アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 本日は、ゴールデンウィーク中にあった動きの中で、私がおやっと思った内容を皆様にお話ししたいと思います。

 

 ゴールデンウィーク中、日本の政治家の多くが海外に行きます。まとまった時間が取れるので日頃は行けない場所や会えない人たちに会うということをやります。しかし、その実態は多くがアメリカに「おのぼりさんツアー」に行くということになっています。

 

 自民党幹事長で、ポスト安倍の一番手でもある石破茂代議士もまたアメリカを訪問し、ジョー・バイデン副大統領と会談しました。私は、これはポスト安倍に向けた、一種の「面接試験(job interview)」であったと思います。

 

 石破幹事長は、訪米中に、ハーヴァード大学名誉教授のエズラ・F・ヴォーゲル(Ezra F. Vogel)氏とも会談しました。以下にその時の様子を伝える記事を掲載します。会談の中で、石破氏が「日中首脳会談を行うチャンネルがない」と吐露し、ヴォーゲル教授から「中国側からシグナルがある」という発言がありました。

 

 そして、ゴールデンウィーク中に訪中していた高村正彦自民党副総裁が張徳江前獄人民代表者大会常務委員会委員長(中国共産党中央政治局常務委員序列3位)と会談することになりました。その会談内容はいつものように平行線であったようですが、中国の最高指導部層との階段が実現したことは大きな事であったと思います。

 

 私は、石破幹事長に対してヴォ―ゲル教授が話した「中国からシグナルがある」の第一弾がこの張徳江全人代常務委員長が会談に応じるということであったと思います。日中両国に関して専門家であるヴォーゲル教授の力というか、存在感を見たように私は感じました。

 

ヴォ―ゲル教授に関しては、私も拙著『ハーヴァード大学の秘密』(PHP研究所、2014年)で取り上げております。ここで簡単にご紹介したいと思います。ヴォーゲル教授は1930年に米国オハイオ州に生まれました。1958年にはハーヴァード大学で社会学を専攻し、博士号を取得しました。1967年からハーヴァード大学教授(社会学)となり、1972年から1977年までハーヴァード大学東アジア研究所長、1977年から1980年までハーヴァード大学東アジア研究評議会議長、1980年から1988年までハーヴァード大学日米関係プログラム所長、1995年から1999年までハーヴァード大学フェアバンク東アジア研究センター所長などを歴任しました。

 

ヴォーゲルは、1958年から1960年にかけて、千葉県柏市に住みながら、日本の郊外に住むサラリーマンやその家族と交流しながら観察を行い、その成果を『日本の新中間階級―サラリーマンとその家族』(佐々木徹郎訳、誠信書房、1968年)として発表しました。この時、一緒に日本で生活していた息子のスティーヴン・ヴォ―ゲルもまた、日本専門の研究家となり、現在はカリフォルニア大学ハークレー校教授を務めています。

また、1979年に刊行された『ジャパン・アズ・ナンバーワン アメリカへの教訓 』(広中和歌子、木本彰子訳、TBSブリタニカ)は、日本で70万部を超えるベストセラーになりました。いわゆる「日本論」の分野では史上一番売れた本です。

 

ヴォーゲルは、1993年から1995年まではCIA国家情報会議(CIAの分析部門)の東アジア担当の国家情報官を務めました。民主党系の人材であると言えます。

 

しかし、ヴォーゲル教授はただの日本専門家でありません。戦後すぐにハーヴァード大学で東アジア研究をけん引したのは、中国研究のジョン・フェアバンクスであり、日本研究のエドウィン・ライシャワーでした。彼らが開いていた東アジア研究の講座は「田んぼ講座」と呼ばれ、多くの研究者たちが巣立っていきました。彼らは東アジア(と言っても、中国と日本が中心ですが)の専門家として、言語や歴史を叩きこまれました。この世代の人々は日本語と中国語、更には韓国語を全て習得したような研究者たちがたくさんいます。

 

 ヴォーゲル教授もただの日本専門家ではなく、現在は中国の研究にシフトしています。中国側はヴォーゲル教授の日本に関する研究、特に経済成長期の日本社会の研究の成果を利用していると思われます。現在の中国がまさに奇跡の経済成長を行っている最中ですから、ヴォーゲル教授の研究成果や日本に関する知識は彼らにとって貴重なものです。

 

 振り返ってみて、こうしたことを今の知日派、ジャパンハンドラーズができるでしょうか。具体的な名前を挙げれば、マイケル・グリーンやジェラルド・カーティスといった人々が日中両国の関係改善に動けるでしょうか。彼らは日本を操るだけのことで、言ってみれば、下っ端に過ぎません。ヴォーゲル教授はもう一段上の仕事をしている、私にはそう見えます。一流と三流の違い、をまざまざと見せつけらたと私は感じました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「「誰と話をすれば…」と日中関係で石破氏 E・ヴォーゲル氏と会談」

 

MSN産経ニュース 2014.5.3 21:52 [日中関係]

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140503/stt14050321520004-n1.htm

 

 自民党の石破茂幹事長は2日(日本時間3日)、日中双方の国情に詳しい米ハーバード大のエズラ・ボーゲル名誉教授とボストンで会談し、日中関係改善の難しさを指摘した。「誰と話をすれば効果的なのか、どのパイプと関係をつくると首脳会談が実現するのかが見えない」と述べた。

 

 同時に「中国は環境分野などで悩みを抱えている。中国が安定的に発展するのが重要だ。日米が協力して中国を支えたい」と強調した。

 

 ボーゲル氏は「11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)までには、中国側から関係改善のサインが出る」との見通しを示した。(共同)

 

●「中国ナンバー3と5日会談へ 高村・自民副総裁ら」

 

日本経済新聞電子版 2014/5/4 22:22

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0401B_U4A500C1PE8000/

 

 【北京=島田学】超党派の日中友好議員連盟の高村正彦自民党副総裁らは4日、中日友好協会会長の唐家璇元外相と北京市内で会談した。唐氏は、中国共産党序列3位の張徳江・全国人民代表大会委員長との会談を5日に調整していると伝えた。張氏は習近平国家主席と李克強首相に次ぐ立場で国会議長に当たる。昨年3月の就任後、日本の議員と会うのは初めて。

 

 唐氏は「日中関係を重視する中国側の方針は不変だ」としながら、「安倍内閣は戦後の歩みを変え、日本の安全保障政策を大きく変えようとしている」と述べた。日本側からは、11月に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場を念頭に戻す」と強調。安倍晋三首相と習氏の会談を早期に実現する必要性も訴えた。訪中団には岡田克也民主党元代表、北側一雄公明党副代表らが参加した。6日に帰国する。

 

●「日中議連の高村氏、張氏と尖閣・歴史で激しい応酬 日中首脳会談の道筋みえず」

 

MSN産経ニュース 2014.5.6 08:07 1/2ページ)[日中関係]

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140506/plc14050608000003-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140506/plc14050608000003-n2.htm

 

 日中友好議員連盟会長の高村正彦自民党副総裁らと中国の張徳江全国人民代表大会常務委員長の5日の会談は、日中関係改善の必要性では一致したものの、歴史認識や尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐり意見は対立したまま。日中首脳会談の実現に向けた道筋は見えてこない。

 

 高村氏「中国が現状を力で変えようとしていると日本国民は思っている」

 

 張氏「中国固有の領土であり絶対に譲れない」

 

 高村氏「われわれが一方的に応えるのではなく、首脳会談の実現には相互の努力が必要だ」

 

 尖閣諸島をめぐり高村氏は張氏と激しく応酬した。中国の政治局常務委員の中で習近平国家主席、李克強首相に次ぐ序列3位の張氏との会談を前にして、高村氏は「中国側も今のままでいいと思っていないから会談をセットしたのだろう」と記者団に語っていた。

 

 今回の訪中は、昨年12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝以降、途絶えている政府間の交流再開の糸口を探る狙いがあった。中国側が関係改善に前向きな姿勢をみせたことに「日米同盟を強化する安倍首相の取り組みが奏功した」(日本政府関係者)などの見方も広がっていた。

 

 ただ、中国側は安倍首相の欧州歴訪の裏で高村氏らと接触するなど、首脳交流と議員外交を区別しているのは明らか。高村氏は会談後の記者会見で「張氏と極めて率直で厳しく話をしたが、訪中の成果は今後の成果をみないと分からない」と強調した。(北京・水内茂幸)

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)