古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:日本

 古村治彦です。

 1990年代から流行したグローバライゼーションは人々を不幸にした。ジョセフ・スティグリッツという経済学者は『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(2002年)を書いて警鐘を鳴らした。しかし、主流派経済学が唱えるグローバライゼーションが日本を含む世界中を席巻した。日本の失われた30年、デフレが進行した時代と重なる。

 グローバライゼーションによって国際的分業が進めば人々の幸福は増進する、という主張は正しくなかった。先進国では製造業が発展途上国、新興工業国との競争に敗れた。その結果として、労働者たちは失業し、賃金は下がり、消費は伸びず、日本ではデフレ・スパイラルに陥り、そこからいまだに脱却できていない。競争に敗れた人間は「努力の足りない敗残者」であり、「非正規雇用になったり、失業したりするのは自己責任」だとして片づけられた。

 しかし、これは正しいことではなかった。主流派経済学者たちは自由市場を信奉し、市場に任せていればすべてがうまくいくという、ナイーブ(馬鹿げた)な「信仰」に基づいて、世界を壊した。そして、主流派経済学者たちの中からそうしたことを反省する人間たちが出てきている。その代表格がポール・クルーグマンだ。私たちはクルーグマンの反省の弁に耳を傾けてみる必要がある。


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経済学という人類を不幸にした学問: 人類を不幸にする巨大なインチキ

(貼り付けはじめ)

「経済学者たち(私も含まれる)がグローバライゼーションについて間違ってしまったこと(What Economists (Including Me) Got Wrong About Globalization)」

―1990年代に発展途上諸国からの輸出が与える影響を測定するために経済学者たちがよく使用していた複数のモデルはどれも雇用と格差に与える影響を過小評価するものだった。

ポール・クルーグマン(Paul Krugman)筆

2019年10月10日

『ブルームバーグ』誌

https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-10-10/inequality-globalization-and-the-missteps-of-1990s-economics

※ポール・クルーグマンはニューヨーク市立大学大学院センターで教鞭を執り、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストを務めている。2008年、国際貿易と経済地理学に関する研究でノーベル経済学賞を受賞した。

この論説は『グローバライゼーションに対する様々な挑戦に直面して(Meeting Globalization’s Challenges)』(プリンストン大学出版局)の一つの章を短くまとめたものである。『グローバライゼーションに対する様々な挑戦に直面して』は2017年10月11日に国際通貨基金(International Monetary Fund)が開催した学会で発表した様々な学者たちの論文を集めたものだ。この本は2019年11月4日に発刊される。

グローバライゼーションによる望ましくない効果についての懸念は最近になって出てきたものではない。1980年代、アメリカ国内の収入格差(income inequality)が大きくなり始めた時期、多くの専門家やコメンテイターたちは収入格差の拡大という新しい現象をもう一つの新しい現象につなげて論じた。そのもう一つの新現象とは、新興工業諸国(newly industrializing countries)からの工業製品輸出の増大だった。

経済学者たちは収入格差の拡大に深刻な懸念を持った。国際貿易の標準的なモデルでは、国際貿易は収入の配分に大きな効果を持つ、とされる。1941年に発表された有名な論文では、労働力豊富な国家との貿易によって国全体の収入総額は上がっても労働者一人当たりの収入額は減るプロセスが示された。

その後、1990年代に入り、私自身を含む多くの経済学者たちは国際貿易の状況が変化することが格差拡大にどれほど影響を与えるかについて理解しようと試みた。経済学者たちは、影響は比較的穏やかなもので、収入格差を広げることになる、中心的な要素ではないと徐々に結論付けるようになった。その結果として、国際貿易が与えるマイナスの影響の可能性についての学者たちの関心は消え去ることはなかったが、小さくなっていった。

しかしながらここ数年、グローバライゼーションについての懸念と不安は様々な問題のトップに浮上している。グローバライゼーションについての新たな研究結果が出るようになり、ブレグジスト(Brexit、訳者註:イギリスのEU離脱)とドナルド・トランプ米国大統領が与えた政治的衝撃のために、グローバライゼーションに対する不安が大きくなっている。1990年代のコンセンサスである、「国際貿易の増加は格差を増大させるのは真実だがその影響は穏やかなものだ」という考えの形成に貢献した人間の一人として、この時期に私たちが何を見落としたのか、見落としてきたのかを問うことは適切なことだと私は考える。

●1990年代のコンセンサス(The 1990s Consensus

1990年代中盤、貿易が人々の収入に対してどのように影響を与えるかを評価するためにデータをどのようにして利用するかで混乱が起き、議論も起きた。ほとんどの研究は貿易量と労働力の量、その他の輸出入に伴う様々な資源についてというものが中心的なテーマであった。経済学者の中にはこのようなアプローチに反対する人たちも出た。こうした人々は量(quantity)よりも価格(price)を中心的に研究することを選んだ。

徐々に姿を見せ始めたのは「~がなかったら(but for)」アプローチだった。これは、発展途上諸国からの工業製品輸出が増大するという現象がなかったとしたら、そうした場合の賃金は実際の賃金に比べてどれほど異なるものとなるかという問題設定を行うものだ。発展途上諸国からの輸出増加は1970年には小さいものであったが、1990年代半ばまでに急増した。発展途上諸国からの工業製品輸入は過去に比べればかなり大きくなっているが、先進諸国の経済規模に比較すれば小さいものであった。だいたいGDPの2%だった。この程度では相対賃金に中程度の変化を与えるにも十分ではない。その影響は瑣末ではないが、経済において中心的な役割を果たすまでに大きなものとは言えなかった。

●ハイパーグローバライゼーション[過剰なグローバライゼーション・超グローバライゼーション]Hyperglobalization

国際貿易が与える影響力に関するこうした評価は1995年前後になされたものだ。これらの評価の基となるデータは必然的にそれよりも前の数年間のものとなる。国際貿易の与える影響力は穏やかなものとなるという研究結果が出るのは間違ったことではなかった。しかし、振り返ってみれば、1990年代初めの国際貿易の流れは、より大きな現象、もしくは経済学者アルビンド・スブラマニアンとマーティン・ケスラーが2013年に発表した論文で「ハイパーグローバライゼーション(hyperglobalization)」と呼んだ現象の始まりでしかなかった。

1980年代までは、「第二次世界大戦後の国際貿易の増加は戦争前に設定された貿易障壁の廃止が主な理由であった」と論じることも可能であった。戦後の国際貿易が世界のGDPに占める割合は1913年の時点よりも少し高いくらいのものだった。しかし、80年代以降の20年間で、国際貿易の量と性質は未知の領域に踏み込むことになった。

下のグラフはこの変化の1つの指標を示している。発展途上諸国からの工業製品輸出が世界のGDPの占める割合を測定したものだ。これを見ると1990年代初めに貿易力における大変動が発生し、それが始まりに過ぎないものだったということが分かる。

■何かが起きていたのだ

世界GDPにおける発展途上諸国による工業製品の輸出に割合(%)

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ソース:世界銀行

1990年代に国際貿易が急増した理由は貿易における新たな形式のためであったのだろうか?この疑問に対する答えは技術と政策の混合ということになるだろう。飛行機によるコンテナ輸送(freight containerization)は最新の技術という訳ではなかったが、この技術によって輸送コストが減少することで製造業における労働集約が必要な部門を海外に移転させることが可能なのだということをビジネス界が認識するまでにしばらく時間がかかった。その時期、中国は中央計画(central planning)から輸出に特化した市場経済(market economy focused on exports)へと大きな変化を遂げた。

発展途上諸国からの工業製品輸出の世界GDPに占める割合を測定すると、現在の数値は1990年代半ばに比べて3倍になっている。それでは発展途上諸国の輸出が収入配分に与える影響力もそのまま3倍になっていると結論付けることになるだろうか?少なくとも2つの理由からそうではないということになる。

第一の理由は、発展途上諸国からの輸出の増大の多くの部分は、近代化しつつあるアジア、アフリカ、ラテンアメリカの各国間の貿易量の増大を反映しているというものだ。これは重要な事実であるが、先進諸国に住む労働者たちに与える影響にとっては大きいものではない。更に重要な第二の理由は次の通りだ。この貿易拡大が含む本質は、「非熟練と熟練の2つのタイプの労働者による製品が同時に存在し、南北貿易に関与している労働者の労働価値(訳者註:賃金のこと)の増大が貿易量の増大に比べて早くない(訳者註:労働者の給料が上がらない)」ということである。

バングラデシュからの衣服の輸入と中国からのiPhoneの輸入、という2つのケースを考えてみよう。バングラデシュからの衣服の輸入は、言い換えるならば教育水準の低い労働者たちのサーヴィスを輸入し、アメリカ国内の教育水準の低い労働者に対する需要を引き下げる圧力がかかるということである(訳者註:アメリカ国内の低賃金の労働者の仕事がなくなる)。中国からのiPhoneの輸入の場合は、iPhoneの価値(訳者註:値段)の大部分は、日本のような高収入で、より教育水準の高い国々で行われた労働を反映しているものだ(訳者註:だから値段が高い)。中国からのiPhoneの輸入は言い換えるならば熟練と非熟練の2つのタイプの労働を輸入するということであり、収入配分に与える影響はより小さくなるということである。

これら2つの理由があったが、1995年から2010年にかけての発展途上諸国からの輸出増加は、1990年代のコンセンサスが可能だと想像したよりも、より大きいものとなった。この輸出増加はグローバライゼーションについての懸念をぶり返させることになった理由であろう。

●貿易不均衡(Trade Imbalances

学者たちがグローバライゼーションの与える影響を測定する方法と、トランプ大統領のアプローチをはじめとする一般の人々がグローバライゼーションを見る方法は対照的なものだ。大きな違いが見られるのは貿易不均衡についてだ。一般の人々は貿易黒字もしくは赤字が国際貿易における勝者と敗者を決定する要因だと見る傾向がある。しかし、1990年代のコンセンサスの基盤となっている国際貿易に関する経済学のモデルでは、貿易不均衡は何の役割をも果たさないということになる。

各経済学者が採用する単一のアプローチは長期的に見れば正しいと言える。それは、各国は自分の力で何とかしなければならないし、貿易不均衡は主に雇用における貿易関連部門と非貿易関連部門の配分率に影響を与えるが、労働に対する総需要に明確な影響を与えないからだ。しかし、貿易不均衡における急速な変化は調整という面で深刻な問題を引き起こす。より広範囲にわたるテーマにはこのコラムではすぐに戻ることにする。

ここでは、アメリカの石油以外の貿易収支(その大部分は工業製品が占める)とアメリカ国内の製造業における雇用についての比較について特に考えてみよう。

■2000年の輸入ショック

2000年代に工場関連の雇用の多くが失われた。この理由として貿易赤字の悪化が挙げられる

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ソース:アメリカ経済分析局;アメリカ労働統計局

1990年代末までに、製造業における雇用は雇用全体に占める割合は下落し続けていたが、絶対数で見れば安定していた。しかし、製造業における雇用は2000年を境に崖(cliff)を落ちるかのように急落した。この急落は石油以外の貿易赤字の急増に対応するものだった。

貿易赤字の急増は雇用の落ち込みを説明するものだろうか?その通りだ。理由の大部分を占める。

次の推定評価はきちんとした根拠があるものだ。1997年から2005年にかけて貿易赤字の増大によってGDPに占める製造業の割合は1.5パーセンテイジポイント低下した。言い換えるならば、製造業の産出量自体では同時期に10%以上も下落した、ということになる。製造業の雇用がおよそ20パーセント低下したということの原因の半分以上をこれで説明できる。

この推定評価は、比較的短い期間における製造業の雇用が雇用全体に占める割合ではなく、製造業の雇用の絶対数に焦点を当てている。製造業経済からサーヴィス経済への長期的な変動について、貿易赤字を使ってもほんの一部しか説明はできない。しかし、輸入の急増はアメリカの労働者の一部に衝撃を与えた。この衝撃はグローバライゼーションに対する反撃を引き起こす理由となった可能性が高い。

●急速なグローバライゼーションと崩壊(Rapid Globalization and Disruption

1990年代のグローバライゼーションを肯定するコンセンサスは、国際貿易は格差拡大にほぼ影響を与えないというものだった。このコンセンサスが基盤とした諸モデルは貿易量の増大が、大学に進学しなかった労働者など広範な層の労働者たちの収入にどれくらい影響を与えるかを問うものだった。長期的にみてこれらのモデルが正確であると考えることは可能であり、おそらく正しい。1990年代のコンセンサスを受け入れていた経済学者たちは、特定の産業部門と地方の労働者たちに注目する分析的な方法に目を向けなかった。この方法を経済学者たちが採用していれば短期的な動向をより良く理解できたことだろう。この方法に目を向けなかったことについて私は大きな間違いであったと確信している。そしてこの間違いを犯すことに私も協力したのだ。

グローバライゼーションをめぐる政治は、国際貿易がブルーカラーとホワイトカラーの報酬格差、もしくはジニ係数として知られる格差を測定するための広範な統計的方法にどのように影響するかという大きな疑問よりも、貿易の流れの大変動によって利益を得た、もしくは損失を被ったそれぞれ個別の産業部門の経験によって、より影響を受けているということが明確に示されるべきであったのだ。

2013年に発表され、今ではすっかり有名になっているデイヴィッド・オーター、デイヴィッド・ドーン、ゴードン・ハンソンの論文『チャイナ・ショック(China Shock)』の中でなされた分析が人々の耳目を集める余地がここにあった。この本の著者たちが主に行ったのは、国際規模の収入配分に関する広範で様々な疑問を投げかけることから急速な輸入の増大がアメリカ国内の各地方の労働市場に与える影響についての疑問を提示することであった。そして、著者たちはその影響は巨大で永続的なものだと結論付けた。この結論付けは新たなそして重要な示唆を与えるものとなった。

こうした様々な問題について、25年前には考察することもできなかった私たちのような経済学者たちのために弁解するならば、1990年代に始まったハイパーグローバライゼーションについて知る方法がなかった、もしくはそれから10年後に貿易赤字の急増が起きることなど分からなかった、ということになる。ハイパーグローバライゼーションと貿易赤字の急増ということが一緒になって起きなければ、チャイナ・ショックの規模はより小さいものとなったことであろう。私たちは物語の極めて重要な部分を見逃してしまったのだ。

●保護主義を擁護する十分な論拠となるか?(A Case for Protectionism?

1990年代のコンセンサスが見逃したものは何か?それはたくさんある。発展途上諸国からの工業製品輸出はコンセンサスが形成された時点でのレヴェルをはるかに超えるものにまで成長した。輸出の拡大と貿易不均衡の拡大が同時に起こったのだが、これはグローバライゼーションが1990年代のコンセンサスが想像したよりもより大きな崩壊とコストを(訳者註:アメリカ国内の)労働者の一部に与えた、ということを意味した。

それではグローバライゼーションが与えた崩壊とコストは、トランプ大統領の主張は正しく、貿易戦争はグローバライゼーションによって傷つけられた労働者たちの利益となるであろうということになるだろうか?

答えは「ノー」だ。保護主義という答えは自由貿易に対する厳格な関与よりも、グローバライゼーションが与えた損失を基にしている。急速に拡大し続けるグローバライゼーションに伴う問題点とは、歴史上最も急速な変化による崩壊が起きている中で労働に対する需要が変化していることではない。急速な変化は私たちに迫っている。多くの指標が示しているのは、ハイパーグローバライゼーションは一時的な現象だったのであり、国際貿易は世界のGDPにおいて比較的安定してきているということだ。上にある1つ目のグラフを見れば横ばいになっていることが分かる。

結果として、現在の貿易体制からの離脱ではなく、グローバライゼーションを逆行させようという試みによって現在の大崩壊は起きている。現時点では、どこに生産設備を建設するか、どこに移動して仕事に就くかなどについて膨大な数の決断は、開かれた世界貿易システムがこれからも存続していく、という前提の上に行われている。関税を引き上げることや世界貿易量を収縮させることでこの前提が間違っていると示すことは、これまでとは違う形で新たな勝者と敗者を生み出す新しい崩壊の波を発生させることになる。

グローバライゼーションがもたらす影響についての1990年代のコンセンサスが称賛されなくなってはいるが、グローバライゼーションに欠点があるからと言って、現在の保護主義が正当化されることはない。私たちは1990年代の時点で将来何が起きるのかを分かっていたならば、実際にやってきたこととは違ったことをやったであろう。しかし、時計の針を戻すことを正当化するだけの理由は存在しない。

(貼り付け終わり)

(終わり))

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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大で私たちの生活は変わった。手洗いうがいの励行をはじめとして、マスクの着用、人々が集まることの回避、不急不要の外出の回避と言ったことが起きている。それによって社会活動、経済活動は大きく制限を受け、大ダメージを受けている。新型コロナウイルスによって私たちの生活は「変えられ」ている。自主的にではなく、ウイルスの恐怖のために「変えさせられて」いる。

 アメリカでも生活の多くの面で変化が起きているという記事を以下にご紹介する。消費の低下、オンラインでの買い物の増加、不動産業の先行き不透明、テレビやラジオの視聴数の増加と広告収入の低下などが起きているということだ。これまで当り前となっていた生活のやり方や習慣が変化しつつあるということだ。新型コロナウイルス感染拡大が収まっても握手を拒否する人も多いようだ。

 アメリカでもコロナウイルスの恐怖によって生活が「変えさせられて」いる。確かにその性質や症状が全部解明されていないウイルスだから恐怖心を持つのは当然だが、それによって無理や無茶な行動をする必要があるとは私は考えない。手洗いうがいやマスク着用を励行しながら、社会活動や経済活動を行うべきだと思う。「自粛」をしていないお店に対して嫌がらせをしたり、警察が特殊警棒を持って繁華街を見回り人々に帰宅を促したり、といった「自警団」「ナチスの突撃隊」のような行動は社会を分断する行為だ。

 恐怖心によって考えることを放棄し、「上から」の命令に対して過剰に反応して、「それこそ正義だ」とばかりに、過剰な行動を取ることは結局最後には自分たちが支配者たちによって縛られ動けなくさせられてしまうことにつながる。自分たちでできることを励行しながら、権力の動きには抗する、こういう厳しい状況の時こそ冷静に行動し、生活すべきだ。そのためには現在のような異常な自粛ムード、「空気」を転換する必要がある。

 緊急事態宣言の「出口」、すなわち「どのような状況になったら解除するのか」「感染者数や死亡者数でどのくらいになったら何を解除するといった、いくつかのフェーズがあるだろうにそれが分からない」ということは恐怖心を増加させ、疲労を募らせるものだ。

 学校の勉強や仕事でもそうだが、最終目標の前に小さな目標をいくつか設定してそれをクリアしていく、達成感を感じて次に進む原動力を生む、ということやる。現在の政府は、人々の恐怖心を利用して、統制を強めているだけのことで、出口戦略一つ示すことができていない。恐怖心を利用して人々が自発的に政府の統制に服従する、という現状を利用しているだけのことだ。日本の現状は大変残念だ。

(貼り付けはじめ)

コロナウイルス危機が終了した後のアメリカ人の生活の様相(What American life will look like after the coronavirus crisis ends

クリスティン・テイト筆

2020年5月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/civil-rights/495624-what-american-life-will-look-like-after-the-coronavirus-crisis-ends

私たちの国に新しい時代がやってきつつある。歴史上の重要な出来事全てと同様、我が国の経済の原動力と我が国の政府の機能は、見えない敵によってひっくり返されている。今回のコロナウイルスによる死亡者数は我が国が長年にわたり関与したヴェトナムで亡くなった米国人の数を超えた。各種の市場は2008年に比べてより恐怖心をもって反応している。今回の新型の疾病は、中東での戦争、911事件、不動産価格の急落といった過去20年間の様々な重大な出来事に比べて、より大きな影響を平均的なアメリカ人に与えている。

倫理、収入、地理といった面で見てみると、今回のコロナウイルスは、州政府や連邦政府による政府布告よりも、アメリカ人の生活を破壊している。過去2か月で起きている私たちの社会の変化の多くはマイナスの影響を持っている。ウイルスの感染拡大によって起きている大規模な変化はより大きな基調を示すものとなっている。

地域のビジネスの活動停止について見てみよう。長年にわたり、政治の世界ではウォール街よりも地方の生活を支持する言説が支持を得てきた。しかし、ソーシャル・ディスタンシングとインターネットのために、小規模ビジネスは損害を受けている。全米自営業者連盟は、今年3月に楽観指数は、指数の調査が開始されて以降、最も厳しい程度の急落を記録した。消費指数もまた2020年第一四半期では約18%も下落した。閉鎖制限が実施されたのは今年の3月後半から始まったにもかかわらずこのような数字となった。店舗販売を行う会社だけが倒産のリスクを抱えている自営業ということではない。全米には1100のショッピングモールがあるがその中の多くが倒産のリスクを抱えている。

伝統的な買い物についてみると、オンラインでの売買が現在の話題となっている。アマゾン社は今回の危機のお蔭でこれまでにないほどの売り上げを記録している。オンライン上の日常品の売買はほぼ2倍になっており、テレビゲームへの消費額は50%増となっている。オンライン上の売買の総額は感染が始まってから49%増となっている。食品以外の売買の中でアルコールの売買が最も取引量を増加させており、75%増となっている。

住宅売買もまた劇的な変化を示している。賃借人の3分の1は先月の賃料を支払うことができなかった。また、住宅を買おうとしている人たちにとって物事は良い状況になっていない。住宅ローンの貸し手たちは、1500万人の持ち家のオーナーはローンを支払えないことになると予測している。住宅ローンの金利は低い状況であるが、若い人々は、雇用状況が不安定になっている中で、30年間もローンを抱えたくないと考えるようになっている。不動産業も同様の状況になっている。それは消費者の消費が減少することで、不動産を借りて商売をしている店などが賃料を支払えない状況になってしまうからだ。

社会的な交流の規範は変化しつつある。それはただスーパーマーケットに入店する際にマスクと手袋をするといったことだけに留まらない。当たり前のように自然に握手をするということも過去の習慣となる可能性がある。最近のある調査によると、新型コロナウイルス感染拡大が収まっても他の人と握手をしないようにしようと考えていると答えたのは全体の31%に上った。肘をくっつけ合うという挨拶の仕方がこれから残る可能性がある。

アメリカ人がコロナウイルスのニュースに釘付けになっている中、ラジオとテレビにおけるこれまでのやり方が大きく変化している。また、出版や新聞も同様に前提が大きく変わりつつある。全米規模のケーブルテレビは加入者が増加し、プライムタイムの視聴者数が増加している。同様のことは地方局でも起きているが、但し書きがつく。今回の危機が始まってから地方局の視聴者数は50%増加したが、広告収入は減少している。

出版社の多くは数百名単位で記者を解雇し、出版も止まっている状況である。また新聞もテレビのようにはなっていない。出版ジャーナリズムは「絶滅の危機」に瀕しているという判断も出ている。通勤などでの自動車利用が減少しているが、そのためにラジオ局の収入や聴取者数が減少している。大規模メディアに対して人々の嫌悪感が増している中で、地方の新聞とラジオは信頼できるメディアとなっている。しかし、これら2つのメディアは消滅する可能性を持っている。

コロナウイルスにより直接的に関係があることは、アメリカ国民は現在、自分たちの健康をより真剣に考えるようになっているということだ。処方箋薬の需要の増加と中国からの医療資源輸入の不足のためにアメリカ国民は打撃を受けている。複数の製薬会社が治療法とワクチン開発に数億ドルを投資しているために、人々が必要とする薬剤にかかるコストは上昇している。その結果はまだ明確になっていないが、現状によって薬剤の研究と開発に対する民間と公的な投資の恒常的な増加へと根源的な変化が起きる可能性が高い。

アメリカ人にとっては受け入れやすい状況は存在しない。その代り、私たちが直面しなければならない新しい現実の要素が存在する。

アメリカ国民は最近の世代は、以前の世代に比べて戦争による影響を受けていない。多くの人々にとって、今回の危機は厳しい目覚めの一発となった。政府の統制による耐乏生活の時代、株価や石油価格などの乱高下、将来にわたり、医療資源が統制され、配給となる可能性が存在する。効果的な治療法の確立と経済活動の再開の両立によって、世界規模の大恐慌を避けることができるように願っている。第一次世界大戦後に生まれた世代の多くは争いとスペイン風邪によって影響を受けた。この世代のアメリカ人は大恐慌と第二次世界大戦によって鍛え上げられることになった。この世代と同様、今の若者たちは自身が持つ強さを試されるか、破壊されるかという状況に直面している。

離職した数百万のアメリカ人、小規模ビジネスを閉じてしまったオーナーたちにとって、感染拡大が続く日々とは終わりのない悪夢の日々ということになる。しかし、現在の苦闘は、私たち全員にとって辛抱をするための機会となる。私たちの行動はこの時期における私たちの生き方を決めるものとなる。私たちはコロナウイルスに私たちの生き方を決めさせてはならないのだ。

※クリスティン・テイトはリバータリアニズムを信奉する作家であり、「ヤング・アメリカンズ・フォ・リバティー」のアナリストを務めている。彼女は「ファンド・フォ・アメリカン・スタディーズ」のロバート・ノヴァック記念ジャーナリズム専門研究員を務めている。彼女の最新刊は『ザ・リベラル・インヴェイジョン・オブ・レッド・ステイト・アメリカ』である。

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コロナウイルス危機について今日知るべき10のこと(Ten things to know today about the coronavirus crisis

ピーター・サリヴァン筆

2020年5月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/healthcare/495747-ten-things-to-know-today-about-the-coronavirus-crisis

今日は5月の初日だ。4月はコロナウイルスのためにアメリカにとって酷い月となった。しかし、感染者数のカーブはそのままであり、5月もまた厳しい月になるであろう。

治療法について1つの進歩が起きている。アメリカ食品医薬品局(FDA)は金曜日、レムデシヴィル(remdesivir)という薬剤に緊急的に認可を与えた。この薬剤は新型コロナウイルスに対する特効薬ではないが、ある程度の効果が認められている。

2つの世論調査の結果によると、多くの州が経済活動を再開させ始めている中で、アメリカ国民は通常の生活に戻ることに懸念を持っているということだ。

これから今日知るべき10のことを挙げていく。

4月が終わり、5万3000名以上のアメリカ人がコロナウイルスのために命を落とした。5月になって状況が好転するとは考えられない。

アメリカ食品医薬品局はレムデシヴィルという薬剤に対して緊急的に認可を与えると発表した。今週初めにレムデシヴィルは、コロナウイルス治療においてある程度の効果が期待できるという有望な研究結果が発表された。

テキサス州では経済活動の再開をスタートさせようとしている中で、同州では1日の死者数としては最大の50名を記録した。

米教育省はテキサス大学と中国のある研究機関の実験室との関係を調査し始めた。この中国の研究機関の実験室はコロナウイルス感染拡大に関して詳細に調査を行っている。

多くの州で経済活動が再開され始めているが、最新の世論調査によると、66%のアメリカ国民は職場に復帰することを嫌がっている。

70以上の公衆衛生、商業、学術の研究機関がコロナウイルスの遺伝子を研究するために協力体制を構築している。

いくつかの州政府と地方自治体政府の中には、他州や他の地方自治体に居住しているアメリカ人に対して旅行移動の制限と強制的な隔離を命じている。この動きは、憲法上と政治的な論争を引き起こしている。

ミネソタ大学の最新の報告では、コロナウイルス感染拡大は最長で2年間続く可能性がある、また、ウイルスの拡大を効果的にコントロールするためには世界総人口の最大3分の2が免疫を獲得する必要があると警告を発した。

米退役軍人省はコロナウイルスによる死亡者のために約30万ドル分の死体袋を注文した。

最新の世論調査によると、58%のアメリカ人がこれからしばらくは映画に行かない、もしくはいかないだろうと答え、57%がプロスポーツの試合の観戦に行かない、もしくはいかないだろうと答えた。

(貼り付け終わり)

(終わり)


amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大は世界規模になっているが、最大の感染者数と死亡者数となっているのはアメリカだ。その中でもニューヨーク州と隣のニュージャージー州では数が飛びぬけて多くなっている。それでも少しずつ収束に向かいながら、一部の州では段階的に、経済活動や社会活動を再開させ始めているところも出ている。

 日本でもそうだが、アメリカでも「都市封鎖や在宅命令に従うことはもう限界だ」という声も高まっている。経済活動や社会活動ができないことでの損失はかなり大きくなることを覚悟しなければならない。日本国内では、緊急事態宣言が5月末までに延長された。それならば、同時に、「どういう状況(感染者数と死亡者数の推移)になったら、どこまで経済活動や社会活動をどの程度まで再開する」という道しるべを示さねば、国民の「士気」は下がる一方だ。「とりあえずこの数字のところまで下がったら、こういうことができる」ということが分からねば、迷路をさまよっているのと同じだ。

 アメリカでは、補償制度の拡充を図っている。雇用を守り、事業を継続させることに主眼を置いた方策が次々と考えだされ、実行されている。日本では国民1人当たりに10万円とマスク2枚、その他、現行の制度の対象範囲を拡大した貸し付けや給付が行われているが、スピード感に乏しい、実効性に乏しいという批判がなされている。2020年という年はかなり厳しい年となるだろう。経済をもう少しでも動かしていればと思うが、「8割削減」というとんでもない発表のために、経済活動や社会活動がほぼできない状況にある。私はこの「8割」という数字には疑念を持っている。感染者の再生産の数字をかなり高く見積もっているように思う。もちろん、手洗いうがい、マスク着用、体温測定など個人でできることは最大限やるのは当然であるが、それ以上のことを強いるというのは社会を壊すことだと考えている。

 アメリカ国民の多くが、収束が進まない中で職場に戻りたくないという考えを持っていることがある世論調査で分かった。しかし、テキサス州やジョージア州と言った共和党の強い、保守的な州では、職場に戻らなければ、失業保険の対象にしないということになっているようだ。都市封鎖や在宅命令からの経済活動や社会活動の「再開(reopening)」をどのように進めるのか、が日米でこれから重要になってくる。感染者数や死亡者数の推移を見ながら、人口密度の低い、地方の州は当然のことながら再開を進めることができるだろう。日本でもそうだ。しかし、どの州も大都市となれば人口密度が高いので、慎重に対応するべきだろう。

 新型コロナウイルス(COVID-19)がここまで世界中に拡散されてしまった以上、根絶することはできない。それならばできるだけリスクを減らして共存するしかない。そのために、リスクの高い高齢者や持病を持つ人々はリスクを管理しながら生活をし(それでも死亡者はゼロにはできない)、現役世代は手洗いうがいなど個人でできる対策をしながら、経済活動、社会活動を続けていくしかない。当たり前の話だが、そのようにやっていくしかない。しかし、このような当り前の話をすることも「不謹慎だ」ということになっている現状は大変危険だと思う。

(貼り付けはじめ)

連邦上院民主党は労働者1人に最大9万ドルを雇用主に補償するという提案を行った(Senate Democrats introduce proposal to pay businesses up to $90K per worker

マーティ・ジョンソン筆

2020年5月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/495688-senate-democrats-introduce-proposal-to-pay-businesses-up-to-90k-per-worker

金曜日、民主党所属の連邦上院議員の一部が、連邦議会による次期コロナウイルス感染拡大に対する経済支援パッケージに関する提案を行った。この提案は、休業中の労働者に対して、1人最高9万ドルを雇用主に対して補償を行うというものだ。

マーク・ワーナー連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)、ダグ・ジョーンズ連邦上院議員(アラバマ州選出、民主党)、リチャード・ブルーメンソール連邦上院議員(コネティカット州選出、民主党)が給料保障法案(Paycheck Security Act)を共同で提案した。この法案の内容は、雇用主に対して、収入が20%以上下落した場合には、被雇用者の賃金と手当をこれから少なくとも6か月間保証するというものだ。

今回の提案が2週間前に初めて発表された際に、ワーナー議員は次のように発言した。「新型コロナウイルス(COVID-19)」による健康と経済に関する危機的状態はアメリカ史上類のないものです。連邦議会は即座に給料保護プロラム(Paycheck Protection ProgramPPP)を進め、災害支援貸し付けへのアクセスを拡充していますが、これらの初期段階のライフラインは更なる雇用喪失を予防し、経済の不安定性を緩和するためには不十分です」。

提案された法案は、雇用主に対して、「自宅待機中、もしくは一時解雇の被雇用者一人当たり最大9万ドルの給与や賃金、また、家賃、光熱費、保険、維持費といった経営にかかる固定費の支払いのために売り上げの20%を補償する」という内容になっている。

ワーナー事務所からの声明では、給料保護プロラムによる貸し付け、もしくは中小企業向けの経済悪影響対策災害ローン(Economic Injury Disaster Loan)を既に受けている雇用主たちは、「他のプログラムを使い尽くしていないか、既存の負債を返すために給料保護プロラムを使っていない」場合に限り、現在提案中の給料保障法案による支援を受けられる、ということだ。

今週、いくつかの州で経済活動を一部再開したが、380万人以上のアメリカ人が失業保険を申請した。これまでの6週間で、3000万人以上のアメリカ人が失業保険を申請した。この数字は更に大きくなると予想されている。大恐慌時代に記録した失業率25%という数字を突破する可能性があるとも見られている。

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世論調査:アメリカ国民の3分の2が職場に戻ることを望んでいない(Two-thirds of Americans uncomfortable with returning to their workplace: poll

マーティ・ジョンソン筆

2020年5月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/state-watch/495644-two-thirds-of-americans-uncomfortable-with-returning-to-their-workplace

コロナウイルスの感染拡大が続く中、より多くの州が経済を再開させ始めているが、アメリカ国民の3分の2が職場に戻ることを望んでいない。「クアルトリックス」社の世論調査で明らかになった。

今回の世論調査によると、アメリカ人の66%が職場に戻ることを望んでいないと答えた。63%は、職場に戻る前にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が職場に戻っても安全だという保証を出して欲しいと答えた。

5月中に職場に戻りたいと答えたのは25%だけだった。48%は8月まで職場に戻ることはしたくないと答えた。

ビジネス活動の再開に関しては、ソーシャル・ディスタンシングのガイドラインにビジネス活動の少しずつの再開をどのように整合させるかについて各州がどのように担保するのかという点で疑問が起きている。

ジョージア州、テキサス州、アイオワ州といった複数の州は、以前の仕事に戻ることを拒絶する労働者に対しては、コロナウイルス支援・復興・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security ActCARES Act)に基づいて支給される失業給付を支給しないと発表した。コロナウイルス支援・復興・経済安全保障法では、職場における新型コロナウイルス感染の恐怖感は被雇用者が職場に復帰しなくてもよいという条件にはなっていないのである。

アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)のような労働組合と連邦議員たちは、労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration)に対して、雇用主に対して感染拡大が続く中で労働者の安全を最優先させるための厳格な健康に関する規制を発表し、強制するように求めている。

今回の世論調査は、2020年4月27日から28日にかけて2003名のアメリカ人を対象に実施された。誤差は3ポイントだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。
carlosghosncaroleghosn001
 今回は、カルロス・ゴーンについての記事をご紹介する。カルロス・ゴーンは日本で訴追され、現在保釈中であるが、2019年12月30日に関西国際空港からプライベートジェットで出発、イスタンブールを経て、レバノンの首都ベイルートに到着した。ゴーンはその後、ベイルートで記者会見を開き、日本の司法制度を批判し、日産自動車のクーデターに日本政府まで関与していると述べた。
下に紹介する記事に出てくる「big in Japan」という言葉は、欧米で使われる言葉で、「アメリカなどでは全く売れていないのに、日本では売れている」バンドや小説を馬鹿にした言葉である。どのバンドだったかは失念したが、中には日本で人気になって、日本のファンが支え、そこからアメリカなどで大人気になるというパターンがあったと記憶している。
レバノンといえば、アーレント・レイプハルト(Arend Lijphart、1936年―)の提唱した「多極共存型民主政治体制(Consociational Democracy)」を思い出す。レイプハルトの著書The Politics of Accommodation: Pluralism and Democracy in the Netherlands (1968)は、オランダの政治を論じたものであるが、この中で、一国内に様々な分裂線、たとえば言語や文化、民族の違いがある場合に(多言語、多文化、多民族国家である場合に)、民主政治体制が維持しづらいと言われている中で、それぞれのグループを代表するエリートたちがうまく調整して民主政治体制を安定させてきた、ということをレイプハルトはオランダの事例から主張した。これを多極共存型民主政治体制と呼ぶ。これに当てはまるのがレバノンだ。
arendlijphart100
レバノンは多くの宗教が共存する国で大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はイスラム教シーア派から選出されるのが慣例となっている。国会議員数も各宗派の人口に応じて定められており、マロン派34名、スンニ派とシーア派はそれぞれ27名となっている。レバノン内戦(1975―1990年)以降はそのようにして国家を安定させてきた。
元々は「同じ日に海水浴とスキーができる」と言われ、首都ベイルートは「中東のパリ」とも呼ばれるなど豊富な観光資源を持つ美しい国であるが、現在は経済状態が厳しいようだ。そうした中で、現在の成否や政治エリート層に対する抗議活動も盛んにおこなわれているようだ。
 レバノンに帰国したゴーンであるが、レバノン国内では歓迎する人々と批判する人々がいるようだ。歓迎する人たちは、ゴーンが世界有数の国際企業である日産自動車のCEOとして会社を立て直した成功者、立志伝中の人物と捉え、彼の経験をレバノン経済立て直しに活かして欲しいと考えているようだ。一方、批判する人々は、レバノンのエリート層は腐敗を極めているのに、そこあらたにお金のことで容疑をかけられている人が入ってくる、それをエリート層が暖かく迎えるのはおかしい、と批判しているようだ。
 ゴーンの逃亡劇によって、日本の司法制度について考えてみるという動きも起きている。そもそも日本では警察が逮捕した時点で容疑者とは呼ばれるが、実際には犯人として処罰されるような状態になる。長期間の拘留、人権に配慮のない取り扱いが問題になっている。そもそも推定無罪(裁判所の判決が出るまでは無罪)の原則が守られていると考えられない。私たち国民の側も「お上がお縄にした悪い奴」という前近代的な考え方を改めねばならない。そして、国家が行うことに対して厳格さを求め、制限をかけるということを考えるべきだ。
 ゴーンの逃亡は議論を始める奇貨とすることが重要だと思う。
(貼り付けはじめ)
日本では有名な「コストカッター」が帰国(Big in Japan, ‘Le Cost Killer’ Comes Home)
―カルロス・ゴーンのベイルートへの奇怪な帰還は抗議と危険の状態にある国からの複雑な反応を引き起こした
レベッカ・コラード筆
2019年1月10日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2020/01/10/carlos-ghosn-escape-lebanon-protests-nissan/
ベイルート発。水曜日に実施された2時間にわたった記者会見の中で、元日産自動車CEOカルロス・ゴーンは自身の無実を繰り返し訴えた。そして、自身の元の雇用者と日本の司法による共同謀議についての概要を説明した。
ゴーンは日本での自宅軟禁状態から脱した。しかし、100名以上のジャーナリストたちが記者会見に詰めかけた。ジャーナリストたちは、伝説のマジシャンであるフーディーニのマジックのように日本からトルコを経てレバノンに入国した詳細について聞きたがった。しかし、ジャーナリストたちの希望は失望に終わった。
その代わり、ゴーンは、自身の無実を証明すると主張する文書と2018年11月に東京の空港で突然逮捕された時の状況の説明を含む、熱心な説明を行った。2018年11月の突然の逮捕について、ゴーンは1941年の日本によるアメリカへの奇襲攻撃になぞらえた。1941年12月に日本軍はハワイのパールハーバーの海軍基地を奇襲攻撃した。
ゴーンは次のように述べた。「私に質問する人たちがいますが、私の突然の逮捕について疑いを持っているんでしょうか?パールハーバーで何が起きましたか?」。
ゴーンはレバノンの政治エリート層から快く受け入れられている。2019年12月30日にベイルートに突然入国した直後に、レバノン大統領ミシェル・アウンと会談を持ったと報じられている。しかし、一般のレバノン国民からは全面的に受け入れられてはいない。そうした人々は、既存の政治エリート層に対する抗議活動が激しくなっている国であるレバノンに数百万ドル規模の資金を盗んだ容疑で告訴されている人物を受け入れる必要があるのかという疑問を呈している。
ゴーンは最初に所得の過少申告と日産自動車からの資金の引き出しの容疑で逮捕された。その後、ベイルートには彼の顔とスローガンが掲載された大きな宣伝広告版が設置された。それには「私たちはみんなカルロス・ゴーンだ」と書かれていた。ゴーンが子供時代の大部分を過ごした国レバノンの国民の多くは、ゴーンは成功物語の主人公と見なしていた。ゴーンは世界的大企業のCEOになり、倒産の危機から利益を生み出すまでに引き上げた。
記者会見「今日、私はレバノン人であることを誇りに思っています。この人生の厳しい時期に私の傍らに寄り添ってくれる国はただ一つ、レバノンです」と述べた。ゴーンはブラジルとフランスの国籍も持っている。フランス国籍については、日本の自宅軟禁状態からレバノンへ逃れるにあたり、フランスのパスポートを使用したと考えられている。フランスのパスポート以外のパスポートは全部取り上げられており、フランスのパスポート1冊だけが鍵付きのケースに入れられて渡されていた。
ゴーンはレバノンに入国した。レバノンは経済的、エネルギー的危機に直面している。レバノン国民の中には、レバノンの状態を改善するために彼に役割を果たして欲しいと望む声が出ている。巨額な負債を抱え、通貨価値は不安定で、日常的に停電が頻発する中で、レバノンは経済破綻に向かっていると考えられている。レバノン国民の多くは。「コストカッター」と呼ばれているゴーンについてレバノン経済を立て直せる人物だと考えている。レバノン経済は非効率な官僚制と全てのレヴェルでうまく機能させられていない政府によってこのような悲惨な状態に陥っている。また、腐敗も深刻な状況になっている。
レバノンのドゥールーズ教徒の指導者ワリード・ジャンブラットはツイッターに投稿し、ゴーンを救国の手助けをしてもらおうと主張した。
ジャンブラットは次のように書いた。「私はゴーンをエネルギー担当大臣に任命すべきだと提案したい。エネルギー省はマフィアにコントロールされ、改革を拒絶し、そのために巨額の赤字を出すようになっている。カルロス・ゴーンは帝国を築いた。おそらく彼の経験から利益を得ることができるだろう」。
ゴーンのベイルートの邸宅の近くの通りで文房具店の店主ジコ・コウリーは「彼が選挙に出るなら投票しますよ。彼は素晴らしいビジネスマンです。レバノンの愛をしている。大臣になるべきです」と語った。
水曜日の記者会見の席上、レバノンが抱える諸問題を解決するために役割を果たすことができるかと質問され、ゴーンは用意周到に準備された内容を答えた。
ゴーンは「私は政治家ではありませんし、これまで政治的野心を持ったこともありません。しかし、もし私の経験をこの国のために使って欲しいと頼まれるならば、私は準備ができていると申し上げたいと思います」と述べた。
文房具店店主コウリーのようなレバノン国民の一部はゴーンに対する容疑はでっち上げだと考えている。コウリーは店に立ちながら、日常で起きている電力供給制限のために発電機をスタートさせながら、次のように語った。「大きな話については分かりません。みんなが税金についてごまかしているもんですよ。だからと言って牢獄にぶち込まれることはありません」。
レバノン内戦終結後にレバノンを支配してきた腐敗した政治的エリート層の退陣を求める反政府抗議活動が数カ月続いた。ゴーンの事件についてはインターネット上で詳細に調査された。彼が留置された際にはそのようなことは起きなかった。
あるツイッター利用者はジャンブラットのツイートに対して次のように反応した。「レバノンには腐敗した人間、国賊が既に多く存在している。そんな人間たちを更にまた外国から輸入したいと望むのか?」。
今週の初めの抗議活動で、参加者たちはゴーンについてのスローガンを使うようになった。そのスローガンはレバノンの政治家たちと中央銀行総裁に対して使われるものであった。そのスローガンとは、「泥棒、泥棒、カルロス・ゴーン、彼は泥棒だ」である。
税金だけがゴーンの問題ではない。2008年にゴーンはイスラエルを訪問した。ゴーンは同国においてイスラエル大統領で当時の首相だったエフード・オルメットと会談を持った。オルメットは2006年にイスラエルを率いてヒズボラと戦争を行った。戦争の結果、レバノン国内で約1200名の死者が出た。イスラエル訪問はレバノン国民にとっては違法行為である。首相と会談を持つこともまた然りである。複数のレバノンの弁護士たちは、ゴーンのイスラエル訪問について告訴を行った。しかし、レバノンの最高指導者たちは楽観的のように見える。ヒズボラでさえもゴーンの敵性国家イスラエルへの訪問を問題視していない。
ゴーンはレバノンへの帰還によって司法的にいくらかの安心を得ることができると考えている。木曜日、ゴーンはレバノンの検事総長に召喚され、記者会見よりも少し長い時間尋問を受けた。レバノン政府は日本政府に対してゴーンに対する告訴に関連する書類を提供するように求めている。しかし、インターポールが逮捕を模索している中でレバノン政府はゴーンを日本に引き渡す計画を持っていないことは明白だ。
レバノンは、ゴーンがフランスのパスポートを使って合法的に同国に入国したと発表した。木曜日、レバノンはゴーンに対して出国禁止を申し渡した。レバノン国内では、ゴーンに対する出国禁止措置は制限というよりも彼の安全の確証のようなものだというジョークが話されている。
ゴーンは、日本の司法ではなく、迫害から逃れてきたと述べている。独房での監禁、弁護士の同席なしの長時間にわたる取り調べ、妻キャロル・ゴーンとの会話の禁止といったことをなされていたと発言した。ベイルートでの記者会見中、ゴーンは妻キャロルを常にそばに置いていた。キャロルには日本で逮捕状が出されている。
ゴーンは自身に対して公平な聴取がなされる場所ならばどこでも裁判を受ける準備があると述べた。ゴーンは繰り返し日本の高い有罪率について言及した。「99.4%!」と。ゴーンはレバノンの司法当局への協力を約束した。
今週、レバノン・ブロードキャスティング・コーポレイション・インターナショナルとのインタヴューの中で、ゴーンは「私は、日本の司法システムとよりもレバノンの司法システムとの方がより快適に感じる」と述べた。
多くのレバノン国民は腐敗したエリートに嫌気がさしていることは問題である。司法の独立の欠如は抗議運動にとっての重要な批判点となっている。法的諸権利擁護グループは、レバノンの司法システムは政治エリート、ビジネスエリートから深刻な影響を受けている。こうした人々はゴーンを擁護する立場に立つと見られている。
レバノンの別のツイッター利用者は「もちろん、レバノンであなたはより快適でいられることだろうね、エリートたちはあなたが楽に過ごせるようにしてくれるだろうよ」とツイートした。
(貼り付け終わり)
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 古村治彦です。

 日本の安倍晋三政権とアメリカのドナルド・トランプ政権との間で貿易交渉が行われ、アメリカ側に得るところが多く、日本側に得るところがほとんどない内容で合意がなされた。日本側はアメリカ側の農産品に対する関税を段階的に引き下げる一方、アメリカの自動車輸出に関して関税引き上げをしないというアメリカ政府からの確固とした言質を取ることに失敗した。
usjapantradeagreements2019001

アメリカはTPPから脱退したが、TPPに入っていた場合と同等の日本への悪説のしやすさ(関税の引き下げ)を手にすることができた。日本の完敗ということになる。安倍晋三首相が何とかしようとアメリカのドナルド・トランプ大統領から何とか妥協を引き出そうと媚態を駆使していたことは外側から見るとよく分かるようだ。
donaldtrumpabeshinzo110

 下の記事は、日米交渉について網羅されている。貿易交渉と共に日本駐留の米軍に対する日本政府からの「思いやり予算」の4倍増(20億ドルから80億ドル)の話も絡めて書かれている。簡単に言えば、日本側はアメリカら押されっぱなしということである。アメリカ政府は韓国政府に対しても、駐留経費負担の増額を求めたが、韓国政府は明確に拒絶した。

 日本にとっての生命線は自動車輸出だ。アメリカへの輸出の20%を占めているし、自動車会社が支えている人々の数を考えると、まさに日本経済を支える柱だ。トランプ政権は、日本からの自動車輸出を「国家安全保障上の脅威」と言い出し、だから関税を引き上げることもありうると日本側に脅しをかけている。その脅しに屈した形だ。貿易合意の中で、確固とした文書で関税引き上げを行わない、という一札を入れさせることができなかった。と言うことは、これからも貿易交渉があれば、自動車への関税引き上げを脅しとして使われることだろう。

 また、日本側からの思いやり予算の4倍増もアメリカから脅されて無理やりにでも飲まされることになるだろう。6000億円の増額ということになる。日本周辺の脅威を過剰に煽り立ててアピールすることで、日本側から金を引き出すという、チンピラまがいのやり方をアメリカ側はしている。アメリカも昔ほど余裕はなくなり、背に腹は代えられないとばかりにこうした脅しをしてくる。

 こうした脅しに対しては、粘り強く交渉を長引かせるということが大事だ。そうしたことが1980年代まではできていたが、今では日本側の交渉担当者が一体どちらの味方なのか分からないという状況になっている。脅しに対しては「柳に風」「気に入らぬ風もあろうに柳かな」という態度で接するべきだろう。しかし、今の日本の状況ではそういうことができる人材もいないし、最高指導者層もとうに諦めているし、こうした上級国民がアメリカの手先となっている。年末に来年のことを話してももう鬼が笑うこともないだろうが、日本の将来はますます暗くなるということだけは確かだ。

(貼り付けはじめ)

日本は貿易に関してトランプ大統領を信頼して後悔している(Japan Regrets Trusting Trump on Trade

―貿易交渉によって日本政府はより多くを与え、より少なく手に入れた

ウィリアム・スポサト筆

2019年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/12/05/tokyo-abe-japan-regrets-trusting-trump-on-trade/

日本は、アメリカ大統領ドナルド・トランプと交渉をしようとする際のリスクを人々に改めて思いをいたさせる。日本側はアメリカのドナルド・トランプ大統領との交渉を使用とする場合のリスクについて気づくことができなかった。しかし、日本は交渉を行い、合意に達した。日本はアメリカとの貿易交渉で何も獲得しないままで合意に達したように見えたが、日本政府は今になって更に駐留アメリカ軍基地の特権に対する支払いについて交渉を行うように求められている。

貿易と駐留米軍基地に関して、日本は切り札が少ない中でできるだけ努力をしなければならないという難しい仕事をこなさねばならなかった。貿易に関する合意の中で、日本はアメリカからの農産物輸入に門戸を開放した。これによって門戸が閉ざされてきた市場(訳者註:日本)にアクセスできることでアメリカの農業従事者たちにとって利益となる。この市場(訳者註:日本)では消費者たちは平均よりも高い値段を払っていた。一方、日本は何も持ち帰ることがなかった。アメリカ政府が日本からの自動車の輸入を国家安全保障上の脅威とはとらえないと明言して欲しいと日本側は望んでいたが、曖昧な約束がなされただけだった。アメリカ政府は日本の自動車輸出を国家安全保障上の脅威と捉え、懲罰的に25%の関税をかけることを検討している。

一方でアメリカは満足して交渉の場を後にした。テーマとなった多くの物品において、アメリカ国内の製造業者たちは12か国による環太平洋経済協力協定(Trans-Pacific PartnershipTPP)内と同様のアクセスを確保できることになった。トランプ大統領は就任直後にTPPからの離脱を決定した。今回の貿易合意は牧場経営者たちにとって恩恵となった。彼らは中国との貿易戦争に苦しんだが、日本の国内産牛肉よりもより低いコストを武器にすることができる。アメリカ側は低い関税率は年に70億ドル分の農産物にかかることになると述べている。しかしながら、利益はすぐに出る訳ではない。牛肉にかかる関税はこれからの15年間で現在の38.5%から段階的に9%にまで引き下げられることになる。ブドウ園にとっては、ワインに対しての関税率が2025年までに現在の15%が撤廃されることで牛肉農家よりもより大きな利益を得ることになる。

他方、日本にとっての利益はアメリカに比べてかなり不透明だ。蒸気タービン、楽器、自転車のようないくつかの特定の製品の関税引き下げは別にして、日本の安倍晋三首相が日本国内に示すことができるものは多くはない。

日本側からの主要な要求は、トランプ大統領が日本からの自動車輸出に対して関税を引き上げるという脅迫を実行しないという保証を得るというものだった。今年5月にトランプ政権は日本とヨーロッパからの自動車輸入はアメリカにとって国家安全保障上の脅威となるという決定を下した。従って、関税引き上げの可能性は消え去っていない。日本側にはトランプ政権に対する疑念が存在する。しかし、長年にわたり日米安全保障関係は最強のものだということは考えられてきた。

日本からアメリカへの自動車輸出は1986年の段階に比べて半分程度になっている。1986年の段階では日本の自動車各社は北米で巨大な生産設備を備えていなかった。日本からアメリカへの自動車輸出は、日本からアメリカへの輸出の20%を占めている。トランプ大統領が引き上げると脅している関税率のレヴェルになってしまうと、日本からアメリカへの輸出には大きなダメージとなる。

日本側はこの微妙なテーマについて確固とした内容の文書を得ることができなかった。ただ、「日米両国はこれらの合意の精神に反する手段を取ることはしない」というあいまいな文が書かれているだけだった。日本の茂木敏光外務大臣が交渉を監督していた。茂木外相は記者団に対して、トランプ大統領は安倍首相に対して「合意内容が真摯に実行される限りにおいて」関税引き上げを行うことはしないという口頭での約束を与えたと述べた。

トランプ大統領やアメリカ側への信頼感が低下していく中で、多くの疑問が出てきている。日本のマスコミは、安倍首相がトランプ大統領の歓心を買うために配慮を行ったがそれで日本側に利益がもたらされたのかどうかという疑問を呈している。安倍首相はトランプ大統領をいち早く支持し、少なくとも表面上は忠実な支持者であり続けてきた。トランプ大統領の予想外の選挙での勝利の後、安倍首相は外国の指導者の中で最も早く面会した。それから少なくとも10回は2人で会談を持った。今年5月、日本の徳仁天皇が即位して最初に会談を持った外国の指導者という名誉をトランプ大統領は与えられた。

このことは日本国内で議論を巻き起こした。日本のリベラル派はポピュリスト的でナショナリスティックな政策を強く主張している。日本の保守派はトランプ政権の反移民、反中国政策により共感を持っている可能性はあるが、しかし同時に、こうした人々は日本の指導者が公の場で媚びへつらう姿を見せることを目撃することを嫌う。

トランプ大統領は安倍首相のごますりを額面通りには受け取っていないようだ。2018年、トランプ大統領は次のように警告を発した。「私は日本の安倍首相やそのほかの人々と会談を持つ。安倍首相は素晴らしい人で、私の友人だ。彼らの顔には笑いはほとんど出てこないだろう。そして、彼らが笑う時は“アメリカを長い間利用して自分たちの利益を得ることはできないと確信した、そんな日々はこれで終わりだ”と感じる時だ」。

そして予想された通り、トランプ政権はギアをすぐに入れ替え、貿易問題から、アメリカ軍将兵と基地への日本側の支払いという微妙なテーマに重点を移した。アメリカ軍は5万4000名の将兵を日本に駐留させている。その約半分は沖縄に駐留している。沖縄本島の18%を使用している。沖縄の住民たちから長年にわたり怨嗟の声が上がっているのは当然のことだ。

アメリカ軍の大型駐留は日米軍事同盟の大きな部分である。日米軍事同盟は1960年に公的に成立し、定期的に更新され、範囲が拡大している。日米同盟によって、日本側にはアメリカによる防護が与えられる約束が与えられている。それには核の傘が含まれている。これは日本の平和主義憲法を保ち、核武装の意図を放棄するための重要な要素である。

アメリカにとって、日米軍事同盟の意義は、ロシア、中国、北朝鮮といった核武装している近隣諸国の中で裏切る可能性のない同盟国を獲得したということになる。加えて、日本側は米軍基地の土地を提供したが、これらの基地は朝鮮戦争やヴェトナム戦争にとって便利な場所になった。そして現在、アメリカが中国を次の軍事上のライヴァルと捉えている中で戦略上の恩恵となっている。しかしながら、トランプ大統領にとっては、韓国国内同様、日本国内の米軍基地はコストであり、これをアメリカのバランスシート上の利益に変えたいと望む存在である。

『フォーリン・ポリシー』誌で既に報じられているように、アメリカ政府は日本側からの貢献額を20億ドルから8億ドルへと4倍増するように求めている。これに加えて、日本は間接的なコストの支払いをしているが、その額は推定で12億ドルだ。それは基地建設のコストも入っている。日米両国政府はコストの詳細な内容を発表していないが、日本がこれ間に支出したのは推定で全コストの75%に上ると推定されている。これが意味するところは、貢献額の4倍増はアメリカ側にとっては素晴らしい利益となるということだ。米軍関係者が日本からの利益からのボーナスを受け取ることが出来るかどうかという問題は置いていても、より明確になったのは、アメリカ外交は取引でいかようにも変わる性質を持っているということだ。

ドル(もしくは日本円)によって動かす外交は日本側にとって新奇な概念ではない。日本側は外交を経済的な利益を拡大するために長年にわたり利用してきた。貿易交渉の中で、媚びへつらう態度を取ることが日本の自動車会社を守るための低コストの方法であることを示している。安倍首相はアイゼンハワー政権のチャールズ・E・ウィルソン国防長官の国家と資本主義を結合させることについての有名な(しかし誤って引用されている)発言を引用し、トヨタにとって良いことは日本にとって良いことだと結論付けた。この文脈の中で、自分をゴルフ友達だと卑下することに終始した不快な時間はどんな意味を持つだろうか?

貿易交渉において、日本側は「吠えなかった犬(訳者註:あって当然のものがないことを重要視する)」について重点を置くことが可能だった。トランプ大統領にアメリカの農業従事者の利益について自慢させながら、日本側は日本円の価値について何も言及していないという事実について沈黙を守った。

2012年に安倍首相が就任して以来、日本銀行は貨幣量の拡大を通じて経済を再膨張させるという前代未聞の施策を実行してきた。これによって日本円の価値は極めて低くなった。安倍首相が就任当時には1ドルが86円だったものが現在では109円になっている。

日本政府はこれについて様々な形で正当化をしている。日本銀行の施策は25年も続く経済におけるデフレーションと戦っていると主張している。同時に、円の価値低下は輸出業者にとっては追い風となっている。これによってトヨタをはじめとするその他の輸出企業がアメリカの輸出する際に価格を24%引き下げることができるようになった。

日本側は将来の自動車輸出への関税についての明確な約束を得ることに失敗したが、関税引き上げが行われる可能性をとにかく低くすることはできた。ここ3年間でトランプ大統領について1つ明確になっていることは、その瞬間の状況に合わせることに躊躇しないということだ。最終的に、交渉力は政策の公平性よりも重要だということになる。

日本にとってより不気味なことは、日米両国は交渉を継続することに合意していることだ。そこで日本政府は自分たちが良く知っているゲームを再び行うことになるだろう。それは交渉の相手側がうんざりするか、交渉のテーマとなった問題が亡くなるまで交渉を長引かせるという日本側得意の戦略を再び持ち出すことだ。モトローラ社の携帯電話を日本で販売できるかという問題は1980年代を通じて長く続いた問題となった。これは長年続いた交渉の後に、歴史的な補足となって日本側に残った。日本の経済産業省の官僚たちは、どんな合意も最終的なものではなく、長くゆっくりと続く交渉買い手の準備をするという考えを持っていた。

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