古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:予備選挙

 古村治彦です。

 

 今回は、その勢いでアメリカ政治を揺るがしているドナルド・トランプ(Donald Trump、1946年―)の選対の幹部スタッフを皆様にご紹介したいと思います。


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トランプ
 

 幹部スタッフを見ると、東部の一流大学、アイヴィーリーグ出身者はいません。そして、草の根保守市民運動団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの活動家をしていた人たちが多いです。一方で、各種選挙で手腕を発揮したヴェテランの選挙のプロも選対の要所要所に配置されています。

 

 トランプ陣営の幹部たちの配置を見ていると、「非エリート」たちが「素人くささ」と「過激さ」を演出しつつ、裏で選挙のプロたちが実務を仕切っているという姿が見えてきます。こうしてトランプは、エリートやエスタブリッシュメントに対して反感を持っている、怒れる白人たちを惹きつけることに成功したということが分かります。

 

 外交政策に関しては過激な言動ばかりが取り上げられるトランプ陣営ですが、まだきちんとした外交政策の専門家たちを集めてのティーム作りはできていないようです。ただ、ティームのトップに現職の連邦上院議員ジェス・セッションズ(Jeff Sessions、1946年―)が就任しました。彼はワシントンでも5本の指に入る保守派議員であり、いくつかの舌禍事件を起こしたことでも知られています。

 

※トランプ陣営の幹部スタッフはこちらのアドレスで紹介されています

http://www.p2016.org/trump/trumporg.html

 

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●選挙対策本部長:コーリー・R・ルワンドウスキー(Corey Lewandowski、1973年―)


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ルワンドウスキー

ルワンドウスキーは、トランプの選挙対策本部を仕切っている人物です。ルワンドウスキーと政治のかかわりは古く、マサチューセッツ大学ローウェル校在学中にマサチューセッツ州上院議員選挙に立候補し敗れました。その後も様々な選挙に関わりました。1997年にアメリカン大学修士課程修了(政治学修士)した後、コーク兄弟が資金提供を行っている団体シティズンズ・フォ・サウンド・エコノミーのスタッフとなりましたが、数カ月後には、オハイオ州選出の連邦下院議員のアシスタントとなりました。2001年には共和党全国委員会の北東部地域立法部政治部長となり、そこからニューハンプシャー州選出の連邦上院議員ボブ・スミスの選挙対策本部長に就任しました。しかし、2003年の選挙でボブ・スミスは共和党の予備選挙で、ジョン・スヌヌに敗れてしまいました。そこから業界団体や広告代理店を経て、2008年から2014年まで、コーク兄弟がスポンサーの保守系草の根市民団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティの幹部スタッフとして活動しました。トランプ陣営の激しい言葉遣いや過激なスタイルはこのルワンドウスキーのスタイルが反映されていると言われています。

 

●選挙対策本部副本部長:マイケル・グラスナー(Michael Glassner

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グラスナー 

 

 グラスナーは、1985年にカンザス大学卒業(政治学士)しました。1986年から2001年まで大物連邦上院議員だったボブ・ドールのスタッフ、側近を務めました。ボブ・ドールの連邦上院議員選挙や大統領選挙出馬で手腕を発揮しました。また、選挙コンサルティングとして、2008年の米大統領選挙では共和党側のジョン・マケイン、サラ・ペイリンのために働いています。2014年からは全米最大のユダヤ系アメリカ人団体AIPAC(American Israel Public Affairs Committee、アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の南西地域担当政治部長を務めました。AIPACは、私も翻訳に関わりました『イスラエル・ロビーⅠ、Ⅱ』(ジョン・ミアシャイマー・スティーヴン・ウォルト著、副島隆彦訳、講談社、2007年)でも書かれている通り、全米最強のロビー団体であり、親イスラエル(政府)系として、アメリカ政府のイスラエル政策に大きな影響を与えています。ボブ・ドールとのつながり、選挙での経験と全米最大のロビー団体での活動から、グラスナーは、トランプ陣営の中で選挙のプロとして実務を取り仕切っていると考えられます。

 

●全国活動部長:スチュアート・ジョリー(Stuart Jolly


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ジョリー

 サウスカロライナ州にあるシタデル(サウスカロライナ軍事大学)を卒業し(政治学士)、イースト・カロライナ大学で国際関係論と経営学で修士号を取得しました。アメリカ陸軍に入隊し、第一次湾岸戦争に従軍、中佐にまで昇進しました。その後は、セントラル・オクラホマ大学の軍事学の教授を務めました。2006年からは、アメリカンズ・フォ・プロスペリティのオクラホマ州支部を立ち上げ、責任者を務めましたが、2013年からは、エデュケイション・フリーダム・アライアンスの上級部長を務めました。

 

●全国スポークウーマン:カトリーナ・ピアソン(Katrina Pierson

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ピアソン
 

 ピアソンは、父親が黒人、母親が白人ですが、両親が早くに離婚し、シングルマザーの母親の下、貧しい生活を経験しました。彼女自身も若くして結婚し、子供にも恵まれましたが、すぐにシングルマザーとなりました。20歳の頃には万引きで逮捕もされています。ピアソンは、テキサス大学ダラス校を卒業しました(生物学士)。テキサス州ガーランドでティーパーティー運動グループを立ち上げ、2014年からはティーパーティー・リーダシップ・ファンドのスポークスウーマンを務めました。更には2014年の米連邦下院議員選挙でテキサス州第32区の共和党予備選挙に立候補しましたが、落選しました。現在は自身の会社ピアソン・コンサルティング・グループのオーナーも務めています。ピアソンは叩き上げの人物で、テレビのニュース番組に出演した時、銃弾で作ったネックレスを身に着けており、注目と非難を浴びました。トランプ陣営の過激な性格を体現している女性であると思われます。

 

●ソーシャル・メディア担当部長:ダニエル・スカヴィーノ・ジュニア(Daniel Scavino Jr.


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スカヴィーノ

 ダニエル・スカヴィーノがドナルド・トランプに近づくことが出来たきっかけはゴルフでした。ピッツバーグ州立大学在学中に、ニューヨークにあったゴルフ場のキャデイをしていて、そこでトランプとコカ・コーラ社の会長と知り合いました。大学卒業後の1998年、スカヴィーノはコカ・コーラの地域マネージャーとして入社しました。2003年にはトランプがスカヴィーノと知り合ったゴルフ場を買収し、「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ」と改名し、スカヴィーノは副支配人となりました。その後、トランプ・オーガナイゼ―ションのゴルフ部門の責任者となりました。スカヴィーノはトランプの腹心の1人となりました。スカヴィーノはトランプ陣営のソーシャル・メディア担当となりましたが、主な仕事はツイッターにメッセージや写真、動画を掲載することで、討論会などでは他の候補者たちの発言に対して、日本風に言えば、突っ込みを入れるというようなことをやっています。

 

●全国委員会共同委員長兼政策顧問:サム・クローヴィス(Sam Clovis、1949年―)


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クローヴィス

クローヴィスは、1971年空軍士官学校を卒業しました(政治学士)。そして、25年間、アメリカ空軍に勤務し、大佐で退役しました。そして、ゴールデン・ゲイト大学で経営学修士号、アラバマ大学で公共政策博士号をそれぞれ取得しました。その後は、ラジオショーの司会者、大学教授などをしていました。政治とのかかわりは、アイオワ州財務長官選挙、アイオワ州選出の連邦上院議員の共和党予備選挙に挑戦し、それぞれ敗れていることです。また、2012年の米大統領選挙ではリック・サントラム支持で動いたことも挙げられます。今回の大統領選挙では、リック・ペリーの選対本部のアイオワ州責任者をしていましたが、トランプの政策顧問へと転身しました。保守的な立場で、トランプの「イスラム教徒の入国禁止」発言を擁護しました。

 

●上席顧問:サラ・ハッカビー・サンダース(Sarah Huckabee Sanders


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サンダース
 

 サラ・サンダースは名前で分かるのですが、元アーカンソー州知事で、共和党の大統領選挙予備選にも出馬したマイク・ハッカビーの娘です。クアチタ・バプティスト大学を卒業した後の2002年、父親マイク・ハッカビーの知事選挙再選のために働き始めました。2年ほど、教育省に勤務し、2008年の米大統領選挙の共和党予備選挙に出馬した父ハッカビーの選対幹部を務めました。2010年の連邦上院議員選挙では、アーカンソー州のジョン・ブーズマンの選対本部長を務め、ブーズマンは当選しました。2011年には、大統領選挙予備選に出馬を表明したティム・ポーレンティー選対の上級政治顧問を務めました。更には、2014年にはアーカンソー州の連邦上院議員選挙でトム・コットン陣営の上席顧問を務め、新人のコットンを勝利に導きました。夫のブライアン・サンダースは、ハッカビーの大統領選挙では政策部長を務め、現在は共和党専門の選挙コンサルティング会社ザ・ウィッカーズ・グループのリトルロック(アーカンソー州)事務所長を務めています。選挙のプロであり、父親を通じて幅広い人脈を形成していることは疑いの余地がありません。また、父親のハッカビーは、トランプを応援し、共和党の政治家たちを批判するコメントを出しています。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は、トランプが共和党予備選挙で勝利することを阻止するために、リベラル派は、共和党の予備選挙に参加してマルコ・ルビオに投票すべきだという記事を紹介します。著者は、ピーター・ベイナードです。

 

 スーパーチューズデー(多くの州で予備選挙が行われ、選挙戦の流れが決まることが多い)が近づいています。各種世論調査では、トランプはテキサス以外で一位を獲得する勢いで、トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名される可能性がどんどん大きくなっています。これについて、「トランプ旋風はいよいよ危険だ」という考えがメディアに出てくるようになりました。

 

 私はトランプ人気と日本の安倍晋三政権や橋下徹氏の人気が落ちないことには共通点があるように思います。彼らの言っていることは驚くほどによく似ています。トランプに熱狂しているアメリカ人の姿を見ていると、「ああ、あれは日本の有権者の姿でもあるのだな」と思います。閉塞感と怒りから発したポピュリズム(この言葉にはいくつかの意味があります)が、知恵のある政治家たちに利用されると暴走してしまい、革命と同じことが起きて、破壊しかもたらさないということがあります。

 

 この記事が訴えるようにリベラル派が共和党の予備選挙に参加することはないですが、ある種の危機感がアメリカにあるということは分かる記事です。

 

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リベラル派がマルコ・ルビオに投票すべき理由とは(Why Liberals Should Vote for Marco Rubio

―民主党員、民主党支持者はドナルド・トランプの共和党大統領選挙候補者指名を阻止するためにできることは全てやらねばならない。その中には、トランプを倒す可能性を持つ一人の人物を支持することも含まれる

 

ピーター・ベイナート筆

2016年2月28日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/politics/archive/2016/02/why-liberals-should-vote-for-marco-rubio/471444/

 

 マルコ・ルビオはダメな大統領になることだろう。彼の税制に関する考えを知れば、ジョージ・W・ブッシュ前大統領は分別のある財政運営をしていたということになる。経済制裁、戦争、もしくは戦争を起こすという脅しを使うことは911事件以降、失敗続きであることはよく知られている。それでもルビオはこうしたやり方を使ってアメリカの敵たちを屈服させようとするだろう。移民問題に関して彼は誠実ではないし、臆病である。ルビオの生まれ故郷は定期的に洪水に見舞われているのに、彼自身は気候変動の影響を否定している。

 

 もし私が、共和党員ではなくても参加できる共和党予備選挙が実施される、スーパーチューズデーに含まれる9つの州の住民であったなら、民主党の予備選挙に参加して、ヒラリー・クリントンかバーニー・サンダースに投票する機会を失ってでも、共和党の予備選挙に参加して、ルビオに投票するだろう。私以外のリベラル派の人々はルビオに投票すべきだ。彼に政治献金をできる人はそうすべきだ。ドナルド・トランプの共和党大党選挙候補者指名を阻止するためなら何でもしなくてはならない。

 

 私の提案に対して3つの反論が存在する。

 

1.反論の第一は、リベラル派の観点からすれば、共和党内でルビオはなく、ジョン・ケーシックが最適の選択肢になる、というものだ。それはその通りだ。しかし、トランプを止めるという点では、ケーシックは無力だ。ケーシックは選挙資金を持っておらず、陣営の体制も整っていない。彼は自分の出身州でだけ上位に顔を出しているに過ぎない。現時点で、トランプを倒すために必要なエリートと大衆両方から羅の支持を受けられる候補者は1人だけだ。そして、その候補者こそがルビオだ。

 

2.反論の2つ目は、ルビオはトランプに比べてかなり良いという訳ではない、というものだ。実際、いくつかの争点では、ルビオはトランプよりも悪い考えを持っている。ルビオは、トランプとは違い、イラク戦争を導いた論理に挑戦してはいない。また、アメリカの選挙資金システムの腐敗について注意を喚起することもないだろう。

 

 しかし、これらの問題は確かに重要であるが、2人の候補者の間には根本的に大きな違いが存在する。ルビオはアメリカ合衆国憲法、そして特に人権宣言を尊重している。トランプは違う。トランプはアメリカの民主政治体制を脅かしている訳ではない。彼は、アメリカ国民が自分たちの指導者を選ぶ権利を否定しようとしてはいない。しかし、トランプは、アメリカの自由主義的な民主政治体制に脅威を与えている。自由主義的な民主政治体制は、たとえ民主的な選挙で形成された多数派であっても奪うことが出来ない根本的な諸権利が存在するという考えを基礎にする。トランプは世論を軽視してはいない。彼はその最も基本的な側面を利用し、煽動している。人々の憎悪と劣情に訴えればアピールできるとは分かっていても、政治家のほとんどは法的な規範と個人の権利を尊重してそうした動きを自制するものだ。しかし、トランプはこうした制限を「政治的正しさの押しつけ」と呼び、彼の侮蔑的な態度を誇らしげに見せびらかしている。

 

 トランプは、テロリストの家族を殺害することを求め、拷問に対して100%の支持を表明している。911事件の後、このような過激な言辞を使って、アメリカ国民の過半数、いや少なくとも共和党員の過半数を熱狂させることが出来るのだということを認識する、大統領候補者はこれまでにもいたと私は考える。しかし、トランプ以外の人々はさすがにそういうことはできないと踏みとどまった。トランプ以外の候補者たちもイスラム教徒を悪者扱いしているが、誰も、全てのイスラム教徒のアメリカ入国禁止など主張しない。トランプ以外の共和党の候補者たちは、オバマ大統領のアメリカ市民権に関する疑惑を問題にすることはほとんどない。トランプは、オバマ大統領がアメリカで生まれたこと自体を否定した。

 

 こうした違いが存在すること自体が恥だ。トランプ以外の候補者たちが、「イスラム教徒は911事件の発生時に大喜びした」という流言飛語を垂れ流す姿など想像することはできない。しかし、トランプだけはこうした流言飛語を利用しているのだ。実際にはそうした事実はなかったことは証明されている。トランプ以外の候補者たちは、主流派メディアに対して右派の立場から怒りを表明してはいる。しかし、トランプだけが名誉棄損に関する法律を変更し、ジャーナリストが彼に対して批判的な記事を書くことを難しくしてやると主張している。そして、トランプだけが、彼を阻止するために政治資金を出している人たちを公開の場で脅しているのだ。

 

 トランプがウラジミール・プーティンを称揚しているのは全くの偶然ではない。トランプがプーティンがやったこと全てを称揚してそれをやろうという訳ではないだろうが、トランプが大統領になったら、アメリカは、ファリード・ザカリアが「非自由主義的民主政治制度」と呼ぶ方向に進んでいくだろう。非自由主義的民主政治制度の下では、アメリカ国民は大統領を選挙で選ぶことはできる。しかし、選挙で選ばれた大統領は彼の権力の行使について今よりも制限が少なくなり、より自由に攻撃対象とするグループの諸権利を奪うことが出来るようになるだろう。これらの制限の多くは社会の慣習、しきたりの問題だと言える。私たちは、誰かが攻撃するまでアメリカの民主政治体制が如何に自由主義体であったかということに気付かないでいた。ルビオではなく、トランプはまさにその点を攻撃しているのだ。

 

3.リベラルはルビオを支持すべきという考えに対する反論の3つ目は、トランプが共和党を破壊することがアメリカの利益になる、というものだ。共和党が分裂、もしくはこの秋の選挙で大敗すれば、穏健派が再び影響力を取り戻し、共和党、もしくはそれに代わる何かは、気候変動を否定すること、判事を決定することを拒絶していること、アメリカの財政破綻とデフォルトの淵に追い込むことを止めるかもしれないと彼らは言う。トランプが勝利すれば、共和党は「頭を冷やす」かもしれないと彼らは考えている。

 

私はこの主張が魅力的なものであることは理解するが、馬鹿げていると断じる。トランプが本選挙で負ける可能性は高いが、100%負けるという保証はない。ヒラリー・クリントンが起訴されることがあるかもしれない。テロリストが投票日の2日前に攻撃をするかもしれない。こうしたことが起きないにしても、誰もこれから半年何が起きるかは断言できない中で、大統領選挙の流れは健全で穏やかなものにすべきだ。

 

 しかし、私たちは、次のことをはっきりと認識しなければならない。 トランプが共和党の大統領選挙候補者に指名されること、それはアメリカが大事な一線を超えてしまうということを意味する。

 

 憲法が設定している制限を尊重せず、弱い立場のマイノリティを更に攻撃する人物が我が国の2大政党のうちの1つを率いようとしているのだ。その結果は、程度を測ることは難しいが、大変深刻なものとなるであろう。数日前、アイオワ州の高校のバスケットボールの試合で、一方のティームのファンが、ラティーノ、アフリカ系、先住民系の選手たちで構成されていた相手ティームに対して、「トランプ」「トランプ」と大合唱して威嚇するという出来事が起きた。彼らは、人種差別を行う大統領となるであろう人物の名前を叫んだのだ。トランプの選挙戦で、彼を批判する人々は暴力を振るわれている。昨年、ボストンでは、2人の男が「トランプは正しい」と叫びながら鉄パイプでヒスパニックの男性を殴打するという事件が起きた。もしトランプが共和党の大統領選挙候補者に指名されてしまったら、そして神の気まぐれで大統領になってしまったらどんなことが起きるか、想像してみて欲しい。あらゆる点で、アメリカはより醜く、恐ろしい場所になってしまうだろう。

 

 対照的に、ルビオが勝利すれば、共和党は安定するだろう。民主、共和両党の間で行われる議論で飛び交う言葉は同じものとなって、議論はかみ合うことだろう。ルビオが共和党内の急進派や「既存勢力」からどんなに好かれていても、まだましだという期待はできる。

 

 トランプが共和党の予備選で勝利することでこれらを全てひっくり返されることになる。アメリカ政治が根本から変化することになる。しかし、常々保守派の人々がリベラル派の人々に行っているように、変化は進歩ではあるとは言えない。ある場合には変化の後に起きることよりも、道徳的に腐敗した現状維持の方がより良い場合もある。トランプが勝利することは政治的にこれまで経験したことのない恐ろしい状況が生まれるということを意味するのだ。

 

 リベラル派はこのような状況を食い止めるために、マルコ・ルビオを支持すべきだ。そして、私たちがこれに失敗したならば、今度は、保守派の人々に、トランプを阻止するためにヒラリー・クリントンを支持するように訴えるべきだ。アメリカ政治における党派対立は激しくなっている。しかし、穏健なリベラル派と穏健は保守派の間には共通の規範が存在する。そして、それを壊されるのを視たくないとこれらの人々は考えている。今こそイデオロギー上の違いを乗り越えて、団結すべき時だ。

 

(終わり)

野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23







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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-11-25



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 古村治彦です。

 

 2015年10月13日夜にネヴァダ州ラスヴェガスでCNNFacebookが共同で主催した米民主党大統領選挙予備選挙立候補者たちによる討論会が開催されました。5名の候補者たちが出席しましたが、注目は支持率が1位と2位のヒラリー・クリントン前国務長官とバーニー・サンダース米連邦上院議員でした。

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民主党討論会(左から2人目がサンダース、真ん中がヒラリー)

 

 今回の討論会について、私が尊敬する政治ジャーナリストであるピーター・ベイナートが感想と分析を『ジ・アトランティック』誌に発表しました。

 

 ヒラリーとサンダースの違いを改革志向と革命志向に分けて、ヒラリーの改革志向がサンダースの革命志向を抑えて、有権者たちにアピールしたという分析をしています。ただ、アメリカ社会全体に「更に大きな変革」を求める雰囲気があるのも事実だと思いますので、バーニー・サンダースの勝利はないとしても、彼はこれからも健闘するでしょう。この分析記事の内容は正しいと思いますが、外交政策に関しての言及がなされていないのは今回の記事の足りない部分です。

 私は、ジョー・バイデン副大統領がどこで出馬宣言をするか、をじっと待っています。バイデン副大統領が出てくると、サンダース支持でヒラリーは推せないとする民主党リベラル派とサンダースは過激すぎて推せないという民主党漸進的改革志向の人々の支持を集めて、ヒラリーを追い抜くのではないかと考えています。その際に重要な争点となるのが、外交政策であると思います。

 (※この記事を書いたのは2015年10月15日でした。この日辺りから、各マスコミが急激にバイデン待望論がバイデン待ちくたびれた・出馬不可能論に転換しました。ヒラリーが討論会[シャンシャン株主総会みたいだった]で勝ったから、ヒラリーで行け、という論調になってきました。バイデンの周囲はもうすぐ決断をする、というようなことを言っているが、蕎麦屋の出前でもあるまいし、これ以上はもう待てないということになって、追い込まれて
仕方なく出馬するという形になって、2位になって終わりという感じになりつつあります。)

 

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バーニーとヒラリーが一致しない点(Where Bernie and Hillary Really Disagree

―民主党の有力大統領候補2人は政策では違いはない。しかし、アメリカには少しずつの改革、もしくは革命的な変化、どちらが必要かで意見が異なる

 

ピーター・ベイナート筆

2015年10月14日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/politics/archive/2015/10/bernie-sanders-hillary-clinton-debate/410449/

 

 昨晩の民主党大統領選挙候補者たちによる討論会における最大の見せ場は終わり近くにやって来た。CNNの討論司会者アンダーソン・クーパーが各候補者たちに「皆さんが大統領に選ばれた場合に、それぞれ第三次オバマ政権と呼ばれないための方策、方向性を一つ教えてください」と尋ねた。バーニー・サンダースは、「私はオバマ大統領と違って、アメリカを、政治革命を通じて、変革する」と答えた。ヒラリー・クリントンは「オバマ大統領と違って、私は女性だ」と答えた。

 

 2人の答えを聞いて、私はクリス・ヘイズの名著『エリートたちの落日(Twilight of the Elites)』を思い出した。ヘイズはこの本の中で、エリートを既存の機構の機能を改善することを望む「既存機構重視者(institutionalists)」と、既存の機構を打ちこわし、新たに再スタートさせることを望む「反乱志向者(insurrectionists)」に区別した。

 

 サンダースは反乱志向者である。この半世紀で最も変革をもたらしたリベラル派の大統領の後を受けて大統領に選ばれることについて尋ねられた時、彼は「アメリカは正しい方向に向かっていないが、それを乗り越えて正しい方向に進まねばならない」と答えた。サンダースはアメリカには「政治革命」が必要だと述べた。彼はまた「アメリカの選挙資金制度は堕落している」とも述べた。

 

 ヒラリーはそのようなことは何も言わなかった。彼女は問題があることは認めながらも、アメリカの中核を形成する経済と政治、それぞれの機構についてはほとんど言及しなかった。金融規制についての2人の答えを比較検討してみよう。サンダースは、「ウォール街では詐欺がビジネスモデルとしてまかり通っている。ウォール街はアメリカ経済とアメリカ国民大多数の生活の破壊に手を貸している。従って、私たちは代金号の解体をしなければならない」と答えた。対照的に、ヒラリーは「ドッド=フランク法は良いスタートとなる。私たちはこの法律をきちんと施行しなければならない。私たちは消費者金融保護局の存在を守らねばならない」と答えた。まとめると、サンダースはシステムを攻撃し、一方、ヒラリーはどのようにシステムを改善するかを説明した、ということになる。

 

 人種と犯罪に関する諸問題についても同じことが言える。サンダースはアメリカの刑法システムは「壊れて」おり、「機構的な人種差別」によって運用が恣意的になっていると述べた。ヒラリーは、「オバマ大統領が警察に関して任命したコミッショナーによる提言を採用する。そして、私たちはこれらの問題にこれからも関心を持ちつづけなければならない」と述べた。

 

 ヒラリーは連邦上院議員時代に愛国者法に賛成票を投じたことについて尋ねられ、この法律は価値のある「プロセス」を生み出したが、ブッシュ政権はこうした「プロセス」を逸脱し始めたのだ、と答えた。そして、「市民の自由、プライバシー、そして安全のバランスが回復される必要がある」と述べた。サンダースは競合する価値観のバランスを取るとか、プロセスを正しい方向に戻すなどとは発言しなかった。アンダーソン・クーパーに「大統領になった場合、アメリカ国家安全保障局による調査プログラムを閉鎖しますか?」と質問され、サンダースは「もちろん、当然のことだ」と答えた。

 

 討論会はこうした調子で進んでいった。サンダースは資本主義に代わって民主的社会主義を採用することを主張した。ヒラリーは「資本主義が暴れ狂わないように、資本主義の行き過ぎを抑える」べきだと主張した。サンダースは、たとえアメリカの経済関係の官庁の最高幹部たちが銀行の救済をしなければ「完全なメルトダウン」に陥ると警告する場合でも、自分が大統領になったら銀行の救済策は実行しないと述べた。ヒラリーは基本的に自身に貼られた「インサイダー」というレッテルを受け入れ、「私はそうした場合にどのように対処すべきかを知っている」と力強く述べた。

 

 ヘイズのエリートの分類が討論会での候補者たちの発言を比較する検討することだけに有効な手段だという訳ではない。彼の分類はそれぞれの長所と短所を比較する場合に有効だ。サンダースの反乱志向は彼の政治的アピールにとって極めて重要だ。進歩主義者たちは、彼の政策がヒラリーの政策よりも左翼的であることだけで彼を支持しているのではない。進歩主義者たちは、サンダースがアメリカの政治的、経済的システムが堕落しているとはっきりと主張していること、そしてこの堕落したシステムのルールで戦うことを拒否していることで彼を支持しているのだ。例えば、サンダースはスーパーPACによる資金集めを拒否している。そうしたことから、「社会主義者」であることは、リベラル派の間で評判を落とすことにつながっていないのだ。多くの人々にとって、「社会主義」が意味するところは、既存の秩序を壊し、それよりもより良いものを建設するということなのだ。

 

 しかし、サンダースの反乱志向が彼の成功のカギとなる場合、それが彼の成功を押しとどめてしまう可能性もある。リベラル派の多くは経済的不平等に怒りを持っているが、民主党自体のムードは、共和党に比べて、反乱志向が少ない。共和党の候補者たちは定期的にジョン・ベイナー米連邦下院議長を非難し、それが大きな喝采を受けている。民主党の候補者たちの中でナンシー・ペロシ前米連邦下院議長を攻撃する人物がいたら、リベラル派はその人物をバカだと思うだろう。そして、民主党員たちや支持者たちは今でもバラク・オバマを心の底から支持しているのだ。

 

 だから、討論会の間、ヒラリーはオバマを賞賛した。民主党員や支持者たちは、「アメリカはいくつかの大きな問題を抱えている。それらは根本的に間違っている。それらの問題に対して民主党の政治家たちは物事がより良くなるように努力している」と考えている。この事実を踏まえてヒラリーは討論会でオバマを賞賛したのだ。民主党員と支持者たちは、オバマ政権下、物事はより良い方向に進んでいると確信している。2008年の大統領選挙でヒラリーがオバマに勝てなかった理由の1つは、ジョージ・W・ブッシュの後、彼女は大きな変革をもたらすことが出来ると有権者たちを納得させられなかったことだ。しかし現在のところ、彼女は民主党員の多くの支持を受けて大統領の座に最も近い位置にいる。それは、彼女がシステムの内側にいる人物であり、既存の機構を変革することを主張していて、それが有権者たちにアピールしているからなのだ。

 

 バーニー・サンダースが民主党の大統領選挙候補者に選ばれるとすれば、それは民主党の予備選挙に参加する候補者たちの過半数がアメリカと民主党を大きく変革することを望む場合だ。これは共和党側のドナルド・トランプにも言えることだ。昨晩のパフォーマンスを見ていると、ヒラリー・クリントンは、民主党員と支持者たちに革命的な変革は必要ではないということを納得させることが出来たと言える。共和党側ではジェブ・ブッシュがそれを目指しているが、いまだに果たせていない。

 

※ピーター・ベイナート:『ジ・アトランティック』誌と『ナショナル・ジャーナル』誌の客員編集員。ニューヨーク市立大学ジャーナリズム・政治学専攻の准教授、ニュー・アメリカ・ファウンデーション上級研究員を務める。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 秋を迎え、大統領選挙は盛り上がりを見せていますが、その中で、撤退を表明する候補者が出てきました。ウィスコンシン州知事スコット・ウォーカーは支持を集めることができずに撤退を表明しました。ウォーカーを支持してきた大富豪コーク兄弟は怒り狂い、ウォーカーに今まで政治資金として与えた9億ドルの返還を求めたということです。本当に返すことはないと思いますが、ウォーカーの政治生命は絶たれたのも同じことになりました。コーク兄弟に関しては近いうちにアメリカで書かれた評伝を翻訳して上梓する予定になっています。そちらをお読みください。

 

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コーク兄弟はウォーカーに9億ドルの返還を求める(Kochs Demand Walker Return Nine Hundred Million Dollars

 

アンディ・ボロウィッツ筆

2015年9月22日

『ニューヨーカー』誌

http://www.newyorker.com/humor/borowitz-report/kochs-demand-walker-return-nine-hundred-million-dollars

 

ウィスコンシン州マディソン発(ザ・ボロウィッツ・レポート)。ウィスコンシン州知事スコット・ウォーカーが共和党の大統領選挙予備選挙からの撤退を発表してわずか数分後、大富豪のコーク兄弟は、彼らがウォーカーの選挙戦に投じた9億ドルを返還するように求めた。

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 今年の初めからウォーカーを支援してきたコーク兄弟は、投じてきた資金を全て返還するように求めた。有力候補であったウォーカーとそれに賭けたコーク兄弟との関係が破壊されたことを、コークが資金を返すように求めたことが端的に示している。

 

 ウォーカーとコーク兄弟との間で交わされた電話での会話を聞いていたある側近に話によると、コーク兄弟は、ウォーカーが数百万ドルのカネを無駄にしながら、共和党の中で1%しか支持しか得られなかったことに「不満を持っている」と語ったということだ。

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側近は次のように語っている。「私は取り繕ったりしたくないのではっきり言いますよ。コーク兄弟は最低野郎ですよ」。

 

 コーク兄弟は30分間にわたり「スコット・ウォーカーを激しく責め立て」て、「金曜日の夜12時までに」投じた資金を全て返還するように求めたということだ。

 

 ウォーカーは「し、しかし、そんな莫大な金をどうやって準備できるでしょうか?」と尋ねた。

 

 コーク兄弟は次のように答えたという。「スコット、どのように準備しようが私たちは全く構わないよ、とりあえず用意したまえ」。

 

 側近によると、コーク兄弟は冷たく電話を切った。そして、ウォーカー知事は最大の支援者から見放され、政治生命を失うことになった。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 アメリカ国民が「タカ派的」になっていく中で、民主、共和両党ともに「タカ派路線」を進むことになり、そのためにランド・ポールは総攻撃に遭って負けてしまうだろうという記事です。2017年からの世界が暗澹たるものになっていくのであろうと今からため息が出ます。

 

==========

 

ハトはタカとの戦いには勝てない(A Dove Can’t Win a Hawk Fight

―ランド・ポールの微妙な外交政策では、強硬な態度が好まれる共和党の予備選挙を勝ち抜くチャンスはない

 

マイケル・A・コーエン(Michael A. Cohen)筆

2015年4月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/04/08/a-dove-cant-win-a-hawk-fight-rand-paul-gop-primary/

 

 もしあなたが2016年の大統領選挙に出馬することになった共和党の政治家とするならば、選挙期間における最高の日となるのは、あなたが共和党の大統領選挙候補者になったと発表する日となるだろう。喝采を送る聴衆、賛辞、色とりどりの吹き流しと風船、希望と高まる期待、その日1日だけは何でもできると思えてくる。共和党の大統領選挙候補者にとっては、この日よりもより良い日を迎えることはないだろう。

 

それでも未来はやって来る。

 

 共和党の予備選挙に参加することを発表した、ケンタッキー州選出連邦上院議員ランド・ポールをこの文章で取り上げる。4月7日の火曜日、ケンタッキー州ルイヴィルで彼は笑顔と幸福感に包まれていた。こんなことは言いたくないのだが、ランドさん、そこからあなたは落ちていくだけになりますよ。

 

 ベン・カーソンを一言で言うなら「狂気」だし、リック・ペリーは「頭の悪さ」となり、クリス・クリスティの場合は「クリス・クリスティらしさ」ということになる。ランド・ポールの場合は、「ハト派」となる。共和党の予備選挙で大きな力を持っているのは強硬なタカ派の人々であり、ランド・ポールは招かれざる客なのである。彼は共和党の馬鹿げた外交政策を少しはまともにしようと努力しているが、彼の訴えに耳を傾ける共和党支持者は少ない。一言で言えば、彼は自身の外交政策に関する考え方のために共和党の大統領選挙候補者になれないのである。

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ランド・ポール 

 

 火曜日、ランド・ポールはルイヴィルで、友人、家族、歓声を上げる支持者たちに囲まれていた。その中で、彼は国家安全保障とアメリカの世界における位置づけに関して正しいことを述べようとした。

 

 彼はまず宣言した。「敵は急進イスラムだ。私たちはそれから目を背けることはできない」

 

 彼は自分の目標とする人物の名を挙げた。「私は、レーガン大統領がそうしたように、強さを通じて平和を維持する国防政策を実行する」。

 

 

 彼は続けて主敵を攻撃した。「オバマ大統領と私との違いを言うならば、彼は弱者の立場から交渉が可能だと考えているように見えるということだ」。

 

 しかし、彼がどれほど努力しても、ポールは自分自身の信念と彼のこれまでの政治行動の記録から逃れることはできない。

 

 ポールは、オバマ大統領のイランとの合意を批判しながらも、イランの将来の核開発を巡る交渉は支持している。彼は過去にイスラエルに対する軍事援助を削減するように主張したこともあった。これは現在の共和党では、「ねぇ、オバマってそこまで悪くないよね?」と言うことよりも悪いこととなっているのだ。昨年、ポールは新聞の論説ページに投稿し、その中で、キューバに対する経済制裁を止めるように主張した。彼は更に「私は孤立主義者ではない」という何の捻りもない題の別の文章でもこのことを主張した。2011年、ポールは、保守派政治活動会議(CPAC)の総会で、保守派であるならば、その人は「軍事予算には多くの無駄がある」という主張に同意すべきだと述べた。

 

 彼のこれまでの発言から分かることは、ポールは「アメリカは抑制的な外交政策と国家安全保障政策を行う必要があり、軍事力の行使は最終手段だとすべきだ」と考えていることが分かる。

 

 これらは微妙な考えである。言わずもがなの事であるが、こうした考えを共和党の幹部たちは共有していない。

 

 例えば、CBSニュースの世論調査によると、共和党支持者の86%がイスラム国(IS)をアメリカにとっての大きな脅威と見なしている。民主党支持者になるとこの数は25%も低くなる。共和党支持者の72%がイラクやシリアへの地上軍の派遣を支持している。民主党支持者よりも22%も高い数字だ。イランとの核開発を巡る交渉が枠組みで合意に達する前、共和党員の過半数はイランを封じ込めるために軍事力を行使すべきだと考えていた(この数字は民主党員よりも25%も高かった)。昨年8月、イラクにおいてイスラム国と戦うべきかという質問に対し、共和党員の34%は反対し、戦わないことに57%が反対した。一方、民主党員の場合はこの数字がほぼ逆転し、戦うことに62%が反対し、25%が賛成した。共和党員は、アメリカがイラクに米軍を残しておくべきで、アフガニスタンでは正しいことをやったと考える傾向にあり、「圧倒的な軍事力」こそがテロリス無二大勝する最良の方法であると強く信じているのである(このように考える民主党員は30%しかいない)。

 

 こうした数字を見るだけでも、ポールのイデオロギー傾向から彼が共和党の大統領候補の指名を受けることは困難だということは分かる。しかし、更に彼にとって障害となるのは、現在の共和党は外交政策においてより強硬な路線を取りつつあるという事実だ。イスラム国の勢力拡大、ロシアにウクライナ侵攻、オバマ大統領が憎むべきイランの最高指導部と取引をしようとしていることに直面し、共和党は少なくとも現在のところ、国家安全保障について政治的に有利な立場に立っている。

 

 共和党側は2016年の大統領選挙を外交政策の選挙だと見なしている。そして民主党側はいつもの通り、恐怖感を募らせている。中道派の民主党員のグループ「サードウェイ」は2月にレポートを発表した。その中で、「民主党と共和党との間の安全保障に関する考え方の違いが発生し、その違いはこれまで以上に大きくなっている。これが選挙においては問題になる」と主張した。それへの対処として、サードウェイは、民主党が「アメリカに対する脅威」の存在をしっかりと認識していることをアピールすること、そして民主党が国民を守るために「全力を傾けている」と有権者に分かってもらうようにすることを提言している。ヒラリーがこの提言をしっかりと受け止めていることは明らかだ。結果として、民主、共和両党は可能な限りタカ派的な主張を行うようになるだろう。その一環として、アメリカが直面している脅威をその実態以上に過大に強調するだろう。

 

 ポールがどれほど過去の行動から現在の自分は違うと訴えても、彼が共和党の大統領候補になっている姿を想像することは不可能だ。彼が出馬を正式に表明する演説を終える前に、外部の諸団体は予備選挙が行われる各州でテレビコマーシャルを流し、その中で、「ポールはオバマ大統領のイランと交渉を支持するという間違いを犯した危険な人物だ」とレッテル貼りをし、「イランが“我が国の国家安全保障にとって脅威となる”と考えるのは馬鹿げている」とポールは主張していると攻撃した。

 

 こうした攻撃はこれからもっと激しくなっていくだろう。ポールは国家安全保障に関しては守勢に回らざるを得なくなるだろう。彼は選挙戦に参加している限り、保守派からの攻撃に晒され続けるだろう。少なくとも、彼のライヴァルたちは全員、共和党の幹部たちのタカ派性にアピールをすることは間違いないところだ。

 

更には、ランド・ポールには簡単に逃れられないもう1つの問題が存在する。それは、ルイヴィルの集会にも参加していた父親ロン・ポールである。


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ロン・ポール

 多くの有権者はランド・ポールという名前を聞いたらロン・ポールを連想することになるのは想像に難くない。ランド・ポールは国家安全保障で中間的な立場に立ち、外交政策についてのタカ派のようにオバマ政権に対して最低限度の批判を加えようとしている。しかし、父ロン・ポールは、全く妥協せずにアイソレーショニスト的な考えを隠さずに主張している。イスラエル、国防予算、イラク、対テロ戦争に関して、ロン・ポールは、アメリカ国内のいかなる現実政治家たちよりも共和党主流派の考えから距離を取っている。ランド・ポールとロン・ポールの関係を知らない共和党の予備選挙に参加する有権者たちに対して、共和党の予備選立候補者たちは、討論会で国家安全保障に関して父と同じ考えを持っているかどうかを質問してアピール機会を狙っている。これまでに述べた3つの弱点はポールにとっての足かせとなり、ポールに痛みを強いることになるだろう。

 

 ここまで長々と述べてきたが、最後に一言。「ランドさん、太陽の光が降り注ぐ素晴らしい日を楽しんでください」。ただそんな日は長くは続かないだろうけれども。

 

(終わり)








 

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