古村治彦です。

 

 トランプ大統領はアメリカとメキシコの国境に壁を建設することを諦めていません。連邦上院では共和党が、連邦下院では民主党がそれぞれ過半数を握っている状況で、壁建設の予算を含めるつなぎ予算案を連邦上院が可決し、壁建設の予算を含めないつなぎ予算案を連邦下院がそれぞれ可決し、お互いに送り合っていますが、どちらも否決ということで、結果として一部政府機能が閉鎖となって2週間以上が経ちました。

 

 トランプ政権では、マイク・ペンス副大統領と、連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)と連邦上院少数派院内総務チャールズ・シューマー連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)の補佐官たちが、連日交渉を持ち、落としどころを探っているようです。

 

 トランプ大統領は週末、大統領の公式別荘であるキャンプ・デイヴィッドで終日補佐官たちと会議を開き、その後、「コンクリート製ではなく、鋼鉄製の壁を建設する」という発表を行いました。「芸術的な外見で、より強靭な壁」を鋼鉄で作る、ということだそうです。

 

 民主党は壁建設そのものに反対しています。しかし、国境警備の装備や技術の向上には参政しています。トランプ大統領は壁建設のために50億ドルの予算を要求し、民主党側は壁建設には予算を投下せず、国境警備の装備や技術向上のために13億ドルの予算を計上しています。しかし、どちらも壁建設の立場を譲らず、膠着状態に陥り、一部政府機能の閉鎖が継続しています。

 

 アメリカ南部の国境は砂漠地帯が続き、そこには一部にフェンスや壁が既に建設されています。しかし、そのような人工物を乗りこえて不法移民が押し寄せているのが現状です。不法移民は、メキシコのカルテル(マフィア)にお金を払って入国の手引きをしてもらいます。多くの場合は既にアメリカにいる家族や親族がカルテルにお金を払います。その額は日本円で数十万円ですが、貧しい国の貧しい人々からしてみれば年間収入をはるかに超える大きな金額です。

 

 今資金が全額払えない場合には、人身売買の対象となり、男性は危険で厳しい仕事、女性は売春をさせられることになります。犯罪に加担させられることもあります。そうして、カルテルは人々を食いものにして肥え太っていきます。麻薬と人間で膨大なお金を稼ぎだしています。麻薬と安くて使い捨て出来る労働力の需要がアメリカ国内である限り、この動きは止められません。どんなに壁を作って、その壁を高くしようが、この流れを止めることはできません。その規模やスピードを小さく遅くすることはできるでしょうが。

 

 どんなに強固な壁が建設されてもカルテルはその裏をかく、壁自体に隙間を見つける、国境警備の公務員たちに賄賂を渡して見逃してもらう、などの方法を駆使して麻薬と人間をアメリカに送り続けるでしょう。壁が出来ればそれらにかかるコストが大きくなったということで、彼らが吹っ掛ける金額が大きくなるだけのことでしょう。

 

 アメリカの肉体労働の現場、危険な職場、きつい農園での作業は不法移民がいなければ成り立たないことになっています。そこを無視してただ壁だけを作って、しかも完全に流れを止めることが出来ないとなると、壁は無駄ということになります。

 

 この不法移民の問題に関しては、アメリカ国民の意識の変化というか、未来に対する怯えというものが根源にあるように思います。アメリカが勢いがあり、「帝国」として余裕がある頃は良かったのですが、アメリカの衰退というようなことが言われ出してから、アメリカの没落が、ローマ帝国と同じように、外国人の流入によって引き起こされるという考えが強まったように思います。帝国としての栄耀栄華が終わろうとしていることの怯え、そこから生まれる怒りがこのような矛盾に満ちた状況(不法移民には反対、しかし使い捨ての安い労働力として必要不可欠)を生み出している、ということになります。

 

 トランプ大統領と議会民主党執行部がどのような形で妥協するのか、ということになりますが、トランプ大統領は突っぱねるだけ突っぱねて、その間に相手との妥協点を探り、それと自分の要求の距離感を測り、まぁいいかというところが見つかったら、エイヤ、とあっさり自分の要求を引っ込めるということが出来る人です。その点は融通無碍で、今、強気の態度を示しながら、妥協点を見つけ出そうとしています。民主党執行部も何かの妥協や理屈を見つけ出そうとしています。

 

 日本では国会のねじれ状態ということについて批判も多いですが、確かに時間がかかることはマイナスかもしれませんが、アメリカでもこのようなことが起きており、しかも最後まで話し合い妥協点を探るという努力が続けられているということは評価されねばなりません。日本でもねじれ状態のある種評価できる面に光が当たって欲しいところです。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプ大統領は国境にコンクリート製の壁ではなく、鋼鉄製の壁を建設する計画を推進(Trump pushing for steel barrier instead of concrete wall at border

 

ブレット・サミュエルズ筆

2019年1月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/424080-trump-says-hes-pushing-for-steel-barrier-instead-of-concrete-wall-at

 

トランプ大統領は日曜日、トランプ政権はアメリカ南部の国境に沿って、コンクリート製ではなく鋼鉄製の壁(wall)を建設する計画を推進すると述べた。壁建設のために予算を巡る議論が平行線をたどり、そのために一部政府機能が閉鎖されているがこれに対しての、「素晴らしい解決策」だとトランプ大統領は語った。

 

トランプ大統領は土曜日を丸一日使い、キャンプ・デイヴィッド(米大統領の別荘施設)において補佐官たちと会議を行った。同日、マイク・ペンス副大統領は連邦議会民主党執行部の補佐官たちとの会談を行った。トランプ大統領の鋼鉄製の壁導入宣言は、これらの会談の後に発表された。トランプ大統領は、壁の材質の変更によって民主党側を宥めることが出来ると示唆したが、民主党は壁そのものに、効果の面から反対している。

 

トランプ大統領は、キャンプ・デイヴィッドから帰還してすぐに記者団に対して次ように述べた。「私たちは数多くの人々と連絡を取り、連携している。私はそうした人々に、私たちは鋼鉄製の壁を建設すると伝えた。鋼鉄製だ。壁は鋼鉄で作られる。外見上そこまで目立たないもので、より強力なものだ」。

 

トランプ大統領は、鋼鉄製にすることで、「より大きな強靭さを備える」ことになると述べ、民主党はコンクリート製の壁だから反対しているのだと示唆した。

 

トランプ大統領は「民主党側はコンクリート製が気に入らないのだ。だから、私たちは鋼鉄製の壁にすると言うつもりだ」と述べた。そして、鋼鉄製の壁は「美しく」、コンクリート製よりも「強靭だ」とも述べた。

 

トランプ大統領は日曜日のできるだけ早い時間にユナイテッド・ステイツ・スティール社をはじめとする各鉄鋼会社の経営幹部たちに連絡を取り、デザインについて研究するように連絡するつもりだと述べた。

 

日曜日の夕方、トランプ大統領はツイッター上で、彼の計画は鋼鉄製の壁に集中することになると述べた。ペンス副大統領とナンシー・ペロシ連邦下院議長(カリフォルニア州選出、民主党)と連邦上院少数党院内総務のチャールズ・シューマー(ニューヨーク州選出、民主党)の代理人たちとの間で「国境警備に関しての詳細な点」について「生産的な会談」が行われたとトランプ大統領は語った。

 

この会談について詳細を知っているある民主党関係者はトランプ大統領の会談に関する説明内容を否定し、「進展は何もなかった」と述べている。ホワイトハウスは、壁建設による予算増加を相殺するために国土安全保障省関係の予算を削減するということは提案していない。また、この関係者は、先週連邦下院で可決された、政府機能再開のための複数の予算と法律をトランプ大統領が支持することはない、とペンス副大統領が会談の中で示唆したとも述べた。

 

この関係者は、日曜日夕方にペンス副大統領と議会民主党の代理人たちとの会談が再び行われる予定はないとも語った。

 

ここ数週間、トランプ大統領はアメリカ・メキシコ国境に壁を建設する希望を巡り、言葉遣いを変化させてきた。トランプ大統領は複数回にわたり、構造物を「囲い(fencing)」と呼ぶことになり、「芸術的なデザイン」となるだろうと述べた。

 

民主党側は、壁建設に反対しているのは、道徳と効果の面が理由であるとこれまで述べてきた。連邦議会民主党は、壁建設を行っても不法移民の抑制にはつながらない、予算は国境警備の技術の発展に投下されるべきだと主張してきている。

 

トランプ大統領は壁建設に50億ドルの予算を要求し、民主党側はより国境警備の施策に対して13億ドルの予算を投じるが、壁建設には予算を投下しないと主張している。

 

トランプ大統領と連邦議会民主党側との間で合意がなされないことで、一部の政府機能が閉鎖され、この事態が16日間続き、これからも続くことになる。

 

ペンス副大統領は土曜日に続いて日曜日にも連邦議会民主党の代理人たちと国境警備について会談を持った。トランプ大統領は、今週ずっと「真剣な話し合い」が続けられることになると述べた。

 

トランプ大統領は日曜日にも、議会の承認を得ないで壁建設を進めるために国家非常事態宣言を発表することを考慮中だと繰り返した。この件について、民主、共和両党の連邦議員たちは批判している。民主党側はその宣言の合法性について疑義を呈している。

 

トランプ大統領は、国境警備に関する合意に含まれる可能性がある「ドリーマーズ(子供の頃に不法移民の親に連れられてアメリカにやってきた人々)」の保護に関して、冷や水を浴びせた。ドリーマーズは、若年移民に対する国外強制退去の延期措置(DACA)によって守られている。トランプ大統領は、DACAを撤回した。DACAによってアメリカに不法に連れられてきた子供たちが、強制送還の恐怖なしに、生活し、働くことができる。

 

トランプ大統領は、民主党側との合意を求める前に、DACAの合法性について連邦最高裁が最終的な判断を下すことを待ちたいと述べた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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