古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大による経済不安のために、金(きん)価格が高騰している。下の記事にあるように、金の地金を扱う田中貴金属、徳力、石福金属興業、三菱マテリアル、日本マテリアルは緊急事態宣言を受けて、店頭での近似崖の売買を停止した。電話での購入注文は受け付けてきた。田中貴金属では、5月18日からは店頭での買取を再開している。しかし、売渡は行われないようだ。

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直近1カ月間の金価格の動き 

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直近5年間の金価格の動き

 貼り付けてあるグラフが示しているように、金(きん)価格は上がっている。金を資産として保有している、準備が良くできている人たちは、生活資金や事業資金のために金の売却ができる。それで一息つける人も多く出るだろう。「備えあれば患いなし(有備無患)」という言葉は漢文の授業で最初に習う言葉であるが、まさにこの言葉の通りだ。

 金の先物を買っている金融業者は、地金の引き取りを要求し、それに応えられない業者は、金融業者に先物で購入した分の資金に現金をプラスして支払っているということだ。金の先物取引とは、たとえば、「半年後に金1グラム4000円で買う(売る)」という取引だ。現在では金価格が上昇していることもあり、金地金が足りない、準備ができないと実物を渡せないので、差金決済でしか応じないということが起きているそうだ。買金地金が足りないということもあって、日本の金地金商でも、客からの買取を先に行い、売渡は後ということになる。実物を持っていることが強い、ということになる。

 新型コロナウイルス感染拡大の経済への悪影響はこれからも続く。不況、デフレということになる。こういう時には現金と現金に換えられる実物を持っていることが何よりも強いということになる。

(貼り付けはじめ)

●「金などの店頭売買、相次ぎ停止 田中貴金属など地金商 コロナ禍対応で 機動的な売買できず」

日本経済新聞 2020/4/20 17:25

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58267330Q0A420C2QM8000/

国内地金商最大手の田中貴金属工業は20日、全国の直営店と特約店の店頭で金など貴金属商品の取引を停止すると発表した。新型コロナウイルスの感染防止と従業員の安全の確保が狙い。他の地金商も既に店舗での対面売買をやめており、一時的に貴金属の機動的な売買ができなくなる。

田中貴金属は、地金やコインといった資産用の貴金属商品の売買や貴金属製品の買い取りサービスなどを56日まで停止する。停止期間中は直営店全店を休業するが、電話での地金・コインの購入注文は受け付ける。

徳力本店や石福金属興業など大手地金商も既に56日まで店舗での対面売買を中止。三菱マテリアルや日本マテリアル(東京・千代田)も同様の対応をしている。

換金などの速やかな売買ができなくなり、現物市場の流動性が落ちる見込み。マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表は「事態が長期化すれば、業界として流動性を確保するための対応策が必要になる」と指摘する。

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●「金先物価格が6,000円台に、新型コロナ終息でも安心できない世界経済」

小菅努 | マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

5/18() 9:37

https://news.yahoo.co.jp/byline/kosugetsutomu/20200518-00179032/

金価格の上昇が続いている。東京商品取引所(TOCOM)の金先物価格は、518日の取引で1グラム=6,000円台に乗せ、取引開始以来の高値を更新した。年初の5,303円に対して、新型コロナウイルスの感染拡大で投資環境が極端に不安定化した3月には一時4,876円まで下落していたが、その後はほぼ一本調子で値位置を切り上げる展開になっている。

新型コロナウイルスの感染被害に関しては、世界的に終息傾向にあり、経済活動の正常化が打診される環境になっている。中国や韓国などで感染被害の第2波も観測されているが、日本も含めた各国で外出・移動規制の緩和・撤廃が進んでおり、経済活動は最悪の状態を脱した可能性が高くなっている。このため、株価や資源価格には下げ一服感がみられるが、こうした環境下で安全資産である金価格が急伸し始めている。

■金融政策と財政政策がフル稼働に

背景にあるのは、景気低迷が長期化するのではないかとの警戒感だ。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は513日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、米経済は「長期」にわたって成長が低迷する可能性を指摘した。4月の米雇用統計では非農業部門就業者数が前月から2,050万人減少し、失業率が前月の4.4%から14.7%まで跳ね上がったが、過去最大規模の経済的ショックによって、回復が勢いづくまでは一定の時間が掛かる可能性を指摘している。

特に公衆衛生上のリスクが長引く事態に強い警戒感を示しているが、新型コロナウイルスの感染抑制に向けた取り組みと同時に、政府と中央銀行の積極的な対応の必要性について言及している。

FRBに関しては、既にゼロ金利政策の導入と無制限の量的緩和政策を実施しており、過去最大規模の金融策を展開している。トランプ米大統領の主張するマイナス金利導入に金融当局は慎重だが、現行政策の縮小・停止を議論できる状況にはなく、追加緩和策の導入を迫られるのではないかとの警戒感が強い。

一方、米議会は既に第14弾の新型コロナウイルス対策法案を成立させ、総額3兆ドルという異例の規模の財政政策を展開している。米国内総生産(GDP)の15%に近い規模だが、議会では民主党が更に3兆ドル規模の追加対策を要請するなど、第5弾、更には第6弾の対策法案の議論も始まっている。

■ドルと米国債に対する信認にリスク

金市場の視点では、FRBの積極的な金融緩和策は、金利低下を通じて金の保有コスト軽減につながることになる。金は原則として金利や配当を発生させることがないため、金利低下局面で買われる一方、金利上昇局面では売られる傾向にある。また、FRBが国債や社債などのリスク性のある資産を購入し続けることで、国際基軸通貨ドルの信認問題も浮上している。ジャンク債と言われる高利回り債も購入しているが、仮に企業のデフォルトなどが大量発生すると、FRBのバランスシートが毀損されることになり、それは必然的にドルの信認に傷を付けることになる。

一方、国債の信頼は財政政策に強く依存するが、当初は1兆ドル規模と予想されていた2020会計年度の財政赤字は、議会予算局の推計では3.4兆ドル規模に膨れ上がる見通しになっている。財政環境の持続性については、ここ数年は「財政の崖」といった形で金市場の関心事になったが、新型コロナウイルス対策で過去に経験したこのない財政出動を迫られる中、財政赤字は一気に拡大し、公的部門の累積債務も急増することになる。財政収支と金価格との間には逆相関関係が認められているが、膨張する財政赤字に対する警戒感も、金価格を強く刺激している。

これらの問題は、直ちにドルや米国債が急落することを意味するものではない。しかし、新型コロナウイルス対策で財政拡張が進み、民間部門で吸収しきれない国債をFRBが積極的に購入する仕組みに対しては、不安を感じる投資家も多い。仮にパウエルFRB議長の認識が正しければ、こうした有事対応は数か月ではなく数年単位の議論になる見通しであり、投資家の不安心理の受け皿として金が再注目されている。

あくまでも一時的な有事対応との見方もある。しかし、前回の世界同時金融危機の際にもこれに近い政策が採用されたが、その後に累積債務の大規模な削減が始まった訳でも、FRBの保有資産売却が本格化した訳ではない。仮にこの政策を正常化しようとすれば、2013年の「バーナンキ・ショック」以上のテーパー・タントラム(量的緩和縮小の示唆に伴う市場の動揺)に見舞われる可能性も高い。

■米中関係の緊迫化も

しかも、この最悪のタイミングで米中関係が再び緊迫化している。トランプ政権内では、新型コロナウイルスへの対応、更には米中通商合意の履行状態について、対中批判の声が強くなっている。トランプ大統領も14日に中国との「断交」断交の可能性を検討しており、中国の習近平・国家主席と現在は会いたくないと発言している。

この流れの中で、米商務省は17日、中国のファーウェイに対する半導体輸出規制の措置を発表し、中国商務省はアップルなど米ハイテク企業に対する報復の可能性を警告している。トランプ大統領の発言一つによって、米中関係が一気に緊迫化する可能性があり、新型コロナウイルスによるダメージからの立ち直りを打診する世界経済が、米中対立のショックを乗り切ることができるのか、高まる不安心理が金相場を押し上げている。

世界経済の低迷、大規模な財政出動と金融緩和政策、米中対立の激化と、新型コロナウイルスは感染被害が終息した後も、投資環境に大きなリスクをもたらすことになる。金価格が改めて上昇傾向を強めていることは、新型コロナウイルスによって生じたショックの後処理には、課題が山積しているとの危機感を反映したものと言えよう。世界同時金融危機後の値動きをみても、金価格の高騰はこれから年単位で展開される可能性が高まっている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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