古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:党大会

 古村治彦です。

 今や世界において中国の動向は重要な要素となっている。中国がどのように動くかで国際社会の動向が決まるということになっている。アメリカも重要であるが、中国もその重要度を増している。2023年の中国はどのように動くかということに多くの人々は関心を持っている。

 最近の中国に関する報道と言えば、「新型コロナウイルスゼロ」政策を放棄し、行動の緩和が実施されている。そのために新型コロナウイルス感染者数が増大しているが、公式発表では死者数が極端に抑えられているということだ。中国はこれだから信用できないということになる。

対外的には台湾問題に注目が集まっている。昨年2月24日のウクライナ戦争勃発後、「ウクライナの次は台湾だ」、つまり「中国が台湾に侵攻する」という主張が声高に叫ばれ、米中間の関係も緊張をはらむものとなった。最近では台湾からも「あまり危機感を煽らないで欲しい(特に日米両国)」という声が出ている。中国は国内問題もあり、また、現在の国際秩序の中で経済力を高める段階にあり、保守的な状況である。

 下に紹介にした論稿では5つのポイントで中国に関する予測を行っている。簡単にまとめると、「(1)新型コロナウイルス感染拡大で死者数が増える、(2)経済の回復は遅い、(3)旅行業界だけは活況を呈する、(4)人々の不満が小規模な抗議活動ということで噴出する、(5)米中関係は穏やかになり、台湾問題は静けさを保つ」ということになる。

 上記の予測ポイントについて、私なりの考えを書いていきたい。新型コロナウイルス感染拡大に関しては、中国は世界で最初に対処した国であり、その対処方法を模索し、開発し、改善してきた。病院の整備などのスピード感は群を抜いていた。自然免疫に方向転換を行っても、ある程度の管理を行うものと思われる。経済活動は、世界経済と連動している部分もあるが、国内需要がこれから増大していくだろう。そのスピードと規模をうまく予測できる人はいないだろう。ただ、国内需要が経済回復をけん引するだろう。旅行については既に私たちが目撃しているように活況を呈している。人々の不満が収まれば抗議活動は沈静化するだろう。国際関係について言えば、アメリカが敵対姿勢を弱めれば中国も穏やかになるだろうし、台湾問題もアメリカが煽動しなければ落ち着いたまま進んでいくだろう。

 新型コロナウイルス対策もウィズコロナに変更されていく中で、経済と社会が少しずつ動き始めているのは世界共通だ。中国も例外ではない。巨大船舶と同じで、少しの動きが他の小さな船舶に比べれば大きなものとなる。あまりに急激な動きは世界に及ぼす波も大きくなってしまう。中国はそろりそろりと動いてくれるのが最善なのである。

(貼り付けはじめ)

2023年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2023

-新型コロナウイルスをめぐる悲劇から弱体化する習近平まで、来年に起こる可能性があることを述べていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/28/china-predictions-2023-covid-xi-jinping/

今年(2022年)は中国にとって非常に悪い年であった。しかし、このニューズレターが昨年予測したように、事態は常に更に悪くなる可能性がある。14億人の人口を抱える国について推測するのは難しいし、中南海(中国政府中枢)のシャッターの内側を覗き込もうとするのもまた難しい。しかし、2023年にどのような悪いことが起き、そしてどのような良いことが起こるかについて、以下に私が最善を尽くして行った予想を書いていく。

(1)新型コロナウイルスに関する悲劇(A COVID-19 Tragedy

中国はつい2度目の新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面しており、その様相は悲惨なものとなっている。中国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and PreventionCDC)の内部ブリーフィングによると、2022年12月1日から12月20日の間に2億5000万人が感染したと推定され、12月7日に政府が新型コロナウイルスゼロ政策を解除したのは封じ込めシステムの失敗に対する性急な対応だったことが明白に確認された。中国疾病予防管理センターの推定では、先週の火曜日の1日だけでおよそ3700万人が感染していることになる。

中国の医療制度は、長年の準備不足と治療よりも封じ込めに重点を置いてきたこともあり、既に対応に追われている状況だ。オミクロンBA.2亜型の致死率0.3%に基づいて計算すると、2億5000万人の感染者の中から75万人が死亡する可能性があることになる。この指数関数的な増加率からすると、第一波は2023年1月末までに中国の人口の60%に到達する可能性があります。この場合、9億人が感染し、270万人が死亡することになる。

もちろん、未知の部分も多く、現在中国で流行している変異株は致死率が低い可能性もある。私はそうであって欲しいと願っている。『フォーリン・ポリシー』が正式に確認したのではないが、中国の友人たちは、家から一歩も出ていないのに、新型コロナウイルスに感染したという話を語っており、アパートの集中空調システムを通じて感染している可能性を示唆している。

多数の死者が出れば、特に新型コロナウイルスゼロの価値があるかどうかという点では、心理的に大きな影響を与えるだろう。インドの新型コロナウイルス感染拡大の経験から、中国でもウイルスが猛威を振るえば、2020年には数百万人の死者が出る可能性があった。しかし、救われた命では、それぞれの喪失の悲しみや辛さを軽減することはできない。しかし、中国で公的な政治的危機が起こるとは思わないで欲しい。新型コロナウイルスによる死亡の影響は、犠牲者の多い国においても、世界的には驚くほど小さい。

更に言えば、2億5千万人の感染を経て、12月23日現在、中国が公式に報告した死者はわずか8人である。中国が死者数について明らかに嘘をつき、馬鹿げた計算方法を用い、メディアで危機を取り上げないようにしているのは、国民の怒りを恐れてのことだ。たとえ公式発表の数字が事実でないと分かっていても、危機的状況をテレビ画面から遠ざけることで、かえって危機を身近なものとして感じられるかもしれない。

(2)弱含みの経済回復(Weak Economic Recovery

中国の新型コロナウイルスの死者数は2023年の怪しいデータだけしか存在しないのではない。政治体制は、プロパガンダのためと内部の政治的理由のために、たとえ判断が不可能であっても統計事態は要求する。今回の新型コロナウイルス感染の波の規模からすると、ヴェトナムなどのように新型コロナウイルス感染対策を解除したからと言って、中国経済が以前のレヴェルに回復することはないだろう。

中国においては、消費者の潜在的な需要はたくさん存在が、新型コロナウイルスに感染することへの不安やリスクを回避しようとする志向が強いため、その需要は少しずつ出てくるのではないかと考えられる。厳しい2年間を経て、地方政府も中央政府もポジティブなデータを出すようにという政治的圧力が非常に強くなっている。それは人口の数字にも影響を及ぼしている。研究者たちは、中国の人口はすでに減少しており、新型コロナウイルスによる死亡はその問題をより厳しいものにすると主張している。

更に言えば、新型コロナウイルスは、病気や死亡によって主要な労働者がいなくなることで、サプライチェインに打撃を与える。また、最悪のシナリオでは、大きな流行を経験していない村や小さな町が、感染拡大当初と同じように、訪問者を隔離し、旅行を阻止する方法を採用する可能性がある。中央政府は2020年よりもずっとこうした方法を敵視するだろうが、地方における中央政府の執行能力は遅くしかも弱くなる可能性が高い。

挙句の果てに、中国は新型コロナウイルス感染拡大の結果ではない、多くの経済問題を抱えている。経済成長の大半を支えてきた不動産セクターはゆっくりとした崩壊を続け、アメリカは自国経済と中国経済を切り離す試みを本格化させ、世界的な景気後退の危機が迫っている。中国政府は、景気刺激策で不動産ブームを少しは下支えできるかもしれないが、いつかは現実を直視しなければならないだろう。

同様に、中国のテクノロジーを標的にしたアメリカの政策は、中国のテクノロジー産業に対する中国の公式な巨額の投資を生み出す可能性が高い。しかし、それは政府のコネに依存し、半導体向けのビッグファンドの失敗のように、多くの腐敗を伴うことになるだろう。

(3)旅行ブーム(A Travel Boom

2023年に甦る可能性があるのは旅行業界だ。国内需要は現在の新型コロナウイルス感染の波が過ぎるまで回復しないが、10月の大型連休には過去最高を記録する可能性がある。また、海外旅行もより早く回復するだろう。検疫期間が短縮され、完全に終了する可能性が高いため、中国人は大量に海外旅行に出かけることになる。この記事はクリスマス前に書いたが、検疫は12月26日に終了し、飛行機の予約ラッシュとなった。3年間も世界から隔離されていたため、旅行する余裕のある人は、アメリカの学校に通う子供たちを訪ねたり、タイのビーチに行ったりなど、国外に出ることに必死だ。

また、若者の間では、常に後退しているように見えるこの国から移住したいという願望も存在する。欧米諸国は、移民に対する偏執的な嫌悪感を維持するのではなく、潜在的な才能の大きな波を拾い上げることに目を向けるべきだ。

(4)より小規模な抗議運動(More Small Protests

2022年末の抗議デモの波の後、中国では来年も小規模なデモが続くと考えられる。新型コロナウイルスゼロ政策終了を求めるデモのような統一されたシナリオはないだろう。しかし、不正な金融会社から盗まれたお金を取り戻すか、新型コロナウイルス感染拡大による封鎖を終わらせるかにかかわらず、当局に圧力がかかる可能性があることは明白だ。

習近平国家主席の退陣を求める思想的なデモ参加者は嫌がらせや逮捕を受けたが、新型コロナウイルスゼロ政策反対のデモ参加者のほとんどは報復を免れた。このことは、人々が他の問題についても限界に挑戦することを促すかもしれない。残念ながら、不動産業界にとっては更に悪いニュースだ。過去10年間、中国で最も一般的で成功した抗議活動の1つは、資産税導入の試みに反対するものであった。

また、習近平の立場も非常に弱くなっている。習近平は、中国メディアが常にその成功を誇っていた「新型コロナウイルスゼロ」政策と密接に結びついていた。これに加えて、経済が減速しているため、中国の政治エリートは習近平の指導力に対して深刻な疑念を抱いている。問題は、2022年10月の中国共産党大会で習近平がいかにうまく立ち回ったかを考えると、彼らが何かできるのかということだ。

今年、習近平が国民と中国共産党の両方に対する権力を再強化するために、政治的統制を強化することはあり得る。しかし、長年にわたるイデオロギー的な弾圧の後に、何を締め付けるのだろうか?

(5)より穏健な言葉と静かな海峡(Softer Words and a Quiet Strait

中国の国内問題の数々は、国際舞台では、主に非公式な場でではあるが、より良い言葉につながっているようだ。アメリカをはじめとする外交官たちは、中国側が以前よりも対話に前向きになっていると報告しており、2022年11月のG20サミットでジョー・バイデン米大統領と会談した習近平国家主席は、両国間の経済摩擦の激しさにもかかわらず、笑顔のトーンを維持する可能性がある。

しかし、その部分的な雪解けは非常に不透明であり、ちょっとした危機でも関係が再び凍結する可能性がある。中国の国営メディアは、10年前よりも外国嫌いで反米的であり、中国の問題をアメリカのせいにしようとする強い動機がある。

これら全ての問題は、今年、台湾をめぐる大きなトラブルを期待しない方が良いということを示唆している。中国政府は単に国内で対処すべき問題が多すぎて、戦争はおろか、新たな危機を迎える余裕もないのだ。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問をめぐる一時的な騒動は、結局のところ大げさなものであったことが判明した。だからといって、いわゆる統一への執着や台湾への政治的干渉がなくなる訳ではなく、おそらく現状維持にとどまるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今年秋の第20回中国共産党大会で習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)中国国家主席は2期10年務めた最高権力者の座から降りることなく、更に1期5年、権力の座にとどまり続けるという話になっている。そうなると10年ごとに若い世代に最高指導部を引き継ぐという江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)と胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)の時に行われた習慣が崩れることになる。ポスト習近平時代の中心と目されていた中国共産党指導部第6世代(1960年代生まれ)から最高指導者(国家主席・中国共産党総書記、中国中央軍事委員会主席を兼ねる)人物は出ないということになる。そして、次の第7世代(1970年代)から最高指導者が出る可能性が取り沙汰されている。最高指導者を出せなかった第6世代は「悲劇の世代」ということになりそうだ。
 習近平がこれから更に2期10年最高指導者を務めるならば、第6世代から最高指導者は出ないが、1期5年で退けば、15年を第6世代からの最高指導者が務める可能性がある。第6世代のトップランナーは胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相である。最近になって、習近平が胡春華を重用し始めているという報道もある。習近平が3期目の国家主席となる場合に、胡春華を政治局常務委員に引き上げ、首相のポストを与える可能性もある。そして、習近平が胡春華を最高指導者に引き上げて自身は院政を敷くという可能性もある。現在の政治局員序列第2位の李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相は全国人民代表大会常務委員長か中国政治協商会議主席に転身するということも考えられる。江沢民、胡錦涛の時とは違ったイレギュラーな人事となるが、これであれば第6世代の悲劇性を少しは薄めることもできるだろう。
 習近平は中国共産党中央委員会主席(Chairman of the Central Committee of the Chinese Communist Party)の職位を復活させ、この地位に就くという観測も出ている。党主席は権力が集中するポジションであり、1945年に設置され、毛沢東が亡くなる1976年までその地位に就いていた。その後は1976年から1981年まで華国鋒(Hua Guofeng、1921-2008年、87歳没)、1981年から1982年まで胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳没)が就任したが、権力集中への反省から、鄧小平が廃止した。

 この中国共産党中央委員会主席を復活させて、習近平が権力を掌握する可能性が出ている。現在、中国では習近平が中国共産党の「終身核心(eternal core)」とされている。習近平が権力を掌握したままで、これからの厳しい時代を乗り越えようとしている。中国はこれからの時代に備えようとしている。

(貼り付けはじめ)

分析:習近平は胡春華の「第6世代」全体をスキップする準備をしている(Analysis: Xi prepares to skip over Little Hu's '6th generation'

-習近平国家主席陣営の内外で有望な政治家たちはトップにはなれない。

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習近平主席のゆっくりだが着実な政治改造は中国の他のトップリーダーの生活をも変えようとしている。5月13日、河南省で小麦の収穫を観察する党総書記と複数の側近たち。

カツジ・ナカザワ筆

2022年5月20日

『アジア日経』紙

https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/China-up-close/Analysis-Xi-prepares-to-skip-over-Little-Hu-s-6th-generation

東京発。中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は胡春華Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相をどう見ているのだろうか?

58歳の胡春華副首相は、将来のトップリーダーと目されていた時期があった。胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)前国家主席や李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相と同じく、胡春華は共産主義青年団(Communist Youth League)の第一書記を務めた経歴がある。

胡錦涛と同じく、胡春華も長年にわたり、チベット自治区で働いた。チベット自治区は、動乱と民族紛争で知られていた。

胡錦涛前国家主席と同じ苗字だったことから、胡春華は「リトル・フー(Little Hu)」と呼ばれるようになった。

2008年、胡春華は国内最年少で河北省長に就任した。45歳の時だった。毛沢東(Mao Zedong、1893-1976年、82歳没)、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳没)、江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)、胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)、習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)と続く、中国指導者のいわゆる「第6世代(Sixth Generation)」の顔であることは間違いないところだ。

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左から毛沢東主席、鄧小平、江沢民主席、胡錦濤主席、習近平主席。中国に6代目のリーダーが誕生するのは、しばらく先のことかもしれない。

胡春華(リトル・フー)の運命は2012年に習近平が中国共産党総書記に就任し、その直後に国家主席に就任すると一変した。習近平は太子党出身で政治的背景が異なり、2人の胡とは対立する派閥に属していた。

しかし、不安があるにもかかわらず、胡春華(リトル・フー)は生き延びてきた。

だから、2022年5月中旬に習近平(67歳)が河南省を訪問した際、胡春華が大勢の側近の一人として同行したことは特筆すべきことだった。視察に参加した5人の政治局員の1人であるだけでなく、国営放送の中国中央テレビで習主席と歩きながら話す姿も映し出された。

派閥の関係もあってか、胡春華は習主席の視察に常に同行する人物ではない。習近平の側近である劉鶴(Liu He、1952年-、70歳)副首相がその地位を確固として占めている。

劉鶴が習主席の河南省視察に同行しなかったことは噂の種になっている。

習近平と胡春華が手を結んでいるのか? 習近平と胡春華はより接近しているのか?

河南省訪問直前の5月12日、米紙『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、中国政府がアメリカとの閣僚級貿易協議の代表を劉鶴から胡春華に交代させることを検討していると報じた。

商務部の報道官は記者会見でこの報道を否定したが、中国の対米窓口担当者を交代させることは、経済関係の行き詰まりを打開する一つの方法となり得るだろう。

胡春華(リトル・フー)にとって、習近平時代の9年間、眠れない夜が続いたに違いない。

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5月13日、河南省南陽市で撮影された習近平と胡春華。北京は、胡春華がアメリカとの閣僚級貿易協議の中国代表に就任するとの噂を否定している。

中国の国会である全国人民代表大会は2022年3月、副首相をより柔軟に任命・解任しやすくする法案を押し通して可決させた。

この新ルールにより、習近平は側近を副首相に昇格させ、その人物を次期首相にする道を開いたとの憶測が飛び交っている。

習近平は同じ全人代で、内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題にした。習近平は内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題視し、「関係者を何世代にもわたって炙り出し、徹底的に処罰する」と宣言した。

胡春華はかつて内モンゴル自治区のトップを務めた。

習近平は2022年の5年に1度の中国共産党大会を控え、政治的に敏感な時期にこのような激しい言葉を発したのである。

4年前(2017年)、前回の全国大会の直前、同じく第6世代の新星、孫政才(Sun Zhengcai、1963年-、59歳)が汚職容疑で突然粛清された。孫政才は当時、重慶市のトップで政治局員だった。

孫政才の失脚は、習近平が次代の国家指導者候補の政治生命を決める権利を有していることを思い知らされる衝撃的な失脚であった。

胡春華(リトル・フー)は自分の微妙な立場を自覚し、目立たないように、着実に任務をこなしてきた。

ある古くからの知人は、胡春華の人柄と能力を高く評価している。この人物は「彼は相当な酒豪で、いろいろな話題について自分の意見を言うことができるインテリだが、今の胡は、よく観察しておくしかない」と付け加えた。

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2017年10月、北京の人民大会堂で開催された共産党全国大会において、重慶市共産党の陳敏爾書記が重慶市代表団の討論会に出席した。

2年前、習近平は同様に、胡春華を伴って注目の地方視察を行った。

2019年4月、習近平は重慶にいた。ホスト役を務めたのは側近の陳敏爾(Chen Min'er、1960年-、61歳)、重慶市のトップだった。陳は60歳だ。しかし、そこには胡春華の姿もあった。視察の主目的は、胡春華が副首相として担当する政策分野である貧困撲滅である。

今回の習近平の河南省訪問の主な目的は、「南北分水嶺プロジェクト(South-to-North Water Diversion Project)」の視察であった。胡春華は、水の豊富な中国南部と北部を結ぶメガプロジェクトの責任者だ。

書類上、担当の副首相である胡春華が習近平に同行するのは当然であった。その気になれば、習近平は胡春華が他の政治的な目的で今回の視察同行に選ばれたのではないことを説明できたはずだ。

しかし、チャイナ・ウオッチャーたちがどのような分析を行おうとも、一つだけはっきりしていることがある。胡春華が中国の新しい対米貿易交渉のトップに抜擢されるかどうかはともかく、彼はもはや将来の習近平の後継者候補ではない。

それは胡春華が習近平と対立する派閥に属しているからではない。同じことは、習近平の側近で第6世代に属する陳敏爾や上海市トップの李強(Li Qiang 、1959年-、63歳)にも言える。

陳敏爾と李強は、習近平が浙江省トップを務めていたときの部下であった。彼らは習近平の政治集団の中核をなす「浙江派(Zhejiang faction)」に属している。しかし、習近平が政権を維持する以上、どちらも真の後継者にはなり得ない。

複数の党幹部は「第6世代」の悲劇についてささやき始めた。彼らは、「この言葉は無意味になった」とささやき合っている。

ある中国共産党高官は、「第6世代リーダーを語ることは政治的に難しくなった。この世代は追い越され、現在50歳前後の若い世代に注目が移っている」と語った。

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「李強のような第6世代のリーダーについて語ることは政治的に難しくなっている」。

習近平は2017年、指導者の10年の任期の途中で、将来のトップリーダー候補を少なくとも2人、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)に登用し、後継者として育成できるようにするという長年の党の伝統を破った。

習近平は、2012年に総書記に就任する5年前の2007年に政治局常務委員に就任している。習近平のライバルである現職の李克強首相も2007年に政治局常務委員に就任している。

胡春華をはじめとする第6世代のリーダーたちは、2022年の中国共産党大会に向けて、更なる昇進を目指した戦いに挑むことになる。

しかし、競争に勝って常務委員会に入った者は誰であっても、党の最高指導者への道を歩む名誉を得ることはできない。加えて、政治局常務委員や首相の権限は大幅に縮小されるかもしれない。

習近平は権力を集中的に手中に収めている。習近平は党総書記、国家主席の地位にとどまることなく、さらに高い地位、場合によっては党主席を目指すだろう。

毛沢東が終身在任した党主席という地位は、1982年に鄧小平が独裁を防ぐために正式に廃止した。習近平が復活させれば、政治局常務委員や首相の地位は低下することになる。

一方、習近平の側近たちは、これまでとは違った人生を歩むことになる。2022年の全国代表大会以降に新設される習近平を中心とした中央集権体制のもとで、重要なポストを担うことになるだろう。

新しい統治システムの構築が水面下で始まろうとしている。その制度設計は、人事以上に重要な意味を持つ可能性が高い。
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(終わり)

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 古村治彦です。

 今回は珍しく中国政治に関する記事をご紹介する。今年秋に第20回中国共産党大会が開催される。そこで習近平国家主席の更なる任期延長が決定されると見られている。習近平は2012年に中国国家主席、中国共産党総書記、中国共産党中央軍事委員会主席に就任して以来、2期10年務めている。前任者の江沢民(1993-2003年)、胡錦涛(2003-2013年)はそれぞれ2期10年を務めて、最高指導者の地位を退いている。それに伴い、中国共産党中央政治局の人事も交代している。習近平は2期10年を超えてこれからも最高指導者の地位にとどまる(さらに2期10年で2032年まで)と見られている。これで、中国共産党指導者第6世代(1960年代生まれ)の出番がふさがれてしまい、後継者は第7世代(1970年代生まれで10年後は50代が多い)となる可能性がある

 習近平が「終身指導者」としての地位を確立しつつあるようだが、そのためには党内の派閥争いについて妥協しなければならないところもあるようだ。また、政策面でも譲歩するところもありそうだ。中国共産党内部の派閥としては共産主義青年団(共青団)系、太子党(党幹部の子女たち)系、上海閥などが知られている。習近平は太子党出身だ。中国共産党中央規律検査委員会(書記は2012年から2017年までは王岐山、2017年からは趙楽際)

を使って政敵たちを追い落としてきた。

 今回の記事で良く出てくる単語が党規律検査委員会(Commission for Discipline Inspection)と党政法委員会(Political and Legal Affairs Commission)である。党規律検査委員会は全党の規律の検査、党員が規律や規則、規範やルールを守っているかを調査し告発する機関である。簡単に言えば、汚職をしていないかを調査する機関である。中央規律検査委員会のトップである書記は中国共産党政治局常務委員(全員で7名しかいない)が務める。 

党政法委員会は情報、治安、司法、検察、公安などの部門を主管する組織である。簡単に言えば、警察から裁判所、検察、武装警察などを管轄する部門である。中央政法委員会書記は、現在は政治局委員(常務委員7名を含む25名いる)の郭声琨が務めている(2012年から)。それまでの書記だった羅幹(2002-2007年)、周永康(2007-2012年)は政治局常務委員だった。2012年に習近平体制が発足するまでは、政治局常務委員は9名だったが、習近平体制発足後は7名となった。それもあって中央政法委員会書記は政治局委員が務めることになった。

更に言えば、習近平は政敵たちを次々と打ち倒すために(反腐敗運動を大規模に展開するために)、親友の王岐山を中央規律検査委員会書記に据えた(2012-2017年)。現在は側近の趙楽際(2017年から)を据えている。王岐山は国家副主席に移動した(2017年から)。習近平と王岐山は若い時に一緒に下放(sent down)され、一緒のベッドで寝たという逸話が残っている。そうした2人の中であるが、現在は隙間風が吹いているということも言われているようだ。また、下の記事では、江蘇省政法委幹部たちが習近平に対する反逆を企てたという話も出ている。習近平体制も盤石、一枚岩という訳ではないようだ。そうした中で、人事と政策の両面で妥協や取引も行われるという見方も出ている。習近平がこれから10年更に中国の最高指導者として君臨するとなると、10年おきに若い世代に譲っていく方式(年功序列的とも言える)が崩れている。本来であれば中国指導者第6世代(1960年代生まれ)が登場すべきなのだが、早くから名前が出ていた割には人事面で冷遇されている。それはこの世代自体の能力や人望の問題もあるのだろう。彼らの中から国家主席を務める人物が出てこない可能性が高い。そうなると、10年後には一気に第7世代(1970年代生まれ)が最高指導層に入る可能性もある。これからのために大7世代の顔ぶれや動向を注視していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

習近平はライヴァルと政治局の議席を分け合う代わりに、「終身指導者」になる可能性がある(Xi Jinping is Poised to Become “Leader for Life” in Exchange for Sharing Politburo Seats with Rivals

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2022年5月27日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/xi-jinping-is-poised-to-become-leader-for-life-in-exchange-for-sharing-politburo-seats-with-rivals/

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習近平国家主席が李克強首相の前を歩く(ソース:中国共産党)

●導入(Introduction

習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)国家主席は、今秋の第20回党大会に向けて、自身の個人崇拝(personality cult)を劇的に高めている。その最新の兆候は、全国メディアが習近平に「袖(lingxiu袖)」の称号を与えたことである。「袖」は通常「指導者(leader)」と訳される。しかし、中国共産党の辞書では、習近平は「指導者」よりも尊敬され、壮大なヴァージョンである領袖となった。中国共産党の歴史上、「偉大なる舵取り(Great Helmsman)」毛沢東だけがこの高貴な称号を手にした。新華社、中国中央電視台(CCTV)などの主要メディアは、習近平の経歴、特に党と国への「重大な貢献」を強調する50本のヴィデオエピソードの放映を開始した。新華社によると、習近平は「国内外の情勢の全体像を描き、改革、発展、安定を打ち出し、党、国家、軍隊の運営における進歩に責任を負っている」(民報:5月23日、新華社:4月18日)と報じた。

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習近平

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李克強

2016年に既に「指導核心(leadership core)」という重要な称号を得た習近平への歯の浮くような聖人伝的言及(hagiographic references)については、香港、台湾、海外の中国人社会において、その真実を明らかにする動きを誘発したように見える。そのような動きは、陝西省出身の69歳の習近平は重病で、経済政策と外交政策の両方で李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相が率いる政敵の根強い反対に直面しているという報道になって表れている。ニューヨーク在住のチェン・ポーコンのような海外の有名な主要なオピニオンリーダーたち(KOLs)は、李首相と汪洋(Wang Yang、1955年-、67歳)中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference CPPCC)主席の市場振興政策が、習近平の主張する準毛沢東主義的な党による経済に対するほぼ絶対的な支配という見解に取って代わっていると断固として主張している(チェン・ポーコンのYoutube:5月18日、ラジオ・フランス・インターナショナル:5月12日)。習近平は党と国家のナンバーワンの地位を李に譲らざるを得なくなったとまで推測する者もいる(ラジオ・フリーアジア:5月18日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:3月27日)。

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汪洋

習近平のことを「領袖」と呼ぶようになったのは、昨年(2021年)4月、最高指導者が広西チワン族自治区に視察に行った時にまで遡る。広西チワン族自治区のメディアは習近平を「全党の核心、人民の領袖」と称え、「人民の領袖の感情は広西チワン族自治区に結びつけられ、彼の偉大な思いは広西チワン族自治区全体に輝いている」と地元紙は伝えた。広西チワン族自治区のメディアはまた、人民が「永遠に領袖を支持し、領袖を守り、領袖に従う」と報じた(南寧日報:4月28日、HK01.com:4月20日)。最近の会議で、広東省の幹部たちは、中国が豊かになりで強大になっているのは、「習近平総書記が個人の権限で(単独で)決定し、政策に最終指示を与えることで行使する力」(Rthk.hk:5月21日、Hk.finance.yahoo.com:5月21日)によると述べた。

従って、中国共産党総書記(General Secretary of the CCP)と中国共産党軍事委員会主席(Chairman of its Central Military Commission)を兼任する習主席が、今年後半の第20回党大会で少なくともあと1期5年の中国最高指導者としての任期を確保することはほぼ確実である。また、「終身指導核心・領袖(core and lingxiu [of the leadership] for life)」の地位が正式に認められ、2027年の第21回党大会で4期目が承認される可能性が高い。つまり、習近平は少なくとも2032年、保守的で毛沢東思想を奉じる指導者が79歳になるまで統治することになる。

●習近平の強権発動(Xi Plays a Strong Hand

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朱鎔基

習近平の権力掌握の継続は、朱鎔基(Zhu Rongji、1928年-、93歳)元首相ら党の長老たちから厳しい批判を受けている。あるいは来年3月まで政府首脳を務める李首相が習近平の権力を弱めようと画策しているのではないかとの見方が広がっている。しかし、習近平の権力継続は続きそうな気配である。5月25日にテレビで行われた数千人の国家・地方指導者との会見で、李首相は、3月と4月に特に顕著になった経済衰退の兆候を食い止めることが急務であることを改めて強調した。李は、習近平の指導力と習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策の重要性に敬意を表しつつ、「感染拡大の予防と制御をうまくやりながら、経済と社会の発展の任務を完了する」よう当局者に促した。李首相は、「私たちは国の全体的な状況をしっかりと把握し、『一つの目標だけに集中すること(focusing on only one goal打一、dandayi)』と『政策に厳格な統一性を持たせること(imposing rigid uniformity on policies、一刀切、yidaoqie)』は避けなければならない」と付け加えた。さらに李首相は、「生産を再開し、経済目標を達成するためには、物流やサプライチェーンの滞りを抑制する必要がある」と指摘した。習近平の「ゼロ新型コロナウイルス」政策が経済を疲弊させると広く批判される中、李首相は最高指導者の権威にさりげなく挑戦しているようにも見える(新華社:5月25日、連合日報:5月25日)。

しかしながら、実際には、毛沢東が派閥間の内輪もめについて語ったように、「政治権力は銃の銃身から育つ(political power grows out of the barrel of a gun)」のである。習近平は中国共産党中央政治局常務委員(Politburo Standing Committee PBSC))として唯一、中国人民解放軍、中国人民武装警察、そして一般警察、情報機関を掌握している。習近平の腹心の丁薛祥(Ding Xuexiang、1962年-、59歳)中国共産党中央弁公庁主任は、政治局員と党幹部のほとんどに運転手、秘書、警護を付けている。丁はまた、文官と軍人の両指導者に対する電話盗聴や公務外の活動を綿密に監視するなどの監視体制を敷いている(『ザ・ディプロマット』:2月1日、『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』紙:2015年3月11日)。中国共産党中央弁公庁主任は5月16日、党の長老に対し、党中央指導部(最高指導者・習均平総書記)に対して「出鱈目な議論(妄議)」(妄wangyi)を言わないよう警告する通達を発した。また、元幹部が海外に渡航する際には、最近強化された出入国規制を尊重しなければならない。また、引退した幹部も現役幹部も、海外資産を処分し、貴重な外貨を国内に戻すよう求められている(ラジオ:フリーアジア:5月17日、新華社:5月15日)。

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丁薛祥

●ライヴァルたちとの交渉?(A Bargain with Rivals?

個人消費の低迷や製造業の不振など、習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策における妥協しない姿勢が経済を悪化させているため、最高指導者は経済政策と人事問題の両面で妥協することに同意したようだ(Caixin.com:5月25日、チャイナ・ブリーフ:5月5日)。国営中国新聞社が519日の論説記事で強調したように、「風向きが変わり、eプラットフォーム経済は次々と明るい兆しを示している」(国営中国新聞社:5月19日)。李首相は、習近平のようなイデオロギー的なこだわりを無視し、経済成長と雇用を維持することの重要性を繰り返し強調した。その結果、習近平はテクノロジー・コングロマリット各社に対する党の鉄壁の支配を堅持する方針を大幅に緩和せざるを得なくなった(チャイナ・ブリーフ:5月15日)。この政策転換は、習近平の重要なアドヴァイザーである政治局員兼副首相の劉鶴(Liu He)が最近行った、IT企業に対する規制は「市場化、合法化、国際化の原則に基づく」べきで、規制メカニズムは市場を害してはならないという比較的自由な発言に現れている(人民日報:3月16日、Gov.cn:3月16日)。

人事面では、習近平派閥のメンバーたちが困難に直面しているようである。李首相の後継者として習近平が推すとされる政治局員で上海市党委書記の李強(Li Qiang、1959年-、63歳)は、上海の長期封鎖の影響で政治的な命運が悪化している可能性が高い。その他、応勇(Ying Yong、1957年-、64歳)湖北省元党委書記、杭州と鄭州という主要都市の党委書記を務めた周建勇(Zhou Jianyong、1967年-、54歳)と徐立毅(Xu Liyi、1964年-、57歳)など習近平の側近たちが問題を起こしている(Cnstock.com:4月20日、 4/20、ラジオ・フリーアジア:3月30日)。

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李強

つまり、習近平は依然として他の政治局や大臣クラスの幹部の上に立っているが、第20回党大会で承認されるためには、人事という重要な分野で譲歩しなければならない。例えば、中国の事実上の最高統治機関である中国共産党駐大生政治局常務委員会の構成についてみる。党大会で確認される7人の常務委員会の構成の予想は以下の通りである。習近平総書記、丁薛祥中国共産党中央弁公庁主任、李強または陳敏爾(Chen Min’er、1960年-、61歳)重慶市党委書記のいずれかである。李首相が率いる中国共産主義青年団(Communist Youth League Faction CLYF)という対立する派閥が2議席を確保する見込みである。李首相は、農業担当の副首相で共青団の重鎮である胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)を後継者に推している。党規約では、副首相の経験があることが首相就任の重要な条件となっている。習近平は李首相の後継者として、現副首相、元副首相のいずれかを選任していない。第20回党大会の定年(68歳)を1年後に控えた李首相と汪洋中国人民政治協商会議主席のいずれかが中央政治局常務委員会に残る可能性はある。李首相が最高会議に留まる場合、全国人民代表大会(全人代、National People’s CongressNPC)主席に移る可能性は十分にある。この2カ月間、李首相がメディアで急に目立つようになったのは、習近平との駆け引きと見ることもできる。すなわち、胡春華副首相や汪洋政協会議主席など中国共青団の仲間を習近平が支援する見返りに、李は党大会での習近平の任期延長に反対しないということになる(ヴォイス・オブ・アメリカ:3月22日、Heritage.org,:3月7日、ザ・ディプロマット:2020年8月4日)。

政治局常務委員会で最年少の委員である趙楽際(Zhao Leji、1957年-、65歳)は中国共産党中央規律検査委員会書記を務めている。中国共産党中央規律検査委員会は中国最大の反腐敗機関である。習近平の腹心から習近平の政敵となったものの、常務委員として2期目を迎える(Facebook.com:2020年10月28日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:2019年1月9日)。最後の1枠は、派閥が明らかでない新星に与えられるかもしれない。仮にこれが実現すれば、習近平派閥が政治局常務委員会7枠のうち3枠を制することになる。しかし、党大会に向けて、政治局、政治局常務委員会ともに陣容の変化が予想される。

●習近平の後は誰?(After Xi, Who?

このように、政治局常務委員会の構成を考えると、第20回党大会後の習近平の最優先課題は、習近平の後継者問題ということになる。仮に習近平が2032年の第22回党大会まで統治するとなると、2030年代前半には李強、陳敏爾、丁雪祥ら1959年から1969年生まれの第6世代の新星の多くが、定年年齢を迎える。その結果、習近平の後継となる幹部は、1970年代生まれの中国共産党指導部第7世代(7G)のメンバーから生まれるかもしれない(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日)。しかし、現段階では、副大臣、副省長、副市長にしか昇格していない7Gの関係者のうち、誰がトップになる可能性があるのかを推測するのは時期尚早である(Thinkchina.sg:2021年12月6日、サウスチャイナ・モーニング・ポスト:2021年6月26日))。明らかに、習近平の終身在職権獲得への挑戦と、彼の経済政策と新型コロナウイルス政策が支配エリート内の強い反対に遭っている事実は、党と国家の非常に非民主的で非透明な制度を実証している。また、習近平指導部が改革の大立者である鄧小平が切り開いた制度改革を無視し、故毛沢東主席が打ち立てた以前の規範を復活させることの危険性をも示している。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2020年)。

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習近平の権力強化に伴う派閥争いの激化(Factional Strife Intensifies as Xi Strives to Consolidate Power

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2021年10月14日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/factional-strife-intensifies-as-xi-strives-to-consolidate-power/

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2021年9月30日、北京の人民大会堂で行われた中国建国72周年記念レセプションに出席した党と国家のトップ。写真は(左から)。王岐山、趙楽際、汪洋、李克強、習近平、栗戦書、王滬寧、韓正。(出典: Xinhua)

中国の最高指導者である習近平国家主席と、曾慶紅(Zeng Qinghong、1939年-、82歳)前副主席や王岐山(Wang Qishan、1948年-、74歳)現副主席などの強力な派閥や人物との間で、熾烈な権力闘争が行われている証拠が更に明らかになった。先月(2021年9月)、半公式サイト「網易(NetEase)」と「捜狐(Sohu)」が明らかにした政法系(政法系,zhengfa xitongの高官数名とその一派の内紛をきっかけに、これらの有力者たちの間での関係が微妙になっているという話が明らかにされた。警察、秘密警察、裁判所を含む政法系統(zhengfa xitong)の複数の幹部が、習近平とされる党幹部に対する「邪悪な裏切り(不軌)」(sinister and treacherous、不, bugui)の行動を計画していたことが、先月の半公式サイト「網易」と「捜狐」で明らかになった(チャイナ・ブリーフ:9月23日を参照)。(これらの記事はその後、インターネット上から削除された)。
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曾慶紅
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王岐山

経済が強い逆風に晒される中、派閥間の裏切り合い・騙し合い(back-stabbing)は更に悪化している。世界最大級の不動産コングロマリットである恒大集団(Evergrande Group)が倒産寸前となったのをきっかけに、数十億元の債務負担に耐えられない不動産会社や金融会社が更に増えていると言われている。昨年末の国家債務総額はGDPの335%に達し、対外債務だけでも2兆6800億ドルに達した(SAFE.gov.cn:9月30日、930日、香港経済新聞:2020年11月19日)。インフラ部門以外では、地方政府の投資機関が2020年末までに53兆元(約8兆2300億ドル)の融資を受けたと推定され、2013年の16兆元(約2兆5000億ドル)から増加している。更に、中国は石炭の枯渇を一因とするエネルギー不足に直面している。外交面では、アメリカとの貿易協議が再開されていない。ジョー・バイデン政権は、台湾海峡、東シナ海、南シナ海などで強硬姿勢を強める中国に対抗するため、同じ考えを持つ国による連合体構築の努力を続けている(Asia.nikkei.com:10月4日、Times of India:9月27日)。

●王岐山とのトラブル?(Trouble with Wang Qishan?

習近平は630日以上海外出張がなく、来年の第20回党大会に向けて、各方面からの挑戦への対応に追われているようである。党大会のテーマは絶対的政治指導者(strongman)である習近平を中国共産党の「終身核心(core for life身核心, zhongshen hexin)」としての承認である。今月初め、リベラル系オンライン雑誌「Caixin.com」の創刊者兼編集者で著名なジャーナリストの胡舒立は、同通信社の微信(we-chat)アカウントの料理欄に、ある「豚頭(pighead)」について次のように投稿した(連合日報:10月7日)。「豚頭がうまく調理されれば、もちろん美味しく食べられる」と短いメモに書かれていた。「しかし、豚頭が尊敬されないとしたら、それは人々の考え方と関係がある。普通の人は、悪名高い豚頭と食卓で戦略的な関係を築こうとは思わないだろう」。「豚頭」は習近平に対するニックネームの1つである。この投稿は料理に関するものであるはずだが、「戦略的関係(strategic relationship)」に言及しているのは、習近平の頑迷な保守主義や欧米諸国との強固な関係を構築できていないことに対する手品のような批判である(Tang Jingyuan Youtube Channelチャンネル:10月8日、連合日報:10月7日)。

胡舒立は過去20年以上、権力者たちや太子党(princelings、党の長老の子弟)の不正を暴き、物議を醸す記事を多数執筆し、編集してきた。彼女の勇気の源は、習近平の第1期(2012-2017年)に政治局常務委員と党の最高反腐敗機関である党中央規律検査委員会(CCDI)書記を務めた王岐山による「保護」にあるとされる。王岐山は多くの人が習近平の最も近い味方の1人と考えており、2013年には副主席という高い称号を与えられ、対米関係では習近平の主要なアドヴァイザーと考えられていたこともある しかし、王岐山は2017年に政治局を去って以来、最高指導者からの信頼を徐々に失っている。(Asia.nikkei.com:2020年10月8日、Hong Kong Free Press:2020年4月9日)。

昨年末には、太子党で不動産王であり、インターネット上で広く支持されているコメンテイターでもある任志強(Ren Zhiqiang、1951年-、71歳)が、汚職と横領の疑いで18年の実刑判決を言い渡された。しかし、王岐山と親しいことで知られる任に下された厳罰は、任がある「皇帝であると主張する裸のピエロ(disrobed clown who insists on being the emperor)」についてのインターネット投稿が原因だと考えられている(ラジオ・フランス・インターナショナル:2020年9月25日、中央日報:2020年9月24日)。習近平はしばしば評論家たちから「服を着ていない皇帝(the emperor who wears no clothes)」と呼ばれており、任が習近平をけなしたことは国内のリベラルな知識人の間で大きな騒ぎになった。
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任志強

王岐山は、無責任な経営や無謀な海外投資で当局からペナルティを受けた複数の企業の隠れたパトロンとも目されている。その最たるものが、20年足らずで地方航空会社から国際コングロマリットにまで上り詰めた海南省のHNAグループである(『中国デジタルタイムズ』:2018年2月12日)。HNAが今年初めに倒産したのは、773億ドルと推定される負債を返済できないことが大きな原因だ。HNAの陳峰(Chen Feng、1953年-、69歳)会長は9月、経済犯罪と反党活動の疑いで逮捕された。陳は、海南省の元党書記である王岐山の子飼いとされている(サウスチャイナ・モーニング・ポスト:9月20日、Asia.Nikkei.com:3月16日)。陳が逮捕された後、HNAの取締役会が発表した懺悔文風の声明は、不正な事業活動以上のものがあったことを示しているようだ。「野心と野生の欲望がグループ全体を深い溝へと導いた」と声明は述べている(Thestandnews.com:9月25日、The Paper:9月24日)。
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陳峰

王岐山のもう1人の側近である元党中央規律検査委員会(CCDI)幹部の董宏(Dong Hong、1953年-、68歳)は、昨年4月に横領と「堕落した生活(degenerate lifestyle)」の容疑で逮捕された。董宏は次官級幹部で、王岐山がCCDIの書記だった時、王岐山の右腕として活躍した。董宏は、CCDIが2013年に設置した省・政府機関の不正を調査するチームの責任者であった。彼は、「政治規律と政治的規制を著しく侵害した」、「党に不誠実であった」という理由で告発された。(Asianews.it:4月27日、 New Beijing Post:4月26日)。「政治規律と政治的規制」に反するということは、党の「核心」である習主席に十分忠実でないことの隠語と考えられている。
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董宏

●党の重要な長老からの反発(Pushback from a Key Party Elder

更に顕著なのは、習近平と曾慶紅前国家副主席との権力闘争である。曾慶紅は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)元国家主席の側近で、いわゆる上海閥(Shanghai Faction)の主要指導者でもある。曾慶紅は、数十億の企業の背後にある「保護傘(protection umbrella)」であると考えられている。そのうちの1つ、ファンタジア・ホールディングス(Fantasia Holdings、花年控股集有限公司、huayang nian konggu jituan youxian gongsi)は、曾宝宝(Zeng Baobao、1971年-、51歳)という曾慶紅の姪が社長を務める企業である。ファンタジアは最近、社債や約束手形の利払いが滞り、格付け会社から「デフォルト」状態に格下げされた。今年半ばの時点で、ファンタジアの流動負債(1年以内に返済しなければならない負債)は500億元(75億ドル)近くに達していた(Caixinglobal.com:10月7日、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月6日)。しかし、曾宝宝は自社の業績悪化について、党の最高権威を非難しているように見える。彼女は微信の投稿で、専門的なことは専門家に任せるべきだが、「脳が尻で調整されている人が意思決定することが非常に多い」と述べ、物議を醸した。さらに彼女は、会社の未来は「尻が一番しっかり固定されている人に譲られる(屁股决定袋的决策,交屁股坐得最定型的那个,志估豬拿得醉丁的那个)」と付け加えた。曾宝宝の微妙な発言は、国有化された不動産やテクノロジー企業に対して圧力をかけている習近平をターゲットにしているように見える(連合日報:10月8日、ラジオ・フリーアジア:10月7日)。
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江沢民
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曾宝宝

曾慶紅の最も深刻な「罪」は、故小民(ライ・シャオミン、Lai Xiaomin、1962-2021年、58歳で死)との付き合いかもしれない。国有企業である中国華融資産管理公司(China Huarong Asset Management Company CHAMCZhongguo huarong zichuan guanli gongsi)を率いていたベテラン銀行家だった。頼小民は昨年末に逮捕され、今年1月に死刑が執行された。彼は約17億9000万元の賄賂を懐に入れ、「党に不誠実である」と非難された。しかし、曾慶紅と頼小民の関係は古い。2人は江西省の隣県の出身で、曾は頼の金融界での出世に一役買っている(ラジオ・フリーアジア:1月22日、Tw.news.yahoo.com:1月6日)。曾宝宝のファンタジア・グループ・ホールディングスは、CHAMCのビジネスパートナーでもあった。網易と捜狐の独占報道では、頼は、王立科(Wang Like)、羅文Luo Wenjin、楊明(Yang Ming)などの江蘇省政法委幹部が習近平に害を及ぼすために計画した「邪悪な裏切り」行為の資金提供者と言われている(News.youth.cn:9月22日;ラジオ・フリーアジア:9月16日)。
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頼小民

●習近平、ライヴァルの子飼いを警察・司法分野から粛清(Xi Purges Rival’s Protégés from Police Forces, Judiciary

習近平の長年にわたる政法組織(政法、zhengfa)への不信は、長年の宿敵であり、2015年に無期懲役の判決を受けた元政治局常務委員で中華人民共和国公安部長を務めた周永康(Zhou Yongkang、1942年-、79歳)が、警察、秘密警察、司法にいまだに多くの部下や追随者を抱えていることに起因している。これが、習近平が数年がかりで進めている政法体制の粛清の原動力となっている。3人の公安副部長を務めた人物、李東生(Li Dongsheng、1955年-、66歳)、孟宏偉(Meng Hongwei、1953年-、68歳)、王立科(Wang Like、1964年-、57歳)が経済・規律違反でそれぞれ2013年、2018年、2020年に逮捕された後、党中央規律検査委員会(CCDI)は10月2日、傅振華(Fu Zhenhua、1955年-、67歳)前公安筆頭副部長を同様の罪で捜査していると発表した。傅は2013年と2014年に周永康の捜査で重要な役割を果たしたにもかかわらず、王立科など他の周の子飼いと密接な関係を持ったため、習近平の信頼を失ったとされる。失脚した元警察幹部の多くは、内部治安システム内で「閥や派閥を形成した(forming cliques and factions)」と非難されている(VOAChinese.com:10月8日、 theinitium.com:10月5日、China.caixin.com:10月4日)
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周永康

中央巡視工作領導小組(Central Leading Group on Inspection WorkCLGIWZhongyang xunshi gongzuo lingdao xiaozu)が懲戒の対象としてきた江蘇省政法委幹部システムのメンバーの中には、定期的に党や政府に検査チームを派遣している者も少なくなく、そうやって中・高級幹部の政治的誠実さや経済犯罪の可能性を査定してきた。昨年、政治局常任委員で党中央規律検査委員会(CCDI)書記の趙楽際が率いる中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、公安部、国家安全部、司法部、検察院・裁判所など複数の政法組織に検査官を派遣した(CCDIウェブサイト:4月20日、MOJ.gov.cn:2020年8月23日付)。現在、2009年に設立されたが、2012年に習近平が党総書記になるまで活動を開始しなかった中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、中国人民銀行、大手国営銀行、保険会社などの金融部門と、中国証券監督管理委員会や中国銀行業監督管理委員会などの規制機関を含む25の部門を調査している(Finance.sina.com:9月26日、Finance.caixin.com:9月26日)。王岐山と曾慶紅は公私ともに投資・銀行部門で活躍しており、習近平の政敵とされるこれらの人物の子飼いがまだまだ出てくる可能性がある。

●結論(Conclusion

習近平は多くの演説で、「党の核心」としての権威を、党の「自浄作用と自己再生(self-purification and self-renewal)」を実現する能力と結びつけている。習近平の評判の一部は、経済犯罪や規律問題で比較的多くの「虎たち(tigers)」(幹部)を罷免したことにある。曾慶紅や王岐山との対立は、これまで主に言葉による陰口で表されてきた。例えば、新華社と人民日報は、反腐敗キャンペーンはいかなる「鉄首公主(Iron Head Prince铁头王、Tie tou wang)」も許さないという論評を相次いで掲載した。「反腐敗運動には上限がない」と人民日報は昨年(2020年)1月に宣言した。「中国共産党は問題に正面から向き合い、過ちを正すことを恐れない。私たちは自浄作用と自己再生に長けている」(新華社:7月11日、人民日報:1月15日)。中国共産党の「自己改革と自己浄化(self-reform and self-purify)」能力については、習近平が中国共産党成立100周年記念演説などの主要な演説で繰り返し発言している。清朝の歴代皇帝が上級貴族に与えた称号の一つである「鉄首公主」は、曾慶紅を指すと考えられている。これは、最後の鉄首公主が清の皇太子の称号を持っていたことによる。第20回党大会は、習近平が党総書記、国家主席、党中央軍事委員会主席の地位を10年間維持できることを確認するものである。その一方で、党内の内部抗争は言葉の戦いを超え、少なくとも数人の元政治局員と党中央軍事委員会委員が失脚する可能性がある。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2019年7月)。

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