古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:北朝鮮







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 昨年末から今年初めにかけて、世界的には何だか元気のない状況になっています。2016年に景気上昇するという予測は立ちづらく、更にはテロの危険が世界各国に拡散しているとして、みんなで盛り上がろう、という感じはありませんでした。

 

 日本では昨年末に、日中戦争、太平洋戦争中の韓国人女性の従軍慰安婦問題について、日韓両国で最終的な解決となる合意がなされました。安倍晋三総理大臣は、従軍慰安婦に関して様々な疑義を呈する立場を取っていましたが、最終的には謝罪の声明を、岸田文雄外務大臣を通じて発表しました。日韓両国で外交関係上は「これ以上、この問題を蒸し返さない」ということになりました。今回の合意について、日本の安倍政権を支える右翼や一部保守派、韓国国内の様々な勢力から批判が出されました。今回の合意に関しては、第三国であるアメリカの意向が強く働いて、ある意味で急転直下の合意ということになりました。安倍晋三政権の「リアリスト(現実主義的)」外交の勝利ということを言う人たちもいましたが、第三国、しかも宗主国の意向を受けて慌てて合意するような外交、自主的に自分たちの抱える問題を解決できないような外交はリアリスト外交とは言いません。

 

 中東では、イスラミック・ステイト(IS)に対するロシアの攻撃があり、ISの勢力が減退しつつあるようです。結局、アメリカ(とサウジアラビア、イスラエル)が直接、間接に育てたISの始末をつけるのに、他人であるロシアの手を借りねばならなくなったという大変情けない状況になりました。いい面の皮となったのがシリアで、シリアのバシャール・アサド大統領の政府軍と反政府軍の内戦だったものが、いつの間にか、中東を巻き込む「代理戦争」となって、シリアは悲惨な状況になってしまいました。

 

 そうした中で起きたのが、サウジアラビア、バーレーンとイランの断交(外交関係の断絶)です。サウジアラビアがイスラム教シーア派の聖職者を処刑したことで、イラン国民の一部が激怒し、テヘランのサウジアラビア大使館を襲撃したことがきっかけで、サウジアラビアがイランの外交団の国外追放を決めました。サウジアラビアとしては全て予定の範囲内の、シナリオ通りの行動と言えるでしょう。

 

 イランはアメリカとの間で核開発を巡り、核兵器を開発しないことで合意に達していました。ここからイランとの間で国交正常化まで進む可能性もあります。そうなると、中東世界におけるサウジアラビアの影響力は低下します。更には、ISの脅威もサウジアラビアにとっては深刻です。ここで、不安定な中東世界にさらに不安定な要素を加えることで、低落傾向が続く原油価格は上昇しますし、アメリカも改めて、サウジアラビアに対するご機嫌取りに動くという計算もあるでしょう。 

 

 中東が不安定さを増す中で、アジアでも不安定さを増す事件が起きました。本日、北朝鮮が水爆実験を行ったと発表しました。これによって、北朝鮮を取り巻く日中韓は難しい状況に置かれてしまいます。アジア地域は経済発展が著しい訳ですが、安全保障環境が不安定になれば経済にも悪影響を及ぼすことになります。

 

 新年早々から、世界は不安定な状況に置かれてしまいました。しかし、こうした状況を利用しようとするのが、アメリカのネオコン(共和党)・人道主義的介入派(民主党)です。考えてみれば、こうした状況ではアメリカの軍事介入が望まれるようになるのですから、アメリカの優越と軍事介入を主張している両グループにとっては、渡りに船の状況です。

 

 サウジアラビアとイランが直接、事を構える(ミサイルを撃ちあう)、それにイスラエルが絡むということになれば、中東で新たな戦争が起きるということもあるでしょう。アジア地域では、北朝鮮の存在のために中国が苦境に立たされることもあるでしょう。

(23:05に加筆します。)

 

 私はオバマ政権最後の1年となった2016年、アメリカと北朝鮮との間で、イランやキューバの場合と同じく、ホワイトハウス主導で緊張緩和があるのではないかと考えていました。しかし、今回、北朝鮮が水爆実験を行いました。北朝鮮内部に、アメリカとの緊張緩和を妨害したい勢力がいるのだろうと推測されます。彼らは北朝鮮の今の体制を維持したいのだろうと思います。そして、こうした勢力はアメリカ国内のネオコン・人道主義的介入派とつながっているのだろうと思います。彼らの使嗾もあって、何カ月も前から水爆実験の準備が進められ、今回行われたのではないかと私は考えます。

 
 年末年始にかけて起きたことを一つの線で見てみて、「誰が一番得をするのか」ということを考えると、ネオコン・人道主義的介入派ということになります。アメリカは今年、大統領選挙の年で、来年には新しい大統領が誕生します。昨年の段階で、既にヒラリーの勝利がほぼ確定的と言えるでしょう。彼女の介入主義にとって、世界が不安定であることは、「得」なことなのです。一連の事件の裏には、アメリカの両グループとそれらに結び付いた現地勢力がいることは間違いないと言ってよいでしょう。
 

 アメリカのネオコン・人道主義的介入派が喜ぶような状況になれば、安保法制を成立させている日本に寄せられる期待(命令)は大きなものとなります。2016年、そして新年早々来年のことを言うと鬼が笑うかもしれませんが、2017年は世界にとって何か大きなことが起きて、多くの人々が苦難に苦しむようなことになるのではないか、と私は危惧しています。

 

(終わり)








 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





 古村治彦です。

 

 今回は、ヘリテージ財団のウェブサイトに掲載された文章をご紹介します。この文章によると、2015年10月にヘリテージ財団の研究員たちが訪日し、早稲田大学でのパネルディスカッションに参加し、防衛省を訪問したそうです。

 

 こうした機会にどういう話があったのかは分かりませんが、「東アジアにおける安全保障環境は悪化している。従って、日本はより大きな負担と責任を負うようにすべきだ」というこの文章の内容から、何となくどういう話があったのかは推測できます。

 

 より厳しい2016年になっていきそうです。

 

==========

 

日本におけるエネルギーと安全保障(Energy and Security in Japan

 

ライリー・ウォルターズ(Riley Walters)筆

2015年11月23日

ヘリテージ財団ウェブサイト

http://dailysignal.com/2015/11/23/energy-and-security-in-japan/

 

 今年の10月、ヘリテージ財団所属の研究者たちの代表団は日本を1週間にわたって訪問する機会を得た。同時期、日本はエネルギーの多様性を高めることとアジア地域における安全保障環境の変化と挑戦について専門家たちが知識を得ることが国益の増進につながることが明白な状況であった。

 

日本国際協力センターを通じて、研究者たちは「カケハシ・プロジェクト:ザ・ブリッジ・フォ・トモロー」に参加した。このプロジェクトに参加することで、ヘリテージ財団の研究員たちは多くの官僚や学者たちと会う機会を得た。

 

 東京にある早稲田大学で一連のパネルセッションが開催された。学者と官僚は、日本の安保法制に関する反対の考え、批判を発表した。日本政府は地域と国際的な安全保障におけるより積極的な役割を果たすことが出来るようになり、集団的自衛権を認める法律を成立させた。日本国民の中には、日本を国際的な紛争に巻き込ませてしまう立法における変化について懸念を持っている人々がいる。早稲田でのセッションでも多く表明された考えがこうした懸念を反映していた。

 

 代表団は日本の防衛省を訪問する機会を得た。この時、代表団はアジア地域における安全保障に関して日本が直面する真の懸念を知ることが出来た。中国、ロシア、北朝鮮それぞれによる軍備増強、軍事予算の拡大、戦略的な軍備配置がそうした懸念を引き起こしている。南シナ海における安全保障環境を一例として挙げたい。日本が輸入する石油と天然ガスの3分の2は南シナ海を通っている。この地域は日本の国益にとって重要である。特に2011年以降、エネルギー輸入量が増加している状況でその重要性は増している。

 

2014年、日本の航空自衛隊は東シナ海と北方領域における中国とロシアの航空機の侵犯に対応するために900回以上のスクランブル発進を行った。

 

 アメリカの政府関係者たちは、日本の安全保障政策の変化を長年待ち望み、その変化を歓迎している。そして、この変化のおかげで日米二国関係が強化されるだろうと述べている。「2016年版インデックス・オブ・USミリタリー・ストレングス」に書かれているように、アジア地域の環境は「好ましい」状況にコントロールされてはいるが、アジア地域に駐留するアメリカ軍の装備は時代遅れになりつつあり、厳しい状況になっている。中国とロシアはアメリカの国益にとってのリスクであり続ける。一方で、北朝鮮の脅威は深刻な状況だ。北朝鮮政府は核開発プログラムを継続している。こうした事態に対応して、東アジア地域のアメリカの同盟諸国は、地域の安全保障に対してより大きな責任を共有することが重要になっている。

 

 アメリカと日本は60年以上にわたり同盟関係を堅持している。そして、これからも同盟関係が堅持され続けることは疑いないところだ。アジア・太平洋地域において古くからの、そして新しい脅威が存続している状況で、脅威に対応するためにアメリカと日本がアジア地域にある他の同盟諸国と緊密に協調することが何よりも重要だ。

 

ライリー・ウォルターズ:ヘリテージ財団付属デイヴィス記念国家安全保障・外交政策研究所研究アシスタント

 

(終わり)







 
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ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に小野寺五典代議士(自民党)・元防衛大臣(第二次安倍内閣、2012―2014年)のインタヴュー記事が掲載されましたので、ご紹介します。

 

 小野寺議員が韓国について懸念を持っていること、そして日本の防衛関係者たちがアメリカの無人戦闘機(ドローン)グローバル・ホークの導入を目指していることが分かります。

 

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「日本は独力で平和を守り、維持できない(‘Japan Alone Cannot Guard or Sustain Peace’)」

―フォーリン・ポリシー誌は日本の元防衛大臣と中国の平和的台頭に対峙するための日本国憲法の再解釈について語った

 

アイザック・ストーン・フィッシュ(Issac Stone Fish

2015年6月16日

『フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)』誌

http://foreignpolicy.com/2015/06/16/japan-alone-cannot-guard-or-sustain-peace-defense-minister-itsunori-onodera/

 

朝鮮半島での動乱について語る際、多くの人々は北朝鮮に言及するが、韓国に言及する人は少ない。

 

 しかし、2014年9月まで防衛大臣を務めた小野寺五典は、韓国政府の北朝鮮に対する「挑発的な」行動について懸念を持っている。

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 日本の国会議員である小野寺は、日本の防衛政策に深く関与している。その中には、日本国憲法の再解釈を巡る議論も含まれている。日本国憲法の再解釈が可決されれば、日本はより行動的な軍隊を派遣することが出来るようになる。

 

 6月15日、国会内の彼の事務所で、『フォーリン・ポリシー』誌のアイザック・ストーン・フィッシュが小野寺にインタヴューを行い、日本のドローン使用、朝鮮半島における緊張、中国が平和的に台頭すると確信しているかどうかについて質問した。

 

 インタヴューは通訳を介して行われた。そして、インタヴュー内容を明確にするために編集し、要約を施している。

 

 フォーリン・ポリシー誌:この5月、金正恩が国防部長を粛正した。貴方は、北朝鮮の不安定さについて懸念を持っているか?

 

 小野寺五典:金正恩は最近も北朝鮮の防衛に関わる幹部たちを粛正していると私は聞いている。状況を判断するのは難しい。こうした行動が金正恩の権力基盤を強化するのか、それとも北朝鮮の軍部内部に不安定さが存在するのでこうした出来事が起きたのか、判断できない。

 

 しかし、私が懸念を持っているのは、韓国から北朝鮮に対してのやや挑発的な態度である。

 

 韓国の朴槿惠大統領は現在、北朝鮮を標的にするミサイル発射テストの実施を考え、そのための調査を行っている。これは最近の新しい動きである。私たちの懸念は、これが北朝鮮に対する挑発にならないかということであり、挑発にならないように願っている。

 

 韓国国内における混乱と人々の不満からの反政府行動もあり、朴大統領の支持率は低下し続けている。私は朴大統領が強制的な手段に訴えないことを願うばかりだ。

 

フォーリン・ポリシー誌:憲法の再解釈に関する国会における議論の最新の内容について教えて欲しい。

 

小野寺五典:日本は単独で平和を守り、維持することはできない。従って、平和を維持する目的のために、私たちはアメリカとの同盟関係を深化させている。同誌に他国との友好関係を強化している。

 

 アメリカとの間には安全保障条約があり、アメリカは日本を日本とともに共同防衛する責任を負っている。

 

 その前提条件として、当然のことながら、日本の自衛隊は日本を防衛しなくてはならない。しかし、現在の法制上では、日本の自衛隊は日本を防衛するアメリカ海軍に対して十分な防衛を与えることはできない。

 

 実際、アメリカ海軍の船舶が攻撃されたとして、公海上でこの船舶を防衛することは集団的自衛権の行動であると見なされるであろう。

 

 そして、ある国がアメリカを攻撃し、日本の領空城を越えてアメリカに向けてミサイルを発射した場合、現在の法制上では、このミサイルに対して日本は反撃を加えることはできない。

 

 アメリカ海軍の船舶に対する攻撃が日本の安全保障に重大な結果をもたらすような場合にのみ、日本は集団的自衛権を行使することになるだろう。こうした制限された条件と状況の下でのみ、だ。

 

フォーリン・ポリシー誌:6月14日、私は国会の外に多くの人々が集まり、安倍晋三首相と彼の憲法改正計画に抗議している様子を見た。アメリカ政府は日本政府がこの憲法再解釈計画を可決できないのではないかと考えるべきだろうか?

 

小野寺五典:この法案がある程度の時期を経て可決されることに何の問題もないと私は考えている。安倍首相が述べているように、この夏までに法案が可決されると私は確信している。遅くとも8月末までには可決される見込みだ。しかし、もしかしたら9月にまでずれ込む可能性もある。

 

フォーリン・ポリシー誌:日本が憲法改正に成功すれば、日本は中東地域においてアメリカを助けることが出来ると言えるか?

 

小野寺五典:憲法の再解釈によって、アメリカの中東での活動を日本が実質的に助けることが出来るようになると考えない方が良い。

 

フォーリン・ポリシー誌:外交儀礼として、日本政府は中国政府に対して憲法改正について連絡をしているのか?

 

小野寺五典:外交レヴェルで、日本政府は近隣諸国に説明をしており、その中には中国も含まれていると聞いている。

 

フォーリン・ポリシー誌:現在の日中関係は冷戦状態、もしくは冷戦状態に入る危険性を持っていると考えるか?

 

小野寺五典:その答えはノーだ。私は現在の状況を冷戦状態とは言えないと思う。しかし、日本だけではなく、他の複数の東南アジア諸国も中国の行動を注意深く監視している。

 

フォーリン・ポリシー誌:中国は「平和的な台頭」と「協調的な社会」を主張しているが、他の近隣諸国は中国を信用していると思うか?日本政府は中国を信用しているのか?

 

小野寺五典:他の近隣諸国も日本も中国を信用してはいないと思う。しかしながら、どの国も経済面においては中国と友好関係を築きたいと考えていると思う。

 

フォーリン・ポリシー誌:2013年9月に私たちは話し合ったが、それ以降、尖閣諸島を巡る状況は悪化しているのか、それとも改善しているのか?

 

小野寺五典:あの時点以降、何も変わっていない。中国の一般の船舶が複数回日本の領海内に入ってきてはいるが、中国海軍との間で事件は起きていない。

 

フォーリン・ポリシー誌:日本は現在、尖閣諸島のパトロールにドローンを使用しているか?

 

小野寺五典:最近、調査と監視を目的として普通の飛行機を使用している。現在のところ、日本が尖閣諸島のパトロールのためにドローンを使う計画を持っていないと思う。

 

 しかし、日本はドローンを有効に使用する意図は持っている。現在アメリカが使用している「グローバル・ホーク」を将来は導入することになるだろう。グローバル・ホークはより広い地域の調査とパトロールを行う際に有効である。

 

フォーリン・ポリシー誌:現在、中国は尖閣諸島のパトロールでドローンを使用しているのか?

 

小野寺五典:そうした動きが起きているというサインがあると私は聞いている。しかし、詳細については聞いていない。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は、安倍首相訪米に関する記事を2本ご紹介します。1本目は「明確な謝罪」がないことへの批判、2本目は肯定的な評価がなされています。是非読み比べてみていただきたいと思います。1つ言えることは、日本はアメリカの従属国として、アメリカに移行に従って生きていかねばならないということは70年経っても全く変化していないという事実です。

 

 2020年の東京オリンピックの開会式でも安倍首相を見るのかと思うと、「やれやれ」と思ってしまいますね。その前に、オリンピックが無事に開催されるような国際情勢なのかどうか、不安がありますが。

 

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安倍晋三の残念な謝罪(Shinzo Abe’s Sorry Apology

―日本の安倍晋三首相は日本の犯した罪に対してきちんとした謝罪をする必要がある

 

スンユン・リー、ザック・ルジスタップ筆

2015年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/05/01/japan-shinzo-abe-sorry-apologies/

 

 それは勝利のウイニングランになるはずであった。日本の安倍晋三首相は4月末にアメリカを訪問し、戦後の日米関係の大きな成功を示すことが出来るはずであった。より緊密な軍事同盟の確認、環太平洋経済協力協定(TPP)の促進、連邦上下両院合同の場での安倍首相の演説(日本の首相として初めて)といったことが予定されていた。日米二カ国間の防衛ガイドラインによって、アジア太平洋地域を超えて、アメリカ主導の軍事作戦に日本が参加できるなり、より説教的な役割を果たせるようにもなった。歴史的な演説の中で、安倍首相はTPPの長期的な戦略的な価値を強調することに力を注いだ。

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 しかし、安倍訪米はバラク・オバマ大統領と政権にとってイライラの種となっていくだろう。それは、安倍首相が20世紀の前半でアジア諸国に対して犯した日本の戦争犯罪について言及を避けたり、言葉を濁したりしたことが原因となる。日本の帝国主義の被害者となった韓国と中国の多くの人々は、安倍首相の議会演説に注意を払っていたが、安倍首相は「植民地支配」「侵略」「心からの謝罪」といった言葉を使わないように汲々としていた。歴代の日本の首相の謝罪ではこうした言葉が重要であった。安倍首相は、醜い言葉である「慰安婦」として知られる、日本に性的な奴隷労働を強制された数多くの女性たちのことに言及しなかった。安倍首相の演説に対する各国の公式な反応は、「大変に遺憾」(ソウル)、日本の「侵略の歴史」を反映した警告を発する(北京)、安倍首相と彼の支持者たちは「フーリガンであり、サイコパスだ」(ピョンヤン)であった。

 

 安倍首相の進める最近の歴史修正主義は、ワシントン―東京―ソウルの三国間の関係を損ねるし、関係悪化をピョンヤンと北京に利用されるだろう。日本と韓国という2つのアメリカに従属する民主国家は北朝鮮とその保護国である中国と対峙するために協力してきた。一方で、両国は日本の歴史の逆行によって仲違いしている。韓国が実効支配している竹島(独島)を巡る攻撃的な主張を日本が強めており、これによって対立は深まっている。組織的な戦争犯罪について許容するために、安倍首相は韓国政府を更に遠ざけ、中国政府の宣伝に利用されている。その結果として、アメリカ政府にとって戦略上の問題になってしまう。これは冷戦後の日本の歴代首相はしなかったことだ。

 

 残念なことだが、安倍首相が行った無礼な行為はこれが初めてではない、2012年12月に首相になって以来、安倍氏は論争の的になっている靖国神社を訪問し、供物を捧げている。また、1993年に日本政府が発表した、「慰安婦」問題に対する声明を再検討するように政府の特別委員会に命じている。また日本の新聞『朝日新聞』が1980年代から90年代かけて発表した強制的な性的な奴隷労働に関する一連の記事を撤回したことに対して執拗に攻撃を加えている。それは慰安婦システムの強制性を否定するためだ。安倍首相は特別施設をニューヨークに派遣し、1996年に国連が発表した、戦時中の売春に関する人権報告書の一部を撤回することを求めたし、アメリカの教科書出版社大手のマグロウ=ヒル・エドゥケイション社に対して「慰安婦」に関連する段落の見直しをするように説得しようと試みた。

 

 2015年3月、安倍首相は『ワシントン・ポスト』紙とのインタヴューで自身の考えを明らかにした。インタヴュアーが安倍首相に対して貴方は「歴史修正主義者」かと質問したところ、安倍首相は「慰安婦についての質問について答えると、私は慰安婦となった方々に同情している。そうした人々は人身売買の犠牲となり、計り知れない苦痛と表現できないほどの苦しみを味わった。そのことに関して私の胸は痛む」。

 

 この安倍首相の同情を示す声明においては、文法学者に質問するまでもなく、誰が実際に人身売買を行ったのか、その主体が抜け落ちていることは明らかだ。また、論理学者に聞くまでもなく、安倍首相は「慰安婦」を人身売買の犠牲者だと位置付けているが、日本の性的な奴隷労働システムが女性たちを犠牲にしたことは明言していない。論理をおざなりにし、過失を否定することで読者たちは安倍首相の心の痛みだけしか印象に残らない。

 

 この安倍首相の姿勢はオバマ大統領の姿勢とは全く異なるものである。それでも安倍首相は彼の攻撃的な姿勢を崩さない。2014年4月、オバマ大統領は日本軍の性的な奴隷労働について、「恐るべき、言語道断な人権侵害」と呼んだ。2015年3月、安倍首相は自国の立場を「平和に対する積極的な貢献者」としながら、「これまでの歴史において、多くの戦争が起きた。その中で、女性たちは常に権利を侵害されてきた」と述べた。君が悪いほどの一貫性をもって、この曖昧な戦争における女性の人権に対する懸念(中身がはっきりしない)は安倍首相の議会演説でも再び姿を現した。

 

 安倍首相の謝罪を行わない態度は韓国政府を苛立させるだけであろう。韓国の朴槿惠大統領は北朝鮮の最高指導者金正恩と無条件で会談したいという希望を明らかにしているが、日本の安倍首相に対しては慰安婦問題に関して直接言及した後でという条件を付けている。米日韓の離間によって、北朝鮮は今年10月に迎える朝鮮労働党創設70周年で挑発的な態度を取っても大丈夫だと考えるだろう。朝鮮労働党は抗日を強調した物語の上に成り立っている政党である。また米日間の不協和音を利用して、中国は東シナ海でより積極的な態度を取るであろう。東シナ海には日本が実効支配している尖閣諸島(中国名は魚釣島で中国が領有を主張している)があり、これが日米同盟の有効性をテストする存在になっている。自責の念を表明しない日本政府によって、日本の戦時中の残虐行為と人々の精神的な傷は癒されることはない。そして、北朝鮮と中国は日本と仲違いをしている韓国を仲間に引き入れて、一緒になって日本に対峙しようとして、アメリカ政府を狼狽させるかもしれない。

 

 2015年8月15日に安倍首相による次の重要な演説が行われる。これは日本の降伏70年に関するものとなる。この演説に関して、オバマ政権は道徳的、外交的な面でのテストを行うべきだ。オバマ政権は安倍首相に対して、一般市民の虐殺や強制された性的な奴隷労働のような残虐行為を含む日本の戦争犯罪についての謝罪を明確に行うように主張すべきだ。また、事実を隠蔽し、受け身の言葉遣いを使うことで、これまでの政府を堅持するといういつもの常套句を繰り返さないように主張すべきだ。

 

 更に言えば、安倍首相は、生存している性的な奴隷労働の犠牲者たちに対して補償を行うことで自身の言葉に信頼性を与えるべきだ。安倍首相は第一線の日本人、韓国人、中国人の学者たちによって構成される歴史問題についてのワーキンググループを発足させ、韓国と中国と歴史研究を共同して行うべきだ。このような試みは実を結ぶまでに時間を要するだろうが、広報外交は進歩を証明することが出来る分野の一つである。

 

中国は日本の戦時中の残虐行為を政治的に利用しようしたいという誘惑に抵抗すべきだ。韓国の朴大統領も共通の安全保障問題について柔軟性を見せ、安倍首相と直接やり取りをすべきだ。北朝鮮が核兵器を増強することは日韓両国にとって共通の安全保障上の脅威である。朴大統領の父、朴正煕元大統領は、韓国全体で反対されたにもかかわらず、1965年に日本との関係を正常化した。彼女の父朴正煕は権威主義的な指導者で、世論をコントロールする手段を持っていた。朴大統領は北朝鮮の脅威に対処するためには日本は暗黙の同盟国であるという認識を持っているだろうが、そのことを曖昧にすべきではない。


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 北朝鮮に対抗するために韓国と協力し、中国に軍事力増強の口実を与えないようにすることは、日本にとって敗戦70年の節目の年にとって意義深いことになるであろう。世界から平和に対する積極的な貢献者として歓迎されるためには、安倍首相は過去の犯罪に対して適切な反省をまず見せる必要がある。

 

(終わり)

 

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アメリカと日本にとっての新しい夜明け(A New Dawn for the U.S. and Japan

―安倍首相の訪米は日本の安全保障政策の大転換を完成させる

 

K・ジャック・ライリー、スコット・W・ハロルド筆

2015年4月29日

ランド研究所

http://www.usnews.com/opinion/blogs/world-report/2015/04/29/shinzo-abe-visit-caps-new-dawn-in-us-japan-relations

 

 日本の安倍晋三首相による水曜日の議会演説は日本の安全保障政策の大転換を完成させ、第二次世界大戦終結後の日米関係にとっての重要な転換となった。第二次世界大戦後、勝利者であるアメリカは敗れた大日本帝国に対して平和憲法を押し付けた。

                                                                                                          

 1947年の公布から2014年まで、日本国憲法第9条について、日本の歴代政権は、「外部の脅威に対して“防衛”を行う事態以外に軍事力を使うことを禁止されている」と解釈してきた。しかし、2014年7月以降、安倍政権は日本国憲法第9条の再解釈を行い、日本の防衛の定義を拡大し、「集団的自衛権(collective self-defense)」を認めた。

 

 集団的自衛権へと向かう転換によって、日本は同盟諸国との共同軍事行動に参加できるようになる。たとえ自国が直接攻撃を受けていなくても、それはつまり、自国の地理上の国境を越えて安全保障手段を取ることが出来るのである。このことを安倍首相は「積極的平和井主義(proactive pacifism)」と表現している。今週の安倍首相のワシントン訪問は、アメリカとの二国間の安全保障同盟関係の強化を意図したものだ。一方で貿易協定である環太平洋経済協力協定(TPP)を推進する目的もあった。

 

 日本の新しい防衛政策の輪郭は少なくとも安倍首相が退任するまでは有効となるであろう。専門家の多くは、安倍首相は2020年の東京オリンピックまで続き、世界中からの選手たちを歓迎するまで続くのではないかと見ている。

 

 安全保障の変化によって何が起きるだろうか?確実に起こりそうなのは、アメリカ、日本、オーストラリア、インド、そして、韓国、フィリピン、その他の友好諸国の間でのアジア太平洋における安全保障戦略の協調である。今年初めに日本で開催されたおよそ100名の防衛と外交に携わる政府高官たちが参加した会議で、日本の指導者たちがアジア太平洋地域において、アメリカと日本の影響力が小さくなり、中国が将来支配することになるかもしれないというシナリオを退け、民主政治体制、自由市場、そして法の支配を発展させようと強く決心していることを知り、感銘を受けた。

 

 その他のいくつかの分野でも協力が強化されるという魅力的な未来が予見されている。

 

・人道支援と災害復興支援。アメリカと日本は、最近のネパールでの地震のような自然災害と人道に関する危機に対する対応にまで日米同盟の役割を拡大し始めるだろう。近隣諸国に対してより大きな支援と救済を届けるために軍事的な資産を利用することで、日本は自国の領海や領空の外での作戦行動の経験を積むことが出来るだろう。そして、近隣諸国の友好を構築できるだろう。このような作戦はまた、同盟諸国の作戦に対して平坦の部分で貢献してきた日本の伝統的な役割に即したものでもある。

 

・宇宙とサイバー空間の安全保障の協力。日本は技術的なノウハウと宇宙開発と調査における産業基盤を獲得している。その中には衛星技術とイメージシステムが含まれている。同盟諸国のサイバー空間での安全保障が改善されることで、同盟諸国間の抑止力と防衛に関する姿勢の違いは埋められていくであろう。

 

・情報・諜報収集。日本の防衛役割は拡大し続けており、そのためにより強力な国家情報・諜報インフラを構築され始めている。情報・諜報収集分析能力は拡大しているが、それによって日本は同盟の中でより平等な役割を果たせるようになり、アジア・太平洋地域内の動向、脅威、機会についてのより良い評価を行うことに貢献できるようになるだろう。

 

•防衛機材調達マネイジメント。日本の主要な武器システムの調達能力は改善されている。こうした変化によって、防衛産業の分野でアメリカと日本はより緊密に協力することが出来るようになるだろう。アメリカの経験と日本のハイテクが融合することで輝かしい未来が約束されている。

 

・武器輸出、セールスと移転。防衛機材の日本からの移転はフィリピンやヴェトナムのような国々の防衛能力と同盟国としての能力を向上させ続けている。フィリピンやヴェトナムのような国々は南シナ海における中国の領土拡張の試みに対して懸念を持っている。日本はまた、イギリスやフランスとの間で防衛産業間の協力を強化することで合意している。インドは日本の潜水艦技術に対する関心を表明している。オーストラリアは、日本の潜水艦に対する関心を隠そうともしていない。彼らは日本製の潜水艦の購入者第一号となるかもしれない。アジア太平洋地域の友好諸国に対する防衛機材のセールスと移転によって、日本は自国の防衛産業をコストパフォーマンスの良い産業に近代化することが出来るだろう。

 

 これらの分野ではこれからの数年でいくつかの進展が見られることだろう。これらの分野での進展は日本の防衛改革に取り組みにとっての真のテストとなるだろう。アシュトン・カーター米国防長官は、日本の新しい安全保障政策は日米の二国間同盟を「変化」させ、世界規模で日米の「協力」を促進させるだろうと述べた。そのような日が実際にやってくるなど、第二次世界大戦後の日本国憲法の制度設計を行ったアメリカ人たちは全く想像できなかっただろう。しかし、日本は、彼らの想定した通りの、平和的、民主的、自由な法治国家で、自由を基調とする国際秩序を支援する国であり続けるだろう。

 

(終わり)









 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

 古村治彦です。

 

 今回は北朝鮮に関する論稿をご紹介します。金正恩が公の場に姿を見せなくなったことで欧米のメディアでは、北朝鮮の不安定化を懸念する声が上がっています。そのことを示す論稿です。

 

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一枚の絵から見る、北朝鮮の金正恩が権力を掌握する必要がある理由(One image shows why we need North Korea’s Kim Jong-Un in power

 

スー・チャン(Sue Chang)筆

2014年10月6日

MarketWatch

http://blogs.marketwatch.com/themargin/2014/10/06/one-image-that-shows-why-we-need-north-koreas-kim-jong-un-in-power/?link=sfmw_fb

 

 金一族は三世代にわたって北朝鮮において権力を掌握してきた。金一族が支配してきた北朝鮮は、天然資源の豊かな国家という地位から世界でも最も貧しい国の一つへと転落した。

 

 現在の最高指導者である金正恩が入院し、経験不足の妹である金汝貞が国家を運営していると報告されている。金正恩は2011年に父の跡継ぎとなり権力を掌握し、3年しか経っていないが、既に権力継承に関する疑問が出ている状況だ。

 

 北朝鮮はジョージ・オーウェルの小説に出てくるような国家であり、情報を得ることが難しく、分析も困難だ。この非合理的な破綻国家は韓国と日本に対して好戦的であるが、これだけが北朝鮮を非難する理由ではない。アメリカはこの孤立した国家が核兵器開発能力を手にすることを恐れているのだ。

 

 金正恩の健康回復により時間がかかり、権力の座に戻ることが遅れてしまうと、誰が彼の後に権力を掌握するのかという疑問が出てきて、北朝鮮政治の中心テーマとなる。

 

金正恩の不在が長引くことで無秩序が発生し、様々な派閥が権力を巡って争う可能性が高まり、一方で国際社会が北朝鮮国内の不確実な状況の継続を望まないという状況にある。こうした状況下、アメリカは韓国と日本を軍事的に防衛する義務がある。中国は大国としての地位を守るためにも、裏庭とも言うべき北朝鮮の安定を望む。

 

それでは誰が権力を継承し、国を支配するのか?金一族の家系図を見る限り、金正恩の後継者の有力な候補者は見当たらない。金一族の権力掌握の脆弱さだけが浮き彫りとなっている。

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●金日成(Kim Il-Sung 1912-1994年):金正恩の祖父。金王朝の創設者。北朝鮮の初代国家主席。

 

●金正日(Kim Jong-Il  1941-2011年):金正恩の父。3人の女性との間に5人の子供たちをもうけたと言われている。

 

●金敬姫(Kim Kyong-Hui 1946年―):金正日の妹。夫である張成沢の処刑以降、公の場に姿を見せていない。

 

●張成沢(Jang Sung-Taek 1946-2013年):金正恩の叔父。有る時期、北朝鮮における最も有力な人物の一人。2013年に汚職のために粛清。

 

●金正男(Kim Jong-Nam 1971年―):金正日の長男であり、金正恩にとっては異母兄。父親から後継者として承認されず、現在は事実上の亡命生活を中国で送っていると言われている。

 

●金正哲(Kim Jong-Chul 1981年―):金正日の次男であり、金正恩の兄。彼もまた父親の後継者になることはできなかった。彼についてはほとんど情報がなく、金正恩が権力を掌握してからほとんど公の場に姿を見せていない。

 

●金正恩(Kim Jong-Un 1983年―):現在の北朝鮮の支配者。母親は側室、末っ子であったために、父の後継者になったことは予想外のことであった。

 

●李雪主(Ri Sol-Ju 1986年―):2009年に金正恩と結婚したと言われている。北朝鮮政府から発表された写真を見ると、若く、スタイリッシュな女性である。

 

●金汝貞(Kim Yo-Jong 1987年―):金正恩の妹であり、彼の執政を務めているとも言われている。情報はほとんどなく、最近まで人々の目から遠ざけられた存在であった。

 

●金ジュエ(Kim Ju-Ae 2012年―):金正恩の娘。彼女の存在は昨年北朝鮮を訪問したNBAの元スター選手デニス・ロッドマンによって確認されている。

 

(終わり)









 

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