古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:古村治彦

 古村治彦です。

 昨年12月27日に刊行した、私の最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を、佐藤優先生が『週刊ダイヤモンド』の「佐藤優 知を磨く読書」コーナーでご紹介くださいました。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

雑誌の86ページに掲載されています。コンビニでは場所によって置いていないところもありますが、駅のキオスク、書店にはありますので、是非お読みください。『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の第3章で取り上げた、ウクライナ戦争に関する分析について「秀逸だ」「説得力がある」と評価していただきました。佐藤先生、まことにありがとうございます。

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 発売から2カ月が過ぎていますが、大型書店ではまだ購入できます。以下の写真は、2月中旬に私が、東京・池袋にあるジュンク堂書店と東京・新宿にある紀伊國屋書店本店を訪れた際に撮影しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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ジュンク堂書店「陰謀論」コーナーにて

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紀伊國屋書店「話題の本 アメリカ」コーナーにて

 (終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、私の最新刊『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)をご紹介いたします。発売日は2023年12月27日です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』は私にとって4冊目の単著で、ジョー・バイデン成立後のアメリカ政界の動きと世界政治の動きを網羅した内容になっています。何とか年内に出すことができました。2023年を振り返る、冬休みの一冊として、是非手に取ってお読みください。

 以下に、副島隆彦先生の推薦の言葉、はじめに、目次、おわりにを掲載します。

(貼り付けはじめ)

推薦の言葉 副島隆彦(そえじまたかひこ)

 本書『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』は、私の弟子である古村治彦(ふるむらはるひこ)君にとって4冊目の単著となる。

 古村君の前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年6月刊)は、アメリカ政治研究の専門家たちから高い評価をいただいた。それで、本書がその続編として書かれた。前著を読んだ編集者から執筆の話をいただいたと聞いた。大変ありがたいことだ。

 前著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』では、古村君は、アメリカのバイデン政権を作っている、ディープステイト(超[ちょう]財界人と米軍需産業)側の政府高官たちが、中国・ロシアとの対決、戦争をどのように仕組んで、どのような計画で実行しているかを、正確にはっきりと説明した。なんと、この本が出てから8カ月後に、実際にウクライナ戦争が始まった(2022年2月24日)。これは真に驚くべきことだ。

 アメリカの国防政策と外交政策を実際に操(あやつ)っている、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社とその創設者のミッシェル・フロノイ元(もと)米国防次官(アンダーセクレタリー)のことを、詳しく紹介していた。これは日本初(はつ)のことで、国際関係論(インターナショナル・リレイションズ)の研究者である古村君の学問業績である。本書に続いてお読みください。

 本書では、古村君は、引き続き、アメリカ国際政治の悪の司令塔であるウエストエグゼク社と、米国防総省(ペンタゴン)の密接な結びつきを丹念に追っている。ウエストエグゼク社が、米国防総省と、民間のハイテク企業群のグーグル、フェイスブック(現在はメタ)などのビッグテック(Big Tech 巨大IT企業)を結び付けて、アメリカの軍事部門の先端技術(ハイテク)と武器開発の優位を保っている様子を、精(せい)(かく)に描いている。古村君はこのことを「新(しん)・軍産(ぐんさん)複合体」と表現している。今も前著の帯に書かれた「アメリカをWestExec(ウエストエグゼク)社が動かす!」の通りだ。

 古村君は、バイデン政権の進めている「産業政策(Industrial Policy(インダストリアル・ポリシー))」に注目している。産業政策は日本語で書くと珍腐なコトバだが、アメリカ政治学における重要な概念だ。この産業政策という概念を生み出したのは、日本研究学(ジャパノロジー)の大(だい)学者だったチャルマーズ・ジョンソン博士だ。私は、当時アメリカ留学中だった古村君を伴(ともな)って、カリフォルニア州サンディエゴにあるチャルマーズの自宅を訪問し、長時間にわたって話し込んだ。2004年4月のことだ。このことを懐かしく思い出す。

 古村君は、本書の後半部で世界政治における「西側諸国(the West[ザ・ウエスト[)対(たい) 西側以外の国々(the Rest[ザ・レスト] 残りの部分の意味)の分裂と対立」を描き出している。ウクライナ戦争は、アメリカのディープステイトが、何が何でも、プーチン政権を罠(わな)に嵌めてウクライナにおびき出して、ロシアを弱体化することが目的だった。この外交・軍事戦略を決定して実行した者たちが、まさしく今のバイデン政権の高官たちだ。一方、中国、インド、サウジアラビアなど、非()西洋、即ち西側以外の国々は、継続してロシアから石油を輸入することでロシアを支えた。ウクライナ戦争は膠着(こうちゃく)状態だが、英と米のディープステイト側の敗北、そしてロシアとロシアの苦境を支える西側以外の国々の勝利が見えてきた。

 本書『バイデンを操(あやつ)る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で、古村君は、「世界覇権がアメリカから中国に移動する、中国は焦らず、じっくりと熟柿(じゅくし)作戦で覇権(ヘジェモニー)が泰然自若(たいぜんじじゃく)で手に入るのを待つ。大国の風格だ」と書いている。まさしくその通りで、もうすぐ世界覇権の移動が起きる。

 この一冊で、最新のアメリカ政治と世界政治の動きを理解することができる。ぜひ、読者諸賢にお読みいただきたい。

2023年12月

副島隆彦(そえじまたかひこ) 

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はじめに 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 私は2021年6月に、著書『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)を発表した。その中で、ジョー・バイデン Joe Biden(1942年~、81歳。大統領在任:2021年~)政権の高官たちの多くが、アメリカの首都ワシントンDCにあるコンサルティング会社の、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社 WestExec Advisors の出身者であることに着目し、この会社を中心とする人脈からバイデン政権を分析した。

 このウエストエグゼク社が米国防総省 United States Department of Defense(ユナイテッド・ステイツ・デパートメント・オブ・ディフェンス) や軍事産業と関係が深い点に注目し、「バイデンとバイデン政権の高官たちは中露に対して強硬な姿勢を取る、もしかしたら戦争になるかもしれない」と書いた。

 翌年の2022年2月24日にウクライナ戦争が始まった。バイデン政権の下でロシアが絡(から)む戦争が起きたということで、私の本に注目してくださる方が増えた。アメリカと中露が直接戦う戦争ではなかったが、アメリカはウクライナに対して大量の武器を支援しており、ウクライナがアメリカの代理 proxy(プロキシー) となり、ロシアと戦っている。

 しかし、バイデン政権の活動の根幹を担っている、ウエストエグゼク社と同社の出身者たちの人脈に対して、日本では大きく注目されるところまではいかなかった。私はそのことを残念に思っていた。

 しかし、2023年9月2日、講談社が運営するウェブサイト「現代ビジネス」の「ニュースの深層」というコーナーを長年にわたり担当している、ヴェテランのジャーナリスト歳川隆雄(としかわたかお)氏が、「米バイデン政権『国務副長官』の後任は……政府要職を占めるコンサル出身者のからくり」(https://gendai.media/articles/-/115663)という題名の記事の中で、ウエストエグゼク社について取り上げた。歳川氏は、バイデン政権に数多くのウエストエグゼク社出身者がいることを指摘し、バイデン政権にとって重要だと書いた。

 歳川氏の記事が出てから、「あの記事で取り上げられていたウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社は、あなたが本の中で取り上げていた会社ですね」「あなたの方が先に注目していたことになる」という嬉しい声を多くいただいた。これでウエストエグゼク社と出身者たちについて、日本でも注目されるようになるだろうと考えている。

 本書では引き続き、ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社の動きから、バイデン政権の意図を分析する。さらに、アメリカ国内政治、国際政治の最新の動きを網羅的に捉(とら)え、日本の主流メディアでは紹介されない、見方や考え方を提供する。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる──目

推薦の言葉 1

はじめに 5

第1章 中国に対する優位性の確保に苦労するバイデン政権──米中で実施される産業政策でも中国が有利

バイデン政権の産業政策に深く関わるウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社 20

ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社とはどのような会社か 22

ウエストエグゼク社出身者が重要高官を占めるバイデン政権はヒラリー政権でもある 27

国防総省がウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社と関係を深めている 30

ウエストエグゼク社創設者ミシェル・フロノイは国防総省の予算を使いやすくするように提言報告書を執筆 35

産業政策の本家本元は日本 40

バイデン政権が進める産業政策 46

バイデン政権で産業政策を推進する人材としてのジャレッド・バーンスタイン 51

ジェイク・サリヴァン大統領補佐官が産業政策の熱心な支持者 54

産業政策の成功例である中国 66

ファーウェイがiPhoneと同水準のスマートフォンを開発──21世紀のスプートニク・ショック(Sputnik Crisis(クライシス)) 70

軍事面で優位に立つためには技術面での優位が必要──長期計画ができる中国が有利ということが明らかに 75

第2章 2024年米大統領選挙は大混迷

米大統領選は100年に一度の大混乱 80

アメリカ大統領選挙はマラソンレース──まずは党の候補者を決める予備選挙から 82

アメリカ大統領選挙本選挙は各州の選挙人の取り合い 85

現職大統領なのに支持率が上がらないバイデン──有権者は高齢問題を憂慮 88

民主党全国委員会はバイデン当選に向けて露骨な依怙贔屓 91

民主党予備選挙に出馬宣言したロバート・F・ケネディ・ジュニア──大いなる期待 99

ケネディ・ジュニアが無所属で大統領選挙本選挙に出馬表明という怪しい動き 104

共和党ではトランプが圧倒的に有利な情勢 110

トランプを尊敬する新人候補ヴィヴェック・ラマスワミが大健闘 111

アメリカ史上初めての連邦下院議長解任まで起きた連邦下院共和党の分裂 115

連邦下院では10月から始まる2024年度の予算が可決成立していない 123

共和党内の分裂で注目を集めるフリーダム・コーカスは「トランプ派」議員連盟ではない 127

「大統領の犯罪」を隠(いん)(ぺい)するためにはどうしても勝たねばならないバイデン 136

第3章 ウクライナ戦争から見えてきた世界の分断

長期膠着状態に陥っているウクライナ戦争の戦況 142

アメリカ軍やNATOの評価が低い、そして自分勝手なウクライナ軍では勝てない 149

「ゼレンスキー疲れ」「ウクライナ疲れ」に陥ったヨーロッパとアメリカ 153

国際関係論の大物学者ミアシャイマーが「ウクライナ戦争の責任は、アメリカとNATOにある」と喝破 157

ヘンリー・キッシンジャーの提示する「落としどころ」が停戦の基本線 164

「世界の武器庫」であるべき西側諸国、特にアメリカの武器増産が進まずに武器不足に陥る 171

「大統領の犯罪」ノルドストリーム爆破事件──アメリカは平気で自分の同盟諸国を苦境に陥れる 177

戦争直後の国連でのロシア非難決議の採決で世界の分断が明らかになった 187

ウクライナ戦争の結末はどうなるか 191

第4章 「西側諸国 the West」対「西側以外の国々 the Rest」の分断が世界の構造を変える

「西側以外の国々」の中核となるBRICS(ブリックス)(ブリックス) 199

多元的な国際機構や枠組みで重層的な関係を築いている西側以外の国々 202

サウジアラビアがバイデン大統領の依頼を断り、中国寄りの姿勢を鮮明にした 208

中国の習近平国家主席がサウジアラビア訪問で石油取引の人民元決済に言及 210

アメリカを追い詰めすぎると怪我するということで、「ブリックス通貨」導入は見送り 218

国際社会で仲介者になるほどに中国の大国としての存在感は高まっている 225

アメリカはインド・太平洋で中国を封じ込めたい──QUAD、AUKUS、NATOのアジア進出 229

「アジアの皇帝」カート・キャンベル国務副長官指名は、バイデン政権の対中強硬姿勢を鮮明に 234

ハマスによるイスラエルに対する大規模攻撃とイスラエルの反撃 240

アメリカの意向を無視するイスラエルがアメリカを追い詰める 246

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争から見えてくるアメリカの威信の低下 253

第5章 覇権国でなくなるアメリカとこれから覇権国になる中国

国際関係論の覇権国交代理論である覇権戦争論と長期サイクル論 261

世界は西洋支配の前の状態に戻る 269

米中間で戦争が起きるか 273

米中は戦争の可能性を視野に入れて体制強化を図る 277

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争が長引けば、国際情勢はアメリカと西側諸国にとって不利になる 279

ウクライナ戦争とパレスティナ紛争で抑制的な動きをしている中国だが国際情勢は中国有利になる 284

アメリカはこれから同盟諸国にバック・パッシング(責任転嫁)を行う 287

短期的に見て怖いのは、直接戦争ができないアメリカが日本に代理戦争をさせること 290

おわりに 295

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おわりに 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 本書の一貫したテーマは、アメリカを筆頭とする西側諸国(the West[ザ・ウエスト])の衰退と中国を筆頭とする西側以外の国々(the Rest[ザ・レスト])の台頭が世界に大きな変化をもたらしている、ということだ。そのことを、アメリカ国内政治と世界政治の分析を通じて描き出そうと努めた。

 本書の執筆中、10月になって、アメリカ国内では、史上初の連邦下院議長解任が起き(10月3日)、国際的に見れば、ハマスによるイスラエルへの攻撃が起き、イスラエルがガザ地区に報復攻撃を開始した(10月7日)。そのため、本書の構成を一部変更せざるを得なくなったが、これらの出来事は、本書で掲げたテーマを裏付けるものだ。

 アメリカ国内政治は混迷の中にある。アメリカ国内の分裂と衰退はもう隠すことができないところまで来ている。アメリカ国内では、2024年の大統領選挙で、高齢問題もあり、有権者から全く支持されていないバイデンが再選を果たすことになると私は見ている。合法、非合法、あらゆる手段で、アメリカ国民の意思を捻()じ曲げて、バイデン勝利とするだろう。そうしなければならない理由を、私は本書で書いた。バイデン勝利が「作り出されたcreation(クリエイション)」後に、アメリカでは、バイデンが大統領選挙で勝利した州を中心にして、アメリカ国民による大規模な抗議活動が起き、アメリカ国内の分裂はさらに深まる。

 さらには、バイデン再選とそれに対する抗議運動がきっかけになって、アメリカが新たな「南北分裂」状態に陥ることも考えられる。私は、本文の中で、バイデン勝利は「アメリカ民主政治体制の死」を意味すると書いたが、さらに進んで「アメリカ合衆国の死(解体)」にまで進む可能性も高い。

 バイデン政権は、分裂を避けるために、国内政策に注力しなければならなくなる。対中封じ込め政策を強化しようとしているが、国内対策に足を取られて、思い通りに物事を進められない状態になる。国内経済の先行きも不透明になる中で、アメリカは分裂と衰退に向かう。アメリカの分裂と衰退は、西側諸国全体にも悪影響を及ぼすことになる。

 世界政治の構造も大きく変化している。アメリカの分裂と衰退で利益を得るのは、中国を中心とする西側以外の国々だ。ウクライナ戦争では、西側以外の国々はロシアを間接的に支え切り、ロシアは戦争初期の厳しい段階を乗り越えて、守備を重視した、負けない体制を構築し、戦争継続が可能となっている。西側諸国は、武器生産能力が限界を迎え、資金面でも、限界に来ており、全体に厭戦気分が広がっている。

 西側以外の国々は、重層的な国際組織を結成し、宗教、政治体制、経済体制の面で、多様な国々が連携できるネットワークづくりを進めている。その中心がBRICS(ブリックス)であり、中国が核となっている。石油の人民元(じんみんげん)決済やドル以外の共通通貨(脱[だつ]ドル化)の話が出ているのは、アメリカの戦後支配体制の揺らぎを象徴している。中国は、アメリカとの対立激化を避けながら、アメリカの自滅を待つという姿勢だ。できるだけ労力をかけないようにしながら、慌てず急がずで、世界覇権を手にする。

 西洋近代は、もちろん素晴らしい成果を収めた部分もある。西洋近代がもたらした科学(サイエンス)(学問)の発展や価値観、制度によって、人類はより快適で豊かな生活を享受することができた。その点は認めなければならない。しかし、一方で、西洋中心主義 Ethnocentrism(エスノセントリズム) によって、西洋的な価値観と制度を世界中に押し付け、結果として、西洋化することで世界を一色にまとめ上げようとしてきた。

 非西洋諸国の文明化 civilization(シヴィライゼイション) は、社会工学 socialengineering(ソーシャル・エンジニアリング) を通して行われた。非西洋の土台の上に無理やり、西洋社会の価値観や制度が移植された。社会工学は「文明化外科手術(ぶんめいかげかしゅじゅつ)」とも呼ばれるべきもので、不自然な移植のために、制度がうまく機能しないことも起きた。それに対して、西洋諸国は、「近代化の出来ない落ちこぼれ」というレッテルを貼った。

 しかし、これから、世界の「優等生」たちが力を失い、これまでの「落ちこぼれ」たちが力をつけていく。そうした時代に入っていく。西洋近代、戦後世界の終わりの始まりである。

 本書の構成を友人に話したところ、「世界の今が分かるということですね」と言われて、私は少し驚いた。私としては、そのような大それた目的をもって執筆を始めた訳ではなかった。しかし、本書を通じて、読者の皆さんに、現在の世界情勢を理解するための情報や視点を提供できるとすれば、それは筆者として、何よりの喜びだ。

 師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦文をいただきました。徳間書店学芸編集部の力石幸一氏には、本書の企画から出版までお世話になりました。記して御礼申し上げます。

2023年12月

古村治彦

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(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 喪中のために新年のご挨拶は遠慮させていただきます。

 2021年は大変お世話になりました。ありがとうございます。本年2022年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年はおかげさまで、久しぶりに単著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)と翻訳『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、徳間書店)を出版することができました。本年も何とか本が出せるように精進してまいりたいと存じます。

 皆さまにおかれましては、益々のお引き立てを賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。本年が皆さまにとって素晴らしい年となりますよう、衷心より祈念申し上げます。

 

「あらたまの 年立ち返る 朝より 若やぎ水を くみ初めにけり」


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 「自由主義は衰退しているのか」という問題は大きな問題であり、ここで簡単に答えが出るものではない。「もうダメだ」という人もいるし、「いやいや信じよう」という人もいる。今回紹介するパトリック・デニーンは「自由主義は衰退している」という考えを主張している。そして、これに対して、書評を掲載している『エコノミスト』誌はそうではない、と主張している。ドナルド・トランプが大統領選挙に当選して大統領を務めた期間、このような論争が数多く行われた。そもそも、自由主義や保守主義といった言葉の定義がとても難しい。

 アメリカでは自由主義が衰退しているということを示すような事例が数多く起きている。そのために先行きに悲観的になっている人たちも多くいるようだ。アメリカでリベラルと言えば、現在では左派の進歩主義派を指す。これに対して、嫌悪感を示す保守主義派もいる。

 しかし、問題は、アメリカ国民の人権や自由が脅かされているという現実だ。手前味噌で申し訳ないが、『』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)の中で、アメリカ連邦上院議員であるジョシュ・ホウリーは、なぜビッグテック(フェイスブック、ツイッター、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、ネットフリックスなど)と戦うのか、ということについて、アメリカが共和国であり続けることを守り、人々の自由と権利を擁護するためだとしている。私たちが便利に使っている道具が私たちの自由や権利を侵害しているのが現状だ。そのために、アメリカの共和制と民主政治体制が脅かされているのである。

 少し古い記事で恐縮だが、大きな流れとして、「自由主義が衰退している」ということは、生活の実感としてある。そして、そのことを私たちは警戒感を持って受け入れねばならない。

(貼り付けはじめ)

自由主義は過去400年間で最も成功した思想である(Liberalism is the most successful idea of the past 400 years

しかし「その最盛期は過ぎ去ってしまった」というのがある最新刊の主張だ。

『エコノミスト』誌

2018年1月27日Jan 27th 2018

https://www.economist.com/books-and-arts/2018/01/27/liberalism-is-the-most-successful-idea-of-the-past-400-years?fsrc=scn/fb/te/bl/ed/liberalismisthemostsuccessfulideaofthepast400yearsacalltoarms

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●『リベラリズムはなぜ失敗したのか』(パトリック・デニーン著、角敦子訳、原書房、2019年)

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●Why Liberalism Failed. By Patrick Deneen. Yale University Press; 248 pages; $30 and £30.

 

過去4世紀の間、自由主義(liberalism)は成功を収め、敵全てを戦場から追い落とした。ノートルダム大学の政治学教授パトリック・デニーン(Patrick Deneen)は、現在、自由主義の崩壊は、傲慢さと内部矛盾が入り混じったものになっていると主張している。

自由主義の黄昏の日々の残骸は、いたるところで見ることができるが、デニーン教授が注目しているアメリカではその傾向が顕著だ。自由主義の創始者の信条は粉々にされている。機会の平等は、高貴な者たちの責務(noblesse oblige)という考えを持つ古い貴族制度から超然としている実力主義の貴族制度を生み出した。民主政治体制(democracy)は、滑稽な劇場へと堕落してしまった。技術の進歩によって、より多くの分野の仕事を無意味な雑用に変化させた。デニーンは、「自由主義の主張と市民の生きている現実との間のギャップ」は、今や「もはや受け入れられない嘘」ほどに大きくなっていると書いている。それを証明するのは、1000機の自家用ジェットがダヴォス会議に参加し、「分断された世界で共有される未来を創造する」という問題について議論している姿ではないだろうか?

デニーン氏は「自由主義(liberalism)」という用語を、一般的な意味ではなく、哲学的な意味で使っている。デニーンは、トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes)やジョン・ロック(John Locke)に代表される政治理論の偉大な伝統について言及しており、現在アメリカ人がこの言葉から連想する漠然とした左派的な態度のことではない。しかし、彼の最新作は哲学の分野の成果を再び持ち出して、繰り返したものではない。政治理論家のほとんどは、自由主義が2つの独立した流れに分かれていると主張している。一つ目は、自由市場を賛美する古典的自由主義(classical liberalism)と、公民権を賛美する左派自由主義(left-liberalism)だ。デニーンにとって、それらは根本的な統一性を持っている。ほとんどの政治理論家たちは、自由主義のあり方についての議論は自分とは関係ないと考えている。デニーンは、自由主義は支配の哲学(ruling philosophy)であり、裁判所の判決から企業の行動まで全てを決定するものだと主張している。理論は実践である(Theory is practice)。

根本的な統一性の根底にあるのは、個人の自己表現だ。古典的自由主義者も左派自由主義者も、「人間は権利を持つ個人であり、夢を実現するためにできるだけ多くのスペースが与えられるべきだ」と考えている。政府の目的は、権利を擁護することだ。このシステムの正当性は、同意した大人の間の「社会契約(social contract)」に対する共通の信念に基づいている。しかし、これには逆説(paradox)が生じさせる。自由主義的な精神は、あるときは市場の効率性(market efficiency)の名の下に、またあるときは個人の諸権利(individual rights)の名の下に、継承された慣習(inherited customs)や地域の伝統(local traditions)を機械的に破壊する。その結果として、市場の創設者(market maker)として、また法の執行者(law-enforcer)としての国家の拡大の余地が生まれる。ホッブズの著作『リヴァイアサン』の表紙には、主権者である君主に立ち向かう何千もの原子化された個人が描かれており、現代の自由主義を完璧に表現している。

デニーンは自分の主張をうまく主張しているが、繰り返しが説得力につながると勘違いしているところもある。近代的な自由主義が登場する以前の哲学者たちは、自由とは自己表現(self-expression)ではなく自己修養(self-mastery)であり、快楽主義的な欲望(hedonistic desires)を満足させるのではなく、それを克服すること(indulgence)だと考えていたことを読者に主張している。デニーンの著作は、横行する商業主義に対する左派の不満や、自己愛の強いいじめられっ子の学生に対する右派の不満、さらには原子化や利己主義に対する一般的な懸念など、現在の幻滅の雰囲気を見事に捉えている。しかし、これら全てが自由主義の失敗に帰結すると結論づけたとき、彼の主張に説得力があるだろうか?

彼の著作には2つの致命的な誤りがある。一つ目は、自由主義の定義についてだ。アメリカ人学者JH・へクスターは、アメリカの歴史学者たちは2つの陣営に分かれていると確信している。一つ目は、「細分主義派(splitters)」(永続的に分類を行い続ける)であり、二つ目は、「非細分主義派(lumpers)」(物事をひとまとめにすることで一般化し続ける)だ。デニーンは過度に非細分主義的だ。彼は、自由主義の本質は個人を制約から解放することにあると主張している。

実際のところ、自由主義には、幅広い知的伝統が含まれており、権利と責任、個人の表現と社会的な結びつきの相対的な主張をどのように交換するかという問題に対して、いくつもの異なる答えを提供している。個人の自由への制約を取り除くことに最もこだわっている古典的自由主義者たちでさえ、原子化について苦悩している。ヴィクトリア朝中期の人たち(19世紀の半ばの人たち)は偉大な機構創設者たちだ。自発的な組織から株式会社まで全てを創設した。19世紀のイギリスの政治家ロバート・ロウの言葉を借りれば、「小さな共和国群(little republics)」ということだ。これらは、国家と社会との間のスペースを埋めるために設計されたものだった。後の自由主義者たちは、中央からの権限委譲や国民教育制度の創設など、さまざまな試みを行った。

デニーンが自由主義の本質にこだわることは、彼の本の2つ目の大きな問題につながる。彼は、自由主義が自らを改革し、内部の問題に対処する能力があることを認識していない。19世紀後半のアメリカは、ビジネス貴族の誕生、巨大企業の台頭、政治腐敗、社会が勝者と敗者に分かれることなど、現代にも通じる多くの問題を抱えていた。しかし、自由主義的な伝統の中で、多くの改革者たちが、これらの問題に正面から取り組んだ。セオドア・ルーズヴェルトは独占に対抗した。進歩主義派は政府の汚職を一掃した。大学の改革者たちは、学術的なシラバスを近代化し、機会に向かう梯子を築いた。自由主義は死滅するのではなく、自らを改革していった(Rather than dying, liberalism reformed itself)。

デニーンが、近年の自由主義の記録が悲惨なものであると指摘しているが、これは正しい。また、前近代的な「自由」の概念である「自己修養(self-mastery)」や「自己否定(self-denial)」から世界が学ぶべきことが多いと主張しているのも正しい。自由主義にとっての最大の敵は、原子化ではなく、昔ながらの貪欲(greed)である。ダヴォス会議のエリートたちは、役得やストックオプションで皿をますます高く積み上げる。しかし、人々が自由主義の矛盾(contradictions)から解放される唯一の方法が「自由主義そのものからの解放」であると主張するのは間違っている。『リベラリズムはなぜ失敗したのか』を読むための最善の方法は、弔辞(funeral oration)としてではなく、行動を起こすための呼びかけとして読むことだ。自分の生活を向上させろ、ということだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。  
 2021年12月3日に副島隆彦著『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』(ビジネス社)が発売される。副島先生の中国研究は既に10冊を超えた。私も2019年に副島先生のお供で深圳と香港を訪問した。その時の様子はこのブログでもご紹介した。
『全体主義中国がアメリカを打ち倒す』(副島隆彦著)発刊記念中国訪問記(1):深圳編
『全体主義中国がアメリカを打ち倒す』(副島隆彦著)発刊記念中国訪問記(2):香港編  
 『ディープ・ステイトとの血みどろの戦いを勝ち抜く中国』では、中国最高指導部が、「災い転じて福となす」戦略で達成した成果7つについて書いている。その7つについては、「はじめに」から以下のように引用する。
(貼り付けはじめ)
(1) 「デジタル人民元」がアメリカのドル覇権を叩き潰しつつある。デジタル人民元 が 世界通貨体制の 要(かなめ)となるだろう。
(2)  台独[たいどく](台湾独立派)を叩き潰して、アメリカが台湾に肩入れし、手出し干渉することを撃退する。日本やオーストラリアごときは、その手駒(てごま。paw ポウ)に過ぎない。
(3)  習近平は、勉強させ過ぎ(過酷な受験勉強)の子供たちを救出した。精鋭(せいえい)国際教育集団(OSIEG)という巨大教育産業(全国学習塾チェーン)を叩き潰して倒産させた。ニューヨーク上場株式消滅。ゲーム・アニメ・動画も同じく弾圧した。
(4)  経営危機の「恒大(こうだい)集団」を始め最大手不動産デベロッパーを、うまく国家の住宅政策に取り込んだ。恒大は同業種の国有企業が吸収合併(マージャー ・アンド ・アクイジジョン)。過熱した住宅価格も2割下げる。そしてゆくゆくは、14億人の全ての民衆(国民)に床面積100㎡(30坪)の高層住宅を持たせる(買えるようにする)。
(5)  ”中国版ビッグテック” (アリババ、テンセントなど)を、デジタル人民元の仕組みの中に解体的に取り込む。
(6)  9月24日に、ビットコインと全ての仮想 通貨(かそうつうか。暗号資産 クリプト・アセット)を最終的に禁圧し、国外追放にした。鉱山(マイナー)主たちの多くがアメリカのテキサス州に逃げた。仮想通貨はやがて叩き潰され、世界通貨体制の中にブロックチェーン技術を中心にして取り込まれる。  新しい世界通貨体制(ニュー・ワールド・カレンシー・オーダー)は予定通り、やがて、中央アジアのカザフスタン国に、すべての国の政府と中央銀行が集まって、国際条約で発足する。
(7)  生物兵器(バイオウエポン。細菌爆弾、ジャームボム)としてのコロナウイルスの武漢への攻撃を、中国は完全に撃退した(2020年9月に習近平が勝利宣言をした)。中国はディープ・ ステイト(陰[かげ]に隠れた世界支配者ども)の中国攻撃を、内部に攻め込ませる形で迎撃(げいげき)して粉砕した。中国の勝利だ。  このあとのm(メッセンジャー)RNAワクチンという世界民衆大量殺戮(さつりく)の邪悪な生物化学兵器も中国は見抜いて防御した。愚か者の日本や欧米の白人たちは、これから国民がたくさん死ぬ。(1-4ページ)
(貼り付け終わり)
 重要なのは、中国国内に分裂や分断をもたらさないことである。そのために習近平政権は、「共同富裕」という考えで、中間層を増大させ、いまだに貧しい6億の農民の報酬を引き上げることを宣言した。分厚い中間層はどの国にとっても安定と発展のためには不可欠な要素である。そのために急激な高度経済成長でもたらされた格差を是正する。
 更に言えば、一時期の日本よりも厳しい受験戦争から子どもたちを解放すること、そして、スマートフォンやSNS、ゲームへの依存から救出することを目指している。この点が重要だ。なぜならば、若者たちのスマートフォンやSNS、ゲームへの依存は、すでに先進諸国でも問題になっているからだ。これらは孤立感や憎悪を増幅させる。その結果として、社会は壊れていく。私は、2021年11月25日に『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、古村治彦訳、徳間書店)を出版したが、そこにも同様のことが書かれている。現在、世界各国が抱える問題は共通しており、それは深刻なものとなっている。中国も例外ではない。そして、中国最高指導はそれらの諸問題を逆手(さかて)にとって、「禍を転じて福と為す」ということで、より良い状態を生み出そうとしている。
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ビッグテック5社を解体せよ 
 ここでちょっと宣伝をさせていただくと、私は2014年に『野望の中国近現代史』(オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー著、ビジネス社)という翻訳本を出版した。 この本は非常に重要な本だ。本ブログ2021年7月9日付記事「「恥辱の世紀」から「復興」へ「歴史のバトン」をつなぐ中国:「富と力」を求めた200年間」で、2021年7月1日付でアメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された「中国共産党はこれまで常にナショナリスト政党であった(The Chinese Communist Party Has Always Been Nationalist)」(ラッシュ・ドシ筆)という記事を紹介した。
「恥辱の世紀」から「復興」へ「歴史のバトン」をつなぐ中国:「富と力」を求めた200年間
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 この記事は『野望の中国近現代史』の内容をそのまま要約したものだった。現在はほぼ絶版状態になっており、新刊本は書店では手に入らないし(アマゾンでは残り1点だそうだ)、電子書籍版もないので、中古本を買っていただくしかないが、中国の近現代史を大づかみに一気に理解したい方には最良の一冊である(少し分厚いですが。私の高校の同級生は2度読んだよと言ってくれました)。アメリカの知識人階級の中国近現代史理解は本書でできていると言っても良いだろう。
 最後に私の中国体験を書いておきたい。2019年に中国を訪問したが、それ以前にも行ったことがある。私は1984年、当時小学4年生だったと記憶しているが、地元鹿児島の南日本新聞社主催の「子ども遣唐使」という小中学生だけの中国訪問ツアーに参加した。これは、鹿児島の薩摩半島の南端にある坊津(ぼうのつ)という場所に、奈良の唐招提寺の開山となった鑑真和上(がんじんわじょう)が漂着した歴史があること、当時は日本からの中国への渡航も制限が緩和されたこともあっての子どもたちの訪問団が実現したということだったと思う。前年が第1回で、それに参加した子どもの保護者から話を聞いた親が勧めてくれたという記憶がある。私にとっては当然ながら初めての海外旅行だった。その頃の鹿児島で海外旅行に行く小学生なんてほぼいなかった。
 私たちは鹿児島空港から長崎空港へ飛び、長崎空港から中華民航機で上海に向かった。私たちの訪問地は上海と無錫だった。上海空港はただただ広かったが、飛行機が到着した場所から空港の建物まで歩いた。私はそれまで子供ながらに鹿児島空港と羽田空港を利用した経験があったので、雑草が生えている滑走路を歩きながら、「タラップもないなんてなんてみすぼらしい」という感想を持った。中国側からは通訳の方もついて、ホテルに着き、翌日からは観光や少年宮と呼ばれる教育施設の訪問などがあった。
 私が記憶しているのはパンダだ。やっぱり子供である。私は親戚もいた関係で東京には毎年のように行っていたので(こんな子供もまた鹿児島では珍しかった)、日本の上野動物園でパンダを見た経験はあった。上野にいたパンダは空調の聞いた檻(というよりも部屋)に入っていて快適そうだった。一方、上海動物園のパンダ。上海のパンダはただの檻に入れられて、夏の猛暑の中、水風呂にひたすら入っていた。そして、夏バテのためか昼寝をしていた。そこに、白人の親子もおり、子どもたちがパンダを起こそうとして「ヘイ、パンダ」「ヘイ、パンダ」と呼び掛けていた。「英語でもパンダはパンダって言うんだな」という妙な感心をしたことを覚えている。
 上海の動物園には中国人の子どもたちもたくさん来ていたが、皆一様にランニングシャツに短パンだった。そこに外国語を話すこざっぱりとした格好の子供たちの一団がやって来たのが異様だったのか、私たちの後ろを同年代の子供たちがついてきた。私は子供心に、「日本が戦争をして負けた後の写真やドラマ、ドラマでよく見る格好だ」と思い、中国は貧しいんだと実感した。それから40年ほど経った訳だが、その時一瞬邂逅した、日本の子どもたちと上海の子どもたちは今や中年になっている訳だが、その生活はどうなのだろうかと考えると、大きな逆転があったのではないかと容易に推測できる。彼らは中国の高度経済成長を経験し、私たちは失われた30年を経験した。
 それから由緒のあるお寺を訪問した。その中身については全く覚えていないが、私は壁に何か描かれていたが乱暴に消された跡があることに気付いた。それが歴史のあるお寺にそぐわないと子供心に思ったのだろう、通訳の方に「あそこだけどうしてあんなに汚れているんですか」と質問した。通訳の方は「文化大革命というものの跡です」と教えてくれた。私は「文化大革命とは何ですか」と質問した。その答えは「日本に帰ってお父さんとお母さんに聞いてください」というものだった。それでこの話は終わり、あまり良くないことなのだろうと察することができた。それから、この通訳の方は何かと私に気遣いをしてくれるようになった。どこかに行くたびに私の感想を聞きたがり、面白そうに聞いてくれた。他の子どもたちはちょっと違うと思ってくれたようだ。
 後日談では、私が入学した高校の美術室にはベランダがあり、そこは高校生たちが隠れてタバコを吸うスペースになっていた(今はそうではないと思います)。私はそこの掃除当番になって毎日吸殻を捨てていたのだが、ある日壁にうっすらと「造反有理」と書かれているのを見つけた。これは文化大革命のスローガンだと知っていたので、恐らく学生運動の名残なんだろうと納得した。その後、その高校の出身者である私の叔父に話をしたら、「懐かしいなぁ、それを書いたのは私だよ」と教えられて、小学4年生で知った文化大革命という言葉が非常に身近に感じられた。
 1984年はロサンゼルスでオリンピックが開催された年だ。ご多分に漏れず、私もオリンピックを楽しみにしており、コカ・コーラを何本か飲むと貰えた(というシステムだったと思う)、マスコットのイーグル・サムの付いたグラスを集めていた。中国訪問中はオリンピックの開催期間でもあったので、ホテルのテレビでオリンピックを見ることになったが、当然のことながら、中国での放送は中国選手ばかりが映る。今ではそんなことは何とも思わないが、当時子どもだった私は日本選手の活躍が見たかったので大いに不満だった。 ホテルでテレビを見ていた時に、日本のドラマの吹き替えが多かったのも印象的だった。「赤いシリーズ」と呼ばれたドラマで、山口百恵が出ているシリーズが丁度放送されていた。「わぁ、山口百恵だ、懐かしいなぁ」と思ったことを覚えている(山口百恵は私がもっと小さい頃に既に引退していたので)。また、上海のバンドのあたりには、三田佳子がキャラクターの三洋電機の洗濯機の大きな広告があったことを覚えている。
 中国訪問中、私は誕生日を迎えた。ホテルでは心づくしのケーキを出してくれた。しかし、このケーキはスポンジがパサパサ、クリームも日本のものとは違う感じで、子どもたちの口には合わなかった。また、ある時に通訳の方と話していて、自転車が給料1カ月分だと教えてくれて、その給料は日本円で言えば8000円くらいと教えてもらえた(通訳の方の給料はもっと高かったと思う)。私の親は教師をしていたが、それよりもずっと高い給料をもらっている(それでも日本では真ん中くらい)ということを知っていたので、中国の貧しさを実感した。
 私が子どもの頃に中国を訪問して40年、中国は日本を逆転した。これからその差は広がっていくだろう。一人当たりのGDPはまだ日本が上回っているが、それもいつまで続くか分からない。日本の衰退・縮小が続き、中国が成長を続けていけば、自然とそうなる。既に中国の都市部では生活水準で日本を上回っているところが出ている。中国が本気で中間層の厚みを増そうとして、配分や再配分に本腰を入れていけば、生活水準は上がっていく。ランニングシャツに短パンだった上海の子どもたちは今や一流ブランドの洋服に身を包み、あの頃こざっぱりとした格好をしていた私たちはどうだろうか、ユニクロの洋服を着て満足している。この大きな逆転を実感することは歴史の大きな流れを実感することだと私は思う。副島先生の中国研究本を読みながら、なぜか昔話を書きたくなった。長くなってしまって申し訳ありません。ご寛恕の程、お願いいたします。 (貼り付け終わり) (終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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