古村治彦です。

 今年8月、アメリカのジョー・バイデン政権は連邦政府による学生ローンについて、返済を免除するという発表を行った。約4300万人が対象になると言われている。連邦政府が貸し付けている学生ローンの内で最高で1万ドル、ペル・グラントという種類の学生ローンの場合には2万ドルが帳消しの対象となる。学生ローンの徳政令ということになる。

 アメリカの大学教育、大学院教育の学費は高い。安い州立大学もあるが、そこでは学校案内に記載されている授業が実際には開講されないということもあって、教育のレヴェルが高くない。高い大学教育を受けようと思えばどうしてもお金がかかる。給付型の奨学金を得られることが出来ればよいが、当然のことだがそれは成績が優秀な学生たちに限られる。大学教育を受けようと思えば、どうしても学生ローンからの借り入れということになる。大学学部教育4年間に大学院まで利用すれば、その総額は日本円で1000万円を軽く超えることになる。学部を卒業して学士号を取得する段階で、数百万円の借金を背負うということはざらだ。現在はインフレであり、借金の額自体は相対的に小さく感じられるようになるが、それでも返済は当然のことながらきつい。

 そこでバイデン政権はこうした学生ローンの返済に苦しむ人々からの支持を得ようとして、学生ローン徳政令の計画を発表した。この計画については共和党と民主党の一部から反対の声が挙がっている。反対の理由は極めて単純で、「国民全体ではなく、一部のために税金を使うことには反対だ」「大学を出ないで働いている労働者も納めている税金を原資にして、エリートである大学卒業者の借金を棒引きにするのは間違っている」というものだ。

 アメリカでは金利引き上げによって住宅ローンの金利も上がり、返済に苦労している人々も多い。学生ローン返済と住宅ローン返済を比べてみれば、住宅ローン返済を軽減させた方が良いということになるが、それだけの予算をつけることは難しい。返済不能者が多く出るようになれば、住宅や土地の価格は下がり、アメリカの不動産バブル崩壊ということになる。これが景気後退の引き金を引けば、物価高での景気後退というスタグフレイションということになる。

 大卒者というカテゴリーで見ると、民主党支持が多いという結果が出ている。中間選挙に向けて、大卒者の支持を固めようという民主党側の意図はミエミエであるが、そう言ったことは、アメリカ国民は既にお見通しだ。このような弥縫策などでは焼け石に水ということになる。アメリカ国民の最大の関心事は経済、特に物価高への対応だ。ドル高状況にして、輸入品の価格を下げようとしているが、一番の物価対策はウクライナ戦争の早期停戦だ。しかし、アメリカはウクライナ戦争に多くの予算と武器を投入している。これではアメリカ国民を苦しめて、軍産複合体を肥太らせるということをやっているだけのことだ。

 学生ローン徳政令はそれほど大きな効果は持たないだろう。

(貼り付けはじめ)

バイデン大統領の学生ローン返済免除計画は民主党を含む連邦議員を分裂させる(Biden’s student loan forgiveness plan divides elected officials, including Democrats.

ジョナサン・ワイズマン、マギー・アスター筆

2022年8月25日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/live/2022/08/25/us/primary-elections-midterms

ジョー・バイデン大統領が水曜日に発表した、何百万人ものアメリカ人のために何千ドルもの大学の借金を帳消しにするという大統領令は、民主党の候補者たちを、彼の政権の他の政策と同様に分裂させることになった。一部の民主党所属の政治家たちは、この計画を利用して、自分の州や選挙区で大きな負担になる可能性のある大統領から距離を置くようにしている。

大統領による発表への反応は人種や世代によって大きく分かれ、アフリカ系の候補や若い有権者たちは賛成する傾向が強く、中道派の民主党の政治家たちは批判的な傾向が強かった。しかし、厳しい選挙戦に臨む民主党の候補者の間では、その反応について一貫性がほとんど見られなかった。

ジョージア州選出のラファエル・ウォーノック連邦上院議員とウィスコンシン州選出のマンデラ・バーンズ副知事は、ともに黒人で来年の連邦上院議員選挙での当選を目指しているが、大統領の計画への支持を表明している。ネヴァダ州のキャサリン・コルテス・マスト連邦上院議員は、再選に向けて厳しい戦いを強いられている民主党所属の政治家であるが、穏健派で融和的な姿勢を取っているが、大統領の計画に対して非常に批判的だ。

しかし、アリゾナ州選出のマーク・ケリー連邦上院議員は、超党派から支持を集める穏健派としてこの州での再選を目指すもう一人の民主党議員であるが、彼はこの計画を支持した。

ペンシルヴァニア州のジョン・フェッターマン副知事は、労働者階級の有権者たちにアピールすることを望んでおり、学生ローン免除の動きは、政策立案者に忘れられがちなペンシルヴァニア州に住む、苦境にある人々を救済するものだと賞賛している。一方、労働者階級の代弁者として連邦上院選に立候補したオハイオ州選出のティム・ライアン連邦下院議員は、既に成功への道を歩んでいる人々への贈り物であり、高等教育から締め出されたオハイオ

ライアン下院議員は、声明の中で「大学教育がチャンスを広げるものであることは間違いないが、既に経済的に安定していて、軌道に乗っている人たちに借金を免除することは、学位を持たずに同じように懸命に働いている何百万人ものオハイオ州民に対して間違ったメッセージを送ることになる」と述べている。

債務救済令をめぐる激しい対立は、計画が検討されていた期間や、この問題が10年以上前のウォール街占拠デモでの叫びから2020年のバイデン選挙公約に至るまでの長い道のりを考えると、やや意外なものとなっている。

この計画の出所は、ヴァーモント州選出のバーニー・サンダース連邦上院議員(無所属)やマサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(民主党)など、はるかに寛大な債務免除を約束して選挙戦を戦った党内左派であることは疑いようがない。今年11月の中間選挙の2カ月余り前に、バイデン大統領が穏健なヴァージョンを発表したことで、党を分裂させるのではなく、団結させることが期待されたかもしれない。

しかし、この動きは、共和党や民主党系の経済学者の一部が、深化するインフレイションのためのジェット燃料として、多額の予算を必要とする社会福祉案を描いているときに、不人気な大統領から出たものであった。

リベラル派のストラティジストであり、学生ローンの救済を強力に推進してきた進歩主義派団体ジャスティス・デモクラッツの報道担当であるワリード・シャヒードは、「民主党内には、政府がどれだけ介入すべきなのかという真の議論がまだある。更には、民主党の連邦議員の中には、激戦州(purple state)においては、大統領に対して反撃しなければならないと感じている人がいて、彼らが反撃するために選んだのがこの法案なのだ」と語った。

このような生々しい政治の裏には本質的な批判がある。バイデン大統領は、年収12万5000ドル以下のアメリカ人が抱える1万ドルの負債を帳消しにし、ペル・グラントを受け取っている低所得の学生には2万ドルを帳消しにするとしている。

コルテス・マスト連邦上院議員とライアン連邦下院議員は、この債務救済は、低所得のアメリカ人や、地方の医療や救急医療など、低賃金で切実なニーズに応える分野に進む大学生を十分に対象としていない、と指摘した。

学生ローン免除は社会的なニーズを満たすためのツールであるべきで、包括的な贈り物ではないとライアン議員は述べた。また、債務救済だけでは、問題の根本的な原因である授業料の高騰により、学生がますます大きな借金を背負わざるを得なくなっていることに対処できないとライアンたちは主張した。

コルテス・マスト連邦上院議員は声明の中で「低所得の学生に対するペル・グラントを拡大し、必要な学生にはローン免除を適用し、労働者世帯にとってより手頃な価格で大学を提供するための法案を可決することに私たちは集中すべきである」と述べた。

この立場は、同じく激戦州で再選を目指すコロラド州選出のマイケル・ベネット連邦上院議員(民主党)の発言と同じである。

しかし、党内左派の民主党員たちには、こうした立場は計算高く映ったようだ。債務救済の大部分は、多額の負債を抱えるエリート教育機関の卒業生ではなく、コミュニティカレッジに通い、おそらく学位は取得できないものの、それなりの負債と厳しい経済的見通しを抱えて卒業した若者たちに与えられる可能性が高い。

フェッターマン副知事の選対は、バイデン大統領の計画を「全体的に合理的」だと賞賛したが、大学に通っていないペンシルヴァニア州民のためのキャリア・技術プログラムへの投資拡大や、バイデン大統領も採用している二年制・コミュニティカレッジの授業料無料化についても訴えた。

フェッターマン陣営の報道担当ジョー・カルヴェロは「これは本当にどちらか一方だけの問題ではない。大卒であろうとなかろうと、それを必要とする人々を助けなければならない」と述べた。

ジョージア州の有権者層は異なる。ウォーノック議員が2020年の最初の選挙戦で債務救済を唱えたとき、ジョージア州の若い有権者はこれを支持した。彼が共和党の対抗馬ハーシェル・ウォーカーに勝つことを望むなら、若い有権者たちからの支持は再び必要とされるだろう。この計画に対する若い有権者の熱意は、ティックトック(TikTok)を湧き上がるような動画で埋め尽くした。

一方、ネヴァダ州の民主党の屋台骨は長年、調理師労働組合(Culinary Workers Union)とサービス従業員国際組合(Service Employees International Union)で、その労働力は大卒を必要としない職務が中心だ。

ライアン議員の反対は、ローンの返済が滞り、政府に何千億ドルもの損失を与える可能性のある政策によって取り残されたと感じるかもしれない、大卒でないオハイオ州民の4分の3に向けた公然のアピールであった。

また、共和党の対立候補であるJD・ヴァンスがフォックス・ニューズに出演し、「学生負債の軽減を望むなら、この非常に腐敗したシステムから利益を得ている人々にペナルティを課すべきで、オハイオ州の配管工に対して、大学教育を受けた若者、主に生涯を通じてとにかく多くのお金を稼ぐことになる若者の人生の決断に補助金を出すよう求めるべきではありません」と断言した。これはバイデン政権の政策に対する共和党側からの反応である。

ライアン選対の報道担当イジー・レヴィはライアンの姿勢は「逆張りということだけではない」と述べた。

しかし、大接戦の選挙戦を戦っている他の候補者たちは、そのような批判をする気にはならなかった。ウォーノック議員は、「連邦上院議員に就任以来、バイデン政権に学生ローン免除を働きかけてきた」と自身の功績を主張したが、それは「最初の一歩」に過ぎないとも述べた。

ウォーノック連邦上院議員は声明の中で「今回の発表はジョージア州民の多くにとって助けとなるし、数十年にわたり夫妻に苦しんできたが、財政上の基盤を得ることができる人たちも出てくるだろう」と述べた。

アリゾナ州選出のケリー連邦上院議員は、大統領の命令はウォーノック氏の「最初の一歩」ではなく、「節度(moderation)」の表れであると見ている。そして、ライアン連邦下院議員とは逆の結論に達し、バイデンの大統領令は「全ての学生ローンを帳消しにするという過去の提案よりも的を絞っている」し、「コミュニティカレッジに通った人の救済を含め、最も必要としている人に向けられたものだ」と述べた。

共和党は、そのような分裂を見なかった。彼らは皆、大統領の発表を非難した。フロリダ州でヴァル・B・デミングス連邦下院議員(民主党)との闘いで、再選を目指す共和党のマルコ・ルビオ連邦上院議員は、代替案として、連邦学生ローンの利息をなくす法案を提出したことをアピールした。

丸子議員は声明の中で次のように述べた。「学生ローンの負債を免除することは無料ではない。大学時代に借金をしたことのない85%のアメリカ人が、借金をした人のために負担を背負うことになる。それは救済ではなく、労働者家庭に課される不当な負担である」。

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あなたがどれだけ学生ローン免除を受けられるか、そしていつ受けられるか(Here’s how much student loan forgiveness you’ll receive, and when you’ll see it

アディ・ビンク、ネクスタ―・メディア・ワイアー筆

2022年8月27日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/nexstar_media_wire/3615588-heres-how-much-student-loan-forgiveness-youll-receive-and-when-youll-see-it/

(ネクスタ―)数カ月にわたって期待が続いていたが、バイデン政権はまもなく何百万ドルもの学生ローンの債務免除を開始する予定だ。ホワイトハウスの推計によると、最大で4300万人の債務者たちが免除を受ける見込みとなっている。

あなたがどれだけ免除を受けられるか、そしていつ受けられるか、それらはいくつかの要素にかかっている。

これから知るべき内容を挙げていく。

●ローンの種類が重要だ(Loan type matters

あなたが現在抱えている学生ローン(複数の学生ローン)の種類が重要だ。

バイデン政権が返済免除できるのは連邦政府による学生ローンだけであり、民間の貸し手によるいかなる学生ローンにも免除は適用されない。つまり、あなたのローンが連邦政府系金融機関(NelnetGreat LakesFedLoanなど)を通じて「米教育省が保有」していない場合、この免除の対象にはならない(ここで全リストを見ることができる)。

●私にはまだ学生ローンの借金が残っている。支払いはいつ再開されるか?

学部生と大学院生両方の学生ローン債務が存在するが、ローンが教育省に保管されている限り、免除の対象となる。

連邦学生ローン(Parent PLUS Loanを含む)は免除の対象となるが、一部免除の対象外となるものもある。『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、2020年に始まった支払い凍結の対象外だったFFELローン(連邦家庭教育ローン)は、今回の免除の対象にはならない。

●収入制限(The income cap

予想通り、バイデン政権は学生ローンの免除を所得に応じて制限する。

ホワイトハウスと米教育省の発表によると、「パンデミック時の年収が12万5000ドル以下(個人の場合)、または25万ドル以下(夫婦または世帯主の場合)の借り手が救済の対象となる」としている。大学時代にペル・グラントを受給していた同所得の上限以下の借り手は、最大で2倍の債務免除を受けられることになる。

年収がいずれかの所得制限を超える場合は、バイデン政権が説明した救済措置の対象にはならない。

2022年6月30日以降に受領した連邦学生ローンは対象外だ。

●どれくらいの免除となるか(How much forgiveness will you get

連邦学生ローンを抱えていて、所得制限に該当する、というこれまでの条件を満たせば、債務救済が期待できる。

バイデン政権によると、個人で12万5000ドル以下、夫婦や世帯主で25万ドル以下の収入の借り手は、最大1万ドルの救済を受けることができると言われている。ペル・グラントの受給者(自分がそうであるかどうかを知る方法はこちら)は、同じ基準で最大2万ドルまでの救済が可能となっている。

ホワイトハウスは学生ローン計画の予算を明らかにしていない。

しかし、「最大で」という言葉の意味するところはどこにあるのか?

それは非常に簡単なことだ。あなたの債務免除は、あなたがまだ借りている金額に制限される。例えば、あなたが12万5000ドル未満の収入でペル・グラントを受け取っていて、1万2000ドル(2万ドルを借りて8000ドルは既に返済した)の残高が残っているとする。それならばあなたは1万2000ドルの免除となる。2万ドルから1万2000ドルを引いた8000ドルを受け取ることはできない。

この救済措置のための利息は全体の残高に含まれる。

●負債免除はどれくらい早く利用できるようになるのか?(How soon will you see the debt relief?

学生ローンの免除がいつどのように実行されるかはまだ明らかにされていない。

米教育省によると、同省が既に持っている所得データに基づき、約800万人の借り手が自動的に救済の資格を得る可能性があるという。教育省があなたの収入データを持っていない、あるいは持っているかどうかわからない場合、今すぐできることはあまりない。

その代わり、バイデン政権が申請手続きを開始するのを待つ必要がある。「今後数週間のうちに」申請手続きが可能になる予定だ。学生ローン返済の一時停止が終わる12月31日までに申請できるようになる予定だ。

この申し込みフォームに記入することで、教育省を通じてアプリケーションが利用可能になった時に通知を受けるように登録することができる。

●私が知っておくべきことは何か?(What else should I know?

借り手が抱いている最大の懸念の1つは、このローン免除が課税対象になるかどうかだ。ホワイトハウスは水曜日に、アメリカン・レスキュー・プランのおかげで、そのようなことはないだろうと述べた。連邦議会は2025年までのローン免除に対する課税を撤廃した。

学生ローンの免除は、クレディットスコア(個人の信用度)にも影響する。ネクスタ―(Nexstar)への声明の中で、消費者データ産業協会(Consumer Data Industry Association)は、イクイファックス(Equifax)、エクスペリアン(Experian)、トランスユニオン(TransUnion)などの全米規模で展開する信用情報機関を代表する複数の業界団体は、「クレディットスコアについては、口座数、残高、支払い履歴、返済額など、消費者の信用情報に関連する多くの要素を考慮に入れている」と述べている。また、信用報告書から学生ローン情報を削除または一時停止することは、これらの各要素に関連する各個人の信用履歴に応じて、消費者のクレディっとスコアにある程度の影響を与えることになるともと述べている。

消費者データ産業協会の広報担当者はネクスタ―の更なる詳細開示の要求に応じなかった。

●バイデン大統領の学生ローン計画は、インフレにどのような影響を与えるか?(How will Biden’s student loan plan impact inflation?

ローン残高が全額消えない場合(約2300万人の借り手にとってはそうだろう)、バイデン大統領は支払いの一時停止を今年末まで延長した。しかし、2023年1月1日になると、利息が再び発生し、通常の支払いが再開される。バイデン大統領は、一時停止が再び延長されることはないだろうと示唆している。

連邦学生支援局によると、支払いが一時停止された2020年3月以降に任意で支払いを行った場合、その分の払い戻しを請求することができる。払い戻しを請求するには、ローンサーヴィサー(回収業者)に連絡して欲しい。

連邦議会が大統領に債務を帳消しにする明確な権限を与えたことはないため、ホワイトハウスはこの免除計画に関して訴訟に直面する可能性がある。バイデン政権は、その権限を新型コロナウイルス感染拡大と、軍人に援助を提供することを目的とした2003年の法律に結びつけている。法的措置が学生ローン免除のスケジュールにどのような影響を及ぼすかはまだわからない。

AP通信が本記事の作成に協力した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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