古村治彦です。

 今回は『21世紀の戦争論 昭和史から考える』をご紹介したい。「歴史探偵」半藤一利氏とロシア専門家佐藤優氏の対談である。ロシア(旧ソ連)の行動原理について佐藤氏が述べ、それを半藤氏が昭和史に当てはめて敷衍して解釈していくという流れになっている。
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21世紀の戦争論 昭和史から考える ((文春新書))

 半藤氏にはノモンハン事件やソ連の満州侵入に関する著作もあり、ソ連の行動について自分なりにも調査研究を重ねてきたが、佐藤氏との対談で腑に落ちることが多かったようだ。

 ロシア(旧ソ連)は目的のためには感傷的にも感情的にもならずに人命など考慮に入れることなく、最短距離を突き進む。これを合理的という。ロシア(旧ソ連)の行動、私たち日本人には不可解な行動もそうした合理的な行動であり、目的を持って行なっている。また、ロシア人の行動原理として、「中間地帯・緩衝地帯がなければ大きな不安に襲われるのでそれを確保することに躍起となる」というものがあることを佐藤氏は指摘している。ヨーロッパで言えば東欧諸国、アジアで言えば中国や北朝鮮、アフガニスタンの共産化を目指したのもイデオロギーというよりもロシア人の行動原理が主な理由であるようだ。スターリンとしては北海道北部を独立・傀儡化させ、日本との間に緩衝地帯を作りたいと考えていたが、それは実現しなかった。そのためにスターリンは意趣返しの意味もあり、日本人のシベリヤ抑留を行なったというのが佐藤優氏の見方だ。

 『21世紀の戦争論』の中身を簡単に振り返っておく。

 細菌戦のための人体実験を行なった731部隊について最初に取り上げられている。ロシア(旧ソ連)は終戦直後に関係者たちを尋問し、既に情報を得ている。その最大の情報は731部隊の細菌戦や人体実験について昭和天皇は知っていた、直接指示があったということだ。これは最大の対日カードとして現在まで温存されている。ロシアあるいは中国が731部隊に関する主張を行なう際には日本側に何か要求があるということになる。

 大日本帝国の陸海軍は1905年に終了した日露戦争以降、大きな戦争をせずに過ごすことができた。その期間は約30年だ。20代前半で少尉任官した若者も順調に出世をしていれば、少将や中将になっている頃だ。もちろん陸軍士官学校や海軍兵学校出身者が全員少将以上になれるわけではない。大部分は大佐くらいで退役となる。実戦がないので戦闘で手柄を上げて出世するということは起きない。

こうした状況で少将以上まで出世をするのは徹底して間違いを犯さない官僚的人間と言うことになる。陸軍士官学校や海軍兵学校での成績が良く、陸軍大学校や海軍大学校に進める人たちであり、勉強秀才から冷徹で手続きに瑕疵を残さない官僚と言うことになる。そうした官僚的人間はこれまでの戦略や戦術には強いであろうが、実際に自分たちが決定を下すと言うことになると果たして強いのかというとどうもそうではない。

 官僚的人間ばかりが出世した日中戦争から太平洋戦争の日本の陸海軍の失敗は、官僚的自分たちによる責任を回避できる組織作りの故であったと半藤・佐藤両氏は結論づけている。両者が詳しいノモンハン事件についてみてみれば、見通しの甘さと情報不足のために、現場の日本軍将兵は奮戦したが惨敗。その責任はしかし司令官が取るのではなく、現場指揮官たちが死をもって取ることになった。生き残った現場指揮官クラスは軒並み自決を強要された。作戦の立案と指導に当たった参謀の服部卓四郎や辻政信は一時期左遷されたが、太平洋戦争直前に復活した。失敗を隠蔽し、失敗を教訓としない日本軍は最終的に解体の憂き目に遭った。

 失敗から学ばず、官僚的組織を作り、上層部が責任を回避するというのは現在の日本でも行なわれる組織作りの特徴ということになる。これを繰り返している限り、日本全体は徐々に、ゆっくりとしたカーブを描きながら落ちていく。

(終わり)

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