古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:円安

 古村治彦です。

 このブログで、世界規模で新型コロナウイルス感染の収束傾向が進み、それによって経済活動が活発化していく結果としてインフレーション率が高まっていることを昨年からずっと紹介してきた。アメリカでの物価高騰の記事を何度もご紹介してきた。

 日本に暮らす私たちも物価高騰の影響を感じている。清貧の価格は変わらない久手も内容が減っているということはよく見かけるようになった。飲料で言えば、昔は1リットル、500ミリリットルで売られていたものが同じ値段で900ミリリットル、450ミリリットルになって売られているということもある。英語ではこれを「シュリンクフレーション(shrinkflation)」と言うのだそうだ。「shrink」という単語は「縮む、小さくなる、少なくなる」を意味する。インフレーション(inflation)やデフレーション(deflation)のような、よく使われる言葉ではないが、日本の現状を良く表現している。シュリンクフレーションが進んでいる日本で値上げが続いている。これは一般国民の生活を直撃し、経済状態を悪化させるものだ。

 物価の上昇率よりも賃金の上昇率の方が高ければ、生活は苦しいということはない。しかし、賃金がほとんど上がらない中で物価だけ上がり続ければ、生活はどんどん苦しくなる。スタグフレーションという状態になるのが怖いが日本は既にスタグフレーションなのではないか。物価上昇の原因は世界的な実物資産の価格高騰、具体的には石油価格の高騰や食料価格の高騰がある。これに加えて円安が進行していることも挙げられる。2022年4月28日には1ドル、130円を突破したが以下に掲載したグラフのようにこの円安は非常に急激に起きたものだ。

dollaryenexchangerategraph202104202204511
ドル円チャート(2021年4月から2022年4月)

dollaryenexchangerategraph20022022511
 ドル円チャート(2000年から2022年)

 日本銀行の黒田東彦総裁は就任以来、日本政府の意向もあり、「年率インフレ率2%達成」をお題目のように唱えてきた。しかし、その実現には至っていない。日本の憲政史上最長となった安倍晋三政権下では「アベノミクス」で経済成長を目論んで、異次元の財政支出を行ったがうまくいかなった。「経済成長の結果としてインフレーション」ということを逆転させて「インフレーションを起こせば結果として経済成長(リフレ、インタゲ論)」という大きな間違いを犯した結果と言える。

japaninflationrate20002020511
日本のインフレ率(2000年から2020年) 

 現在、輸入物資の価格高騰(新型コロナウイルス感染拡大からの回復とウクライナ戦争が重なった)と急激な円安で日本国内のインフレ率は2%を軽く達成しそうな勢いである。しかし、これは日本政府や日銀が意図した「インフレ」ではない。インフレーションには需要が高まることで起きる「デマンドプッシュ型」とコストが上昇することで起きる「コストプッシュ型」があり、現状は「コストプッシュ型」だ。経済が好調なので人々の需要が高まってのものではない。

「円安は日本にとって素晴らしい」ということを私も小学生の時に刷り込まれた。先生が黒板に日本で作った自動車が100万円として、それをアメリカで売る場合のドル換算した価格の図を描いて、「円安になればドルでの価格表示が安くなるので売れやすくなって利益が大きい」「海外から資源や材料を買ってきて日本で製品にして売る、これを加工貿易と言う」ということを説明してもらったと思う。しかし、私が小学生だった1980年代から日本経済は大きく変容し、外需頼みの国から内需頼みの国になった。GDPに占める輸出の割合は2018年の段階で18%だった。先進諸国の中でこの割合は低い方だ。

 japangdpexportrate2018rate511

輸出がGDPに占める割合(2018年)
 日本経済の現状は非常に厳しい。急激な円安の進行を止めることだ。そもそも貨幣価値の乱高下は好ましくない。また輸入物資の価格の引き下げは日本一国でできることではない。新型コロナウイルス感染拡大からの回復途上での経済回復のための物価高は仕方がないが、ウクライナ戦争による物価高に関しては一日も早い停戦によって改善が見込まれると思う。しかし、現状はとても厳しいと言わざるを得ない。

(貼り付けはじめ)

日本はようやくインフレーションを達成する-しかしそれは間違った種類のものだ(Japan Finally Gets Inflation—but the Wrong Kind
-数十年にわたりデフレーションとの戦いの後、世界規模の物価上昇は政治的な懸念の原因となっている

ウィリアム・スポサト筆
2022年4月25日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/25/inflation-japan-deflation-economy/

現在の日本の中央銀行のトップは非常に忍耐強い人物である。黒田東彦は9年前に日本銀行総裁に就任した際、世界第3位の経済大国である日本から、1990年以来ずっと成長を鈍化させてきたデフレーション圧力を取り除くと公約した。日銀の目標は、賃金と消費意欲を高める2%のインフレ率を作り出すために十分な資金を投入することであった。

商品価格のインフレーションが世界的に警鐘を鳴らしている中、ついに目標達成の見通しが立ったようだ。最新のデータは非常に不安定ではあるが、エコノミストたちは、日本が今後数ヶ月のうちにようやく2%のインフレーション率、場合によってはそれ以上のインフレーション率を達成し始めると予測している。

今のところ、この数値は世界的に見ても控えめなものとなっている。アメリカの2022年3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.5%上昇し、1981年以来最も高い上昇率となったが、日本の指数はわずか1。2%上昇にとどまった。しかし、これには携帯電話業界を事実上支配している3社のカルテルに対する政府の取り締まり後、携帯電話料金が52.7%下落したことが含まれている。

その他の数字も、日本の基準からすると目を見張らせるものだった。エネルギーコストは20.8%上昇し、1981年以来最も急な上昇となり、食用油は34.7%上昇した。卸売物価の指標である企業物価指数は、ウクライナの悲惨な状況もあって、2022年3月には前年同月比で9.5%上昇した。

全体として、エコノミストたちは、様々な一時的要因を平準化した後の基礎的なインフレーション率は、現在、日銀が設定した目標の2%程度であると見積もっている。しかし、誰も喜んではいないように見える。2022年6月の選挙を控え、政府は最も影響を受ける人々への補助金制度を実施するために奔走しており、日本円は急激に下落している。しかし、黒田総裁は、コスト増は短期的な問題であり、総裁が設定した目標を妨げるものではない、と平然としているように見える。

日本にとって、20年以上にわたるデフレーションのもたらしてきたコストは明らかである。しかし、多くの日本人が気づいていないのは、世界の国々は絶対額で豊かになっているのに、日本だけはほとんど変わらないということだ。OECDのデータによると、過去30年間の年間平均賃金の上昇率はわずか3%であるのに対し、米国では47%も上昇している。物価も同じような軌跡をたどっている。東京は長年、世界で最も物価の高い都市とされてきたが、コスト削減、関税の緩やかな引き下げ、輸入代替品の増加などにより、現在ではほとんどの世界ランキングでトップ10にも入っていない。

この状況を打開するために、中央銀行である日本銀行は過去9年間、市場に現金を流し込んできた。この前代未聞のプログラムにより、中央銀行は事実上全ての新規国債を購入することになった。そして、政府の税収は平均して歳出の60%しか賄っていないが、このことは購入すべき債務が大量に存在することを意味する。

このことは、2つの大きな問題を引き起こしている。日本政府は世界で最も負債を抱えている国であり、負債総額は年間経済生産高の約190%に相当する。このような政府の大盤振る舞いの裏舞台での資金調達によって、日銀のバランスシートは4倍になり、世界銀行のデータによれば、2020年には日銀自身の保有額は年間GDPの92%にまで上昇する。

このように、今の日本は間違ったインフレーションになっているようである。黒田総裁の目標設定の基礎にある考えは、いわゆる需要主導型の好循環を生み出すことであった。これは高い給料の労働者たちが外に出てより多く消費し、需要を押し上げ、それが新たな投資を招来し、それがより高い賃金につながるというものだ。

しかし、海外からのコストアップは物価を押し上げ、消費者たちの購買意欲を低下させ、商品の購入を控えさせることになる。この問題は、資源に乏しい日本では特に深刻で、事実上全ての原材料と商品を輸入している。食料の60%以上とエネルギーの95%(主に石油)を輸入している。過去10年間、世界の商品市場は概ね平穏だったため、これまでは大きな問題にはならなかったが、ロシアのウクライナ侵攻で小麦も天然ガスも十字架の下に置かれ、問題の深刻化が予想される。

このことは、2022年6月の参議院選挙でより強力な支持を得ようとする政府にとって、決して無視できることではない。与党の自民党が政権を失うリスクはないが、参議院選挙の投票結果はしばしば、事態の進展に関する有権者たちの感情を測る指標と見なされる。物価上昇の打撃を和らげるため、政府は消費者と中小企業を支援する480億ドル規模の幅広い補助金パッケージをまとめつつあると報じられている。日本経済新聞によると、この支援はガソリンの追加補助から低金利ローンや現金支援まで多岐にわたるという。

同時に、日本の岸田文雄首相は物価高騰を利用して、彼が提唱している「新しい形の資本主義」を推進しようとしている。これは安倍晋三前首相の下で実施された、過去10年間のアベノミクスで利益あげた大企業や裕福な退職者たちから富を国民全体に広げることを目的としている。

岸田首相は2022年3月の国会で、「物価上昇に対処するため、企業がコストを転嫁できるようにし、労働者の賃金を上げる環境を整えることによって、国民の生活を守るためにあらゆる政策方策を実施する」と述べた。

クレディ・スイスのエコノミストで元日銀の白川弘道のように、他のコストが上昇しているにもかかわらず、企業に賃上げを求めるのはかなり無理があると懐疑的な見方をする人々もいる。日本の消費者たちは伝統的に物価が上がると買い控えをする。そのため、小売業者は過去に値上げをするのをためらい、より少ない量でより高い単価を隠す「シュリンクフレーション(shrinkflation)」という概念を生み出した。

日本円が突然急落し、輸入品が更に高くなることも見通しを悪くしている。円は1ドル130円に迫り、年初から10%も下落している。これは、岸田首相が狭めようとしている経済格差を更に拡大させることになる。海外に大きな権益を持つ大企業は、自国にお金を戻すことで急激に高い利益を得るだろう。一方、平均的な労働者たちはレジでより多くの支払いを強いられることになる。

BNPパリバのチーフエコノミストで、日銀ウォッチャーとして知られる河野龍太郎は、「人々の関心が輸入インフレーション率の上昇と円安に向いている。こうした中で、短期的な景気刺激策だけでなく、超金融緩和を固定することによる長期的な悪影響についても、メリットとデメリットを再確認して検討する必要がある」と指摘している。

長期的には、日銀の最大の脅威はインフレーションサイクルが制御不能になることである。ドイツ銀行東京支店チーフエコノミストである小山健太郎は最近のレポートで、「日銀の政策スタンスが円安を悪化させ、物価を上昇させていると国民が確信すれば、日銀は家計の負担増を促す悪役になる可能性が高くなる」と指摘した。しかし、物価上昇に対抗する伝統的な方法である金利の引き上げは、ただでさえ弱い経済にブレーキをかけるだけでなく、日銀が保有する国債に多額の損失を与えることになる。

しかし、黒田総裁は躊躇していない。債務残高と円安への懸念がありながらも、日本銀行はここ数週間、国債買い入れプログラムを継続している。黒田総裁は、自分自身の目標は、日本を「デフレーション・マインド」から脱却させることだと常々主張している。今回の物価上昇で、彼は成功への道を歩み始めているのかもしれない。

問題は、こうした新たな懸念が、日本の高齢化社会、労働力の減少、低成長と一緒になって、長期的かつ不可逆的な景気後退をもたらすかどうかである。見通しには問題があるが、日本は過去に何度も懐疑的な見方を覆してきた。シティグループの当時のチーフエコノミスト、ウィレム・ブイターは、2010年のイヴェントで、「日本は世界で最も理解しにくい経済だ。これが物理学なら、日本において重力は働かないことになるだろう」と述べた。

※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリストで2015年から『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。彼は20年以上にわたり日本の政治と経済をフォローしており、ロイター通信と『ウォールストリート・ジャーナル』紙で働いている。彼は2021年に刊行されたカルロス・ゴーン事件と事件が与えた日本に与えた影響についての著作の共著者である。

(貼り付け終わり)

(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は経済のお話を書きたいと思います。私は経済学が苦手です。大学の経済学の授業でも半分寝ていたような人間です。ですから、経済の話は避けていたのですが、今回挑戦してみたいと思います。まずは思い出話から始めたいと思います。

 

 私が小中高時代を過ごしたのは、1980年代から1990年代にかけてです。私は九州の地方都市で育ちました。大人たちとは全く別の子供の世界、大人たちの顔を曇らせたり、笑顔にしたりするものと言えば、テレビのニュースでした。私が小学校時代に、久米宏司会の「ニュースステーション」が始まりました。それまでのニュース番組とは何か違うな、面白いなと思って大人たちと一緒に見ていました。フィリピンの民主化や第二次天安門事件など固唾を飲んで見守っていたことを思い出します。

 

 そんな中で、大人たちがいつも話をしているのが景気の話でした。バブルが始まる前兆があったのでしょう。地方都市の公務員の家でも株の話が出るようになりました。「●●さんはNTTの株を買って大儲けしたらしい」なんてことを聞いていました。

 

 ニュース番組の最後には、東京証券取引所の平均株価、そして円ドルの為替レートがいつも流されていました。株価が上がれば大人たちは喜んでいました。それでも子供ながらに不思議なことがありました。「円安、円高」という言葉でした。「238円から237円になったのに、“円高”になったと言って大騒ぎする」大人たち。数字が小さくなっているのに「円高」ってなんなのだろうか?と思って親に聞いても、子供に分かるように説明してくれませんでした。

 

 それでも小学校の高学年になって少し知恵がつくと、「価値」というものが少しわかるようになり、そして、日本という国が「加工貿易」で世界の中でも豊かな国となっていると習うようになりました。時代は、日米貿易戦争で、日本製の自動車やラジオがハンマーで壊されていました。

 

 「日本は原材料を輸入して、それをテレビ、ラジオ、自動車、船、鉄鋼などに加工して、それを輸出してお金を稼いでいる」ということを習いました。そして、「円安だと輸出した先の国で製品が安く売れる」ということも分かりました。だから、円が少しでも高くなると、自分たちのせいではなくて製品の値段が上がるから円安が良いのだ、ということを理解できるようになりました。そして、得意げに友達にこのことを説明していました。今から考えると、汗顔の至りです。

 

 私たちの世代くらいまでは、「日本は加工貿易の国で、円安は良くて、円高は悪い」ということをある意味刷り込まれてきたと言えると思います。「日本は世界中に工業製品を輸出してお金を稼いでいる。輸出あってこその日本なのだ」ということを私たちは教えられてきました。確かに世界各国に行って日本人と分かれば、その国の人たちから「ソニーの製品は素晴らしいね」「トヨタの車は故障がなくて良く走るよ」と賛辞を寄せられることが多いです。自分は全く関係ないのだけれど、それは別にして嬉しくなることは事実です。

 

 しかし、日本はどうも「輸出主導型経済」ではなくなっているようです。1960年代からの奇跡の高度経済成長の幻影はあるのですが、日本は先進国となり、製造業ではなく、サーヴィス業がその割合をどんどん増やしているようです。

 

※厚生労働省の報告書のアドレス↓

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/13/dl/13-1-4_02.pdf

 

※2013年10月7日付東洋経済オンライン 野口 悠紀雄(早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問)「輸出主導型ではなくなった日本経済 リーマンショックから5年、世界はどう変わったか」のアドレス↓

http://toyokeizai.net/articles/-/20873

 

 もちろん、日本の製造業がこれからも頑張ってもらいたい、海外で売れる製品を作ってもらいたい、外貨を稼いできてもらいたい、というのはそうなのですが、新興諸国の追い上げということも考えていかねばなりません。

 

 そうなると、「輸出(外需)主導」ではなく「内需主導」型経済ということになりそうです。ただ、内需主導経済で経済の規模が大きくなるのかということは分かりません。ですから、外需に偏っていたものを内需にしていくということなのだと思います。また、内需主導経済というのはよく分からないものです。

 

 それでも現在の日本は、アベノミクスで株価は上がっています。そして、円安によって企業の売り上げは良くなっていると言われています。しかし、円安によって輸入品の値段が上がり、物価はどんどん上昇しており、給料の伸びが追いついていない状況です。株価が上がっても、株式を頻繁に取引する人たち以外にはまず関係のない話です。日本国民の8割以上は株式取引をしたことがないのです。

 

 「円安にして輸出を増やす」ということも、今の日本では難しいです。なぜなら、1980年代から円高基調になって、各メーカーは生産拠点を海外に移しているからです。日本国内にも製造工場がありますが、日本列島全体が生産工場ということはありません。円安で輸出を増やすということはできるはずがありません。

 

 また、日本人の人件費も高度経済成長のおかげで伸びていきました。どんどん豊かになりました。簡単に言えば、昔は日本人の給料は世界に比べても安くて、その上高品質の製品を作ることができたので、低価格で良いものを世界中に売りまくることができました。しかし、今は人件費が上昇し、円安をいくら進めてもそこまで低価格にはできないのです。

 

 それでは、円安で輸出を増やすということをやるためには何が必要になるかというと、低賃金で働く人々です。アメリカにおける移民の立場はまさにそうです。しかし、日本ではなかなか移民受け入れは難しいのが現状です。そうなると低賃金層は日本国民の中に作らねばなりません。

 

 現在のアベノミクスがやろうとしていることは、低賃金層を生み出そうということです。お金持ちがいきなり低賃金層になることはありませんから、中間層から脱落していく人たちが増えていきます。低賃金で働かざるを得なくなる人たちが増えていきます。

 

 私がこの部録の記事で指摘したように、中間層は民主政治体制(デモクラシー)にとって重要な要素となります。中間層がいなくなれば、民主政治体制は脆弱になります。

 

 若者の非正規雇用やマイルドヤンキーといった現象はこうした中間層がいなくことを示しています。お金持ちと貧困層の二極化が進みます。そして、貧困層は政治になど関心を持たなくなります。そうなれば支配者層とつながるお金持ちたちに都合の良い支配体制となります。それが自民党の一強多弱時代です。

 マルクスの理論では、資本主義がどんどん発展していくと、格差が拡がり、労働者(プロレタリアート)階級がブルジョア階級を倒す階級闘争(クラス・ストラグル)にまでいくということになります。しかし、現在の日本では、そうした自分の状況に関心を払うことも、政治に関心を払うこともできない状況になっています。また、低賃金層の団結も妨げられ、孤立化も進んでいます。

  
私は、財政の再配分機能を利用して、つまり、人々の家計にお金が直接入るような政策を行うことを支持します。 

 

 今回の総選挙で自民党の一強時代はしばらく続きそうです。そうなれば、日本はますますお金持ちと低賃金層の二極化、中間層の脱落が進んでいくことになります。そうした状況を変えるためにも、野党勢力にはしっかりとしていただきたいと思います。

  

(週刊誌記事転載貼り付けはじめ)

 

安倍自民大勝もアベノミクスが落とし穴

 

(週刊朝日 20141226日号掲載) 20141219()配信

http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/asahi-20141219-2014121700087/1.htm

http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/asahi-20141219-2014121700087/2.htm

 

 選挙で予想通りに大勝した自民党は、来週にも新内閣を発足させ、向こう4年間の長期政権をスタートさせる。

 

 憲法改正まで見据え、着々と足場を固めていく安倍首相。だが、今後の政権運営には、多くの落とし穴が待ち構えている。まずは年明けにも想定される原発再稼働だ。

 

 今回の衆院選で首相はあまり触れなかったが、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)は早ければ2月にも、再稼働する。他の原発も原子力規制委員会の基準を満たせば再稼働していく。

 

 今年7月の集団的自衛権行使を認めた閣議決定に沿った安全保障関連法案も来年の通常国会に提出される。自民党の高村正彦副総裁は「すぐに安保法制の大枠を作る作業に入りたい」と話しており、作業を加速させる考えだ。

 

 関連法案の審議の時期は統一地方選後になりそうだが、自衛隊がこれまでより危険にさらされるだけに、国会の内外で再び大きな反発が起こることも予想される。

 

 安倍首相が政権公約集の表紙に掲げた「景気回復」も足元は心もとない。

 

 選挙期間中、今年7月から9月までのGDPの改定値が発表されたが、速報値の年率マイナス1.6%からマイナス1.9%に下方修正。4月の消費税8%への増税は、結果として内需を冷え込ませ、予想以上に深刻になっている。

 

 自民党ベテラン議員は言う。

 

「アベノミクス3本目の矢の成長戦略も妙案がなく、みな困り果てています。すでに掲げた医療・雇用の規制緩和や農業改革などは、自民党の支持団体の抵抗にあってスムーズに進んでいない。

 

1月以降に景気回復が進まなければ、国民の期待は一気に怒りに変わるでしょう。統一地方選にも打撃となります」

 

 同志社大学大学院の浜矩子教授は「来年1月以降の経済はさらに厳しくなる」と予測する。

 

「消費や設備投資は低調で、どの指標を見ても景気上昇のきっかけが見られない。物価上昇の影響で実質所得もマイナスになっている。円安で輸入製品の価格が上がり、生活コストも上昇しています。これでは消費が伸びるはずがありません。実際に痛みを感じている中低所得者層に直接、働きかけることをしないと、経済はなかなか回復しない」

 

※週刊朝日  20141226日号より抜粋

 

(週刊誌記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)








 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ