ダニエル・シュルマン
講談社
2015-11-25



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 今回、NHKの連続テレビ小説が「あさがくる」というものになりました。私の大好きな女優さんである波瑠さんが主演を務め、鹿児島では明治新政府で活躍しなかったために、地元ではそこまで知られていない、五代友厚(1836―1885年)が重要なキャラクターで出るということで、関心を持っています。波瑠さんが演じるのは、明治期の実在の人物で、大同生命創業家である広岡家の広岡浅子(1849―1919年)です。広岡浅子は京都の三井系の一族から大阪の広岡家に嫁ぎました。彼女は五代の教えを受けながら、炭鉱経営や銀行経営に成功し、江戸時代から続く商家である広岡家を守りました。晩年は女性の教育に力を入れ、日本女子大学の創設にも参画しました。日本女子大学のご近所と言ってよい場所にある早稲田大学の創始者である大馬重信は、広岡浅子の人物を評価し、日本女子大学創設に協力しています。

 
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広岡浅子
 

 私は入院中に原口泉著『維新経済のヒロイン広岡浅子の「九転十起」―大阪財界を築き上げた男五代友厚との数奇な運命』(海竜者、2015年9月)を読みました。朝ドラと五代友厚からこの広岡浅子という人物に興味を持ったからです。そして、上記のようなことをした人だということを学びました。この本の著者である原口先生はご尊父・原口虎雄先生から続く鹿児島の歴史研究の第一人者で、私が小さい頃から鹿児島のテレビや新聞に頻繁に登場されていました。ハンサムなお顔立ちと優しい語り口で、多くの県民に親しまれた方で、歴史好きの子供たちにとってはヒーローのような存在でした。



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五代友厚

 

 浅子が創設に参加した日本女子大学(現在も目白にありますが、土地は浅子の実家である三井家が寄付したものだそうです)の出身者には、丹下梅子(1873―1955年)博士がおられます。丹下梅子博士は日本で初の女性農学博士号取得者です。幼い頃に事故で右目を失明するという不幸に見舞われながらも教師となり、更に日本女子大学に進学し、更には東北帝国大学で研さんを重ね、ついに日本初の女性博士号取得者となりました。鹿児島には出生地である金生町のデパート山形屋前には丹下博士の胸像が立っています。

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丹下梅子

 

 私は、五代の教えを受けた広岡浅子が創設に参加した日本女子大学で、鹿児島出身の丹下梅子が高等教育を受け、農学博士号を取得したことに、合縁奇縁を感じます。

 

 先日、雑誌『ニューズウィーク日本版』のウェブサイトで以下のような記事を発見しました。鹿児島県知事の伊藤祐一郎氏が「女子にサイン・コサイン・タンジェントは必要ない」という発言をしたことはニュースになりましたが、鹿児島出身としてびっくりしたのは、

鹿児島県の4年制大学進学率が全国最低、女子は3割に満たないということでした。「鹿児島は教育県なんだよ」と言われて育ってきましたが、東京に出てきて各地から来た友人たちに聞いてみると、どこも教育県だと言われて育ってきたということで、「これは大人たちの口から出まかせであったか」と思いましたが、実際の数字として、教育県であることを否定されたのは初めてでした。

 

 もちろん、大学進学率だけが指標ではありませんし、以下の数字には短期大学への進学率は含まれていません。鹿児島には短期大学が複数あり、女性の教育を担っていますし、県立短期大学は昔から入学が難しい学校として知られています。また、県民所得が全国でも低い方で、地理的に九州の端っこということもあり、他の都道府県に出ていくこと、そこで4年間学生生活を送ることは難しいという状況もあります。これに関連して、高校生や親御さんたちには「私立大学は学費が高い」ということで、国公立志向が強いということもあり、鹿児島以外にある私立大学に進学したがらないということもあります。更には、年代的に言えば、現在の65歳以上の人たちは保守主義と封建主義を混同している人たちが結構いるということもあります。ですから、鹿児島全体で「女性に高等教育が必要ではない」という雰囲気が残っているとは一概に言えないのではないかと思います。

 

 しかし、五代の薫陶よろしきを得た広岡浅子が創設した日本女子大学に鹿児島出身の丹下梅子が進学し、やがて博士号を取得するまで研さんを重ねたという事実を前にして、鹿児島県知事の伊藤祐一郎氏の発言は恥ずべきものです。明治時代の先駆者たちの意識と比べて、現在の我々の意識の方が遅れているということは、保守主義ではなく、退嬰そのものです。

 

 鹿児島県は他人の褌で相撲を取るのが得意ですから、今回の朝ドラに何か便乗することでしょう。しかし、県知事がこのような意識であり、鹿児島県は教育県と言いながら、4年制大学進学率が全国最低であるという事実をきちんと踏まえて、これまでの退嬰を改める方向に進んでほしいと願っています。そして、伊藤知事には丹下梅子博士の胸像の前で、自身の胸に手を当てて自分の考えの退嬰さについて考えていただきたいと思います。

 

(雑誌記事貼り付けはじめ)

 

●「大学進学率の男女差が物語る日本の「ジェンダー意識」」

知事の「コサイン発言」を裏付ける、全国最低の鹿児島の女子進学率

 

ニューズウィーク日本版 2015106日(火)1700

舞田敏彦(武蔵野大学講師)

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-3966_1.php

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-3966_2.php

 

 

日本ではいまだに男子と女子の大学進学率には差がある

 

 この夏、鹿児島県知事が「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる?」と発言して猛反発を食らった(知事はその後、発言を撤回)。明治維新では薩摩藩が日本の近代化をリードしたが、残念ながら現在の鹿児島では、「女子に高等教育は必要ない」という封建的な考え方が色濃く残っているようだ。

 

 このような「性差(ジェンダー)」の意識は、大学進学率の男女差からうかがえる。2015年春の全国の4年制大学進学率(浪人込み)は51.5%だが、性別にみると男子が55.4%、女子が47.4%と、8ポイントの開きがある(進学該当年齢の18歳人口を分母とした進学率)。これは能力差とは考えられないので、「女子に大学教育なんて......」というジェンダー意識の表れだ。

 

 大学進学率の性差は地域によってかなり違っている。<表1>は、2015年春の男女の大学進学率を都道府県別に計算したものだ。47都道府県中の最高値には黄色、最低値には青色のマークを付けた。

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 大学進学率は地域格差が大きく、最高の東京(72.8%)と最低の鹿児島(35.1%)では倍以上開いている。進学率は都市部で高く地方で低い傾向にあるが、これは住民の所得水準や大学の立地状況の違いが影響している。

 

 大学進学率が最も低いのは鹿児島で、その原因は女子の進学率が低いことだ。鹿児島の女子の大学進学率は29.2%で、全国で唯一3割に達していない。それだけ男女差が大きく、男子の進学率は女子の約1.4倍にもなっている(右端)。北海道(ここも男女差は1.4倍)と並んで、大学進学率の性差が最も大きい地域だ。前述の知事の発言がただの「失言」ではないことがわかる。

 

 男女の大学進学率に1.4倍もの差が出るのは、「女子に高等教育は不要」、「女子よりも男子優先」というジェンダー意識が根強いためだろう。大都市の東京は比較的それが弱いようで、進学率の性差はほとんどない。地方でも徳島のように、男子より女子の進学率の方が高い県もある。このことから見れば、ジェンダー意識は克服できるはずなのだ。

 

これは国際比較をするとよく分かる。<表2>は、社会的価値観に関する国際的な調査から「大学教育は、女子よりも男子にとって重要だ」という項目の肯定率を国別に抽出して、高い順に並べたランキング表だ(英仏は調査に回答せず)。

 

 その肯定率が最も高いのは、カースト社会のインドだ。20歳以上の国民の6割が「大学教育は、女子よりも男子にとって重要だ」と考えている。バーレーンやパキスタンなど、イスラム社会の肯定率は総じて高い。女性はあまり外に出るべきでない、という宗教的戒律があるためだろう。

 

 日本の肯定率は22.6%で真ん中より少し下だが、欧米諸国と比べると格段に高い。ドイツは13.6%、アメリカは6.6%、スウェーデンにいたってはわずか2.5%だ。こうしたジェンダー意識の低い国々では大学生の男女比は半々だが、日本では男女比が「6対4」とまだまだ偏っている。東京大学の女子学生比率は18.6%しかない(20155月時点)。

 

「人材」しか資源のない日本にとって、この現状は見過ごせない。男女を問わず能力を開花させ、社会・経済を活性化させるための意識改革、制度づくりは急務の課題だ。

 

(雑誌記事貼り付け終わり)

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23