古村治彦です。

 先週末に中国共産党第20回党大会と第20期中国共産党中央委員会第1回総会(1中総会)が閉幕した。政治局員24名と政治局常務委員7名が発表された。中国国内政治で大きな力を持っていた中国共産主義青年団(共青団)派は追い落とされた。胡春華国務院副総理は政治局員にも残れずに降格となった。第6世代(1960年代生まれ)と共青団派のプリンスが失脚したということになる。政治局常務委員、政治局員はほぼ習近平派に独占された形になる。
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 今回の人事では、金融や銀行業務に精通した人物ではなく、航空、宇宙、軍事といった部門の優秀なテクノクラートたちが引き上げられ、政治局員(24名)に抜擢された。このことについては本ブログで既にご紹介した。下にリンクを張っているので是非お読みいただきたい。

※「第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 2022年9月15日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html

※「習近平体制の延長:フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を彷彿とさせる戦争対応体制の構築ではないか 2022年9月11日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86579263.html

 中国は国外の動乱、混乱に備える体制を整えつつある。具体的にはウクライナ戦争から端を発する第三次世界大戦とも言える状況に備えるということだ。ウクライナ戦争で世界は既に戦時状況になっている。物価高や食料不足、エネルギー不足の生活への影響は深刻さを増している。習近平の第3期政権は国内外の難題に対処するために構築された戦時体制政権である。

 私たちが危惧するのは、アメリカや日本などにいる、短慮、思慮不足、好戦的な、戦争煽動家たちが「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻撃する」「アメリカと中国が戦う」などという根拠のない誇大妄想的な言辞を振り回し、状況を悪化させ、最悪の結果を引き起こすことだ。中国が今台湾に侵攻するメリットはない。既に着々と経済的な統合を進めている。私たちが恐れるべきはアジア地域での戦争だ。戦争を起こしてはいけない。安倍晋三元首相が銃撃によって暗殺され、日本の好戦的なグループは頭目を失っている状態だ。日本の地理的な位置、アメリカとの関係を考えるならば、日本は実は非常に危うい立場にある。「日本は何があっても戦争をしない」という立場を鮮明にすることが何よりも重要だ。

 話が逸れた。中国にとって、2042年の「アヘン戦争後の屈辱の南京条約締結200年」、2049年の「中華人民共和国建国100年」の2040年代に「中華王国(Middle Kingdom)」として、あらゆる面で世界最大最高の国家に復帰することが何よりも重要だ。その過程で台湾との関係はますます深まって実質的な統一、統合は果たされるだろうし、国家体制もまた変化していくことだろう。私たちは今時代の分岐点、大変化の前の混乱の中にいる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回党大会:習近平は圧倒的な人事権を行使するが、経済復活の糸口は見つかっていない(The 20th Party Congress: Xi Jinping Exerts Overwhelming Control Over Personnel, but Offers No Clues on Reviving the Economy

ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)筆

2022年10月24日

『チャイナ・ブリーフ』(ジェイムズタウン財団)

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-jinping-exerts-overwhelming-control-over-personnel-but-offers-no-clues-on-reviving-the-economy/

習近平・中国共産党中央委員会総書記は、先日閉幕した第20回党大会と第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記が圧倒的な勝利を収めた。習近平が選んだ政治局常務委員たちは、純粋な支持者ばかりだが、イデオロギーやプロパガンダ、「党建設(party construction)」などに精通した官僚が多く、金融や経済に精通した実利的なテクノクラートはほぼ皆無に等しい構成となった。その結果、「新型コロナウイルスゼロ」をはじめとする習近平の保守的で準毛沢東主義的な政策の多くは、当分の間、継続されることになりそうだ。

●習近平派のために他派閥が一掃された

中国共産党の中枢である新しい政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)では、習近平は引き続き中央委員会総書記と中央軍事委員会主席を兼任する。他の6人の政治局常務委員は習近平派とされる。2002年から2007年まで浙江省で習近平の下で働いた上海市党委書記の李強(Li Qiang)が国務院総理に就任する予定だ。その他、最高意思決定機関には現職の政治局常務委員を含む習近平の盟友が就任する。全国人民代表大会(National People’s Congress)常務委員長に就任する中央紀律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)書記の趙楽際(Zhao Leji)、中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference)主席に就任する思想家の王滬寧(Wang Huning)らが名を連ねる。李強のほか、習近平の子飼いの3人が昇進した。北京市党委書記の蔡奇(Cai Qi)は中国共産党中央書記処書記に、広東省党委書記の李希(Li Xi)は次期中央紀律検査委員会に就任する。中国共産党中央弁公庁(CCP General Office)主任で習近平の秘書長を務める丁薛祥(丁薛祥)は常務副総理に就任予定だ(新華網:10月23日;明報:10月23日;日経アジア:10月23日)。

次期政治局を構成する24人の委員と次期中央委員会を構成する205人のうち、習近平に忠誠を誓う人々が大多数を占めている(新華社・ウェイボ:10月23日)。13人の一般政治局員の引退によって、習近平には習近平派閥の人物たちを系政治局員に登用する機会を与えた。全中央委員205人のうち133人(65%)が新たに就任したため、習近平は反主流派グループや他派閥のメンバーを排除する余地が出た(新華網:10月22日)。新政治局委員24人のほぼ全てが習近平派閥だ(Radio Free Asia:10月23日)。新疆ウイグル自治区の馬興瑞(Ma Xingrui)党委書記は、中国航天科技公司(China Aerospace Science and Technology CorporationCASC)の元総経理で、中国国家宇宙局局長を務めた。遼寧省党委書記である張国清(Zhang Guoqing)は、中国北方工業集団公司(China North Industries Group Corporation)の副社長を務めた。浙江省党委書記の袁家Yuan Jiajun)は中国航天科技公司の経営トップを務めた。山東省党委書記の李干杰著名な核物理学者である(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

次期政治局には、中国共産党の他の2大派閥である共産主義青年団(Communist Youth League FactionCYLF)と上海閥(Shanghai Gang)の代表はいない。元広東省党委書記で元共産主義青年団第一書記の胡春華(Hu Chunhua)副総理は、政治局の一般委員の座と常務副総理に就くと予想されていた。しかし、胡は、政治局常務委員会はおろか、政治局にも残れなかった(Zaobao.com:10月23日;連合日報:10月23日)。この「一党独大(yidangdudaonly one party running the show)」という異常な現象は、最高指導者である習近平の隣に座っていた、共青団派の指導者で胡錦涛元前総書記が、土曜日の第20回党大会閉会式の半分ほどで無残にも引きずり出されたことに起因していると言われている(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月22日)。新華社通信は、この出来事について胡錦濤が急病になったからだと報じた。しかし、オブザーヴァーたちの間では、胡錦濤は新しい中央委員会と政治局常務委員会の名簿に公然と不満を表明しており、それは自分の長い間守ってきた派閥の傍流化を示すものであったからだというのが一致した見方である。文化大革命以来の主要な党大会では、胡錦濤のような公然の反対表明は珍しい(ジャパン・タイムズ:10月23日;Hong Kong Free Press:10月22日)。

習近平のもう一つの大きな業績は、中国共産党綱領を改正し、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on socialism with Chinese characteristics for a new era)」を今後の党と国家の指導原理として明記したことである。これは「2つの確立(two establishes、两个确定、Liang ge queli)の1つである。もう1つの「確立」は、習近平が「中央党当局の核心であり全党の核心(core of the central party authorities and the core of the entire party)」であり続けることで、実質的に毛沢東主席と同じ地位に昇格させることだ(Gov.cn:10月22日;人民日報:10月22日)。

●中国式近代化(Chinese-style Modernization

習近平思想の重要な要素は、いわゆる「中国式近代化(Chinese-style modernization、中国式代化、zhongguoshi xiandaihua)であり、習近平は10月16日の党大会冒頭報告で初めて提起した(新華社:10月16日)。事実上、中国式近代化とは、最高指導者である習近平が21世紀の中国の状況に適したと判断したマルクス主義・社会主義の教義のみを全ての政策決定の基盤とすることを意味する。習近平自身が示した定義によれば、「中国式現代化」は、党の厳格な指導、中国式社会主義的教訓の堅持、「質の高い発展(high-quality development)」の実現、人民の「精神世界(spiritual world)」の充実、共同富裕(common prosperity)の達成、人間と自然のバランスの追求、世界平和と「全人類運命共同体(common destiny for all mankind)」の目標の推進といった要素から構成される(VOA Chinese,:10月20日;人民日報:10月19日)。

習近平の大会報告では、鄧小平の「改革開放政策(reform and open door policy)」について4回言及されているが、習近平は経済発展や国際市場の開放よりも、国家の安全や内外の敵との「争斗(waging strugglesdouzheng)」を優先させたことが明らかである。今後の政策では、特に半導体やAIなどの先端分野における自立を意味する「内部循環(internal circulation)」、公企業と民間企業の両方を厳しく管理することを含む経済の党管理、共同富裕の推進、アメリカとその同盟諸国の「反中(anti-China)」政策がもたらす挑戦への言及と見られる「複雑で困難な世界情勢(complex and challenging global situation)」への国民の備えといった、準毛沢東主義的、閉鎖主義的価値観(autarkist values)に重きが置かれるだろう(BBC Chinese :10月16日)。

外交については、習近平チームは、特に中国の台湾再統合と世界のルール設定者としての「中央の王国(Middle Kingdom)」の地位の回復に関連して、ナショナリズムを引き続き昂揚させるだろう。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、アメリカとの差を縮め、世界最強の国にすることも、第20回大会以降の中国共産党の優先課題である。改訂された中国共産党綱領では、北京が「台湾独立に断固として反対し、阻止する」ことを初めて指摘した。これに対し、旧綱領は「中国共産党は民族統一を実現する責任がある」とだけ述べていた(Chinanews.com:10月24日;News Radio French International:10月23日)。

●外交・軍事政策(Foreign and Military Policy

習近平による閉会演説を含む第20回党大会期間中、アメリカに対する言及はなかった。しかし、最高指導者の習近平と幹部たちの発言は、アメリカ主導の「反中国(anti-China)」連合との全面的な競争激化を意図したものであったように思われる。習近平は繰り返し、党大会の出席者たちと全ての中国人に、他国の「覇権主義と虐め(hegemonism and bullying)」に対抗することを呼びかけ、「闘争を行う勇気と闘争に長けること(rave enough to wage struggle, and to be good at waging struggle)」を促した(NPC.gov.cn:10月24日;News.cn:10月18日)。国際ビジネスや中国人と欧米人の通常の人的交流の分野でも、習近平は中国当局が経済的配慮よりも国家の安全保障を優先させることを示唆している。習近平と新しい政治局は、軍事的近代化に対してより多くの資源を投入する可能性があり、台湾や南シナ海で「熱い戦争(hot war)」が勃発する可能性が高まる(VOA Chinese:10月18日;Deutsche Welle Chinese:10月16日)。

習近平は、外交政策の遂行を最新鋭の軍に大きく依存していることを反映し、「68歳定年」の常識を破り、中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠(hang Youxia)を更に1期5年続投させた。張副主席は1950年生まれで、今年退任するものと思われていた。しかし、張副主席の父親と習近平の父親が国共内戦以来の親しい間柄であったことから、張は最高司令官である習近平から全幅の信頼を寄せられている。7人の委員からなる中国共産党中央軍事委員会の新任将官2人である、何衛東(He Weidong、1957年生まれ)副主席、苗華(Miao Hua、1955年生まれ)委員は、福建省の第31野戦軍や、福建省と浙江省の南京軍区(現在は消滅)にいた経験がある。習近平は1985年から2007年まで、福建省と浙江省で様々な役職に就いていた時に、この2人の将官と初めて知り合った可能性が高い。何副主席は台湾を管轄する東部戦区司令部の元司令官であり、苗華はヴェテランの政治委員(political commissar)で、現在は中国共産党中央軍事委員会の政治工作部部長を務めている(Businesstoday.com.tw:10月23日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

他の新委員は、軍の規律と腐敗防止を担当する張勝民(Zhang Shengmin、1958年生まれ)、中国人民解放軍陸軍司令員を務め、統合参謀本部参謀総長への就任が予想されている劉振立(Liu Zhenli、1964年生まれ)、航空宇宙技術に優れ、現職の中国共産党中央軍事委員会装備開発部長である李尚福(Li Shangfu、1958年生まれ)の3人だ(Headline News. HK:10月24日;Breakingdefense.com:10月17日)

●結論(Conclusion

社会主義諸国の主要な党大会や会議の多くは具体的な目標への確かな道筋を示すよりも、大言壮語や誓約が多いにもかかわらず、習近平をはじめとする指導者たちの報告が行われた第20回党大会では、「中国式近代化(Chinese-style modernization)」、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」、「闘争の敢行(daring to wage struggles)」など、ほとんど理論化された概念ばかりが強調されている。国家統計局が2022年第3四半期のGDP成長率を3.9%と発表したばかりだが、世界銀行など独立系の研究者やシンクタンクの多くは、中国経済の年間成長率を約2.8%かそれ以下と予想している(Scio.gov.cn:10月24日;CNBC.com:10月18日)。この4カ月間、経済の指揮を執った退任する李克強(Li Keqiang)総理は、外資導入の拡大と新型コロナウイルス感染対応体制の合理化を求め、習主席の訓示に反している(China Brief:7月18日)。しかし、李総理をはじめとする国務院のテクノクラートが推奨する唯一の「切り札(trump card)」は、経済成長を引き上げるためにインフラプロジェクトへの刺激策を強化することだ(Rthk.hk:8月30日;English.gov.cn:7月29日 )。しかし、政府投資は古くからある手段であり、過剰なレバレッジ、無駄、支出に対するリターンの減少を招きやすい。習近平とその取り巻きは今大会での圧勝を喜んでいるが、特に最近アメリカとその同盟諸国から中国に科されている厳しい制裁とボイコットを考えると、彼らは国民と国際社会に対して中国経済の立て直しが可能であると納得させなければならない。

党大会の人事で気になるのは、欧米で教育を受け、市場原理を重視する幹部が次々と退任していることだ。引退した李克強首相の最後の発言の中に、「黄河と長江の水は逆流しない(the waters of the Yellow and Yangtze River won’t flow backwards)」という言葉があった。これは、習近平が行った毛沢東主義復古(restoration)を叱責したものと見られている。この他、習近平の側近だったハーヴァード大学出身の経済学者の劉鶴(Liu He)副首相、アメリカの大学の経済学教授だった中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang)、銀行監督官庁トップの郭樹清(Guo Shuqing)らが欧米諸国で仕事を経験した経歴のある幹部たちが退任することが明らかになった。

新中央委員会メンバー表から、劉鶴に代わる経済担当副首相の候補は国家発展改革委員会主任の何立峰(He Lifeng)が確実視されている(新華網:10月22日)。しかし、何立峰が習近平の信頼を得たのは、主に福建省で長年一緒に仕事をしたことが理由である。何力峰には改革派としての資質がほとんどない。習近平は、数字に強いテクノクラートよりも、プロフェッショナルな党員を好むため、中央委員会と政治局には経済や金融の専門家が少ないという事情もある。この状況を改善し、新型コロナウイルスゼロ体制から厳しい党による経済統制まで、硬直したイデオロギー的教条を形だけ譲歩しない限り、中国が2049年までに超大国の地位を獲得するという夢を実現できるとは、中国と海外の観測筋は信じてくれないだろう。

※ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済プログラム修士課程非常勤講師を務める。中国に関する著書が6冊あり、代表作に『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。最新作は『中国の未来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ社、2020年)である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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