古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:大統領選挙

 古村治彦です。

 

 イランの大統領選挙は、強硬派が候補者を一本化したことでどうなるかと思っていましたが、ロウハニ大統領が再選されました。イランの大統領は二期までなので、ロウハニ氏はこれから4年間が最後の任期となります。

 

 ロウハニ大統領は、アメリカとの核開発をめぐる合意を前提にしての経済成長、そのための経済改革を主張しています。イランでは、諜報機関が経済部門にまで浸透しており、下に掲載した毎日新聞の記事では、「モンスター」とまで呼ばれているそうです。ロウハニは、そうした部分を改革していこうとしています。革命防衛隊、諜報機関はそれを防ぐために、最高指導者を引き込んで、ロウハニ氏を追い落とす、もしくは得票数を削ろうとしました。しかし、イランの人々はロウハニ大統領の路線を支持しました。

 

 アメリカでは、トランプ大統領がイランとの核開発合意に反対しているという報道がなされていますが、トランプ政権は核開発をめぐる合意を維持するということを既に表明しています。イランとの核開発をめぐる合意にアメリカ国内で反対しているのは、共和党ではネオコン、民主党では表立ってはいませんが(自党のバラク・オバマ前大統領が結んだ合意ですから)、人道的介入主義派です。

 

 トランプ大統領が初めての外遊で中東のサウジアラビアとイスラエルを訪問しますが、両国は宗教は違いますが、アメリカの同盟国という点では一緒です。サウジアラビアはアラブの盟主ですが、現状中東の和平と問題解決に何もしていません。オバマ政権時代は、イスラエルとアメリカの関係は悪化しました。トランプ政権ではトランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーが上級顧問として力を持っていますから、イスラエルとの関係は改善すると思われますが、機密情報の取り扱いをめぐり、イスラエル側が激怒しているという報道もなされていますので、イスラエル側に、ネオコンや人道的介入主義派と気脈を通じている人々がいると思われます。

 

 トランプ政権とすれば、傲慢になりがちな中東の同盟諸国に活を入れるために、イランを利用するでしょう。イランを利用して中東の問題を解決しようとするでしょう。国益のためならば、敵と呼んだ相手とでも手を組むのがリアリズムですから、トランプは表だってイランを賞賛はしないでしょうが、一方的に敵視することはないでしょう。

 

 ロウハニ大統領が再選されたことで、アメリカとイランの関係が大きく変化することはないということになり、これは慶賀すべきことです。

 

(貼りつけはじめ)

 

<イラン>残る制裁、正念場 ロウハニ師再選、経済回復急務

 

毎日新聞 5/21() 8:15配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170521-00000007-mai-m_est

 

 【テヘラン篠田航一】イラン大統領選で対外融和の継続を掲げる保守穏健派のロウハニ大統領(68)が20日、再選を決めた。だがイランを敵視してきた米国はトランプ政権になり、より強硬な姿勢を示している。イランは経済回復を軌道に乗せて内政を安定させるためにも、米国などが今も科す制裁の軽減に向けた外交努力を続けると見られるが、事態の打開は容易ではない。

 

 「今後4年で全ての制裁解除に全力を挙げ、イランの威厳を取り戻す」。ロウハニ師が掲げた公約だ。イランは2015年に米欧などと核合意に達し、主要な経済制裁は解除された。だが、ミサイル開発や「テロ支援」を巡る制裁は残っている。

 

 トランプ米大統領は、イスラム教シーア派国家イランの覇権拡大を警戒するスンニ派の大国サウジアラビアを初の外遊先に選び、イラン大統領選の結果が固まった20日に現地に降り立った。湾岸のアラブ諸国と連携した包囲網の強化を目指している。米国とイランは、シリアやイエメンの内戦でも対立する勢力をそれぞれ支援しており、早期に歩み寄る可能性は低い。

 

 ただ、トランプ政権はシリアでは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を優先している。イラン国連代表部で勤務経験を持つ元外交官の政治評論家ヘルミダス・ババンド氏は「シリア内戦が沈静化すれば、イランと米国の関係は改善に向かう」と分析。ロウハニ大統領が、米国と近いアラブの主要国エジプトへの働きかけを強めると見ている。

 

 内政では経済回復を進める上で、膨大な権益を持つ革命防衛隊との関係が焦点の一つになりそうだ。ロウハニ大統領は選挙戦で「経済発展を望むなら、(革命防衛隊などの)治安・政治組織を経済に関与させるべきではない」といら立ちを隠さなかった。

 

 約12万人の兵員を擁する革命防衛隊は、1979年のイスラム革命の理念防衛のため創設されたが、多くの系列企業を抱えて経済分野にも進出し、肥大ぶりは「モンスター」と称される。ロウハニ政権が今後、外資導入や経済開放を進めようとした場合、防衛隊関連企業の抵抗が予想される。

 

 内政の安定には、若年層の雇用創出も急務だ。失業率は若年層で3割近いと言われる。経済的不満から保守強硬派への傾倒を強めることを抑止するためにも経済成長の加速は不可欠だ。

 

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イランの大統領選挙で何が重要なのか?(What’s at Stake in Iran’s Elections?

 

エミリー・タムキン筆

2017年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/05/19/whats-at-stake-in-irans-elections-rouhani-raisi/

 

イラン国民は金曜日、次期大統領を誰にするかを決める投票を行う。大統領選挙には複数の候補者が立候補しているが、主要な選択肢としては、中道改革派で2期目を目指す現職大統領ハサン・ロウハニと、保守派強硬路線のイブラヒム・ライシの2人に絞られている。最も人気があったモハンマド・バーゲル・ガリバフが選挙戦から撤退し、ライシ支持を表明したためにこのような状況になった。

 

誰が大統領になるだろうか?そして、選挙結果がイランの国際関係においてどのような意味を持つであろうか?

 

コロンビア大学教授リチャード・ネヒューは本誌の取材に対して、「ロウハニが当選すると考えます」と述べた。

 

読者の皆さんがご存知のように、最高指導者と諜報機関がライシを大統領にしたいと後押しをしているという疑いがあるし、人々の間には、国際関係を改善して好景気をもたらすというロウハニの公約が果たされていないという不満が高まっている。しかし、ネヒューは、投票率が期待通りに髙ければ、ロウハニが2期目に向けた当選に困難に直面することはないだろうと述べた。

 

ロウハニが勝てば、人々の信任を示す票差での勝利であれば、イランの対西側各国への政策は大きくはそのままであろう。イランはアメリカとの間で、イラン核開発合意として知られる包括的共同行動計画を堅持するだろう。ドナルド・トランプは自身の大統領選挙期間中、合意の破棄を主張したが、現在のところトランプは合意の維持を表明している。

 

ロウハニは、更なる経済改革を進めるだろう。ロウハニは、アメリカとの合意から経済的利益を得ることができるとロウハニは主張しているが、そのためには経済改革が必要となる。そして、ロウハニは経済分野における諜報機関の存在を排除しようとするだろう。ロウハニが地滑り的勝利をした場合に不都合なことがあるのだろうか?ロウハニが圧倒的な勝利を収めた場合、最高指導者とその周辺は、ロウハニの羽を縛ろうとするだろう。

 

それではライシが勝利した場合はどうなるだろうか?ライシは他の候補者と同様に、包括的共同行動計画の維持を主張しているが、この合意からイランが利益を得るために必要な経済改革を進めることはないだろう。そうなると、イラン国民は、経済が良くならないのに、合意を維持する必要はあるのかと考えるようになるだろう。

 

しかし、ライシの勝利は状況を悪化させるだろう。特にアメリカとの関係に悪影響を与える。ネヒューは、トランプ政権がライシ勝利をイラン国内における強硬派の台頭の徴候と捉え、イラン政府との協力は望めないと捉えるならば、「強硬派同士である、トランプとライシ同士の競争が起き、良くない状態になる」と述べている。

 

投票日の金曜日、トランプは大統領としての初めての外遊をサウジアラビアから始める。大統領選挙の結果によっては、中東の情勢は更に爆発しやすくなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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 古村治彦です。

 

 アメリカのドナルド・トランプ大統領が、2017年5月9日、ジェイムズ・コミーFBI長官を解任しました。解任の際にトランプ大統領がコミー長官に宛てた書簡では、「司法長官と副長官の助言と勧めを受け入れて」解任すると書かれています。

 

 ジェフ・セッションズ司法長官とロッド・ローゼンスタイン司法副長官の助言による

 

ロッド・ローゼンスタインは司法省生え抜きで、ペンシルヴァニア大学を優等で卒業し、ハーヴァード大学法科大学院に進学し、学内誌『ハーヴァード・ロー・レヴュー』の編集に携わりました。バラク・オバマ大統領もこの雑誌の編集に携わりました。大変優秀な人物で、地区検察官も務めました。

 

FBIは捜査機関で、彼らの捜査した内容で起訴するかどうかを決めるのが司法省です。ですから、司法省は検察の役目を果たしています。ヒラリーのケースでは、FBIのコミー長官がヒラリーについて2016年7月6日に「大変不適切な対応はあったが、起訴するには至らない」という助言と勧めを当時のロレッタ・リンチ司法長官に送り、それが採用される形になりました。その後、2016年10月28日になって、別件(アンソニー・ウェイナー元連邦下院議員[ヒラリーの側近フーマ・アベディンの夫]の事件)で捜査中に、ヒラリーの私的Eメールサーヴァー使用に関して、新たなEメールが発見されたということをコミー長官は議会に報告する形で公表しました。

 

 昨年の大統領選挙では、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官が下馬評では圧倒的に有利とされ、トランプは劣勢を強いられていました。7月に不起訴の決定がなされた後、トランプ陣営にもスキャンダルが出て、決定打にはなりませんでした。しかし、10月28日に新たなEメールが発見されたという報道がなされ、これがヒラリー陣営にとっては、後から考えると大打撃となりました。

 

 今回、司法省のジェフ・セッションズ長官、ロッド・ローゼンスタイン副長官は、昨年10月28日のFBIの捜査情報の連邦議会送付と公開を問題にしました。これについて「やってはいけない行為」とし、「それについて悪いと思っていない」という点を問題視し、コミー長官を解任しました。

 

 しかし、考えてみると、コミー長官はやるべきことをやった訳ですし、トランプ陣営からすれば、ある意味で、最大の功労者と言うことができます。また、政権が発足して100日以上経過しての突然の解任、しかも、コミー自身は、解任を出張先のロサンゼルスでテレビの速報で知ったということで、このような解任の仕方は、コミーを辱める行為ですが、トランプ政権は敢えてこれを強行しました。

 

 5月3日の連邦議会での公聴会で、コミー長官が、選挙の結果に影響を及ぼしたと思うと、吐き気がするほどだが、私(たち)は間違っていなかったと発言しました。これが突然の解任のきっかけとなったということでしょう。

 

 ここで考えられるのは、FBIが現在、トランプ陣営とロシアとの関係について捜査を行っているという点に何か関連しての突然の解任ではないかということです。コミー長官が「虎の尾を踏んで」しまって、急きょ解任されたという可能性が考えられます。FBIの捜査に関しては、司法省もホワイトハウスもコントロールすることは建前上はできませんから、ヒラリーの捜査情報を連邦議会に送付したコミーが、同じことを再びやるということも考えられるので、慌てて懲罰的な形で解任したということが考えられます。

 

 また、逆の面から見れば、コミーは、ヒラリー落選の最大の戦犯ということになります。ヒラリー陣営や民主党側は、コミーの首を取りたいと考えています。これを代わりに実行したのがトランプと言うことになります。しかも懲罰的に、です。これは、トランプが、ヒラリーの事件をこれ以上蒸し返して、彼女を犯罪者にはしないというメッセージにもなりますし、民主党にも肯定的なメッセージを送ったことになると考えます。

 

 ジェイムズ・コミーFBI長官はとても苦しい経験をしたと言えます。アメリカの方向性を変えた人物となりました。彼は彼なりに職務を忠実に遂行したと言えますが、政治の空白地帯に落ちてしまい、民主、共和両党、ヒラリー、トランプ両陣営の攻撃対象になってしまいました。この点で、コミーは稀有な存在となりました。理不尽な人間悲喜劇の主人公となってしまったと言った方が良いかもしれません。

 私が最後に思ったのは、これは、連合国総司令官ダグラス・マッカーサーの解任に匹敵するものだということです。FBI長官と言えば、エドガー・J・フーヴァーのように、時の大統領の弱みを握って、長く力を保持することも可能ですが、大統領が解任と決めたら、ただの人になってしまいます。民主政治体制におけるシヴィリアンコントロールと権力の抑制と分立ということを改めて認識させられます。

 

(貼りつけはじめ)

 

●「米大統領、FBI長官を解任=メール問題対応「重大な誤り」―捜査妨害と反発も」

 

時事通信 2017年5月10日

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170510-00000012-jij-n_ame

 

トランプ米大統領は9日、連邦捜査局(FBI)のコミー長官(写真)を解任した。クリントン元国務長官のメール問題に関するコミー氏の判断は「重大な誤り」だったとして司法省が長官交代を進言、大統領も受け入れた

 

 【ワシントン時事】トランプ米大統領は9日、連邦捜査局(FBI)のコミー長官を解任した。

 

 ホワイトハウスによると、先の大統領選中、民主党候補クリントン元国務長官の私用メール問題に関する捜査情報を公表したコミー氏の判断は「重大な誤り」だったとして司法省が長官交代を進言、大統領も受け入れた。

 

 大統領はコミー氏への解任通知で「FBIへの国民の信用と信頼を回復できる新しい指導者を見つけることが不可欠だ」と強調した。ただ、FBIは現在、トランプ陣営とロシア政府が結託してクリントン氏の選挙戦を妨害したのではないかという疑惑を捜査している最中で、民主党を中心に捜査妨害だと反発する声も上がっている。

 

 メール問題を捜査していたコミー氏は昨年75日、異例の記者会見を開いてクリントン氏の不訴追を発表。大統領選が11日後に迫った同1028日には、新しい証拠が見つかったとして連邦議会に捜査再開を通知した。いずれの対応も大統領選に不当な影響を与えたと批判を受けたが、コミー氏は53日の議会公聴会で「今でも正しい選択だったと信じている」と語っていた。

 

 ホワイトハウスによれば、ローゼンスタイン司法副長官はセッションズ司法長官に宛てた覚書で、コミー氏の対応は「検事や捜査官が教科書でしてはならないと教わる典型例」と指摘。「誤りだと認めないことも理解できない」と公聴会での発言も批判した。

 

 これを受け、セッションズ氏は大統領への書簡で「FBIには新鮮なスタートが必要だ」と助言。大統領は声明に「きょうが法執行機関の至宝の新しい始まりだ」と記した。発表に先立って大統領は民主党幹部にも電話し、解任の決断を伝達。これに対し、シューマー上院院内総務は、進行中の捜査が滞りかねないとの観点から「大きな間違いだ」と懸念を伝えた。

 

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●「大統領選への影響「いささか吐き気がする」 FBI長官」

 

BBC News 2017年5月4日

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170504-10001777-bbcv-int

 

米連邦捜査局(FBI)のジェイムズ・コーミー長官は3日、上院司法委員会のFBI監査公聴会で証言し、昨年の大統領選直前にヒラリー・クリントン氏の私用メールサーバー問題について捜査していると公表したことについて、議員たちの追及に答えた。長官は、FBIが選挙結果に影響を与えたかもしれないと思うと「いささか吐き気がする」と述べつつ、今でも正しい判断だったと思っていると述べた。

 

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●「米大統領、FBIを名指し非難=メディアに情報「漏えい」」

 

時事通信 2017年2月25日

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017022500031&g=use

 

 【ワシントン時事】トランプ米大統領は24日、ツイッターに「連邦捜査局(FBI)は、国家安全保障に関わる『漏えい者』を止めることが全くできていない」と書き込んだ。内部情報に基づく報道に関し、組織を名指しして情報管理の甘さを糾弾した。

 

 トランプ氏は、投稿で「機密情報がメディアに渡っており、米国に破壊的な影響を及ぼしかねない」と主張。「今すぐ(漏えい者を)見つけろ!」と調査を求めた。

 

 トランプ政権では、フリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が就任前に駐米ロシア大使と対ロシア制裁について話していたことが発覚して辞任。トランプ氏は15日の記者会見で、「情報機関から(フリン氏に関する)ペーパーが漏えいした。犯罪行為だ」と非難していた。(2017/02/25-00:40

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22


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 古村治彦です。

 

 フランスでは大統領選挙が行われています。2017年4月23日に第1回目の投票が行われましたが、過半数を獲得する候補者がいなかったために、5月7日に上位2名による決選投票が行われます。

 

第1回目の投票では、中道の「アン・マルシェ!(前進)」のエマニュエル・マクロンが24.01%、極右の国民戦線のマリーヌ・ルペンが21.30%、保守の共和党のフランソワ・フィヨンが20.01%、左派のジャン=リュック・メランションが19.58%、中道左派の社会党のブノワ・アモンが6.36%の得票率を記録しました。マクロンとルペンが決選投票に進出しました。

 

 第3位となったフィヨンは敗北を認め、支持者たちにマクロンへの投票を呼びかけました。既成大政党である社会党の候補者でありながら、6%台の得票率しか記録できず、代惨敗となったアモンも、元は社会党の現職大統領フランソワ・オランド大統領政権下の閣僚を務めた元社会党員のマクロンへの支持を表明しました。左翼党のメランションは上位2名どちらへの支持も表明しませんでした。フィヨン、メランションを支持した人々の間で、決選投票に参加しない、棄権するという動きが広がっています。ルペンの国民戦線へのけん制と共に、マクロンも支持できないという感情が広がっているようです。

 

 以下に、『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたフランス大統領選挙に関する記事をご紹介します。著者はアメリカの保守派コラムニストとして有名なジョージ・F・ウィルです。ウィルは保守派の論客ですから、民主党の大統領であったバラク・オバマには批判的でした。そして、今回のフランスの大統領選挙に関して、エマニュエル・マクロンをフランス版のバラク・オバマ(its own Barack Obama)だと述べています。中身のない候補者だとウィルは皮肉を込めて述べています。

 

 大統領選挙の決選投票に進出した中道と呼ばれるどっちつかずのマクロンと極右のルペンの最大の争点はEUとの関わり方であると思います。マクロンはEU残留を主張し、ルペンはEU離脱を主張しています。

 

 EU(ヨーロッパ連合)の基礎となったヨーロッパ統合の考え方は、ヨーロッパで二度と戦争を起こさない、そのためには、ドイツ問題(ドイツが蠢動するとヨーロッパが不安定化する)の解決と隣国同士であるフランスとドイツの友好を促進するというものです。フランスがEUから離脱するとなると、ヨーロッパ連合の基礎的な理念まで崩壊してしまいますし、物理的にはポルトガルとスペインのリベリア半島が他のEU加盟国と陸路ではつながらなくなるという事態も起きます。ですから、フランスのEU離脱は、EU崩壊のスタートとなることになります。

 

 フランスの社会史(アナール学派)・人工史学者であるエマニュエル・トッドの簡単に手に入るこれまでの書籍を数冊読むと、フランスがEUというシステムの中で、ドイツに従属していることの不満があることが分かります。「ドイツと喧嘩をしたい訳ではないが、ドイツと同じようなことをやらされるのは嫌だ、できない、国民性に合わない」という考えがフランスにあり、反EU、反ドイツの感情がフランス国民の中に沸き起こっているようです。

 

 こうしたフランス国民の多くが抱える不満について、日本でも良く似た事態が戦後に起きました。昭和24年度の国家予算について、その頃は日本政府はSCAP(連合国最高司令官)であるマッカーサー率いる占領当局(GHQ)の承認を必要としていました。昭和24年度の国家予算について、アメリカから派遣されていたジョセフ・ドッジは反対し、補助金を削減し、公共料金の値上げや減税公約の撤廃を求めました。激しいインフレーションに対処するために、日本国民に耐乏生活を求めました。しかし、選挙で勝利していた民主自由党の公約はほぼ通らなかったことになり、日本の政治家と国民は、占領されているからこのような屈辱を受けることになるのだ、と考え、早く独立したい、そのためには、戦争状態を終わらせる講和条約を早急に結び、独立すべきだと考えるようになりました。


 ドイツが求める均衡財政は嫌だし、それを堅持するとフランス国内で格差が拡大するが、EUにいる限りは、ドイツに従わねばならない、という状態が続くことになります。

 

 現在のフランスでも、社会党という社会主義政党が平等を追い求め、富の再配分を行う政策を放棄しなければならないほど、EU、特にドイツの意向に従う状況になっています。そうした中で、人々の中に、反EU、EUからの「独立」を求める声がでているようです。EUはひとまとまりで、アメリカに匹敵するGDPを占めることになります。世界の総GDPに占める割合は、アメリカが25%、EUが25%、中国が14%、日本が6%です。日中韓露で24%となります。EUそれぞれの国に分かれれば、割合は小さくなりますので、規模の経済を活かすにはまとまっていくしかありませんが、各国が抱える事情がそれぞれ異なるので、同床異夢、という状態になっています。

 

 しかし、現在のところ、マクロン対ルペンでは、マクロンがリードしているという世論調査の結果も出ています。マクロンという人物は中道と言っていますが、実際には親米で、親EU、ネオリベラリズム政策を行う人物です。中道というのは大変難しい言葉で、どっちつかず、無原則に何でも取り入れるということにもなりかねません。マクロン対ルペンで恐らくマクロンが勝利することになるでしょうが、フランスのEUからの「独立」を求める声がどれほど大きいものなのか、という点から、ルペンの得票率も大変気になるところです。フランス大統領選挙の結果でEUの将来の道筋が占えるのだろうと私は考えます。EUは国家のかなりの主権をEUに譲るということで成立していますが、これは行き過ぎで、関税同盟や経済連携にまで後退することもしかるべしではないかと考えます。

(貼り付けはじめ)

 

フランスはフランス版のバラク・オバマを選ぶのだろうか?(Will France elect its own Barack Obama?

 

ジョージ・F・ウィル筆

2017年4月26日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/opinions/will-france-elect-its-own-barack-obama/2017/04/26/067f754e-2aa3-11e7-b605-33413c691853_story.html?tid=ss_tw&utm_term=.29a451a0583c

 

フランス人は、他の国や人々の政治的な考えを借りられないほど知的な自惚れが強すぎる。しかし、同時に他の国のスタイルを評価し、取り入れることに興味を持っている。従って、5月7日のフランスの大統領選挙の決選投票で、フランス国民は、「ドゴール的な」バラク・オバマを大統領に選び出す可能性が高い。

 

2008年、新人の連邦上院議員だったオバマは、アメリカにとってのロールシャッハテストの役割を果たした。アメリカ国民は彼らの希望をオバマに投影した。39歳のエマニュエル・マクロンはパリの投資銀行に勤務していた。彼はこれまでの選挙で嫌な思いをしたことがなく、曖昧さをうまく隠せる人物だ。マクロンの公約は、ジョナサン・ミラーが『スペクテイター』誌で書いたように、「ジャコブ通りに住む高額所得者たちから提供されるチョコレートの入ったお菓子箱であり、ソフトな中道的主張」である。中道主義者を自称するマクロンは、現職大統領、社会党のフランシス・オランドの閣僚を務めた人物だ。オランドの最新の支持率は4%となっている。先週の日曜日、社会党の大統領候補者ブノワ・アノンは6.35%の得票率であった。マクロンは自分が率いる運動体を「前進(En Marche!,on the move)」と呼ぶ。これは、オバマ大統領が掲げた「私たちは、私たちが長年待ち望んだ存在となっている」という主張と同じくらいに自己満足で役に立たないものだ。マクロンは、良い人間になることで長く続く経済不況を改善しようと提案している。これは、結局のところ、「彼女」のようにならない、ということを意味している。

 

1984年の大統領選挙で、マリーヌ・ルペンの父ジャン・マリーは反ユダヤ主義と外国嫌悪の主張を掲げ、200万以上の得票を得た。パリのある新聞は見出しに次のように掲げた。「フランスには、218万2248名のファシストがいるのか?」これは、道理にかなわない質問だ。ジャン・マリーは「権威を示す束桿(fasces)の下で国家の全ての勢力をまとめる」と主張したのだ。ジャン・マリーはローマの権力の象徴を主張したのだ。ローマにおける権力の象徴は、斧の周りに木の板を合わせた束桿であった。ここからファシズム(fascism)という言葉が出来た。彼のスローガンは狡猾だった。「私のプログラムはあなたが考えていることだ」というものだ。その意味するところは、「ユダヤ人、移民、負け組について皆さんが語りたがらないこと」というものだった。

 

すっぱりリンゴがなる木から、ジャン・マリーの娘がどれほど離れているのかは明確ではない。マリーヌの選挙運動のスローガンは、「フランスは私たちの家だ(“On est chez nous” “This is our home”)」というものだ。このスローガンは、フランスがどんどんフランスらしさを失っているという懸念の表明である。同化を拒む数百万の移民は、空想の多文化主義の徒労を意味する。空想の多文化主義は移民の急激な流入から関係ない場所で快適に暮らしている人々によって唱導されている。ルペンと血と国土を基礎にしたナショナリズムは、アイデンティティが衰退しているという感情に対する反対の叫び声なのだ。

 

フランスの図書館にはフランスの歴代の憲法がきちんと収められているというのは正しくない。1791年以降、フランス憲法は多くの書き換えが行われた。現在のフランス憲法は59年前に制定された。しかし、一般的に国家のアイデンティティは言語的な統一と強く結びつくものであり、フランスの国家アイデンティティはある意味で、比較的若いものである。政治学者のフランシス・フクヤマは次のように書いている。「1860年代、フランス国民の4分の1はフランス語を話せなかった。また別の4分の1は第二外国語としてフランス語を話した。フランス語はパリの言葉であって、教育を受けたエリートの言葉であった。フランスの地方では、農民たちはブレトン語、ピカード語、フレミッシュ語、プロヴァンス語、その他の方言を話した」。マリーヌ・ルペンは、フランス性の権化だと自称している。しかし、彼女はパリで5%以下の得票率しか記録できなかった。国家アイデンティティが認識された場所パリでルペンは最も強力な選挙運動を展開したが、それほどの得票しかなかった。

 

1977年、フランスのGDPはイギリスのGDPよりも約60%も大きかった。現在はイギリスよりも小さくなっている。この期間、イギリスにはマーガレット・。サッチャーが出現し、フランスは「ネオリベラリズム」に抵抗した。上記のように、外国からの考えを寄せ付けないということを意味する。ネオリベラリズムは、「経済統制政策(dirigisme)」として知られる、強力な国家による経済指導を廃止することを意味する。経済統制はフランスの硬直性を象徴している。フランスの失業率は10%で、若い世代に限ればこの数字が2倍になる。

 

公的部門の支出はフランスのGDPの56%以上を占めている。これは他のヨーロッパ諸国よりも高い割合だ。マクロンは国家主義の一部を少し削り取ることしかできないと約束している。マクロンは彼が追い求めないものを受け取ることはないだろう。退職年齢62歳や週35時間労働、フランスの3500ページに及ぶ労働規制に挑戦する特別な権限を手にすることはないだろう。これによって労働者を解雇することは困難になり、経営者たちは人を雇用することに躊躇することになる。マクロンは、より強力なヨーロッパ連合を求めている。強力なヨーロッパ連合は民主政治体制を損ない、傲慢な規制が幅を利かすようになる。

 

1930年代、ヨーロッパの左翼は狼狽した。それは、資本主義の危機が鼻持ちならない、不快な右翼を利することになったからだ。この時代の右翼は、人々の怒りを基礎にして、経済と文化の面での懸念を融合することで台頭してきていた。今日、グローバライゼーションは、大西洋両岸のアメリカとヨーロッパで似たような激しい動きを起こしている。ルペンの台頭は、彼女を大統領にまで押し上げる可能性が高いところまで来ている。しかし、フランスや他の国々で自己満足している人々は、アメリカで公民権運動が盛んになっていた1963年にアフリカ系アメリカ人作家ジェイムズ・ボールドウィンが警告した、アフリカ系アメリカ人に関わる霊的な言葉を覚えておくべきだ。

 

神はノアに虹のサインを示した。

 

これ以上は水はでないが、次は大規模な火事が起きる、と。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







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 古村治彦です。

 

 ジョー・バイデン副大統領がヒラリー・クリントン敗北の理由として、「彼女自身がどうして選挙戦を戦っているのか分かっていなかった」ということを挙げています。大変ユニークな分析です。

 

 ヒラリーは女性で初めて大統領になるチャンスがある人物として大統領選挙に出馬する責務があると感じてはいたが、有権者に対して語りかけが足りなかった、有権者の声を聞くことが足りなかった、とバイデンは言っています。そして、人々の不満や恐怖心を聞く政党であった民主党がエリート主義になっていたと反省の弁を述べています。

 

 確かに、ヒラリーは能力が十分にあったでしょう。しかし、有権者のためではなく、自分のために選挙に出た、そして、有権者を向かないで、有権者の見ているものを見ないで選挙戦を戦ったということなのでしょう。上滑りする綺麗ごとばかりを、女性初の大統領になるという浮ついた気持ちで語ったところで、今本当に困っている人々には何のアピールにもならなかったのです。ヒラリーが勝利した州は民主党が強い州で、そこでは、誰が出ても民主党の候補者が勝利できたでしょう。しかし、それだけでは勝利はできません。トランプが勝利した州は共和党が自動的に勝つ州にプラスして、人々の不満や恐怖心が渦巻いていた州でした。

 

 政治家が選挙に通って権力を握る、ということは自己利益実現の最たるものです。しかし、それを露骨にやる、もしくは見えてしまうと、その自己利益実現はできないのです。ヒラリーは自分とだけ格闘し、周囲は見えていなかった、だから、自分というものを押し付けることで有権者は拒絶反応を示したということでしょう。

 

 トランプは「アメリカ・ファースト」というスローガンを掲げました。そして、「今苦境の中にいると不満や狂信を持っているアメリカ国民よ、このアメリカはあなた方のことだ」というメッセージを送ることに成功しました。トランプは非常に利己的で、自己中心的のように思われ、実際にそうなのでしょうが、選挙に勝つという自己利益実現に成功しました。見た目では、ヒラリーは謙虚・抑制的(トランプに比べて、ですが)、トランプは我儘・勝手なのに、人々はヒラリーに自己中心、押しつけ、独りよがり、自分たちのことを見ていないということを感じて忌避しました。

 

 こういうことは私たち自身にも置きかえて教訓として活かすことができると思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

バイデン:ヒラリー・クリントンはどうして選挙戦を戦っているのかを理解していなかった(Biden: Clinton never figured out why she was running

 

ジョーダン・ファビアン筆

2016年12月22日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/administration/311591-biden-clinton-never-figured-out-why-she-was-running

 

バイデン副大統領は、ヒラリー・クリントンは大統領選挙で敗れたが、その理由の1つは、ヒラリーが大統領選挙に出馬している理由を彼女自身が理解していなかったことが挙げられると確信していると述べた。

 

木曜日のロサンゼルス・タイムズ紙に掲載されたインタヴューの中で、バイデンは「私は彼女が本当に理解していたとは思えない。話は変わるが、彼女の出馬の決断は困難なことだったと思う」と述べた。

 

選挙期間中にウィキリークスによって公開されたハッキングされたEメールの中で、ヒラリーの側近や協力者たちも非公式に同じような懸念を表明していたということをバイデンは自分の考えを補強する証拠として挙げた。

 

しかし、バイデンはヒラリーを選挙に負けたということだけで非難するのは公正なことではないとも述べた。バイデンは、ヒラリーは選挙運動中に崇高な目的を見つめていた、そして、オバマ大統領がアフリカ系アメリカ人に行ったように、女性の政界での活躍への道を切り開く義務を負っていると感じていた、と述べた。

 

バイデンは次のように語った。「彼女は出馬する以外に選択肢はないと考えたのだ。つまり、大統領に当選するかもしれない機会を与えられた史上初めての女性だったのであり、彼女にとってそれは責務であったと思う」。

 

バイデンのコメントにはオバマ政権の幹部としての直接的な批判が若干含まれている。

 

バイデン副大統領は選挙期間中、十数回にわたり、ヒラリーのために遊説を行った。

 

しかし、バイデンは、ドナルド・トランプは自分の出身地であるペンシルヴァニア州スクラントンのような白人の労働者たちが多く住む地域の人々を熱狂させて、選挙に勝利したがそれはずるいことだと感じた、とも述べた。

 

バイデンはその時の心境を次のように語った。「しまった、私たちは選挙に負けるかもしれない、と感じた。トランプに熱狂している人々は私が一緒に生まれ育った人々だった。もしくはその子供たちだった。彼らは人種差別主義者ではないし、性差別主義者でもない。しかし、私たちは彼らに語りかけなかった」。

 

バイデンは民主党全体が選挙で低調であったが、それは、「私たち民主党が、高卒の大部分が白人であるが、非白人もいる、そういった多くの人々に対して、“民主党は自分たちの抱えている問題を理解している”と思ってもらえるようにしなかったから」だと語った。

 

バイデンは、民主党の志向の中に、エリート主義が入り込んでいた、と述べた。

 

同時に、バイデンは、トランプは、ヒラリーよりも労働者階級の人々に問題解決の方策を提示することに成功している訳ではないとも語った。

 

バイデンは「私は、彼が労働者階級や中流階級の人々を理解しているとは思わない。少なくとも彼は彼らの痛みは認識している。しかし、彼は偏見、恐怖心を利用した。自暴自棄の気持ちを利用したのだ」と語った。

 

トランプは更に「トランプが人々を熱狂させる時に語った言葉には何も積極的で+なものはなかったと確信している」と述べた。

 

バイデン副大統領は民主党予備選挙でヒラリーに挑戦することを検討した。彼が予備選挙に出ていたら、自分はエリートではないというアピールと共に中流階級の人々に向けたメッセージを次々と発したことだろう。

 

しかし、バイデンは最終的には選挙に出ないという選択をした。バイデンは息子ボウの逝去を悼みながら、選挙戦を行うことはできないと述べた。

 

74歳になるバイデンは、これまで複数回の機会を軽視してはきたが、将来の大統領選挙出馬の可能性を排除することを拒絶した。

 

バイデンは、妻ジル・バイデン博士がノーザン・ヴァージニア・コミュニティ・カレッジで教鞭を執っている間はワシントンにたまに居住する計画だと明かした。

 

バイデンは、副大統領退任後に仕事を続けるために、ペンシルヴァニア大学内にオフィスを構える可能性についても説明している。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22








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 古村治彦です。

 

 今回は昨年(2015年)の9月に『』誌に掲載された記事をご紹介します。記事の著者であるアダム・ゴプニックは、2011年にホワイトハウス担当記者協会が年1回開催する夕食会に出席し、そこで目撃した情景を大統領選挙に絡めて書いています。

 

 夕食会の席上、バラク・オバマ大統領は挨拶に立ちました。その挨拶の中で、出席者の一人であったドナルド・トランプを材料にしたジョークを長々と語りました。出席者たちは大笑いでしたが、ジョークの材料となったドナルド・トランプは笑いもできず、ただこわばっていた、ということです。

 

 当時、オバマ大統領には「ケニア生まれで、アメリカの市民権を持っていない」という批判がなされていました。ドナルド・トランプもその主張をしていました。そこで、オバマ大統領はハワイ州政府に対して、自分の詳しい出生記録を公表するように求め、実際に公表された後でした。オバマ大統領としては、自分の出生の疑惑を主張したトランプを笑いものにして、うっぷんを晴らそうとしたのでしょう。それに対して、トランプは、屈辱感でこわばるほどに怒りました。

donaldtrump2011001 

 2011年のホワイトハウスでの夕食会におけるドナルド・トランプ
 

ゴプニックは、トランプの大統領選挙出馬とトランプの台頭の原動力になったのは、ホワイトハウスでオバマ大統領から受けた侮辱と恥辱(屈辱感、humiliation)だろうと推測しています。トランプ当選が現実のものとなった今、トランプを大統領にまで押し上げたのは、オバマ大統領が気軽にトランプを笑いものにした行為が原因とも言うことができ、「オバマ大統領の自業自得」です。

 

 トランプはオバマ大統領から屈辱を受けましたが、南部とラストベルトのトランプを支持した人々(大学教育を受けていない白人男性の労働者たち)もまた、屈辱感を基礎にして動いていると論稿の著者ゴプニックは書いています。民主党、共和党両党のエスタブリッシュメントから無視されているという屈辱感やもちろん、自分たちの祖父母や両親の時代に比べて生活水準が下がっているという屈辱感、外国から侮られているという屈辱感を感じています。

 

 私が翻訳した本に『野望の中国近現代史 帝国は復活する』(オーヴィル・シェル、ジョン・デルリー著、ビジネス社、2014年)があります。これは、アヘン戦争以降の歴史を中国の近代化に貢献した人々を各省で1人ずつ取り上げたもの(列伝)です。この本の背骨(バックボーン)となるテーマは、「中国はアヘン戦争以降、恥辱の世紀(a century of humiliation)を過ごしてきた(これ以降、中国は外国に侵略され、富を奪われていきました)。近代化に貢献した人々(改革者)は、この恥辱をそそぎ、富強(wealth and power)の復活を目指してきた(アヘン戦争直前まで中国は力を落としつつありましたが世界最大の経済大国でした)」というものです。

 


 トランプを支持した人々は、トランプの掲げた「アメリカを再び偉大に(
Make America Great Again)」こそが、自分たちの主張そのものだと感じ、トランプを支持しました。逆に言うと、トランプが時代の「空気」を的確につかむことに成功しました。この「昔偉大だった我が国は今凋落している。それを再び偉大にするのだ」という思考は、中国近現代史と相通じるものがあります。

 

 今回の大統領選挙のキーワードは、「屈辱感」であったと言えると思います。トランプがオバマ大統領から与えられた屈辱感、戦後アメリカの輝ける中産階級(アメリカの勝利と帝国化の富の配分にあずかった人々)の子孫の抱えている屈辱感、これらが結びつき、トランプが大統領となりました。屈辱感は大きな物事をもたらす原動力となるということは、今回の事例でまた歴史上の教訓となりました。

 

 トランプは「改革者」としてワシントンに乗り込みます。『野望の中国近現代史』をお読みいただけると分かりますが、清朝末期には改革派と守旧派の間で、激しい権力闘争があり、近代化が中途半端になってしまいました。この点では日本の幕末から明治維新にかけては、ある意味であっさりすぎるほど、近代化(西洋化)がほぼ抵抗なく受け入れられていきました。ワシントンにも守旧派が手ぐすね引いて待っています。この人々を如何に御していくか、トランプの手腕に注目が集まります。

 

(貼り付けはじめ)

 

TRUMP AND OBAMA: A NIGHT TO REMEMBER

 

By Adam Gopnik , SEPTEMBER 12, 2015

http://www.newyorker.com/news/daily-comment/trump-and-obama-a-night-to-remember

 

Once, and only once, in 2011, have I attended the annual White House Correspondents’ Association dinner in Washington, D.C., on the grounds, as I explained then, that Voltaire is said to have cited when he declined a second invitation to an orgy: once a philosopher, twice a pervert. Luckily for the philosopher in me, it turned out to be an auspicious night. Not only, as we did not know then, was President Obama in the midst of the operation that would lead shortly to Osama bin Laden’s killing; it was also the night when, despite that preoccupation, the President took apart Donald Trump, plastic piece by orange part, and then refused to put him back together again.

 

Trump was then at the height of his unimaginably ugly marketing of birther fantasies, and, just days before, the state of Hawaii had, at the President’s request, released Obama’s long-form birth certificate in order to end, or try to end, the nonsense.  Having referred to that act, he then gently but acutely mocked Trump’s Presidential ambitions: “I know that he’s taken some flack lately—no one is prouder to put this birth-certificate matter to rest than the Donald. And that’s because he can finally get back to the issues that matter, like: did we fake the moon landing? What really happened in Roswell? And—where are Biggie and Tupac?” The President went on, “We all know about your credentials and breadth of experience. For example—no, seriously—just recently, in an episode of Celebrity Apprentice”—there was laughter at the mention of the program’s name. Obama explained that, when a team did not impress, Trump “didn’t blame Lil Jon or Meatloaf—you fired Gary Busey. And these are the kinds of decisions that would keep me up at night.”

 

What was really memorable about the event, though, was Trump’s response. Seated a few tables away from us magazine scribes, Trump’s humiliation was as absolute, and as visible, as any I have ever seen: his head set in place, like a man in a pillory, he barely moved or altered his expression as wave after wave of laughter struck him. There was not a trace of feigning good humor about him, not an ounce of the normal politician’s, or American regular guy’s “Hey, good one on me!” attitude—that thick-skinned cheerfulness that almost all American public people learn, however painfully, to cultivate. No head bobbing or hand-clapping or chin-shaking or sheepish grinning—he sat perfectly still, chin tight, in locked, unmovable rage. If he had not just embarked on so ugly an exercise in pure racism, one might almost have felt sorry for him.

 

Some day someone may well write a kind of micro-history of that night, as historians now are wont to do, as a pivot in American life, both a triumph of Obama’s own particular and enveloping form of cool and as harbinger of—well, of what exactly? A lot depends on what happens next with the Donald and his followers. Certainly, the notion that Trump’s rise, however long it lasts, is a product of a special skill, or circumstance, or a new national “mood,” is absurd. Trumpism is a permanent part of American lifein one form or another, with one voice or another blaring it out. At any moment in our modern history, some form of populist nationalism has always held some significant share—whether five or ten per cent – of the population. Among embittered white men, Trump’s “base,” it has often held a share much larger than that. Trump is not offering anything that was not offered before him, often in identical language and with a similarly incoherent political program, by Pat Buchanan or Ross Perot, by George Wallace or Barry Goldwater, or way back when by Father Coughlin or Huey Long. Populist nationalism is not an eruptive response to a new condition of 2015—it is a perennial ideological position, deeply rooted in the nature of modernity: a social class sees its perceived displacement as the result of a double conspiracy of outsiders and élitists. The outsiders are swamping us, and the insiders are mocking us—this ideology alters its local color as circumstances change, but the essential core is always there. They look down on us and they have no right to look down on us. Indeed, the politics of Trump, far from being in any way new, are exactly the politics of Huck Finn’s drunken father in “Huckleberry Finn”: “Call this a govment! Just look at it and see what it’s like . . . . A man can’t get his rights in a govment like this.” Widespread dissatisfaction with all professional politicians, a certainty of having been “sold out,” a feeling of complete alienation from both political parties—“Not a dime’s worth of difference between them” was George Wallace’s formulation, a half century ago—these are permanent intuitions of the American aggrieved. The feelings may be somewhat aggravated by bad times, or alleviated by good ones, but at the height of the prosperous fifties a significant proportion of Americans were persuaded that the entire government was in the hands of saboteurs and traitors at the pay of a foreign power, while in the still more prosperous nineties a similar faction was persuaded that the liberal President was actually a coke dealer who had murdered a friend.

 

Nor is it at all surprising to find a billionaire businessman representing this ideology, because it is not really members of the economic élite who are its villains—it is the educated élite, and the uneducated outsiders, who are. It is, on the historical record, much more a response to the ceaseless anxieties of modern life than to any financial angst of the moment. Probably the best student of this modern ideology is the conservative historian John Lukacs, whose 2005 book “Democracy And Populism: Fear and Hatred” makes clear how different the nationalist formula is from patriotism properly so called: it rests not on a sense of pride in place or background but in an intense sense of victimization. The cry of the genuine patriot is “Leave us alone to be the people we have always been.” The populist nationalist cries, “We have been cheated of our birthright, and the Leader will give it back.”

 

The ideology is always available; it just changes its agents from time to time.

 

And this is where memories of the President’s performance come into play and take on a potency that one might not have understood at the time. For the politics of populist nationalism are almost entirely the politics of felt humiliation—the politics of shame. And one can’t help but suspect that, on that night, Trump’s own sense of public humiliation became so overwhelming that he decided, perhaps at first unconsciously, that he would, somehow, get his own back—perhaps even pursue the Presidency after all, no matter how nihilistically or absurdly, and redeem himself. Though he gave up the hunt for office in that campaign, it does not seem too far-fetched to imagine that the rage—Lukacs’s fear and hatred—implanted in him that night has fuelled him ever since. It was already easy to sense at the time that something very strange had happened – that the usual American ritual of the “roast” and the roasted had been weirdly and uniquely disrupted. But the consequences were hard to imagine. The micro-history of that night yet to be written might be devoted largely to the double life of Barack Obama as cool comedian and quiet commander—or it might be devoted to the moment when new life was fed into an old ideology, when Trump’s ambitions suddenly turned over to the potent politics of shame and vengeance. His even partial triumph in the primary still seems unlikely—but stranger jokes have been played on American philosophers over the centuries.

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)









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