アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 2015年1月11日、古川康前知事の辞職(自民党所属の代議士への転身)に伴う、佐賀県知事選挙の投開票が実施されました。結果は、農協の政治組織「佐賀県農政協議会」が推薦し、一部の地元首長や自民党所属の県議が支援した、元総務省キャリア官僚の山口祥義(やまぐちよしのり、49歳)氏が当選しました。自民党本部、官邸が地元自民県連の意向に反して選び、自民、公明の推薦を受けていた、元総務省キャリア官僚で前武雄市長の樋渡啓祐(ひわたしけいすけ、45歳)氏は落選しました。山口氏が約18万2000票、樋渡氏が約14万3000票をそれぞれ獲得し、票差は約3万9000票でした。

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山口祥義

 

 今回の選挙は地元自民県連が擁立を進めていた財務省の大物官僚を自民党本部、官邸が承認せず、樋渡氏を擁立するように求めてきたこと、そして、農協改革とTPPを推進する自民党本部と官邸に不信感を持っていたJA佐賀が自民党の決定に反旗を翻したことから、いわゆる「保守分裂」選挙になりました。自民党本部と官邸が地元県連の意向を受け入れていれば、もしかしたらここまで注目されない、無風の選挙になったかもしれません。しかし、自民党本部と官邸は、樋渡氏の擁立にこだわり、分裂選挙になりました。

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佐賀県の地図 
 

 自民党本部と官邸は、前知事の古川康氏に対して、佐賀県玄海町にある玄海原発再稼働(古川氏の父親は九州最高の企業である九州電力勤務)と佐賀空港へのオスプレイの受け入れ容認の論功行賞で、選挙区が一つ減少した佐賀県から代議士として立候補して初当選しました。その後継者に若い樋渡氏が座るという予定になっていたのだと思います。樋渡氏は原発再稼働とオスプレイ受け入れ容認に関して古川氏の路線を引き継ぐと明言していました。

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古川康氏は56歳で、総務省のキャリア官僚出身で、今回の選挙で敵味方となった樋渡氏、そして山口氏とは、東京大学(古川氏と山口氏は鹿児島のラサール高校から法学部、樋渡氏は経済学部)と総務省の先輩後輩にあたります。東大と総務省の先輩後輩で敵味方に分かれての選挙となった訳です。

 

 今回の選挙の争点は、「原発」と「オスプレイ」と「TPP(農業)」であったと思います。私は、更に言えば、樋渡前武雄市長が行った「改革」の根本にある「竹中平蔵」式原理(アメリカみたいになって格差を拡大させていく)に賛成か、反対化もあったと思います。竹中平蔵氏は小泉政権下で総務大臣でありました。樋渡氏は総務省キャリア官僚時代に短期間ですが、竹中氏に仕えた時期もあり、その後、改革派市長となりました。改革派というイメージと誰にでも口汚く噛みつき、罵る手法、そして改革の根本に竹中式原理がという点で、樋渡氏と橋下徹大阪市長(前大阪府知事)とよく似ています。

 

 現在の安倍晋三政権も小泉政権と同じく、竹中式原理に伴う改革を進める政権です。私たちの目はどうしても憲法改正や武器輸出、秘密保護法の方に行きがちですが、この竹中式改革(日本のアメリカ化)を進める点も注目しなければなりません。この竹中式改革が佐賀県では拒絶されたという選挙結果になりました。

 

 これから佐賀県に対しては、沖縄県に対してと同じく、報復が行われることになるでしょう。農協に対してもまたさらに激しい攻撃が加えられることになるでしょう。小泉政権以降、自民党は「敵・味方」を峻別し、敵を殲滅するために手段を選ばないところがあります。

 

 私がこれから考えてみたいのは、2012年以来、国政選挙では無類の強さを見せる安倍政権が地方選挙では弱さを見せている原因と構造についてです。これは日本政治研究のこれからの大きなテーマになるでしょう。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「佐賀知事選:山口祥義氏、自公候補を破る」

 

毎日新聞 20150111日 2301分(最終更新 0112日 0032分)

http://mainichi.jp/select/news/20150112k0000m010092000c.html

 

 古川康前知事の辞職に伴う佐賀県知事選は11日投開票され、JAグループ佐賀の政治団体「県農政協議会」が推薦する元総務官僚、山口祥義(よしのり)氏(49)が、自民、公明両党の推薦を受けた同県武雄市の前市長、樋渡(ひわたし)啓祐氏(45)ら3氏を破り初当選した。保守分裂となり、安倍政権の規制改革に反発するJAと政権与党による代理戦争の様相を呈したが、山口氏が樋渡氏を退けたことで、安倍政権が進める農協を含めた規制改革や今春の統一地方選挙にも影響するとみられる。

 

 また山口氏は、政府が計画する佐賀空港(佐賀市)への陸上自衛隊の新型輸送機オスプレイ配備に慎重な姿勢を示しており、対応が注目される。

 

 初当選した山口氏は選挙戦では、農協組織を「岩盤規制」の象徴と位置付ける安倍政権の改革路線に危機感を抱く県農政協が全面支援。トップダウン型の樋渡氏の政治手法やオスプレイ配備に反発する佐賀市長ら県内の一部首長や自民県議からも支援を取り付け、保守分裂に持ち込んだ。【松尾雅也、岩崎邦宏】

 

 ◇「誠に残念だ」自民選対委員長

 

 自民党の茂木敏充選対委員長は「誠に残念だ。年末年始をまたぐ難しい選挙となったこと、投票率が大幅に低下したことなど今回の敗因をよく分析したい」とのコメントを出した。

 

 【略歴】山口祥義(やまぐち・よしのり)49 無 新<1>[元]総務省過疎対策室長[歴]長崎県総務部長▽東大院客員教授▽東大

 

 ◇佐賀県知事選確定得票数

 

当182,795山口 祥義<1>無新

 

 143,720樋渡 啓祐 無新=[自][公]

 

  32,844島谷 幸宏 無新

 

   6,951飯盛 良隆 無新

 

 

●「<佐賀知事選>農協改革に影響も 安倍政権、敗北に衝撃」

 

毎日新聞 112()022分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150112-00000003-mai-pol

 

 政府・自民党は佐賀県知事選で与党が推薦した樋渡啓祐氏(45)が敗北したことを受け、規制改革の柱と位置づける農協改革に向けた勢いがそがれることを警戒している。農協改革に反対する地元農協の政治団体「県農政協議会」が推薦した元総務官僚、山口祥義氏(49)が当選したことで、統一地方選を前に「農協を敵に回して選挙は勝てない」と受け止められかねないからだ。

 

 知事選では、全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限を縮小する政府の農協改革案が争点になった。安倍政権は規制改革で農業に競争原理を取り入れ、成長産業に育成したい考えだ。政権が「岩盤規制打破」と位置付ける農協改革の成否は成長戦略全体の行方を占う試金石にもなりつつある。

 

 樋渡氏の応援に入った菅義偉官房長官は「(農業の)6次産業化を進め、農家の所得を上げる改革を行う」と述べ、農業の改革を推進する姿勢を強調した。

 

 これに対し、JA全中は農協改革を強く警戒している。先の衆院選でも自民党の候補者に農協改革を後退させるための政策協定書に署名を求めるなど圧力をかけてきた。

 

 こうした経緯もあり、政権側は「改革派」の樋渡氏を全面支援。菅氏のほか、自民党の谷垣禎一幹事長、農協改革の旗振り役の稲田朋美政調会長らを続々と投入した。終盤では「半馬身か1馬身、樋渡氏が抜けた」(党幹部)とみていただけに衝撃を受けている。

 

 政府・自民党はあくまで農協改革を断行する方針だ。ただ、農協側は、農協改革を掲げたことが自民党の敗因と訴え、全国で改革骨抜きのための圧力を強めていくのは必至だ。

 

 農協の集票力は一時に比べれば落ちているが、個別の地方選では無視できない力がある。政権の経済政策「アベノミクス」の効果が地方に届かないという不満と結びつけば、統一選全体にも影響しかねない。地方から改革の先送りを求める声が高まる事態も想定される。

 

 自民党の茂木敏充選対委員長は11日夜、コメントを発表し「年末年始をまたぐ難しい選挙となったこと、投票率が大幅に低下したことなど敗因をよく分析したい」と強調した。稲田氏は「全国に景気回復の実感を届け、理解と支持を得られるよう努める」とのコメントを出した。【影山哲也、宮島寛】

 

 

●「佐賀県知事選の投票率54・61%、戦後最低」

 

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http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/144411

 

 保守分裂の激戦となった今回の知事選だが、投票率は54・61%で、現職と共産候補の一騎打ちとなった前回より4・80ポイント下がり、戦後最低を記録した。

 

 前知事が衆院選に急きょ出馬し辞職したことに伴い、県内初の年末年始を挟んだ異例の選挙。忙しい時期となったことに加え、市町の首長選を控えている地域もあり、知事選への関心を高めることができなかったようだ。

 

 県内20市町のうち、17市町で前回を下回り、鳥栖市と唐津市、基山町では40%台にまで落ち込んだ。70%を超えたのは、白石町だけだった。

 

 10日までの期日前・不在者投票は計9万8576票で、前回比で2万6262票、約1・4倍に増えた。

 

 当日有権者数は67万5865人(男性31万3994人、女性36万1871人)。4年前の前回より2245人減っている。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)