古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:人道的介入主義

 古村治彦です。

 2月に入り、事務作業や2023年4月9日に東京・御茶ノ水の全電通労働会館において、副島隆彦の学問道場が主催する定例会の準備も少しずつありでブログの更新頻度がだいぶ落ちまして申し訳ありません。もっと多くの方々にお読みいただくためには更新頻度を上げるのが最善だと思いますが、なかなか難しい状況です。ご理解をいただきまして、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、今後もどうぞよろしくお願いいたします。

 アメリカ外交について皆さんはどのような考えを持っておられるだろうか。ここでは第二次世界大戦後の1946年から現在までについて考えていきたいが、ソ連との二極構造の下、自由主義陣営の旗頭として、ソ連と直接戦争をすることはなかったが、ヨーロッパ、東アジア、中南米といった地域で、ソ連と戦った。影響圏をめぐる戦いだった。社会主義の人気が落ち、社会主義国の生活の苦しさが明らかになるにつれ、共産圏、社会主義圏の敗北ということになり、最終的にはソ連崩壊に至り、冷戦はアメリカの勝利となった。その間には中国とソ連の仲違いを利用して、中国との国交正常化を達成した。アメリカは世界で唯一の超大国となった。日本は先の大戦でアメリカに無残な敗北を喫したが、「反共の防波堤」という役割を与えられ、経済成長に邁進することができた。

 21世紀に入り、2001年の911同時多発テロ事件が起きた。アメリカに対する反撃、ブローバック(blowback)ということになった。アメリカが世界を支配し、管理するまでならまだしも、非民主的な国々、独裁的な国々に対する恣意的な介入(王政や独裁性が良くないというならばどうしてもサウジアラビアや旧ソ連の独裁者が支配する国々の体制転換を行わないのか)を行って、体制転換する(民主政体、法の支配、資本主義、人権擁護などを急進的に実現する)という「理想主義」がアメリカ外交で幅を利かせて、世界の多くの国々が不幸になった。私の考えの根幹はこれだ。共和党のネオコン派(ジョージ・W・ブッシュ政権を牛耳った)、民主党の人道的介入主義派(バラク・オバマ政権第一期やジョー・バイデン政権を主導する、ヒラリー・クリントンを頭目とする人々)は、「理想主義」である。彼らの源流は世界革命を志向したトロツキー主義者である。彼らは世代を超えて、世界を理想的な「民主的な国々の集まり」にしようとしている。こうしたことは拙著『アメリカ政治の秘密』で詳しく分析している。

 イラク、アフガニスタン、アラブの春などでアメリカの外交は失敗した。こうした失敗をアメリカ外交の別の潮流であるリアリズムから見れば当然のことということになる。アメリカが普通の国であればそもそも介入主義など発生しないだろう。世界帝国、超大国であるために、介入できるだけの力(パワー)を持ってしまうのである。経済力も考えれば、世界を牛耳りたいと思うのもまた当然だし、それでうまくいっていたことも事実だ。しかし、アメリカの力が強かったことがアメリカの不幸の始まりであったとも言えるだろう。「外国のことなんてどうでもよいじゃないか、自分たちの国の中で穏やかに暮らせればよいではないか」という考えを持つ人々も多くいるが、彼らの考えはワシントン政治には反映されなかった。一般国民の意思が政治に反映される機会になりそうだったのはドナルド・トランプ政権時代だったがそれもまた逆転された。アメリカはまた不幸な時代を続けていくだろう。そして、世界中が不幸を共有することになる。

(貼り付けはじめ)

アメリカはたとえアメリカ自体が止めたいと望んでも愚かであることは止められないだろう(The United States Couldn’t Stop Being Stupid if It Wanted To

-ワシントンにとって自己抑制は常に矛盾をはらんでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年12月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/13/the-united-states-couldnt-stop-being-stupid-if-it-wanted-to/

アメリカの「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」を擁護する人々は、アメリカが自らを拡大しすぎ、愚かな政策を追求し、外交政策上の目標を達成できず、公然と掲げる政治原則に反したことを認めることがある。しかし、彼らはそのような行為を残念な異常事態(regrettable aberrations)と考え、米国はこうした、数少ない失敗から学び、将来においてより賢明な行動を取ることができると確信している。例えば、10年前、政治学者のスティーヴン・ブルックス、ジョン・アイケンベリー、ウィリアム・ウォールフォースは、イラク戦争が誤りであったことを認めながらも、「深い関与(deep engagement)」という彼らの好む政策がアメリカの大戦略(grand strategy)として正しい選択であることを主張した。彼らの考えでは、アメリカが良性の世界秩序を維持するために必要なことは、既存の関与を維持し、イラクを再び侵略しないことであった。バラク・オバマ前大統領が好んで言ったように、「愚かな行為(stupid shit)」を止めればいいのだ。

ジョージ・パッカーが最近『アトランティック』誌で発表したアメリカのパワーの擁護は、この使い古された論法の最新版となっている。パッカーは論稿の冒頭で、アメリカ人は「海外での聖戦(foreign crusades)をやりすぎ、そして縮小(retrenchments)をやりすぎ、普通の国なら絶妙なバランスを取ろうとするような間合いを決して取らない」と主張し、明らかに誤った比較をしている。しかし、世界中に700以上の軍事施設を持ち、世界のほとんどの海域に空母戦闘群を配備し、数十カ国と正式な同盟関係を結び、現在ロシアに対する代理戦争、中国に対する経済戦争、アフリカでの対テロ作戦、さらにイラン、キューバ、北朝鮮などの各国政府の弱体化と将来の打倒に向けた果てしない努力をしている国(アメリカ)が、過度の「縮小(retrenchment)」を非難されることはないだろう。パッカーの考える「良いバランス(fine balance)」、つまり、暑すぎず、寒すぎず、ちょうど良い外交政策とは、アメリカが世界のほぼ全域で野心的な目標に取り組むことである。

残念ながら、パッカーをはじめとするアメリカの優位性(U.S. primacy)を擁護する人々は、アメリカのような強力な自由主義国家が外交政策の野心を制限することがいかに困難であるかを過小評価している。私はアメリカのリベラルな価値観を好むが、リベラルな価値観と巨大なパワーの組み合わせは、アメリカがやり過ぎること、むしろやり過ぎないことをほぼ必然としている。もしパッカーが絶妙なバランスを好むのであれば、介入主義的な衝動(interventionist impulse)の方向性についてもっと心配する必要があり、それを抑制しようとする人々についてはあまり心配する必要はないだろう。

なぜアメリカは自制を伴う(with restraint)行動を取ることが難しいのだろうか? 第一の問題は、リベラリズム(1liberalism)そのものだ。リベラリズムは、全ての人間は確固とした自然権[natural rights](例えば「生命、自由、幸福の追求」)を持っているという主張から始まる。リベラリズムを信奉する人々にとって、政治的課題の核心は、我々を互いから守るのに十分なほど強力でありながら、同時に人々の権利を奪うほどには強力ではなく、チェックされる政治制度(political institutions)を作り出すことである。リベラルな国家は、政治権力の分割、選挙を通しての指導者の責任追求、法の支配、思想・言論・結社の自由の保護、寛容の規範の重視によって、不完全ながらもこのバランス感覚を獲得している。従って、真のリベラル派にとって、唯一の合法的な政府とは、これらの特徴を持ち、それを用いて各市民の自然権を保護する政府なのだ。

しかし、これらの原則は、全ての人間が同一の権利を有するという主張から始まっているため、リベラリズムは、単一の国家や人類の一部分にさえも限定することができず、その前提に一貫性を保つことができない。アメリカ人、デンマーク人、オーストラリア人、スペイン人、韓国人には権利があるが、ベラルーシ、ロシア、イラン、中国、サウジアラビア、ヨルダン川西岸地区、その他多くの場所に住んでいる人々には権利がない、と宣言できる真のリベラル派は存在しない。このため、自由主義国家はジョン・ミアシャイマーが言うところの「十字軍の衝動(crusader impulse)」、つまり、パワーの許す限り自由主義原則を広めたいという願望に強く傾く。ところで、マルクス・レーニン主義であれ、全人類を特定の信仰の支配下に置くことを使命とする様々な宗教運動であれ、他の様々な普遍主義的イデオロギー(universalist ideologies)にも同じ問題を持っている。ある国とその指導者が、自分たちの理想が社会を組織し、統治するための唯一の適切な方法であると心から信じている場合、その理想を受け入れるように他者を説得し、強制しようとする。少なくとも、そうすれば、異なる考えを持つ人々との摩擦(friction)は避けられない。

第二に、アメリカは強大なパワーを有しているため、自制して行動することが困難である。1960年代、連邦上院軍事委員会の委員長を務めたリチャード・B・ラッセル元連邦上院議員は、「もし私たちがどこに行っても、何をするのも簡単ならば、私たちは常にどこかに行き、何かをすることになるだろう」と述べている。世界のほぼ全域で問題が発生した場合、アメリカは常にそれに対して何かしようとすることができる。弱い国家は同じ自由度を持たず、したがって同じ誘惑に直面することもない。ニュージーランドは健全な自由民主国家であり、多くの立派な資質を備えているが、ロシアのウクライナ侵攻、イランの核開発、中国の南シナ海での侵略に対してニュージーランドが率先して対処するとは誰も考えない。

対照的に、米大統領執務室に座る人は、問題が発生した時、あるいは好機が訪れた時に、多くの選択肢を手にすることができる。米大統領は、制裁(sanctions)を科す、封鎖(blockade)を命じ、武力行使の脅し(あるいは直接の武力行使)を発し、その他多くの行動を取ることができ、しかもほとんどの場合、アメリカを、少なくとも短期的には、深刻な危険に晒すことはない。このような状況下で、行動の誘惑に抗することは極めて困難である。特に、いかなる自制的行動も意志の欠如、宥和的行動(act of appeasement)、アメリカの信頼性への致命的打撃として非難する批判者の大群が控えている場合、なおさらである。

第三に、米国は70年以上にわたって世界のパワーの頂点に君臨してきたため、現在、その卓越した世界的役割を維持することに既得権(vested interests)を持つ官僚や企業の強力な勢力が存在している。ドワイト・アイゼンハワー元米大統領が1961年の大統領退任演説で警告したように、第二次世界大戦と冷戦初期の強力な「軍産複合体(military-industrial complex)」の出現は、アメリカの外交政策をより軍事的で介入的な方向に永久に歪曲させる重大な進展があった。その影響は、特に外交政策シンクタンクの世界において顕著であり、その大部分はアメリカの関与を促進し、アメリカ中心の世界秩序(U.S.-centered world order)を擁護することに専念している。その結果、数年前にザック・ボーチャンプが指摘したように、「ワシントンの外交政策の議論は、ほとんどが中道と右派の間で行われる傾向にある。問題は、アメリカがまったく武力を行使しないかどうかよりも、どの程度武力を行使すべきなのかということである」ということである。

第四に、以前にも述べたように、リベラルなアメリカは、他の多くの国にはない方法で外国の影響にオープンである。外国政府は、ワシントン内部、特に連邦議会で自分たちの主張を通すためにロビー活動会社を雇うことができるし、場合によっては自分たちのために行動を起こすよう圧力をかけてくれる国内団体に頼ることもできる。また、アメリカの大義(cause)を推進するシンクタンクに多額の寄付をしたり、外国の指導者がアメリカの有力な出版物に論説や記事を掲載し、エリートや大衆の意見に揺さぶりをかけたりすることも可能である。もちろん、このような努力は常に成功するわけではないが、正味の効果は、アメリカの行動を減らすのではなく、むしろ増やすように促す傾向がある。

更に言えば、アメリカが新しい同盟諸国、「パートナー」、「特別な関係(special relationship)」を加えるたびに、アメリカの耳元でささやく外国の声の数は増えている。かつて、アメリカの対ヨーロッパ政策を形成しようとするNATOの同盟国は11カ国だったが、現在は29カ国である。これらの国の中には集団防衛(collective defense)に多大な資源を提供している国もあるが、その他の国の中には弱く脆弱で、対等なパートナーというよりは保護国(protectorates)と見るのが適切であろう国も存在する。当然のことながら、これらの国々は、アメリカが公約を守り、自国を保護するよう声高に主張し、グローバルパワーとしてのアメリカの信頼性が危険に晒され、より穏やかな世界秩序への希望は、彼らの助言を受けることにかかっていると警告している。多くのクライアント国によれば、アメリカは深く関与すればするほど、更により深く関与し続けなければならない。

誤解しないでいただきたい。私は同盟諸国の懸念を無視したり、彼らの助言を頭ごなしに否定したりすることを主張しているのではない。同盟諸国の指導者たちは、現代の世界規模の諸問題についてしばしば賢明なことを言うし、アメリカが自国内からの助言だけに頼らず、フランスやドイツの警告に耳を傾けていれば、より良い結果になったであろう例を考えるのは簡単だ(イラクについてはどうだろうか?)。しかし、外交政策分野の「エリートたち(Blob)」の多くが持つ介入主義的衝動(interventionist impulse)と、アメリカの保護と援助を望む国々が外交政策に関する議論に熱心に挿入する利己的な助言の間には、依然として不健康な共生が存在し得る。驚くべきことではないのだが、アメリカの海外パートナーは通常、アメリカに自分たちのためにもっとやってもらうことを望み、アメリカが少し手を引くことを勧めることはほとんどない。

このような様々な要素を組み合わせると、なぜアメリカが愚かなことを止めるのが難しいのかが分かるだろう。イデオロギー、パワー、官僚的な勢い、そしてアメリカのパワーを自国の目的のために利用しようとする他国の欲望が相まって、何かをしたいという強力な原因を生み出し、誘惑が生じた時に明確な優先順位を決めてそれを守ることができない。パッカーや他の人々が望んでいると思われる絶妙なバランスを達成するためには、このような傾向を擁護したり強化したりするのではなく、それに対抗するためにもっと多くのことがなされる必要がある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 2021年に正式に発足したジョー・バイデン政権1期目は後半戦に入っている。2024年の大統領選挙もスタートに近づきつつある。中間選挙では大敗しなかったということで、バイデン政権の外交政策は及第点だという主張もあるが、果たしてそうであろうか?私はバイデン政権がヒラリー政権であり、オバマ政権の焼き直しだと主張する。

 ヒラリー・クリントン元国務長官をはじめとする人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)という民主党の外交政策の流れがある。これは共和党のネオコンと対をなす外交潮流である。外国の諸問題に介入し、問題のある政府や独裁者を打倒し、体制転換を行う。そして、自由、人権、資本主義、民主政治体制といった西側の価値観を人工的に植え付けるということだ。ネオコンと基本的に同じ考えだ。ネオコンが牛耳ったジョージ・W・ブッシュ政権、ヒラリーが外交政策を主導したバラク・オバマ政権1期目は、アメリカの外交政策の失敗の歴史だった。これに嫌気がさしたことで、アメリカ国民は、ヒラリー・クリントンではなく、国内問題解決優先主義(アイソレイショニズム、Isolationism)、「アメリカ・ファースト」のドナルド・トランプを大統領に選んだ。
 しかし、2020年の大統領選挙ではジョー・バイデンが大統領に当選した。バイデン政権の外交政策は基本的にオバマ政権1期目の焼き直しだ。ウクライナをめぐっては、私は今から考えれば、トランプがバイデン父子のウクライナとのかかわりをウクライナに捜査してもらうことの引き換えで軍事支援を行うと述べたことは正しかったと考える。バイデンは副大統領時代からウクライナに深くかかわり、ウクライナの実質的なNATO加盟国化を進め、ロシアに脅威を与えた。そのバイデンが大統領になってウクライナ支援を強化したことがウクライナ戦争につながったということが言える。
 アメリカは海外への積極的な介入を進めることで、再び間違いを犯そうとしている。それを修正しようにもその修正の仕方が分からない、そのまま突っ走るしかないというのが今のバイデン政権の外交政策を立案する面々だ。下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはこのことを「メカニック(整備士)はいるが設計者がいない」状態と形容している。設計図は既にヒラリー・クリントンが国務長官の時にできていた。その設計図のままに、ところどころ修理をしながらやるしかないというのが現状だ。これでは世界の不幸がこれからも続くということになる。私は常々「アメリカの理想主義(Idealism)が世界を壊す」ということを考えている。理想は暴走を生み、現実を見えなくする。結果として大きな地獄を生み出す。

(貼り付けはじめ)

バイデンがアメリカの外交政策を修理するためには整備士(メカニック)ではなく、設計者(アーキテクト)が必要だ(Biden Needs Architects, Not Mechanics, to Fix U.S. Foreign Policy

-アメリカの中間選挙が近づくにつれ、ワシントンは集団思考とヴィジョンの欠如に悩まされ、新しい時代の問題に対する創造的な解決策を阻んでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/12/biden-foreign-policy-outdated-groupthink/

私は休暇から戻ったばかりだが、ジョー・バイデン米大統領は現在中東諸国を訪問している。今回の訪問について私は、バイデン政権の外交政策のパフォーマンスを評価するための絶好の機会だと考えた。私は2020年の大統領選挙でバイデンに投票した。彼が当選して安堵した。それでも、バイデンと内部で競争がない(ノンライヴァル)ティームが21世紀の外交政策と大戦略を設計する任務を果たせないのではないかと心配してきた。明らかな危険(the obvious danger)という概念は、冷戦中にうまく機能したかもしれないが、現在は効果があるのかないのか分からない、様々な特効薬、発言と映像、および政策に頼ってばかりになっている。

バイデン政権が何をすると言ったか覚えているだろうか? アメリカの同盟関係を活性化し、独裁政治の台頭に対抗して民主政治体制世界を団結させる。中国にレーザーのように照準を合わせ、主導権争いに勝利するつもりだと主張していた。気候変動は最優先課題である。アメリカはまた、イランとの核取引に再び加わり、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「除け者(pariah)」と呼び、「永遠の戦争(forever wars)」を終わらせ、それがどんな意味であれ「中間層(middle class)」のための外交(経済)政策をアメリカ人に与える位置を持っていた。そして、アントニー・ブリンケン米国務長官は、人権を政権の外交政策の「中心(at the center)」に据えることを約束した。

それで、これまでのところ、どうなっているのだろうか?

公正を期すために言えば、バイデン&カンパニー(バイデン株式会社)は初期の公約のいくつかを実現した。彼はアフガニスタン戦争を終結させたが、結末は混乱してしまった。これはおそらく避けられなかったことだろう。バイデンは、前任者の悪ふざけによって疎外された同盟諸国を宥め、ウクライナでの戦争は、当面の間、NATO(ネイトー)に新しい息吹を与えた。アメリカはパリ協定に再加盟した。バイデンは就任以来、いくつかの失策を犯してきたが(イギリス、オーストラリアとのいわゆるAUKUS[オウカス]潜水艦の素人同然の契約展開や大統領の口が滑ったことを何度も撤回する必要性など)、バイデンの下での18カ月間の失策は、ドナルド・トランプ前米大統領のショーの任意の2週間よりも少なかった。

しかし、全体として、バイデン政権が明確な説得力を持ち、成功する戦略を有している兆候はほとんどない。この1年半の間に追求した様々な取り組みや対応を見てみると、バイデン政権の記録は印象に残らない。

ウクライナについて言えば、バイデンのティームは、ロシアの侵攻に対して大西洋をまたぐ形で対応を行った。実際に開戦に至るまでの諜報活動の巧みで政治的に効果的な活用に始まりうまく指揮を執った。ヨーロッパが(ほぼ)一体となって対応し、ドイツなどが(ほぼ)助け舟を出したのは、バイデンの努力(とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の巧みな公共外交[パブリックディプロマシー、public diplomacy])のおかげであり、ウラジミール・プーティン大統領に大きな衝撃を与えたのは間違いないだろう。

しかし、アメリカ人は、ビル・クリントン元大統領の時代に始まり、その後の全ての指導者の時代に続いた一連の間違いである、より大きな状況に対するアメリカの誤った対処から目を背けるべきではない。この問題を提起することは激しい論争となり、これらの不手際の立役者は、西側の政策がこの悲劇と何の関係もないことを否定するために不自然なまでに力を尽くしている。しかし、プーティンの侵攻を古典的な予防戦争(preventive war)と見なさないわけにはいかない。ウクライナを武装化し、欧米の軌道に乗せるというアメリカの加速された努力を挫くために行われた不法な侵攻ということになる。

プーティンが軍隊を動員し、自らの懸念が晴らされねば侵攻すると明言した時、NATO(ネイトー)の「門戸開放政策(open door policy)」の終了を検討することさえ拒否し続けたバイデン政権は戦争の到来を約束する結果となった。1990年代にウクライナに旧ソ連から受け継いだ核兵器を放棄させ、将来のロシアの攻撃に対する強力な抑止力を取り除いたのに、西側がロシアの懸念を認めず、モスクワがどう反応するかも予想しなかったのは、とんでもない戦略的誤算であった。

私が心配なのは(そしてバイデンと民主党側を本当に心配するべきなのは)次の点である。ウクライナの英雄的な抵抗と数十億ドルに及ぶ西側の軍事支援があっても、ロシアがウクライナの領土のかなりの部分を掌握することを防ぐことができていない。制裁は時間をかけてロシアを弱体化させるだろうが、おそらくプーティンをクレムリンから追い出したり、撤退を納得させたりすることはできないだろう。その結果、西側の決定的な勝利ではなく、長引く膠着状態に陥り、ウクライナ(および食糧やエネルギー不足に直面している発展途上諸国)にとって恐ろしいほどの代償を払うことになるだろう。ロシアがより悪い状況に陥ったとしても、これを外交政策の大成功と言い張ることはできないだろう。

更に加えれば、この危機によって、アメリカは冷戦時代の習慣に逆戻りし、再びヨーロッパの第一対応者(ファーストレスポンダー、first responder)として行動するようになった。ヨーロッパの豊かな民主政治体制諸国には自衛のための十分な潜在能力があるが、特にロシアが時間とともにかなり弱体化することを考えると、アメリカ(アンクルサム、Uncle Sam)は再び、彼ら自身と同じ程度に彼らを守るために行動するようになったという点は重要だ。NATO(ネイト―)は新しい戦略コンセプトを掲げているが、ヨーロッパの加盟諸国はそのコンセプトの高尚な美辞麗句に見合うだけのハードパワー(軍事)能力を持っていない。そして、アメリカは更に多くの軍隊、資金、武器をヨーロッパ大陸に送っているが、ヨーロッパ諸国が公約を守り、軍隊を再建すると本気で信じている人がいるだろうか? 歴史を振り返れば、ヨーロッパ諸国が歴史を守る可能性はほとんどない。

アジア地域ではその記録はあまり良くない。バイデンは中国との競争に新たに焦点を当てることを誓って就任したが、実質的な内容を伴う明確で首尾一貫したアジア戦略を探しても無駄なことだ。日米豪印の四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は協議の場ではあっても同盟の場ではないし、大きな話題となったAUKUS(オウカス)協定も、アジアの海軍力のバランスに影響を与えることは(あったとしても)今後10年以上はないだろう。

中国はこの地域で経済的足跡を拡大し続けており、アメリカは最近の「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)」のような限定的な取り組みや、ソロモン諸島のような場所での中国の進出に対するその場しのぎの対応で応じている。しかし、アメリカの公約は連邦議会で承認された正式な貿易協定に組み込まれていないため、アジアのパートナー諸国は、新大統領が方針を転換するかもしれないと当然ながら懸念している。この問題はバイデンの責任ではないが、アジアの同盟諸国はいずれ、アメリカは中国が提供できるような市場アクセスや投資機会を提供できないし、アメリカは他国の出来事に気を取られやすく、信頼できる保証人にはなり得ないと結論付ける可能性がある。

中国自体については、バイデン政権はトランプ大統領の輸出規制を維持し、台湾防衛の公約に近づき、多くの反中国的なレトリックにふけるようになった。しかし、気候変動問題など協力が必要な分野と競争が避けられない分野とを区別して、対中アプローチを継続的に展開する試みが欠落している。中国の行動やレトリックはこれを容易にするものではないが、地球上で2番目に強い国である中国に対処するための明確な戦略の欠如は顕著である。

中東地域では、バイデンはイランとの核合意を回復し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンのような不正な指導者に厳しい態度で臨むことを公約に掲げて就任した。また、バイデンとブリンケンは、人権や「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を再構築する必要性について多くを語った。しかし、実際には、バイデンとブリンケンはトランプと同様に取引重視であり、実際、この地域に対する政権のアプローチは、本質的に「トランプ・ライト(Trump=lite、訳者註:トランプ色を薄めた戦術)」である。イランのハサン・ロウハニ前大統領が在任中に核合意への復帰を躊躇した結果、新たな合意の見込みはほぼ消滅し、イランはかつてないほど核兵器に近づいた。

アメリカはイエメンでのサウジアラビアの戦争を黙認し続け、バイデンはムハンマド・ビン・サルマンを「除け者」にすると宣言したがそれは頓挫した。ヨルダン川西岸をさらに吸収しようとするイスラエルの執拗な努力は、いつものように意味のない反応を示す。著名なパレスチナ系アメリカ人ジャーナリストであるシリーン・アブ・アクレの射殺事件は様々な調査によれば、ほぼ確実にイスラエル兵によるものだが、彼女がアメリカ国民であったにもかかわらず、政権からは鋭い言葉さえ発せられない。トランプはアメリカの中東の顧客(クライアント)たちが望むことはほとんど何でもさせた。バイデンとブリンケンはそれに倣っている。

バイデンが今週イスラエルとサウジアラビアを訪問するというのも、戦略的な観点からするといささか不可解なことである。ホスト国はバイデンに新たな安全保障の約束を迫るだろうし、それはアメリカを次の地域紛争に容易に引きずり込むことになる。このような措置は、イランがついに核武装に走ることを誘発しかねない。そうなれば、バイデン政権は予防戦争を行うか、核武装したイランという現実を受け入れるかのどちらかを迫られることになる。しかし、バイデンが現地の権力者の誘惑に抵抗すれば、彼らは苛立って失望し、今回の訪問は当然ながら時間の無駄だったと判断されることになる。それではなぜ行くのか?

本誌の寄稿者であるアーロン・デイヴィッド・ミラーとスティーヴン・サイモンは正しい。バイデンは、主に国内的な理由で、ウクライナ戦争によって引き起こされたエネルギーコストの高騰に対処しようとするためにこれをやっている。しかし、その見方は酷いものだ。アメリカ大統領は、非民主的な従属国家にもっと石油を産出させるために、中東に手ぶらで飛び、真の大国のように行動する代わりに、議論したい問題があれば、ワシントンに飛んできて歓迎すると言っているのだ。彼が得る国内的な利益は、ささやかで短期に終わるだろう。

最後に、バイデンとそのティームは、米国の民主的価値の重要性と、独裁政治に対抗する「自由世界(free world)」の団結を繰り返し強調してきた。これは価値ある目標だが、プーティンや中国の習近平国家主席のような人々から意図しない援助を受けたにもかかわらず、それを示すものはあまりない。また、最近開催された米州首脳会議では、メキシコ、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルヴァドルの各首脳が出席を拒否し、出席した一部の首脳がこの地域におけるアメリカの役割を批判する機会として利用したため、その成果は不十分なものとなった。

更に重要なことは、アメリカ自身が深く分裂し、永久に少数派の支配へと向かっているこの時期に、そして正統性が減少している連邦最高裁が、銃製造者や企業には女性よりも権利があると考えるような時に、なぜアメリカは他の国々が「民主的価値(democratic values)」を受け入れることを期待しなければならないのだろうか? もしバイデンが海外で民主主義を拡大したいのであれば、まず手始めに国内でもっとうまく民主政治体制を守ることから始めなければならない。

私は、賢明で経験豊富な外交政策の達人たちが、なぜこのような失敗を犯しているのか、その原因を突き止めたいと考えている。バイデンは、自分と同じように世界を見て、何十年にもわたってアメリカの外交政策に影響を与えてきた使い古された手法にこの上なく慣れている人々を、意図的に一つのティームに集めたのである。

しかし、「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」、「共有された価値観(shared values)」、「ルールに基づく秩序(a rules-based order)」、「自由世界(free world)」といったキャッチフレーズは、戦略の代用にはならない。戦略には、国際情勢を形成する中心的な力を特定する一連の一般原則、その論理から導き出される明確な優先順位、そして国をより安全または繁栄(あるいはその両方)させるための一連の政策ステップが必要である。

国家が脅威の均衡(balance threats)を図る傾向を無視したり、経済的相互依存(economic interdependence)や強固な制度が紛争を不可能にすると考えたり、ナショナリズムの力を無視するなど、戦略の基礎となる世界観に欠陥があれば、優先順位が狂ってしまい、いかなる取り組みも裏目に出る可能性が高くなる。

世界は複雑な場所であり、ある分野での行動が他の分野での努力を損なうことも起きる。明確で根拠のある優先順位がない限り、これらの相殺取引(トレイドオフ、trade-offs)を賢く解決することはほとんど不可能だ。明確な戦略がなければ、予期せぬ出来事によって簡単に軌道修正されてしまうし、国内の有権者、外国のロビー団体、自由世界のリーダーとしてのアメリカの自画像に訴える術を身につけた同盟国からの圧力に対抗することも難しくなる。

バイデンとそのティームは、外交政策のマシーンを動かす方法を知っているという意味では、熟練した整備士(メカニック)たちの一群のようなものである。しかし、彼らが操作するために訓練された国内および国際機関は、もはやその目的に適っておらず、経験豊富なフォードやシボレーの整備士がテスラを整備しようとするような結果に終わっている。当然のことながら、機械が生み出す政策対応は、世界が望むような結果をもたらしてはいない。

バイデンに必要なのは整備士ではなく、建築家(アーキテクト)たちだ。今日の課題により適した新しい取り決めとアプローチを生み出す想像力とヴィジョンを持った人たちだ。残念ながら、今日のエスタブリッシュメントは、適合性と、安全でますます懐古的なコンセンサスの中に留まることに高い優先順位を置いているため、創造量とヴィジョンを持つ人々が権力の座に就くことはないのだ。

希望を持てる理由はあるだろうか? 確かに。アメリカ人たちは、主要な敵国が大きな間違いを犯しているという事実に、いくらかの慰めを得ることができるかもしれない。プーティンのウクライナ侵攻は彼の期待通りにはいかず、中国のゼロ新型コロナウイルス感染拡大政策は中国経済の深刻な構造的不均衡を悪化させ、両国ともほんの数年前より強力な世界的敵対勢力に直面している。

しかし、モスクワや北京がワシントンよりも多くの誤りを犯すことを期待することは、長期的なアプローチとして有望とはいえない。他国の失敗を当てにするのではなく、賢明な政策と効果的な実行こそが、成功への唯一の道だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン政権が成立するならば、外交政策分野では、バイデンが副大統領だったバラク・オバマ政権時代に参加していた人物たちが、主要最高幹部として登場するだろう。以下の記事は、今年の夏ごろの記事だが、ジョー・バイデン陣営には、数多くの外交専門家たちがヴォランティアで数多くのワーキング・グループに参加していることを紹介している。ここで作られた政策提言や助言を取りまとめるのが、インナーサークルと呼ばれる少数によるグループで、このグループのメンバーが政権の外交政策の中枢を担うことになる。これはあくまでバイデン政権が成立しての話だ。

 一言加えておくと、今のところ、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスによる勝利宣言はあったが、正式にはまだ選挙人270名獲得を確実にした候補者はいない。まだ5つの州では最多得票の候補者が正式に発表されていないし、その他の州でも選挙の結果や方法について裁判が提起されている。

※「RealClearPolitics」の選挙結果ページは以下の通り↓
https://www.realclearpolitics.com/elections/live_results/2020/president/

バイデンの外交政策の面での側近はアントニー・ブリンケンだ。アントニー・ブリンケンは第一次、第二次ビル・クリントン政権のホワイトハウスで国家安全保障会議のスタッフを務めた。大統領特別アシスタントとして、演説草稿づくりに関わり、ヨーロッパやカナダ担当の上級部長を務めた(ブリンケンはフランスの高校を卒業しているのでフランス語が堪能)。こうしたことからビル・クリントン、ヒラリー・クリントンとの関係も深い。
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バイデン(左)とブリンケン

2008年の大統領選挙では最初はバイデン陣営に加わり、バイデンがバラク・オバマの副大統領候補となってから、オバマ・バイデン陣営に加わった。オバマ政権では、国家安全保障問題担当副大統領補佐官を務めた。
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ヘインズ

 アヴリル・ヘインズは日本の柔道の殿堂・講道館に1年間留学した経験を持つ変わり種だ。物理学の大学院生を辞めてバーや本屋を経営し、その後法科大学院に入って弁護士資格を取得した。その後、連邦上院の外交関係の仕事をしている時にバイデンと知り合ったようだ。バラク・オバマ政権では2013年から15年まで女性初のCIA副長官を務め、15年から17年にかけては、国家安全保障問題担当大統領次席補佐官を務めた。私は2014年末にヘインズについて、このブログで取り上げている。

※「ホワイトハウスの人事に関する記事をご紹介します」(2014年12月29日)↓

http://suinikki.blog.jp/archives/19038692.html

 ジェイク・サリヴァンはオバマ政権内で若手(30代)のエリートとして登場した。拙著『アメリカ政治の秘密』で私はいち早くサリヴァンに注目した。私はこの本を書いたときに、「サリヴァンは将来、大統領になるか、国務長官になるか、くらいの人だ」と述べたが、周囲の人たちからは「それは言い過ぎではないか」とたしなめられた。彼は自分の出身地から連邦議員に出馬することも視野に入れていた時期もあった。しかし、彼は線が細い感じで、表方の人でもないような感じだと私も考え直した。そこがピート・ブティジェッジとは違う点だ。サリヴァンはミネソタ州出身で、今年の大統領選挙民主党予備選挙に出馬した地元選出のエイミー・クロウブッシャー連邦上院議員の首席補佐官を務めていた時に、ヒラリー・クリントンに紹介された。2008年の大統領選挙ではまずヒラリー陣営に参加し、その後、オバマ陣営に参加した。
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訪日時のサリヴァン(右は船橋洋一)
 サリヴァンは2011年から2013年まで国務省政策企画本部長に抜擢された。初代の本部長はジョージ・ケナン、その後はWW・ロストウ、アンソニー・レイク、ポール・ウォルフォビッッツなど後に大物になる人々がこの地位を経験している。外交政策分野における登竜門である。2013年から14年にかけてはバイデン副大統領の、国家安全保障問題担当副大統領補佐官を務めた。イランとの核開発をめぐる合意の根回しを行った。2016年大統領選挙ではヒラリー陣営の幹部を務めた。

※「私がずっと注目している重要人物ジェイク・サリヴァンについての最新記事をご紹介します①」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/72472427.html

 東アジア担当のワーキング・グループを率いるのはイーライ・ラトナーとジュン・パクでどちらも日本専門ではなく、中国と朝鮮半島だ。もちろん日本についての知識は他の人たちよりも格段にあるだろうが、日本の専門ではないということだけは確かだ。
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ラトナー
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ジュン・パク

アメリカの大学院留学時代に中国政治関連の勉強会で『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者エズラ・ヴォーゲル教授に会った時に少し話をした際に、私が鹿児島出身だと知ると、「ラ・サール出身ですか?(嫌なこと聞くなぁ、中学受験で失敗しました)」とか「大隅半島で活動していたNPOはどうなりましたか?(名前だけは聞いたことがあったけど詳しくないんですよ)」などと日本語で会話した。その頃にはヴォーゲル教授の関心は中国に移っていて、元々日本語同じく流暢だった中国語を使って研究を展開していた。知日派というのはこれくらいの人を言うとなると、アメリカでの知日派というのは減少しているのだろうと思う。

バラク・オバマ政権下では、1期目の4年間はヒラリー・クリントンが国務長官を務め、2期目の4年間はジョン・ケリーが国務長官となった。外交政策としては、人道的介入主義を基にしたものから、現実主義(リアリズム)的なものに変化した。バラク・オバマは、ジョージ・HW・ブッシュ政権の抑制的な外交政策を目指していたが、1期目にヒラリーを国務長官にしてしまったことでそれができなかった。2期目の特筆すべき出来事としては、キューバとの国交回復とイランとの核開発をめぐる合意があった。

 もし、バイデン政権ができたとして、どのようになるかと考えれば、私は最悪だった息子ブッシュ政権のようになるのだろうと考えている。あの政権の実質的な「大統領」は、ディック・チェイニー副大統領だった。そして、ネオコン派が政権内を牛耳った。

 バイデンの役割はトランプに勝ったことで終わった、後は4年間、ホワイトハウスでボヤっとしておけ、ということになり、カマラ・ハリスが実質的に政権内を取り仕切る。この民主党支持者たちの間でもまったく人気のない人物は、「女性によるガラスの天井の破壊」を掲げるだろう。そうなれば、ヒラリー派のスーザン・ライスやミッシェル・フロノイ当たりが出てくるだろう。バイデンの側近たちが活動できる部分は狭くなるだろう。

 私はバイデン政権ができればそれは「チェイニー・ヒラリー連立政権」だと書いた。ネオコンと人道的介入主義派の奇妙な連携で、アメリカが再び世界各地にちょっかいを出し、敵を増やしていく、そういう路線に転換していくということになると考えている。

(貼り付けはじめ)

バイデン選対に助言をしている大規模な外交政策ティームの内部(Inside the Massive Foreign-Policy Team Advising Biden’s Campaign

-もしジョー・バイデンが勝利すると、バイデン政権の上級、中級レヴェルの仕事に招き入れられる可能性がある外交政策の専門家たちのトップたちについて見てみる

コラム・リンチ、ロビー・グラマー、ダーシー・パルダー筆

2020年7月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/07/31/inside-biden-campaign-foreign-policy-team/

ジョー・バイデン前副大統領の非公式の外交政策と国家安全保障に関するアドヴァイザーたちによるティームのメンバーは2000名以上になっている。その中には20のワーキング・グループが含まれている。国家安全保障分野における多様性から軍縮、国防、諜報、国土安全保障といった幅広い問題に取り組んでいる。バイデン選対の幹部たちの話と本誌が取得したこれらのグループのワーキング・グループの共同委員長たちの内部名簿から明らかになった。

外交政策ティームの構成を見ると、11月に選挙で当選して大統領になれば、バイデンがどのように外交政策を作り上げようとしているか、難民たちを悪者として示すこと、世界中の女性の性的なそして再生産の権利を制限することのようなドナルド・トランプ大統領の議論を巻き起こした外交政策の一部をどのように変更するか、ということを示唆している。外交政策ティームの構成を見ると、表舞台には出てこない助言者たちの存在を明らかにしてくれる。助言者の中には、バイデンと深い関係にある東アジアの専門家であるエリー・ラトナーと中東の専門家であるダニエル・べナイムが含まれている。助言者たちは、バイデンが大統領に選ばれれば、国防総省、国務省、諜報分野、その他の政府機関でトップ、もしくは中位の職に就くことになる。

49のワーキング・グループの共同委員長にはラトナーとべナイムも含まれている。共同委員長は外交政策、国防、国土安全保障といったより広いコミュニティの門番として機能している。国家安全保障の専門家たちはアイディアを出し、ポリシーペイパーを書き、バイデン選対にフィードバックする。政策ティームに詳しい人々は、「このティームは選対の公式の構成部門ではないが、選対の意向に沿って活動しており、バイデンと意志決定に関与する最高幹部たちに対して非公式の助言を行っている。ワーキング・グループに参加している人々のほとんどは自分たちの活動を公に発表しないようにしている。

共同委員長たちは政府、コンサルティング会社、シンクタンク、国防産業の出身だ。また、オバマ政権下で国務省、国防総省、国土安全保障省で交換を務めた人々も含まれている。『ポリティコ』誌は、バイデン陣営には少なくとも国家安全保障専門家1000名が、20のワーキング・グループに参加している。本紙はバイデン陣営の内部文書を調査し、ワーキング・グループの名前とそれらの共同委員長の名前を把握した。

それぞれのワーキング・グループはその下に小委員会を統括し、イスラエル・パレスチナ闘争、人道主義的救済、難民のような問題について取り扱っている。例えば、調達、テクノロジー、補給担当の国防次官を務めたフランク・ケンドール三世が国防関連ワーキング・グループの共同委員長を務めている。その他には、国防総省の上級顧問を務め、本誌でもコラムを書いていたローザ・ブルックス、国防政策担当国防次官を務めたクリスティーン・ウォーマスが100名から200名の専門家たちを監督している。彼らは予算と地域軍事司令に関する6つの小委員会を統括している。

内部事情に詳しい人々によると、ヨーロッパ担当ティームには100名以上が入っている。オバマ政権で国家安全保障担当の政府高官を務めた3名が共同委員長を務めている。本誌の「シャドウ・ガヴァメント」コラムを最近まで返照していたジュリー・スミス、マイケル・カーペンター、スペンサー・ボイヤーがその3人だ。

アイディアと助言はバイデンの側近たちの小さなインナーサークルに提出されている。インナーサークルには、アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)、ジェイク・サリヴァン(Jake Sullivan)、アヴリル・ヘインズ(Avril Haines)、ブライアン・マキオン(Brian McKeon)、ジュリー・スミス((Julie Smith)が入っている。こうした人々はバイデン政権では国家安全保障のブレイントラスト(brain trust)を務めることになる。政策提案を行っている多くの人々にとって自分たちの出した助言がどのように扱われているのかについてはミステリーだ。ある政府関係者は、政策提言のほとんどはブラックホールの中に入って消え去ってしまうようなものだと述べている。

複数のワーキング・グループとやり取りしているある政府職員は「これらのワーキング・グループは意思決定の権限を持っていませんが、インナーサークルは巨大なマシーンを監督しています。このマシーンの中で政策が常に提案され検討されているのです」。

バイデン陣営にヴォランティアで参加している専門家の多くは、トップレヴェルの影響力のあるアドヴァイザーたち以外には、そのことを公言しないし、メディアでも話さない。バイデン選対にヴォランティアで参加している人たちの中には、シンクタンクなど雇い主から参加するように促されている人たちもいる。こうした人たちはインターネット上の紹介で所属を明らかにしている。これが意味するのは、こうした人々が行っている仕事のほとんどは非公開の裏側で行われているということだ。こうしたことは過去の大統領選挙ではなかったことだ。

本誌は今回の記事にあたり、バイデン陣営に公式にもしくは非公式に助言を与えている25名ほどの人物に連絡を取った。多くはコメントの依頼に答えなかった。数名が匿名を条件に取材に応じることに同意した。

バイデンの外交政策ティームの構造は多くの点で、伝統的な政府機関内部の意思決定プロセスを踏襲しようとしている。トランプ政権下では、国家安全保障会議でのこれまでの意思決定プロセスを破壊し、大統領の側近たち、専門家、家族の限られたかつ閉じられた少数の人々によって決定がなされるようになっている。

しかし、バイデン陣営と連絡を取っている民主党系の外交政策専門家たちの一部は、プロセスは不明瞭だと述べている。そして、自分たちが行った助言がバイデンに近い顧問や助言者たちにまで届いているのかを知ることは困難であり、ティームに顧問や助言者が数多く入っているのは、批判者に転じる可能性がある人たちまで含めて、とりあえず全員に「起用されている」という感じを持たせようとしているからではないかとも述べている。

あるワーキング・グループに入っている人物は次のように述べている。「ワーキング・グループの構造は政府のような感じです。ヒエラルキー的で官僚的なところはまさに政府のようです。ワーキング・グループの重要な目的は全ての人々に自分が求められ起用されていると感じてもらうことです。もう一つの目的は、バイデン政権で職に就きたいと望んでいる人々にその足掛かりを与えることです。ワーキング・グループに入ることは、自分の仕事ぶりを見せる機会なのです」。

ワーキング・グループの数や種類など、規模は拡大し続けている。これは「人々の考えが捨てられるのではなくて、理論的には陣営に届けられていることを示す、人々に対する誘因」の役割を果たしていると民主党系の外交政策アドヴァイザーである、ある人物は述べている。この人物は「これがすべて正しいという訳ではありませんが、進歩主義派の陣営かあら人々が次々と参加しているのですが、そのための戦術的な要素ということになります」と述べている。

トランプ政権下でアメリカの外交政策について幻滅している外交政策専門家の中には、民主党の予備選挙で勝利する人なら、誰でもあってもその人を助けたいと熱望していると述べる人たちがいる。予備選挙で有力候補だったエリザベス・ウォーレンとピート・ブティジェッジに助言をしていた専門家たちはバイデン陣営のヴォランティアの外交政策アドヴァイザーのティームに入っている。

今月になって発表された各種世論調査の結果を総合すると、トランプは現在のところ、全国規模で6ポイントの差をつけられてバイデンを追いかけている。そして、民主党の候補者であるバイデンは、ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルヴァニア州などいくつかの重要な激戦州において数ポイントの差をつけてリードしている。バイデンが勝利すれば、ワーキング・グループに参加している人々の多くが政権入りすることが予想されると、ワーキング・グループに参加している複数の人々が証言している。

世界の各地域をカヴァーする複数のワーキング・グループが作られ、それぞれヴェテランの外交政策専門家たちが主導している。ヨーロッパ・グループ、ニコール。ウィレット、アリソン・ロンバルド、マイケル・バトル率いるアフリカ・グループ、マラ・ラッドマン、ダニエル・べナイム、ダフナ・ランド率いる中東グループ、イーライ・ラトナー(Ely Ratner)とジュン・パク(Jung Pak)率いる東アジアグループ、スモナ・グハとトム・ウエスト率いる南アジアグループ、ダン・エリクソン、ジュアン・ゴンザレス、ジュリサ・レイノソ率いる西半球諸問題グループが存在する。これらについては本誌がバイデン選対に助言を行っている専門家たちの名簿を閲覧し作成した。

バイデン陣営の外交ティームは新たに2つのグループを立ち上げた。一つは感染症拡大対応のもので、もう一つは今年の春にミネアポリスで警察によってジョージ・フロイドが殺害された後に人種間の正義を求める全国的な抗議運動を受けて立ち上げられた。

国際的な取り組みを調整する、新型コロナウイルス対策タスクフォースを担当するワーキング・グループはベス・キャメロン、ブラッド・ベルザック、リンダ・エティムが率いている。キャメロンはバラク・オバマ大統領の下、ホワイトハウスの感染症対策の責任者であった。ベルザックはビジネスコンサルタントで、国家安全保障関連政府機関に勤務の経験を持っている。エティムは米国国際開発庁(USAID)の部長補佐を務めた経験を持つ。

バイデン選対は更に、アメリカの国家安全保障分野における多様性を促進するためのワーキング・グループを立ち上げている。このワーキング・グループを率いるのは、ジーナ・アバクロンビー・ウィンスタンリーとショーン・スカリーだ。アバクロンビー・ウィンスタンリーはアフリカ系アメリカ人外交官で駐マルタ米国大使を務めた。スカリーはLGBTQの権利主導者で、オバマ政権時代に国防総省と運輸省において初の幹部級の職員に任命されたトランスジェンダーの人物である。

このグループの創設は、アメリカの国家安全保障分野における多様性について長年主張がなされてきたことについてのバイデン陣営内にある懸念が反映されている。女性やマイノリティの登用についての諸問題はトランプ政権以前からずっと言われてきたものであるが、トランプ政権になって、トップの補佐官や閣僚たちが白人男性ばかりという同質性が以前よりも高まった。

いくつかの素晴らしい例外を除いで、少数派は民主、共和両党の大統領たちの下で、人口に比べて少ない数しか重要な地位に登用されてこなかったという認識がある。バイデンは、副大統領候補に多くの有能なアフリカ系アメリカ人女性の登用を考慮している。その中には、オバマ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官と国連大使を務めたスーザン・ライスや大統領選挙民主党予備選挙でバイデンと戦ったカマラ・ハリス連邦上院議員も含まれている。

外部の活動家たちやバイデン支持者たちの中には、2020年の選挙で、国家安全保障分野における女性やマイノリティに対する「ガラスの天井」を打ち壊し、政権内の幹部クラスに登用される女性の数を大幅に増加させる機会になると考えている。バイデンの外交政策ティームにある49のワーキング・グループの共同委員長の半数以上が女性だ。女性と少女に関する問題のワーキング・グループの共同委員長は、カルラ・コッペル、アン・ウィットコウスキー、ジュリア・サントウィッチだ。コッペルはアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の首席戦略担当官を務めた経験を持つ。ウィットコウスキーは政策担当国防次官の下の安定と人道問題担当の国防次官補代理を務めた。サントウィッチはCIAと国務省に勤務した。

バイデンが重視しているのは、トランプ大統領が実施し、議論を巻き起こした政策の一部を変更することである。バイデン陣営のワーキング・グループは、気候変動のスピードを鈍化させること、難民保護、人権保護の強化に重点を置いている。また、国連に関するワーキング・グループもある。その責任者は、管理と改革担当米国連大使を務めたイソベル・コールマン、国連に関する社会運動団体「ベター・ワールド・キャンペーン」の会長ピーター・イエオである。このグループは、アメリカと国連やその他の国際機関との関係を再構築することを目的としちる。

これらのワーキング・グループは、進歩主義派のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員とバーニー・サンダース連邦上院議員の支持者たちからの支持を勝ち取るために作られている。両議員はバイデン陣営と協力している。民主党綱領にはサンダース陣営からのインプットも反映されている。進歩主義派が求めていた内容が含まれている。進歩主義派は、無制限の対テロ戦闘の縮小、いわゆる永久戦争(forever wars)の終了、イランをはじめとする各国に対する政治体制転覆(regime change)を行おうとするトランプ政権の試みの放棄、サウジアラビアが主導しているイエメンでの軍事行動に対するアメリカの支援の終了を求めている。

サンダースの首席外交政策顧問マット・ダスは次のように述べている。「素晴らしい結果が出ています。民主党がこれらの疑問に対して大変積極的な方向に進んでいるという事実を

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 2016年の米大統領選挙で民主党の一部から大反発を受け、結局、本選挙でもドナルド・トランプに敗れたヒラリー・クリントンですが、リベラル派であるはずの彼女らしからぬ発言がアメリカで注目を浴びました(少しですが)。

 

 イギリスの高級紙『ザ・ガーディアン』紙とのインタヴューに応じ(インタヴューが行われたのはアメリカ国内)、その中で、ヨーロッパ各国はそろそろ移民流入を止めるべきだ、そうしないと各国のポピュリズム、反移民を掲げる政党がますます台頭して、国内政治を混乱させ続けるし、テロリズムの脅威も増えるという発言を行いました。リベラル派なら、自分の国が大変な状況で出てこざるを得なかった難民の皆さん、大変ですね、いらっしゃい、と言いそうなものですが、それを制限すべきと発言しました。

 

 ヒラリーがどうしてこのような発言をしたのか、いくつかの解釈が出来ると思います。ヒラリーは2020年の米大統領選挙への再出馬を考えているのではないかという報道がアメリカではなされています。まだ諦めていない、ということです。そのために、移民を制限すべき、という発言をして、移民に対して否定的な世論に迎合しているという考えが出来ます。しかし、こんなことをしても、2016年にヒラリーに投票しなかった人たちが、ヒラリーも考えを変えたか、立派立派と彼女に投票するはずもなく、また、リベラル派の重要な主張でもある移民について否定的な考えを示したことで、民主党内での支持を失うということまで考えられます。

 

ヒラリーが本気で、移民制限を主張することで大統領選挙で勝利したいと考えているのなら、政治センスがない、世論の風向きを読めないということで、どんなに頭が良くても、一国の指導者には向かないということになります。「トランプや、私の夫ビルのようにアホで何も考えていないのに大統領になれて、あんなあほな男たちよりもずっと頭が良くて、人格も立派な自分が大統領になれないのはおかしい、女性差別だ」とヒラリー考えているかもしれませんが、この場合、ヒラリーに政治家としてのセンスと能力が欠如していることが問題であるということになります。

 

 また、民主党の内部闘争に目を向ければ、バラク・オバマ前大統領、露骨に言えばミシェル・オバマ夫人の影響力が増大し(次の大統領選挙の民主党候補者にはオバマの支持がある人が良いと考える人が増えつつある)、2016年の大統領選挙で、民主党予備選挙でヒラリーを追い詰めたバーニー・サンダース連邦上院議員をはじめとする、民主社会主義者の勢力も伸びています。民主社会主義者たちは、移民問題について寛容な立場を採ります。これに対して、ヒラリーは自分が「現実主義的な」リベラルであるとアピールして、民主党内での影響力を保持しようと考えているという解釈もできます。

 

 更に、アメリカ外交の潮流にも目を転じれば、ヒラリーは、人道的介入主義派ということになります。人道的介入主義は、戦争や飢餓などが起きている、もしくは非民主的な政治体制で国民が弾圧を受けているそのような国々に対しては、それらの国々の国民を救うという人道的な目的のために、アメリカが軍事力を行使しても良い、いやすべきだ、という考えです。ヒラリーにしてみれば、「バラク・オバマ前大統領のリアリズムも、ドナルド・トランプ大統領のアイソレーショニズムも、シリア問題を解決できずに難民を生み出した。私が大統領になって、アメリカ軍をシリアに派遣しておけば、難民問題なんか起きなかったんだ」ということになります。更に、「世界を一つに、国境などなくそう、全ての国々が民主的政治制度と資本主義的経済制度を採り入れたら理想世界が実現するという私たちの崇高な理念の邪魔になるポピュリズム、ナショナリズムが移民流入のために台頭してきているのは望ましくない」ということを述べていることになります。

 

 ヒラリーが今頃移民制限のようなことをヨーロッパに仮託して述べたところで、結局のところ、アメリカ政治での影響力を回復することもまた増すことはできません。成仏しきれずに悪霊となってさまよい続けるような態度であり続ける限り、ヒラリーに次の機会はありませんし、一番得をするのはドナルド・トランプ大統領ということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

ヒラリー・クリントンは、ヨーロッパ各国に対して、ポピュリストの台頭を防ぐためという理由で移民受け入れを制限するように求めた(Hillary Clinton calls on Europe to curb migration to halt populists

 

ブランドン・コンラディス筆

2018年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/news/417989-hillary-clinton-calls-on-europe-to-curb-migration-to-halt-right-wing-populists

 

ヒラリー・クリントン元国務長官はヨーロッパ各国の指導者たちに対して、ヨーロッパ大陸における右派ポピュリズムの脅威が増大する中で、それに対抗するためにより厳格な移民政策を実行するように求めている。

 

クリントンは木曜日に発行された『ザ・ガーディアン』紙に掲載されたインタヴュー記事の中で、「ヨーロッパは移民流入をコントロールする必要がある。なぜなら移民流入が火に油を注ぐことになっているからだ」と発言している。

 

「アンゲラ・メルケルのような各国の指導者たちが採用している、非常に寛大で温かいアプローチについて私は称賛する。しかし、ヨーロッパはもう十分に自分たちのやるべきことをやったと言うことは正確であると私は考える。そして、ヨーロッパは明確なメッセージを送らねばならない。それは、“私たちはこれ以上避難所と支援を与え続けることはできない”というものだ。なぜなら、移民問題についてはある程度のところで線を引いておかねば、それが国家自体を混乱させ続けることになるからだ」。

 

ヒラリー・クリントンの発言は、ヨーロッパ内部における分裂を明示している。ここ数年間の難民の大量流入によって、ヨーロッパ各国の政治状況は分裂的、党派性が強いものとなり、テロリズムの脅威が増大し、過激な主張を行うポピュリズム政党が数多く誕生している。

 

メルケルは、難民流入に関するヨーロッパで行われている議論の中心的存在となっている。メルケルは2015年にいわゆる「開かれたドア」移民政策を税所に実施した。この政策によって、北アフリカと中東から数万の移民がヨーロッパに流入することになった。

 

ドイツ首相であるメルケルは先月、

The German chancellor last month signaled she would be stepping down from her role amid growing unease over the fallout from her policies. ギリシア、ハンガリー、イタリア、スウェーデンなどで反移民を掲げる政党が台頭する中で、メルケルの決心は公表された。

 

ヨーロッパ連合(EU)はまた、イギリスのEU離脱の決定から派生する様々な出来事に対処することに追われている。イギリスのEU離脱の国民投票の結果には、移民に対する恐怖が大きな影響を与えた。

 

ヒラリー・クリントンは2016年の米大統領選挙でドナルド・トランプに敗れた。トランプは反移民的主張で勝利を収めた。トランプの首席戦略官を務めたスティーヴン・バノンは、ヨーロッパにおいて彼の影響力を保持しようとしている。バノンは、ブリュッセルに本部を置く新しい組織を作った。これは、ヨーロッパ大陸にある各国のポピュリズム政党の勢力を伸長させることを目的としている。T

 

ヒラリーはザ・ガーディアン紙とのインタヴューの中で次のように語った。「移民を政治の道具や政権の姿勢のシンボルに使うことで、政治は間違った方向に進んでしまう。移民たちの持つ文化的ヘリテージとアイデンティティ、国民の統合に対する攻撃も強まる。こうしたことは現在、アメリカの政権によって利用されている」。

 

ヒラリーは次のように語った。「移民問題に対する解決策についてだが、なにもメディアや政治的に立場の違う人々を攻撃することではない。また、陪審員を買収することでもないし、自分たちの政党や運動に対しての経済的、政治的支援をロシアに求めることでもない」

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 トランプ政権のアジア外交政策が混乱している、という内容の記事をご紹介します。私に言わせれば、既得権を持つアジア各国の従米エリートたちが混乱しているという方が正確ではないかと思います。特に、日本のエリート層の混乱ぶりはより大きいものではないかと思います。

 

 トランプの政策はアイソレーショニズム(アメリカ国内問題解決優先主義)であり、世界各国の問題には基本的に関与しないというものです。そして、そうした判断は国益にかなうかどうかで行う、というリアリズムです。それらと反対なのが、グローバリズム、インターヴェンショニズムであり、アイディアリズム(理想主義)です。

 

 アメリカ国内の勢力で分けるならば、リアリズムは民主、共和両党にまたがって存在します(国内問題では意見が異なる場合が多い)。リアリズムではない場合には、共和党はネオコン派、民主党は人道的介入主義派です。ネオコン派の第一世代はもともと民主党支持者たちですから、両者は本家と分家という感じです。

 

 アメリカ国内でトランプを批判しているのは、多くの場合、ネオコン派や人道的介入主義派ということになります。しかし、彼らの批判は今一歩、届きません。なぜなら、ネオコン派はアメリカをアフガン戦争とイラク戦争に引きずり込んだ張本人たちであるということから人々から嫌われてそのために2008年の大統領選挙ではリアリズムを掲げるオバマ大統領が当選しましたし、昨年の選挙では人道的介入主義派のヒラリー・クリントンが落選しました。アメリカ国民はグローバリズム(インターヴェンショニズム)とアイディアリズムを拒否する選択をしたということになります。

 

 ここで私たちは、それでは日本はどの様に行動すべきかということを考える必要があります。アメリカの衰退が既に始まっていますが、まだ時間的に余裕があります。GDPの世界に占める割合で見ると、アメリカは約25%、中国は約14%、日本は約6%であり、アメリカ衰退は確かですが、アメリカはまだまだ世界の超大国です。中国に完全に抜かれた、となるまでは後20年から30年かかるでしょう。中華人民共和国建国100年が、2049年ですから、それまではアメリカの優位は動かないものと考えられます。

 

 その中で、日本の世界における立ち位置と国内政策で何を重点とするかということが重要になります。国内で見れば人口減少と高齢化は現実ですから、新しい箱ものや大規模開発は必要ではなく、余裕のあるコンパクトということが重要になって来るのではないかと思います。そうした中で人間一人あたりにかけるお金を増やしていくということがメインになるべきだと考えます。

 

 外交では、日本は海外での武力行使はできないという立場を堅持し、わざわざ普通の国になる必要もなく、復興の時に最大の力を発揮するという方向に向かうべきです。アメリカと一緒に壊しに行くのではなく、破壊からの再生の際に力を発揮すべきです。自分たちも敗戦時には国土の多くが瓦礫となったがそこから立ち直った、それは自国の力もあったが他国の助けもあった、だから破壊を経験した国として、再建の手助けをするということであれば大いに感謝されるでしょう。そして、アジア地域では地域大国として先頭に立たずに二番手の位置をキープするということになるのだろうと思います。

 

 現在の国土以上を求めず、軍事力を求めず、世界と仲良く交易をして生活していく、これ以上のことは望むべきではないし、これ以上何を望むというのでしょうか。

 

 ですから、現在の世界のヒエラルキーが変化していくであろうここ数十年間で、硬直的にアメリカと一緒に心中していくような方向に進むべきではありません。ですから、中国や韓国とも関係を改善し、ロシアとは改善しつつある関係を後退させないようにするということになるのだろうと思います。

 

 変化に合わせて日本も変わっていかなければならない、と思います。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプのアジア政策はこれまで以上に混乱している(Trump’s Asia Policy Is More Confused Than Ever

 

コリン・ウィレット筆

2017年6月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/06/12/trumps-asia-policy-is-more-confused-than-ever/?utm_content=buffer3b499&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

6月3日、ジェイムズ・マティス国防長官は、アジアの同盟諸国やパートナー国に対して、アメリカはこれまでの70年間行ってきたようにこれからも地域を安定させる役割を果たすということを再認識させるために大いなる努力を行った。マティスはアジアの安全と繁栄にアメリカがこれからも関与し続けると雄弁に述べた。また、第二次世界大戦以降のアジアの成功の基盤となってきたルールに基づいた秩序を守るためにアジア・太平洋地域各国と協力するための方法を見つける必要があるとも述べた。残念なことは、マティスの主張が説得力を持たないことで、それは、マティスが代表しているアメリカの政権がこの秩序を損なおうとしているからだ。

 

マティスの演説の数日前、大統領国家安全保障問題担当補佐官H・R・マクマスターと国家経済会議議長ゲイリー・コーンは、『ウォールストリート・ジャーナル』紙に論説を発表し、その中で、マティスが守りたいとしている「世界共同体」を明確に否定した。この論説は、これまでの考えを否定し、「独立独歩」政策を宣言したものとなった。この政策では、諸国家はむき出しの国家の力に基づいて、有利な立場と利益を得られるように争うようになり、同盟諸国やパートナー国を混乱させるだけでなく、アメリカの国家安全保障を損なってしまう。

 

この論説が発表される2日前、アメリカ海軍は南シナ海で航行の自由を守るための作戦訓練を実施した。これは、アメリカが、国際法が許す場所であればどこでも飛行し、航行する権利を守るという決意を示すものだ。このような行動の法的根拠は何か?国際社会で同意した国連海洋法条約(しかし、アメリカは批准していない)がそれだ。国連海洋上条約では、全ての国家が国際海洋上における権利と義務を保有しているとしている。国利欲に関係なく、一連のルールを遵守することは全ての国々の利益となるとしている。世界各国が相互に合意した国際ルールには不便であっても意味があるということを受け入れないということになるならば、アメリカ海軍は航行の権利を持つと主張することは、中国政府はアメリカ海軍の航行を阻害する権利を持つという主張となんら変わらないことになってしまう。マクマスターとコーンはこのようは合意や同意に疑問を呈している。

 

マティスが演説した同じ日、国連安全保障理事会は今年に入って9回目のミサイル発射実験を行った北朝鮮に対する政策を拡大することを決定した。どうしてこのような行動を取ることが可能になるのか?それは、「北朝鮮の核開発とミサイル開発プログラムは世界のルール、規範、条約に違反している」という国連という国際共同体による同意があるからだ。各国政府が、それがたとえ実行困難であり苦痛を伴うものであっても国際条約は彼らを縛り、守る必要があるのだという考えを受け入れないとなると、国連による制裁は、各国が意図的に利用しもしくは無視することができる道具となってしまう。

 

航行の自由や制裁だけでアジアの緊急の安全保障に関する問題を解決することはできない。しかし、これら2つは重要な道具である。国際的な連合が支援する場合、これら2つは国際的な規範を破る国々に対する圧力をかけるための重要な道具となる。

 

アジア各国はアメリカの複雑なシグナルから何を見出すであろうか?マクマスターとコーンが述べたように、アメリカは自国の直接的な利益が危機にさらされる場合にのみ国際社会と協力するのだろうか?もしそうであるならば、アメリカはアジア各国がアメリカに協力する理由を与えられないということになる。

 

北朝鮮、公海上の航行の自由、軍縮といった諸問題は、アジア諸国の多くにとって、現実的な生活にとって、さほど重要な意味を持たないものとなっている。これらの諸問題への対処のために協力することはコストがかかり、技術的に難しいものであり、時間だけを浪費することになる。しかし、ほとんどの国々が努力をするだろう。それは各国が基盤となっている原理に価値を見出しているからだ。その原理とは、各国の主権と諸権利を守っている国際システムは、自国の利益が危機にさらされていない場合でも各国が責任を果たすことも求めているというものだ。

 

アジアにおける私たちの同盟関係とパートナー関係は一つの考えに基づいて構築されてきた。それは第二次世界大戦後の法と規範のシステムは私たち全員に利益を与え、このシステムを防御するために協力することは、たとえそれが困難であっても、投資をするに値するものだ、というものだ。しかし、アメリカがそのような行動をとらないとなると、他国がそのような行動を取る理由があるだろうか?マティス国防長官はこのことを明確に理解している。しかし、彼が代表しているトランプ政権がこのことに同意しているのかどうかは定かではない。そして、アメリカの友人やパートナーである各国はこの乖離に鋭く気付いていることは疑いのないところだ。

 

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