古村治彦です。

 

 2018年11月6日、アメリカで中間選挙(Midterm Elections)の投開票が行われました。連邦下院全議席(435)、連邦上院の約3分の1(33+2[特別選挙])、半数以上の州知事選挙が行われました。

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朝日新聞のウェブサイトから

 

 結果は、連邦上院では共和党が52議席を獲得し、過半数から更に1議席を積み増し、ということになります。非改選は共和42、民主23ですから、もともと共和党に圧倒的に有利な状況ですが、それでも過半数を抑えたという事実は大きいことです。

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連邦上院議員選挙結果(Real Clear Politicsから) 
 

 連邦下院は民主党が大勝利、地滑り的とまでは言えないにしても、完勝ということが言えます。まだ全議席が確定していないのですが、民主党が共和党の議席を30議席程度ひっくり返した結果で、過半数の218を10程度超える229議席を獲得する見通しになっています。

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連邦下院議員選挙結果(Real Clear Politicsから)

 州知事選挙では、民主党が逆転した州が7、共和党が逆転した州が1で、それまで共和党が圧倒していたのが民主と共和が拮抗に近い状態となりました。私が翻訳した『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年)の主人公、チャールズ・コーク、デイヴィッド・コークが支援していたウィスコンシン州知事スコット・ウォーカー(共和党)は落選しました。

 

 2008年以降の選挙では、民主党がオバマ大統領の当選、連邦上下両院で大きく過半数を超える地滑り的大勝利となりました。オバマ政権下ではその後、連邦議会では共和党が勢力を回復し、2010年以降、連邦下院では過半数を大きく上回り、2014年以降は連邦上院でも過半数を獲得する状況となりました。2016年の選挙では、トランプ大統領勝利、連邦上下両院で過半数を維持という結果になりました。今回、連邦下院で民主党が過半数を獲得し、これからは、大統領は共和党、連邦上院過半数は共和党、連邦下院過半数は民主党ということになります。

 

 連邦上院は土地を代表する選挙システム(州の規模に関係なく各州2名ずつ)ということになります。この場合、共和党の優勢な、人口の少ない州が有利となります。日本で言うと、一票の格差がどれだけあるんだという話になりますが、州を代表するということで、アメリカ連邦を構成するカリフォルニア州もノースダコタ州も平等ということになります。共和党が優勢な州は「赤い州(レッドステイト)」、民主党が優勢な州は「青い州(ブルーステイト)」と呼ばれていますが、レッドステイトが20以上あるということは、連邦上院で40議席以上は固いということになり、共和党に有利な状況がこれからも続いていくことでしょう。

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赤色が共和党優勢、青色が民主党優勢、紫色が激戦州

 

 連邦下院は人間の数を代表する選挙システム(人口に基づいて区割り)です。ゲリマンダーという言葉を覚えている人も多いと思いますが、この区割りは各州の裁量に任されており、その州で優勢な政党に有利なように区割りされるという場合もあります。連邦下院は2年ごとに全議席が選挙されるので、連邦下院議員は大変です。2年ごとに選挙があるので、政治に野心がある人が予備選挙から挑戦してきますし、本選挙となれば相手の党と戦わねばなりません。連続して当選するということは大変なことです。

 

 ドナルド・トランプ大統領にとっては今回の選挙は、敗北でありましたが、実質的には勝利ということになります。まず、共和党は連邦上院で民主党の議席を4議席(フロリダ、インディアナ、ミズーリ、ノースダコタ)ひっくり返しました。民主党がひっくり返したのは1議席(ネヴァダ)です。これで過半数以上、52議席が確定しました。共和党が議席をひっくり返した4州は2016年の大統領選挙でトランプ大統領が勝利した州であり、共和党が優勢州と激戦州とされる集です。民主党が議席をひっくり返したネヴァダ州は民主党が優勢で、2016年の大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントンが勝利しています。党派性が色濃く出た結果と言えるでしょう。

 

 トランプ大統領が様々なスキャンダル、疑惑に晒されているのは日本でも報道されています。ロシア疑惑、脱税疑惑、不倫疑惑などですが、大統領を訴追する権限は連邦下院に与えられています。一方、訴追された案件を裁判する権限は連邦上院に与えられています。正確には大統領だけではなく、大統領だけではなく、連邦判事や閣僚、連邦議員たちを含む公務員もこの権限の対象となります。

 

 トランプ大統領にとっては連邦下院で訴追決議がされても、連邦上院で裁判が行われ、弾劾決議が出るという可能性は減少しました。これはトランプ大統領にとってはかなり安心できる状況です。また、連邦上院は大統領が提案する公務員の人事を承認するかどうかの権限も持っています。連邦下院にはありません。FRB議長や連邦最高裁判事、閣僚といったアメリカにとって重要な人事が行われる際にはマスコミでも大きく報道されます。人事権に関しても、連邦上院で過半数を取ることで確保されたということが言えます。テキサス州で何とか再選されたテッド・クルーズが象徴するように、トランプ大統領の応援によって当選した議員たちが多くなっているので、彼らはトランプ大統領に反抗することはできません。

 

 トランプ大統領は、早速、ジェフ・セッションズ司法長官を更迭しました。セッションズは、ロシア疑惑がここまで大きくなることに関して何もしなかった、逃げた、オバマ大統領時代からの官僚が多くおり、反トランプの牙城とも言うべき司法省を抑えることが出来なかった、というのが更迭の理由でしょう。また、ジェイムズ・マティス国防長官、ジョン・ケリー大統領首席補佐官といった高級軍人出身者たちの更迭の噂も出ています。

 

 一方で、トランプ大統領は、連邦下院民主党に対して協力を呼びかけました。確かに、トランプ大統領のいくつかの政策は、民主党にとっても受け入れられる、推進したい政策です。トランプ大統領を押し上げた、ラストベルトと呼ばれる工業地帯の白人労働者たちは、元々は労働組合に加入して民主党を支持していた訳で、この点ではトランプ大統領と民主党は協調できる関係にあります。1980年代に日米間で貿易摩擦が起きましたが、その時に日本車を叩き壊していたのは、自動車産業が盛んなラストベルトの州を地盤とする民主党の議員たちでした。共和党はもともと自由貿易を主張しています。ここで「捻じれ」が起きてしまいます。

 

 今回の中間選挙では、アメリカのマスコミはpolarizationという言葉をキーワードに使っていました。分極化、党派争いの激しい状況、お互いがお互いを否定し合って馬鹿にし合って話ができない状況ということです。今の日本もそういう状況にあると思いますが、アメリカでは、これではいけないという動きも出ているようです。そのために選挙制度の変更という話も出ています。日本では単純に二大政党制にすることが改革だ、決められる政治だとする風潮がありますが、現在のアメリカをよく見て、それで良いのかを考えるべきです。

 

 今回の選挙結果では、有権者の投票志向は民主党に向かっていたということが出来ます。これはトランプ大統領に対しての批判ということになります。連邦上院で共和党が過半数を獲得したことは、もともと非改選で共和党が42議席を保持していたことを考えると、そこまで大きなことではないとも言えます。しかし、トランプ大統領は訴追弾劾を避けることができる、人事権を掌握できるということで、「まぁこの辺が満足すべきところだろう、連邦下院が少し負けすぎだけどな」という結果になったと思われます。

 

 民主党は、テキサス州の連邦上院議員選挙でビトー・オロークが勝利していれば、一気に大統領選挙の候補者にまでなったかもしれませんが、ライジングスターは生まれませんでした。党の中にはいまだに分裂があり、今回の勝利を楽観することはできません。

 

 上記のように考えると、トランプ大統領という人は、とても運が良い人ということになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「トランプ政権「米国第一」継続へ ねじれ議会と対立必至」

 

11/7() 21:10配信 朝日新聞デジタル

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181107-00000087-asahi-int

 

 トランプ米大統領の任期前半の信任が問われた中間選挙が6日に投開票され、連邦議会下院では野党・民主党が都市部や郊外の選挙区で票を伸ばし、8年ぶりに過半数を奪還した。一方で、上院は与党・共和党が現有よりも議席を伸ばす勢いで、上下院で多数派が異なる「ねじれ議会」となる。トランプ氏はこれまで通り「米国第一」主義の政策を進めるとみられるが、下院と対立するのは必至だ。

 

 下院(任期2年)の435議席すべてと、上院(任期6年、定数100)のうち35議席が改選された。トランプ氏が就任後初めて国民的な審判を受ける今回は、上下両院で共和党が過半数を維持できるかが最大の焦点だった。下院は、民主が改選前の193議席から大幅に積み増し、過半数の218議席以上となった。ABCの出口調査では、トランプ氏の支持は44%、不支持は55%で、この支持率が議席に反映された。

 

 民主は女性や若者、黒人や移民、性的少数者らに訴え、「反トランプ氏票」を掘り起こし、党のイメージ色にちなんだ「ブルーウェーブ」(青い波)を起こす戦略をとった。支持基盤の都市部に加え、バージニア州やペンシルベニア州、フロリダ州などの郊外の選挙区で、女性候補が共和党現職を破った。民主が下院を奪還するのはオバマ政権の2010年以来となる。

 

 民主党が下院で多数派となり、下院議長や外交、歳入など全委員長ポストを独占する。トランプ氏や側近のスキャンダル・疑惑を議会で追及できるほか、大統領には法案や予算の提出権限がないため、「ねじれ議会」でトランプ氏は民主党と対立する政策を実現しにくくなる。民主下院トップのペロシ院内総務は、ワシントンの集会で「(今日の勝利は)民主党や共和党を超えたもの。憲法を回復させ、トランプ政権の専制をチェックする」と話した。

 

 一方、共和党とトランプ氏は、劣勢だった下院よりも、過半数を維持しやすい上院の選挙区を重視する戦略をとった。全100議席のうち今回選挙になったのは35議席(二つの補選を含む)。共和は改選されない議席を42持っていたため、あと8議席を取れば、過半数を維持できるためだ。

 

 トランプ氏は2016年の大統領選当選の原動力となった中西部や南部の激戦州をまわり、好調な経済と株高、歴史的な失業率の低さを政権の成果としてアピールした。選挙戦終盤には中米からの「移民キャラバン」を犯罪と結びつけて恐怖をあおる手法で保守的な支持層を固めた。トランプ氏が指名した保守的な最高裁判事が承認されたことも、追い風になったとみられる。

 

 インディアナ、ミズーリ、ノースダコタの各州で民主現職から議席を取り返した。米CNNによると、日本時間8日午前0時半現在で共和51、民主45。トランプ氏は7日早朝、「昨晩の大勝利にたくさんの祝福が届いている。私が通商交渉に取りかかるのを待っている外国からもだ。さあ、仕事に戻ってやり遂げるぞ!」とツイートした。

 

 36州であった知事選は、同時刻現在、民主が少なくとも6州で取り返した。州知事は州の予算配分などに大きな権限を持ち、10年ごとの下院の選挙区見直しなど、選挙行政にも影響力がある。(ワシントン=香取啓介)

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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