古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:台湾

 アメリカと台湾の関係は微妙である。アメリカは米中国交正常化(1975年ニクソン訪中、1977年カーターによる米中共同宣言の内容の再確認、1978年に1979年1月に国交樹立を行うことに合意)以来、「一つの中国」政策を堅持している。これは、「中国本土と台湾は不可分の領土であり、台湾は中華人民共和国の一部であり、中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府だ」とする中国政府の主張について、アメリカ政府が不可分と台湾が中国の一部であることを「認識する(acknowledge)」、合法政府であることを「承認する(recognize)」というものだ。これらの文言は曖昧である。

 台湾(中華民国)は1972年に国連から追放され、多くの国々が台湾を独立国として正式に承認していない。ここで問題は、1978年、米中国交正常化の前に、アメリカ連邦議会が「台湾関係法(Taiwan Relations ActTRA)」を制定した。これは、台湾の安全保障に関して、アメリカ大統領に米軍による行動という選択肢を認めるものであるが、「アメリカ軍が必ずアメリカ軍を守る」ということではない。これは「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」と呼ばれている。しかし、一般的には台湾有事の際にはアメリカ軍が台湾を守ると受け止められている。

 ウクライナ戦争が勃発し、「次は台湾だ(中国が台湾を攻める)」という馬鹿げた主張が多くなされた。そして、その際に「アメリカは台湾を守るのか」という疑問が多くの人々の間に出てきた。ウクライナ戦争ではアメリカは莫大な資金と膨大な数の武器をウクライナに送った。しかし、決定的な攻撃力を持つ武器は送らず、兵員も送っていない。台湾も同様のことになるのではないかという主張が出ている。アメリカ軍が中国人民解放軍と直接戦闘ということになったら、どのような事態が起きるは分からない。エスカレーションを避けたいアメリカは台湾に兵員を送らないだろう。そうなれば台湾は領域の狭さを考えるとウクライナのような抵抗は厳しいだろう。
 そもそも中国が直近で台湾を攻めることはない。台湾が中国にとっての安全保障の脅威になっているということはない。熟柿作戦で柿が熟して落ちるまで待てばよい。そして、台湾の側から見れば、アメリカが頼りにならないとなれば、中国との軍事的な衝突は百害あって一利なしとなる。中国との戦争は馬鹿げたことだ。アメリカに物資だけもらって自分たちだけで戦うというのは自分たちだけが傷つくだけのことだ。軍事的な衝突を避けながら、自分たちが中国の実質的な影響圏、経済圏の中で存在感を保ちながら、繁栄を続けていくということが最善の途だ。

 台湾関係法の曖昧さは対中国という側面もあるが、台湾をアメリカに依存させるために必要である。しかし、ウクライナ戦争でこの曖昧さのメッキがはがれ、「どうせアメリカは頼りにならない。物資だけもらって戦って傷つくなんて愚の骨頂だ」という考えが台湾の人々の間で広がっているだろう。台湾内部で大陸との衝突を避けようとする国民党の任期が上がっているのもうなずける話だ。

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バイデンはウクライナが必要としているものを全て与えるべきだ-そして公式に台湾防衛に関与すべきだ(Biden should give Ukraine all it needs — and formally commit to defend Taiwan

ジョセフ・ボスコ筆

2022年11月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3753576-biden-should-give-ukraine-all-it-needs-and-formally-commit-to-defend-taiwan/

もしアメリカがロシアの侵略に対する現在のウクライナ支援の形が、中国が台湾を攻撃した後のアメリカの役割のモデルになるとすれば、台湾の人々は大変な目に遭うことになるだろう。

2008年、NATOはジョージ・W・ブッシュ大統領の働きかけを受けて、加盟国26カ国による「グルジアとウクライナがNATOに加盟することに合意した」という内容のコミュニケを発表した。

1997年、ウクライナがソヴィエト連邦時代に保有していた核兵器を放棄する代わりに、アメリカ、イギリス、ロシアがウクライナの安全保障を具体的に保証したにもかかわらず、ウラジミール・プーティンはNATOの姿勢に対して「ロシアの安全保障を脅かすものだ」と強く反発した。

しかし、2008年にロシアがグルジアに侵攻した際、アメリカとNATO各国は何もしなかった。プーティンは、アメリカとNATOの黙認に勇気づけられ、「国家の再統一(national reunification)」と「領土の一体化(territorial integrity)」に向けた次の動きを計画した。

それが、2014年のウクライナ東部とクリミアへの侵攻である。オバマ政権はブッシュ政権のグルジアでの例に倣って、それを止めるためのことは何もしなかった。

アメリカの指導力がないために、NATOもプーティンの第二の侵略行為を受け入れ、必然的にプーティンは決定的な第三の行為を計画するようになった。バイデン政権の「厳しい(severe)」経済制裁の警告を無視して、ロシアがウクライナの国境沿いに侵攻軍を動員したのは、2022年2月のことだった。

ロシア軍がウクライナに侵入し、首都キエフに向かって前進した後、ワシントンとNATOの同盟諸国の政府関係者たちは、ヴォロディミール・ゼレンスキー政権の崩壊が近いと予想した。その場合、西側諸国の役割は、ウクライナの降伏とプーティン支配下での再建のための交渉を促進する、最小限の比較的リスクの少ないものとなるはずだった。ジョー・バイデン米大統領は、ウクライナが要求していないアメリカ軍の地上戦や、要求している飛行禁止区域の設定によってロシアに直接挑むことは、「第三次世界大戦になる可能性がある(would be World War III)」と述べている。

台湾には、ウクライナをロシアの侵略から守るのに失敗したのと同じレヴェルの西側の安全保障しかない。その代わりに、1979年に制定された台湾関係法Taiwan Relations ActTRA)がある。この法律では、「ボイコットや禁輸を含む平和的手段以外で台湾の将来を決定しようとするいかなる試みも、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、アメリカにとって重大な懸念であると考えられる」と定めている。

このような敵対行為(hostile action)に対応するため、台湾関係法は、アメリカが「台湾に防衛的性格の武器を提供し、武力または他の形態の強制(coercion)に対抗するアメリカの能力を維持しなければならない」と定めている。

法律成立以降の全てのアメリカ政権は、台湾に防衛的な武器を提供することで、台湾関係法の命令の最初の部分を遵守してきた。ドナルド・トランプ政権とバイデン政権は、中国のエスカレートする暴言とますます敵対的な行動に対応して、台湾の武器売却の量と質を大幅に引き上げさせた。

しかしながら、ワシントンが台湾に提供する兵器の「防衛的(defensive)」性格を強く打ち出していることから、北京は台湾の軍事力を理由に台湾に対する運動行動を抑止することはできないだろう。ここでも、ウクライナの経験は、台湾にとって心強いものではない。

プーティンが何度か予告した核兵器使用の可能性を含む、ロシアのエスカレーションに対するアメリカと西側諸国が恐怖を持ったことで、ウクライナの現在の防衛的立場からロシア領土を攻撃できる西側諸国の兵器の移転を抑制することに成功した。

同様に、アメリカの歴代政権は一貫して、中国の資産を脅かし、北京の紛争を抑止する可能性のある最新鋭戦闘機やディーゼル潜水艦などの兵器システムの台湾への売却を拒否してきた。

近年、アメリカの国防当局は、殺傷能力の高い兵器の提供を控えることを戦略的ドクトリンの領域にまで高めている。彼らは、いわゆる「ヤマアラシ戦略(porcupine strategy)」を推進しており、「多くの小さなもの(many small things)」、例えば地雷、海岸障害物、対水陸両用兵器などによって、台湾を中国軍が攻撃する際の「簡単に負けない」犠牲者(“indigestible” victim)にするというものである。

アメリカの台湾政策は、バイデンが、屈辱を感じたプーティンが大量破壊兵器を持ち出すことを恐れて、ウクライナにロシアを決定的に破るために必要な先進兵器システムを提供するのを阻むのと同じエスカレーションへの恐怖によって阻まれている。

しかし、アメリカが台湾の防衛能力だけでなく、中国の侵略を抑止する能力を制限するほど、台湾関係法が義務付けるアメリカ自身の「抵抗能力(capacity to resist)」を強化する必要性が高まる。

1979年以降、「アメリカは台湾を積極的に防衛する」と明確に宣言した政権はなく、台湾が自衛を試みることができる限定的な武器を送ったに過ぎない。これは戦略的曖昧さ政策(policy of strategic ambiguity)と呼ばれる。

クリントン政権は1995年、中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは何をするか分からないと中国当局に伝え、「それは状況次第ということになる(it would depend on the circumstances)」と述べた。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2001年に記者団に対し、アメリカは「必要なことは何でもする(whatever it took)」と述べ、中国がどうするかは分からなくても、私たちがどうするかは分かっていることを示唆した。トランプ大統領は、「中国は私が何をするかを知っている(China knows what I'm gonna do)」と威嚇するような発言を行った。つまり、今、ワシントンと北京の両方が、台湾防衛に対するアメリカの意図を把握していたが、アメリカと中国の両国民は、台湾をめぐる戦争の見通しについて、依然として暗中模索しているのである。バイデンは、アメリカが台湾防衛のために自国の戦闘部隊を派遣するということを、4回の機会をとらえて、より具体的な言葉で述べ、状況に新しい光を当てようとした。

しかし、ホワイトハウスと国務省のスポークスマンは、それぞれの大統領の発言について、アメリカの「一つの中国政策(one China policy)」と両岸の平和的解決(peaceful resolution)に変更がないことを「説明」し、台湾防衛に関する戦略の明確化から何度も逃れている。

国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは最近、彼の上司であるバイデン大統領が「アメリカは台湾を軍事的に防衛する」と何度も発言したことについて問われ、「私たちの台湾関係法の関与は、アメリカが台湾防衛に必要な物品を提供することを確約する」ことだけだと確認した。

サリヴァンは、同じく台湾関係法で義務づけられている台湾防衛のための「能力(capacity)」を行使するとは言っていない。もう1つの未解決の問題は、台湾が自国を防衛するために必要な「物品(articles)」を誰が定義するのかということだ。つまり、定義するのは、台北かワシントンか、ということである。これは、ウクライナの安全保障上の要求について、ワシントンとキエフが対立しているのと同様である。

現在、ウクライナと台湾は、減少し続けているアメリカが備蓄している武器をめぐって争っている可能性があると報じられている。これは、「無制限(no limits)」の戦略パートナーであるロシアと中国にとって朗報であり、ワシントンの注意と資源を異なる方向に引き寄せようとして協調している。バイデンは、ウクライナが防衛に必要なものを全て手に入れられるようにする一方で、台湾を防衛するというアメリカの責務を正式に表明する理由が更に増えている。

※ジョセフ・ボスコ:国防長官中国国家担当部長(2005-2006年)、人道的援助・災害救援担当アジア太平洋部長(2009-2010年)を歴任。ウラジミール・プーティンのグルジア侵攻時に国防総省に勤務しており、アメリカの対応について国防総省の議論に参加した。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.
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 古村治彦です。

 昨年、ウクライナ沖の黒海に展開していたロシア黒海艦隊の旗艦(flagship)だったミサイル巡洋艦「モスクワ」が、ウクライナ軍の地上配備の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された。ロシア黒海艦隊の主力艦が撃沈された、この出来事は衝撃を与えた。「モスクワ」の装備の古さが指摘されたが、それよりも地上配備の対艦ミサイルの有効性が証明されたことの影響力は大きかった。海上艦艇による海上封鎖や侵攻に対して、対艦ミサイルが有効な対抗手段となることは守備側にしてみれば大きい。
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 米中関係について見てみれば、米中戦争となった場合に、アメリカ軍は中国に対して、艦艇派遣は慎重にならざるを得ない。中国の接近阻止・領域拒否戦略によって、防備が固められており、安易な接近は手痛いしっぺ返しを喰らうということになりかねない。アメリカ海軍が誇る第七艦隊の攻撃力や有効性は考えられているよりも減殺されてしまうだろう。アメリカからすれば、台湾に対してミサイルを売りやすくなったと言うことになる。「中国による台湾侵攻に対してはミサイル防衛が有効です」という売り文句が使える。
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 しかし、中国本土と台湾との距離の近さ、軍の規模の違いを考えると、ミサイル防衛がどれほど有効かは分からない。中国本土から戦闘機、爆撃機、ミサイル、火砲などが雨あられのように降り注ぐことになれば、台湾はひとたまりもないだろう。アメリカ軍が駆けつけると言っても、限界があるだろう。アメリカ軍が空母を派遣し、戦闘機で対抗するにしても、空母が対艦ミサイルの攻撃を受けてしまえば、戦闘機は帰る母艦を失う。

 対艦ミサイルの有効性向上によって、空母で容易に近づけず、戦闘機の戦闘力が制限されるということになれば、空母の有効性が削減されると言うことになる。太平洋戦争では、日本海軍は大艦巨砲主義にこだわり、空母群による航空攻撃を軽視したために敗れたということが定説になっている。日本はマレー沖海戦、真珠湾攻撃で空母を使った機動作戦を成功させていながら大艦巨砲主義、艦隊決戦思想から脱することができなかったとされている。太平洋戦争は空母打撃群を主力とする戦争の新しい形態を生み出した。しかし、ミサイルの正確で効果的な攻撃ということが今回実証され、空母打撃群もまた時代遅れとなりつつある。もちろん、作戦行動によっては空母打撃群が必要であることは変わらないが、空母が最強ということはなくなったようだ。時代は移り変わり、万物は流転するということになる。

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ロシア海軍の件の戦艦と南シナ海(The Russian Warship and the South China Sea

-戦艦「モスクワ」撃沈は、台湾にとってどのような教訓となるか?

アレクサンダー・ウーリー筆

2022年10月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/01/moskva-south-china-sea-russia/

2022年4月14日、海軍をほとんど持たない国が、海上で見事な勝利を収めた。ウクライナは陸上配備対艦ミサイル(land-based anti-ship missilesASM2基を使用して、ロシアの誘導ミサイル巡洋艦モスクワ(Russian-guided missile cruiser Moskva)を撃沈したのである。これは衝撃的な勝利であり、5000マイル離れた場所で起こりうる紛争への教訓となるものである。中国はいつか、西太平洋からアメリカとその同盟諸国を排除するために、独自の対艦ミサイルを使用する可能性がある。

ウクライナのKh-35ミサイルの使用は、戦争初期にウクライナ陸軍がロシア軍に対して巧みに使ったものの海上版のような、非対称戦(asymmetric warfare)のように見える。ウクライナは戦艦モスクワに対して「ヘイメーカー(haymaker)」で攻撃したが、それは明確な戦略の一部というより、臨機目標(target of opportunity 訳者註:予定外、計画の攻撃目標)であった。そのため、他の紛争への適用は制限されるかもしれないが、台湾への最適な戦略をめぐる濃密な議論の一部として、今もなお利用されている。

何十年もの間、米海軍の水上戦闘部隊は、敵の海岸線までほとんど無抵抗で押し出すことができた。4月13日の時点で、ロシア人は歴史的にロシアの海軍力が支配してきた黒海について同様の自信を抱いていた。

接近阻止・領域拒否(A2/ADAnti-access/area denial)は、中国自身の海洋圏からアメリカを軍事的に抑止する北京の計画を説明するために最初に使われたアメリカの流行語だ。アメリカの軍艦にとって、これらの計画で最も致命的となりうるのは、世界最大の地上発射型ミサイル軍である人民解放軍ロケット軍(People’s Liberation Army Rocket ForcePLARF)である。PLARFは、西側諸国にはほとんど知られていないが、ミサイル兵器は独裁者たちのパレードでは定番となっている。PLARFは2000発以上の通常弾道ミサイルと巡航ミサイルを保有しており、特に対艦ミサイルに重点を置いている。これは南シナ海にいるアメリカの空母群を狙い、戦争になった場合には中国沿岸の基地から台湾を攻撃することができる。PLARFは、その数の多さによって、アメリカや同盟諸国の艦船防御システム(shipboard defensive systems)を圧倒しようとするものだ。ウクライナの軍事計画者たちは、トラック搭載の陸上配備対艦ミサイル(ASM)が2、3発で攻撃を成功させることでき、その結果に興奮しただろう。

しかし、1983年に就役したモスクワは冷戦時代の艦船であり、空母を撃沈させる能力を持つミサイルを装備していたが、それを発射する相手がいなかった。一方、軍事化が進む西太平洋では、空と海のプラットフォーム、武器、センサーの規模と精巧さ、技術的な攻撃と反撃のスピードが格段に向上している。

アメリカとその同盟諸国は、中国の新型の陸上弾道ミサイルや極超音速対艦ミサイルを打ち負かすために、ソフトキル(soft-kill)とハードキル(hard-kill)の対抗策を展開することになるであろう。ハードキルの対抗策は現在または近いうちに南シナ海の大部分をカヴァーできるようになる。北京がそれに見合う情報、監視、偵察能力を持っているかどうかは議論の余地がある。遠距離にある艦船を攻撃するには、最初の位置確認から追跡、交戦、そして戦闘後の評価まで、段階的なプロセスが必要であり、これらを総称して「キルチェーン(kill chain )」モデルと呼ぶ。

この小さな軍拡競争が続く中、アメリカはとりわけ、巡洋艦と駆逐艦のマーク41垂直発射システムにRIM-162進化型シースパローミサイルを「クアッドパック(quad-pack)」することを検討している。これは、1つの発射セルにつき1発ではなく4発のミサイルを搭載することを意味し、アメリカ軍の艦船が集団攻撃からよりよく身を守ることを可能にする。また、弾倉を深くして長く駐留させ、弾薬補給の機会が薄れそうなときに部隊が攻撃する見通しを向上させることができる。アメリカは対艦巡航ミサイル用レーザーの開発にも取り組んでおり、有望な技術ではあるが、配備にはまだ課題が多い。

誰が優位に立つのか? 米海軍大学のJC・ワイリー記念海洋戦略教授であるジェームズ・ホームズは「個人的な推測では、私たちは再び自国を守ることができるようになる手前まで来ていると思うが、それは新しいテクノロジーが大きな期待に応えられるのかにかかっている。しかし、確信をもって推測できるものではない」と述べている。

もし、中国の習近平国家主席がホームズの評価分析に同意するならば、台湾への攻撃を早急に考えるかもしれない。ホームズは「今しかないという考え方が定着しないか心配だ」と語っている。

しかし、台湾に関して言えば、接近阻止・領域拒否(A2/ADAnti-Access/Area Denial)は双方向に機能する。北京はアメリカ軍艦船を遠ざけたいが、侵略には自国の軍隊を世界で最も防衛の厳しい海域に送り込む必要がある。ロシアの戦艦が沈んだことで、アメリカの連邦議員たちは、「ハリネズミ防衛(hedgehog defense)」(ハリネズミの棘のようにミサイルが林立する島)の価値について、抵抗する台湾の軍事指導者を説得するための格好の材料となり、潜在的侵略者に対する防衛と抑止の両方が可能になった。

連邦下院外交委員会の共和党側筆頭委員であるマイケル・マコール連邦下院議員は『フォーリン・ポリシー』誌上に、「ほとんどの場合、中国の攻撃に弱いハイエンドシステムよりも、ウクライナが効果的に使用している対艦ミサイルのように、低コストで最大の抑止効果を発揮する費用対効果の高い、移動可能で生存可能な技術に焦点を当てることを意味する」と書いている。

しかし、台北はまだそこに到達しておらず、既存のシステムのいくつかは間違った配備がなされている。ホームズは次のように述べている。「台北の高官たちが、台北にある非常に限られた長距離地対地ミサイル(long-range, surface-to-surface missiles)の在庫を使って北京を攻撃すると脅すのだからおかしくなりそうだ。復讐のための攻撃は、民主国家としての台北の存続という観点からするとほとんど意味がない」。

人民解放軍の水陸両用軍による侵攻に対し、台湾が接近阻止・領域拒否を展開するという発想は新しいものではない。2010年、ジェームズ・ホームズとアジア太平洋地域の専門家であるトシ・ヨシハラは、台北がまさにそのような兵器と戦略を持つことを主張し、多くの点で中国本土が世界規模で活動できる海軍の構築に着手する前の数十年間に用いた、毛沢東の海洋拒否主義(sea denialism)を真似ることになるだろうと指摘した。しかし、台湾の軍指導部は、主要な兵器システム、他の中堅国の模倣品、駆逐艦やフリゲートの水上艦隊に関心を持っており、保守的なことで知られている。モスクワの沈没は、それを変える可能性がある。

アメリカと中国の両方にとって、陸上配備の対艦ミサイル(ASM)は何世紀にもわたって変わらない海戦を強化することになる。敵の海岸線に近づくほど、船に悪いことが起こる。3世紀前、それは沿岸の砲台(coastal batteries)と要塞(forts)だった。最近では、より高速な武器と陸上の乱雑な電子環境により、応答時間が短くなりが、破損した船は自国の基地や修理施設に戻る距離が長くなる。一方、ランドラバーシューターは、ターゲットが比較的沿岸に近い場合に、ターゲットを見つけて追跡するのが容易になる。ホレーショ・ネルソン元英国中将が「要塞と戦う艦船は愚かだ」と言ったのには理由がある。

例えば1982年のフォークランド紛争では、イギリスの空母インヴィンシブルとヘルメスは、アルゼンチンの陸上配備対艦ミサイルを恐れて東に大きく離れていたため、機動部隊(task force)の間で、「空母群には、現在のミャンマーでの任務に与えられる勲章であった、ビルマスター勲章を授与される」というジョークが流れたほどである。

アメリカの空母打撃群は、中国沿岸や中国が基地を建設している南シナ海の島々からどれだけ離れていても効果を発揮できるのだろうか? 1980年代ほどの力はない。ジョン・リーマン元海軍長官とCNAのスティーヴン・ウィルス中佐は、現在の空母艦載機はF-14やA-6といった以前のタイプの航空機のような航続距離や積載量を有していないと主張している。つまり、空母はより戦闘に近い場所にいなければならないのだ。

更に言えば、冷戦時代には空母航空団に専用の空中給油設備があったことが問題を大きくしている。しかし、今はもう存在しない。無人空中給油機MQ-25スティングレイは現在開発中で、空母の甲板から飛行し、F-18の航続距離を伸ばすことができるだろうが、少なくとも2026年までは運用できないだろう。

しかし、この問題は北京にとっても同様に深刻である。中国が台湾に侵攻する際、どのような主要な陸上部隊を投入するのだろうか? そのピカピカの新しい空母はどうだろうか? 2016年、歴史家のスティーブヴン・ビドルと戦略的安全保障の専門家アイヴァン・オエルリッチは、「同盟諸国の陸地の周囲(約500マイルまで)のアメリカの影響圏(sphere of influence)、中国本土の中国の影響圏、南・東シナ海の大部分を覆う戦闘空間、どちらの勢力も戦時中の地上・航空移動の自由を享受しない」を想定している。

彼らがそう書いてから多くのことが起こった。将来の戦争では、南シナ海は争われる段階を超えて、第一次世界大戦の西側塹壕の間のように荒れ果て、波の下をパトロールする潜水艦以外は何もない海上無人地帯になる可能性がある。

モスクワの撃沈が生んだもう一つの疑問は、艦船がいかに壊れやすいかということだ。水上艦艇が何回の攻撃に耐えられるかを推定することは、科学的に見て不正確であると同時に、大部分が機密事項である。ある退役した海軍司令官は最近、大まかな計算式に基づいて、モスクワはネプチューンのミサイル5発まで耐えられるはずだと書いている。ウィルスは本誌に対して、実際の発射数は3、4発であったはずだと推定している。

2005年に行われた超大型空母「USSアメリカ」のSINKEX演習の結果は機密扱いとされている。リーマンとウィルスは2021年の著書で、1960年代に米空母で起きた大火災を検証し、対艦巡航ミサイル攻撃(anti-ship cruise missile strike)の代用として使用することで答えを出そうとしている。著者たちは、甲板や格納庫の火災は、超音速の弾道ミサイルはともかく、亜音速の巡航ミサイルのような衝撃を受けるエネルギー特性を持たないことを認めているが、フォードやニミッツ級空母は打撃を受けうるという結論を出している。

逆に、1994年、ジョン・シュルトという海軍大学院の学生(海軍将校)が、沿岸戦における巡航ミサイルの有効性を検討する論文を提出した。そのために、シュルトは、過去にミサイルが艦船に命中した全てのデータを作成した。その結果、平均1.2発のミサイルが艦艇を破壊し、1.8発のミサイルが艦艇を沈没させることが分かった。モスクワはこの測定結果に合致する。モスクワの乗組員たちは、攻撃時に居眠りをしていたようだ。2009年に機密指定を解除されたシュルトの論文では、このようなケースもかなり多いことが判明している。シュルトは、「防御可能な標的(defendable targets)」という特別なカテゴリーを作った。対艦ミサイル攻撃を撃退する手段を持ちながら、それを使用せずに攻撃された軍艦ということになる。通常、不注意、防御システムのスイッチオフや機能停止、状況混乱などが理由となる。多くの場合、被害者たちは対抗策を講じることさえできなかった。最終的に引き起こされる大惨事は、使用された兵器の大きさ、数、精巧さに比例する。

防衛側にとって最悪なのは、一斉射撃で全てのミサイルを打ち落とせなかった場合、悲惨な事態になる可能性があることだ。2021年の『艦隊との戦闘(Fighting the Fleet)』の共著者である退役海軍大佐のジェフリー・カレスは、次のように述べている。「なぜ、戦闘に突入して攻撃を受けないようにしなければならないと考えるのか? 私たちのシステムが優れているからか? まあ、これは冗談であるが」。

対艦ミサイルの攻撃を受けた艦船のうち、モスクワのように1発か2発のミサイルを受けただけのものがほとんどである。ソ連や南シナ海で想定される接近阻止・領域拒否型のシナリオのように、対艦巡航ミサイルの弾幕をかいくぐった艦艇はないのである。

モスクワは大型で武装した軍艦だった。アメリカは、中国に比べれば相対的に少数ではあるが、大型で武装した艦艇を建造している。前述のカレスは次のように述べている。「私たちのようにバランスが悪く、高性能なプラットフォームを少数しか持てない場合、敵の標的の問題は非常に単純化される。中国人民解放軍海軍が撃つ可能性のあるものは、全て撃ち落とす価値があるものだ」。

更に緊急の問題は、ミサイルが命中した後、官邸が運用を継続できるか、あるいは迅速に修理できて戦列に復帰できるかということだ。短期的な紛争では、1発のミサイルが致命的でなくとも、戦闘機の作戦を停止させ、空母を戦場から退かせれば、それは沈没したのと同じことになるのだ。

しかし、中国自身は、空母の急速な建造計画を考えると、空母は時代遅れではないと考えていることは明らかだ。空母はある程度、虚栄心(vanity)の指標であり、中年の危機のためにポルシェを買うのと同じようなものだ。しかし、中国人民解放軍海軍は、空母に注ぎ込んでいる資源を考えると、空母が完全に教義的に時代遅れで、致命的に脆弱だとは考えないはずだ。6月には中国初の平甲板型空母「福建」を進水させ、戦略予算評価センターは最近、今後10年間に更に3隻の空母を購入する余裕があると推定している。大型艦の全盛期は終わったかもしれないが、まだ時代遅れにはなっていない。

※アレクサンダー・ウーリー:ジャーナリスト、大英帝国海軍士官(退役)。

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 古村治彦です。

 2022年2月26日にウクライナ戦争が勃発して7カ月以上が経過している。状況は膠着状態だ。ウクライナ戦争勃発後、「次は台湾だ」という馬鹿げたスローガンが聞かれるようになった。ロシアがウクライナに侵攻したのと同様に、中国が台湾に侵攻するだろうという主張だ。日本国内でこのような危機感を煽り、日本の更なる防衛予算増大、核武装まで話を進めようという危険な人間たちが出た。自民党や野党の一部の政治家たちも散々に危機を煽った。

 ロシアはウクライナ侵攻で首都キエフ奪取を目指したがその企ては頓挫した。そして、ウクライナ東部の確保に注力することになった。首都キエフ奪取失敗やロシア軍の幹部たちの狙い撃ちによる殺害は西側諸国からウクライナに供与されたジャヴェリン対戦車ミサイル、スティンガーミサイルが効果を発揮したこと、ウクライナ軍が強固な抵抗を示したこと、ロシア軍の装備が古かったことや通信手段が平時のままであったことなどが理由として挙げられる。私が注目したいのは、ロシア黒海艦隊の旗艦モスクワがウクライナ軍のハープーンミサイルで撃沈されたことだ。

 中国が台湾に侵攻するためには、台湾海峡を渡らねばならない。このロシア黒海艦隊機関の撃沈は中国側に大きな教訓になったことと思う。対艦ミサイルの威力は大きく、艦隊側もかなりの防衛能力を持っていなければ相当な被害が出るということを学んだはずだ。そのためには、中国が台湾に侵攻する場合にはまず徹底的な空爆やミサイル攻撃で防衛能力を叩いておかねばならないが、そういうことをすれば台湾の民間人に大きな被害が出て、犠牲者の数は計り知れない。台湾の人々に深い恨みを残すという大きなコストを相殺しておつりが出るほどの軍事侵攻するメリットは今のところない。

 また、台湾と中国との経済的結びつきも深まっており、台湾を攻撃して失われる経済的メリットを考えると軍事侵攻など得策ではない。中国を代表する世界的大企業ファーウェイ(華為技術)と台湾の巨大企業フォックスコン(鴻海科技集団 / 富士康科技集団)のつながりは深いことは中退の経済的つながりの象徴だ。それぞれの創業者である任正非と郭台銘の個人的なつながりも深い。急激な現状変更など中台どちらも望んでいない。

台湾独立というような動きは、大きくは「一つの中国」政策に反するもので、アメリカも容認はできない。「一つの中国」政策堅持はアメリカの歴代政権が建前だけとは言いながらも述べてきたことだ。それを破るような行為は中国に対する背信行為と同様なことであり、情勢は一気に不安定化する。

 中国がウクライナ戦争から学ぶ教訓は軍事侵攻のメリットは少ない(海を渡っての作戦は難しい)、基本は現状維持で危険な動きは小さい段階で解決して置く、アメリカに関与させない、熟柿作戦で機会が到来するのを待つ(機会がやって来るように仕向けることまではする)、急激な動きはコストばかり大きくて駄目だ、というものだと思う。「ウクライナの次は台湾だ」というような短絡的な危機を煽動する言論には冷静に対応すべきだ。

 

 

 

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北京に対してどのようにしてウクライナでの教訓を教えるか(How to Teach Beijing a Lesson in Ukraine

-ロシアのウクライナ侵攻から得る教訓は台湾に対する意思決定に活かされるだろう。

ロバート・C・オブライエン筆

2022年9月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/01/china-taiwan-ukraine-war-lessons/

世界はより危険になっている。ロシアのウクライナ戦争は7カ月目に入り、中国は最近、台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、台湾海峡を分断する中央線を戦闘機が定期的に横断するなど、台湾への攻撃性を強めている。中国共産党(CCP)がモスクワのウクライナ侵攻から得る教訓は、台湾に対する北京の意思決定に活かされることになる。

中国を「名ばかり共産主義(communist in name only)」とするダヴォス会議的な見方は薄れつつある。それに代わって、中国指導部の民族主義的ナショナリズム(ethnonationalist)に基づいた信念とマルクス・レーニン主義的な信念の両方が強いという理解が定着しつつある。かつては、アメリカが譲歩を続け、不公正な貿易慣行、知的財産の窃盗、大量虐殺を無視し続ければ、中国はより自由な政治に変容すると考えられていたが、正反対のことが起こっている。中国は、特にこの10年間、着実に権威主義的で攻撃的な姿勢を強めてきた。アメリカは、過去の純朴さと北京への宥和的な傾向の代償を払うことになっている。

中国の習近平国家主席とロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻前夜に「無制限(no limits)」の提携を公言して以来、この機に乗じて台湾を侵略・併合するのではないかと心配されるようになった。中国国内では経済危機や重要な第20回中国共産党大会が控えているため、直ちに台湾が侵略される可能性は低いものの、その脅威は依然として残っている。

習近平と中国共産党がウクライナ情勢を注視する上で重要視しているのは4つの要素である。第一は、標的となる国家の弾力性(resilience)である。ロシアは近代的な国民国家への侵攻が困難であることを見抜いている。プーティンはウクライナで迅速な勝利を収めることができなかったが、これは小国でも十分な物資と士気があれば戦闘で勝てる可能性があることを示している。台湾は侵略を抑止、あるいは撃退するために、中国が食欲をそそられないように、よく手入れされたヤマアラシになるべきである。ウクライナの成功は、中国に対する抑止力として活用できる。

台湾は西側諸国の支援を受け、海上または陸上から発射可能で射程距離100カイリ(nautical miles)の対艦兵器「海軍打撃ミサイル(Naval Strike Missile)」を含む主要兵器システムを直ちに増設する必要がある。このミサイルは、海上や陸上から発射でき、射程距離が100カイリの対艦ミサイルで、統合軽戦車に搭載すれば、射撃と狙撃の任務に非常に有効である。また、アメリカのクイックストライク(Quickstrike)空中投下型機雷やその他の高度な機雷技術が大量に配備されれば、水陸両用軍に大損害を与えることができる。有名なジャヴェリン対戦車ミサイルは、上陸した中国の装甲車に対処するのに非常に有効であろう。スティンガー対空ミサイルは、中国の回転翼艦隊に真の危険をもたらす。最後に、対ドローン領域防衛システム「アンドゥリル・アンビル(Anduril Anvil)」は、中国軍の小型ドローンの幅広い利用が予想されるため、これにも有効である。これらの兵器は、複雑なプラットフォームではありません。ジャヴェリンやスティンガーミサイルの使用が極めて効果的であったウクライナで見られたように、こうしたプラットフォームが十分な数で展開されれば、より優れた装備の侵略軍を壊滅させることが可能である。

台湾では、兵役の義務期間を現在の4カ月間から1年間、あるいはそれ以上に延長することを求める声が多く聞かれる。台湾の経済を破綻させることなく、どのような方法でこれを行うかについては議論が続いているが、時代の緊急性を考慮すれば、台湾が当面の軍事的予備力を向上させる方法はある。例えば、バルト諸国やポーランドで普及している「射撃クラブ(shooting clubs)」を組織し、銃器の使用と戦闘時の安全確保を国民に周知させることが考えられる。このような取り組みは、銃撃戦が始まるよりかなり前に行えば、容易に実施でき、結果としてはるかに効果的となる。

第二に、侵攻軍の能力である。ロシアの軍事力は、特に統合兵器や機動作戦において、アナリストたちの予想をはるかに下回るものであることが判明した。そのことに習近平は衝撃を受けたことだろう。中露両軍は共同訓練や合同軍事演習を行っている。また、中国はロシアの軍備を購入したり、国産化したりしているが、宣伝文句通りの性能を発揮していない。

チェチェン、ウクライナ、グルジア、モルドヴァ、シリア、リビアと数十年にわたる戦争を続けてきたロシアと異なり、中国の最後の武力衝突は1979年のヴェトナムとの戦いだ。中国は過去数年間、上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)を中心に行われた大規模な合同演習で、戦闘訓練を経験豊富なパートナーであるロシアに頼ってきた。そして、それで最先端の演習ができると考えてきた。しかし、現在、ロシアの戦術、技術、手順、戦闘方式は特に優れているようには見えず、ロシア製武器の品質に関しても深刻な懸念が存在する。

第三の要因は、侵略に対する地域の諸国家の反応だ。ウクライナ侵攻後のNATOの急拡大は、ゲームチェンジャーとなった。中国は震撼し注目した。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を「冷戦時代のメンタリティ(Cold War mentality)」への回帰と呼んだ。プーティンは同盟にくさびを打ち込むつもりでウクライナに侵攻した。しかし、ドイツ、イタリア、ハンガリーは、アメリカ、イギリス、カナダ、フランスといった西側の歴史的同盟諸国から切り離される代わりに、NATOは新たに2つの加盟国を獲得し、ロシアはNATOとの間に800マイルを超える拡大した戦線に直面することになった。

NATOの拡大は中国にとって深刻な懸念となる。中国は、周辺諸国間の安全保障の多国間主義(multilateralism)の試み、特にワシントンから促された場合は、常にこれを非難している。台湾への侵攻が成功した場合でも、アジアにおけるアメリカのパワーに壊滅的な打撃を与えるのではなく、この地域の安全保障上の同盟関係を更に強化する可能性がある。もちろん、攻撃が失敗すれば、中国の野心にさらに大きな打撃を与えることになる。

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は、主にレトリック的な組織であるが、このような同盟のモデルとなる可能性がある。中立国として知られるインドと軍事同盟を結ぶ可能性は低いが、アメリカは既に他の2つのクアッドのメンバー、日本およびオーストラリアと安全保障協定を結んでいる。東京とキャンベラの両国は互いに協力を強化している。韓国の尹錫悦新大統領は最近、招待されればクアッドに参加することに関心を示しており、フィリピンなど他のアメリカの同盟諸国やパートナーも参加する可能性がある。さらに、AUKUS(アメリカ、イギリス、オーストラリア)の3国間協定に続いて、フランスとイギリスが加盟を目指すという話もある。北京にとって、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、中国が台湾に対して軍事行動を起こした場合にアジアで起こり得る悪い前兆である。

第四に、侵略された場合、侵略者にどのような経済的制裁を加えるかということである。この点は、ウクライナ危機を抱える西側諸国にとって問題であり、アメリカは早急に是正しなければならない。ロシアによる侵略戦争に対し、経済制裁の進展と実施は遅々として進まず、効果的とは言えない。

中国の国内宣伝が西側の信用を落とすために、制裁を軽視している証拠もある。中国は、中国企業に影響を与える二次的制裁の可能性をまだ気にしているかもしれないが、本当に恐れているのは、中国がロシアと行っている膨大な石油・ガス取引が西側の制裁の対象となった場合のみだ。今のところ、このような事態は起きていない。ヨーロッパ諸国は戦後半年以上経った今でも、燃料の購入を通じて1日当たり約10億ユーロをロシア経済に送り込んでいるのだ。

習近平は、中国が台湾に侵攻した場合、ヨーロッパ諸国とアメリカから包括的な制裁を受けることは許されない。中国共産党は中国の自立を目指した政策を実施しているが、西側と完全に関係を切り離す覚悟はない。

よって、ロシアが西側諸国による懲罰的な経済手段でどれだけ打撃を受けるかで、中国の今後の動きに影響を与えるだろう。すでに、中国のシンクタンクの1つである中国人民大学重慶金融研究所は、プーティンは制裁に打ち勝つだけでなく、原油価格の高騰により制裁に直面した戦争で大量の利益を上げていると断言している。中国共産党にとって経済は重要だ。金持ちになれば、北京は大規模な軍備増強に取り組み、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)の資金を調達することができる。

従って、アメリカと西側諸国は、現在の中途半端な対露制裁から拡大する必要がある。つまり、ロシアの中央銀行に対する完全な制裁と、国際的な決済メッセージシステムであるSWIFTからロシアの全取引を排除することである。プーティンの戦争マシーンに資金を提供し、習近平に強いメッセージを送るときが来た。西側諸国は、独裁国家が近隣諸国を侵略した場合、その経済活動を停止させることができるし、そうするつもりだ。

短期的には、アメリカは決意を示し、ウクライナ人の抵抗を助け、台湾に効果的な武器を供与し、西側諸国の経済的な力を全部活用してロシアを罰することで、潜在的に台湾の人々を侵略から救うことができるかもしれない。

国家安全保障会議首席スタッフを務めたアレックス・グレイ、国家安全保障会議アジア問題上級部長を務めたアリソン・フッカーも本稿の作成に貢献した。

※ロバート・C・オブライエン:2019年から2021年(ドナルド・トランプ政権)まで国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めた。ツイッターアカウント:@robertcobrien
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(終わり)

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 古村治彦です。

 ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。

 台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。

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台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。これらについては以下の地図を見て欲しい。

pacificislandnationsmap512
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 今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。

 東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの属国である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢(たいせい)の考え方である。

 ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。

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ペロシの訪問後、インド太平洋地域の大半の国々が中国の側についている(After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

-地域のほぼ全体が中国を支持している。しかし、中国の行動はまた台湾への支持を純化させている。

デレク・グロスマン筆

2022年8月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/22/china-taiwan-pelosi-crisis-missiles-indo-pacific-allies-support/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問した。これをきっかけに、中国は台湾を四方から取り囲み、ミサイルを発射するなど、前例のない軍事訓練を実施し、極めて積極的な姿勢を示した。台湾海峡の緊張が高まったことで、インド太平洋地域の他の国々も予想通り、圧倒的に北京の「一つの中国(One China)」原則(台湾は中国本土の一部である)を支持する反応を示している。しかし、今回のペロシ訪問で、アメリカの主要な同盟諸国も台湾を強く支持していることが明らかになった。特に、台湾をめぐる戦争の可能性に直面した場合、北京の主張的な行動は、他の国々を確実に遠ざけていることが示唆された。

台湾支持の急先鋒は日本とオーストラリアである。東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian NationsASEAN、アセアン)外相会議で、アメリカとともに共同声明を発表し、「国際平和と安定に重大な影響を与える中国の最近の行動に懸念を表明」し、「軍事演習を直ちに中止するよう北京に要請」した。この声明は、オーストラリア、日本、米国が「それぞれの“一つの中国”政策に変更はない」とも述べているが、この点は明らかに焦点とはなっていない。

もう1つの重要な同盟国である韓国は、全く異なるカードを使っていた。ペロシは台北の次にソウルに向かったが、韓国の尹錫烈(ユン・スギョル)大統領は休暇中であると主張し、代わりにペロシとの電話会談を選んだが、これは一部の人々には「無視(sub)」だと解釈された。台湾に関する韓国側の公式声明はない。コメントを求められた大統領府の関係者は、中国や台湾に言及することなく「当事者間の緊密なコミュニケーション(close communication with relevant parties)」を促し、台北への支援を控えた北京に有利な発言であった。

同様に、韓国の朴振外相は、「台湾海峡の地政学的対立の激化は、地域の政治的・経済的安定を阻害し、朝鮮半島に負の波及効果をもたらす」と指摘し、無難な表現に終始している。ペロシが台湾と韓国を訪問した翌週、朴外相は初めて中国を訪問しており、この重要な台湾への中国への関与の直前に、ソウルが北京との間で揺れ動くことを避けたかったことが伺われる。

インド太平洋地域の大半は中国を支持しているが、北京の行動に危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もいくつかある。

ペロシ訪台はカンボジアで開催されたASEAN外相会議の期間中に行われたため、ASEAN外相会議は「ASEAN加盟諸国がそれぞれの“一つの中国”政策を支持することを改めて表明する」という声明をすぐに発表することができた。台湾については全く言及されなかった。

また、多くのASEAN加盟諸国が個別に声明を発表したが、いずれも台湾の状況を支持するものではなかった。例えば、インドネシアは「挑発的な行動を控えるよう(to refrain from provocative actions)」呼びかけ、「一つの中国」政策を引き続き尊重するとした。シンガポールは「米中両国が共存の道を歩み、自制し、緊張をさらに高めるような行動を慎む(U.S. and China can work out a modus vivendi, exercise self-restraint and refrain from actions that will further escalate tensions)」ことを望んだ。アメリカの重要なパートナーとして急成長しているヴェトナムは、過去の声明を踏襲し、「ヴェトナムは“一つの中国”原則の実施を堅持し、関係者が自制し、台湾海峡の状況をエスカレートさせず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を出し、台湾への支持を控えている。

東南アジアのリスク回避の明らかな例外は、中国との条約上の同盟国であり、中国の海洋権益をめぐって公然と対立しているフィリピンの対応であった。ブリンケン米国務長官はASEAN会議後の8月上旬にマニラを訪れ、新大統領のフェルディナンド・マルコス・ジュニアと会談し、台湾危機について「アメリカとフィリピンの関係の重要性を示しているにすぎない。私たちは、私たちが見てきた全ての変化に直面して、その関係を進化させ続けることを願っている」と述べた。

一方、インドは非常に興味をそそられるケースであることが判明している。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣は、ニューデリーはインドへの潜在的な影響について「評価し、監視する」と述べた。しかし、ニューデリーは「一つの中国」という言葉を口にすることを拒否し、その代わりに「インドの関連政策はよく知られており一貫している。改めて説明する必要はない」と述べるにとどまった。ニューデリーが言葉を濁すのは、おそらく、2020年5月に過去数十年で最も大きな衝突が発生した「実質支配線(Line of Actual Control)」として知られる係争中の陸上国境に沿って、インドが中国と独自の不満を抱えているためだろう。更に、近年、インドと台湾の非公式な関係は、特に経済面で拡大しており、ニューデリーが北京に対して強硬策を取ろうとしていることがうかがえる。しかし、中国への対抗を非公式な目的とする日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に4カ国が参加しているにもかかわらず、日米豪3カ国声明に署名しなかったことは重要である。ニューデリーはまだ北京との友好関係を維持したいようだ。

他の南アジア諸国では、台湾を支持する動きは見られず、中国だけが支持されている。例えば、北京の「鉄の兄弟(iron brother)」であるパキスタンは、主権国家の「内政不干渉(non-interference in international affairs)」の重要性について、中国に台湾の計画を決定させるための慣用句を使った。バングラデシュ、モルディヴ、ネパール、スリランカも同様に、この危機状況における北京の権利を擁護している。

太平洋諸島の中では、不気味な沈黙が支配している。例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国の領土の不可侵の一部であることを再確認する」と発表している。心配なのは、台湾の4つの外交パートナーのうち、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルだけが、これまで台北への支持を表明してきたことである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国(a true friend and ally)」であり続けると述べ、中国を具体的に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動(recent military actions in the Taiwan Strait)」を非難した。しかし、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外相は、台湾に残る14の外交パートナー(うち4カ国は太平洋地域)の全てが、中国よりも台湾に固執していると主張した。台湾は2019年だけでソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋島嶼国を中国に奪われており、さらなる外交上の変化が現実的な懸念材料となっている。

アメリカの太平洋地域における緊密なパートナーであり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドも曖昧な表現に留まるものの、何らかの意見を表明した。ナナイタ・マフタ外相はASEAN会議の際に中国の王毅外相と会談し、「状況のエスカレート防止、外交、対話の重要性」を強調したが、「一つの中国」もしくは台湾への支持を改めて表明することはなかった。その数日前、危機の前にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は中国に関する演説を行い、「より強硬な態度(more assertive)」の北京とでも協力関係を続けていくと述べた。アーダーン首相の今後の中国への訪問計画が、ウェリントンの寛容なメッセージに一役買っているのかもしれない。

最後に、インド太平洋諸国には、何の声明も出さないか、あるいは北京への支持を二転三転させている国がいくつかある。モンゴルは台湾をめぐる米中間の緊張が高まっていることにまだ触れていないが、北京は北の隣国が「一つの中国」を再度支持していると主張している。当然のことながら、北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、ともに中国の強力な同盟国であり、中国を支持することを表明し、アメリカがこの地域で問題を起こしていることを非難している。

インド太平洋地域の大半の国々が中国を支持しているのは確かだが、オーストラリアと日本、それにインドなど、北京の振る舞いに危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もある。通常、北京はこのグループを忠誠の海の中の少数の反対勢力と見なすことができる。しかし、問題はこの3カ国がアメリカとともに日米豪印戦略対話を構成しているが、これらの国々は中国以外のこの地域の主要国であることだ。この3カ国を無視することはできず、北京は今後の戦略を見直すことを検討すべきかもしれない。どちらかといえば、北京は台湾を支持するあからさまな民主国家連合を設立することを避けたいだろう。むしろ、これらの強国の1つ、あるいは複数が台湾への支持を薄めることができれば大きな勝利であり、中国の言う統一への野望を否定できないことの証拠となる。幸いなことに、これらの国々の反対は根強く、その声は大きくなるばかりである。

デレク・グロスマン:ランド研究所上級防衛担当アナリスト、南カリフォルニア大学非常勤講師、米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)の概況説明者(情報担当)を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@DerekJGrossman

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 古村治彦です。

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 アメリカ連邦下院議長(the Speaker of the U.S. House of Representatives)ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)の台湾訪問はアジア歴訪の一つであった。アメリカ政治における最重要人物の一人の台湾訪問は中国を苛立たせた。ペロシには「前科」があったようだ。1989年の天安門事件の後、1991年にアメリカ連邦議会の代表団の一人として北京を訪問したペロシは、公式のルートから抜け出して天安門事件で喧嘩をし、横断幕を掲げるというパフォーマンスを行い、その様子をマスコミに取材させていた。そのことで、中国当局は激怒し、ペロシたちを咎めることができずに、取材したマスコミの人間を拘束したそうだ。ペロシは重責を担う政治家としては不適格な、軽々しい人物である。下に当時の様子を写した写真があるが、漢字が繁字体であることから、ペロシはもともと台湾系、チャイナ・ロビー系と関係が深いということが分かる。

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 ペロシの今回の台湾訪問は日本の小中高生が行く修学旅行よりも何の成果もない、夏休み(連邦議会休会中)の旅行で会った。修学旅行で何かいたずらやルール違反をしても、それはそれで当事者たちにとっては大変なことで、先生が見回りで寝られなかったり、生徒たちが正座をさせられたり、くらいのことだが、ペロシの軽はずみな行動は数億人規模で人々の生命や財産、穏やかな日常を危険にさらす。経済活動に対する悪影響も考えられる。

 米中両国政府が自制的であるので、火遊び程度で住んでいるが、火遊びから思いがけない大火事になることもある。

 そもそも今回のペロシの台湾訪問の目的がはっきりしなかった。アメリカ政府全体はペロシの台湾訪問に懸念を持っていた。アメリカによる台湾防衛の確約ということも改めて発表された訳ではない。また、台湾を独立国として扱うということもできない。アメリカ政府は「一つの中国」政策(One China Policy)を堅持する姿勢を崩していない。ペロシの台湾訪問は、「アメリカの防衛産業が製造する武器をもっとたくさん買ってね」ということだろうと私は思う。連邦下院議員たちは2年おきに選挙がある。選挙に追いまくられていると言ってよい。そうした中で、地元への利益誘導に動く。

 今回のウクライナ戦争におけるアメリカの援助が巨額になっているのは、連邦下院で、地元に防衛産業がある議員たちが「その金額では足りないのではないか」「国防総省の要求には入っていないがこの武器も必要ではないか」とこれでもかとばかりにお手盛りでどんどんと付け加えたからだ。

 ペロシの軽率な夏休みの海外旅行、武器はいらんかねとの太平洋をまたいだ行商はアジア地域に危険をもたらした。そして結局何の成果もなかった。挑発行為は迷惑行為そのものだ。

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ペロシの台湾訪問は台湾に勝算のない状況を設定する(Pelosi Visit Sets Up No-Win Situation on Taiwan

-行けば呪われ、行かなければ呪われる。

ジャック・デッチ筆

2022年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/29/pelosi-visit-taiwan-no-win-pentagon/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長は慌ただしいアジア歴訪に出発する予定であり、彼女が台湾に立ち寄る可能性が高く、物議をかもすことになる。この地域の米中間の緊張は既に煮えたぎっているが、この動きはそれを更に燃え上がらせている。

大統領に次ぐ地位にある連邦下院議長が台湾を訪れるのは初めてではなく、ニュート・ギングリッチが四半世紀以上前に訪れたことがある。しかし、中国はペロシが台湾を訪問する可能性に対して、通常、中国大使館から厳しい言葉で書かれた書簡が届くような一回限りの連邦議員の台湾訪問のように扱うのではなく、アメリカの当局者たちを繰り返し非難し、ジョー・バイデン政権に、北京が本気でペロシ議長の到着を理由に台湾海峡の危機を再び引き起こすつもりなのかと疑わせるような反応を示している。

そして、複数の専門家と議会スタッフは『フォーリン・ポリシー』誌に語ったところでは、8月1日の中国人民解放軍の95回目の創設記念日の前夜に、ペロシが訪問する可能性があり、深刻な危機を引き起こさないとしても、ジョー・バイデン米大統領ティームは勝ち目のない状況に置かれていると懸念している。

トランプ政権時代に東アジア担当国防次官補を務めたハイノ・クリンクは次のように述べている。「習近平国家主席は、ペロシ議長の台湾訪問は自分に対する侮辱だと見なすだろう。新型コロナウイルス封じ込め、住宅ローン危機、人々が街頭に立って抗議活動を行っているという事実など、彼が既に戦っている全ての国内問題に加えて、実はこれは常に中国共産党の注目を集めるもので、火に油を注ぐことになり、彼はこれを意図的な戦略の一部と解釈するだろう」。

『ブルームバーグ』誌が最初に報じたところによると、ペロシは金曜日に出発し、日本、インドネシア、シンガポールに立ち寄り、その後、台湾を訪問する可能性があるが、出発が決まった時点では未確認であった。また、連邦下院外交委員会のトップ2である民主党のグレゴリー・ミークス連邦下院議員、共和党のマイケル・マコール連邦下院議員も招待されている。ミークス議員は安全保障上の理由から、マッコール議員は日程の都合から、それぞれ同行を辞退した。国防総省の職員たちは、アジア歴訪の計画中に、ペロシのスタッフたちに訪米の影響を懸念していることを伝えた。そして、その批判の一部は連邦議会でも共有されている。

ある民主党議員のスタッフは、匿名を条件に、『フォーリン・ポリシー』誌に「何を達成するのか、それが私の疑問だ。より大きな懸念は、常に右派を利するタカ派的なアプローチに私たちを閉じ込め、将来の外交のための政治的空間を縮小してしまうことだ」と述べた。

連邦議員たちによる台湾訪問について言えば、1997年のギングリッチ議長の訪問の際、中国からほとんど反発を受けなかったという歴史的経緯がある。しかし、連邦議会では、ペロシ議長が北京からの反発の可能性について間違った計算をしていると考える人々もいる。

大きな問題はそのタイミングだ。習近平が率いる中国共産党の第20回党大会(トップリーダーの承認)を前に、バイデンは長年にわたるアメリカの戦略的曖昧さの政策に反して、台湾を軍事侵攻から守ることを短絡的に繰り返し公言した。中国が縮小しつつある経済成長目標を達成できない可能性もあり、ペロシの台湾訪問のタイミングで中国が特に強気に出ているのではないかという懸念もある。

「私の感覚では、このタイミングについては議長のオフィスに誤算があったように思う」と匿名を条件に共和党のある議会補佐官は語った。この人物は続けて「中国国内で起きているいくつかのことを考えれば、この特別なタイミングが特に挑発的なものになることは明らかだった。今すぐ危機を引き起こすことがアメリカの利益になるわけではないという程度のことがうまく選択されなかったということになるだろう」。

アメリカの高い地位の人物による台湾訪問に対して中国が拒否権を得るべきだと思っている人物は民主、共和両党に穂ほとんど存在しない。しかし、専門家や議会補佐官たちは、中国の軍事演習が活発化し、北京が2年以上続けている台湾の防空識別圏を侵犯したり、自国の防空圏を拡大しようとしたりすることを懸念していると述べた。国防総省は、中国軍は海峡両岸への侵攻(水陸両岸での上陸作戦が必要)に十分対応できていないと考えているが、専門家や議会関係者たちは、今回の訪問がこの地域の温度をさらに上昇させる可能性があると警告している。数週間前から、米政府関係者は中国軍との安全でない戦闘の危険性が増大していると警告を発している。

台湾は、1972年にニクソン政権が毛沢東と合意した外交関係再開に端を発する「一つの中国」政策の一部として、アメリカに公式に独立国として認められていないが、トランプ政権の末期、当時のアレックス・アザー米保健福祉長官が現職閣僚レベルとして初めて台湾を訪問してから、水面下で訪問のペースを上げてきている。国防総省の元職員であるクリンクは、訪問を計画する人々はリークの可能性にもっと気を配るべきだとし、議会関係者は典通常移動手段として軍用機を利用するが、今回のペロシの台湾訪問では軍用機の使用を行わずに、米政権の黙認と見られるようなことをすべきだったと述べている。

米国防総省は軍事的緊張を考慮して、通常は日本に駐留する空母ロナルド・レーガンとその関連打撃部隊を南シナ海に派遣している。

もしペロシが中国の間接的な圧力に屈して台湾に行かなかった場合、日本、オーストラリア、韓国がこの地域でより強固な軍事態勢を取ろうとしている時に、地域的に有害な影響を与えかねないと懸念を持つ人々がいる。今月初めに暗殺される前、日本の安倍晋三元首相は、自民党をよりあからさまな台湾支援政策に向かわせようとしていた。

トランプ政権時代の国家安全保障会議の主要スタッフを務め、現在は米外交政策評議会(American Foreign Policy Council)の上級フェローであるアレキサンダー・グレイは次のように述べている。「ペロシが台北に現れれば、それは素晴らしいことだ。そうすれば、ボールが前進することになるだろう。米台関係を前進させることができるだろう。抑止力を高めることができるだろう。今、政権は自らの思惑か偶然か、身動きができない状態になってしまった」。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障分野特派員。ツイッターアカウントは@JackDetsch

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ナンシー・ペロシは台湾で一体何をしようと考えているのだろうか?(What Does Nancy Pelosi Think She’s Doing in Taiwan?

-リスクの高い訪問は実際の支援というよりも劇的なジェスチャーに見える。

マイク・チョニー筆

2022年7月26日

『ザ・ヒル』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/26/nancy-pelosi-taiwan-china-relations/

1991年9月、私はCNNの中国総支局長だった。当時、一階の連邦下院議員だったナンシー・ペロシに私の関心は集まった。米連邦議会代表団として北京を訪れた際、ペロシと他の議員2名が公式エスコートから離れて、天安門広場に行く計画を立てている、と彼女の同僚議員が私に教えてくれたのだ。しかし私は、彼女の計画が、報道カメラが回る中、2年前に中国人民解放軍が民主化デモ隊を鎮圧した際に亡くなった学生たちを追悼する横断幕を掲げ、花を供えることだったとは知らなかった。

ペロシと2名の議員は、このジェスチャーを行った後、車で去っていった。訪問中の外国要人をターゲットにできない中国警察は、私と他の記者を数時間にわたって手荒く拘束した。私は、ペロシが中国の共産主義者を狙い撃ちするために、結果がどうなるかは関係なく、注目を集めるようなジェスチャーをする傾向があることを初めて経験した。

今、ペロシは、より危険な瞬間に、手荒に扱われた記者ということよりもはるかに多くの問題を抱えながら、今年の8月にもっと挑発的な行動、つまり台湾訪問を行おうとしているようだ。中国が台湾を武力で奪おうとするのではないかという懸念が高まる中、米中関係はここ数十年で最低の状態にある。激怒した中国政府は既に、ペロシが台湾訪問を行えば強硬に対応すると警告を発しており、今でも緊張状態にある状況を危険なまでにエスカレートさせる恐れが出てきている。

しかし、ワシントンでは、ペロシの台湾訪問をめぐる状況は極めて混沌としている。台湾訪問の情報は、『フィナンシャル・タイムズ』紙が匿名の情報源6名から得たもので、誰が何のためにこの計画を公表したのかは疑問だ。最初のリークは、ペロシのスタッフが宣伝効果を狙ったのか? それとも、政府内の誰かがこの旅を台無しにしようとしたのか? それとも単なる不手際か? ジョー・バイデン米大統領は記者団の取材に対し、「米軍部が今は良くないと考えている(military thinks it’s not a good idea right now)」と述べただけだったが、ペロシは台湾への支持を示すことの重要性を強調しながらも、自らの意思を明確にすることを拒んだ。

しかし、この情報が流れた今、アメリカはジレンマに直面している。もしペロシが行かないのであれば、アメリカは中国政府がアメリカの台湾への関与のあり方について制限を設けることを容認しているように見えるだろう。そうなれば、アメリカは衰退しつつあり、中国の国際的な主張の強い行動が功を奏しているという、強い信念が北京の中で強まることになりかねない。確かに、中国の国際的なイメージは崩壊し、投資家は逃げ出しているが、その政策を決定する指導者に対して、不快な事実を指摘する意欲は、中国共産党内にはほとんどない。さらに、バイデンに対する共和党の批判者たちが、バイデンが中国に甘いということを非難する材料にもなる。

しかし、もしペロシが北京の警告を無視すれば、台湾をめぐる危険な新たな危機の引き金になりかねない。中国人民解放軍は、過去1年間に台湾の防空識別圏(ADIZair defense identification zone)への大胆な侵入を繰り返しており、ペロシが搭乗するアメリカ軍機の着陸を阻止しようとするかもしれない、あるいは台湾に独自のADIZを宣言するかもしれないという憶測が広まっている。ある中国研究者は、北京は「前例のない対抗措置、それは台湾海峡危機以来、最も強力な措置」で対応するだろうと警告している。

確かに、中国の台湾に関するレトリックは、実現性の極めて低い大仰な脅しばかりだ。しかし、米中関係がより険悪になった今、互いにエスカレートする危険性は否定できない。しかし、ペロシの台湾訪問の見通しが立った中で、アメリカの対中・対台湾政策への戸惑いは増すばかりだ。バイデンはここ数ヶ月の間に3度、台湾が攻撃された場合、アメリカは台湾を防衛すると宣言し、ホワイトハウスの側近がその発言を撤回したこともある。多くの問題で緊密に協力しているバイデンとペロシが、なぜこのように考えが一致していないように見えるのか、想像するのは難しい。また、国防総省がペロシに訪問の潜在的リスクについて、事前に慎重な計画プロセスの一環としてではなく、フィナンシャル・タイムズによるリーク後にしか説明しなかったのはなぜだろうか?

更に言えば、このタイミングは挑発的に見える。また、戦略的な計画というよりも、8月の連邦議会休会と連動しているようにも考えられる。北京にはアメリカの政治家にどのように振舞うかを指示する権利はない。習近平は前任者2名の前例にとらわれず、3期目の政権を獲得し、党国家に対する支配力を強化することになる。このような政治的に敏感な時期にペロシの台湾訪問を阻止できなかったことで、習近平の面目がつぶれる可能性があるため、中国が強い反応を示す可能性は高いが、この問題に関して中国がますます攻撃的 なレトリックを使用しているので、この訪問に対して これ以上融和的になるとは考え難い。

ここで不快な質問が浮かんでくる。ペロシは一体何を目指しているのだろうか? 台湾への支持を示したいという意図は明らかだ。しなしながら、中国の脅威に対処するために、アジア地域のアメリカの同盟諸国をより緊密に連携させる、ロシアのウクライナ侵攻を教訓に台湾の防衛力を向上させる、などのより幅広いアメリカの戦略とは全く関係がないように見えるのだ。ホワイトハウスからのメッセージの乱れが示すように、ここでのコミュニケーションや調整はほとんど行われていないと考えられる。

むしろ、8月に予定されている台湾訪問は、実質よりも象徴的なものであり、ペロシが過去に行ったように、北京を苛立たせるための写真撮影に過ぎないように見える。しかし、1991年の天安門訪問では、数人の記者が暴行を受け、拘束された。今、事態がエスカレートすれば、台湾の人々、そして、彼女の訪問のために動いているアメリカ軍将兵がその結果に直面することになる。

マイク・チョニー:台湾を拠点に活動。南カリフォルニア大学米中研究所非常勤上級研究員。『中国への取り組み:中華人民共和国で活動するアメリカ人ジャーナリストたちのオーラルヒストリー(Assignment China: An Oral History of American Journalists in the People’s Republic)』が間もなく発刊。

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