古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:外交政策

 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。

 アメリカの外交政策思想には大きく2つの流れがある。それがリアリズム(Realism)と介入主義(Interventionism)だ。アメリカの二大政党である民主党、共和党にそれぞれ、リアリズムを信奉するグループが存在する。介入主義は、民主党では、人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)を信奉する人道的介入主義派となり、共和党ではネオコンサヴァティヴィズム(Neoconservatism)を信奉するネオコン派となる。ネオコン派は、ジョージ・W・ブッシュ(子)大統領時代に日本でも知られるようになった。
 介入主義とは、外国に積極的に介入して、外国の体制を全く別のものに転換しようというものだ。ネオコン派の考えは、「アメリカの価値観である、自由主義や人権、民主政治体制(デモクラシー)、資本主義を世界に広めて、世界中の国々を民主体制の自由主義的資本主義国ばかりにすれば、世界は平和になる」というものだ。そのために、アメリカは自身の卓越した力を利用しなければならないし、これに反対する勢力は打ち破るということになる。民主党の人道的介入主義派は、「世界の非民主的な国々では、マイノリティの女性や少数民族、政敵少数者たちが迫害され、命の危険に晒されている。そうした人々を助けるために、アメリカは人道的に外国に介入しなければならない」というものだ。結果として、ネオコン派と同じく、非民主的な国の体制転換(regime change)がなされねばならないということになる。

 リアリズムは、アメリカの力には限界があり、アメリカの力で世界の全ての国を民主体制の国家にすることはできない。ある国の問題はそこの国の国民の解決すべき問題である(災害などの人道支援は行うのは当然だが)。そして、アメリカの重大な国益が侵害されそうな場合を除いて、外国に対して積極的に介入すべきではない、ということになる。下の論文でスティーヴン・M・ウォルトが「抑制(restraint)」と書いているのはまさにこれである。これらのことについては最初の著作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)に詳しく書いているので是非お読みいただきたい。

 アメリカはこれまで介入主義的な外交政策を実施し、その多くが失敗してきた。結果として、「アメリカ国内問題解決を優先していこう」という公約を掲げた、ドナルド・トランプが大統領に当選した。こうした考えを「アイソレイショニズム(Isolationism)」という。アメリカは超大国であることに疲れ、超大国であり続けるための国力を失っている。そのために、これからは「抑制的」、つまり、リアリズム外交に転換していくことになる。そして、次の世界覇権国は中国である。中国は、覇権交代の歴史を研究し、覇権国は永続的な存在ではなく、いつか、ボロボロになってその座から滑り落ちていくということを分かっているだろう。しかし、中国が覇権国にならねば世界は治まらないということになる。そうした時代の転換点に差し掛かっている。

(貼り付けはじめ)

抑制的なアメリカ外交政策に転換するのに遅すぎることはない(It’s Not Too Late for Restrained U.S. Foreign Policy

-アメリカのグローバル・リーダーシップの復活を求める声が大きくなっている。しかし、それはこれまでと同様に、大きな間違いである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/14/united-states-realism-restraint-great-power-strategy/

冷戦期間中、アメリカがより控えめな、あるいは抑制的な外交政策を採用するように求める提案は、外交政策エスタブリッシュメント内部で大きな支持を集めることはなかった。確かに、ハンス・モーゲンソー、ジョージ・ケナン、ケネス・ウォルツ、ウォルター・リップマンなどの著名なリアリストたち(Realists)は、アメリカの外交政策における最悪の行き過ぎを厳しく批判していた。連邦政府を縮小しようとしてきたリバータリアンたちもまた、アメリカの海外関与を減少させようとしたが、ソヴィエト共産主義を打ち負かしたいという超党派の願望から、そうした提案は外交政策の外交政策に関する言説の片隅にとどまった。抑制(restraint)や縮小(retrenchment)を求める声は、その後の「一極集中の時代(unipolar moment)」においても同様に歓迎されなかった。アメリカのエリートたちは、歴史の潮流が自分たちの方に流れていると信じ、アメリカの比類ないパワーの慈悲深い腕の下で、全世界を平和で豊かな自由主義秩序(peaceful and prosperous liberal order)に導こうとしたのである。

しかし、この傲慢さが増大した時期がもたらした失敗が積み重なるにつれ、より現実的で賢明な外交政策を求める声が無視できないほどに大きくなった。2014年にマサチューセッツ工科大学(MIT)教授バリー・ポーゼンが『抑制:アメリカの大戦略にとっての新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』を出版した。この著作は、他の学者(私自身を含む)による関連著作とともに、重要なマイルストーンとなった。2016年のドナルド・トランプの当選も現実的な外交政策を求める声の高まりに貢献した。トランプの大統領としての行動は、抑制派の提言とはかけ離れたものであったが、アメリカの外交政策を形成する中心的な正統派の多くに対する彼の修辞的な攻撃と、外交政策エスタブリッシュメントに対する明らかな軽蔑は、これらの問題についてよりオープンな議論を行うための空間を作り出した。2019年に「クインシー国家戦略研究所」が創設され、クインシー研究所、「ディフェンス・プライオリティズ」、スティムソンセンターのアメリカ大戦略研究プログラム、カーネギー財団のアメリカ政治研究プログラムでの関連イニシアティヴも、抑制を目指す動きが勢いを増していることを示す追加的な兆候であった。(完全情報公開:私はクインシー研究所の設立以来、非常勤研究員を務めており、昨年から理事会のメンバーに加わった)。

抑制を目指す動きが軌道に乗りつつあることを示す兆候の1つに、アメリカのグローバル・リーダーシップに対する拡大的な考え方や、ほころびつつある自由主義秩序を守りたいという願望に固執する批判者たちからの攻撃があった。こうした攻撃は通常、抑制派が提言していることを誤って伝え、しばしば彼らを「アイソレイショニスト(isolationists)」と誤って描いていた。こうした批評の中には自分たちの立場を有利にしようと誘導的なものもあった。それは、抑制派が提唱する考え方が大きな支持を集め、やがてはアメリカの対外アプローチに大きな変化をもたらすのではないかと、主流派が懸念し始めていることを示唆していた。

それは昔のことで、今は今である。イラク戦争やアフガニスタン戦争の後で、抑制という考え方は否定できない魅力を持っていたが、現在では大国間の対立が最重要課題となっている。中国のパワーは経済的苦境にもかかわらずなお拡大を続けており、アジアの現状を変えたいという欲望は衰えていない。ロシアはウクライナに侵攻し、現在ウクライナを支配している。中国、ロシア、イラン、北朝鮮、その他数カ国による協力体制が強化され、ヨーロッパの防衛力再構築に向けた取り組みは、多くの人が期待していたよりもゆっくりと進んでいる。ガザでは残忍な殺戮が進行中であり、戦争が拡大するリスクは依然として受け入れがたいほどに高い。スーダン、リビア、エチオピア、その他のアフリカ諸国では、内戦とジハード運動が人々の生活を破壊し続けている。1990年代の傲慢さは消え去ったかもしれないが、大国間の紛争は考えられないという信念も同時に消え去った。

これらの状況全てを踏まえても、リアリズムと抑制に基づく外交政策には意味があるのだろうか? アメリカ人は今こそ、深く掘り下げ、再びグローバル・リーダーシップの外套を手に取り、「地政学的ハードランディング」を回避するために奔走すべき時なのだろうか? 抑制の時期は過ぎ去ったのか?

その答えは「ノー」だ。

まずは抑制を目指す動きが何を望んでいるのかを明確にすることから始めよう。何よりも抑制派は、アメリカの極めて重要な利益が関与しない、不必要な「選択の戦争(wars of choice)」を戦うことに反対している。彼らは平和主義者でもアイソレイショニストでもない。彼らは強力な国防を信じている。そして彼らは、状況によってはアメリカが海外で武力行使を厭うことがないようにすべきだと認識している。抑制派は、アメリカは世界から撤退する代わりに、他国で貿易や投資を行うべきであり、他国にも同様の行動を奨励し、排外主義(xenophobia)に駆られて壁を築くのではなく移民を管理された形で受け入れるべきだと考えている。実際、抑制派はアメリカが今よりも積極的かつ効果的に外国に関与すべきであり、外交を第一に考え、武力行使をワシントンの最初の衝動(first impulse)ではなく最後の手段(last resort)とするべきだと考えている。それは何故か? なぜなら、抑制派は軍事力の限界を理解しているからだ。軍事力は場合によっては必要かもしれないが、それは常に多くの予期せぬ結果を生み出す粗雑な手段である。また、重要な利益が関与せず、成功を定義するのが難しい場合、戦争に対する国民の支持を維持することは困難である。特に抑制派は、体制転換(regime change)や軍事占領(military occupation)を行って、自由主義的な価値観を広めようとすることに反対している。なぜなら、そのような取り組みは通常、代償として、深刻な事態の泥沼化(quagmires)や破綻国家(failed states)の出現を招くのが通常からである。

現実的に考えると、抑制派のほとんどは、アメリカは中東から軍事的に手を引き、その地域の全ての国々と通常の関係を持つべきだと考えている。彼らは、NATOの同盟諸国が自国の防衛により大きな責任を負うよう、ワシントンが奨励すべきだと考えている。しかし、共和党のJD・ヴァンス連邦上院議員のようなトランプ大統領気取りとは異なり、抑制派の多くは、外交的解決に向けた献身的かつ柔軟な努力と組み合わせたウクライナへの援助継続を支持している。中国に対する最善の対応策については、抑制派にも賛否両論があり、より強力な封じ込め(containment)の努力を支持する者もいれば、緊張を緩和し、互恵的な妥協点を追求する必要性を強調する者もいる。しかし、アメリカは依然として海外に過剰に関与しており、根本的な政治問題を解決できない軍事的解決策に過度に依存しがちであるという点ではこれらの人々の意見は一致している。

この見解は、10年以上前と同様に、今日でも当てはまる。思い出してみて欲しい。アメリカが現在取り組んでいる問題の多くは、以前の抑制派の警告に耳を傾けていれば、完全に回避できたかもしれないものばかりだ。アメリカが開放的なNATO拡大を強く推し進め、ウクライナを西側の軌道に乗せ、最終的にはNATOに加盟させなければ、ロシアによる2014年のクリミア併合と2022年2月の不法侵攻はおそらく起こらなかっただろう。実際、バイデン政権がロシアの攻撃に先立つ数カ月間にもっと柔軟性を示していれば、2022年春にトルコとイスラエルの調停努力(mediation efforts)をもっと支持していれば、あるいはその秋にウクライナが優勢だった時期に停戦を推進していれば、ロシアとウクライナはまったく戦争をしていなかったかもしれないし、ウクライナがこれほどの損害を被る前に戦争は終結していたかもしれない。もちろん、確かなことを知ることは不可能だが、アメリカ政府関係者たちは、ウクライナが現在負けている戦争を回避するためにできたかもしれないことを全てやった訳ではないことは明らかだ。

中東での出来事も同様の教訓を与えてくれる。ドナルド・トランプ政権もジョー・バイデン政権も、イスラエルとアラブ近隣諸国との関係を正常化しようとすることに重点を置きながら、右傾化するイスラエル政府から圧力を受けつつあったパレスチナを完全に無視した。抑制派が警告したように、この近視眼的なアプローチは暴発の引き金となり、2023年10月7日の悲劇的な結果を招いたのは間違いない。

ガザにおけるイスラエルの猛攻撃によって、3万人以上のパレスチナ人が殺害され、ガザにある建物の50%から60%を破壊または損害を与え、イスラエルの世界的イメージを(アメリカとともに)大きく損なわせる結果となった。イスラエルは大規模な軍事的優位性を持ち、それを全面的に行使しているが、力だけでは、パレスチナとの対立を継続させている政治的な相違を解決することはできない。ハマスが軍事行動で壊滅することはないだろうし、イスラエルのユダヤ人とパレスチナのアラブ人の正当な願望を受け入れ、両者が安全な生活を送れるようにするにはどうすればいいのかという根本的な問題は、解決されないままである。同じことが、紅海の海運に対するフーシ派による攻撃を、爆弾を落としたりミサイルを撃ったりして止めようとするアメリカの努力にも言える。ガザ地区での停戦を実毛するために影響力を行使するということよりもまずは爆弾を落とすということを英米は選択した。これらの例は、複雑な政治問題は何かを爆破すれば解決できると考える反射的な傾向を示している。このような傾向に対して、抑制派は長年にわたり反対してきている。

抑制派はまた、アメリカのパワーは相当に大きいものデルが、無尽蔵ではないことも認識している。大国間競争(great-power competition)の時代には、明確な優先順位を設定し、主目的が互いに矛盾しないようにすることがこれまで以上に重要である。今日、アメリカはウクライナでロシアを打ち負かすウクライナを支援し、人的被害が出ているが、ハマス一掃を目指すイスラエルの努力を支援し、世界トップクラスの半導体技術やその他のデジタル技術を開発しようとする中国の努力を永久に無力化しようとしている。これは抑制されたアジェンダとは言い難く、その矛盾は自明であると同時に自滅的である。ユーラシアの二大国(中国とロシア)を互いに翻弄する代わりに、私たちは数十年かけて彼らに協力する理由を与えてきた。ロシアを孤立させ、グローバル・サウス(Global South)における中国の影響力を制限する代わりに、イスラエルのガザでの作戦を支援したことで、「ルールに基づく秩序(rule-based order)」の偽善が浮き彫りになり、中国に安っぽいプロパガンダの勝利をもたらした。ジョー・バイデン米大統領が包括的共同行動計画に再参加しなかったことは、イランに核開発を再開させ、さまざまな地域の代理人への支援を強化させ、更にはウクライナにおけるロシアの取り組みを積極的に軍事支援させたという点で、誤ったアジェンダに含まれることになるだろう。

最後に、抑制の擁護者たちは、過剰な軍事的関与と「永遠の戦争(forever wars)」がアメリカ本国を衰弱させる効果を持つことについて長い間警告してきた。過度に野心的な外交政策への支持を維持するため、アメリカの指導者たちは、志願兵だけで構成される軍隊に頼るようになり、それによって有権者の大半をその決定の結果から隔離するようになった。アメリカ陸軍士官学校附属現代戦争研究所によれば、その理由の1つは、アメリカ人が「一世代の軍人が、際限のない戦争に何度も何度も派兵されるのを目の当たりにしたから」だという。アメリカの歴代大統領たちは、増税の代わりに借金をしたり、脅威を膨らませたり、アメリカ国民に何をしているのか一部隠したりすることで、こうした活動のコストを隠してきた。しかし、こうした秘密の活動の一部がやがて明らかになると、公的機関への信頼はさらに損なわれている。建国の父たちが理解していたように、常に戦争状態にある共和国は、その共和国としての性格を危険に晒すことになる。今日のアメリカの民主政治体制が脆弱な状態にあるのは、非現実的でうまくいっていない外交政策が一因であり、それを是正しようと抑制派は努力している。

いかなる外交政策ドクトリンも完璧ではない。抑制という考え方も例外ではなく、その擁護者たちは、新たな情報の出現や新たな出来事の発生に応じて、自らの立場を見直す姿勢を持ち続けるべきである。しかし、今のところ、抑制を支持する意見は、特にワシントン中枢でいまだに支配的な代替案と比較すれば、大いに説得力を持っている。そして、現在の状況をもたらした政策をさらに推進することは、まったく意味をなさないし、効果もないのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回は、スティーヴン・M・ウォルト教授の提言をご紹介する。具体的には、国際関係学部で何を教えるべきかという内容だ。国際関係論(International Relations)は、政治学(Political Science)の一分野であるが、日本でも段々と増えているように、一つの学部や大学院を形成するほどになっている。それは学生たちから人気ということもあるし、その人気は外交分野や外交政策分野、国際貢献分野などが華やかに見えるからだ。

 アメリカでも国際関係の大学院を出た人材がそれらの分野で活躍している。しかし、ウォルト教授はそれではなぜ外交政策で失敗をしてしまうのかということを問題提起している。そしてその答えとして人材を供給する側である国際関係学部や大学院の教育が適切ではない、不十分だからではないか、ということを提起している。

歴史的に見て外交政策が意向を担ってきた人物たちの多くは、東部エスタブリッシュメントと呼ばれるエリートたちであり、彼らは国際関係論の教育ではなく、歴史学や経済学を学び、銀行業界やその他の産業分野で活躍した後に、重責を担うことになっていたと指摘している。

 ウォルト教授は、「残念ながら、大学院は多くの学生にとって、自らの世界観を見つめ直し、既成概念に疑問を投げかける唯一の機会であり、キャリアアップに必要な知的資本を構築する最後のチャンスとなることが多い。国際関係学部は、既存の機械のためによく訓練された歯車を作るのではなく、従来の常識に疑問を投げかけることにもっと注意を払うべきだということだ。結局のところ、独立した幅広い研究が大学の比較優位であり、だからこそ多額の基金が有用であり、終身在職権が貴重な制度であり続ける」と書いている。

 ウォルト教授は、現実と理論を結び付け、経済学や歴史学の知識を持ち、戦略を立てるために全体像(big picture)を掴む力を養い、主流派の考えに対して迎合するのではなく、常に疑問を持ち続けることができるようにする、ということを提案している。これは、国際関係分野だけでなく、あらゆる分野にとって必要なことではないかと思う。しかし、言うは易し、行うは難し、である。

(貼り付けはじめ)

アメリカ国内の国際関係学部は壊れている(America’s IR Schools Are Broken

-表面上は数多くの革新が起きているが、腐敗が深く進行している。腐敗をいかに直すか

スティーヴン・M・ウォルト筆

2018年2月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/02/20/americans-ir-schools-are-broken-international-relations-foreign-policy/

現在が国際問題について学ぶのに最適な時期であることを否定する人はいないだろう。各社会がこれまでにないほどの多様な方法でつながっている。各国は競争しかつ協力し、共存しながら協力し、大企業、社会運動組織、犯罪組織、その他の社会的な存在となっている組織体と競争し続けている。かつて疑う余地のなかった制度や正統派の考えが今、包囲網の中に置かれている状態になっている。私たちが何十年も前から知っている世界秩序は根本的に変わりつつある可能性が高い。大国間政治(great power politics)が(一時期中断していたが)復活し、力の均衡(バランス・オブ・パワー、balance of power)が大きく変化し、政治と国際経済の複雑な相互作用が年々明らかになりつつある。そして、地球は温暖化を続けており、今後数十年の間に広範囲にわたって、悪影響を及ぼすことが予想される。こうしたことを考えると、なぜ多くの若者がこのテーマに興味を持つのか、容易に理解できるだろう。

しかし、投入される資金が増え、教室が熱心な学生でいっぱいになったとしても、公共政策や国際問題について教える私たちには満足することはない。それはなぜか?なぜなら、私たちが精いっぱいできる限りの仕事をしているとはとても思えないからだ。

刺激を受けた、もしくは刺激を受けつつある学生たちをたくさん集め、彼らのその後の成果を誇らしげに指摘することができるかもしれない。しかし、そうであっても、過去50年間の国際問題専門教育の発展が、一貫してより良い外交政策の遂行を促し、より良い結果を生み出しているようには思えない。私は、このような失敗の全てを国際関係大学院のせいにしているわけではないが、自分たちが考えているほどには、国際関係大学院は役に立っていないのではないか?

アメリカにおける外交政策立案はかつて外交評議会(CFR)のような組織と、ジョージ・ケナン、ディーン・アチソン、ジョン・マクロイなど第二次世界大戦後の秩序構築で重要な役割を果たした「賢人たち(wise men)」が具現化していた古い「東部エスタブリッシュメント(Eastern Establishment)」に独占されていた。彼らはほぼ例外なく、国際問題に関して大学院教育を受けていなかった。ジョージ・ケナンは歴史学で学士号を取得し大学を卒業してすぐに外交の世界に入った。 しかし、概して、彼らの業績は非常に印象的なものだ。

しかし、アメリカの世界における役割が増大する中で、外交政策策定にはより特化した専門性が必要となっていった。I・M・デスラー、レスリー・ゲルブ、アンソニー・レイクといった人々は、「1960年代には、アメリカの外交政策分野の指導者層の構造に革命的な変化が起きた」と指摘している。権力は、古い東側エスタブリッシュメント(old Eastern Establishment)から、新しいプロフェッショナル・エリート(new Professional Elite)、つまり、政府運営に参加するために自分の専門職を離れる銀行員や弁護士たちから、外交政策の専門家たちにほとんど気づかないうちに権力が移っていた。

このような専門的知識の拡大は、東部エスタブリッシュメントに所属する人々たちだけによる「古臭い守旧的な(old guard)」体制から大きく改善され、より知的で成功した政策決定を生み出すと考える人もいるだろう。アメリカの外交政策は、主に経済界から選ばれたエリート集団に頼るのではなく、経済、軍事、歴史、外交、地域研究などの専門的訓練を受けた、より多様な経歴や背景を持つ専門家集団によって担われることになるのである。理論的に言えば、このような十分な知識を持った専門家の間で競合する意見がぶつかり合うことで、より活発な議論が行われ、それによって政策選択の多くの選択肢が事前に吟味され、大きな失敗をする可能性は低くなる。そして、万が一、間違いが生じた場合(必然的にそうなるのだが)、このよく訓練され、高度に専門化した政策共同体は、その間違いを素早く認識し、適切に軌道修正することができるだろうということになる。

残念ながら、規律正しい専門職カースト(disciplined professional caste)という魅力的なイメージは、現代の外交政策共同体の現実を完全に描写しているわけではない。現代の外交政策共同体は、そして、専門家の専門知識が大幅に拡大しても、それがより賢明で効果的な政策に確実に反映されるとは思われない。外交政策共同体は、戦術、立場、地位をめぐって絶えず内紛が起きているにもかかわらず、合意と一致が行われている場所だ。そして、専門家たちの専門知識の膨大な拡大は、より賢明で効果的な政策に確実に反映されるとは思えない。

なぜそうなるのだろうか?

明白な問題は、「国際問題」の遂行は実は専門職ではなく、むしろ政治的な職業であることであることだ。外交政策に影響力を持つ指導者たちは、専門知識だけではなく、思想信条、評判、人脈、政治的忠誠心などで選ばれる。「外交政策」を遂行するのに、司法試験(bar exam)に相当する試験に合格する必要はないし、心臓外科医のように専門家集団から認定を受ける必要もない。確かに、シンクタンクや政府機関で働く人の中には、関連する分野でかなり高度な訓練を受けている人もたくさんいるが、高度な訓練を全く受けずにトップに上り詰めた人もたくさんいるのである。ドナルド・トランプ大統領の上級補佐官で、義理の息子であるジャレッド・クシュナーは、影響力のあるポストの唯一の資格が娘の配偶者であり、レックス・ティラーソン国務長官でさえ、土木工学の学士号しか持っていないことを考えてみて欲しい。バラク・オバマ前大統領の国家安全保障問題担当大統領次席補佐官ベン・ローズは、政治学の学士号とクリエイティブ・ライティングの美術修士号を持つ小説家志望だった(たしかに、スピーチライターとしては悪くない資格ではある)。そして、ロナルド・レーガン元大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官、ウィリアム・クラークを忘れてはならない。彼は大学を卒業していないのだ(訳者註:大学に入学し卒業していないが、法科大学院に合格できる入試の点数を叩き出し、法科大学院に進学し、司法試験にも合格している)。

重要なのは、これらの人々がそれでは外交政策において無能であったかということそうではなくて、国際問題についての本格的な専門的訓練を受けていないにもかかわらず、並外れた外交政策上の責任を負ったということである。少なくともアメリカでは、国際問題やその関連分野の上級学位を取得していることが望ましいかもしれないが、それが外交政策上のトップの仕事に就くための必要な前提条件であるとまでは言い難い。

第二のより深刻な理由は、高度な訓練は成功の保証にはならないということである。外交政策の運営は複雑で困難な作業であり、特に野心的な大国にとっては、頭が良く、勤勉で、教養のある人々でさえ、大失敗をする可能性がある。ジョージ・W・ブッシュの外交政策を担当した「ヴァルカンたち(Vulcans)」は、輝かしい経歴を持ち(数人は権威ある大学から博士号を授与されている)、しかし彼らのアメリカ外交の管理運営はほとんど大失敗だった。同様に、オバマ大統領の下でも多くの賢明な高学歴者たちが働いていたが、2009年にアフガニスタンで誤った判断を下し、リビアとウクライナでも大きくつまずいた。

もちろん、無知を肯定しているわけではないし、公務員がもっと無知であったほうがいいとも言っていない。それどころか、国際関係の高度な訓練を受けた何千人もの人々が、その結果、政府、企業、あるいは非営利団体でより効果的に仕事をしていることは、100%間違いないだろう。しかし、国際関係学部は、そのようなポジションに就くための準備として、もっと良い仕事ができるはずだ。プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール(公共国際問題学校)で5年、ハーヴァード大学ケネディ・スクール(公共政策大学院)で18年、国際関係大学院で私の職業人生の大半を過ごした経験から、この経験を改善するための5つの方法を提案したい。

(1)理論と政策をつなぐ。読者の中には既にご存知の方もいるだろうが、私は、理論が政策の分析と政策の実行にとって必要不可欠だと考えている。世界は複雑極まるものだ。そして、世界は無限に複雑であり、それを理解し、何が最も重要かを見極め、政策決定の結果を予測するためには、単純な因果関係の見取り図が必要である。理論がなければ、現状から推定する(extrapolate)のが精一杯で、その方法がうまくいくことはほとんどない。また、悪い理論(例えば、重商主義、マルクス・レーニン主義、ドミノ理論など)に強くこだわると、大変な苦労をすることになる。政策立案者たちは「象牙の塔の理論家たち(ivory tower theoreticians)」と揶揄することがあるが、実際には誰もが自分の周りで起こっていることを理解するために何らかの粗雑な理論を使っており、理論を徹底的に学ぶことは、批判的能力と「全体像(big picture)」を見る能力を養う上で非常に貴重である。

残念ながら、現実主義(realism)や自由主義(liberalism)のような大理論も、同盟、強制、制裁などを扱う中理論も、既存のどの理論も完全には妥当ではない。そのため、支持者の間で果てしない論争が起こり、国際関係理論は全く価値がないという誤った結論に至る者もいるほどである。更に、理論を政策に結びつけ、それがどのように政策の選択を照らし出し、明らかにするかを示すことは簡単ではない。私は15年以上にわたって、理論と政策を結びつける授業を担当してきた。この授業は学生たちに好評だが、まだ一部しか成功していないように思われる。これからの指導者たちに必要なシンプルな分析ツールや批判的思考力(critical thinking)を身につけるために、より良い方法を模索し続けている。

(2)より有益な経済学を教える。国際経済を研究する経済学者たちは、専門的な正典や理論、規範を教えるのがとてもうまい。それは、また、国際金融の基本原則である比較優位説(theory of comparative advantage)であり、それに基づいた文献の数は増えている。一部の重要な例外を除いて(私が言うのもなんだが、ここケネディ・スクールの私の同僚も何人かいる)、国際金融秩序の実際の仕組みを教えるのはそれほど得意ではない。(SWIFTの仕組みはどうなっているのか?多国間貿易交渉では実際に何が起こっているのか?)また、公共政策大学院では、経済と政治の関連性を探り、それぞれが他方にどのような影響を与えるかを学生に理解させることがあまり得意ではない。私の同僚であるダニ・ロドリックは後者の問題について素晴らしい研究をしている。しかし、私が感じたのは、国際関係学部で教える経済学の多くは、優れた経済学の学部課程で学ぶような高度なミクロとマクロのコースをあまり超えていないのではないかということだ。もちろん、そのような知識も価値がないわけではないが、国際関係学部は、経済学部の同僚に対して印象を良くすることにこだわらなければ、もっとうまくいくはずだ。

(3)歴史を教える。更に深刻な欠点は、歴史学の軽視である。外交史や国際関係史は、ほとんどの歴史学部で苦境に立たされており、国際関係学部がどのようにその状況を打開しているかを観察するのは興味深いことである。(フランク・ギャビンが最近ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院教授に就任したことはその一例であり、私が在籍するケネディ・スクールでもフレッド・ロゲヴァル、アルネ・ウェスタッド、モシク・テムキンの存在がある) 。この傾向には明白な理由がある。国際的な重要問題で、それを生み出した歴史的プロセスを知らずに、解決はおろか、理解できるものはほとんどない。ウクライナ、クリミア、そしてロシアの歴史を知らずして、ウクライナ危機を理解し、ロシアのプーティン大統領の行動を理解することはできるだろうか?アメリカとイラン、あるいはイスラエルとパレスチナの複雑な関係が、時間とともにどのように発展してきたかを知らずに、誰が現状を把握できるだろうか?韓国と日本がなぜ仲が悪いのか、不思議に思ったことはないだろうか?彼らの歴史を知らなければ、見当もつかないだろう。同じ出来事を経験した社会でありながら、その歴史は大きく異なる。

歴史は単に名前や日付の集合体ではなく、競合し、重なり合いながらも、異なる物語であることを理解する必要がある。過去は公然と姿を現すのではなく、様々な歴史家や社会全体によって解釈され、議論され、構築されるものだ。そこには、国際問題に携わる全ての人が心に刻むべき重大な教訓がある。異なる人々、異なる国々が同じように過去を見ることはなく、したがって現在の問題を同じように見ることはない。しかし、このような別の見解が存在することを理解し、対処しなければならないかもしれない人々の物事の見方が異なることを認識することは重要な洞察力である。これは「政治的に正しい」とか「文化的に敏感である」ということではなく、もしある人のゴールが誰かを説得することであるなら、相手がどこから来て、どんな誤解を克服する必要があるかを知ることが不可欠であることを認識することが重要だ。

つまり、政策を学ぶ学生たちが本格的な歴史教育を受ければ、国際情勢における政策立案は大きく改善される。公共政策大学院は歴史学者を数人採用したかもしれないが、経済学やその他の分析手法と同じように、歴史学や歴史的手法のコースが必須科目の一部になっているのだろうか?理論研究と同様、歴史教育は、証拠を選別し、計量し、評価する方法を学ぶことが重要だ。これは、フェイクニュースや国家によるプロパガンダがいたるところに存在するこの時代に、これまで以上に必要とされるスキルだ。歴史をきちんと勉強した学生は、文章も上手に書けるし、デタラメも見抜けるし、今日の問題がどうして起こったのか、よりよく理解することができる。分からないことがあっても、それを調べる方法を知っている。このような訓練は奇跡を起こさないかもしれないが、害はなく、ほぼ間違いなく役に立つだろう。

(4)全ての人が「戦略」について語るが、誰も戦略を改善するためには何もしない。政府関係者に向けられる苦情で最も多いのは、「明確な戦略がない(they lack a clear strategy)」というものだろう。私自身、何度もこのような指摘をしたことがあるが、そのほとんどは正当なものであったと思っている。私も何度もこのような指摘をしたし、今でもそのほとんどは正当化されると思っている。しかし、公平に見て、国際問題を教える私たちは、学生に戦略的な思考方法をあまりうまく教えることができてこなかった。イェール大学が誇る大戦略プログラム(歴史の役割を強調している)でさえ、現実の国のために首尾一貫した戦略を構築するためのツールを提供するよりも、学生の指導者気取りを満足させるためには良い仕事をしていたのかもしれない。

今日のアメリカで「大戦略」と呼ばれるものは、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の二期目の就任演説のような空虚で非歴史的な大げさなものか、法律で国家安全保障戦略の公式発表を強制されたホワイトハウス職員が並べた鳴り物入り宣言のリスト(「我々はXし、Yし、Zし、勝利に導くだろう」)かのどちらかである。このような取り組みに通常欠けているのは、重要な利益(なぜそれが重要なのかの説明を含む)の明確な表明と、他の関連アクターの起こりうる反応を予期した、その利益を促進するための具体的プログラムである。戦略とは手段と目的を結びつけることであり、国際問題においては、手段の選択とその展開、正当化の方法は、他の関連プレーヤーがどのように反応するかという予想に左右されるものだ。軍隊の指揮官は「敵にも投票権がある」という言い方を好むが、同盟国や中立国、その他、邪魔になったり助けたりするような反応をする人たちも同じである。そして、優れた大戦略は包括的でなければならない。つまり、ある問題領域や地域での行動が、他の場所でやろうとしていることにどう影響するかを考えなければならないのである。

言い換えると、戦略的に考えるには、「全体像」を把握し、アクター、トレンド、問題がどのように組み合わされているかを明確にすることが必要なのだ。何が重要で、異なる行動が他者にどのような影響を及ぼすかを明らかにする、明確で正確な世界像がなければ、世界を舞台に効果的な行動を取ることなど想像もつかない。そのためには、歴史(ポイント3で指摘)に基づき、検証された理論(ポイント1で指摘)が必要だ。

(5)適合のための保温器なのか?しかし、今日の国際問題専門学部の最大の限界は、少なくともここアメリカにおいては、「リベラル・ヘゲモニー(liberal hegemony)」と「アメリカのリーダーシップ(U.S. leadership)」の必要性という陳腐な超党派的コンセンサスを強化する傾向があることだろう。これらの国際問題専門学部の学部長や教授陣には、外交政策分野を代表する人物が名を連ねており、そのほとんどがアメリカの力を広く行使することに強いこだわりを持ち続けている。当然のことながら、これらの教育機関の教授陣は、政策志向の学者や元政府高官で占められており、長年にわたってアメリカの外交政策を支えてきた中心的な前提に疑問を投げかけることはまずない人々である。

もちろん、このような傾向は完全に理にかなっており、いくつかの明らかな長所もある。国際関係学部には、世界に対する好奇心、具体的な政策課題への関心、そしてほとんどの場合、世界をより良い場所にしたいという熱意を持った学生が集まってくる。これらの教育機関で教える教員の多くも、同じような表現が当てはまる。そして、現実の世界に関心を持ち、将来就きたい職業に就いている本物の経験者たちから学ぶことは、学生にとって良いことであることは間違いない。

しかし、そこにはコストが付きまとう。学術機関が理想とすること、つまり、現代の問題を独立した立場で批判的に見つめ、何がうまくいき、何が失敗し、どうすればもっとうまくいくかを考えようとするのではなく、政策の世界と密接に結びついていたいという欲求から、ほとんどの国際関係学部は必然的におなじみの主流派の合意に引きずられることになる。確かに、特定の政策課題(例えば、シリアに介入すべきか否か)については鋭い意見の相違が見られることもあるが、長年にわたってアメリカの外交政策に影響を与えてきた、より根本的な正統派に疑問を呈する者はほとんどいない。

残念ながら、大学院は多くの学生にとって、自らの世界観を見つめ直し、既成概念に疑問を投げかける唯一の機会であり、キャリアアップに必要な知的資本を構築する最後のチャンスとなることが多い。国際関係学部は、既存の機械のためによく訓練された歯車を作るのではなく、従来の常識に疑問を投げかけることにもっと注意を払うべきだということだ。結局のところ、独立した幅広い研究が大学の比較優位であり、だからこそ多額の基金が有用であり、終身在職権が貴重な制度であり続ける。

これが意味するところは、外交政策分野のポジションを目指す人は、国際関係大学院に行かず、法科大学院(ロースクール)や経営大学院(ビジネススクール)に行くべきだということだろうか?そんなことはない。むしろ、さまざまなプログラムをよく見て、知的な多様性を提供してくれるところを探すべきだ。大学院生たちは、教授や講師たちからだけでなく、学生同士からも多くのことを学ぶので、学生の多様性を含む他の種類の多様性も重要だ。特に卒業後の就職に有利になるような基本的なスキルを身につけたいと考えるものだが、同時に、たとえ最初の信念が正しかったとしても、先入観にとらわれないようにしたいとも思うものだ。異なる考えを持つ教授たちの話を聞いて、どの考え方が正しいのか、自分で考える機会を持ちたいものだ。つまり、大学院での経験は、単に立派な履歴書や技術的スキルを持った人間ではなく、より幅広く、より良い情報を持った、より自信のある思想家にしてくれることが重要なのだ。そして、それこそが、これらの大学院が目指すべきものなのだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 古い記事で恐縮だが、オバマ・バイデン政権における外交政策と安全保障政策は失敗だったとする記事をご紹介する、記事の著者はトランプ支持者であり、バイデンに対して徹底的に批判的だ。その骨子は次の通りだ。「(1)バイデンは上院議員時代に中国のWTO加盟を推進し、中国の経済成長を促し、結果としてアメリカの失業を増やした。(2)上院議員時代にアフガニスタン戦争とイラク戦争に賛成票を投じた。両戦争での米軍の戦死者数7037名、負傷者数5万3117名、浪費された戦費6兆4000億ドル(約704兆円)となった。(3)オバマ・バイデン政権時代にテロリスト組織の数は増加し活動は活発化した。(4)ロシアのクリミア併合を発生させた。(5)リビアで誤った政策(カダフィ大佐の追い落としと殺害)を行ったことでアメリカ外交官が殺害され、リビアは党勢の取れない破綻国家となった。(6)イスラム国の勢いを止められなかった。(7)中国のサイバー上での窃盗行為を許し、盗まれた情報が対アメリカ攻撃に使われた」。

 記事の著者の主張に対しては全ての点で同意できないが、オバマ・バイデン政権の8年間の分析内容はなるほどと思わせるものがある。バイデンはこうした批判もあって、対中、対ロシア強硬姿勢を取っているのだろうと思う。弱腰だと批判されて、今度はその反対の強硬姿勢を取るというのは、馬鹿がやることである。本当に頭が良くて、慎重な人間は常に最悪を想定して、そうしたことにならないように、中間的かつ現実的な態度を取る。

(貼り付けはじめ)

アメリカは、オバマ・バイデン路線の外交政策に戻る準備ができているか?(Is America ready to return to the Obama-Biden foreign policy?

フレッド・ゲドリッチ筆

2020年10月23日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/522480-is-america-ready-to-return-to-the-obama-biden-foreign-policy

ジョー・バイデンは連邦上院議員と副大統領として、44年もの間、アメリカ政治に関わってきた。この間、バイデンは外交政策と国家安全保障の分野で多くの仕事をしてきた。連邦上院議員として行った複数の重要な採決での投票と副大統領としての仕事ぶりを精査すれば、バイデンが大統領になることに心から賛成するということはできない。賛成するどころではない。バイデンの仕事を調べれば、彼の投票と決断によって、アメリカ経済、アメリカの国家安全保障、国際的な平和と安全には悪影響が及ぼされたのではないかという深刻な疑問がいくつも出てくる。

2008年、民主党大統領選挙候補者バラク・オバマは、バイデン連邦上院議員(デラウェア州選出、民主党)を副大統領候補に選んだ。オバマは、この時点で36年にわたり連邦上院議員を務めていたバイデンを、外交政策についてトップクラスの権威である考えた。確かに、バイデンは12年にわたり、連邦上院外交委員会の幹部委員そして委員長を務めていた。オバマ政権の8年間、オバマ大統領はバイデン副大統領を、重要な安全保障にかかわる諸問題のほとんどで最高責任者に指名した。

アメリカ国民の多くは、オバマとバイデンが、ジョージ・W・ブッシュ政権とブッシュ政権を疲弊させたアフガニスタンとイラクでの戦争から、変化をもたらすだろう、この変化は好ましものとなるだろうと確信していた。オバマとバイデンは、世界の解決困難な諸問題の解決のために、国連や他の国際機関の利用を更に進める意向を示した。

オバマ政権で国防長官を務めたロバート・ゲイツは、バイデンの安全保障問題での判断について深刻な疑問をいくつも提示した。2014年にゲイツは『責務:戦時の長官として(Duty: Memoirs of a Secretary at War)』を出版した。その中で、ゲイツは「この4年間、彼(バイデン)はほぼすべての外交政策と国家安全保障問題で間違いを犯してきたし、現在もまた犯している」と書いている。

2000年、バイデンは、中国との貿易関係を正常化し、2001年の世界貿易機関への中国の加盟を促すというクリントン大統領の政策を支持し、それらに賛成票を投じた。中国の経済成長によって、約6万のアメリカの工場が閉鎖となった。

経済政策研究所(The Economic Policy Institute)は これらの決定によって、アメリカの370万件の雇用が失われ、それらのほとんど製造業部門における雇用だったと報告している。

2001年と2002年、バイデンはアフガニスタン戦争とイラク戦争に対して賛成票を投じた。この両戦争によってアメリカ軍将兵は7037名が戦死し、5万3117名が負傷した。2001年9月11日の同時多発テロ後の複数の戦争によって、アメリカの納税者の納めた税金6兆4000億ドル(約704兆円)が浪費された。アフガニスタン戦争でのアメリカ軍の死傷者の84%(2万3113名の内の1万9350名)はオバマ・バイデン政権の時期に発生した。一方、イラク戦争でのアメリカ軍の死傷者の95%(3万7041名の内の3万5182名)はブッシュ・チェイニー政権の時期に発生した。トランプ・ペンス政権では、全死傷者数の1%が発生した。同時多発事件以降の戦争で約80万の戦闘員と非戦闘員が亡くなった。約6000万人が居住地から立ち退かねばならなかった。アフガニスタン戦争とイラク戦争の初期段階では、アメリカ国民の多くは支持していたが、やがて人々は両戦争に疲れてしまった。

オバマ・バイデン政権の8年間の後に世界はどのようになったか?

経済学研究所と平和研究所の平和指数が示しているは、全体像としての評価である。平和指数によると、世界全体の平和はここ10年の間で減退し、テロリズムの発生はこれまでで最も高い程度になっており、ここ25年の中で戦闘において死亡した人の数は高くなっている。難民の総数はここ60年の中で最も高くなっている。

米国務省の報告書によると、2009年にオバマ、バイデンが政権の座に就いて以降、外国のテロリスト組織の数は34%増加している。そのうちの75%はイスラム教徒が国民の大多数を占める国々で活動を行っている。

フリーダム・ハウスの報告書によると、2016年の段階で、10年連続で、世界の自由度が下がっている。そして、報道の自由度は12年の間で最も低い程度になっている。世界に住む73億人のうち、40%だけが自由な生活を送っており、13%のみが報道の自由の中で生きているということになる。

オバマ政権の国家情報長官だったジェイムズ・クラッパーは、2016年のアメリカ諜報分野国際規模危機アセスメントでの報告の中で、世界の状況は深刻さを増しているということを認めた。

●オバマ・バイデン政権による外交政策上の重要な厄災は何であったか?

オバマ・バイデン政権は対ロシア政策を変更したが(2009年から2014年までの時期)、それは逆効果であった。2014年にロシアはウクライナからクリミアを奪い、自国に併合した。また、2015年にシリア内戦が発生し、ロシアはシリア国内でロシア軍の空軍基地と海軍基地を獲得する長期にわたる合意を取り付けることに成功した。

オバマ政権はリビア国内で誤った冒険的な政策を行った。それは厄災となった。ベンガジでは4名のアメリカの外交官が殺害され、リビアは破綻国家(failed state)となった。イラクから状況が落ち着く前に、早過ぎる米軍の撤退を行ったために、イラク国内に安全保障上の空白を生み出してしまい、結果としてイスラム国テロリスト・グループを拡大させ、2011年からはイラクとシリア国内において国土の獲得と人々へのテロ行為を許すことになってしまった。

2013年にマンディアント者が発表した報告書はオバマ政権の中国に対する弱腰によって、アメリカの宇宙、エネルギー、衛星、テレコミュニケーション関連技術が盗み出され、そうした情報を、経済、軍事、政治の各分野における妨害活動や戦争に利用されてしまっている、と指摘している。十分な安全対策を施すことに失敗したために、中国のハッカーたちは2015年にアメリカ合衆国人事局の複数のコンピューターに侵入し、2200万人以上のアメリカ人の個人データにアクセスすることに成功した。

トランプ大統領は任期の4年間、「アメリカ・ファースト」路線の外交政策を推進してきた。トランプ政権は、中国のサイバー上の窃盗と不公正な貿易方法に対峙した。また、ロシアからの攻撃から守るために東欧の同盟諸国との関係を強化し、ロシアの不履行を利用にして中距離核戦力全廃条約の一時停止を行った。イランとの核合意を放棄し、イラン革命防衛隊のテロリストたちの指導者を殺害した。イスラム国のカリフを殺害し、テロリストの指導者も殺害した。アラブの二カ国とイスラエルとの間の和平という、歴史的な中東における和平合意の実現に向けて動き出した。また、アフガニスタンとイラクからほぼ全ての米軍の将兵を撤退させるプロセスを開始した。

ジョー・バイデンはアメリカ国民に対して、オバマ政権のグローバリスト的外交政策に戻ることを示している。これらの政策の結果は、自由の後退、テロリズムの激化、終わりのない戦争、数万に及ぶアメリカ国内の工場の閉鎖、数百万人のアメリカ国民の失業ということになった。アメリカ国民がこれらの諸政策に戻りたいかどうかを決めるのは有権者次第ということになる。

フレッド・ゲドリッチ(Fred Gedrich)は外交政策と国家安全保障のアナリストであり、米国務省と米国防総省に勤務した経験を持つ。

(貼り付け終わり)
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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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  古村治彦です。

 

 今回は、外交政策の世界で使われる常套句の裏の意味についての記事をご紹介します。堅苦しくない記事ですので、気楽にお読みいただければと思います。

 

=====

 

ワシントンの住人のように外交政策を語るには(How to Speak Foreign Policy Like a Beltway Native

―「地上軍の派遣」から「ご尽力に感謝します」まで、ワシントンでよく使われる外交政策の言い回しを翻訳してみる

 

ローザ・ブルックス(Rosa Brooks)筆

2015年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/07/10/how-to-speak-foreign-policy-like-a-beltway-native/?utm_content=buffer4b643&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 夏がやって来た。ビーチでリラックスし、色々と考えてみる時だ。そこで、あなたが二度と使うべきではない言い回しについて考えてみるというのはどうだろう?

 

 私は国家安全保障や外交政策の専門家たち数十人に、彼らが好む(もしくはもっとも好まない)言い回しや表現を挙げてもらった。そして、それらの本当の意味を翻訳してもらった。これらの言い回しや表現は各種文書によく使われているが、より意味のある言葉に置き換えられるべきだが、そうなってはいない。これらの言葉は意味を明確にするよりも、曖昧にするようにできている。これらの言い回しや表現は私たちの語彙から除外されるべきだ。

 

ここからは、彼らが挙げてくれた表現とその翻訳(本音)を掲載していく。読者の皆さんには、コメント欄にお好きな言葉を書いてこのリストを豊かにして欲しい。

 

「恐怖に対する戦争」「テロリズムに対する戦争」

・翻訳:「私たちは彼らが何者なのか知らないし、彼らの動機も分からない。しかし、彼らのことは大嫌いだということははっきりしている」

 

「我々にとっての重要な国益が脅威にさらされている」

・翻訳:「私は何が脅威にさらされているのかをはっきりさせることはできないが、何かをやるためには理由が必要なんだ」

 

「私たちは所有しているすべての手段を使用する必要がある」

・翻訳:「これは本当に骨の折れる仕事になるだろう。恐らく完結することはできないだろう」(これとよく似た表現:国力が許す全ての手段→これもまた使うべきではない)

 

「この問題については、政府全体の努力が必要だ」

・翻訳:「この問題の解決には奇跡が起きねばならない。私たちの力ではどうしようもない」。この翻訳の前には「これは他の誰かに任せるべきだ」とつく。

 

「こうした前進は微妙ですぐに逆戻りしてしまう」

・翻訳:「もしそうした前進がきれいさっぱり消えてしまっても、俺を責めるなよ」

 

「軍隊を投入しての解決はない」

・翻訳:「えっ、軍隊を投入してそれがうまくいくと思っていたの?」

 

「私たちは歴史の正しい面にいる」

・翻訳:「そこまで考えてくれて、ありがとう」

 

「地上軍は出さない」

翻訳:「破壊力抜群だが、効果の薄い空爆を行うようにしよう。そうすれば特殊部隊や“軍事顧問”を戦闘地域に派遣しなくて済む。しかし、彼らが本当にそこにいないということを皆で装いましょうよ」

 

「私たちはこの問題の解決を地元のパートナーによって、もしくは一緒に行う」

・翻訳:「地上軍は派遣しない」

 

「穏健派(シリア人、スンニ派などなど)」

・翻訳:「彼らは私たちと協力することにやぶさかではないだろう。彼らは中東にいる人々のような恐ろしい人たちではない」

 

「民兵」

・翻訳:「私たちは彼らが何者なのか知らないが、何か怪しく見えるから、彼らを殺しても良いんだ」

 

「思想間の戦争だ」

・翻訳:「私の会社に、不格好な、下手な翻訳をされたリーフレットとニュースストーリーを出すためのお金をください。これらを配れば外国の人たちをイライラさせるでしょう。私たちは語り口を確立しなくてはいけない」

 

「ここから変化していく」

・翻訳:「何も起きない。誰もそれが何を意味するか知らない」

 

「これからの6カ月が重要になる」

・翻訳:「これまで何の進展もなかった」

 

IS、アルカイーダ、タリバンなどは、驚くべき程の復元力を持つことを証明した敵対勢力だ」

・翻訳:「私たちの計算は間違っていた」

 

「これは受け入れがたい」

・翻訳:「そうだな、どうでもいいや」

 

「私たちはこれを許さない」

・翻訳:「不快なことを言いますけどね、心配しないで。私たちは何もしないから」

 

「ここが重要な分裂線(レッドライン)だ」

・翻訳:「私はレッドラインとは言っていない。私は、“あの立派なアカマツを見てごらんよ”と言ったのだ」

 

「前進させる、私たちは事態を次のレヴェルに進めるだろう」

・翻訳:「私たちは失敗が続くのを何とか止めようとしている」

 

「私たちは指導力と決意を示すことになる」

・翻訳:「私たちは指導力と決意についてもっと語ることになる」

 

「オフショア・バランシング戦略に移行しなければならない」

・翻訳:「私たちはこれをやってくれる人を探さないといけない」

 

「同盟諸国とパートナーたち」

・翻訳:「俺たちではなく、あんたたちがそれをやるべきだぜ」

 

「高官」

・翻訳:「ホワイトハウスにいる誰か」

 

「マスコミに話すことを許されていない匿名の誰か」

・翻訳:「情報漏洩者」

 

「スノーデンのような人物」

・翻訳:「私たちが大嫌いな情報漏洩者」

 

「少ない労力で多くの成果を」

・翻訳:「おはよう。予算を減らすよ。泣くんじゃない」

 

「軍隊を支持する」

・翻訳:「私は実際に軍人に会ったことはない。しかし、そんなことを少しも気にしない」

 

「ご尽力に感謝します」

・翻訳:「お前イカレてるな、バカ野郎が」

 

「私は軍服に身を包んだ勇敢な男女の犠牲と英雄的行為を心に留めておきたい」

・翻訳:「私は選挙に出ます」

 

「私たちは国土を防衛しなければならない」

・翻訳:「私はファシズムの時代に思い焦がれている」

 

「人間地勢学」

・翻訳:「私たちがよく知らないし、殺害すべきかもしれない人々」

 

「彼らの好意を勝ち取らねばならない」

・翻訳:「彼らを殺してはいけない」

 

「私たちはアジアに軸足を移す必要がある」

・翻訳:「中東全体が機能不全に陥っている」

 

「私たちには政策がある」

・翻訳:「私たちには戦略などない」

 

「私たちはまだ戦略を構築していない」

・翻訳:「私たちはまだ戦略を構築していない」

 

(終わり)





 
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 古村治彦です。

 

 今回は、トランプの外交政策について書かれた記事をご紹介します。トランプについては過激な発言が注目されますが、彼の考えの本質をうまくつかまえた記事になっています。是非お読みください。

 


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ドナルド・トランプは首尾一貫した、リアリズムに基づいた外交政策を主張している(Donald Trump Has a Coherent, Realist Foreign Policy

―ドナルド・トランプは過激な発言を繰り返しているが、トランプは世界におけるアメリカの役割に関して大胆な考えを明確に発信している。トランプの外交政策についての考えについては、ワシントンのエリートたちをバカにするだけではなく、真剣に反応しなければならない。

 

ローザ・ブルックス筆

2016年4月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/04/12/donald-trump-has-a-coherent-realist-foreign-policy/

 

ああ、ドナルド、なんてことなの。あなたは口汚い言葉で、狂ったようなことを言い続けている。マスコミはあなたをバカにしている。あなたは吠え続けている。この素晴らしい国アメリカはあなたに感謝している。もしあなたがいなければ、私たちはテッド・クルーズについて話さねばならなかっただろう。何とつまらないことになったことだろう。

 

 しかし、『フォーリン・ポリシー』誌の私の編集担当者たちは、ホワイトハウスの表札に「トランプ」と掲げられた場合のアメリカの外交政策について真剣に書いて欲しいと依頼してきた。この依頼は簡単なものではない。それは、トランプがあらゆる外交政策の立場を取ることが出来るからだ。

 

 何から話を始めよう?

 

 もしドナルド・トランプが大統領になったら、核戦争が起きるかもしれないし、そうならないかもしれない。トランプは、「核兵器が世界中に拡散しているこの世界は恐ろしい。私にとってこの世界が抱える最大の問題は、核兵器とその拡散だ」と語っている。他方、「もし日本と韓国が核兵器を開発し、保有すると決断するならば、それはそれでよい。私たちにとって都合がよい」とも発言している。更に言えば、アメリカの先制攻撃における核兵器行使の話になった時には、「核兵器を選択肢から排除すべきだ」とも述べている。加えて、これは知られていないが次のような発言をしている。「私たちはヨーロッパの地域内で核兵器を使う必要が出てくるだろう。それはそこまで悲しいことではない。何故なら、ヨーロッパは広いし、いくつかの小国が放射能汚染でなくなってもそこまで大したことではない」。

 

 とにかく、NATOについて議論しよう。NATOはそんなに面白い話題ではない。トランプは「NATOを支持する」と述べている。しかし、彼はNATOについて面白くないと感じているので、ウクライナがNATOに加盟するかしないかに関して、「どうでも良い」と発言している。トランプは、「私はNATOのことなんて気にしない。NATOは“時代遅れ”であり、“アメリカに頼りきりの”タダ乗りの国々に溢れている」と発言している。しかし、「そんなことは気にしない!タダ乗りの国々を排除することでNATOが壊れるのなら、壊れてしまえ」と発言している。北大西洋条約機構は「再構成」し、「近代化」することが可能だ。トランプは、「そのためには恐怖感が必要だ。もしくは加盟諸国が一致団結できる何かが必要だ」と述べている。私は、トランプが、「火を消すのに火を用いる」という原理を基にして、NATOをテロリストと戦うためのテロリスト組織にすべきだと考えているとは思わない。しかし、そうではないと言いきれないとも考えている。

 

 更に話を進める。トランプ大統領の下では、アメリカは、テロリストたちに「誰がお前たちよりも上なのか」を示すために水責めのような拷問を行うし、「もっと残酷なこと」をすることになるだろう。彼はイスラミック・ステイトに対して空爆を行うだろうが、それでも効果がない場合には、イスラミック・ステイト参加者たちの妻や子供を捕まえるだろう。彼は「テロリストを倒すためには、彼らの家族を倒さねばならない」と述べている。アメリカ軍に拷問を行うように命じることや非戦闘員を攻撃対象にすることはもちろん違法である。しかし、アメリカ軍はトランプ大統領から出される命令に喜んで従うだろう。トランプは次のように発言している。「私がリーダーだ。私はいつもリーダーであった。私がやれと言えば、彼らはそれをやるんだ」。しかし、トランプはまた全く別のことを言った。彼は、「私は全てのアメリカ人と同じく、法律によって行動を制限されることになるだろう」とも述べた。

 

 とにかく、トランプ大統領の下では、アメリカ軍は強力であるだろうが、今現在軍が派遣されていない状況では、彼が大統領になっても軍が派遣されることはないだろう。トランプは、アメリカ軍が「酷い状況」にあり、破壊され、弱体化していると述べている。ホワイトハウスが世界で最も小さいトランプタワーとなった場合、このような状況は放置されることはないであろう。彼らはトランプ印の魔法の杖を振り回して、予算を削りながら、軍の規模を拡大するという矛盾することを同時にやってのける。その結果、アメリカ軍は「大規模になり、強力になり」、どの国の軍隊も立ち向かうことが出来ない存在になるだろう。しかし、アメリカ軍は、国内でだけで大規模になり、強力になることで満足しなければならないだろう。それは、日本や韓国のようなアメリカ軍を受け入れている国々が駐留経費を更に支払わねば撤退することになるからだ。トランプ大統領は、アメリカ軍を海外の基地から撤退させることになるだろう。

 

 だからと言って、何か問題があるだろうか?トランプは、ヴェトナムからイラクまで、アメリカが行ってきた軍事介入は全て、失敗に終わったと述べている。トランプは「ヴェトナム?あれは酷かった」、「イラク戦争?あれは大変な間違いだった」「リビア?全くもって酷かった」と述べている。イスラミック・ステイトに関してトランプは、「アメリカ軍の幕僚は、2万から3万の正規軍がいれば、イスラミック・ステイトを叩きのめすことはできるが、それがアメリカ軍である必要はないと言っている。中東の国々こそがイスラミック・ステイトを倒すために軍を出さねばならない。私が大統領になっても、米軍を2万から3万派遣するようなことなどしない」と述べている。

 

 ここら辺で十分だろう。私は次のように言いたい。トランプはこれまでメディアにとって格好の嘲りのための材料をこれでもかと提供してきた。しかし、私は共和党の最有力候補トランプをバカにし続けたいとは思わない。

 

 一つには、それはあまりにも簡単で陳腐なことであるからだ。ジョージ・W・ブッシュの「彼らは私のリーダーとしての私を間違って理解している」という見当違いなコトバをバカにするようなものだ。あまりにも陳腐なことなのだ。

 

 もう一つには、マスコミには、反トランプの言葉が溢れかえっている。NBCのアンドレア・ミッチェルは「トランプは世界のことを何も知らない」と述べた。『ワシントン・ポスト』紙のユージーン・ロビンソンは、「トランプの政策に対する無知ぶりにはため息が出るばかりだ」と書いた。CNNのタラ・セトマイヤーは、「トランプは大統領になる資質を少しも持っていない」と述べた。『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説委員たちは、トランプは、「言葉遣いが酷く、攻撃的」で、「衝撃を受けるほどに無知」だと書いている。

 

 マスコミからこうした批判を受けても、トランプには全く影響がない。マスコミがドナルド・トランプを笑いものにするたびに、6人の平均的な怒れるアメリカ人たちが彼に投票しているのだ。マスコミのエリートたちがトランプの無知と傲慢さ、愚行を非難するたびに、怒れるトランプ支持者を17人ずつ生み出しているのだ。トランプが大統領になったら、マスコミの人々にこそその責任があるということになる。

 

 最後に、あまり言いたくはないことだが、ドナルド・トランプは狐のように抜け目のない人物なのだ。トランプは、大ぼらを吹き、暴言を吐き、ハッタリを仕掛けているし、矛盾、言い間違い、事実無根の主張を繰り返している。しかし、トランプは国際関係と世界におけるアメリカの役割に関して首尾一貫した考えを持っているのだ。

 

 デイヴィッド・サンガーとマギー・ハーバーマンは、トランプが『ニューヨーク・タイムズ』紙と行ったインタヴューをまとめた記事を書いたが、その中で、トランプの考えをよく描き出している。彼らは次のように書いている。「トランプ氏の世界観では、アメリカは衰退しつつある大国ということになる。そして、アメリカが世界における中心的な役割を再び果たすようになるためには、実利的な交渉が必要だ、としている。 トランプ氏は、戦略的な目標について正確に述べていないが、国際的な争いのほぼ全てを、交渉を通じて解決するとしている。トランプ氏は、アメリカが長年にわたり、より賢く、より洞察力に溢れ、より粘り強い人々によって、バカにされ、嘲りを受け、カネを奪い取られてきたと確信している。アメリカは力の強いいじめっ子のようになっているが、うまく導かれていないと考えている。アメリカはバカないじめっ子になっており、周りの人々から体系的に金を奪い取られていると感じているのだ」。

 

 トランプは暴れん坊だという認識を持たれることを全く意に介していない。しかし、彼は、人々から期待外れだ、騙されたと思われなくないと考えている。だから、トランプは、「サウジアラビアがイスラミック・ステイトと真剣に戦わないのなら、我々はサウジアラビアから石油を買うことを止めるだろう」「中国政府が南シナ海での拡張政策を続けるのは、中国のアメリカ市場へのアクセスを制限する」「NATOや太平洋地域のアメリカの昔からの同盟諸国が負担を引き受けないのなら、同盟関係を解消する」などという過激な発言を繰り返している。

 

 トランプの主張の矛盾、トランプの究極的な戦略的目標が何なのかがはっきりしないこと、そして人々に対して脅威を訴えていることを批判する人々に対して、トランプは、単純明快な、そしてマキャヴェリ的な返事をする。それが「私たちに必要なのは、予測されないということだ」というものだ。トランプにとって、成功する交渉というのは、自分の領域で交渉をするということだ。トランプは、相手に対して、自分が譲っても良い最低線を知らせることはない。そして、常に効果的なはったりを仕掛ける能力を持っている。彼が『ニューヨーク・タイムズ』紙と行ったインタヴューの記録からその一例を見てみる。「もし私が大統領になったら、軍事力を使って特定の紛争を解決すると言うか、言わないか、そんな状況にならないようにするね。私は何も言わないだろう。私は相手に対して自分が何を考えているかを知らせようとは思わないから」

 

トランプはネオコンやリベラル介入主義者たちを全く評価していない。トランプは、「彼らは、アメリカの価値観への盲信のために、アメリカの国益とアメリカの国力の限界に目を向けていない」と考えている。トランプは更に多極主義的な外交官も批判している。彼らは、アメリカの国益を犠牲にして、外国からの友好と協力を得ようとして妥協や取引をしがちである。そして、長年にわたるアメリカの同盟諸国を神聖な存在であると考えている人たちを評価していない。トランプにとって、アメリカの同盟諸国に対しては、不動産の分野における取引相手と同じように、常に次のように問い続けなければならない存在なのだ。「それであなたは私のために一体何をしてくれるというんです?」

 

トランプは彼にしかできないやり方で、ワシントンの民主、共和両党の外交政策にかかわるエリートたちが当たり前だとしてきた大前提に対して、強力な挑戦を行っている。そして、共和党と民主党それぞれの主流派がトランプの主張に対抗しようとするならば、彼の世界観がどうして適切ではないのかを説明することに真剣にならねばならない。そして、そうした説明をする際には、人々が聞き飽きた決まり文句ばかりにならないようにする必要がある。

 

決まり文句はすぐに口を突いて出てくる。アメリカの同盟諸国と同盟関係は大変重要だ。NATOは、アメリカの安全保障の重要な要素である。日本と韓国に駐留する前方展開可能兵力は同盟諸国への安全保障の提供と抑止にとって極めて重要な存在だ。私たちはサウジアラビアとは良い関係を維持しなければならない。どうしてこうしたことが重要なのであろうか?それは、ワシントンにいるすべての人々にとってこれらのことは共同了解事項であるからだ。

 

 しかし、これは学問的、そしてイデオロギー的な怠惰を示している。特殊な言葉遣いを取り除いてみれば、ワシントンの外交政策に関わるエリートたちの間の共通理解は陳腐なものだ。日本、アメリカ、クウェートに米軍を駐留させている理由は何なのか?アメリカが前方展開可能兵力を削減したら、空が落ちてくるような大変なことが起きるのだろうか?私たちはどのような緊急事態について備えていることになっているんだろうか?私たちはどんな人たちやどんな勢力を抑止しているんだろうか、そしてその抑止は機能しているとどのようにしたら分かるんだろうか?私たちはどんな人たちを安心させているんだろうか?財政上と機会の上でのコストはどんなものだろうか?第二次世界大戦後に結ばれた防衛条約と海外基地は今でもアメリカの国益に奉仕する存在であろうか?どんな国益に?どのようにして?サウジアラビアとの同盟からの利益はコストを上回っているか?アメリカにそこまで利益をもたらさない「同盟諸国」に対してそこまで妥協的に接しないなどこれまでのやり方を変えたら、どんな悪いことが起きるのだろうか?

 

 これらの疑問は自然なものであり、かつ重要なものだ。政治家や専門家たちがこれらの疑問に対してきちんと答えようとしないことに対して、一般のアメリカ国民が不満を募らせているのは当然のことだ。

 

 トランプの世界観と国家統治の概念は、私のものとはほとんど一致しない。しかし、トランプの世界観は、国際関係論のある首尾一貫した理論を反映している。それは、リアリズムであり、相互の交渉を重視し、マキャヴェリ的なものである。そして、トランプの世界観は、真剣な、良く考えられた、あけっぴろげなものである。

 

 もし私たちのような外交政策専門家が疑問に答えることが出来なければ、ホワイトハウスの表札に掲げられた「トランプ」という文字が、私たちの経験や知識など陵駕してしまうということになるだろう。

 

(終わり)






 

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