古村治彦です。

 アメリカのジョー・バイデン政権は、学生ローン(student loan)返済免除計画を発表した。現在、学生ローンを抱えている人は全米で4300万人おり、その平均額は日本円で400万円程度である。1000万円、2000万円と借りている人たちもいる。この返済が若い世代に大きな負担となっている。これは日本でも全く同じ構図となっている。日本育英会の「奨学金(scholarship)」は「学生ローン」であり、無利子ならまだしも、有利子で返済しなければならない種類のものがある。昔は教職に就くと返済免除となったが今はそういう制度はないし、大学を出ても高給の仕事に就ける保証はなく、就職がうまくいかなければ返済は大変厳しいことになる。

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計画について記者会見するスーザン・ライス国内政策委員長

 今回の計画では一般的な学生ローンの借り手の場合は1万ドルを返済免除する、低所得世帯出身(ペル・グラントという連邦政府の奨学金を受けられた人たち)の場合には2万ドルを返済免除とするということだ。現在の所得が単身者の場合は12万5000ドル、夫婦の場合には25万ドル以上の場合にはこの恩恵を受けられない。対象者4300万のうち、90%以上が世帯所得7万5000ドル以下なので、ほとんど(約4000万人)が恩恵を受けることになる。

 今回の発表は中間選挙前のバラマキということになる。学生ローンの返還免除については2020年の米大大統領選挙の民主党予備選挙でもテーマとなった。アメリカ中西部インディアナ州出身のピート・ブティジェッジなどが反対姿勢だった。民主党内部にも学生ローン返済免除計画には反対の声がある。「大学卒業生という、国民の一部の、高所得の職に就いている恵まれた人たちの負債を和らげるために納税者のお金を使うのはおかしい」ということになる。より直接的に言えば、ブルーカラー労働者の税金をホワイトカラー高所得者のために使うのはおかしいということになる。また、前の世代でローンを完済した人たちからすれば、「自分たちだって大変な苦労をして返済したのに、現在ローンを返済している人たちだけというのはズルい」ということになる。

 現在、中間選挙の情勢は連邦上院では接戦、連邦下院では共和党有利となっている。そうした中で、選挙が近づき、民主党側としては何とか挽回したい。インフレイションが続き、人々の生活が苦しい中で、今回の学生ローン返済免除の話が出てきた。これをアメリカ国民がどのように判断するかである。日本でも返済しなければならない奨学金(学生ローン)の負担は若い世代で問題になっている。アメリカの動きを注視しながら日本について考え行く必要がある。

(貼り付けはじめ)

バイデンの学生ローン免除計画についての心に引っかかる5つの疑問(Five lingering questions on Biden’s student loan forgiveness plan

アレックス・ガンギターノ筆

2022年8月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3616040-five-lingering-questions-on-bidens-student-loan-forgiveness-plan/

ジョー・バイデン大統領は、ペル・グラント(Pell Grant、訳者註:連邦政府による返還不要の奨学金制度)受給者に対しては最大2万ドル(訳者註:ペル・グラント利用者[1人当たりの支給額が400ドルから4000ドルと幅がある]は世帯収入が年間2万ドル以下と低所得であるため、ペル・グラントだけではなく他に学生ローンを利用している場合がほとんどである)、その他の学生ローン利用者は1万ドルを免除するという計画を発表した。これは、民主党所属の連邦議員の多くからは喝采を浴び、共和党所属の議員たちからインフレイションを助長するだけだと嘲笑を浴びるという形で、物議を醸している。

アメリカ史上最大規模の学生ローン免除計画この取り組みの効果に関しては多くの疑問も残されている。

ここでは、その中から5つを紹介する。

(1)インフレイションを助長するか?(Will it raise inflation?

バイデン大統領の計画は、既に40年来の高いインフレイション率にマイナスの影響を与える可能性があるとして、直ちに非難を浴び、エコノミストの中には高いインフレイション率をもたらすと警告している人たちもいる。また、何らかの影響があっても、それはごくわずかなものであろうという意見もある。

共和党がインフレイションを理由にしてホワイトハウスを叩く一方で、この計画が実際にインフレイションを引き起こす可能性があるという批判は、少なくともバイデンの政治上の味方の中からも出ている。

ハーヴァード大学教授で、オバマ大統領のトップ経済顧問を務めたジェイソン・ファーマンは水曜日、「既に燃え上がっているインフレイションの火に、およそ5000億ドルのガソリンを注ぐなどは無謀なことだ」と述べた。

ホワイトハウスは、連邦学生ローンの数年にわたる支払い猶予を今年12月31日まで延長する一方で、猶予は2023年1月に終了するため、インフレイションのリスクは軽減されると主張している。政府関係者たちは、ローンの支払い再開と緩和措置の組み合わせにより、インフレイションの影響は基本的にゼロになると主張した。

学生ローン返済の一時停止は、インフレイションを助長するプログラムだと考えられてきたが、他の景気刺激策や新型コロナウイルス感染拡大時に消費者たちがお金を節約したことがより大きな要因であると考えられる。

超党派政策センターの高等教育政策担当副所長ケヴィン・ミラーは「学生ローンの返済が一時停止されたことで、おそらく少しはインフレイションになったことは明らかだ。経済から引き上げられるはずだったお金が人々のポケットに残った」と述べている。

(2)大学はこれに応じて授業料を上げるだろうか?(Will colleges raise tuition in response?

オブザーヴァーの多くは、大学がバイデンの動きに呼応して授業料を上げるかどうか、疑問を持っている。その根拠は免除がより増大するかもしれないというものだ。

ケイトー研究所政策アナリストのニール・マクロウスキーは次のように述べている。「一旦ローンを免除したり取り消したりすると、大々的に重要な前例を作ってしまうことになり、今後の人々に期待や妥当な議論が起きてしまう。人々が、自分のローンを返済する必要がない、あるいは全額返済する必要がないと思えば、もっとローンを組もうとする動機になる」。

また、授業料に直ちに大きな影響を与えるかどうかは疑問だ。 

カリフォルニア大学アーバイン校の学生ローン法担当部長ダリエ・ジメネズは、「ほとんどの学校は基本的に多層的な組織だ。授業料を設定する過程では、非常に多くの入力があるため、平均的あるいは全体的に何らかの即時効果があるかどうかは分からない」と述べた。 

米教育省は、悪質な業者に対して「警戒」し「特別に集中」し、学生負債危機を助長した大学の責任を追及する方法として、負債レヴェルが最悪の教育機関の「監視リスト」を毎年発表する予定であると当局者は述べている。

(3)法廷闘争に耐えられるか?(Will this stand up to court challenges?

バイデンの取り組みに対する法廷での異議申し立てが予想されるが、その正確な内容はまだ明らかになっていない。

ホワイトハウスのキャリーン・ジャン=ピエール報道官は木曜日、ホワイトハウスはその法的権限に自信を持っており、この措置は法廷でも持ちこたえられると述べた。

ホワイトハウスが指摘する法的権限は、2003年の「ヒーローズ法(HEROES Act)によるもので、新型コロナウイルス感染拡大のような国家的緊急事態により、借り手が経済的に悪い状況に置かれないようにするために必要と思われる一定の行動を取る権限を教育長に与えるものである。

ニール・マクロウスキーは、新型コロナウイルス感染拡大時に学生負債を抱える人々がより悪い状況に置かれたことは明確ではないと述べた。 

「大卒者は、仕事を続けることができたので、新型コロナウイルス感染拡大やそれに伴う経済問題、ロックダウンの悪影響から最も隔離されていたようなものだ」とマクロウスキーは語っている。

マクロウスキーは続けて「それは、彼らは仕事を続けることができたからだ。彼らは、ローンが凍結されたことで、より良い生活を送ることができている」と述べた。

また、マクラスキー氏は、バイデンが「基本的にお金を充当している(essentially appropriating money)」と問題提起し、これは連邦議会に属する権限であるとした。しかし、民主党が過半数を握っている連邦議会は、それに異議を唱えることはないだろうと指摘した。

「ローンというのは、返さなければならない政府からのお金のことを言う。今は返さなくてもいいということになると、ローンを補助金に変えてしまうことになる」と述べた。

民主党のクリス・パパス連邦下院議員(ニューハンプシャー州選出)は、この決定について、「連邦議会と私たちの監督・財政責任を回避している」と述べた。

(4)誰に資格があり、そしてないのか?(Who is in and out in terms of eligibility?

この政策は、ローンの借り手のごく少数、ローンを抱えている人たちの5%程度と推定されるが、この人たちを除外しているように見える。

この制度は、所得水準によって対象者に上限を設けており、単身者の場合は12万5000ドル、夫婦の場合は25万ドルとなっている。

ホワイトハウスによると、対象となる全員が救済を申請した場合、4300万人の連邦学生ローンの借り手が恩恵を受け、その90%近くが世帯所得7万5000ドル以下なので、それらの借り手に行き渡ることになるという。

(5)誰が支払うのか?(Who pays for it?

納税者がこのプログラムのツケを払うことになるが、その金額がいくらになるかは明らかではなく、ホワイトハウスはこの問題についての質問を避けている。

木曜日のホワイトハウスでの記者会見で、記者たちがジャン=ピエールに費用の見積もりを求めたが、彼女は、どれだけの借り手がこの申し出に応募するかは不明だと言ってはぐらかし、その場をしのいだ。

ホワイトハウスは、バイデンが赤字削減のために取ったとする他の政策で浮いたお金が、ローン免除の予算となって全額支払われると主張している。

共和党側は、消え去ることのない政治的問題を提起し、攻撃に転じている。

ベン・サッシー連邦上院議員(ネブラスカ州選出、共和党)は、この計画は「ブルーカラー労働者にホワイトカラーの大学院生を助成することを強いる計画(scheme” that “forces blue-collar workers to subsidize white-collar graduate students)」であると述べた。サッシー議員と他の共和党所属の連邦議員たちは、所得水準が12万5000ドルと25万ドルに制限されていることから、この計画は富裕層を助けることになるとも主張している。

連邦上院少数党(共和党)院内総務のミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、この決定について、高所得のアメリカ人に有利になる、富の「乱暴な不公平配分(wildly unfair distribution)」であり、借金返済のために犠牲を払った労働者たちに対する「平手打ち(slap in the face)」であると主張した。

民主党が中間選挙で共和党に負けるのではと心配すると考えられるグループであるブルーカラー労働者たちに、両者の主張がどう響くかは、今年11月の選挙で注視されるところだ。

バイデンは、特にマイノリティーのコミュニティで、共和党からの政治的打撃を回避するために、十分な数の人々が免除を支持するであろうことに賭けている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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