古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:改憲

 古村治彦です。

 

 総選挙が終わって、野党側のごたごたが続いている感じです。民進党はどうなるのか、ということが大きな問題です。無所属で戦った党籍を持つ衆議院議員と参院議員を合わせれば50名上の政党ですし、政党助成金を含めたお金も100億円以上残っているということでもあり、その行く末が気になります。前原誠司代表は代表を辞任し、希望の党へ参加することになるそうです。次の代表をどうするか、党の存続をどうするか、お金をどうするかということがこれからの焦点となります。

 

 2019年の参議院議員選挙の投開票と共に改憲の国民投票が行われるのではないかというのが現在の見通しです。安倍晋三首相の下、改憲が実現する可能性が出てきました。

 

 しかし、国民投票の実現はなかなかに大変なことです。まず、国民の考えと現在の政治状況が必ずしも一致していません。今回の総選挙では与党が3分の2の議席を占めましたが、得票率は4割台です。それで獲得議席数は7割台です。これが有権者の意図を正確に反映しているとは言いづらいです。これについて、与党で3分の2を占めるのは「多すぎる」、安倍首相について「不安を持っている」と考えているのが過半数という状況です。

 

 下の新聞記事にありますが、麻生太郎副総理は議席数から、「左翼が3割を切った」と述べましたが、得票数で言えば、麻生氏の発言は当てはまらないことになります。小選挙区制につきまとう死に票の多さということを無視した発言ということになります。

 

 改憲については、18歳から29歳までの年代では改憲に賛成の人が多く、その他の年代(有権者における年上の年代)は反対が多いという世論調査の結果が出ています。

 

 こうしたことから考えると、人々は与野党が伯仲している国会で厳しい審議が行われている状況が良いと考えていることが分かります。与野党伯仲状況になれば、改憲の発議はできないことになります。しかし、こうした人々の考えは国会の議席数に反映されていないことになります。

 

 選挙は小選挙区比例代表並立制というルールの下で行われていますから、このルールで最大の成果を得るように行動しなければなりません。しかし、野党側は共闘で一対一の勝負ができず、分立のために、敗北を喫しました。ルールの特性を活かした戦い方ができなかったのは野党全体の責任ですが、やはり、希望の党に大きな責任があったと言わざるを得ません。下の新聞記事でもありますように、安倍首相の側近である萩生田光一代議士が日本会議主催の会議に出席し、希望の党の政策協定書によって、野党側が分立したということを述べています。

 

 改憲に関して、行動を注視したいのは希望の党です。希望の党では立候補者に課した政策協定書の第4条で、「改憲を支持し」という文言が入っています。ですから、希望の党は改憲を前提にして国会論戦を行うことになります。しかも、党の創設者であり代表である小池百合子東京都知事は安倍首相とほぼ同じ考えを持っています。彼女はつい最近まで自民党所属の国会議員であり、自民党の幹部や大臣を務めました。安保法制成立時も自民党の国会議員です。こうなると、希望の党は改憲勢力に分類となります。ですが、国民の多くが改憲に反対、慎重な中で、結党からすぐに統制が振るわなくなってしまっている希望の党が自公と同調する動きをすることが果たして党のために良い事なのかという主張も出てくるでしょう。

 

 安倍首相としては、広範な支持によって改憲を発議し国民投票で多くの賛成を持って、改憲を成し遂げたいと考えているでしょう。この途中で大きな騒動が起きたり、国民投票で反対多数で否決されてしまったりといったことは望んでいないでしょう。そうなれば、どうしても微温的な内容の改憲となってしまうでしょう。そうなれば、改憲推進の日本会議としては不満な内容になるでしょう。しかし、改憲の国民投票を行っていくためにも、最初の改憲はその程度で良いと許容することになるでしょう。

 

 しかし、国民の側の現在の状況を考えると、改憲には困難なハードルが待っていることが予想されます。改憲に反対、慎重な考えを国民の多くが持っているということが最大のハードルになります。これに対して、どのようなアプローチ、切り崩しが行われるのか、ということですが、既に野党側にくさびを打ち込んでありますから、これをこれからぎりぎりと打ち込んで、分断を深めようとすることでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「与党で3分の2「多すぎる」51% 朝日新聞世論調査」

 

朝日新聞 201710242239

http://www.asahi.com/articles/ASKBS3PWGKBSUZPS001.html

 

 衆院選の結果を受け、朝日新聞社は23、24日、全国世論調査(電話)を実施した。自民党と公明党合わせて定数の3分の2を超える議席を得たことについて尋ねると、「多すぎる」が51%で、「ちょうどよい」32%を上回った。

 

 自民大勝の理由については「安倍首相の政策が評価されたから」は26%で、「そうは思わない」の65%を下回った。自民支持層でも「評価」45%、「そうは思わない」48%だった。立憲支持層では「評価」9%に対し、「そうは思わない」が89%に達した。

 

 自公で「3分の2」については、比例区で自民、公明に投じた人も、それぞれ3割が「多すぎる」と答えた。年代別では、18~29歳で「ちょうどよい」56%が「多すぎる」23%を上回ったが、他の年代は、いずれも「多すぎる」の方が多かった。60代は、69%が「多すぎる」と答えた。

 

 今後、安倍晋三首相の進める政策に対しては「期待の方が大きい」29%に対し、「不安の方が大きい」は54%にのぼった。自民支持層は「期待」58%、「不安」24%だったが、無党派層では「期待」11%、「不安」69%と逆の傾向になった。安倍首相に今後も首相を「続けてほしい」は全体で37%で、「そうは思わない」47%の方が多かった。

 

 野党第1党になった立憲民主党には49%が「期待する」と答え、「期待しない」41%を上回った。「期待する」は内閣支持層でも44%、内閣不支持層では63%に達した。年代別では、60代の期待が高く、62%が「期待する」と答えた。

 

 政党支持率は自民39%に次いで立憲17%。ほかは公明4%、希望3%、共産3%、維新2%、社民1%などだった。調査方法などが異なるため、単純に比較できないが、前回14年の衆院選直後の調査で、野党第1党の民主の支持率は7%だった。

 

 内閣支持率は42%(17、18日実施の前回調査は38%)、不支持率は39%(同40%)だった。

 

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●「安倍政権のもとで憲法9条改正に賛成?反対?多かったのは……(世論調査)

1829歳と他の年代で、違いが現れた。」

 

ハフィントンポスト(朝日新聞提供)20171025 0832

 

http://www.huffingtonpost.jp/2017/10/24/abe-ninth-article_a_23254665/?ncid=fcbklnkjphpmg00000001

 

 衆院選の結果を受けて、朝日新聞社が23、24日実施した全国世論調査(電話)では、安倍晋三首相が意欲を見せる憲法9条改正についても聞いた。「自衛隊明記」について、安倍政権での改正の賛否を聞くと、「反対」45%が、「賛成」36%を上回った。

 

 年代別では、18~29歳は「賛成」49%が「反対」34%を上回った。他の年代では反対の方が多かった。特に60代では反対54%に対し、賛成27%だった。男女別では、男性は45%が賛成だったが、女性の賛成は28%にとどまった。

 

 支持政党別にみると、自民支持層では賛成63%に対し、反対は22%だった。一方、立憲支持層では反対が88%にのぼり、賛成は8%。無党派層では反対44%、賛成21%だった。

 

 改憲の賛否別に、今回の衆院選の比例区投票先をみると、「賛成」の51%が比例区で自民に入れたと答えた。一方、「反対」は34%が立憲に入れ、12%は自民に投じた。

 

 安倍内閣の支持、不支持の理由を4択で聞くと、支持の理由は「他よりよさそうだから」が最も多く44%、続いて「政策の面から」が24%。不支持の理由は、最多が「政策の面から」の36%で、「首相が安倍さんだから」の27%が続いた。

 

(朝日新聞デジタル 20171024 2300)

 

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衆院選当選者、改憲「賛成」84%…読売アンケ

10/26() 7:19配信 読売新聞

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171025-00050196-yom-pol

 

 衆院選で、与党の自民、公明両党と、憲法改正に前向きな希望の党、日本維新の会の獲得議席が、改憲の国会発議に必要な3分の2(310議席)を大きく上回り、改憲論議に弾みがつきそうだ。

 

 読売新聞の立候補者アンケートで、当選した431人(当選者全体の93%)の回答を分析したところ、84%が改憲に賛成だった。ただ、改憲項目は、所属政党によってばらつきが目立っている。

 

 政党別では、維新の100%を筆頭に、自民は97%、公明は92%、希望は87%が改憲に賛成だった。野党第1党の立憲民主党は61%が反対した。安倍首相は立民にも協議を呼びかける考えで、与野党を通じた幅広い合意形成ができるかが注目される。

 

 改憲に賛成した当選者が挙げた改憲項目で最も多かったのは、「緊急事態条項の創設」の69%。以下、「環境権」(50%)、「自衛のための軍隊保持」「参院選の合区解消」がともに49%で続いた。政党別で最も多かった項目を見ると、自公が「緊急事態条項の創設」だったのに対し、立民は「首相の解散権の制約」、希望は「国と地方の役割」、維新は「教育無償化」と「憲法裁判所の設置」だった。

 

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●「憲法改正「天の時を得た」と改憲派 「日本会議」主導の集会で訴える」

「小池百合子さんのおかげで、(民進党が)真っ二つになった。こういう状況をつくってもらった」

 

20171026 0747 JST | 更新 22時間前

朝日新聞社

http://www.huffingtonpost.jp/2017/10/25/story_a_23256162/?ncid=fcbklnkjphpmg00000001

 

 憲法改正を掲げる運動団体「日本会議」が主導する集会が25日、東京都内であり、衆院選で大勝した自民党の国会議員が来賓として出席し、改憲発議に向けた取り組みを急ぐ必要性を訴えた。

 

 安倍晋三首相に近い衛藤晟一首相補佐官は、与党で国会発議に必要な「3分の2」を得たことを挙げ、「天の時を得た。発議ができるまで頑張っていきたい」と宣言。自民、公明両党に、日本維新の会と希望の党を加えると衆院で8割の議席を占める状況になったことを念頭に、「小池百合子さんのおかげで、(民進党が)真っ二つになった。(希望の党から立候補するための政策協定書に)憲法改正を認めるというハードルをつくり、こういう状況をつくってもらった」と述べた。

 

(朝日新聞デジタル 20171025 2124)

 

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●「麻生副総理「左翼が3割切った歴史ない。北朝鮮のお陰」」

 

201710262028

http://www.asahi.com/articles/ASKBV6JDNKBVUTFK014.html?ref=tw_asahi

 

 衆院選で、自民党は引き続き284議席をいただいた。衆議院(議員の定数)は(今回から)10議席減っており、占有率だと前よりはるかに良くなった。

 

 いわゆる左翼勢力が3割を切った歴史はこれまで1回もない。今回は共産党と立憲だか護憲だか知らないが、あの政党が左翼との前提で計算して、社民党が2議席で(立憲民主党と共産、社民の合計で)69(議席)。(定数)465分の69。2割切った。明らかに北朝鮮のお陰もある。特に日本海側で遊説をしていると、つくづくそう思った。(東京都内での講演で)

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)






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 古村治彦です。

 

 憲法記念日に日本会議が開催した集会に安倍晋三首相が自民党総裁の肩書でビデオメッセージを寄せました。この中で安倍首相は変更した日本国憲法を2020年に施行したいと述べました。

 

2019年に国民投票を行うことになるでしょう。そのためには、前段階として、国会の発議が必要となります。国会発議から国民投票までは3カ月から6カ月を必要とし、その間に賛成、反対の投票運動が行われます。国会の発議には衆議院、参議院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要となります。国会の発議のための真偽も必要となると、2018年の間に国会で改憲の発議の審議が始まることになるでしょう。改憲はまだ先の話という考えが頭の片隅にありましたが、いよいよ待ったなしという状況になってきました。

 

 私たちはこうした重要な状況の中で偶然にも生まれて、判断をするということになります。これは私たちの前の世代、過去の世代の先輩たち、そして未来の世代に対して、きちんと責任を果たさねばならないめぐりあわせになってしまったということになります。

 

 安倍晋三首相は憲法9条の変更を行う考えのようです。憲法9条に自衛隊の存在を書き込むことで、「自衛隊が違憲ではないか」という考えが存在できないようにするということのようです。

 

 日本国憲法第9条の1項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とあり、2項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」となっています。

 

 第2項の「前項の目的を達するために」という言葉を衆議院帝国憲法改正案委員小委員会の芦田均委員長が入れた(芦田修正)ために、個別自衛権のための防衛力、自衛戦力を保持することは可能になったという解釈がなされています。ですから、自衛隊の存在が合憲か、違憲かということは、難しい問題ですが、違憲ではないという判断を下すことができています。

 

 安倍首相は自衛隊の存在を憲法9条に書き込むと言っていますが、彼が狙っているのは、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という部分の変更だと思います。自衛隊を自衛のための戦力であり、かつこれを戦争に用いない(戦争はできないのだから)、国際問題の解決には使用しない、という現在の状況を大きく変更することは必要ありません。

 

 しかし、アメリカからの日本に対する「応分」の安全保障の負担、ということを考えると、自衛隊の海外派遣において、より積極的なアメリカに対する「貢献」を行うためには、上記の部分が邪魔になります。ですから、自衛隊の存在を書き込むというとにかこつけて、この部分の変更を行うであろうということは容易に想像できます。

 

 あと、私が気になったのは、安倍首相が2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催について、「日本人共通の大きな目標」と述べている点です。私は東京オリンピック・パラリンピックの現状での開催には反対です。ですから、開催に関して、法律を犯してまで反対することはしませんが、積極的に協力することはありません。従って、少なくとも私にとっては、東京オリンピック・パラリンピック開催は「日本人共通の大きな目標」ではありません。

 

 近代的な民主政治国家においては国家目標に反対する自由は保障されていますし、全員が一致して同じ方向に向かうことを強制されることはありません。ですから、私は近代的な民主政治体制を採用している日本に住む国民として、反対の意見を表明します。もちろん、オリンピック・パラリンピックに向けて努力している方々の努力を蔑ろにするつもりはありません、某元総理大臣をはじめとする無能な最高幹部、選手を蔑ろにしている競技団体のたち以外は、ですが。

 

 オリンピック・パラリンピックは都市開催が原則であり、過度なナショナリズムを煽るようなことに利用されるべきではありません。戦前のベルリン・オリンピックがナチスに利用されたことを考えると、「日本人共通の目標」という言葉は大変危険であると言わざるを得ません。

 

 安倍首相は、2020年を自分の政治人生のハイライト、花道にするつもりです。日本国憲法の改変と東京オリンピック・パラリンピックの開催を花道に引退するつもりでしょう。これらができれば日本の歴史に名前を残す大政治家となると考えていることでしょう。大叔父である佐藤栄作元首相のように、ノーベル平和賞までも狙えるとも思っているでしょう。

 

 安倍首相は1964年の東京オリンピックのことを念頭に置いて2020年の東京オリンピック・パラリンピックについて語っています。しかし、私は現在状況を考えると、2020年の東京オリンピック・パラリンピック前の状況は、1940年の幻となった東京オリンピックの頃の方がよく似ているのではないかと考えます。国民生活の苦しさ、ナショナリズムと排外主義、政党の堕落といった点は同じではないかと思います。ですから、2020年は安倍さん個人にとっては輝かしい未来が待っていると思えるかもしれませんが、残念ながら私にはそう思えないのです。

 

(貼りつけはじめ)

 

憲法改正「2020年に施行したい」 首相がメッセージ

 

朝日新聞デジタル 5/3() 14:17配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170503-00000034-asahi-pol

 

 安倍晋三首相は3日、憲法改正を求める集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。首相は改正項目として9条を挙げて「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという考え方は国民的な議論に値する」との考えを示した。

 

 18年秋の自民党総裁選での3選を前提に、自らの悲願である憲法改正の実現に意欲を示した。野党の反発は必至だ。

 

 首相がメッセージを寄せたのは、日本会議が主導する美しい日本の憲法をつくる国民の会などの改憲集会。

 

 首相はメッセージで「憲法改正は自民党の立党以来の党是」とした上で、「憲法を改正するか否かは最終的には国民投票だが、発議は国会にしかできない。私たち国会議員は大きな責任をかみしめるべきだ」と強調。20年に東京五輪・パラリンピックが開催されることについて「日本人共通の大きな目標。新しく生まれ変わった日本がしっかり動き出す年」として20年に改正憲法の施行を目指す考えを示した。

 

 憲法9条について、首相は「多くの憲法学者や政党には自衛隊を違憲とする議論が今なお存在する。あまりにも無責任だ」として、自衛隊の根拠規定を9条に追加すべきとの考えを強調。さらに「改憲勢力」と位置づける日本維新の会が改正項目に掲げる教育無償化についても「一億総活躍社会を実現する上で教育が果たすべき役割は極めて大きい」と前向きな姿勢を示した。

 

 首相のメッセージに対して、米ハワイ・ホノルルを訪問中の自民党の二階俊博幹事長は2日午後(日本時間3日午後)、「総理がそういうことを熱烈に希望しているなら、安倍内閣を支持している以上、積極的に支持、協力していくことが当然ではないか」と同行記者団に語った。(藤原慎一、ホノルル=山岸一生)

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)






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 古村治彦です。

 

 今回は、おなじみのマイケル・グリーンCSIS上級副所長兼アジア・日本部長の参院選総括を皆様にご紹介します。以下のCSISのアドレスにあるものを抜粋したものです。

 

 今回はマイケル・グリーンと彼の下にいるニコラス・シェンシェーニが総括を書いたようです。シェンシェーニは経済に強い人物です。CSISに入る前には、ワシントンで、日本のフジテレビのプロデューサーをしていたという人物です。

 

 総括についてまとめると、安倍首相の経済政策(アベノミクス)と国防政策が支持された、憲法の見直しについては、可能性はあるが、まずは経済だ、ということになっています。あまり独自色のある総括ではありません。

 

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Japan's Upper House Election

July 11, 2016

https://www.csis.org/analysis/japans-upper-house-election

 

 

Michael J. Green

Senior Vice President for Asia and Japan Chair

 

Nicholas Szechenyi 

Deputy Director and Senior Fellow, Japan Chair; Asia Program

 

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●今回の選挙の概説

 

・7月10日の参院選挙で連立与党は圧勝を収めた。安倍晋三首相の政治的な力は固められた。彼は経済の再生と国防政策に重点を置いた政策を推進する。

・選挙前の世論調査によると、有権者の最大の関心事(懸念)は経済であった。しかし、大差を付けての勝利で、国会が開会された時、安倍首相はその他の重点事項である憲法の見直しに注力するのではないかという懸念も高まっている。

・選挙後のインタヴューで、安倍首相は今秋、憲法の見直しを国会の憲法審査会で議論することになると述べた。しかし、彼は経済と人々の成長への期待を高めるために努力すると重ねて強調した。

 

●問1:今回の選挙での重要なテーマは何だったか?

 

・金融緩和、財政刺激策、構造改革で構成される「アベノミクス」と呼ばれる安倍首相の経済政策への国民投票であった。

・2012年12月に第二次政権が発足して以来、安倍首相はデフレーションと戦うことを公約としてきた。しかし、積極的な金融緩和を行ってもインフレーション目標には遠く及ばない状況である。史上最大規模の国家予算といくつかの財政刺激策が行われたが、経済成長は緩慢なものにとどまっている。財政緊縮派の批判者たちは、公的債務の規模に懸念を持っている。公的債務の規模は現在、GDPの240%にまで膨れ上がっている。

・2016年第一四半期の日本の成長率は年間換算で1.9%であったが、安倍首相は、経済の失速を恐れて、2度目の消費税増税を延期した。

・構造改革に関する政策は、過去3年間で明らかにされ、貿易の自由化、企業のガヴァナンス、女性の地位向上を含む様々な施策となって出現した。それは大きな衝撃ではなかったが、確実な成長を支援することになった。

・民進党をはじめとする野党は、アベノミクスを失敗だとし、安倍首相の経済刺激策を批判し、経済格差を縮小するために社会福祉を増進させるべきだとした。

・野党側は、集団的自衛を含む自衛隊の活動制限を拡大し、攻撃されている同盟諸国の支援を行うことが出来るようにした、昨年の秋に可決した防衛改革法案を批判した。

・安倍首相はすぐに日本国憲法の戦争放棄条項を見直し、日本の平和杉を放棄すると主張する人々がいる。しかし、このような恐怖を掻き立てる戦術を用いても、連立与党の国会コントロールを弱めることはできなかった。

 

●問2:安倍首相はどの程度政治的な力を固めたのか?

 

・安倍首相率いる自由民主党は、参院の過半数にほんの少し足りないほどの議席を獲得した。連立与党のパートナー公明党と一緒だと、過半数を大きく超える。

・自公の連立与党はより力のある衆議院ではすでに3分の2の議席を獲得している。これで、参院が衆院と異なった可決を行っても覆せるだけの力を得ている。

・今回の選挙の結果は、安倍首相の議会コントロールの力を再び強めたということになる。これでしばらく国政選挙はないということになるだろう。

・次の参院選挙は2019年だし、衆議院議員の任期は2018年までだ。自民党内に安倍首相に挑戦する人はいない。安倍首相の自民党総裁の任期は2018年までだ。しかし、自民党は阿部総裁の任期を最大2期延長できるようにルールを変更することはできる。野党の力は弱い。

・民進党は、2009年から2012年まで与党であった内部がバラバラのグループだ。当時の民主党は2011年の東日本大震災以降、人々の信任を失った。民進党は、共産党を含むより小さい野党と一緒になって、安倍氏の政策を阻止しようと絶望的な試みを行ったが、安倍氏の脅威にはならなかった。

・有権者たちは毛財政帳について厳しい目で監視していたが、こうした要素のため、安倍首相の指導力が維持された。

 

●問3:安倍首相はこれからも経済問題に集中するだろうか?

 

・安倍首相はマスコミに対して、成長戦略を進めると述べた。今秋、安倍首相は、経済刺激のために900億ドル(約9兆円)の補正予算を提案する予定である。TPP批准も行う可能性もある。TPPに関しては、自民党の中核的な支持基盤である農業従事者から激しく非難している。しかし、安倍首相は、TPPは日本の経済競争力を高め、アメリカやその他の価値観を共有する国々と共に地域の経済問題に指導力を発揮するためには必要な手段だと主張した。

・今回の選挙の勝利を利用して、経済から憲法の見直しのような他の問題に力点を移す可能性が高いという疑念が高まっている。改憲には衆議院と参議院両方で3分の2の賛成と国民投票で過半数の賛成が必要だ。

・安倍首相率いる連立与党は、小規模の中道・右派の諸政党と一緒になって参院の3分の2を超えている。しかし、安倍首相は経済政策を犠牲にして、政治的資本を憲法に関する議論のために使うことないであろう。2006年から2007年までの第一次安倍政権下、安倍首相は憲法にばかり注力し、経済問題に関心を払っていないと批判された。

・安倍首相は、彼が優先しているもう一つの政策である安全保障分野において、日本が指導的な役割を拡大させるためには、経済力が根本になると理解している。そのためには成長戦略を維持する必要がある。

・憲法を議論する余地があるのは確かだ。しかし、憲法だけがリストに掲載されている訳ではない。

 

●問4:アメリカにとっての戦略上の意義はあるか?

 

・米日同盟は日本の外交政策の礎石だ。安倍首相は両国間の経済と安全保障の結びつきを教誨しようとしている。彼は既にTPP締結に向けての交渉を始めており、国防政策を改め、安全保障同盟関係を発展させるため、アメリカとの間で新しい防衛ガイドラインを作成した。

・先日のG7では議長を務め、世界共通のルールと規範を支持した。

・安倍首相はアメリカの利益と日本の政治的安定を支える政策を実行している。今回の選挙の結果で、日本の政治的安定は確保された。そして、安倍首相は日米両国間の戦略的な関係を維持することを支持している。

 

(終わり)





 

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 古村治彦です。

 

 昨日、参議院議員選挙の投票開票が行われました。結果は、自民党と公明党の政権与党が勝利を収めました。また、改憲に賛成・反対のくくりになると、今回の選挙の結果、改憲賛成ブロックが164(おおさか維新・日本のこころを大切にする会の非改選、無所属を含む)となり、改憲の発議に必要な参議院議員の3分の2を2議席超える結果になりました。

 

 民進党はほんの少しですが、無党派からの支持を獲得することに成功し、改選時は下回りましたが、前回よりは挽回しました。共産党は、例の「人殺し予算発言」が響いてそこまで党勢を拡大することはできませんでした。

 

 自公は設定した勝敗ライン61議席を超えたので、まずは勝利と言えます。皆で「アベノミクス選挙だ」と言っていたのですから、とりあえず「アベノミクスは民意の賛意を得た」と言うことが出来ます。”Japanese voters have bought Abenomics.”となりました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

参院選

●「全121議席が確定」

 

毎日新聞2016711日 0613分(最終更新 711日 0646分)

 

 参院選は11日早朝に全121議席が確定した。自民党は56議席、公明党は14議席を獲得し、安倍晋三首相が勝敗ラインに設定した与党の改選過半数(61議席)を大きく上回った。憲法改正に前向きなおおさか維新の会は7議席を獲得し、同党などを加えた「改憲勢力」で参院(定数242)の3分の2を上回った。

 

 自民、公明、おおさか維新の3党など改憲勢力の非改選議席は88議席。参院で憲法改正の発議ができる3分の2(162議席)に達するには74議席が必要で、3党の議席はこれを上回る77議席に達した。これで衆参両院で改憲発議が可能となった。

 

 自民党は32ある1人区(改選数1)の21選挙区で勝利。比例代表でも2013年参院選を1上回る19議席を獲得したが、27年ぶりの単独過半数回復をかけた57議席には届かなかった。現職閣僚では岩城光英法相(福島選挙区)と島尻安伊子沖縄・北方担当相(沖縄選挙区)の2人が落選した。

 

 公明党は選挙区に過去最多の7人を擁立。全員を当選させるなど、改選9議席を大きく上回る14議席を獲得した。

 

 民進党は13年参院選(当時は民主党)の17議席を上回る32議席を獲得したが、改選46議席は割り込んだ。ただ、1人区は野党統一候補が11選挙区で勝利する健闘をみせた。

 

 おおさか維新の会は改選2議席を大きく上回る7議席を獲得。共産党は13年参院選に続いて東京選挙区で議席を得て、改選数から倍増の6議席を獲得した。社民党は比例代表で1議席を獲得したものの、吉田忠智党首は落選した。生活の党も比例代表1議席を獲得した。

 

(新聞記事点差貼り付け終わり)

 

 今回の参院選挙の争点は、公式的(自民党が設定しようとしたもの)には「アベノミクス、これをそのまま続けるか」ということですが、野党やメディアは「改憲が可能となる参院での改憲勢力が議席数の3分の2を占めるかどうか」という観点で報道しました。

 

 そもそも今回の参議院議員選挙では当初、衆議院の解散に伴う総選挙と同日選挙(ダブル選挙)になる可能性もありました。ところが、安倍首相は衆院解散を断念しました。この時点で、改憲に関しては及び腰である、と言うことが出来ます。2014年の総選挙と今回の参院選の争点は、アベノミクスでした。もちろん、2014年の選挙の後、安保法制を成立させましたので、争点でないことを平気でやるのは安倍政権の得意技です(「新しい判断」という言葉を安倍首相は使ってきました)。

 

 しかし、彼らの悲願の本丸である改憲に関しては衆議院、参議院それぞれの院で100名、50名の議員の賛成で発議が行われ、本会議で3分の2の議員の賛成で可決となり、国民投票にかけられます。この手続きについては、慎重さを期さなければなりません。いささかの瑕疵もあってはなりません。

 

 そうなると、まずは改憲の発議を行う前に、衆院解散を行って、直近の民意を問うことが憲政の常道です。今回はそのチャンスでした。しかし、安倍首相は衆院解散をしての同日選挙に踏み切れませんでした。それは、同日選挙にするとそれは「改憲」を大きく打ち出すことになり、そうなれば、いくらふがいない野党勢力と言ってもまとまる口実を与えてしまい、また選挙が盛り上がってしまい、衆院で改憲勢力で3分の2を取れない、自民党が解散前の議席を割り込むなんてことになってしまったら、安倍首相の責任問題に発展して、辞任ということになります。そうなれば、おじいちゃんを乗り越えるチャンスを失うことになります。

 

 私は今回の選挙結果は、「日本人の絶妙のバランス感覚が発揮されたもの」と考えます。野党がまとまって行動したことに評価を与えつつ、3分の2をほんの少し超える程度の議席(現在流行りの週刊文春のスクープで減らされることだってあり得ます)を与え、「ほれ、これで改憲ができるものならやってみろ」という態度を示したものと思います。

 

 私は、今回自民党と公明党を中心とする改憲ブロックが参議院で3分の2を少し超える議席を獲得したと言っても、改憲はかなり困難である、安倍首相が考えているような改憲はほぼ不可能であると考えます。それは国民投票で賛否を決めるまでの高いハードルがいくつもあるからです。

 

国民投票については総務省のウェブサイトが便利です。

 

※以下が総務省のウェブサイトのアドレスです↓

http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/

 

 憲法改正の発議が衆議院では100名以上、参議院では50名以上の賛成で行われます。そして、両院の憲法審査会でそれぞれ審議が行われます。合同の審査会も可能です。そして、両院の本会議で採決が行われます。それぞれ3分の2以上の賛成で可決となります。これで国会が国民に対して憲法改正の発議を行ったということになります。

 

 この可決された日から60日から180日以内の日に国民投票が実施されます。国民投票の投票率によって効果が無効になるということはなく、単純に過半数で賛成、反対が決まります。その後、賛成となった場合には、内閣総理大臣は直ちに改正の手続きを行うということになっています。

 

 国民投票では、単純に「日本国憲法を改正することに賛成ですか?反対ですか?」という設問ではありません。改正する部分、部分それぞれに設問があって、「賛成・反対」に○をするという形になります。

 

 こうして見てくると、国民投票は単純な話ではありません。憲法改正の発議はまぁできます。その時に、どのように改正するかという案を出さねばなりません。日本国憲法は前文から第96条まであります。理論的には全部を変える・修正することは可能でしょうが、実際には無理な話です。設問の数や順番のこともあります。設問が50問などとなってしまったら、いつもの選挙のように立って丸を付けていくだけでも大変な苦痛になります。ですから、設問はできるだけ絞るということになるでしょう。自民党の憲法改正草案にはいろいろなことが書かれていますが、あれを全部1回でやるということは無理です。「この部分は良いけど、これは嫌」という人が大多数になるでしょう。

 

 そうなると、自民党の内部でまずどの変更や修正を優先するかで意見が分かれるでしょう。自民党は総裁一任ということにはなるでしょうが、その議論の過程で、様々な意見や批判が党内から出るでしょう。これは大きな痛手です。

 

 更には、公明党とも調整しなければなりません。公明党は今や看板だけになっているかもしれませんが、「平和の党・福祉の党」と謳っています。「加憲」ということを言って、ある意味で「逃げ」を打っている状況ですが、そこまできたら、肚をくくり、自党の運命を決めねばなりません。自民党の陰にいて補完勢力になって、批判の弾は自民党に受けさせるというオイシイ立場は終わりになります。公明党は、自民党に同調するのか、しないのかの踏み絵を踏まされます。そして、全国に約800万世帯にある創価学会の皆さんを説得しなくてはなりません。ここも大きな関門です。また、野党でも与党でもない「ゆ」党路線のおおさか維新や日本のこころを大切にする会の意向も問わねばなりません。これらは少数ですが、彼らが抜けてしまえば3分の2に響くのですから、かなりの要求を飲まねばなりません。政治家の最大の指名は選挙に勝つことですから、選挙協力という話も出るでしょうが、実際におおさか維新と争う自公の政治家たちからは不満が出るでしょう。衆議院では自公で3分の2ですが、参議院ではこれらを含んで3分の2から2議席出ただけのことです。

 

 自民党や公明党、その他の勢力から造反が出る可能性も高くなります。それに備えて、自公側は民主党の内部に手を突っ込むことになるでしょう。アクターが複雑に入り組んでいますから、そう簡単に、スムーズに憲法改正の発議が進むとは思いません。もちろん、野党は激しく抵抗するでしょうし、院外の街頭では、抗議活動が行われるでしょう。

 

 憲法改正の発議が両院の憲法審査会で通り、本会議で審議・可決されて国民投票になります。それから60日から180日以内に国民投票が実施されます。現在の世論調査の数字では、反対が上回っています。憲法に関する議論がメディアなどを通じても盛んになるでしょう。国民投票になった場合に、通常の選挙と同じ手法が使えるのかどうかが疑問です。自公は組織票固めに走るでしょう。この組織というのは利益団体であって、単純に言えば、国の予算を分け与えてもらう見返りに投票をする、選挙運動をするということになります。自公が「国民投票で自分たちの発議に賛成の票が多かった都道府県や市町村に予算を手厚く配分する」なんてことを言えば、「・公務員等及び教育者は、その地位を利用した国民投票運動をすることができません。・組織的に多数の者を対象に、投票に影響を与えるような利益を供与したり、利害関係を利用して誘導することは罰則の対象となります」という国民投票の規定に引っかかってしまいます。

 

 また、組織の中でも色々な考えがあるでしょうから、「自民党がやることは何でもいいんだ」という人から「今回は従えないな」という人まで出ます。これは労組でもそうです。

 

 こうして見てくると、改憲の道のりは長く険しいということになります。「3分の2を取れば明日にも改憲だ!」ということにはなりません。今回の選挙の後でも改憲勢力は揃って死んだふりをしています。しかし、油断はできません。改憲勢力にとっては、今が最後のチャンスかもしれないのですから。衆議院議員の任期が2018年、次の参議院議員選挙は2019年です。それまでは確実に3分の2が確保されているのですから、このことは安倍首相にとっては大変魅力的でしょう。次の選挙ではどうなるかは分からないのですから。

 

両院で改憲勢力が3分の2を取ったという事実を踏まえて、まず私たちができることは、自民党の憲法草案を読む、その解説書(賛成・反対それぞれの立場)を読む、国民投票について知る、という極めて単純な話です。そして、改憲ブロックの中心である自民党と公明党があらゆる手段を用いてきても良いように準備をしておくことです。ですから、今回の選挙で「あいつが出たからダメだった」とか「頑張りが足りなかった」という批判はある程度までにして、反省するところはしっかり反省して、改憲ブロックに反対する、議会に議席を持つ人々と結び附き、また彼らをしっかり結び付けておかねばなりません。

 

(終わり)










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