古村治彦です。

 今回は、バイデン政権の「ビッグテック包囲網」の軍師役ティム・ウーについての記事をご紹介する。ティム・ウーはコロンビア大学法科大学院教授から、ホワイトハウスの国家経済会議(National Economic Council、NEC)に入り、テクノロジー・競争政策担当大統領特別補佐官(Special Assistant to the President for Technology and Competition Policy)を務めている。父が中国系、母がイギリス系でカナダに生まれ、カナダの名門マギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了、その後はいくつかの法科大学院で教鞭を執っていた。下にある写真にあるように、ダンディーでハンサムな人物だ。コロンビア大学法科大学院では、連邦取引委員会委員長を務めるリナ・カーンと同僚だった(カーンは准教授)。

 ティム・ウーはビッグテックに対する批判を声高に主張する人物と知られ、進歩主義派からは今回の人事を歓迎する声が上がった。彼は2018年に『巨大さの呪い-新たな金ぴか時代における反独占(The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age)』という著作を発表し、その中で、「経済における過度な集中は格差と物質的な苦境を生み出し、結果として、人々はより過激な、ナショナリズムを煽動するリーダーを渇望するようになる」と書いて注目を浴びた。

 ウーは今年夏にジョー・バイデン大統領が発した大統領令の起草の責任者を務めた。そこには具体的な産業分野での独占や反競争的行為の問題が列挙されていた(補聴器の高価格設定など)。ティム・ウーはホワイトハウスでバイデンに反独占についての助言を行う軍師役を務める。これまでに紹介した、ジョナサン・カンター、リナ・カーン、そしてティム・ウーにはこれから注目していかねばならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンの反独占革命(The Biden Antitrust Revolution

-新しい大統領令は連邦政府に対して、経済における公正とアメリカの民主政治体制を損なっている独占を終わらせるために積極的に行動するように求めている。

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ジョン・カシディ筆

2021年7月12日

『ニューヨーカー』誌

https://www.newyorker.com/news/our-columnists/the-biden-antitrust-revolution
彼のオフィスで撮影されたティム・ウーの写真(ティム・ウーは金曜日にジョー・バイデンが署名した広範囲な内容を含む反トラストの大統領令の作成に貢献した)

2018年、コロンビア大学法科大学院教授ティム・ウーは書籍を出版し、その中で、巨大企業による独占はアメリカ経済に負担を強いるだけにとどまらず、民主政治体制に対する深刻な脅威となると主張した。1世紀前の金ぴか時代が示したのは、「いかにして、過度の経済集中が激しい不平等(格差)と物質的な苦しみを生み出し、人々がナショナリストや過激派を指導者に据えようと渇望するのか」と、ティム・ウーは書籍『巨大さの呪い(The Curse of Bigness)』の中で書いている。彼はまた次のように書いている。 「金ぴか時代から私たちが学べることが1つあるとすれば、それは次のようなことであるべきだ。ファシズムと独裁に進む道は、一般の人々のニーズに応えるための経済政策の失敗によって舗装されている」。

先週の金曜日、私は電話でウーと話をした。彼は現在、ジョー・バイデン大統領の補佐官を務めている。彼は、バイデン大統領が経済全体の競争を促進するための大統領令に署名する際に開かれたイヴェントに出席したところだった。この大統領令の目的について、イヴェントに出席したバイデンは、「価格を引き下げ、賃金を引き上げ、全ての人々のために機能する経済に向かうための重要なもう一歩を進めさせる」ことだと述べた。バイデンは続けて次のように述べた。「独占による人々への虐待はこれ以上許容されない。大量の解雇、価格の引き上げ、労働者と消費者たちの選択を減少させることにつながる、良くない合併はこれ以上許容されない」。

3月上旬にバイデン政権に参加して以降、ウーはこの大統領作成にかかりきりだった。この大統領の内容は長く、詳細なものだ。ウーは私に対して次のように語った。「ここに知的な部分での革命があり、バイデン大統領はそれを受け入れている。その一環として、反トラストの努力を抽象的な学術的な行為ではなく、一般の人々も巻き込んだ運動として取り戻すことを目指している。私たちは反トラストの努力がより遠く、より抽象的なものとなってきた長い期間を過ごしてきた。しかし、バイデン大統領が述べたように、最終的には、全ての人々のために機能する経済を実現することだ」。

この大統領には、連邦取引委員会、農務省、国防総省など10以上の連邦政府機関に対する72の指令が含まれている。大統領令の指令の中で、すぐに大きなインパクトを持つ者を1つ挙げるように、私はウーに頼んだ。ウーは、2017年に議会で可決された法案で求められていたように、店頭での補聴器の販売を許可する新しい規則を発表することで、「低価格の補聴器を広く普及させる」ことを保健福祉長官に命じるものを挙げた。現在、聴覚障害者が補聴器を購入するには、処方箋が必要である。補聴器は、市場を独占している一握りの専門業者によって製造されており、一組の価格は5000ドル以上にもなる。

アメリカ人が企業の巨大化や暴力的な独占を考える時、通常は補聴器メーカーのことは考えないと言っていいだろう。競争政策についての議論は、アマゾン、グーグル、そしてフェイスブックのようなハイテク産業の巨大企業に集中する傾向がある。ウーは著書『巨大さの呪い』の中で、「ビッグテックは遍在している。私たちについて知り過ぎているようであり、見るもの、聞くもの、するもの、更には感じるものに対してあまりにも大きな力を持っているようだ」と書いている。

新しい大統領令はテクノロジー産業の巨大企業を無視してはいない。バイデン大統領が出した新しい大統領令は、連邦取引委員会に対し、テクノロジー分野の企業の合併を精査し、利用者データ収集のルールを確立し、「インターネット市場での不公正な競争方法を禁止する」などの措置を講じるよう命じている。まとめると、今回の大統領令の最も注目すべき点は、その幅の広さだ。農業、金融、医療、運輸といった各産業分野が含まれている。また、非競争契約の規制など、最も重要な提案のいくつかは、さまざまな業界に適用される。

ウーと彼の同僚たちは、この幅広いアプローチが今日のアメリカ経済の現実を反映していると述べている。経済諮問委員会のヘザー・ボウシェイとヘレン・ナドセンは、ホワイトハウスが金曜日に発表した記事の中で、「様々な産業において、市場がより集中し、おそらく競争力が低下しているという証拠がある」と述べている。この記事には、「4社の精肉企業が市場の80%以上を支配している。国内航空市場は4つの航空会社に支配されている。信頼できるブロードバンド供給会社として、アメリカ国民は1社しか選ぶことができない」と書かれている。複数の市場で競争が阻害されているのであれば、競争を促進するための政策は多くの異なった分野に対応する必要がある。補聴器の価格を引き下げることに加えて、大統領令の目的には処方箋の必要な薬の価格を引き下げること、銀行口座の変更を容易にすること、ブロードバンド事業者が高額な早期解約料を請求するのを防ぐこと、農家が自分で機器を修理することを禁止する販売契約を制限すること、低賃金や中程度の賃金の従業員に対して雇用主が競業避止義務を課さないようにすることなどが含まれる。

大統領令には個別の問題が列挙されているが、これはウーと彼の同僚が制限された道具を最大限効果的に使おうとする努力を反映している。バラク・オバマは彼の大統領二期目の最終年に競争を促す大統領令を発した。しかし、小の大統領令が大きな影響を与える前に、オバマは退任した。ドナルド・トランプは様々な種類の大統領令に署名したが、そのほとんどは、裁判所が取り消したり、バイデンが大統領就任後に取り消したりして、もはや有効ではない。ウーと彼の同僚は、この大統領令が裁判の場で正当性を争われる可能性が高いことを十分に認識している。多くの裁判官は、経済における競争を促進する政府の権限を限定的に捉えているからだ。そこで、この大統領令の策定にあたっては、目に見える形で既存の法律が適用されている具体的な問題点を取り上げようとした。「この大統領令の全体的なアプローチは、議会に強力な権限があり、それがニューディールや1945年、1960年代に与えられたものであるにもかかわらず、十分に活用されていない分野に焦点を当てることだ」と呉は説明した。

この発言は、ウーや、連邦取引委員会の新委員長であるリナ・カーン、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員の補佐官を務め、現在は国家経済会議の副委員長を務めるバラット・ラマムルティなど、バイデン政権の高官たちが代表する、経済における競争に対する活動家的なアプローチの核心をついている。彼らのアプローチは、進歩主義時代に産業分野における独占や大銀行を批判し、最高裁判事となったルイス・D・ブランダイスの経済哲学や、1935年から1936年にかけて実施された第二次ニューディール政策で重要な役割を果たしたフェリックス・フランクフルターをはじめとするブランダイスの弟子たちの見解を想起させる。この期間、ルーズヴェルト政権は、巨大電力会社の分割、労働者の交渉力を強化するワグナー法の成立、連邦準備制度理事会に銀行システムへの監督権限を与える1935年銀行法の制定など、経済の再構築と公正な競争を促進するためのさまざまな施策を実施した。

ウーや彼以外のブランダイスの後継者たちは、「新ブランダイス主義(New Brandeis-ism)」と呼ばれる政策体制を構想している。彼らは、連邦取引委員会や司法省の独占禁止法部門など、競争を促進するために設立された連邦機関に対し、最も悪質な企業独占に対して、時々裁判を起こすこと以上の施策をするよう求めている。新ブランダイス主義の推進者は、これらの機関が積極的に行動すべきだと主張している。つまり、広範な調査を行い、報告書を発表し、テクノロジー産業の巨大企業によるプラットフォームやブロードバンド・プロバイダーなど、市場で大きな力を持つ企業の行動規則を制定すべきだ、ということである。ウーは著作『巨大さの呪い』の中で、「アメリカの反独占は、その使命を果たすために、より大きな目標に立ち返り、その能力を向上させる必要がある」と書いている。

確かに、この新大統領令が実際にどれほどの成果を上げるかについては、懐疑的になる理由が存在する。メディケアに大手製薬会社との薬価交渉権を与えるなど、企業による不正行為を抑制するためには、新たな法律を制定する必要がある。既存の法律に基づいて連邦政府機関が権限を持っている分野であっても、月単位ではなく年単位の時間軸で動いていることもある。例えば、連邦取引委員会が提案する新しいルールは、制定される前に長いパブリックコメントの過程を経なければならない。

更に、企業合併の承認ルールの変更など、新政策の主要項目に裁判所が賛成するかどうかも定かではない。司法省の独占禁止法部門の責任者であるウィリアム・J・ベア氏は『ニューヨーク・タイムズ』紙に対し、「そこには克服できるかどうかわからない逆風が吹いている」と語った。新しい反独占運動にとっての最良のシナリオの中でも、保守的な経済思想が司法の場で確立したほぼ覇権を覆すには、何年も、あるいは何十年もかかるだろう。

金曜日に株式市場が上昇したという事実が示しているのは、ウォール街が今回の大統領令によって大企業の利益が圧迫される懸念は大きくないと考えていることを示している。しかし、全ての政策闘争はどこかで始めなければならない。ウーが2018年に発表した著作で示したように、今回の政策闘争が生み出す利害はこれ以上ないほど高いものとなるだろう。経済システムがアメリカ国民のために公平に機能することをアメリカ国民に示す努力をしない限り、民主政治体制の基盤はますます損なわれていくだろう。バイデン政権が引き受けた仕事の規模、そして仕事の達成の速度について、誰も幻想を抱くべきではない。しかし、少なくとも、記憶に残る形での努力は始まっている。バイデンは次のように発言した。「明確にしたいことがある。競争のない資本主義は資本主義ではない。それは搾取だ」。民主党から出た大統領が経済についてこれほど平易に語ったのはいつ以来だろうか?

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ビッグテックへの批判を主導している人物がホワイトハウス入り(A Leading Critic of Big Tech Will Join the White House

-国家経済会議へのティム・ウーの指名はバイデン政権の対決姿勢を示している。

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コロンビア大学法科大学院教授ティム・ウー。金曜日にテクノロジーと競争政策に関する大統領特別補佐官に指名された。

セシリア・カン筆

2021年3月5日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2021/03/05/technology/tim-wu-white-house.html

ワシントン発。バイデン大統領は金曜日、コロンビア大学法科大学院教授ティム・ウーを国家経済会議のメンバーに指名した。肩書はテクノロジー・競争政策担当大統領特別補佐官だ。ビッグテックの力に対して最も声高に批判を行っている人物を政権に入れることになった。

48歳になるウー教授は民主党進歩主義派と反独占を主張する各種団体によって支持されている。ウーの指名は、バイデン政権が、アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルなどの企業の規模と影響力に対抗するために、議会と協力して独占禁止法を強化する法案を作成する計画を持っていることを示している。バイデンは選挙期間中、ビッグテック企業の解体に前向きだと述べた。

テクノロジー産業に対するこのような対決的なアプローチはトランプ政権からの継続の一つである。昨年末、連邦政府と各州政府の規制当局は、フェイスブックとグーグルを独占禁止法違反で裁判に訴えた。規制当局はアマゾンとアップルに対しても競争を不幸性に阻害しているとして捜査を継続している。

バイデンはソーシャル・ネットワーク・メディア企業と、ソーシャル・ネットワーク・メディア企業に対する法的防護盾として知られる通信品位法第230条について懐疑的だ。バイデンは2020年1月に『ニューヨーク・タイムズ』紙論説ページに発表した論稿した中で、「通信品位法第230条は即座に廃止されるべきだ」と書いている。

テクノロジー産業巨大企業は新たな独占禁止法と規制に対して徹底的戦ってきた。それらを押し返すために、ワシントンで最も能力の高いロビー活動勢力を構築している。

ウーは、少数の企業の手に過剰な力が集中していることの影響に対して警告を発し、1800年代末の金ぴか時代(Gilded Age)に似ていると述べた。

ウーは2018年に発表した著作『巨大さの呪い-新たな金ぴか時代における反独占(The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age)』の中で、ウーは「経済における過度な集中は全体的な格差と物質的な苦境を生み出し、ナショナリスティックで過激な指導者を人々が求める状態を促進する」と書いている。

ウーは更に次のように書いている。「私たちの日常生活で最も目につくのは、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどのテクノロジー産業のプラットフォームの巨大な力だ」。

ウーはホワイトハウス入りが決まる前まで、本紙の寄稿者を務めていた。

競争政策に集中したウーの役割は、国家経済会議の中でも新しいものとなる。ウーはまた、企業によって強制される競業避止義務、農業分野と製薬産業における力の集中など労働政策における競争に集中している。ウーの役職であるテクノロジー・競争政策担当大統領特別補佐官には連邦上院の人事承認を必要としない。

バイデン大統領はまだ司法省の独占禁止法部門の責任者と連邦取引委員会委員長について正式に指名していない。両部門は商業活動における競争を監視する政府機関である。進歩主義派の人々は、テクノロジー巨大企業やその代理人である法律事務所で働いた人物よりも、ウーのような左派のビッグテックに対する批判者の起用を強く求めてきた。

マサチューセッツ州選出で民主党所属の連邦上院議員エリザベス・ウォーレンは声明の中で次のように述べている。「ティムは長年にわたり反独占を主張してきた。ビッグテックの解体と抑制を政府に働きかけてきた。私は彼が政府で反独占の役割を果たすことを楽しみにしている」。

ウーはこれまでにも何度か学術界から離れて政府で働いたことがある。2011年から2012年にかけて連邦取引委員会の特別アドヴァイザーを務め、オバマ政権下で国家経済会議に入り、競争政策を担当した。オバマ政権は、フェイスブック、グーグル、そしてアマゾンといったテクノロジー兄弟企業を手厚く扱ったことで知られている。ウーはそれ以来いささかの後悔を持っていた。

ウーは、2019年に開催されたアスペン・アイディアズ・フェスティヴァルで行われたインタビューで次のように述べた。「私はオバマ政権で働き、独占禁止法の分野で働いた。私にももちろん個人的な責任はあるが、私たちは本来厳しく実施されるべき合併に対する監視を行っていなかった」。また、テクノロジー分野について、「時には、過度にバラ色の見方をしていたかもしれない」とも述べた。

これらの企業は、オバマ大統領の任期である2期8年の間に、規制に縛られることなく、合併買収(mergers and acquisitions)によって大きく成長した。ウーは当時から多くの民主党の政治家たちが、テクノロジー産業企業が利用者データの保護、小規模な競争相手への公平な対応、プラットフォームからの誤った情報の排除などの約束を果たせていないことを認識していたと述べている。

ウー教授は強力な電気通信企業に対する批判や、「ネット・ニュートラリティ(net neutrality)」(消費者はインターネット上のすべてのコンテンツに平等にアクセスできるべきだという規制理念)という言葉を生み出したことで知られている。最近では、ウーは、インターネット上の言論、調査、小売りを支配している、フェイスブック、グーグル、アマゾンなどのゲイトキーパー(門番)と呼ばれる存在に注意を向けるようになっている。

フェイスブックに関する連邦政府と各州政府の捜査が続いている間、ウーはフェイスブックの共同創設者クリス・ヒューズと共に、フェイブックの解体を主張した。

ミネソタ州選出エイミー・クロウブシャー連邦上院議員は、連邦上院司法委員会独占禁止小委員会委員長を務めている。クロウブシャー議員は、「ウーの指名は独占禁止法執行において新しい時代の方向性を定めることになった」と述べている。クロウブシャー議員は、独占禁止関連諸法を強化するための広範囲をカヴァーする法案を提出している。

彼女は「法律は何も変わっていない。従って、法執行と新しい考えが重要だ。これが競争政策に必要なカンフル剤となる」と述べる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める