古村治彦です。

 

 2020年米大統領選挙の民主党予備選挙は、ジョー・バイデン前大統領とバーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が2強となってリードしています。バイデンとサンダースはそれぞれヴァーモント州、デラウェア州を地盤としており、アメリカ東部の出身者です。

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 アメリカでは、共和党優位な州を「レッドステイト(赤い州、共和党のイメージカラーの赤から)」、民主党優位な州を「ブルーステイト(青い州、民主党のイメージカラーの青から)」という分裂が起きています。レッドステイトは、田舎のアメリカ南部や内陸部、ブルーステイトは、大都市が存在する東海岸、西海岸、中西部に位置しています。

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 より詳しく見ていくと、共和党が優位なレッドステイトの中でも大都市周辺は民主党が優位ですし、民主党が優位なブルーステイトの中でも田舎の方は共和党が優位となっています。

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 2016年のアメリカ大統領選挙では、本来は民主党優勢のはずの中西部各州で、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに敗れ、大統領になることが出来ませんでした。民主党は東海岸と西海岸の地盤を固めつつ、中西部を奪還することが鍵となります。

 

 アメリカ西海岸と東海岸は民主党の金城湯池(絶対的に強い場所)ですが、興味深いことに、アメリカ西海岸から民主党の大統領候補者、大統領は誕生していません。最近で考えてみても、ジミー・カーターはジョージア州、ビル・クリントンはアーカンソー州、バラク・オバマは生まれ育ちこそハワイですが、大学進学で離れ、政治的なキャリアを積んだのは、イリノイ州です。それぞれアメリカ南部と中西部です。共和党で見てみればリチャード・ニクソン、ロナルド・レーガンは共にカリフォルニア州出身です。

 

 民主党にとって大票田であり、最大の地盤であるカリフォルニア州を含む西海岸から民主党の大統領選挙候補者、大統領が出ていないというのは下の記事を読むまで気づきませんでした。

 

 下の記事では、アメリカ東部のエリートたちが西海岸を過激だと見下し、西海岸からは、共和党、民主党を問わず過激な主張、過激な保守主義、過激なリベラリズムを代表する政治家たちが生まれ、東部は時代遅れだと馬鹿にするという構図になっていると述べています。副島隆彦先生の『国家分裂するアメリカ政治 七顚八倒』(秀和システム、2019年3月)でアメリカは3つの国に分裂するというのは、こういう分裂線があってのことだろうと思います。民主党、共和党問わず伝統を重視する東海岸と、過激さと変革を重視する西海岸ということで、同じ党の中でも意見がぶつかるということが起きるのでしょう。


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国家分裂するアメリカ政治 七顚八倒 


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カマラ・ハリス

 現在、2020年米大統領選挙民主党予備選挙では、カリフォルニア州出身で地盤とするカマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が上位につけています。支持率で3位に入ることもありますが、2強であるジョー・バイデンとバーニー・サンダースの水をあけられているのが現状です。そして、カリフォルニア州での世論調査でも3位にしか入れなかった、ということでこれから巻き返しが必要となってきます。下の記事では、ハリスは東海岸のメリーランド州ボルティモアに選対本部を置いているそうですが、地元のカリフォルニア州も固められていないという状況にどう対応するのか、まだ時間はありますが、これからどのような戦略を立て、戦術を採用するのか注目です。

 

(貼り付けはじめ)

 

カマラ・ハリスは民主党が抱えるロッキー山脈の分断線に直面(Kamala Harris faces Democrats’ Rocky Mountain divide

 

リード・ウィルソン筆

2019年1月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/426526-kamala-harris-faces-democrats-rocky-mountain-divide

 

カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が民主党予備選挙で勝利し、本選挙の民主党候補者となり、トランプ大統領と戦うということになれば、アメリカの現代政治においてこれまで誰も破ることが出来なかった障壁を打ち砕くことになる。

 

彼女は民主党にとって初めての女性の候補者にはならないし(ヒラリー・クリントン)、アフリカ系アメリカ人の候補者になる訳(バラク・オバマ)でもない

 

そうではなく、ハリス、もしくは予備選挙で勝てる見込みがより少ない他の候補者たちが破る障壁というのは、ロッキー山脈より西の州出身者で民主党の大統領選挙候補者となるということだ。民主党は191年の歴史を持つが、この地理上の分断線を埋めることはできなかった、ジェリー・ブラウン元カリフォルニア州知事、フランク・チャーチ元連邦上院議員(アイダホ州選出)、ヘンリー・“スクープ”・ジャクソン元連邦下院議員(ワシントン州選出)といった大物政治家たちでもこの分断線を乗り越えることが出来なかった。

 

共和党はアメリカ西部から大統領選挙候補者を選び出している。ハーバート・フーヴァー、リチャード・ニクソン、ロナルド・レーガンはカリフォルニア州出身、バリー・ゴールドウォーターとジョン・マケインはアリゾナ州出身だった。

 

一方、民主党はこれまで、テキサス州(リンドン・ジョンソン)、サウスダコタ州(ヒューバート・ハンフリー)、ネブラスカ州(ウィリアム・ジェニングス・ブライアン)より西の州の出身者を大統領候補もしくは副大統領候補として指名したことはない。

 

ハリスは月曜日、全国放送のテレビ番組に出演し、出馬表明を行った。彼女はアメリカ西部出身者が民主党の候補者指名を獲得する最大のチャンスを持っている。1984年、コロラド州知事ゲイリー・ハート(民主党)が中西部出身のウォルター・モンデールに敗れて以来、久しぶりに西海岸出身者が大統領選挙候補者指名を目指すチャンスなのである。

 

ハリスは今年出馬する、もしくは出馬したいと述べているアメリカ西部各州出身者5人のうちの1人だ。その他にはロサンゼルス市長エリック・ガルセッティ、モンタナ州知事スティーヴ・ブロック、ワシントン州知事ジェイ・インスリー、カリフォルニア州選出連邦下院議員エリック・スワルエル、ハワイ州選出連邦下院議員トゥルシー・ギャバ―ドといった人々が名前を連ねている。

 

西部各州出身者が民主党の大統領選挙候補者になれないことは、特にここ数十年間で顕著になっている。この時期、西部各州、特にカリフォルニア州がアメリカを文化的、経済的なエンジンとなってけん引するようになっている。

 

サンフランシスコを拠点にしている民主党のストラティジストでハリスの上級顧問を務めているシーン・クレッグは次のように述べている。「カリフォルニア州は4000万の人口を誇る一国のような規模を持つ州だ。アメリカの中の小宇宙である。カリフォルニア州は、常に楽観主義と変革がその基盤となっている。この点はアメリカと同じだ。私たちは“アメリカンドリーム”について語るのではなく、“カリフォルニア・ドリーム”について語るのだ」。

 

西部各州出身者が多く大統領選挙に出馬するようになっているというのは、アメリカ西部各州の政治における影響力が数十年の間に増大していったことを示している。

 

第二次世界大戦期間と冷戦期、アメリカ西部とロッキー山脈沿いの各州には連邦政府から多額の資金が投下された。更に、西部各州の都市部でテクノロジーを基盤とした経済が勃興したことで、1世紀にわたり人口が増大し、経済が拡大していった。

 

100年前、ロッキー山脈から西の各州の選挙人の総数は55に過ぎなかった。1960年にジョン・F・ケネディが大統領選挙に勝利した際には、同じ各州に新たにアラスカ州とハワイ州が加わって、選挙人総数は85であった。現在、総数は128で、大統領選挙当選に必要な選挙人総数の過半数270(総数は538)の半分に少し足りない数となっている。

 

共和党は、カリフォルニア州、特にハリスとナンシー・ペロシ連邦下院議長(民主党)の地元サンフランシスコを政治が乱れている場所もしくはリベラリズムが狂乱している場所と揶揄している。このようなアメリカ西部を見下す態度は、かつて西部の過激主義を代表するある政治家を台頭させる結果になった。それがこれから起きるかもしれない。

 

カリフォルニア州を地盤とする民主党のストラティジストであるエリック・ジェイは次のように述べている。「レーガン大統領が敷いた政治的な伝統は私たちが現在目撃している現象を映す確かな鏡となっている。レーガンは過激なアメリカ西部の保守主義を代表していた。彼が大統領に選ばれるまでアメリカ東部のエリートたちは西部の保守主義を侮蔑していた。アメリカ全体が右に動いてレーガンの考えと一致するようになった。これと同じように、民主党全体が左に動くことで、ハリスやガルセッティのようなカリフォルニア州の進歩主義派の考えと一致するようになっており、両者ともに民主党予備選挙で勝利を収めることが出来る」。

 

アメリカ東部のエリートたちは西部を見下すという態度を取る。そのような態度に対して西部の人々は東部など古臭いと馬鹿にする。こうしたことによってロッキー山脈周辺州や西海岸の各州の出身者たちが障壁を突破できないようになってしまっている。

 

サクラメントを拠点としている民主党のストラティジストであるスティーヴ・マヴィグリオは次のように述べている。「東海岸の人々が全国規模のメディアの様相を独占的に決めている。そのためにメディア各社と連邦政府が本部を東海岸に置いているのだ。西部出身者の場合、東部で長い時間を過ごすことが必要になる。これは難しいことだ。特に選挙で選ばれる政治家たちにはそうだ。東部と西部で3時間の時差があるということは現実的には事態を複雑化させる」。

 

これは憶測であるが、こうした複雑さを解決するために、ハリスは選対本部をボルティモアに置く決断を下したのだろう。

 

アメリカ西部各州は、アメリカ大統領における民主、共和両党の候補者を指名する過程において影響力を増大させている。

 

カリフォルニア州では、2016年の米大統領選挙では終盤近くに予備選挙が実施されたが、今回は日程が変更になり、カリフォルニア州は今回のスーパーチューズデー(訳者註:3月上旬の火曜日に多くの州で予備選挙が実施される)において最大の代議員数を獲得できる州となる。ネヴァダ州は早期に予備選挙が開始される4つの州の1つで、アリゾナ州とコロラド州もまた早期で予備選挙を実施する。

 

ワシントン州、ハワイ州、アラスカ州、ワイオミング州は、2008年の大統領選挙民主党予備選挙で、中西部を地盤とするバラク・オバマがニューヨーク州を地盤とするヒラリー・クリントンに勝利するうえで重要な役割を果たした。これらの州では2020年の党員集会や予備選挙の日程はまだ決まっていない。

 

アイオワとニューハンプシャーとは異なり、多くのアメリカ西部諸州は民主党支持者の人種構成はより多様になっている。

 

オレゴン州とハワイ州にルーツを持つ民主党の世論調査専門家を務めているリサ・グローヴは次のように述べている。「これまでアメリカ西部からの候補者が出ることはほとんどなかった。それは西部各州での予備選挙実施が遅かったということもあるし、長い間、アメリカ西部は共和党が優越していたということもある。予備選挙の各州に配分される代議員数の変更、ハリスのように西部出身者の中に高い全国的知名度を誇る人が出てくるようになっていること、カリフォルニア州のように予備選挙実施を早めていることによって、これまでとは状況は異なっている」。

 

これまで多くの民主党の政治家たちがロッキー山脈での分断線を突破しようと試みてきた。ジェリー・ブラウンと彼の父パット・ブラウンは合わせて6度、大統領選挙に挑戦した。ネオコン運動の力強い創設者ヘンリー・ジャクソンとCIAへの調査を実施した大物フランク・チャーチはそこまで印象を残すことはできなかった。1976年の大統領選挙民主党予備選挙で、アリゾナ州選出の連邦下院議員モー・ウダールは10州で第2位につけ、民主党全国大会において、民主党候補者指名を獲得したジミー・カーターに次いで第2位となった。

 

しかし、民主党候補者指名を獲得する寸前まで行ったのは3名しかいない。ジェリー・ブラウンは当時アーカンソー州知事だったビル・クリントンに大差をつけられての2位であった。1984年の米大統領選挙民主党予備選挙ではゲイリー・ハートは先頭を走っていたが、不倫問題で脱落することになった。1920年、カリフォルニア州選出連邦上院議員ウィリアム・ギブス・マカドゥは、全国大会での投票で接戦の末にオハイオ州知事ジェイムズ・コックスに敗れた。

 

ハリスとその他の選挙戦出馬を考えている人々は、民主党予備選挙におけるアメリカ西部出身者の敗北の歴史を覆したいと願っている。しかし、こうした人々が勝利を収めようとするならば、西部出身ということ以上のものをアピールする必要があるだろう。

 

クレッグは「カリフォルニアの人間がアイオワで戦えるだろうか?という疑問は確かに存在する。しかし、私たちは戦える、と考えている」と語った。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)


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