古村治彦です。

 前回、2016年のアメリカ大統領選挙の投開票日の特集番組での専門家たちの様子を覚えておられる方も多いだろう。アメリカは国内時差の関係で、東部から順に投票が締め切られ、開票作業が始まる。カリフォルニア州では投票が続いていても、ニューヨーク州では開票作業が始まるという具合だ。それで、東部の各州から結果が出る。

 アメリカ東海岸の各州でヒラリーが順調に勝利を収めていたが、副大統領候補だったティム・ケイン連保上院議員の出身州ヴァージニア州で大接戦ということでおやおや、とまずなり、フロリダ州でもまだ結果が出ない、あれあれとなり、やがて、フロリダ州でトランプ勝利となった。専門家たちは、まだ余裕で、ヒラリーは五大湖周辺州で勝利すると言っていた。やがて、五大湖周辺州での結果が出てくると、専門家たちは顔面蒼白、もしくは顔面が真っ赤になり、番組はお通夜状態になった。

 この専門家たちの気持ちは分かる。自分たち自身は調査手段を持たない、判断の基準にするのは各種世論調査しかない、それらの結果ではヒラリーが勝っていたではないか、ということになる。前回の選挙から、世論調査の結果の正しさについて懐疑的な見方がより多く出るようになった。

 今年の大統領選挙に向けて数百、数千の世論調査が実施されてきた。日本でも「バイデン氏大量リード」というニュースが流されてきた。その根拠となっているのが、各種世論調査の数字だ。ところが、この数字の信頼性が揺らいでいる。そうなるとその報道内容自体も揺らぐことになる。日本に住んでいる専門家の場合、私たち素人とそんなに変わらない。アメリカでの報道を見て、各種世論調査の数字を見て、判断するしかないのだ。
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青色(民主党の色)がバイデン、赤色(共和党の色)がトランプ

 だから、専門家たちは前回の大どんでん返しで痛い目に遭ったので、バイデンが勝利確実とは言わない。「バイデン氏が有利だと思いますが、何が起きるか分かりませんのでねぇ」とお茶を濁す。本当に誠実な態度ならば、「私には判断できません、世論調査の数字も当てになりませんので、そうなると判断基準がないので」と答えるところだろうが、それではテレビに呼ばれないし、雑誌にも書かせてもらえない。

 こうした混乱を引き起こしているのは、「隠れトランプ支持者(hidden Trump voters)」「恥ずかしがり屋のトランプ支持者(shy Trump voters)」という考えだ。これは、トランプ支持者たちは世論調査に対して素直に答えない、もしくは回答を拒否する、ということで、実態がつかめない、だから世論調査の数字も実態を反映していない、というものだ。これを何とかあぶりだそうとして、世論調査専門家たちは苦労している。それで生み出されたのが、「(皆さん自身ではなく)皆さんが関係している人たちは誰に投票すると思いますか?」「その結果として誰が勝つと思いますか?」という質問だ。

 この質問の結果になると、トランプの数字が良くなる。回答者たちは「自分はバイデンに入れるよ、だけど、自分の周りの人たちはトランプに入れるだろう」という答えなのだろうし、もっと言えば、自分も本当はトランプ支持なのだが、「周りの人たち」の中に自分も入れて答えている可能性も高い。

 今回の選挙結果と世論調査の結果の乖離を調査研究して、世論調査の実態や正確性についてより広範な議論が出ることを期待したい。信頼性の低い世論調査の数字はおおきに迷惑な話なのだから。

(貼り付けはじめ)

トランプにとって良い結果が出た各種世論調査の存在によって、世論調査業界において議論を巻き起こしている(Positive Trump polls spark polling circle debate

ジョナサン・イーズリー筆

2020年10月30日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/523426-positive-trump-polls-spark-polling-circle-debate

ほとんどの世論調査機関や組織は、民主党の大統領選挙候補者ジョー・バイデンが大差のそして安定的なリードをトランプ大統領に対してつけている結果を示している。現在までに既に数千万人が既に投票を済ませており、選挙戦の流れを変える時間は残されていない。

いくつかの、逆張りの(へそ曲がりの)世論調査機関や組織は、トランプへの支持は実体よりも小さい形でしか世論調査の数字に反映されておらず、選挙のアナリストたちは選挙の投開票日に再び恥ずかしい間違いをすることになるだろうと確信している。

争いはソーシャル・メディアにまで出てきている。高名な政治アナリストたちの中には、トランプがバイデンをリードしているという結果を示した世論調査について退けたことで、争いが始まった。

「トラファルガー・グループ」は2016年の大統領選挙投開票日にミシガン州とペンシルヴァニア州でトランプがリードしているという結果を発表した、唯一の無党派組織であった。トラファルガー・グループは、今回の大統領選挙でも両州でトランプがリードしているという調査結果を出している。両州は今回の大統領選挙における選挙人獲得レースでもカギを握ることになる。トラファルガー・グループ以外のほぼ全ての機関や組織の結果では、両州でバイデンが安定したリードを保っている。

トラファルガー・グループのロバート・カハリーは、隠れトランプ向け投票(hidden Trump vote)が存在し、これは各種世論調査では調査対象にならないものだと述べている。そうなると、各種世論調査の結果は、バイデンのホワイトハウスへの道が滑らかなものであるということを示すことになる。

カハリーは次のように述べた。「前回に比べて、“恥ずかしがりのトランプ支持有権者たち”の数は増えています。これは疑いようのないことです。世論調査業界は2020年も破滅的な間違いへと進むことは十分に可能性のあることです」。

「ファイヴサーティーエイト」のネイト・シルヴァーと「クック・ポリティカル・レポート」の編集者デイヴ・ワッサーマンはトラファルガー・グループのカハリーが実施している世論調査の精度について大きな疑問を示している。

両者はトラファルガー・グループの世論調査のクロス集計について詳しく調査し、実施している世論調査についてトラファルガー・グループが関知していない、いくつかの疑問点を、精度の低さの証拠として発表した。例えば、民主党優位のミシガン州で実施したある世論調査(インターネット上からは既に削除されている)では、トランプがバイデンを8ポイントリードという結果であったが、そのクロス集計に問題があったとしている。

「ノース・スター・オピニオン・リサーチ」に所属している共和党系の世論調査専門家ジョン・マクヘンリーは次のように述べている。「トラファルガー・グループは、“独自仕様のデジタル方法論(proprietary digital methods)”を公表していないので、彼らが行っていることを正当に評価することは不可能です。これからの1年、トラファルガー・グループは成功するか失敗するかの分岐点にあり、大失敗の可能性も十分にあります。私たちは彼らが正しかったとしても間違っていたとしても、その結果について記憶し続けることでしょう」

ファイヴサーティーエイトが提示しているモデルではトランプ勝利の可能性は11%で、これはポーカーでインサイドストレートを引く確率とほぼ同じである。2016年の大統領選挙投開票日当日のトランプの勝つ確率は30%だった。

現在のバイデンは、4年前の10月末の段階でのヒラリー・クリントンに比べて、より大きなリードをつけている。各種世論調査では、トランプは2016年に勝利をもたらしてくれた各有権者グループでの支持率において劣勢に立っている。いくつかの結果ではかなり厳しい状況にある。バイデンはヒラリー・クリントンに比べて、人気の高い候補者である。

マクヘンリーは、私自身は、自分たちの投票先について偽る、「恥ずかしがり屋の(shy)」トランプ支持の有権者の数はそんなに多くないと考えていると発言している。

そうではなく、「歪んだ回答率パターン(skewed response rate pattern)」についての懸念は存在する。これは、トランプ支持の有権者は世論調査に参加する、もしくは世論調査機関からの電話に答える、ということがより少ないというものだ。

マクヘンリーは、そのようなことがあったとしても、それが自動的にトランプに有利に働くものではないと指摘している。ペンシルヴァニア州では、民主党支持者の方が回答したがらないということをまくへりーは認識している。

マクヘンリーは次のように述べている。「世論調査に対して回答をするかについての偏り(バイアス、bias)が全くないとは言えません。しかし、私はその存在、影響の大きさについては懐疑的です。私たちが現在目撃している、トランプがバイデンに全国規模の調査でつけられている大きな差については、それだけで説明ができるというものではありません」。

つまり、トラファルガー・グループは世論調査について、ただ一つの逆張りの(へそ曲がりの)世論調査機関や組織ではない。「他の機関はトランプ支持の有権者を調査できていない」と主張する世論調査機関や組織は他にも存在する。

「サスケハナ・ポーリング・アンド・リサーチ」のジム・リーもまた「水面の下に隠れている(submerged)」トランプ支持有権者理論を主張している。

サスケハナが発表した最新のウィスコンシン州での世論調査の結果では、トランプとバイデンは同率であった。この結果は、今年の8月以降にウィスコンシン州で実施された世論調査の結果の中で唯一、バイデンがリードをしているという結果以外のものであった。今年の8月、トラファルガー・グループはウィスコンシン州でトランプが1ポイントリードしているという結果を発表した。フロリダ州では、サスケハナは、トランプが4ポイントリードしているという結果を発表した。一方、ファイヴサーティーエイトの平均では、バイデンが2ポイントのリードであった。

ジム・リーは今週のWFMZのテレビ番組「ビジネス・マターズ」に出演し、次のように述べた。「人種差別主義者と呼ばれる人物に投票しようという考えを表に出して発表したくないと考えている有権者が多くいるんですよ。このような水面下に隠れているトランプ支持の有権者の存在は本物なんです。私たちはそうした人々を世論調査において捕捉できていますが、他の人たちがそれをできていないことには失望しています」。

南カルフォルニア大学(USC)ドーンサイフ・センターは、定期的に行っている全国規模の世論調査の結果を発表している。そして、その中で「実験的な」質問をいくつか設定している。それは、「調査対象者が、自分が社会的に関係を持っている人たちが誰に投票すると考えるか、そして、自分の居住している州で誰が勝利すると考えるか」というものだ。

2016年、USCドーンサイフ・センターは全国規模の世論調査でトランプがリードしているという調査結果を出した数少ない機関としてメディアの関心を集めた。ヒラリー・クリントンは全国規模での得票総数で勝利し、USCは後に方法論を修正した。USCは、前回の選挙で地方在住の有権者をサンプルで選んだと主張した。

今回の大統領選挙について、USCドーンサイフ・センターの最新の全国規模の世論調査では、バイデンが11ポイントリードしているという結果が出ている。

しかしながら、有権者に対して自分たちの社会サークルについての質問になると、その差は5ポイントに縮まり、自分の住んでいる州の自分以外の有権者が誰に投票するかという質問になると、1ポイントにまで縮まっている。この調査が示しているのは、2020年の選挙人獲得数でトランプが再び勝利するだろうということだ。

USCドーンサイフ・センターは、社会サークル関連質問は、2016年の大統領選挙と2018年の連邦下院議員選挙を含むこれまでの5つの選挙において、「自分自身の考え」関連質問よりも、実態を示すのにより良い指標となっていると指摘している。

「サンタ・フェ研究所」のミルタ・ギャレシックは、USCの世論調査においていくつかの質問を新たに加えその効果について研究している専門家だ。ギャレシックは、全国規模で実施した世論調査での、各州レヴェルでの結果でトランプが選挙人獲得数で勝利するというものが出ていることについて、懐疑的な見方を示した。

USCドーンサイフ・センターの全国規模の世論調査には5000名が参加したが、それぞれの州で見るとその数はもっと小さくなる。激戦州でもそれは同じだ。そうなると、その州だけを対象にして実施した世論調査に比べて、州レヴェルでの結果は正確性が低いものとなってしまう。

「私たちは、そうした少ない調査サンプル数の中で、社会サークル(訳者註:仕事関係、友人関係、ご近所関係など)に関する質問は、自分の投票意思に関する質問よりも、より正確な州レヴェルの結果予想を生み出すと期待しています。それは、社会サークル関連質問はより多くの情報を提供してくれ、各州でのサンプル数は少ないという偏りを解消してくれることになるからです。しかし、それだからと言って、社会サークル関連質問への回答結果に基づいた予測が、一州だけを対象にした大規模な世論調査よりも正確性が高いということを意味するものではありません」。

加えて、ギャレシックは、社会関連については、新型コロナウイルス感染拡大もあり、極端に正当性が揺らいでおり、有権者の関連している社会サークルについて信頼性の高いデータを集めることが難しくなっていると述べている。ここ数カ月、人々の社会関係は劇的に小さくなっている。

ギャレシックは更に、2016年の亡霊が今でも、多くの有権者に対して、2020年の選挙で自分の友人や家族が誰に投票するかについて考える際に、大きな影響を与えていると述べている。2016年の段階で既に選挙に関する大きな動きは劇的に変化しているのだ。

ギャレシックは次のように述べている。「バイデンのチャンスについて民主党支持者の間で悲観が起きており、一方、トランプのチャンスについて共和党支持者の間で楽観が起きています。こうした状況は、トランプ支持の有権者たちが各種世論調査で調査対象から外れているという考えを広げることを助長しています。これらのことを総合して考えると、こうした考えは、社会サークル関連質問、自分が関わっている人たちは誰に投票するかということを有権者が考える際に、トランプ大統領の名前を挙げることを多くすることで、トランプ、バイデン両候補の間の差を小さくすることにつながっているのです」。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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