古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発直後、ほぼ同じ日に書かれた論稿をご紹介する。昨年末からウクライナ国境にロシア軍が集結していたこともあり、この論稿は戦争勃発のかなり前から準備されていたものだろうと思う。また、ロシアとウクライナの戦争についてはシミュレーションがなされていて、それをそのまま論稿にしたのだろうとも思われる。この論稿を書いたセス・クロプセイは元海軍士官で、海軍次官補を務めた人物である。軍事の専門家で、恐らく作戦の担当でもあったであろう人物だろう。アメリカがどのようなシミュレーションをしていたのかを知るのに便利な論稿である。そのシミュレーションは次の通りである。

(1)ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、バルト海諸国に師団級の戦闘部隊を迅速に前方展開(ハンガリーが入っていない)、即応部隊であるアメリカ第18空挺団の派遣。

(2)NATO諸国はウクライナ国内における補給拠点の確保(リヴィウ)、旅団レベルの限定的な部隊と航空および情報支援を準備。

(3)NATO諸国によるはロシア対する大規模なサイバー対応(攻撃、ルーマニアに展開するアメリカ空軍と陸軍の電子戦(electronic warfareEW)部隊の作戦実行。

(4)アメリカ海軍の大規模な水上艦艇演習の実施、オホーツク海やバレンツ海に潜入しての秘密作戦。

(5)アメリカ軍による東地中海に誘導弾潜水艦の配備。

(6)、アメリカ軍による戦略爆撃機を中央ヨーロッパに前方展開

 アメリカ軍は戦略爆撃機、誘導弾潜水艦、水上艦艇、即応地上部隊をバルト海から黒海に至る地域に派遣するということだ。アメリカがこれらを派遣しただけで、ロシアが「こりゃどうも失礼しました」とウクライナから撤退するということはないというのは誰でも分かることだろう。ウクライナ侵攻の決断とは、そう言ったことも考慮しての決断である。こういった措置を行うのは戦争が勃発する前までは有効であろうが、それ以降はウクライナ戦争を停めるには有効ではない。ウクライナ以外のNATO加盟諸国を防衛する意思を示すということにはなる。

 現状ではウクライナ戦争は膠着し(落ち着き)、アメリカは大規模な資金援助と武器・物資援助を行っている。アメリカ・ウクライナ連合軍対ロシア軍という様相になりつつある。ヨーロッパ諸国は自分たちでは実質的に何もしないで、アメリカに守ってもらいながら、口先だけで威勢の良いことを言っている。それもだんだん元気がなくなっている。皆、戦争にうんざりなのだ。私は早い段階、特にウクライナがキエフ防衛を成功した時点で、有利な条件で停戦をすべきとこのブログで書いてきた。しかし、あの時に勢いづいた「正義派」の声は大きくどうしようもなかった。あの正義派の人々は現状をどう思っているのか。拳をどうおろそうかと迷っているならまだ良い方で、「あれそんなことありました?」とでも思っているなら救いようがない。

(貼り付けはじめ)

プーティン対西側世界:ウクライナを支援しより拡大した戦争に備えるための6つのステップ(Putin vs. the West: Six steps to help Ukraine and prepare for a wider war

セス・セス・クロプセイ筆

2022年2月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/595686-putin-vs-the-west-six-steps-to-help-ukraine-and-prepare-for-a-wider/

ウラジミール・プーティンによるウクライナに対するいわれのない攻撃は、80年にわたるアメリカの外交・安全保障政策の対象であった国際秩序の独立と主権を脅かすものである。崩壊した国際秩序は、世界中の同盟諸国やパートナーの安全保障、航行の自由、人権、自由な企業活動を危険にさらす。この紛争は、アメリカにとって直接的な関心事である。

本日正午の時点で、ウクライナにおける戦術状況は流動的である。しかし、ロシア軍はドンバスで「接触線(Line of Contact)」を越え、オデッサやマリウポリに上陸し、ハリコフ付近でロシア・ウクライナ国境を越えた模様である。更に、ロシアは民間・軍事インフラに対する事前攻撃を相次いで行っており、ドニプロ、キエフなどでの爆発が報告されている。

今後数時間、ロシアの空爆が続くだろう。ハリコフが攻撃され、残酷な市街戦が展開されるだろう。マリウポリに対するロシアの水陸両用攻撃は、ドンバスからの地上攻撃と、クリミアからの空からの攻撃と相まって行われる可能性が高い。ロシアのオデッサへの攻撃は、その意図の広範さを示している。今後数日のうちに、プーティンはキエフへの攻撃を命ずるかもしれない。

バイデン大統領は、NATOの同盟諸国とともに、ウクライナの防衛のために地上軍を投入しないことを決めてから長いが、ウクライナ人だけがウクライナを防衛することになるだろう。NATOの制裁措置は、ロシア経済がもともと脆弱であることと、経済的圧力が明らかに協調的であることから、影響を与えるだろう。しかし、制裁が効果を発揮するまでには時間がかかり、行動と罰の間に時差が生じる。抑止力は、特にロシアのような核保有国にとっては、紛争が始まれば終わりというものではないことを覚えておく必要がある。西側諸国は、大西洋同盟の領土の安全を確保し、ロシアの軍事的利益を制限し、必要であれば反エスカレーションに備えるために行動しなければならないのである。

更に言えば、ロシアの明らかに最大主義的な領土目標を考えると、抑止力は極めて重要である。昨日行われたプーティンの演説は、ほぼ間違いなく事前に録音されたもので、ウクライナ側が要請した国連安保理での会合と重なった。プーティンはウクライナを占領する計画を否定し、その代わりに非武装化を希望している。これは政治的な二枚舌(dobule-speak)である。ウクライナを非軍事化するには、キエフの独立した選挙で選ばれた政府を倒し、友好的な政権を樹立するしかない。加えて、プーティンは、介入を望むいかなる勢力に対しても、厳しく、即座に結果を出すと明確に脅した。プーティンが何をもって「介入(intervention)」と見なすかは分からないが、大西洋同盟は、軍事的な動きや援助の提供でさえ、ロシアの反応を誘発しかねないことを考慮しなければならない。

従って、西側諸国は、この危機がエスカレートする中で同盟諸国の利益と安全を確保し、将来のエスカレーションを抑止するために、6つのステップを踏む必要がある。

第一段階として、アメリカと同盟諸国は、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、バルト海に師団級の戦闘部隊を迅速に前方展開しなければならない。NATOにとって最大のリスクは、ロシアの水平方向の拡大、すなわちバルト海や黒海での攻勢である。ロシアの地上軍はウクライナ国境に圧倒的に集中しており、バルト海への即時攻勢の可能性は限定的である。しかし、ロシア海軍は黒海と東地中海に、複数の水上戦闘部隊、巡航ミサイルと防空システムを装備した少なくとも6隻の潜水艦を配備し、強力なプレゼンスを確立している。

即応部隊であるアメリカ第18空挺団が最も合理的な配備部隊である。これと並行して、防空と地表発射型対地・対艦ミサイルを優先的に配備する必要がある。さらに、アメリカは地中海のロシア海軍部隊に対抗し、軍艦を派遣し、潜水艦を追跡し、防空網を構築すべきだ。これらは、ロシアの現在の作戦能力を混乱させるとともに、NATOの同盟諸国に対するロシアの水平的なエスカレーションのコストを引き上げることになる。

第二段階として、NATOはウクライナに補給しようとする部隊に対するロシアの嫌がらせに備えるべきである。アメリカ大使館がリヴィウに移転し、必要であれば第二の首都として使用される可能性が高いことから、最も可能性の高い中継地点はリヴィウである。地上部隊は今のところ問題外だが、アメリカは展開する人員の引き抜きに備えなければならない。この作戦のために、旅団レベルの限定的な部隊と航空および情報支援を準備する必要がある。

第三段階として、もしまだ実行していないのであれば、NATOはロシアの侵攻に対して大規模なサイバー対応を実行すべきである。ロシアは、銀行、政府サイト、緊急サービスなどの重要な公共インフラに対するサイバー作戦を標準的な作戦としている。ロシアが水平方向にエスカレートしない限り、これは正当化されないだろう。しかし、それ以前に、アメリカはロシアの国家機関やロシア軍に対してサイバーや電子的な圧力をエスカレートさせることを検討すべきだ。ルーマニアに展開するアメリカ空軍と陸軍の電子戦(electronic warfareEW)部隊は、特に空挺部隊の場合、ロシアの通信を妨害し、ロシアの航空作戦を混乱させることができる。アメリカのサイバー司令部は、ロストフとウクライナの間のロシアの通信を妨害し、必要であれば社会全体に攻撃を拡大することができる。

第四段階として、アメリカ海軍は大規模な水上艦艇演習を通じて公に、またオホーツク海やバレンツ海に潜入して密かに、ロシア海軍基地の近くで活動することである。これらの基地は、ロシアの海軍戦略にとって極めて重要である。ロシアに必要な第二撃の保険を提供するのである。冷戦時代、ロシアが最も恐れていたのは、アメリカの先制攻撃を促すような核のアンバランスであった。このような恐怖がプーティンを突き動かすのである。これらのロシア海軍基地に圧力をかけることは、プーティンがNATO加盟諸国を攻撃することを決めた場合、アメリカは長期的な紛争に備える用意があることをクレムリンに伝えることになる。

第五段階として、アメリカ海軍は東地中海に誘導弾潜水艦を配備することである。オハイオ級SSGNは156発の巡航ミサイルを搭載しており、ロシアの複数の標的を無警告で攻撃するのに十分な兵装である。1月にキプロス付近に配備されたUSSジョージアは、その場所に戻して待機させるべきである。

第六段階として、アメリカ空軍はバルト海や黒海でのスタンドオフ攻撃に備え、あるいはロシアがエスカレートした場合に信頼できる追加の核抑止力を提供するため、戦略爆撃機を中央ヨーロッパに前方展開することを検討すべきである。これと並行して、アメリカ海軍はヨーロッパの抑止パトロールに参加する潜水艦の数を増やすべきであるが、この事実はロシアに知られることがないように公表する必要はない。

プーティンは戦争をしている。彼は私たちと戦争をすることはないだろうが、彼は今戦争をしている。ロシアの様々な行動に対するいかなる対応も、それが将来のエスカレートを抑制することに失敗すれば、それはアメリカと同盟諸国、パートナー諸国の安全保障にリスクとなる。

※セス・クロプセイ:ワシントンDCにあるシンクタンク「ヨークタウン研究所」創設者兼所長。元海軍士官で米海軍次官補を務めた。

(貼り付けおっわり)

(終わり)
※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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