古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:国債

 古村治彦です。

 連休前半、ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻のニューズと共に流れたのが、米国債務上限問題のニューズだった。ジャネット・イエレン財務長官が債務上限を引き上げて借り入れを行わないと、連邦政府の資金が61日までに枯渇してしまい、最悪の場合には債務不履行(デフォルト)に陥ると発表した。デフォルトになれば、アメリカ国債の償還や利払いができなくなることで、そうなればアメリカ国債の信用、アメリカ・ドルの信用が傷つき、世界経済が大きく動揺するということになる。そのような事態(国際決済通貨としてのドルの信用急落)に備えて、新興諸国(西洋以外の国々[the Rest])の中央銀行は金(きん)を備蓄している。

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 アメリカ政府は所得税の税収が予想よりも低かったために、やりくりをしながらも、予想よりも早く、資金が枯渇し、新たに米国債を発行しなければ、資金が手に入らないために、予算執行や国債の償還や利払いができない状態になるということだ。アメリカ政府の債務上限引き上げ問題は日本でもここ数年で数回報道されてきたので、お馴染みの言葉になっている。

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アメリカ国債の総計

 財政支出が削減され、国家財政のために増税がなされるということが起きると、景気が悪くなることが懸念される。バラク・オバマ政権時代にこのような事態が予想され、それが「財政の崖(fiscal cliff)」と呼ばれた。「崖から真っ逆さまに落ちる」ということからこう呼ばれた。連邦準備制度理事会(FRB)により政策金利引き上げもあり、現状が続けば、アメリカの景気後退が起きるという懸念が出ている。
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 アメリカ連邦議会では、何の条件も付けないで債務上限引き上げを行いたい民主党(ホワイトハウスを含む)と、歳出削減を上限に債務上限引き上げを認めるとする共和党が対立している。共和党が過半数を握る連邦下院では「クリーン」債務上限引き上げ法案が可決され、連邦上院に送られている。この法案は、連邦政府の歳出削減をすることを条件にしての債務上限引き上げを認める法案だ。民主党が過半数を握る連邦上院ではこの法案に反対も多い。 

来年には大統領選挙と連邦上院(約3分の1)、連邦下院(全議席)、各州知事などの選挙が全国レヴェルで実施される。歳出削減を行えば、民主党が行いたい政策の予算執行ができなくなる、そうなれば選挙も厳しくなるので、民主党側は必死だ。共和党としては、無責任な民主党というイメージを植え付けたいということもあるし、民主党の支持を切り崩したいということもある。

 しかし、どちらにしても債務不履行などと言うことは民主、共和両党どちらも避けたいので、チキンゲームの様相となり、結局、債務上限引き上げは認められる。条件闘争でどちらがどれだけの痛みを引き受けるか、痛み分けで済ませるかということになる。ケヴィン・マッカーシー連邦下院議長(カリフォルニア州選出、共和党)はドナルド・トランプ前大統領との関係も悪くないが、エスタブリッシュメント派とも話ができる。マッカーシー議長がどのように差配をして、連邦上院で否決されるであろうクリーン債務上限引き上げ法案を修正可決するかが注目される。共和党所属の強行派の連邦下院議員たちの反対があるので、民主党所属の一部議員たちと妥協をするということになるだろうが、そうなれば、共和党内部からの突き上げもあり、マッカーシー議長の立場も厳しくなる。

 バイデン大統領はこれから連邦議会側と話し合いや説得をしなければならない。そうなれば、のんきにG7会合のために日本に来るのも大変だ。G7各国の首脳たち(日本を除く)も、「アメリカ国債がデフォルトになると大変だし、その問題をやっておいてくれよ(まぁデフォルトにはならないだろうけど)」という心境だろう。バイデン大統領とアメリカ政府としては、広島に行くとなればどうしても原爆投下について何か触れねばならない(謝罪などはとんでもないが)。債務上限引き上げ問題があるということになれば、広島に行かずに済むかもしれないということであれば、これを利用しようと考えるかもしれない。

 債務上限引き上げ問題は茶番であるがそれを利用するということはいろいろとあるだろう。

(貼り付けはじめ)

●「イエレン米財務長官「6月1日にも資金枯渇」と議会に警告、デフォルトの恐れも」

2023/05/02 10:03 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230502-OYT1T50083/

 【ワシントン=田中宏幸】米国のイエレン財務長官は1日、米連邦政府の借入金の限度を定めた「債務上限」について、米議会指導部に書簡を送った。上限の引き上げを行わなければ6月1日にも財政資金が枯渇すると警告し、議会に対応を急ぐよう求めた。

 政府債務は今年1月、上限の約31兆4000億ドル(約4300兆円)に到達し、米財務省が6月初旬までの特別措置で資金繰り策を実施している。新たな借り入れができなくなれば、債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがある。

 イエレン氏は書簡で「議会が債務上限を引き上げたり、(上限の)適用を停止したりしなければ、早ければ6月1日にも措置が行き詰まる可能性がある」とし、「米国の家庭に深刻な苦難をもたらし、世界的なリーダーシップを失う」とクギを刺した。

 債務上限を巡っては、無条件の引き上げを求めるバイデン米政権に対し、共和党は歳出削減を求めて下院で独自法案を可決しており、与野党の対立は長期化の様相を呈している。

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イエレンは債務上限の最終締め切り日は6月1日と発言(Yellen says drop-dead date for debt ceiling is June 1

スティーヴン・ニューカム、アリス・フォーリー、アル・ウィーヴァー筆

2023年5月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/3982225-yellen-says-drop-dead-date-for-debt-ceiling-is-june-1/

ジャネット・イエレン財務長官は月曜日、連邦議会民主・共和両党指導者たちに宛てた書簡の中で、連邦議員たちは6月1日までにアメリカの債務上限(debt ceiling)を引き上げなければならないと述べた。

イエレン財務長官は、61日までにアメリカが全ての債務を支払えなくなるとの見通しを示し、連邦議会とホワイトハウスが合意に達するよう圧力を強めた。

イエレン長官は当初、連邦政府が6月上旬までに支払いを継続するためのいわゆる臨時措置を使い果たす可能性は低いと連邦議員たちに語っていた。しかし現在、最近の税収を基にして、期限が予想より早く来る見込みであると述べた。

連邦議会の超党派の予算管理責任者である議会予算局(Congressional Budget OfficeCBO)も月曜日、4月の税収が予想を下回ったことを理由に、「6月上旬に財務省が資金不足に陥るリスクが著しく高まっている」と警告を発した。

CBOのフィリップ・スウェーゲル局長は月曜日、「4月に処理された所得税の受取額が、最新の基本予算予測で予想したよりも少なかったことが分かった。更に、内国歳入庁(Internal Revenue ServiceIRS)は、コロナウイルスの感染拡大による数年間の混乱を経て、昨年よりも迅速に納税の処理を終えると予想している」と述べた。

スウェーゲル局長は続けて次のように述べた。「その結果、IRS新型コロナウイルス感染拡大前の年のように、5月の追加支払いを比較的少なく処理すると予想している。このことは、4月までの受取額が予想を下回ることと相まって、財務省の特別措置が以前の予測よりも早く枯渇することを意味する」。

この予定表は、連邦議員たちが取引の仕組みを理解するための貴重な時間を与え、議員たちは時間を無駄にすることなく、相手側を非難することになった。

「時間の無駄だ。このことを理解しよう」。ジョン・テスター連邦上院議員(モンタナ州選出、民主党)は、このニュースが流れた直後の月曜日、記者団にこう語った。

ジョー・バイデン大統領と民主党は、連邦下院共和党が「クリーン」な法案の一部として債務上限を引き上げることを要求している。一方、共和党は債務限度額の引き上げを支出削減と結びつけて行うことを望んでいる。

連邦下院予算委員会の民主党側のトップであるブレンダン・ボイル議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)は月曜日に発表した声明の中で、この展開について「ケヴィン・マッカーシー連邦下院議長に対する警鐘とならねばならない」と述べ、共和党が先週可決した債務上限引き上げの党派案を標的にしていると述べた。

一方、共和党はその責任をバイデンに押し付けた。

ジョン・コーニン連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)は次のように述べている。「私たちはそれが来ることは分かっていた。ただ、それがいつなのか、正確には分からなかった。これはバイデン大統領がソファから降りてマッカーシー議長と話し、何かを解決するための情報をもう少し提供するものだ」。

シェリー・ムーア・キャピト連邦上院議員(ウエストヴァージニア州選出、共和党)は、この予定表に驚きを隠せなかった。しかし、この進展は、マッカーシーと交渉のテーブルに着くようホワイトハウスに圧力をかけるものだと述べた。

キャピト議員は「大統領は我が国の指導者だ。彼は事態にきちんと関与する必要がある。私はイエレンが大統領の意向に対して忠実に働いている(carrying his water)と考えている」と述べている。

連邦下院共和党の法案は、1.5兆ドルの債務上限を引き上げるか、来年3月末までのどちらか早い方と引き換えに、民主党が断固として反対している政府支出の削減に関する共和党の幅広い提案と引き換えにするものだ。

その中には、年次歳出プロセスの一環として、連邦議員らによって捻出された政府資金を2022会計年度の水準に制限する一方、今後10年間の歳出の伸びを毎年1%に制限するという提案も含まれている。

法案に盛り込まれた他の提案は、メディケイドや補足栄養支援プログラム(SNAP)などのプログラムに対してより厳しい労働条件を課し、バイデン政権下で実施された人気の学生ローン政策に終止符を打つ内容となっている。

共和党はまた、両党が後追いで行った、連邦上院を含む連邦議会で審議中の「クリーンな」債務上限措置が実施される可能性に疑問を投げかけた。

コーニン議員は「連邦下院も通過しないし、連邦上院も通過しないだろう」と述べた。

ブライアン・シャッツ連邦上院議員(ハワイ州選出、民主党)は、民主党側に対し、共和党が提案するクリーンな債務上限引き上げに反対する姿勢を貫くよう呼びかけ、「ここで合意すべき取引ではない」と述べた。

シャッツ議員は「ここでの前提は、デフォルトを防ぐ代わりに政策面で譲歩することであってはならない。どの政党も自分たちの政策を実現するためにアメリカ経済を崩壊させると脅すことは決してあってはならないということだ」と彼は言った。

「これは異常であるばかりでなく、無謀でもある。アメリカ経済を人質に取ることは許されない。歳出削減の代わりに債務上限を引き上げることを交渉しないことより怖いのは、これを主張する人々と交渉することだ。その理由は、彼らはアメリカ人とアメリカ経済を人質に取ることを決して止めないだろう、ということだ」と付け加えて述べた。

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●「イエレン氏、債務上限で議会に行動要求-修正条項発動は危機招く」

Christopher Condon

202358 1:43 JST 更新日時 202358 7:20 JST ブルームバーグ通信

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-05-07/RUAJO9DWX2PS01

・議会が上限を引き上げる以外に「良い選択肢はない」

・米憲法修正第14条発動なら憲法上の危機-ABCの番組で発言

イエレン米財務長官は膠着(こうちゃく)状態に陥っている債務上限問題を解決する上では、議会が上限を引き上げる以外に「良い選択肢はない」と述べた。また、この件で米憲法修正第14条を発動すれば憲法上の危機を招くと警告した。

 イエレン長官は米ABCの番組で7日、議会が債務上限を引き上げることなく「大統領が債券を発行し続けることが可能かどうかを、われわれが検討する必要が生じる段階に進むべきではない」と発言。「こうしたことは憲法上の危機を招くだろう」と語った。

 修正第14条には公的債務の有効性は「問われてはならない」との記述があり、政権が債券発行を継続できるかを巡って憲法学者やエコノミストの間で解釈が分かれている。

 イエレン氏は同番組内で、バイデン大統領がこの選択肢を使う可能性を何度か問われたが、議会が上限を引き上げるべきだと繰り返し主張するにとどまり「私が言いたいのはそれは議会の仕事だということだけだ」と述べ、直接の返答は避けた。

 下院金融委員会のマクヘンリー委員長(共和)は、短期の債務上限引き上げに向けた取引は一つの選択肢だと示唆した。これはヤング行政管理予算局(OMB)局長の4日の発言と同様の内容だ。

 マクヘンリー氏は7日、CBSの番組「フェース・ザ・ネーション」で、「現時点では全てがテーブルの上にある」とした上で「この難題で考慮が必要な重要なことは、短期および長期で財政に対処することだ」と発言。「財政に対処しなければならないという事実以外にレッドラインはない」と語った。

 バイデン氏は5日、MSNBCとのインタビューで修正第14条を発動する用意があるかと質問された際、「まだそこに至っていない」と述べ、発動の可能性を完全には排除しなかった。 

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●「米債務上限引き上げ間に合わなければ大統領は決断迫られる-財務長官」

Viktoria DendrinouChristopher Condon

202359 8:52 JST ブルームバーグ通信

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-05-08/RUCYLBDWRGG001

・債務上限という「銃」を突き付けられた状態では交渉に応じず-長官

・議会が債務上限で行動しなければ、世界のドルの利用に「悪影響」

イエレン米財務長官は8日、議会が連邦債務上限の引き上げに間に合わない場合、バイデン政権は今後の対応について「決断」を迫られることになると述べた。

 イエレン長官はCNBCとのインタビューで、唯一の「良い」選択肢は議会による上限引き上げだとの主張を繰り返した上で、それが実現しない場合、政府は「今ある資源で何をするか」を考える必要があると述べた。

 さらに、財務省が早ければ6月1日に債務上限未満に抑える余地がなくなる危険性があるとの警告を繰り返した。

 共和党議員などは、財務省が債券の支払いを続けながら他の支出を遅らせる優先順位付けの案を持ち出しているが、イエレン長官や前任者らは同省の制度はそうした態勢が整っていないと述べている。また、米国債の信頼性に関する憲法修正第14条の条項を発動し、単に借り入れを続けるという極端な選択肢も打ち出されている。

 イエレン長官は「さまざまな異なる選択肢があるが、良い選択肢はなく、どの選択肢も悪い選択肢だ。私はそれらの議論やランク付けはしたくない」と語った。

 その上で、共和党が債務上限引き上げの条件として歳出削減を提案していることを批判し、バイデン政権が既に「財政的に責任ある提案」を示していると指摘。共和党が打ち出した「極めて厳しい」歳出削減案はバイデン大統領の提案とは明らかに大きな隔たりがあるとも述べ、政権は協議にオープンな姿勢だが、債務上限という「銃」を頭に突き付けられた状態では交渉に応じないと語った。

 さらに、議会が債務上限を引き上げられなかった場合、世界中のドルの利用に「悪影響」を及ぼすとし、経済的に大打撃を与え国家にとって「大惨事」となると警告した。

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米政府 債務上限問題 バイデン氏と議会指導部が協議 平行線に終わる

5/10() 7:57配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/f4c8dd555036052065710d8119f2aaf627f979e0

アメリカのバイデン大統領は、連邦政府が借入できる債務残高の上限引き上げを巡り、議会指導部と協議しましたが、進展はありませんでした。

 アメリカでは連邦政府が借り入れできる債務残高がすでに上限に達していて、早ければ61日にも資金繰りが行き詰り、債務不履行に陥る可能性が指摘されています。

 最悪の事態を回避するためバイデン大統領は9日、野党共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部との協議に臨みましたが平行線をたどりました。

 共和党・マッカーシー下院議長:「今回の協議では、誰もが自分の置かれている立場を繰り返しただけで新たな動きは見られなかった」

 共和党は債務上限を引き上げる代わりに社会保障費などの削減を条件とする案を改めて提示しましたが、無条件の引き上げを求めるバイデン大統領との隔たりは埋まらず、12日に改めて協議の場が設けられる見通しです。

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●「バイデン米大統領、G7欠席も 債務上限問題「進展なし」」

5/10() 8:14配信 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/c814a5b0c73254ae8ce2ba6922708449059f38d7

 【ワシントン時事】バイデン米大統領は9日、ホワイトハウスで上下両院の与野党幹部と会い、連邦政府の借入限度額である「債務上限」の引き上げを巡り協議した。

 バイデン氏はこの後、記者団に「(債務上限問題が)解決するまでここにとどまる」と述べ、1921日に広島で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)を欠席する可能性を示唆した。

 マッカーシー下院議長(野党共和党)は会談後、記者団に「進展はなかった」と述べ、債務不履行(デフォルト)回避に向けた前進に至らなかったことを明らかにした。バイデン氏と議会幹部の協議は2月以来。今月12日に再度会談する。 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2021年5月29日に最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)が発売になりました。全国の大型書店に置いてあります。是非手に取ってお読みください。アマゾンにもブックレヴューが掲載されています。

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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 バイデン政権は大規模なインフラ整備を行おうとしている。その財源として、大企業への税率引き上げと富裕層への増税を考えている。しかし、それだけでは到底間に合わない。そこでどうしても出てくるのが国債発行だ。現在のところ、物価上昇率も低く、インフレ懸念も少ないので、国債発行で資金を調達して、インフラ整備を行う、そのことが引いては、中国との競争に打ち勝つことにつながるということである。

 今回ご紹介する記事は、「バイデンは中国が改革開放以来、成功させてきたインフラ整備を真似たいと考えている。しかし、それは不可能だ」という内容だ。その理由は、そもそも論として、中国は市場経済に転換して数十年で、土地の価値が上昇し、それを担保にして、資金を調達してインフラ整備を行ってきた。これが資本主義発生期から勃興期の、原資蓄積というものなのだろう。この方式が限界に近付きつつあるというのが記事の筆者の認識であるが、アメリカはそれができない。アメリカは国債の信頼性でお金を集めるしかない。

 しかし、ここで面白い現象が起きる。アメリカ国債を買っているのは誰か。それは中国と日本とサウジアラビアだ。中国の資金で、中国に打ち勝つために、インフラ整備を行うということになる。中国にしてみれば、アメリカが景気回復することで、時刻の対米輸出も回復するのだから、アメリカには頑張ってもらいたいという考えもある。日本にしても、アメリカに貢ぐことでアメリカが景気回復して、アメリカがけん引する景気回復の波に乗ることができる。こうしたメカニズムが機能するためには、アメリカ国債が安定していなければならない。

 米中は激しく対立している。しかし、米中はある意味では運命共同体だ。この点を見落として、お勇ましく、「中国と戦うぞ(だけど日本一国では駄目だからアメリカの尻馬に乗って)」と言っているようでは、いざという時にはしごを外される、「日本が悪いよね」と共通の敵、スケープゴートにされる可能性もある。馬鹿の一つ覚えみたいに「中国の脅威」をお題目のように唱え続けているだけでは駄目だ。常に2つ、3つのプランを持っていなければならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンは中国のインフラ建設の奇跡を真似たいと望む(Biden Wants to Replicate China’s Infrastructure Miracle

-しかし、彼にそれを実現することは不可能だ。その理由を説明する。

ユーコン・ファン、ジョシュア・レヴィ筆

2021年55

『フォーリン・ポリシー』誌

MAY 5, 2021, 3:58 PM

https://foreignpolicy.com/2021/05/05/china-infrastructure-debt-land-prices-biden/

今年(2021年)3月、ジョー・バイデン大統領は、アメリカ国内のインフラの修理と新設のために2兆ドル(約220兆円)を超える規模の投資を行うと発表した。しかし、バイデンは、表向きは国内政策についての演説を行ったのだが、実際には外交政策、「中国との世界規模での競争」という挑戦について語っていたのだ。これは荒唐無稽なことではない。ワシントンでは、民主、共和両党は共に中国の台頭に懸念を持っている。中国の支配という幻影によって、バイデンは自身の政策に対する支持を構築することになる。

中国の怒りはアメリカ、インド、ブラジルにとっていつものことだ。そして、他の新興諸国は中国に追いつくことを夢見ている。しかし、これら新興諸国の野望は、機能不全に陥った都市部での各種サーヴィス、古くなった交通システム、停電が多い電力供給システムなどによって、成就できないようになっている。これらの国々にとって、中国との競争は、新しいインフラ建設に投資することを意味する。

しかし、アメリカ政府はこれら新興諸国と同じ悩みを抱えている。それはそのような投資のためのどのように資金を確保するかというジレンマに陥っている。バイデンの提案については、財政上の実現可能性について疑念が高まっている。バイデンは、その財源について、キャピタルゲインの税率の引き上げ、相続税の新設、税金回収システムの改善で賄うとしている。これらは根強い反対、もしくは実現性の制限に直面する。

一方、中国の経済構造と金融メカニズムは根本的にアメリカのものとは大きく異なる。中国のインフラ投資について見れば、アメリカで模倣することがどれほど困難なことかということが明らかになるだろう。

中国の一人当たりの収入はアメリカの7分の1である。そして、中国の財政、金融システムはアメリカに比べてほとんど洗練されていない。しかし、中国は経済状態を変更させるための資源を見つけることができる。中国国民の過半数は近代的な巨大都市に住んでおり、高速鉄道と高速道路のネットワークが中国全土を覆うようになっている。そして、中国の世界的な大企業は、他国の競争相手と激しい競争を行うようになっている。中国はこうしたことが可能であったが、その理由は高い投資レヴェルを維持するために必要な資金を中国政府が保有できたからだ。実際のところ、こうしたインフラなどへの投資は30年の間、中国のGDPの約40%を占めてきた。対照的に、アメリカにおける投資は約20%である。中程度の収入である国々がアメリカに追いつこうとして行う公共事業への投資は25から30%となる。

中国のインフラ投資の模倣がバイデンの提案の中でどれほど重要かということについて、これまで述べてきた指摘は議論を促進している。しかし、ここに根本的な疑問が生じてしまう。それは、世界各国の政府が中国ほどではないインフラ整備計画を立案しても、税率を引き上げたり、資本市場から資金を引き出そうとしたりしても、それらのための財源を確保することができないのに、中国はあれほど大規模なインフラ投資のための財源をどのようにして確保することができたのだろうか?

中国が採用した方法はあまり理解されない方法であった。中国が社会主義経済から市場経済へと移行した時期、開発のために、土地の隠された価値を引き出したことで、中国政府は成功を収めたのだ。改革開放前の社会主義時代には、中国の土地は、所有権も使用権も国家に帰属していたので、商業利用に制限があった。住居用そして商業用の財産市場が確立し始めたのは1990年代後半であった。この時期、中国政府は住宅を私有化し、商業利用のために土地のオークションを開始した。

この政策の結果、市場が商業的価値を確立しようとしたことで、土地を基にした財産価格は急上昇した。土地の一部を名義上所有していた人々、各世帯、各企業、各地方政府は突然、自分たちの財産の価値が急上昇するという幸運に恵まれた。中国の住宅用土地価格指数で見ると、2004年から2017年までに土地の価値は8倍になった。ロシアの財産市場でも同様のことが起きた。ソヴィエト連邦崩壊と住宅地の私有化が始まって以降、財産価値は急上昇した。1990年から1996年までに、モスクワの土地価格は12倍も増加した。

土地価格の急上昇によって、地方政府や市政府は、地方政府金融制度(local government financing vehiclesLGFVs)と呼ばれる制度を確立することができた。この制度では、資金を集め、インフラに投資することができた。国有企業から転換した各企業や地方政府金融制度は、上級の政府による保証を受け、土地財産を担保にして借金をしたり、新しい債券を発行したりできた。そうして各企業や各地方政府は発電所から地下鉄まで、あらゆるものを建設することができた。

銀行や企業の債権市場における利率の上昇よりも土地価格の上昇率の方が高ければ、借り手は資金を借りて、以前に借りた借金の返済にその資金を回すことができる。しかし、このようなメカニズムは永久に機能するということはない。土地価格の上昇は続くかもしれないが、土地価格が均衡点まで到達する時、利率の上昇率を上回る上昇率を保つことはない。若い世代は資金の使い道について前の世代よりもより多くの選択肢を持つので、前の世代に比べて貯金をするということは少ない。そうなると、利率は上昇する。更に言えば、政府によるインフラ計画に対する投資のリターンは小さくなっていく。政府のインフラ投資計画は、公正の面、そして戦略的な面の理由によって、より内陸部へと進んでいく。そして損失が出る可能性はどんどん高まっていく。 従って地方政府金融制度による借り入れは、北京の中央政府の負債レヴェルに関する懸念を受けて、より金額が小さくなっていく。インフラ投資の拡大ペースはこれから落ちていくことになるだろう。

世界中で、財産市場は何世紀前からではないが、数十年間から既に存在していた。これが意味するところは、各国政府は、中国の現在の指導部が市場改革によって手に入れることができた、「棚からぼた餅」式の利益を手にすることはできないだろうということだ。

バイデンにとって、税金を引き上げることができないとなれば、インフラ投資のほとんどには新たな借金が必要ということになる。バイデンは不動産などの財産を担保にすることはできず、アメリカ財務省の信頼性を担保にするしかない。アメリカ国債に依存することで、アメリカの地方政府はインフラを建設し、また既存のインフラの修理を行うチャンスを手にすることができるということだ。そして、中国が他の西洋諸国と同法に金融上の限界に直面することで、アメリカと中国との差は縮まっていくだろう。

不安定なインフレ圧力は確かに存在する。しかし、信頼性の高いアメリカ国債に大きく依存することは、中国の土地を基にした資金調達法と同様にうまくいくだろう。しかし、アメリカ・ドルが事実上の国際規模での準備通貨の地位から転落しているならば、アメリカ国債に大きく依存する方法にもまた最終期限が設定されることになる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 2021年5月29日に発売となった最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)のアマゾンでの販売ページにレヴューが掲載されました。参考にしていただいてお読みください。

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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 アメリカでは新型コロナウイルス感染拡大が収まりつつあるということで、人々の需要が高まっているが、供給はなかなか回復しない中で、物価が上昇、インフレ懸念が高まっているという内容の記事をご紹介する。

 アメリカではここ1年間ほどは新型コロナウイルス感染拡大もあり、経済活動が鈍化し、物価上昇率も低かった。しかし、2021年4月の上昇率は4%超となった。物価上昇率の推移は以下のグラフの通りだ。同時期の日本のグラフも併せて掲載する。
inflationratesofUS2years2021001
ここ1年間のアメリカの物価上昇率

inflationratesofjapan2years2021001
ここ1年間の日本の物価上昇率

 日米で共通して行われているのは異次元の金融緩和であり、その目的はインフレ率2%の達成である。しかしながら、以下のグラフの通り、その目的を達成することはできていない。4%を超える物価上昇率は行き過ぎであるが、そもそもが物価下落が続いていたところに経済回復の兆しを受けての大幅な上昇となった。

inflationratesofUS25years2021001
ここ25年間のアメリカの物価上昇率

inflationratesofjapan25years2021001
ここ25年間の日本の物価上昇率

 人々の生活が苦しいと感じられるのは物価上昇率が賃金上昇率を上回る場合である。賃金上昇率が物価上昇率を上回れば、人々の消費にも余裕が出て、生活が楽に感じられる。日本では物価下落が続くデフレーション状態が長年続き、デフレ率よりも賃金の下落率が高いので、生活が苦しいということになる。日本は平成から令和にかけての約30年間にわたり、ほぼ経済成長がなく、賃金が下がり続け、物価の下落率はそれよりも小さいために、生活の苦しさだけが続いてきた。

wagegrowthrateus2years2021001
ここ1年間のアメリカの賃金上昇率
wagegrowthratejapan2years2021001
ここ1年間の日本の賃金上昇率
wagegrowthrateus25years2021001

ここ25年間のアメリカの賃金上昇率
wagegrowthratejapan25years2021001
ここ25年間の日本の賃金上昇率
 前回もご紹介したが、バイデン政権は600兆円規模の予算を提案している。連邦議会での審議でかなり削られるだろうが、このような大型予算もまたインフレ懸念を増やす材料となっている。これからどのような動向となるかを中止する必要がある。

(貼り付けはじめ)

ホワイトハウスではインフレへの恐怖感が高まる(Inflation fears grow for White House)シルヴァン・レイン

2021年5月16日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/finance/553671-inflation-fears-grow-for-white-house

物価上昇はバイデン大統領と連邦準備制度(Federal Reserve)への新型コロナウイルスによる景気後退からの回復から逸れないようにするためにインフレを阻止しなければならないとするプレッシャーを高めている。

消費者需要は、政府による景気刺激策、ワクチン接種状況の改善、そして感染拡大の抑止によって大きくなっている。消費者需要の高まりによって国際的な供給チェインに歪みが出ている。製造業部門やその他新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻な産業部門はロックダウンが続いた1年を終えて、回復のために奮闘している。しかし、供給の不足とコストの上昇によって苦闘を余儀なくされている。

こうした様々な要素が重なった結果、消費者物価指数(consumer price indexCPI)は今年の4月には4.2%の上昇、過去12カ月では0.8%の上場を記録した。労働省は先週、2008年以降では、最速の年間での上昇率となったと発表した。食料品とエネルギーの価格はより高騰しており、それらを除外しても、消費者物価指数は1982年以降、最大の月間の上昇率を記録した。

消費者支出が増加しているのは楽観主義が拡大していることを示しているが、アメリカ国民がここ10年以上の間にアメリカで対処したことがないインフレ率に直面しており、バイデン政権はその点で政治的リスクに直面している。

アメリカ国民の間でインフレ率に関して懸念が深まっている。その結果として、バイデンの経済政策と、2022年の中間選挙で共和党との僅差を守りたいという民主党の希望が潰えてしまう可能性がある。

リバータリアニズムの研究で知られるケイト―研究所の経済政策専門家ジョージ・セルジンは次のように述べている。「現在、人々は消費を拡大させている。そして、4月の消費者物価指数が示しているのは、消費者たちは専門家の予想よりも活発に消費しているということだ」。

セルジンは続けて次のように述べた。「供給への衝撃はこれからも続いていく。それによって4月の指数は影響を受けている。しかし、大きな流れにおいては、需要と購買力が抑制されているが、人々は最終的に消費を拡大させ始めている」。

消費者による支出が増大することでコロナウイルス感染の不況からの回復がアメリカ構内で起きることで、インフレーションが起きるだろうと見られている。しかし、予想以上の急激な物価上昇は、共和党所属の連邦議員たちからの更なる批判を真似ている。共和党の議員たちは数か月にわたり、ホワイトハウスと連邦準備制度のインフレーション対応を批判してきた。

本誌とのインタヴューにおいて、リック・スコット連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)は次のように述べている。「歴史において、資金供給の大幅な増加があったところでインフレーションが起きなかった例を私は知りません」。

ホワイトハウスと連邦準備制度の高官たちは、新型コロナウイルス感染拡大が始まってから、約900万の雇用が失われたままであり、経済が過熱する心配はないと述べている。政府高官たちは、困窮者たちに対する支援を取りやめる状況にはなく、2007年から09年まで続いた複数年にわたる緩慢な回復が起きるリスクの可能性があると述べている。

バイデン大統領と民主党所属の連邦議員たちは、3月に1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルスの救済法案が可決されて以降、インフラ整備のために数兆ドル規模の支出を行おうとしている。共和党所属の連邦議員たちは、道路、橋梁、河川のようなインフラの中核に関して、民主党側と合意に達しているが、バイデン大統領のより広範な支出に対しては反対し、そのような支出をすればインフレ率をより高くしてしまうと主張している。

スコットは「無謀な支出を止めねばなりません。連邦政府は収入の範囲内で活動を始めるべきなのです」と述べた。

インフレを批判している人々は、連邦準備制度が少なくとも2022年よりも前に利上げを行うことはないと明確に否定の姿勢を示したことで懸念を募らせている。

経済学者の多くはこうした懸念を否定し、経済が通常の回復ペースに戻ることで、これから数か月の高いインフレ率の後に物価は、落ち着いていくだろうという連邦準備制度の見込みを共有している。

コンサルタント会社「マクロポリシー・パースペクティヴ」の上級エコノミストのローラ・ロズナー=ウォーバートンは「急激な物価上昇はここ2カ月間だけのことだ」と述べた。

ロズナー=ウォーバートンは「4月の消費者物価指数を見て過剰に反応するのは時期尚早だし、過剰な心配だと考えている」とも述べた。

ロズナー=ウォーバートンは、4月の物価上昇は三つの短期間の要素によるものだとしている。それらの要素とは、深刻な物価下落の後の1年における急激な上昇が統計に反映されたこと、新型コロナウイルス感染拡大による一時的な供給に対する制限、抑制されていた需要の開放である。

ロズナー=ウォーバートンは次のように述べている。「昨年、物価は大幅な下落を記録した。今年、そうした物価下落の報告はない。1年ごとで見ていくと、インフレ率は人工的に高くなっているように見えてしまうが、それは昨年物価が大幅に下落したからだ」。

ロズナー=ウォーバートンは続けて次のように語っている。「家賃、航空運賃、娯楽、自動車保険、家庭で使われる財やサーヴィスの価格は昨年大幅に下落したが、今年は上昇している。それらが4月の物価上昇にも大きく影響している」。

いくつかの財の価格が通常のレヴェルに戻ることでインフレーション率がより高く押し上げられているが、その他の財の供給不足はより大きな影響を与えている。先月の消費者物価指数の上昇の約3分の1は、中古車と中古トラックの価格が10%も上昇したことだけで起きているのだ。

ロズナー=ウォーバートンは、中古自動車の流通が大きくなったのは、半導体供給の不足のために起きたと述べている。半導体の供給不足のために新車の生産が落ち込み、中古車の流通が盛んとなったのだ。全体の供給が阻害されている。より多くの州でコロナウイルス感染拡大関連の制限が解除されている中でより多くのアメリカ国民が出かけようとしている。そうした中で、新型コロナウイルス感染拡大中に所有する自動車の数を減らしていたレンタカー会社も自動車を人々の需要に見合うように動いている。需要は大きくなっている。

ロズナー=ウォーバートンは「供給は現在の重要に徐々にではあるが見合うようになっていく。そして、需要もまた、財政刺激策の影響が縮小していく中で、小さくなっていくだろう。現在のボトルネック(訳者註・制限された供給と開放された需要)はこれかもずっと続くようなものではない」と述べた。

従って、より高いインフレ率がこれからどのように継続していくのか、どれほどの期間続いていくのかということは不透明であり、それらの先行き不透明さと不安定さがバイデン大統領と連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長に重くのしかかる。

連邦準備制度はインフレに対するアプローチを変更したことを金融市場に売り込もうとしている。それは、この10年間の中央銀行が定めた物価上昇率に届かなかったことを穴埋めするために物価上昇を許容するというものだ。

10年以上にわたり、物価上昇率は連邦準備制度が定めた2%の年間目標を下回ってきた。それによって賃金上昇率を阻害し、中央銀行の利上げの能力を損なわせてきた。こうした流れを変えるために、パウエルと連邦準備制度の幹部たちはこれまでの物価上昇率の低さを補うために物価上昇が軌道に乗り、雇用が最大限のレヴェルに達するまで利上げはしないと主張している。少なくとも2022年までは利上げはできないだろうと見通している。

前述のセルジンは次のように述べている。「これらの理由によって連邦準備制度が利上げをすることは困難な状況だ。そうなると、物価上昇率2%達成ために必要となって、連邦準備制度が果たして果敢に利上げができるのかどうか心配になってくる」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 アラン・グリーンスパンはFRB議長として、アメリカ経済のかじ取りをした「マエストロ」と呼ばれた人物です。現在は91歳だそうで、映像で見る限り、相応に年齢を重ねていますが、まだ元気なようです。グリーンスパンは1996年に「根拠なき熱狂(irrational exuberance)」という言葉を使って、インターネットバブルを表現した人です。

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 日本語では「根拠なき」となっていますが、irrationalという言葉は、「合理的ではない」ということになります。「合理」とは、自分の利益を最短距離で最大化するための考え、ということになります。1990年代のインターネットバブルをグリーンスパンは、「人間が合理的な生き物であるとするならば、あり得ない動きをしていることで起きている経済の熱狂」と表現しました。経済においても人間は「合理的に」動くものではなく、それが熱狂、バブルを生み出してはじけてしまう、ということです。バブル発生と崩壊は人間らしい行為ということになるでしょう。崩壊が予測できればいいのでしょうが、個人として予測はできても、崩壊を防ぐまでのことはできません。

 

 グリーンスパンがブルームバーグのテレビ番組に出演し、現在、株式市場と債券市場がバブル状態にあると発言しました。株式市場は2万6000ドル台を記録し、アメリカ国債の金利は最低の水準を記録しています。日本も同じです。


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 アメリカではトランプ大統領の減税政策が実施に移されることになり、また、インフラ整備計画も発表になりました。連邦議会がどのように対応するか分かりませんが、こうしたトランプ大統領の政策が現在の株式市場の活況、資金流入、国債の利率の低水準を導いています。

 

 その代償として、トランプ大統領の計画を実行すれば、政府の財政赤字が膨らんでいくということが起きます。減税で税収が減り、インフラ整備でお金がかかるということになれば、国債を買ってもらって(=政府が借金をして)賄うということになります。ですから、トランプ政権としては、お金の使い道を変えていくしかありませんが、どの国でも固定的に出てしまう、社会保険(医療費や年金のお金)は削れませんし、削れる部分はかなり限られてしまいます。

 

 グリーンスパンは「財政赤字が増大することで、債券市場のバブルが起きているのだが、そのことに人々は十分な注意を向けていない」と述べています。これは、「トランプが行っている政策の良い面ばかりを見て、悪い面を見ていないので、バブルが起きている」ということになります。しかし、現在の状況は、既に経済学の理論や経済学の知識では予測をしにくい、最先端の状況になっています。トランプ大統領が本能的に行っている言動で起きているのが現在の状況で、これは後々経済学者たちが研究して新たな知識や理論を生み出すことになると思います。

 

 3月に利上げがあれば、現在のグリーンスパンが「バブル」と呼んでいる状況が変化することは容易に考えられます。そこから、崩壊に向かうのかどうかということになりますが、財政赤字をどこまで許容できるのか、ということになりますが、株高は一休止、もしくは株式の下落になると思います。また、国債の金利上昇で国債の価値が下がる(だれも買いたがらなくなる)とアメリカの信用不安、ドルに対する不安ということになって、ドルの価値が下がることも懸念されます。そうなると、現在日本でも同じ状況になっていますが、株高が終わり、円高が進むのではないかと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

アラン・グリーンスパン元連邦準備制度理事会議長が株式市場と債券市場がバブルだと見ている(Former Fed Chair Alan Greenspan Sees Bubbles in Stocks and Bonds

 

ジェンナ・スミアレク筆

2018年2月1日

『ブルームバーグ』

https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-01-31/former-fed-chair-alan-greenspan-sees-bubbles-in-stocks-and-bonds

 

「根拠なき熱狂(irrational exuberance)」という言葉を有名にした人物が、投資家たちは再びその中にいると言っている。

 

91歳になるアラン・グリーンスパンは水曜日、トム・キーンとスカーレット・フーが司会を務めるブルームバーグ・テレヴィジョンの番組に出演し、「2つのバブルが存在する。株式市場のバブル、債券市場のバブルだ」と述べた。グリーンスパンは1987年から2006年まで米連邦準備制度を率いた人物だ。また、1990年代のドットコム・バブルの間に、「根拠なき熱狂」という言葉を使って財産価値の過剰な増大を描写したことでも知られる。

 

株式市場の諸指標は、ここ数日売りが優勢であるのに、記録的に高い値を付けており、政府の債権や国債の利率は歴史的な低い数値を記録している。こうした状況の中、グリーンスパンはコメントを行った。連邦準備制度が徐々に金融政策を引き締めようとしている中で、利率はこれから数年で情報していくと予測されている。

 

グリーンスパンは次のように述べている。「いろいろと考えてみると、債券市場のバブルは徐々に重大な問題になっていくだろう。しかし、短期で見ればそんなに悪いことではない。明白なことは、長期金利が大きく上がる方向に進んでいる。これは経済の構造全体に対して重要なインパクトを持つ」。

 

水曜日、連邦準備制度理事会は利率を変更しないという選択を行った。そして、市場は、連邦準備制度理事会が3月の会合で利率を引き上げることを織り込んでいる。

 

グリーンスパンは、アメリカ政府の抱える負債が国内総生産に占める割合が増加し続けるだろうという警告を発した。グリーンスパンは、火曜日の一般教書演説の中でドナルド・トランプ大統領が新たな政府の計画の資金を特定しなかったことに「驚いた」と述べた。トランプ大統領は先月、1兆5000億ドルの減税法案に署名した。批判者たちはこの減税によって政府の借金は増大がするだろうと主張している。

 

アメリカ政府の長期債券の販売は伸びているが、財政赤字は悪化している。

 

グリーンスパンは、債券の販売の原因を財政赤字の増大だとした。

 

「バブルが起きているのはどうしてか?そうだね、実際のところ、これまでになく政府の借金が増え始めている」とグリーンスパンは述べた。更に、対GDP比で見ても、「借金は大変な勢いで増加している。しかし、私たちはそれに十分な注意を払っていない」と述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)








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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 ヨーロッパ中央銀行の金融緩和がバブルを生み出すかもしれないという内容の記事です。しかし、やっていることはアメリカでも日本でも同じで、つまり、バブルを生み出す危険性があるということです。

 

==========

 

あぶく銭のもたらす危険に気を付けろ(Beware the Perils of Easy Money

 

デイヴィッド・フランシス筆

2015年3月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/03/13/beware-the-perils-of-easy-money/

 

アメリカ経済はうまく回っている(rolling)。株価は上昇し、雇用も伸びている。しかし、専門家たちは、最終的には酷い結末が待っているかもしれないと警告を発している。

 

 その理由は、ヨーロッパ中央銀行が、連邦準備制度がアメリカ経済を不況から救い出すために行ったプログラムをそのまま真似をして、今週になって、経済成長を促すために、前代未聞の規模でヨーロッパ各国の国債を購入すると発表した。それによってヨーロッパ各国の国債は逆イールド(短期金利が長期金利を上回る)を起こす。このプログラムを実施すると望ましくない結果を生み出す可能性もある。それは、このプログラムが健全な経済の基本的な原理を蔑ろにしているからだ。その原理とは、「債券は投資に対して程補とではあるが一貫した利益をもたらすので、お金を投資するには安全なものである」というものだ。

 

 誰も次に何が起きるかをはっきり予測できない。それは、こうしたプログラムが過去に実施されたことがなかったからだ。しかし、良い結果がもたらされるだろうと考える人はほとんどいない。

 

 エンヴィジョン・キャピタル・マネイジメント会長のマリリン・コーエンはフォーリン・ポリシー誌の取材に対して、「私は衝撃を受け、恐怖感を持っている。このようなことはどれくらい継続できるのだろうか?」と述べた。

 

 彼女は『どのような結果となるか分からない。しかし、多くの金融機関が資金を失うことになると思う』と語った。

 

 イングランド銀行の通貨政策委員会委員のクリスティン・フォーブスによると、その理由はこうだ。利率が低く、利益がほとんどないということになると、投資家たちは安全な投資先から離れることになるからだ。そして、彼らは資金をリスクの高い商品に投資し、利益を上げようとするのだ。

 

 フォーブスは2015年2月24日にロンドンで行った講演の中で、「こうした資金の流れが起きると債券市場以外の市場を押し上げ、潜在的にバブルを生み出すことになる」と語った。

 

 アメリカ国民はバブルについては詳しいはずだ。バブルとは金儲けを楽にできるようにしてくれる経済サイクルのことだが、例外なく無残な結果に終わる。2008年の住宅バブルの崩壊は世界経済にまで波及し、大恐慌を引き起こす寸前までいった。そして、世界的な景気後退を引き起こし、ヨーロッパ国債危機を招来させた。ヨーロッパ中央銀行のプログラムはヨーロッパ連合(EU)を経済危機の淵から救い出そうとする試みなのである。

 

 経済アナリストであるジェシー・コロンボは、バブル経済に関する情報を追いかけている。コロンボは、現在の信用バブルの爆縮(implosion)が2008年に世界が経験したものよりも悪い状況をもたらすと確信している。彼は、自由市場に中央銀行が介入することが問題の根源であると述べた。

 

 コロンボはフォーリン・ポリシー誌の取材に対して、「これは人工的な、バブル主導の経済回復をもたらしつつある」と述べた。

 

 これまで挙げた警告は、ウォールストリートでも起きている。ここ最近、ファンドマネジャーたちはマイナス金利について警告を発している。

 

ヤヌス・グローバル・アンコストレインド・ボンド・ファンド会長ビル・グロースは、2015年3月に投資の先行きについて書いた文章の中で、「低い金利は世界中の金融のビジネスモデルを破壊する。金融ビジネスは現代の経済を機能させる上で重要な存在だ」と書いている。

 

パリに本拠を置くソシエテ・ジェネラルのヨーロッパ金利戦略部門の責任者シアラン・オヘイガン「ヨーロッパ中央銀行は自分のしっぽを追いかけているかのようだ」と述べている。

 

(終わり)





メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31




 

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