがアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、インド、日本に同時に求愛していることからも明らかなように、自信に満ちた湾岸アラブ諸国は、いわゆる新冷戦でどちらの味方もしている訳ではない。その代わりに、彼らはヨーロッパ、アフリカ、アジアの間の地理的な交差点としての役割を高めるために、巧みな複数の同盟(multialignment)を実践している。

これらの地理を組み合わせた造語は「アフロ・ユーラシア(Afro-Eurasia)」だ。この用語は学者たちが植民地時代以前の文明と商業の軸を指すために使用しており、事実上、いわゆる新世界(the New World)の発見に先立って既知の世界を構成するということになる。

今日、アフリカ・ユーラシアは再び世界の人口動態、経済学、地政学の中心地となっている。このインド太平洋システムに属する全ての国は、グローバライゼーションを低下させるのではなく、更なるグローバライゼーションを望んでいる。最もつながりのある大国は、貿易国家に他国の地理ではなく自国の地理を使用させることで勝利する。

彼らは、分断されるのではなく、ますます混ざり合い、階層化する世界から恩恵を受けている。実際、負けじとばかりに、同じG20サミットで、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も、イラク南部のバスラ港を経由してトルコを経由してヨーロッパに至る別の貿易通過回廊を提案した。

EU加盟諸国は、インド太平洋における中国の戦略的影響力に対抗し、中国による太陽光パネルや電気自動車のダンピングから自国市場を守るという点でアメリカと歩調を合わせている。しかし、ヨーロッパはまた、各国首脳がインド、ヴェトナム、インドネシア、シンガポールを頻繁に訪問していることから分かるように、アラブ諸国やアジア経済への輸出拡大にも熱心な姿勢を保っている。 2016年に中国企業COSCOがギリシャのピレウス港の株式の過半数を取得したことをめぐる騒動にもかかわらず、それはIMEC複合一貫航路で想定されている終着点と全く同じである。

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2018年11月10日、スリランカのコロンボで建設中の新しい高層ビルが見られる中、ゴール・フェイス・グリーン沿いにたむろするスリランカの若者たち。

西側諸国の外交官やアナリストたちはもはや中国の一帯一路構想を否定はしていないが、根底にある背景をまだ完全には把握していない。一帯一路構想は攻撃的というよりも防御的な試みとして始まった。中国は世界の工場となり、拡大する産業基盤を強化するために大量のエネルギーと原材料の輸入を必要としていたが、今日世界のサプライチェインを悩ませているのと同じ難所に対して脆弱なままだった。同時に、鉄鋼やその他の商品の膨大な余剰生産を吸収できる市場を模索した。

中国の国防費、武器輸出、ならず者国家やアメリカの同盟諸国との戦略的関係が同様に拡大するにつれ、一帯一路構想は中国の大戦略の中核要素であり、世界を切り開く邪悪な陰謀と見なされるようになった。しかし、地政学は非線形(nonlinear)だ。中国は、インドとのヒマラヤ国境を越えて南シナ海への積極的な侵攻と、一部の批評家が「債務罠外交(debt-trap diplomacy)」と呼ぶ厄介な財政条件で、すぐに自ら疑惑を引き起こした。

その後、西側諸国と同盟大国は対抗策を講じ始めた。軍事分野では、オーストラリア、インド、日本、米国のクアッド連合(Quad coalition)はインド太平洋で海洋協力を強化し、ヴェトナムなど南シナ海の沿岸諸国への武器販売を強化し、フィリピンを支援している。中国が埋め立てを行ったのと同じように、島々を要塞化している。

インフラおよび商業分野においては、アメリカの戦略的競争法(the Strategic Competition Act)とCHIPSおよび科学法(the CHIPS and Science Act)、米国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance Corp)、EUのグローバル・ゲートウェイ・イニシアティヴ(Global Gateway initiative)、日本とインドの「接続回廊(connectivity corridors)」、多国籍サプライチェィン・レジリエンス・イニシアティヴ(multinational Supply Chain Resilience Initiative)やG7の「より良い世界を取り戻す(Build Back Better World)」は、各国を誘導して、中国の金融機関ではなく多国籍金融機関から優遇金利で借り入れたり、中国の企業(フアウェイ)よりも西側の企業(スウェーデンのエリクソンなど)と契約させたりするために考え出された無数の計画の一部に過ぎない。5G ネットワーク、またはインターネット・ケーブルの分野でこのようなことが起きている。

西側諸国は、口先だけではなく実際に行動することを学びつつある。インフラ整備競争(infrastructure arms race)は現在進行中だ。西側諸国が何十年も無視してきた後、中国は世界の問題として、インフラを強化したことで評価されるべきだが、世界が共同して重要なインフラに投資すればするほど、全ての道が中国に通じている(all roads lead to China)可能性は低くなる。西側諸国はこのグレイトゲームの最新ラウンドには出遅れているかもしれないが、既に競争条件を平等にすることに成功している。

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2020年5月26日に中国東部の海安の物流拠点を出発するヴェトナム行きの輸送コンテナを運ぶ中国・ヨーロッパの貨物列車が写っている。

中国主導対西側主導の取り組みはゼロサムの試みとして描かれているが、ほとんどの場合、港湾や送電網などのインフラは利用を排除できないものであり、競合するものではなく、あらゆる商用ユーザーに開かれており、それらのユーザーに平等なサーヴィスを提供する。パイプラインであれ、送電網であれ、インターネット・ケーブルであれ、それぞれのしっぺ返しプロジェクト(tit-for-tat project)は、意図せずして、世界を相互接続されたサプライチェィンシステムに変えるというはるかに壮大なプロジェクトを前進させる。

今日の激動の世界において、これ以上に伝えるべき重要な真実はない。需要を満たすための供給経路が増えると、インフレショックを回避できる。私たちは、より多くの国でより多くの食料を清算し、より多くの半導体を生産し、より多くのレアアース鉱物を加工し、世界中での移動に単一障害点(single point of failure)を確実になくす必要がある。

輸送手段をスエズ運河からユーラシア鉄道、あるいはよる高速な北極海航路に自発的に移行できることは、まさに世界経済がショックに対してより回復力を持ち、ナシム・ニコラス・タレブの言葉を借りれば「反脆弱性(antifragile)」にさえなれる方法だ。この点だけでも、インフラ的に関連性の高い(hyperconnected)世界は望ましいものであり、現在のシステムよりも優れている。気候変動が加速する中で、それは文明の生存にとっても不可欠だ。

気候ストレスは今世紀中に10億人以上の移動を促す可能性があり、人口は沿岸部から内陸部へ、標高の低い地域からより高い地域へ、そしてより暑い気候からより涼しい気候へ再定住することになる。私たちは既に、南アジアや東南アジアからヨーロッパや中央アジアへといった、これまで経験したことのない大規模な移住の新たなベクトルを目の当たりにしている。人類の大多数がユーラシア大陸に居住していることを考えると、東ヨーロッパや中央アジア全域のより気候変動に強い地域への人々の必然的な循環が予測され、住宅、交通、医療、その他の施設といった必要な都市インフラが構築されていることが重要だ。

石油パイプラインなどの古いインフラが依然として多すぎて、海水淡水化プラント(water desalination plants)、太陽光発電所、エネルギー効率の高い手頃な価格の住宅、水耕栽培食品センター(hydroponic food centers)などの新しいインフラが少なすぎる。これらの投資は、世界経済を促進する大規模な地球規模のリサイクルの一部である。インフラは雇用を創出し、生産性を向上させ、消費と貿易の成長を促進し、人材と資本の流れを引き寄せる。

現代文明を定義する都市部集住(urban settlements)の構築と接続は、過去1万年にわたる人類の物語である。ローマの道路からイギリスの鉄道、アメリカの基地に至るまで、私たちが蓄積したインフラの層は、インフラの管理の権限は変わるものの、長期的にはゼロサムゲームではないという事実の永続的な証拠だ。インフラの運命に関する質問に対する答えは、インフラが支えるグローバライゼーションに対する回答と同じだ。それは、「より多く」である。

※パラグ・カンナ:クライメット・アルファ創設者兼最高経営責任者。最新刊に『ムーヴ:人々はより良​​い未来を求めてどこへ向かうのか(MOVE: Where People are Going for a Better Future』がある。ツイッターアカウント:@paragkhanna

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界は大きく「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西峩々以外の国々)」に分裂していく、構造変化が起きています。そのことを詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「デカップリング(decoupling)」「脱ドル化(de-dollarization)」という言葉を聞くようになった。特に昨年、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の総会で、「BRICS通貨の創設が発表されるのではないか」という予測が出て、ドルに代わる世界通貨になるかもしれないということで、話題になった。結局、インドの反対もあり、今回は見送りとなったが、ドルが世界の基軸通貨(key currency)の地位を失う可能性が取り沙汰されるきっかけとなった。このことは、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも取り上げた。脱ドル化、デカップリングとは、西側世界への経済的な依存を減らすことである。その先頭を走っているのは中国である。下の論稿には、中国が行ってきたデカップリングと脱リスク化について、脱ドル化、技術依存度(technological dependence)を下げる努力、国内の金融部門に外国が関与することを制限することが挙げられている。これらは、20世紀末から西側諸国を中心に進められてきた、グローバライゼーション(Globalization)に逆行する動きであるが、グローバライゼーションに対する逆行こそが、国家を救う道である。

 現在の日本を見てみると、自国通貨である円の価値の低下によって、諸外国から見て、「なんでも安い国」となった。しかも高品質というおまけがつくので、「なんともおいしい」区になっている。現在、バブルを超える勢いで、株式市場が上昇を見せているが、これは、外国からの投資が増大し、それに国内の資金が流れているということである。外国からの資金はいつか日本株を打って出ていく。株高に誘惑されて株式を買ったり、NISA投資をしたりしている日本の人々には損がかぶせられる。そうして国力が奪われていき、日本の衰退は加速していく。グローバライゼーションで利益を得るのは国境を軽々と超えるエリートたちや資産家たちだけである。日本は30年以上、グローバライゼーションによって国力を毀損させられてきた。

 世界の構造が大きく変化しようとしている時期になっている。グローバライゼーションと世界構造の大変化に備えるためにも、デカップリングと脱ドル化を真剣に検討し、議論するべき時だ。しかし、既にアメリカ国債を買いまくり、外貨準備もドルに偏重している日本はこのようなことはできないかもしれない。アメリカと一緒に心中をするしかないということになるだろう。

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西側諸国がデカップリングを発明したのではない-中国が発明したのだ(The West Did Not Invent Decoupling—China Did

-北京は長い間、経済を西側諸国から切り離すことで自由裁量(free hand)を手にしようとしてきた。

アガーテ・デマライス筆

2024年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/01/china-decoupling-derisking-technology-sanctions-trade-us-eu-west/

クレムリン・ウォッチャーたちの間で語り継がれている話がある。2014年のロシアによるクリミア侵攻と併合に対して、西側諸国が初めてロシアに制裁を課した直後、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は経済補佐官たちを呼び出した。彼の質問は単純だった。「ロシアの食料自給率はどのような状況なのか?」。補佐官たちはあまり良くないという答えが返ってきた。ロシアは国民に提供する食糧は輸入に頼っていた。プーティンは顔をあ納めさせて、制裁によってモスクワの主食へのアクセスが制限されることを恐れ、何とかするよう命じた。

2022年にロシアが本格的にウクライナに侵攻する時点にまでテープを早送りすると、プーティンはもはや食料の心配をする必要がなくなった。わずか8年で、ロシアは食糧をほぼ自給自足できるようになり、肉、魚、そして、まあまあの品質のチーズまで生産できるようになった。

ロシアが食糧自給を目指したのは、現在流行している経済的デカップリング[economic decoupling](最近では脱リスク[de-risking]と言い換えられている)をめぐる議論よりもずっと以前のことである。政治的言説(political discourse)が示唆するところとは逆に、西側諸国がこうした政策を考案したわけではない。ロシアの例が示すように、西側の民主政治体制国家と対立する国々は、潜在的な敵国から自らを守るために、長い間リスク回避政策(de-risking policy)を追求してきた。

ロシアに比べ、中国は技術、貿易、金融の面で西側諸国への経済的依存(economic reliance)を減らしてきた実績がある。デカップリング(decoupling)とデリスク(de-risking)の発明者であり、世界のリーダーでも存在がいるとすれば、それはどう見ても北京である。

近年、アメリカが中国へのハイテク輸出を次々と規制するずっと以前から、中国の指導者たちはテクノロジーを脱リスクの最初の柱としてきた。例えば、北京の半導体分野への最初の投資計画は、1980年代まで遡るが、当時の中国が基本的なチップを生産する域にも達していなかったことを考えると、その結果は成功と失敗が入り混じったものであったことは間違いない。

中国の計算はシンプルだ。テクノロジーは経済的・軍事的優位性のバックボーンである。したがって、北京にとって技術的な自給自足は、生き残り、繁栄するために必要不可欠なことなのだ。

中国の技術依存度(technological dependence)を下げる努力は過去10年間で推進された。ドナルド・トランプ前米大統領が中国との関係断絶を自慢し始める2年前の2015年、北京は半導体(semiconductors)、人工知能()artificial intelligence、クリーンテクノロジー(clean tech)などの主要技術分野で、自給自足を目指す「メイド・イン・チャイナ2025(Made in China 2025)」の青写真を発表した。

中国は技術的な自給自足を自国が生存し続けるための必須条件と考え、わずか数年で目覚ましい進歩を遂げた。多くのハイテク分野では、中国企業や研究者たちは揺るぎない世界的リーダーであるか(特にクリーン技術分野では、中国企業がソーラーパネル[solar panels]、風力タービン[wind turbines]、電気自動車[electric vehicles]の市場を独占している)、あるいは西側諸国の競合相手とほぼ肩を並べている(人工知能、量子コンピューター[quantum computing]、バイオテクノロジー[biotech]を含む)。

半導体は例外だ。マイクロチップに関して言えば、西側諸国の政策立案者たちは、中国は最先端チップ(cutting-edge chips)の生産において、アメリカ、台湾、韓国に大きく遅れをとっていると指摘し、自らを安心させたがっている。確かにその通りだが、北京はアメリカの輸出規制が危機感を煽ることを歓迎しているのかもしれない。

中国指導部はまた、輸出管理が容易に裏目に出る可能性があることを知っている。歴史が示しているように、長期的には、アメリカの一方的な輸出管理は、ほとんどの場合、輸出収入を制限することでアメリカ企業に損害を与え、その結果、最先端を維持するための研究開発に費やすことができる額も抑制されることになる。言い換えれば、中国政府は長期戦を繰り広げており、アメリカ政府の積極的な戦略が最終的には裏目に出て、西側諸国の技術への依存を減らすという中国の取り組みを更に支援することを期待しているのだ。

金融分野は、北京のリスク回避戦略の2本目の柱であり、長い歴史を持つ。この分野でも、西側諸国経済との関係を断ち切ろうとする中国の努力は、北京からのリスクを取り除くというアメリカとヨーロッパの計画に先行していた。最も明白な例は、北京が国内の金融部門に外国が大きく関与することを認めてこなかったことだ。中国の金融市場は閉鎖的で、外国人投資家は中国株の4%、中国国債の9%しか保有していない。中国独自の銀行システムは、国際金融からほぼ完全に遮断されており、中国人以外の投資家が中国の銀行資産の2%未満しか所有していない。また、国内外への資金移動を厳しく制限する資本規制は、いまだ解除されていない。

しかし、金融分野における北京のリスク回避努力は、外国人を遠ざけるだけではない。中国の指導者たちは不都合な真実に直面している。西側諸国の金融チャネルへの依存は、北京のアキレス腱になるかもしれない。西側諸国は世界の支配的な通貨を所有し、世界の全ての銀行を結ぶ世界的な決済システムであるSWIFTや、世界で最も重要な証券保管機関であるユーロクリア(Euroclear)など、グローバルな金融インフラへのアクセスを支配している。

西側諸国の金融支配が制裁を強力なものにしている。ドルやSWIFTへのアクセスを失うことは、ほとんどの銀行や企業にとって事実上の死刑宣告である。2012年に西側諸国がイランのSWIFTへのアクセスを遮断する決定を下した後、北京はその結果を目撃した。

金融制裁に対抗するための先制攻撃として、中国は3つの戦略を展開している。

第一に、人民元による国境を越えた決済の整備を進めている。世界貿易におけるドルとユーロの優位性を考えれば、その道のりは険しい。しかし、中国の脱ドル化計画(China’s de-dollarization plans)は進展している。人民元で決済される世界的な決済の割合は、2023年にはほぼ倍増し、約4%にまで達した。重要なのは、中国の対外貿易の3分の1が人民元建てになっていることで、中国企業は西側諸国の制裁からある程度身を守ることができる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、そして最近加わった5カ国からなるBRICS圏の通貨の可能性が取り沙汰されているが、人民元がロシアと中国の貿易で最も使用されている通貨になったように、北京もBRICS諸国間の貿易で人民元が選択される通貨になることを望んでいる。

SWIFTに代わる中国の決済システムCIPSthe Cross-Border Interbank Payment System)は、北京の金融リスク軽減の2つ目の礎石となる。2015年に開始されたこの決済ネットワークは、SWIFTよりもはるかに規模が小さい。しかし、SWIFTは世界中のほとんどの銀行を接続している中で、SWIFTが中国の銀行を切断した場合のバックアップとなるだろう。最後に、中国はアラブ首長国連邦やタイなどともデジタル通貨を使った国境を越えた取引を試験的に行っている。中国のデジタル通貨がグローバルになる道のりはまだまだ遠い。しかし、優位性は重要ではないかもしれない。中国の目標は、保護手段として代替金融チャネルを持つことであり、そのためには運用が可能であることが必要なだけなのだ。

中国のリスク回避戦略の3つ目のそして最後の柱は、貿易および中国の投資先としての非友好国への依存を減らすことを伴う。その論拠は、2014年にプーティン大統領がロシアの食糧安全保障を懸念したときの論拠と似ている。紛争、感染症拡大、地政学的な緊張によって経済関係が阻害されたり、サプライチェインが混乱したりする可能性があるため、中国政府は貿易の流れをどこかの国に過度に依存することが弱点だと見なしている。中国のような輸出指向の経済にとって、重要な原材料の輸入や主要な輸出先として特定の国に過度に依存することは致命的となる可能性がある。

中国の貿易におけるリスク回避の努力は、ハイテクや金融のそれよりも最近のもので、2018年の最初の米中貿易戦争が起きた際に始まった。しかし、中国の税関が発表した最新の統計を見てみると、中国は最近、一見非友好的に見える西側諸国との関係を分散させるための明確な努力をもって、貿易のリスク回避を加速させている。

2023年の最初の11か月間で、中国のアメリカへの輸出は2022年の同時期と比較して8.5%減少し、ヨーロッパ連合(EU)への輸出は5.8%減少した。一方、インド、ロシア、タイ、ラテンアメリカ、アフリカを含むほとんどの新興市場への中国の輸出は増加した。西側経済への貿易依存度を減らす中国の努力は功を奏しており、2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟諸国向けの輸出が、アメリカやEUを抑え、中国の最大の輸出先となった。

中国のリスク回避努力は投資分野にも及んでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のデータによると、2014年までの10年間、G7諸国とオーストラリア、ニュージーランドは、「一帯一路」構想の資金を除いた中国の対外投資フローの半分近くを吸収していた。2022年までに、この割合はわずか15%にまで低下し、インドネシア、サウジアラビア、ブラジルなどの新興諸国が中国からの直接投資の最大の流入を引き寄せている。

中国の他の取り組みと同様、新興国市場への投資促進も、西側諸国のリスク回避策が発明される以前から行われていた。この変化は2017年のデータで顕著になったが、投資プロジェクトは通常、実現までに数年かかるため、開始はもっと早かったと考えられる。

これらのことから、中国のリスク回避の動きは、アメリカやヨーロッパの取り組みよりもはるかに古く、広範囲に及んでいることが分かる。しかし、中国自身のリスク回避戦略に関する議論は、西側諸国の議論の中ではかなり少ない。

これは重大な欠陥である。北京から見ると、中国への依存を減らそうとする西側諸国の圧力は、アメリカの最先端技術への依存から技術的自給自足の優先、西側の銀行チャネルよりも自国の金融インフラへの依存、西側経済よりも新興市場の優先という、中国の長年確立された計画を加速させるもう1つの理由となる。北京の長期にわたる組織的なアメリカやヨーロッパからの離脱は、中国の経済政策の顕著な特徴であり、それは大きな影響を持つ。

リスク回避は双方向である。協力と平和を導く、経済的相互依存(economic interdependence)という考えは、ロシアのウクライナ侵攻で崩れ去ったと主張する人々もいるが、経済的結びつきはアメリカとヨーロッパに対して、北京への大きな影響力を与えている。しかし、現在進行中の中国と西側諸国との関係を断ち切るプロセスは、西側諸国の制裁脅威の抑止効果を弱めることは避けられず、世界、特に台湾海峡をより危険なものとするだろう。

これはまさに中国の戦略であり、そもそも中国が自給自足を目指す基底には、台湾併合という野望がある。アメリカやヨーロッパがリスク回避を発明したのではなく、中国が発明したのである。そして中国は、この分野で最も熟練した実践者のようである。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais
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