古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:国連

 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。2023年10月に始まったイスラエルとハマスの紛争についても分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエルとハマスとの紛争、その後のイスラエルによるガザ地区への過酷な攻撃が今も継続中だ。イスラエルによるガザ地区への苛烈な攻撃に対しては、体調虐殺(ジェノサイド)だという批判の声が上がっている。アメリカは、一貫してイスラエル支持の姿勢を崩していないが(もちろん崩せないが)、ガザ地区の状況については憂慮しており、イスラエル側に自制を求めているが、イスラエルはアメリカ側の言うことを聞かない。アメリカは、イスラエルに引きずられる形になっている。それでも、「イスラエルを支援しているアメリカが何とかしろ」というアメリカに向けた批判の声も大きくなっている。

 私は最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の中で、世界は「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西側以外の国々)」という対立構造で、これからの世界は動いていくと書いた。ザ・ウエストの旗頭はアメリカで、ザ・レストの旗頭は中国である。ザ・レストには南半球の発展途上国が多いことから、「グローバル・サウス(Global South)」とも言う。アメリカが世界唯一の超大国として、一極構造であった世界から大きく変化しつつある。今回のパレスティナ紛争についても、この構図が当てはまる。

 中国は紛争発生当初から、即時の停戦を求めてきた。最近では、イスラエルによるガザ地区への攻撃を憂慮し、パレスティナ側に立つ姿勢を見せているが、深入りすることはせず、調停者の役割までは担うという姿勢を見せいている。中国の調停案はイスラエルには受け入れがたいものであるが、中国は強硬な態度を示していない。これは、アメリカの失敗、敵失を待っているということも言える。アメリカが自滅していくのを待っているということになる。そして、ザ・レスト、グローバル・サウスの旗頭として、これらの国々の意向を尊重しながら行動しているということになる。中国は慎重な姿勢を見せている。

 アメリカとイスラエルはお互いに抱きつき心中をしているようなものだ。イスラエルはアメリカを巻き添えにしなければ存続できない。アメリカはイスラエルを切り離したいが、もうそれはできない状況になっている。お互いがお互いにきつく抱きついて、行きつくところまで行くしかない。非常に厳しい状況だ。

 世界の大きな構造変化から見れば、アメリカとイスラエルは即座に停戦し、パレスティナ国家の実質的な確立を承認すべきであるが、イスラエルの極右勢力の代表でもあるベンヤミン・ネタニヤフ首相には到底受け入れられない。また、ハマスにしてもイスラエルとの共存は受け入れがたい。中国としてもパレスティナの過激派組織をどのように扱うかは頭の痛いところであろうが、イランとの関係を使ってうまく対処するだろう。二国間共存に向かうように今回の機器をうまく利用できるとすれば、それはアメリカではなく、中国だ。

(貼り付けはじめ)

中国がイスラエルとハマスの戦争をどのように利用するか(How China Is Leveraging the Israel-Hamas War

-ワシントンとグローバル・サウスとの間に広がり続けている分断は、北京に有利に作用している。

クリスティーナ・ルー筆

2024年1月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/31/china-israel-hamas-global-south-us-foreign-policy/?tpcc=recirc062921

イスラエルによるガザ地区での軍事作戦に対する世界的な怒りが高まるなか、中国は、この戦争に対するワシントンとグローバル・サウス(Global South)のスタンスの間に広がる分断(divide)を利用し、北京自身の外交政策上の野心を高めることに注力してきた。

イスラエル・ハマス戦争の過程を通じて、中国は深刻化し続ける紛争に巻き込まれたり、地域のつながりが危​​険に晒されたりすることを警戒し、慎重に傍観者の立場を守り続けてきた。しかし、アメリカ政府がイスラエル支援をめぐって激しい反発に直面する中、中国政府もまた、ブラジル、インド、南アフリカ、パキスタンを含む数十カ国の集合体である、いわゆるグローバル・サウスと連携する機会を捉えている。アメリカの立場とは大きく異なり、イスラエルの行動を非難した。

戦略国際問題研究センター(Center for Strategic and International StudiesCSIS)で中東プログラムの部長を務めるジョン・アルターマンは、「中国は、そのほとんどをアメリカに任せている。中国が中東で追求している唯一の利益は、アメリカとグローバル・サウスの大部分との間に大きな分断が生まれるのを見守ることだ」と述べた。

イスラエル・ハマス戦争に対する中国のアプローチは当初から慎重さが特徴だった。例えば、中国の習近平国家主席は、2023年10月7日のハマスの最初のイスラエル攻撃後の検討まで2週間近く待ったが、一方、初期の政府声明ではハマスの名前さえも言及せずにいたが、この対応はイスラエル当局の怒りを買った。それ以来数カ月間、中国は自らを和平調停者(peacemaker)として位置づけ、紛争に直接関与するまでは至らないようにしながら、停戦とパレスティナ国家の確立を呼びかけた。

ブルッキングス研究所の研究員パトリシア・キムは本誌の取材に対して、電子メールを通じて答え、「中国は、現在進行中の紛争において実質的な役割を明らかに回避している」と語った。キムは更に、「中国政府は自らを地域の権力仲介者として見せたいと考えているが、安全保障の提供者(security provider)としての役割を果たすことや、地域における関係を危うくする可能性のある困難な状況に直接介入することには全く興味がない」と述べた。

こうした力関係は紅海でも明らかであり、フーシ派がパレスティナ人との連帯と主張して行った数か月にわたる商業船舶に対するフーシ派の攻撃により、世界貿易が混乱している。しかし、紅海を守るために船舶を派遣する国が増えているにもかかわらず、中国は自国の海軍の介入に抵抗している。中国政府が関与に最も積極的に取り組んでいるのは、フーシ派を支援するイランに非公式に介入を迫っているとロイター通信が報じたが、イラン当局者はこの報道を否定した。

北京のアプローチは、ワシントンとは対照的である。ワシントンは、イスラエルの建国以来、長年イスラエルの最も強力な支持者の1人であり、数十億の軍事援助で同国を支援してきただけでなく、パレスティナ紛争が始まって以来、国際舞台でイスラエルの主要な擁護者(primary defender)として行動してきた。国連安全保障理事会(United Nations Security Council)でアメリカの拒否権(veto)を行使し、中国だけでなく、グローバル・サウスの国々を含む数十カ国が支持する停戦を求める決議を阻止してきた。ジョー・バイデン政権は紅海でも行動を起こし、イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、紅海の航行の自由を確保するために国際タスクフォースを動員した。

しかし、ガザでのイスラエルの軍事作戦が壊滅的な人道的被害をもたらしている中、ハマスが運営するガザ保健省によると、イスラエル軍は戦争開始以来、ガザで2万6000人ものパレスティナ人を殺害しているということだ。イスラエルに対するワシントンの揺るぎない支援に、世界の多くの人々はますます不満を募らせ、幻滅している。ガザでは現在、50万人以上の人々が「壊滅的なレベルの深刻な食糧不足(catastrophic levels of acute food insecurity)」に直面しており、統合食糧安全保障段階分類は12月に警告を発している。

そして、中国政府はその分断を利用しようとしている。「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト(China Global South Project)」の共同創設者エリック・オランダーは、次のように述べた。「中国は、分断によって、世界の他の国々の目、彼らが関心を寄せる世界の地域において、アメリカを更に弱体化させることになると感じている。これは、アメリカがいかに孤立しているかを示し、世界と歩調が合っていないことを示し、そしてアメリカの偽善を示すという、中国に対する彼らの戦略にそのまま反映されている。」

オーランダーは、「中国は、自国の外交政策を追求し、アメリカ主導の国際秩序の欠点について彼らが言おうとしている価値観のいくつかを広めるという点で、これをかなり巧みに演じていると考える」と述べた。

この戦略の一環として、中国は自らを平和調停者であると公言し、5項目の和平計画を提案し、イスラエル・パレスチナ和平会議の開催を呼びかけている。2023年10月、北京はカタールとエジプトに地域特使を派遣し、停戦(ceasefire)を促した。それ以来、ガザへの約400万ドルの人道支援(humanitarian aid)を約束し、アラブ・イスラム諸国の閣僚代表団を受け入れ、紛争をめぐるBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)の事実上の首脳会議に参加した。

中国の張軍国連大使は、戦争が始まって1カ月後、安全保障理事会のブリーフィングにおいて、「中国は、敵対行為の停止と平和の回復を促進するために、たゆまぬ努力を続けてきた。中国は引き続き、国際的な公正と正義の側に立ち、国際法の側に立ち、アラブ・イスラム世界の正当な願望の側に立っていく」と述べた。

中国の王毅外相は2024年1月、アフリカの多くの国々を訪問した。その際、イスラエル・ハマス戦争の仲介役の1人であるエジプトへの訪問の機会を利用し、停戦とパレスティナ国家の確立を繰り返し訴えた。

しかし、専門家たちは、北京の行動はほとんどがパフォーマンスであり、具体的な成果はほとんど得られていないと主張している。ヨーロッパ外交問題評議会のマーク・レナードが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘したように、2023年11月のBRICS首脳会議では、共同声明も現実的なロードマップも作成できなかった。ブルッキングス研究所によれば、中国が提案した和平案では、紛争解決の責任は北京ではなく、国連安全保障理事会にあるとしている。

大西洋評議会の非常勤研究員であるアーメド・アブドゥは2023年12月、「中国の外交用語の不明瞭さと、世界第2位の経済力を持っているにも関わらずガザに提供した金額の少なさ」を引き合いに出し、イスラエルとハマスの戦争調停に対する中国の真剣さは「巧妙な欺瞞(smoke and mirrors)」に過ぎないと書いている。

中国政府は紛争に巻き込まれるのではなく、バイデン政権の世界的な信頼性に疑問を投げかける一環として、ワシントンを厳しく追及し、米中両国の間の立場の違い対比させることに重点を置いている。こうした努力は国連安全保障理事会でも全面的に表れており、中国は2023年10月にアメリカの提出した安保理決議案が停戦を求めていないとして批判し、拒否権を発動した。ロシアもこの決議案に拒否権を発動した。

中国の張国連大使は、「アメリカは加盟諸国のコンセンサスを無視した新たな決議案を提出した」と述べた。北京を含む他の理事国が修正案を提案した後でも、ワシントンは彼らの「主要な懸念(major concerns)」を無視し、「善悪を混同(confuses right and wrong)」した決議案を提出したと張国連大使は続けて述べた。

12月下旬、人道的即時停戦(immediate humanitarian ceasefire)を求める安全保障理事会決議案(Security Council draft resolution)にワシントンが拒否権を発動した後、中国は再びその投票を利用して自らをグローバル・サウスと並び称し、ワシントンの立場を際立たせた。張国連大使は、決議案の約100の共同提案者の1人として、中国政府は「草案がアメリカによって拒否権を発動されたことに大きな失望と遺憾の意を感じている。これら全ては、二重基準(double standard)が何であるかを改めて示している」と述べた。

中国国営メディアもこうした意見に同調し、アメリカと中国の立場の相違にさらに注目した。『環球時報』はアメリカの拒否権について、「ガザ住民の安全と人道的ニーズに配慮すると主張しながら、紛争の継続を容認するのは矛盾している。紛争の継続を容認しながら、紛争の波及を阻止することを主張するのは自己欺瞞(self-deceptive)である」と書いている。

さらに最近、北京はイスラエルの行動に対する怒りの最も明確なケースの1つにおいて、グローバル・サウスと協調している。国際司法裁判所(International Court of JusticeICJ)での南アフリカによるイスラエルに対する大量虐殺訴訟がそれである。国際司法裁判所(ICJ)には判決を執行する手段はないが、南アフリカが提起した裁判は、イスラエルに対する国際的な圧力の高まりを反映している。

国際司法裁判所は、イスラエルがガザで大量虐殺を犯しているかどうかという問題についてはまだ判決を下しておらず、おそらくこれから何年も判決を下すことはないままだろうが、先週の金曜日には、イスラエルの軍事作戦の緊急停止を命じるよう裁判所に求めた南アフリカの要求に応えた。国際司法裁判所は判決の中で、イスラエルに対し、ガザの民間人への被害を最小限に抑えるために「あらゆる手段を取る(take all measures)」よう命じた。

この判決が発表された後、中国の国営メディアは、イスラエルのガザでの行動に対して「見て見ぬふりをするのをやめるよう」いくつかの主要国に働きかけることになる((some major countries to stop turning a blind eye))との期待を表明した。これに対してバイデン政権は、プレトリアによる大量虐殺疑惑は「根拠がない(unfounded)」という立場を繰り返したが、国際司法裁判所の判決はイスラエルに市民の安全を確保するよう求めるイスラエルの要求に沿ったものだとも述べた。

中国は長年、グローバル・サウス諸国との政治的・経済的関係を育むことを優先しており、王外相は最近、2024年の最初の外遊をエジプト、チュニジア、トーゴ、コートジボワールを訪問して締めくくった。中国外相が今年最初の世界歴訪の目的地をアフリカにするのは34年連続となる。その後、王外相はブラジルとジャマイカを訪問した。

アトランティック・カウンシルの専門家であるアブドゥは、「中国はイスラエルを、巻き添え被害を与える存在として扱うことにした。中国は、グローバル・ガバナンスと戦略的優先事項のために、これらの国々の支援を求めている」と述べている。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 私はプロゴルフの世界には疎いのだが、PGAツアーとか全米オープン、全英オープンといった言葉は知っている。国際的な機関であるPGAが主催してツアーを開催し、伝統のある有名な大会があるということは分かる。日本ではJPGAがツアー主催し、プロゴルファーの資格認定を行っていることも分かる。こうした中で、サウジアラビアのソヴィリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)が出資してLIVゴルフ・ツアーが2021年に創設された。この新しいゴルフ・ツアーではティーム対抗戦、54ホールの試合(一般的には72ホール)などの新機軸が実施されている。PGALIVツアーに参加した選手のPGAのツアーに参加することを認めていない。そのために、有名選手たちの多くはLIVツアーには参加していない。それでも何人かの有名ゴルファーとの契約に成功した。サウジアラビアがLIVツアーに出資しているのは

 今回はゴルフ界の既存の統括団体に挑戦する新興勢力の挑戦という構図を国際政治に当てはめると、新興勢力が既存の国際機関の内容や機能を変化させようとする、もしくは自分たちで新しい機関を創設するということになる。具体的には中国やロシアが国際機関やルールを自分たちに都合が良いものに変えようという試みだ。しかし、それはなかなかに難しいことだ。既存の機関の方が強く、また、伝統があることから、正当性が担保されていて、中々新しいものが入り込む余地はない。ゴルフの世界で言えば、LIVツアーには、私でも名前を知っているような、タイガー・ウッズやジャック・ニクラウスらの有名ゴルファーは参加していない。それは、LIVツアーに参加すれば、PGAが主催するツアーには出られなくなり、伝統ある有名な全米オープンやマスターズにも出場できなくなるからだ。

 国際政治に目を転じてみれば、ヨーロッパの非公式の列強政治の枠組みが崩壊して第一次世界大戦が起き、その後はヴェルサイユ体制と国際連盟の機能不全によって、第二次世界大戦が勃発した。戦後は米ソ両超大国による冷戦構造の中で、国際連合が作られた。国連常任理事国である米ソ(後に露)英仏中(台湾から本土)の5つが世界の大きな決定を行うということになった。しかし、実態は米ソ二大超大国の二極構造から冷戦終結・ソ連崩壊によるアメリカ一極構造へと変化していった。21世紀に入って、中国が台頭し、既存の秩序に挑戦する形になっている。第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する中で、国際機関の性格が変化する、新たな国際機関が創設されるということはある。そうした大変化の際に、戦争が起きることが多いが、米中対立から戦争へと発展するという可能性は存在する。国際政治の変化に常に目を配っておく必要がある。

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ゴルフの魂のための戦い(The Battle for the Soul of Golf

-サウジアラビアが主催するあるゴルフトーナメントは、中国や他の新興諸国が既存の国際機関を独自のものに置き換えるのに苦労する理由を示している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年8月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/09/liv-tour-saudi-golf-china-soft-power-battle-for-soul-of-golf/

サウジアラビアがスポンサーとなった新しいゴルフ・ツアーであるLIVゴルフ・ツアーは、王国の不安定なパブリックイメージを「スポーツウォッシュ(sportswash)」するための露骨な試みであると言えるかもしれない。この新しい試みは、プロゴルフ界を騒がせたが、最初のイヴェントにはあまり観客が集まらなかった。サウジアラビアがマスターズ・トーナメントと肩を並べることはないかもしれないが、新しい挑戦者が既成の秩序に対抗しようとする際に直面する障害と同様であることは明らかだ。実際、中国が現在の国際機構を中国の意向に沿ったものに置き換えようとする動きも、同じような力によって阻まれているように見える。

スポーツに興味のない人のために説明すると、LIVゴルフ・ツアーは、サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンド(Saudi sovereign wealth fund)が支援する新しいゴルフトーナメントである。LIVゴルフ・ツアーは、多くの有名なプロゴルファーを招待し、スター選手には多額の契約金を支払い、優勝者には多額の賞金を約束し、最下位まで参加者全員に相当な報酬を保証している。これに対し、PGAツアーをはじめとする著名なゴルフ団体(全英オープンを運営するR&A協会を含む)は、LIVツアーに参加する者は既存のツアーイヴェントに参加する資格がないと宣言している。

PGAの決定はいくつかの興味深い法的問題を提起するが、私はLIVツアーが苦しい戦いに直面していると思う理由は次の通りだ。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドからの多額の資金が提供されているが、LIVツアーには何の歴史もない。サウジアラビアのソヴリン・ウエルス・ファンドは、ゴルファーたちが子供の頃から優勝を夢見てきた、そしてファンが毎年楽しみにしている象徴的なトーナメントを後援していない。ゴルフは伝統を重んじるスポーツであり、LIVツアーにはそうしたものが何もない。かつて全米オープンを制したジョン・ラームが言ったように、「何百年も続いているフォーマットで、世界最高峰の選手と対戦したい」ということになる。

LIVツアーの斬新なフォーマット(54ホール対72ホール、カットなし、支払い保証付き)もゴルフの歴史と相反するもので、ファンにとって明白な利点はない。LIVツアーのイヴェントはまた、多少人工的なティーム形式を含むが、この配置がライダーカップのような国際的なティーム競技を取り巻くような激しい関心を生み出すとは想像しにくい。オーガスタナショナルやセントアンドリュースのような有名なコースがないだけで、基本的には同じものだ。既存のPGAツアーは、テレビ放映、多くの企業スポンサー、既存のサテライトツアーや大学のスポーツプログラム、アメリカやその他の地域のゴルフクラブで働くプロの広大なネットワークとの幅広いコネクションを持っている。

新しいゴルフ・ツアーはまた、批判的な視線に悩まされている。サウジアラビアはこの新しいツアーで、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害や911テロ事件を実行したサウジアラビア国民のことを忘れさせたいと考えているが、911テロ事件の遺族や王国の人権記録を懸念する人々は、選手がティーアップする度にこの問題を持ち出すだろう。新しいツアーは、過去の残虐行為を深い砂の罠に隠す代わりに、批評家たちにこれらの問題を前面に押し出す機会を無限に与え、そうでなければ非政治的なゴルファーに、通常は説得力のない話題を避けるか変えようとすることを強いるのである。

新ツアーの大物選手(フィル・ミケルソン、ブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボーなど)が、最も好感の持てる選手という訳ではない。これらの中で最も大物のミケルソンには長年にわたって倫理的な問題があった。もちろん、これらの選手にはファンがいるが、お金をもらって道徳的なディレンマを無視することに決めた傭兵のように見えるのを避けることは不可能である。彼らに道徳心がないとは言わないが(あるいは、既存のツアー参加者が皆、美徳の模範であるとも言わないが)、金が全てであるかのように見えないようにするのは難しいことだ。スポーツは、正当化されようがされまいが、英雄崇拝の上に成り立っているのであって、このような人たちを英雄視することはない。

最後に、プロ・スポーツのリーグは、二大政党制のようなものであることを忘れてはならない。一度(ひとたび)リーグが確立され、ファンの忠誠心が固まってしまうと、競合する存在は参入することが困難になる。アメリカン・バスケットボール・アソシエーション、ユナイテッド・フットボール・リーグ、ワールド・ボクシング・リーグ、ノース・アメリカン・サッカー・リーグは全て数年で崩壊し、最近の話で言えば、ヨーロッパのサッカーの既存の構造をエリート・スーパーリーグに置き換える試みは、ファンの熱烈な反発に直面して崩壊した。ワールドティームテニスのような構想は、テニスプロフェッショナル協会や女子テニス協会のツアー、ウィンブルドンや全米オープンのようなメジャーイヴェントに捧げられる熱意や関心には到底及ばない。アメリカン・フットボール・リーグ(AFL)は、このパターンの例外であるが、1970年にNFLと合併することで生き残った。

それでは、このことは国際政治と、中国とロシアが既存の制度を自分たちの好みに合わせたり、自分たちで設計した制度に置き換えたりする努力と、どのような関係があるだろうか?

LIVのケースは、制度論の重要な前提である「制度は粘着性を持つ傾向がある(Institutions tend to be sticky)」ということを物語っている。一旦確立された既存の組織や制度は、長い間存在することによって、やがて永続的な性格を獲得することができる。ゴルフでは、4大メジャートーナメント(全米オープン、全英オープン、マスターズ・トーナメント、PGAツアー)のいずれかに勝つことが、偉大さを評価する基準になっている。もちろん、これは完全に恣意的な尺度だが、ゴルファーやファンがそれをより深刻に真剣に受け止めていない訳ではない。

長く続いていることは、それ自体の正当性を証明する。アメリカとヨーロッパの同盟諸国が、NATOの大きな記念日を祝うたびに、人類の歴史の中で最も成功した同盟だと賞賛していることを見て欲しい。国連安全保障理事会の構造のように、もはや作られた当時の状況を反映していない制度でさえ、しばしば驚くほど変化や代替が効かないことがある。

過去数十年間、中国とロシアは、リベラルなルールに基づく秩序と呼ばれるものを構成する様々な制度(institutions)やレジーム(regimes)に対する多くの代替案を策定し、あるいは強化しようと試みてきた。上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)のような安全保障パートナーシップ、ロシアのユーラシア経済連合(Eurasian Economic UnionEEU)のような新興の地域組織、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなるいわゆるブリックス(BRICS)諸国の象徴的なサミット、中国のアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment BankAIIB)や「地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership)」など様々な構想がある。中国の「一帯一路構想(Belt and Road Initiative)」も、基本的には二国間の取り決めであり、新たな国際機関ではないが、国際機関の1つに加えてもよいかもしれない。

AIIBをはじめとするこれらの構想は成功を収めているが、世界銀行(World Bank)や国際通貨基金(International Monetary FundIMF)といった既存の機関や、アメリカが当初のTPPTrans-Pacific Partnership)から離脱した後に日本が主導したTPPに取って代わるには至っていない。その理由を理解するのは難しいことではない。これらの制度は今でもそれなりに機能しており、中国や他の国によって作られた代替制度はより良いものであることを示すには至っていない。ドルが世界の基軸通貨として支配を続けていることは既存の金融制度を強化しており、代替通貨が普及することをより難しくしている。

つまりは、既存の仕組みが存続しているのは、その仕組みに参加することが多くの国々の利益につながるからである。アメリカが NATO、世界銀行、世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)といった機関や、ドルの中心的役割、SWIFTといった金融決済システムを、自国の特定の利益を高めるために利用してきたことに疑問の余地はない。他の国々は、より良い代替案が存在しないので、このような取り決めに従わざるを得なかった。

PGAツアーで人気と尊敬を集める有名なプロゴルファーたちがLIVツアーを敬遠するように、ほとんどの主要国は既存の秩序にこだわり、中国が主導する代替策を警戒している。

しかし、中国自身を含む他の国々がしばしばこうした協定から利益を得てきたことも事実であり、他国を犠牲にしてアメリカだけが豊かになるために利用されてきた訳ではない。このような取り決めが崩壊しない限り、あるいは中国が明らかに優位なものを構築できない限り、他の国がこの取り決めを放棄することはないだろう。ちょうど、ほとんどのプロゴルファーが、PGAサーキットでの出場枠が失われるなら、LIVツアーに飛び乗ることはないだろう。

更に言えば、PGAツアーの人気選手であるローリー・マキロイ、タイガー・ウッズ、ジャスティン・トーマス、ラームがLIVツアーを公然と避けているように、ほとんどの経済・軍事主要国は既存の秩序にこだわり、中国主導の代替策を警戒し続けているのだ。

これまで、中国やロシアと手を組んだ国々は、比較的弱いか、特に人気がないかのどちらかであった。もし、あなたが親密なパートナーとして名前を挙げる国が北朝鮮、ベラルーシ、ヴェネズエラ、キューバ、イランといった国々で、デンマーク、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダ、その他のG20の加盟諸国ではないとしたら、あなたは特に印象深いパレードを率いているとは言えないだろう。EUが2021年の主要投資協定の停止を決定したことが示すように、中国の強引な外交や疑問符が付く人権状況によって、他の国も北京に近づき過ぎることを警戒している。

皮肉なことに、中国は既存の国際組織の中で影響力を高めようとする努力の方が成功している。世界のデジタル・インフラの将来に影響を与えるというキャンペーンがその成功を示している。同じ理屈で、サウジアラビアがゴルフで自国のイメージを改善しようとするのも、その巨万の富を利用して、全く新しい選択肢を作ろうと大げさに取り組むのではなく、アメリカ、ヨーロッパ、アジアに既に存在するツアーの中でイヴェントのスポンサーになる方が成功するかもしれない。サウジアラビアが支援するイギリスのサッカークラブ、ニューカッスル・ユナイテッドの成功と、それに対する比較的穏やかな政治的反発は、この戦略がいかにうまく機能するかを示唆している。

だからと言って、LIVツアーが失敗する運命にあるとか、中国が自国のデザインに合わせた一連のグローバルな制度を構築することができないと言っているのではない。PGAツアーが苦境に陥ったり、現在PGAツアーに参加しているゴルファーたちの怒りを買ったりすることがあれば、スポーツの世界観は、たとえそれが古い秩序の伝統を欠いていたとしても、新しい代替手段を受け入れるかもしれない。同様に、ナポレオン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦の後のように、現在のグローバルな制度が完全に崩壊した場合、瓦礫の中から現れた最も強力な国家は、新しい秩序構築のための理想的なポジションにいることだろう。

PGAツアーや現在の秩序に固執する国々が学ぶべき教訓は、自分の家を正常に保つことが優先され、対立構造を積極的に阻止しようとするよりも重要であるということである。そして、理想主義的に聞こえるかもしれないが、一時的にせよ、どちらの例も、道徳的な配慮が重要なアクターの対応を形作ることがあることを思い起こさせる。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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 古村治彦です。

 

 安倍晋三首相の論説が2017年9月17日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説(Opinion)の欄に掲載されました。今回はこの論説をご紹介します。

 

 論説の内容は、北朝鮮の脅威に対して、国際社会が一致協力、連帯して対処しなければならない、制裁を強化し、制裁内容を強制しなければならない、というものです。

 

論説の展開は次のようなものです。①北朝鮮はこれまで国際社会が手を差し伸べてきて、合意をしてきたのに、それらをことごとく無視している。②北朝鮮は幼い少女を含む多くの日本人を拉致してきた。③国連はこれまでにも複数回にわたって制裁決議を可決し、制裁内容も厳しいものであるのに、北朝鮮はミサイル開発、核兵器開発のための物資、資金、技術などを手に入れている。④これは、今でも北朝鮮と交易している国々(主にアジア諸国)があるからだ。⑤日本はアメリカとの強固な同盟関係を確認し、アメリカ、韓国と緊密に協力する。⑥国際社会は連帯して北朝鮮の脅威に対処しなければならない。そのために国連決議の内容の履行を進めねばならない。

 

 「対話を続ける」と中国やロシアの姿勢とは一線を画し、6か国協議の枠組みの参加国のうち、日米韓、と中露を切り離して、日米韓は対話よりも今は制裁の実効を優先するということを主張しています。

 

 「対話を望んでも効果はない、無駄である」「北朝鮮に対話を求めることは、ミサイルや核兵器実験の成功に屈していると北朝鮮に考えさせる可能性が高い」「アジアの国々の中で北朝鮮と交易や労働者受け入れを継続している国々がある(これがミサイルや核兵器開発の資金や物資入手の元手となる)」という文言は中国とロシアに対する強烈な嫌味と批判です。アメリカが言えない分、日本が言わされているという感じです。

 

 この論説の内容は日中戦争時の近衛文麿首相の「国民政府を対手とせず」という「近衛声明」のようなものです。対話や交渉をここまで否定するとなると、どうしようもありません。日本政府が裏できちんと北朝鮮側とつながって話ができて、それで表向きはこのような強い調子の言葉遣いができるのなら良いのですが、そこまでのことができているのか、不安です。日中戦争当時、日中間には複数のチャンネルとなりうる人物たちが存在していましたが、それでも近衛声明の後はコンタクトが難しくなりました。それで日中戦争が泥沼化していくことになりました。日朝間のチャンネルはその時よりも細く、数が少ないものでしょう。それで「安倍声明」を出すことは、問題の解決を遠のかせることになりますし、中国とロシアに不快感を生み出すことにもなり、良いことはありません。

 

 日本は調子に乗って後で痛い目を見るという愚かな行為をまた繰り返すのかと暗澹たる思いになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

安倍晋三:北朝鮮の脅威に対する連帯(Shinzo Abe: Solidarity Against the North Korean Threat

 

安倍晋三筆

2017年9月17日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2017/09/17/opinion/north-korea-shinzo-abe-japan.html?action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=opinion-c-col-left-region&region=opinion-c-col-left-region&WT.nav=opinion-c-col-left-region

 

東京発。北朝鮮は、世界全体に対して、前代未聞の、深刻な、そして差し迫った脅威を与えている。2017年9月3日、北朝鮮政府は非難されるべき核兵器実験を強行した。先週末、北朝鮮は、わが国、日本を飛び越える弾道ミサイルを発射した。そのわずか2週間前にも同様のミサイル発射テストを行った。北朝鮮政府は繰り返しミサイル発射テストを行ったが、これは、国際連合安全保障理事会のこれまでの決議を侵害することになる。北朝鮮は、アメリカとヨーロッパにまで、ミサイルが届くことを証明した。

 

北朝鮮の行動は国際社会に対する明確な挑戦である。2017年9月11日、国際連合安全保障理事会は、新たなより厳格な制裁内容である決議を満場一致で可決した。制裁内容は、国連加盟国に対して、北朝鮮への原油の売却を制限し、北朝鮮の繊維輸出を禁止し、加盟諸国に対して北朝鮮国民の国外労働を許可することを禁止する、というものだ。

 

これらの処置は重要なステップである。しかし、北朝鮮政府指導部はこれまで複数回出された決議を常に無視してきた。国際社会は一致団結して、制裁を実行しなければならない。

 

北東アジア地域においては、北朝鮮の脅威は25年以上にわたり、現実的なものであった。私たちは短距離、中距離ミサイルの脅威、加えて、化学兵器による攻撃の可能性にも直面している。

 

北朝鮮は、多くの無辜の日本国民を多く拉致することで日本を標的としてきた。拉致された人の中には、1977年に拉致された13歳の少女も含まれている。こうした拉致被害者のほとんどは1970年代から1980年代以降、北朝鮮にとどめられている。

 

これらの挑戦に対して、人々はすべからく平和的な解決がなされることを望んでいる。国際的な連帯が最も重要である。現在までのところ、外交を最優先し、会話の重要性を強調することは北朝鮮に対しては効果を上げていない。歴史が示しているところでは、国際社会全体による圧力が必要不可欠である。

 

1990年代初頭、北朝鮮は核拡散防止条約と国際原子力機関からの離脱を発表した。これが最初の警鐘となった。これに対して、日本、アメリカ、韓国は北朝鮮との対話に関与し、北朝鮮の核プログラムの凍結と最終的な廃棄の代償に、2基の軽水炉の建設と重油を提供することに合意した。日本、アメリカ、韓国は、ヨーロッパとアジア各国の協力を仰ぎ、この計画の財政負担のほとんどを担った。

 

私たちは次に何が起きたかを覚えている。重油供給と軽水炉建設が始まって数年後、北朝鮮はウラニウム濃縮プログラムを遂行中であると認めた。これは合意内容違反であった。

 

2002年の終わりまでに、北朝鮮は国際原子力機関の査察官たちを退去させ、2003年には核不拡散条約から公式に脱退した。中国、ロシアに加えて、日本、アメリカ、韓国が北朝鮮と交渉をするために6か国協議を創設した。北朝鮮は、朝鮮半島における検証可能な非核化を行うことに、再び合意した。しかし現実には、北朝鮮は2005年に原子力発電の所有を宣言し、2006年には核兵器実験を実行した。5か国による対話を通じての問題快活の試みは失敗に終わった。

 

簡潔に述べると、国際社会は、北朝鮮の制約に対する「補償」として制裁の緩和と支援を与えてきたが、北朝鮮政府は履行すべき義務のほとんどを無視し放置してきた。

 

これまでの歴史と現在行っているミサイル発射と核兵器実験を考慮すると、北朝鮮との更なる対話は暗礁に乗り上げるという結末に至る可能性が高い。北朝鮮政府は、更なる交渉を、「他国は我が国のミサイル発射と核兵器実験の成功に屈服した」ことの証明と考えることだろう。今こそ北朝鮮に最大の圧力をかけるときである。これ以上の遅延は許されない。

 

50年以上にわたり北朝鮮が冷酷にミサイル開発と核兵器実験を遂行できたのはどうしてだろうか?国連による10年に及ぶ継続的な制裁の下で、北朝鮮が燃料、部品、強力なエンジンを入手できたのはどうしてだろうか?統計数字によると、現在でも北朝鮮との交易を継続している国々が複数存在している。そのほとんどがアジアの国々だ。更に言うならば、こうした国々と北朝鮮との交易は2016年の段階で前年よりも拡大している。国際連合によると、北朝鮮の弾道ミサイルには外国製の部品が使用されているということだ。北朝鮮からの製品やサーヴィスを購入し続け、あるいは労働者を受け入れ続けている国々も存在している。北朝鮮はアジア地域に複数のフロント企業を設立している。これらを通じて北朝鮮は外貨にアクセスしている。

 

日本はアメリカとの鋼鉄のように強力な同盟関係を再確認することで北朝鮮の行為に対応してきた。日本はアメリカ、韓国と緊密に協力してきた。私は「全てのオプションはテーブル上にある」とするアメリカの立場を強力に支持するものである。

 

最新の核兵器実験への対応として、私は2017年9月11日の国連安保理決議2375号の即時かつ全会一致の可決を訴えた。その内容は北朝鮮に対する更に厳しい制裁を科すものだ。しかし、私は、これらの制裁の可決を単純に独りよがりで喜んでばかりいてはいけないと強調したい。北朝鮮がミサイルと核兵器開発プログラムに必要な物品、技術、資金、人材を手にすることを防ぐために、制裁内容の徹底した強制を行わねばならない。

 

北朝鮮は私たちが生きる世界に対して、深刻な脅威を与え、挑戦してきている。北朝鮮はこれまでの行為によって国際的な核不拡散体制は無視している。私たちは、北朝鮮に対して、挑発行為を止めさせ、核兵器と弾道ミサイル開発を放棄させ、拉致被害者を帰国させるようにしなければならない。それも可及的に速やかに。

 

国際社会における連帯、協力して努力すること、国連の効果的役割がこれまで以上に必要不可欠になっている。

 

※安倍晋三:日本国首相

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12







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 古村治彦です。

 

 先日、国連安保理でイスラエルの、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区における入植地拡大に対する非難決議が採択されました。この種のイスラエル非難決議に対しては、アメリカが拒否権を発動して採択にまで至らないのが通常なのですが、今回は、アメリカは賛成、反対を表明しない棄権を選択し、賛成14、棄権1で採択されました。

 

 アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国は国連安全保障理事会(U.N. Security Council)の常任理事国(permanent members)で、決議案などを可決できないようにする拒否権(veto)を持っています。残り10カ国は非常任理事国(non-permanent members)で任期付の持ち回りで、私の記憶では、日本は最多の回数と年数理事を務めていると思います。

 

 今回、オバマ政権のサマンサ・パワー米国連大使(サマンサ-・パワーについては、拙著『アメリカ政治の秘密』をご参照ください)は拒否権を発動せず、ホワイトハウスもそれを支持したことで、オバマ政権になって初めて、イスラエル非難決議が採択されました。イスラエルはこれに対して非難を行っていますが、オバマ大統領とネタニヤフ首相との間が冷え切っているために、イスラエル側は、ドナルド・トランプ次期大統領の政権移行ティームに働きかけて、オバマ政権に拒否権発動をさせようとしたということです。

 

 トランプ自身もツイッターを使って、拒否権発動を求めましたが、オバマ政権はこれを拒絶することを意味する棄権を選択しました。トランプは自分が大統領になったら国連自体も変えてやるとツイートしています。

 

 トランプの女婿ジャレッド・クシュナーはユダヤ系アメリカ人で、クシュナーと結婚したトランプの娘イヴァンカはユダヤ教に改宗しています。トランプはイスラエル大使として、自身の弁護士も務めたデイヴィッド・フリードマンを指名し、現在、テルアヴィヴにある駐イスラエル米国大使館をエルサレムに移転させると述べています。

 

 イスラエルとすれば、任期が残り1カ月を切ったオバマ政権に最後に大きな置き土産を残された形になりますが、もうすでにトランプ大統領就任、始動に向けて、政権移行ティームに接触して、トランプを通じてアメリカ政治を動かそうとしています。『アトランティック』誌のある記事では、「2人の大統領がいる」と書いていました。

 

 トランプ政権は、対イスラエル政策ではオバマ政権とは全く別の方向性を取ることになりそうです。これが、中東和平を遠のかせ、イスラエルとパレスチナの二国共存という解決を遠のかせてしまうことになるでしょう。しかし、歴代の各政権が二国共存を進めることはできず、イスラエルとの関係が冷え切ったオバマ政権は全く動かすことすらできませんでした。そう考えると別のアプローチから何か新しいものが生まれることを期待するべきでしょう。

 

 

(貼り付けはじめ)

 

国連安保理でのイスラエル入植非難の決議採決でアメリカが棄権(U.S. Abstains From U.N. Vote Condemning Israeli Settlements

 

コラム・リンチ、ロビー・グラマー、エミリー・タムキン

2016年12月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/12/23/u-s-abstains-from-u-n-vote-condemning-israeli-settlements/

 

金曜日、国連安保理はヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区におけるイスラエルの入植活動を不法と宣言し、拡大を停止するように求める決議を採択したが、オバマ政権はそれに対して傍観(黙認)する姿勢を取った。これは、ドナルド・トランプ次期大統領が決議案に反対票を投じるようにと求めたツイッターを通じたアピールに対するオバマ政権からの手厳しい拒絶となった。

 

決議案の採決は賛成票が14票で、棄権したのはアメリカだけであった。この採決の前、アメリカの次期大統領が、現職の大統領を揺さぶって決定を変化させようと外交上の争いに直接関わろうとした。これはアメリカの外交にとって異例の日となった。トランプは採決の後に国連とオバマ政権を激しく非難した。トランプは金曜日に行われた採決の後、ツイッター上で、「2017年1月20日以降、全く別のことが起きるだろう。これは国連に対しても同様だ」と発言した。

 

今回の棄権は、オバマ政権が阻止に動かず、安保理がイスラエルを非難するに任せた初めてのケースとなった。採決の後にサマンサ・パワー米国連大使は、棄権の正当性を主張し、レーガン政権まで遡り歴代の共和党、民主党の政権の諸政策と今回の棄権を同一のラインにあると主張した。

 

パワーは採決の後、安保理の場で次のように発言した。「1967年にイスラエルが占領した領域におけるイスラエルの入植活動はイスラエルの安全保障を損なう行為であり、高尚による二国共存という解決の可能性を著しく低下させ、平和と安全の見込みを失わせるものだ」。

 

オバマ大統領のホワイトハウスは、入植によって二国共存という解決の可能性が低下する危険があると強調した。戦略的コミュニケーション担当国家安全保障担当大統領副補佐官ベン・ローズは、記者たちとの電話による質疑応答の中で、「イスラエルによる入植活動が促進されることで、二国共存という解決の可能性は危険に晒される。良心に基づいた判断に従い、決議案に拒否権を発動できなかった」と発言した。

 

決議案はパレスチナ国家が起草し、エジプトによって「提案」され、共同提案者としてマレーシア、ニュージーランド、セネガル、ヴェネズエラが名前を連ねた。決議案では、イスラエルに対して、「パレスチナの土地における全ての入植を即座にかつ完全に停止する」ことを求めていた。そして、「入植行為は二国共存による和平の可能性を著しく損なう」とも述べている。決議は更に「東エルサレムを含むイスラエル入植地の建設は、法的な正当性を持たず、国際法に対する紛れもない違反である」とも述べている。

 

決議はイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相に対する厳しい一撃となった。ネタニヤフは安保理内の唯一のアラブ世界からのメンバーであるエジプトに大きな圧力をかけて決議案採決の日程を木曜日にまで遅らせようとした。そして、ネタニヤフの側近がトランプの政権移行ティームに接触し、オバマ政権に拒否権発動をさせるように求めた。

 

イスラエルの国連大使ダニー・ダノンは「今日は安保理にとって暗黒の日となった。採決が行われた決議は偽善の最たるものだ」と発言した。ダノンは更に、決議案に賛成することは、安保理が進歩と故障に反対票を投じすることだとも主張した。また、今回の決議は、「国連の反イスラエル決議の長くそして恥ずべきリストに新たな1つが加えられたことになる」とも主張した。

 

ダノンは次のように発言した。「あなた方はユダヤ人がイスラエルの土地に、そして私たちの歴史的な首都エルサレムに故郷を建設することを非難する投票を行った。エルサレムは、ユダヤ人の心であり、魂なのだ。あなた方はパリにおいてフランス人が建設を行うことを禁止するのか?モスクワでロシア人が建設することを禁止するのか?ワシントンでアメリカ人が建設することも?」ダノンは安保理においてイスラエルはこれからも民主国家であり、ユダヤ人国家であり続けると断言した。

 

パレスチナ国家派遣国連常任オヴザーバーであるリヤド・マンスールは、今回のことが、パレスチナ・イスラエル、アラブ・イスラエルの和平に向けたプロセスのスタートとなることを希望すると述べた。マンスールは安保理に出席し、「法律と歴史の正しい側面によって、事態が進行することを望む」と述べた。

 

トランプはアメリカ政府に対して決議案に拒否権を発動するように求めた。これは、彼が来年1月に大統領に就任してから対イスラエル政策を劇的に変化させるという公約の一環である。トランプはアメリカ大使館をテルアヴィヴからエルサレムに移転すると述べ、イスラエル大使に、批判の多い強硬派デイヴィッド・フリードマンを指名した。

 

トランプは木曜日、「アメリカがこれまで長年にわたり主張してきたとおり、イスラエルとパレスチナとの間の和平は両者の直接交渉によってのみもたらされることになるだろう。国連による条件の強制では決して達成されない」と発言した。

 

2011年2月、オバマ政権は国連安保理で、イスラエルの入植政策が中東地域の和平努力を不法に阻害するものであるいう非難決議の採択を防ぐために初めて拒否権を発動した。当時の米国連大使スーザン・ライスは、アメリカの拒否権発動は、「正当な行為」ではないと考えられているイスラエルの入植を擁護するものと認識されるべきではないと発言した。 しかし同時に、ライスは、安保理理事国15のうち14が支持した決議案について、「両者の立場を硬化」させ、パレスチナ国家建国の可能性を損なう危険を伴うとも発言した。

 

それから5年が経過して、任期を終えようとしているオバマ政権は計算を明確に変えている。もしくは、イスラエルとの冷え切った関係のためにこれまでの態度を変えることになったとも言えるかもしれない。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22



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