古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:李克強

 古村治彦です。

 日曜日に閉会した中国共産党第20回党大会では、最後に、胡錦涛前国家主席が複数の係員に促され、習近平の隣の椅子から退場させられる場面があった。この時、習近平とは言葉を交わし、李克強首相の方を軽くたたく様子が見られた。栗戦書全国人民代表大会常務委員長が大汗をかきながら胡錦涛から書類を取り上げる姿が映像で写された。
hujintaopartycongress001511
hujintaopartycongress002511

 この胡錦涛の突然の退出については様々な分析がなされている。健康不安説、特に認知症を患っている胡錦涛が最後にどんな行動を取るのか分からないということで退出させたということが言われていたがそれは不自然だ。健康不安だけならば欠席でも良い訳だし(もう引退しているのだから実務などに影響はない)、最高幹部たちもあのような冷淡な態度を取ることはなかったはずだ。不測の事態ということであれば、テレビ中継は途中で停止されるか、全く別の場所を映すかできるはずだが、その様子を中継し続けた。これは、最初からそのように仕組まれたと考えるのが自然なことだ。
 やはり、今回の退出劇は、習近平と側近たちだけで事前に作って、一部の幹部たちだけに知らされたシナリオに沿った動きだったということになるのだろう。現在の最高指導部層は文化大革命時代を生年として過ごして苦労してきた人たちだ。そこから叩き上げ、幾多の競争を勝ち抜き、無数の修羅場を生き抜いてきた人たちだ。どんなに不測の事態が起ころうとも平静を保つことが出来るのだろう。今回の出来事で皆微動だにしなかったのはそういうことだろう。そして、頭脳をフル回転させながら、事態を把握していったはずだ。そして、「共青団派排除の仕上げとしての胡錦涛前主席の排除なのだ」ということをコンマ数秒で理解したのだろう。

 習近平は、この10年で自分の権力基盤を固めることに成功した。江沢民元国家主席をトップとする上海閥を追い落とした。そして、今回の人事では露骨に共青団派を追い落とした。そして、独裁体制を確立した。私はこのブログでも何度も書いているが、習近平が不文律を破って3期目も最高指導者の地位を確保したことは、第二次世界大戦中のアメリカ大統領フランクリン・D・ルーズヴェルトの事績を類推させるものだ。今回、中国は平時モードから戦時モードに切り替えたのだ。「平時の改革などには役立つ共青団系はエリート、お公家様集団で乱世には役に立たない」ということで、切り捨てたということになる。

 習近平が確立しようとしている戦時体制は、中国が世界に出ていって戦争をしようというものではない。アメリカが火をつけて回っている世界の動乱的状況、第三次世界大戦に備えてのものだ。ウクライナ戦争が第三次世界大戦に拡大する可能性もある中、自国の防衛と経済を守るということでの「戦時体制」ということになる。

 共青団(中国共産主義青年団)という組織が潰れた訳ではないし、これからもエリート機関として存続する。そこで育った人材たちは、動乱期を乗り切った後に必要とされる。現在の状況を乗り切るために、幾多の英才を切るということが出来ることは中国の強さということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

一体全体、胡錦涛に何が起きたのか?(What the Hell Just Happened to Hu Jintao?

-習近平の前任者は党大会の場から強制的に追い出された。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年10月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/22/china-xi-jinping-hu-jintao-ccp-congress/?tpcc=recirc_trending062921

中国共産党第20回党大会は土曜日に、珍しくも衝撃的なライヴドラマで幕を閉じた。2002年から2012年まで中国共産党の指導者であった胡錦濤は、党大会の最終投票の直前に、明らかに混乱し動揺した状態で、スタッフによって公然と大会から退場させられた。胡錦濤は習近平国家主席の隣の席で、習主席と李克強首相に質問し、習主席が頷く様子をカメラに収めたが、胡錦濤は書類に手をかけ、書類を取るのを妨げたという。胡錦濤は習近平と李克強首相に質問し、習近平は頷いたが、胡錦濤が書類を取るのを習近平が手で制止し、同じく党幹部の栗戦書は立ち上がり、胡を助けようとしたが、隣に座っていた政治理論家の王滬寧に背広の上着を引っ張られ引き戻された。

胡錦濤は習近平のような権力を持ってはいなかった。胡錦涛はいわゆる集団指導の時代の最高指導者だった。前任の江沢民の強大な影響力と戦わなければならなかった。胡錦濤の在任中、汚職は増加した。そして共産党にとってより危険なことに、汚職に関する報道も増加し、ネット上での言論の自由も、限定的ではあるが市民社会団体やNGOの活動も増加した。これは、胡錦濤が自由主義に傾倒したからではなく、党員の多くが党の方針を貫くことよりも金儲けに夢中になっていたからである。

2012年に中国共産党の最高指導者を退任して以来、習近平とは対照的に、胡錦濤は党メディアから称賛されたが、力は失われた。習近平の粛清により、かつての盟友の多くが逮捕され、特に2015年には胡錦涛の首席補佐官の令計劃が逮捕されている。胡錦濤は、自分と同じ共産主義青年団の元リーダーたちの権力ネットワークと関係があったが、その派閥は事実上壊滅したように見える。

一体、何が起こったのだろうか? 土曜日に中国の国営通信社である新華社が発表した中国共産党大会総会メンバーのリストに胡錦濤の名前はあるが、この事件についての説明はなされておらず、当然のことながら、この件についてオンラインで議論しようとすると厳しく検閲される。中国共産党大会は、実際の政治が数週間から数カ月も前に行われる、極めて厳格に演出されたイヴェントであることを念頭に置いてほしい。つまり、胡錦濤の予告なしの不手際な解任は、不手際もしくは陰謀(a cock-up—or a conspiracy)のどちらかである。

第一の可能性は、健康上の危機ということである。胡錦濤は党大会の期間中、目に見えて衰えていた。中国の指導者は皆、髪を染めているので、過去の時代であれば、それだけで権力を完全に放棄したことになっただろうが、習近平政権では白髪が入り込むことが許されている。しかし、カメラが回っている中で、緊急に彼を排除する必要があり、かつ、彼が深いところでそれを嫌がっているというのは、どのような状態なのかが見えにくい。また、秘密主義と慎重さが常識である中国共産党の内部でさえ、なぜ他の人は体の弱い元同僚を助けないのだろうか?

一つの可能性は、胡錦涛に知らされないで、予想外に新型コロナウイルス感染の診断が出ていたことである。しかし、その場合、指導者に近づく者全員に実施された迅速検査で何も検出されなかったのに、タイミング悪くPCR検査が実施され、陽性となったことになる。

第二の可能性は、習近平が、党大会の全会一致の投票で、胡錦濤が棄権するか、反対票を投じるかもしれないという、恐れるような情報が突然出てきた可能性である。それは、胡錦濤が舞台裏でかつての同僚に言った言葉かもしれないし、あるいは認知症の兆候があって、何かが間違っているかもしれないと思って突然パニックに陥ったのかもしれない。そう考えれば、胡錦濤の混乱は理解できる。

習近平が前任者を意図的に公然と貶めたのは、党の規律と司法による処分を行使する前触れだったのかもしれない。党大会では、習近平が党の「核心(core)」であることがしばしば修正され、ほとんど象徴的な憲法に明記され、前例のない3期目を迎えるにあたって、習近平が前面に立ち、中心的存在であることが強調されたのである。

習近平は冒頭の業務報告で、胡錦濤らには言及しなかったが、「党の指導が弱く、空虚で、水増しされていた」と極めて厳しい表現で就任当時の党内情勢を語っていることに留意してほしい。胡錦濤のマルクス主義理論への貢献である『科学的発展展望』についても、習近平の演説の中でわずかに言及されただけである。 このように胡錦濤を貶めることは、長らく党内で勢力を保ってきた元最高幹部層である「退役長老(retired elders)」に対して、習近平の権力は縛られていないという明確なシグナルを送ることにもなる。その場合、栗戦書が胡錦濤に手を差し伸べたのは、かつての仲間に対する本能的な、しかし危険な優しさであったろう。

しかし、それはまた、外の世界に完全に知られていなかった陰謀を除けば、ほとんど不必要な動きだと言える。中国共産主義青年団派(共青団派)の破壊と胡錦涛の仲間たちの追放または逮捕を考えると、胡錦涛がかつて党内で持っていた力はとっくに失われている。他の引退した指導者との関係を除けば、胡錦涛が習近平にとってもっともらしい脅威であると考えるのは非常に難しい。

また、中国のようなレーニン主義体制に見られる官僚劇を好んで行う、残酷極まりない行為でもあった。このシナリオでは、胡錦濤は単に拘束されるか、健康を理由に内密に軟禁される可能性があった。たとえ恥をかかせるにしても、毛沢東が自分に逆らった指導者に繰り返し行ったように、非公開の会議の中で行うことができたはずだ。中国共産党独自の内部秘密警察である中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)は、習近平の下で拷問を使う頻度が高くなるなど、厳しい態度で臨んでいることは有名である。軍高官の徐才厚は2014年、がん治療の最中に拘束され、翌年死亡した。

何年も正確な事実が明らかにならない可能性が高い。胡錦濤の健康状態について発表があるかもしれないし、単に事件が公的に説明されないだけかもしれない。万が一、胡錦濤が中央規律検査委員会に正式に拘束されれば、それは事態が大きく深刻化し、いつものように刑事告発と投獄に至るだろう。

胡錦濤に対して何が起きたとしても、習近平の権力は日曜日にはより明白になる。中央委員会の初期名簿(土曜の会議で指導部の中核である常務委員会を名目上決定し、日曜に発表する約200人)には、現首相で胡錦涛の子飼いの李克強や、汪洋、劉鶴といった比較的経済改革に熱心な人物が含まれていなかった。つまり、常務委員会はほとんど習近平の盟友ばかりになる可能性が高い。

2013年頃から、中国ウォッチャーたちは「胡錦濤の下での自由主義の黄金時代(golden age of liberalism under Hu Jintao)」という冗談を言うようになった。当時は、市民社会がゆっくりと、そしてたどたどしく進歩しながらも、政治的に保守的だった時代をそのように考えるのは不条理に思えた。しかし、その後10年間で、この話は冗談では済まなくなった。相対的に見れば、胡錦濤の時代は今やとんでもなく自由で開放的でありそれが、残酷なフィナーレを迎えているように見える。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)
(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今回は珍しく中国政治に関する記事をご紹介する。今年秋に第20回中国共産党大会が開催される。そこで習近平国家主席の更なる任期延長が決定されると見られている。習近平は2012年に中国国家主席、中国共産党総書記、中国共産党中央軍事委員会主席に就任して以来、2期10年務めている。前任者の江沢民(1993-2003年)、胡錦涛(2003-2013年)はそれぞれ2期10年を務めて、最高指導者の地位を退いている。それに伴い、中国共産党中央政治局の人事も交代している。習近平は2期10年を超えてこれからも最高指導者の地位にとどまる(さらに2期10年で2032年まで)と見られている。これで、中国共産党指導者第6世代(1960年代生まれ)の出番がふさがれてしまい、後継者は第7世代(1970年代生まれで10年後は50代が多い)となる可能性がある

 習近平が「終身指導者」としての地位を確立しつつあるようだが、そのためには党内の派閥争いについて妥協しなければならないところもあるようだ。また、政策面でも譲歩するところもありそうだ。中国共産党内部の派閥としては共産主義青年団(共青団)系、太子党(党幹部の子女たち)系、上海閥などが知られている。習近平は太子党出身だ。中国共産党中央規律検査委員会(書記は2012年から2017年までは王岐山、2017年からは趙楽際)

を使って政敵たちを追い落としてきた。

 今回の記事で良く出てくる単語が党規律検査委員会(Commission for Discipline Inspection)と党政法委員会(Political and Legal Affairs Commission)である。党規律検査委員会は全党の規律の検査、党員が規律や規則、規範やルールを守っているかを調査し告発する機関である。簡単に言えば、汚職をしていないかを調査する機関である。中央規律検査委員会のトップである書記は中国共産党政治局常務委員(全員で7名しかいない)が務める。 

党政法委員会は情報、治安、司法、検察、公安などの部門を主管する組織である。簡単に言えば、警察から裁判所、検察、武装警察などを管轄する部門である。中央政法委員会書記は、現在は政治局委員(常務委員7名を含む25名いる)の郭声琨が務めている(2012年から)。それまでの書記だった羅幹(2002-2007年)、周永康(2007-2012年)は政治局常務委員だった。2012年に習近平体制が発足するまでは、政治局常務委員は9名だったが、習近平体制発足後は7名となった。それもあって中央政法委員会書記は政治局委員が務めることになった。

更に言えば、習近平は政敵たちを次々と打ち倒すために(反腐敗運動を大規模に展開するために)、親友の王岐山を中央規律検査委員会書記に据えた(2012-2017年)。現在は側近の趙楽際(2017年から)を据えている。王岐山は国家副主席に移動した(2017年から)。習近平と王岐山は若い時に一緒に下放(sent down)され、一緒のベッドで寝たという逸話が残っている。そうした2人の中であるが、現在は隙間風が吹いているということも言われているようだ。また、下の記事では、江蘇省政法委幹部たちが習近平に対する反逆を企てたという話も出ている。習近平体制も盤石、一枚岩という訳ではないようだ。そうした中で、人事と政策の両面で妥協や取引も行われるという見方も出ている。習近平がこれから10年更に中国の最高指導者として君臨するとなると、10年おきに若い世代に譲っていく方式(年功序列的とも言える)が崩れている。本来であれば中国指導者第6世代(1960年代生まれ)が登場すべきなのだが、早くから名前が出ていた割には人事面で冷遇されている。それはこの世代自体の能力や人望の問題もあるのだろう。彼らの中から国家主席を務める人物が出てこない可能性が高い。そうなると、10年後には一気に第7世代(1970年代生まれ)が最高指導層に入る可能性もある。これからのために大7世代の顔ぶれや動向を注視していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

習近平はライヴァルと政治局の議席を分け合う代わりに、「終身指導者」になる可能性がある(Xi Jinping is Poised to Become “Leader for Life” in Exchange for Sharing Politburo Seats with Rivals

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2022年5月27日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/xi-jinping-is-poised-to-become-leader-for-life-in-exchange-for-sharing-politburo-seats-with-rivals/

chinesecommunistpartyxijinping512
 
習近平国家主席が李克強首相の前を歩く(ソース:中国共産党)

●導入(Introduction

習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)国家主席は、今秋の第20回党大会に向けて、自身の個人崇拝(personality cult)を劇的に高めている。その最新の兆候は、全国メディアが習近平に「袖(lingxiu袖)」の称号を与えたことである。「袖」は通常「指導者(leader)」と訳される。しかし、中国共産党の辞書では、習近平は「指導者」よりも尊敬され、壮大なヴァージョンである領袖となった。中国共産党の歴史上、「偉大なる舵取り(Great Helmsman)」毛沢東だけがこの高貴な称号を手にした。新華社、中国中央電視台(CCTV)などの主要メディアは、習近平の経歴、特に党と国への「重大な貢献」を強調する50本のヴィデオエピソードの放映を開始した。新華社によると、習近平は「国内外の情勢の全体像を描き、改革、発展、安定を打ち出し、党、国家、軍隊の運営における進歩に責任を負っている」(民報:5月23日、新華社:4月18日)と報じた。

xijinping521
 
習近平

likeping521
李克強

2016年に既に「指導核心(leadership core)」という重要な称号を得た習近平への歯の浮くような聖人伝的言及(hagiographic references)については、香港、台湾、海外の中国人社会において、その真実を明らかにする動きを誘発したように見える。そのような動きは、陝西省出身の69歳の習近平は重病で、経済政策と外交政策の両方で李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相が率いる政敵の根強い反対に直面しているという報道になって表れている。ニューヨーク在住のチェン・ポーコンのような海外の有名な主要なオピニオンリーダーたち(KOLs)は、李首相と汪洋(Wang Yang、1955年-、67歳)中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference CPPCC)主席の市場振興政策が、習近平の主張する準毛沢東主義的な党による経済に対するほぼ絶対的な支配という見解に取って代わっていると断固として主張している(チェン・ポーコンのYoutube:5月18日、ラジオ・フランス・インターナショナル:5月12日)。習近平は党と国家のナンバーワンの地位を李に譲らざるを得なくなったとまで推測する者もいる(ラジオ・フリーアジア:5月18日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:3月27日)。

wangyang521
 
汪洋

習近平のことを「領袖」と呼ぶようになったのは、昨年(2021年)4月、最高指導者が広西チワン族自治区に視察に行った時にまで遡る。広西チワン族自治区のメディアは習近平を「全党の核心、人民の領袖」と称え、「人民の領袖の感情は広西チワン族自治区に結びつけられ、彼の偉大な思いは広西チワン族自治区全体に輝いている」と地元紙は伝えた。広西チワン族自治区のメディアはまた、人民が「永遠に領袖を支持し、領袖を守り、領袖に従う」と報じた(南寧日報:4月28日、HK01.com:4月20日)。最近の会議で、広東省の幹部たちは、中国が豊かになりで強大になっているのは、「習近平総書記が個人の権限で(単独で)決定し、政策に最終指示を与えることで行使する力」(Rthk.hk:5月21日、Hk.finance.yahoo.com:5月21日)によると述べた。

従って、中国共産党総書記(General Secretary of the CCP)と中国共産党軍事委員会主席(Chairman of its Central Military Commission)を兼任する習主席が、今年後半の第20回党大会で少なくともあと1期5年の中国最高指導者としての任期を確保することはほぼ確実である。また、「終身指導核心・領袖(core and lingxiu [of the leadership] for life)」の地位が正式に認められ、2027年の第21回党大会で4期目が承認される可能性が高い。つまり、習近平は少なくとも2032年、保守的で毛沢東思想を奉じる指導者が79歳になるまで統治することになる。

●習近平の強権発動(Xi Plays a Strong Hand

zhurongi521
 
朱鎔基

習近平の権力掌握の継続は、朱鎔基(Zhu Rongji、1928年-、93歳)元首相ら党の長老たちから厳しい批判を受けている。あるいは来年3月まで政府首脳を務める李首相が習近平の権力を弱めようと画策しているのではないかとの見方が広がっている。しかし、習近平の権力継続は続きそうな気配である。5月25日にテレビで行われた数千人の国家・地方指導者との会見で、李首相は、3月と4月に特に顕著になった経済衰退の兆候を食い止めることが急務であることを改めて強調した。李は、習近平の指導力と習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策の重要性に敬意を表しつつ、「感染拡大の予防と制御をうまくやりながら、経済と社会の発展の任務を完了する」よう当局者に促した。李首相は、「私たちは国の全体的な状況をしっかりと把握し、『一つの目標だけに集中すること(focusing on only one goal打一、dandayi)』と『政策に厳格な統一性を持たせること(imposing rigid uniformity on policies、一刀切、yidaoqie)』は避けなければならない」と付け加えた。さらに李首相は、「生産を再開し、経済目標を達成するためには、物流やサプライチェーンの滞りを抑制する必要がある」と指摘した。習近平の「ゼロ新型コロナウイルス」政策が経済を疲弊させると広く批判される中、李首相は最高指導者の権威にさりげなく挑戦しているようにも見える(新華社:5月25日、連合日報:5月25日)。

しかしながら、実際には、毛沢東が派閥間の内輪もめについて語ったように、「政治権力は銃の銃身から育つ(political power grows out of the barrel of a gun)」のである。習近平は中国共産党中央政治局常務委員(Politburo Standing Committee PBSC))として唯一、中国人民解放軍、中国人民武装警察、そして一般警察、情報機関を掌握している。習近平の腹心の丁薛祥(Ding Xuexiang、1962年-、59歳)中国共産党中央弁公庁主任は、政治局員と党幹部のほとんどに運転手、秘書、警護を付けている。丁はまた、文官と軍人の両指導者に対する電話盗聴や公務外の活動を綿密に監視するなどの監視体制を敷いている(『ザ・ディプロマット』:2月1日、『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)』紙:2015年3月11日)。中国共産党中央弁公庁主任は5月16日、党の長老に対し、党中央指導部(最高指導者・習均平総書記)に対して「出鱈目な議論(妄議)」(妄wangyi)を言わないよう警告する通達を発した。また、元幹部が海外に渡航する際には、最近強化された出入国規制を尊重しなければならない。また、引退した幹部も現役幹部も、海外資産を処分し、貴重な外貨を国内に戻すよう求められている(ラジオ:フリーアジア:5月17日、新華社:5月15日)。

dingxuexiang521
 
丁薛祥

●ライヴァルたちとの交渉?(A Bargain with Rivals?

個人消費の低迷や製造業の不振など、習近平の「ゼロ・トレランス」新型コロナウイルス政策における妥協しない姿勢が経済を悪化させているため、最高指導者は経済政策と人事問題の両面で妥協することに同意したようだ(Caixin.com:5月25日、チャイナ・ブリーフ:5月5日)。国営中国新聞社が519日の論説記事で強調したように、「風向きが変わり、eプラットフォーム経済は次々と明るい兆しを示している」(国営中国新聞社:5月19日)。李首相は、習近平のようなイデオロギー的なこだわりを無視し、経済成長と雇用を維持することの重要性を繰り返し強調した。その結果、習近平はテクノロジー・コングロマリット各社に対する党の鉄壁の支配を堅持する方針を大幅に緩和せざるを得なくなった(チャイナ・ブリーフ:5月15日)。この政策転換は、習近平の重要なアドヴァイザーである政治局員兼副首相の劉鶴(Liu He)が最近行った、IT企業に対する規制は「市場化、合法化、国際化の原則に基づく」べきで、規制メカニズムは市場を害してはならないという比較的自由な発言に現れている(人民日報:3月16日、Gov.cn:3月16日)。

人事面では、習近平派閥のメンバーたちが困難に直面しているようである。李首相の後継者として習近平が推すとされる政治局員で上海市党委書記の李強(Li Qiang、1959年-、63歳)は、上海の長期封鎖の影響で政治的な命運が悪化している可能性が高い。その他、応勇(Ying Yong、1957年-、64歳)湖北省元党委書記、杭州と鄭州という主要都市の党委書記を務めた周建勇(Zhou Jianyong、1967年-、54歳)と徐立毅(Xu Liyi、1964年-、57歳)など習近平の側近たちが問題を起こしている(Cnstock.com:4月20日、 4/20、ラジオ・フリーアジア:3月30日)。

liqiang521
 
李強

つまり、習近平は依然として他の政治局や大臣クラスの幹部の上に立っているが、第20回党大会で承認されるためには、人事という重要な分野で譲歩しなければならない。例えば、中国の事実上の最高統治機関である中国共産党駐大生政治局常務委員会の構成についてみる。党大会で確認される7人の常務委員会の構成の予想は以下の通りである。習近平総書記、丁薛祥中国共産党中央弁公庁主任、李強または陳敏爾(Chen Min’er、1960年-、61歳)重慶市党委書記のいずれかである。李首相が率いる中国共産主義青年団(Communist Youth League Faction CLYF)という対立する派閥が2議席を確保する見込みである。李首相は、農業担当の副首相で共青団の重鎮である胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)を後継者に推している。党規約では、副首相の経験があることが首相就任の重要な条件となっている。習近平は李首相の後継者として、現副首相、元副首相のいずれかを選任していない。第20回党大会の定年(68歳)を1年後に控えた李首相と汪洋中国人民政治協商会議主席のいずれかが中央政治局常務委員会に残る可能性はある。李首相が最高会議に留まる場合、全国人民代表大会(全人代、National People’s CongressNPC)主席に移る可能性は十分にある。この2カ月間、李首相がメディアで急に目立つようになったのは、習近平との駆け引きと見ることもできる。すなわち、胡春華副首相や汪洋政協会議主席など中国共青団の仲間を習近平が支援する見返りに、李は党大会での習近平の任期延長に反対しないということになる(ヴォイス・オブ・アメリカ:3月22日、Heritage.org,:3月7日、ザ・ディプロマット:2020年8月4日)。

政治局常務委員会で最年少の委員である趙楽際(Zhao Leji、1957年-、65歳)は中国共産党中央規律検査委員会書記を務めている。中国共産党中央規律検査委員会は中国最大の反腐敗機関である。習近平の腹心から習近平の政敵となったものの、常務委員として2期目を迎える(Facebook.com:2020年10月28日、ヴォイス・オブ・アメリカ・チャイニーズ:2019年1月9日)。最後の1枠は、派閥が明らかでない新星に与えられるかもしれない。仮にこれが実現すれば、習近平派閥が政治局常務委員会7枠のうち3枠を制することになる。しかし、党大会に向けて、政治局、政治局常務委員会ともに陣容の変化が予想される。

●習近平の後は誰?(After Xi, Who?

このように、政治局常務委員会の構成を考えると、第20回党大会後の習近平の最優先課題は、習近平の後継者問題ということになる。仮に習近平が2032年の第22回党大会まで統治するとなると、2030年代前半には李強、陳敏爾、丁雪祥ら1959年から1969年生まれの第6世代の新星の多くが、定年年齢を迎える。その結果、習近平の後継となる幹部は、1970年代生まれの中国共産党指導部第7世代(7G)のメンバーから生まれるかもしれない(チャイナ・ブリーフ:2021年11月12日)。しかし、現段階では、副大臣、副省長、副市長にしか昇格していない7Gの関係者のうち、誰がトップになる可能性があるのかを推測するのは時期尚早である(Thinkchina.sg:2021年12月6日、サウスチャイナ・モーニング・ポスト:2021年6月26日))。明らかに、習近平の終身在職権獲得への挑戦と、彼の経済政策と新型コロナウイルス政策が支配エリート内の強い反対に遭っている事実は、党と国家の非常に非民主的で非透明な制度を実証している。また、習近平指導部が改革の大立者である鄧小平が切り開いた制度改革を無視し、故毛沢東主席が打ち立てた以前の規範を復活させることの危険性をも示している。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2020年)。

=====

習近平の権力強化に伴う派閥争いの激化(Factional Strife Intensifies as Xi Strives to Consolidate Power

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

2021年10月14日

『チャイナ・ビリーフ』(ジェイムズタウン・ファウンデイション)

https://jamestown.org/program/factional-strife-intensifies-as-xi-strives-to-consolidate-power/

chinesecommunistpartyxijinping511
2021年9月30日、北京の人民大会堂で行われた中国建国72周年記念レセプションに出席した党と国家のトップ。写真は(左から)。王岐山、趙楽際、汪洋、李克強、習近平、栗戦書、王滬寧、韓正。(出典: Xinhua)

中国の最高指導者である習近平国家主席と、曾慶紅(Zeng Qinghong、1939年-、82歳)前副主席や王岐山(Wang Qishan、1948年-、74歳)現副主席などの強力な派閥や人物との間で、熾烈な権力闘争が行われている証拠が更に明らかになった。先月(2021年9月)、半公式サイト「網易(NetEase)」と「捜狐(Sohu)」が明らかにした政法系(政法系,zhengfa xitongの高官数名とその一派の内紛をきっかけに、これらの有力者たちの間での関係が微妙になっているという話が明らかにされた。警察、秘密警察、裁判所を含む政法系統(zhengfa xitong)の複数の幹部が、習近平とされる党幹部に対する「邪悪な裏切り(不軌)」(sinister and treacherous、不, bugui)の行動を計画していたことが、先月の半公式サイト「網易」と「捜狐」で明らかになった(チャイナ・ブリーフ:9月23日を参照)。(これらの記事はその後、インターネット上から削除された)。
zengqinghong521
曾慶紅
wangqishan521
王岐山

経済が強い逆風に晒される中、派閥間の裏切り合い・騙し合い(back-stabbing)は更に悪化している。世界最大級の不動産コングロマリットである恒大集団(Evergrande Group)が倒産寸前となったのをきっかけに、数十億元の債務負担に耐えられない不動産会社や金融会社が更に増えていると言われている。昨年末の国家債務総額はGDPの335%に達し、対外債務だけでも2兆6800億ドルに達した(SAFE.gov.cn:9月30日、930日、香港経済新聞:2020年11月19日)。インフラ部門以外では、地方政府の投資機関が2020年末までに53兆元(約8兆2300億ドル)の融資を受けたと推定され、2013年の16兆元(約2兆5000億ドル)から増加している。更に、中国は石炭の枯渇を一因とするエネルギー不足に直面している。外交面では、アメリカとの貿易協議が再開されていない。ジョー・バイデン政権は、台湾海峡、東シナ海、南シナ海などで強硬姿勢を強める中国に対抗するため、同じ考えを持つ国による連合体構築の努力を続けている(Asia.nikkei.com:10月4日、Times of India:9月27日)。

●王岐山とのトラブル?(Trouble with Wang Qishan?

習近平は630日以上海外出張がなく、来年の第20回党大会に向けて、各方面からの挑戦への対応に追われているようである。党大会のテーマは絶対的政治指導者(strongman)である習近平を中国共産党の「終身核心(core for life身核心, zhongshen hexin)」としての承認である。今月初め、リベラル系オンライン雑誌「Caixin.com」の創刊者兼編集者で著名なジャーナリストの胡舒立は、同通信社の微信(we-chat)アカウントの料理欄に、ある「豚頭(pighead)」について次のように投稿した(連合日報:10月7日)。「豚頭がうまく調理されれば、もちろん美味しく食べられる」と短いメモに書かれていた。「しかし、豚頭が尊敬されないとしたら、それは人々の考え方と関係がある。普通の人は、悪名高い豚頭と食卓で戦略的な関係を築こうとは思わないだろう」。「豚頭」は習近平に対するニックネームの1つである。この投稿は料理に関するものであるはずだが、「戦略的関係(strategic relationship)」に言及しているのは、習近平の頑迷な保守主義や欧米諸国との強固な関係を構築できていないことに対する手品のような批判である(Tang Jingyuan Youtube Channelチャンネル:10月8日、連合日報:10月7日)。

胡舒立は過去20年以上、権力者たちや太子党(princelings、党の長老の子弟)の不正を暴き、物議を醸す記事を多数執筆し、編集してきた。彼女の勇気の源は、習近平の第1期(2012-2017年)に政治局常務委員と党の最高反腐敗機関である党中央規律検査委員会(CCDI)書記を務めた王岐山による「保護」にあるとされる。王岐山は多くの人が習近平の最も近い味方の1人と考えており、2013年には副主席という高い称号を与えられ、対米関係では習近平の主要なアドヴァイザーと考えられていたこともある しかし、王岐山は2017年に政治局を去って以来、最高指導者からの信頼を徐々に失っている。(Asia.nikkei.com:2020年10月8日、Hong Kong Free Press:2020年4月9日)。

昨年末には、太子党で不動産王であり、インターネット上で広く支持されているコメンテイターでもある任志強(Ren Zhiqiang、1951年-、71歳)が、汚職と横領の疑いで18年の実刑判決を言い渡された。しかし、王岐山と親しいことで知られる任に下された厳罰は、任がある「皇帝であると主張する裸のピエロ(disrobed clown who insists on being the emperor)」についてのインターネット投稿が原因だと考えられている(ラジオ・フランス・インターナショナル:2020年9月25日、中央日報:2020年9月24日)。習近平はしばしば評論家たちから「服を着ていない皇帝(the emperor who wears no clothes)」と呼ばれており、任が習近平をけなしたことは国内のリベラルな知識人の間で大きな騒ぎになった。
renzhqiang521
任志強

王岐山は、無責任な経営や無謀な海外投資で当局からペナルティを受けた複数の企業の隠れたパトロンとも目されている。その最たるものが、20年足らずで地方航空会社から国際コングロマリットにまで上り詰めた海南省のHNAグループである(『中国デジタルタイムズ』:2018年2月12日)。HNAが今年初めに倒産したのは、773億ドルと推定される負債を返済できないことが大きな原因だ。HNAの陳峰(Chen Feng、1953年-、69歳)会長は9月、経済犯罪と反党活動の疑いで逮捕された。陳は、海南省の元党書記である王岐山の子飼いとされている(サウスチャイナ・モーニング・ポスト:9月20日、Asia.Nikkei.com:3月16日)。陳が逮捕された後、HNAの取締役会が発表した懺悔文風の声明は、不正な事業活動以上のものがあったことを示しているようだ。「野心と野生の欲望がグループ全体を深い溝へと導いた」と声明は述べている(Thestandnews.com:9月25日、The Paper:9月24日)。
chenfeng521
陳峰

王岐山のもう1人の側近である元党中央規律検査委員会(CCDI)幹部の董宏(Dong Hong、1953年-、68歳)は、昨年4月に横領と「堕落した生活(degenerate lifestyle)」の容疑で逮捕された。董宏は次官級幹部で、王岐山がCCDIの書記だった時、王岐山の右腕として活躍した。董宏は、CCDIが2013年に設置した省・政府機関の不正を調査するチームの責任者であった。彼は、「政治規律と政治的規制を著しく侵害した」、「党に不誠実であった」という理由で告発された。(Asianews.it:4月27日、 New Beijing Post:4月26日)。「政治規律と政治的規制」に反するということは、党の「核心」である習主席に十分忠実でないことの隠語と考えられている。
donghong521
董宏

●党の重要な長老からの反発(Pushback from a Key Party Elder

更に顕著なのは、習近平と曾慶紅前国家副主席との権力闘争である。曾慶紅は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)元国家主席の側近で、いわゆる上海閥(Shanghai Faction)の主要指導者でもある。曾慶紅は、数十億の企業の背後にある「保護傘(protection umbrella)」であると考えられている。そのうちの1つ、ファンタジア・ホールディングス(Fantasia Holdings、花年控股集有限公司、huayang nian konggu jituan youxian gongsi)は、曾宝宝(Zeng Baobao、1971年-、51歳)という曾慶紅の姪が社長を務める企業である。ファンタジアは最近、社債や約束手形の利払いが滞り、格付け会社から「デフォルト」状態に格下げされた。今年半ばの時点で、ファンタジアの流動負債(1年以内に返済しなければならない負債)は500億元(75億ドル)近くに達していた(Caixinglobal.com:10月7日、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月6日)。しかし、曾宝宝は自社の業績悪化について、党の最高権威を非難しているように見える。彼女は微信の投稿で、専門的なことは専門家に任せるべきだが、「脳が尻で調整されている人が意思決定することが非常に多い」と述べ、物議を醸した。さらに彼女は、会社の未来は「尻が一番しっかり固定されている人に譲られる(屁股决定袋的决策,交屁股坐得最定型的那个,志估豬拿得醉丁的那个)」と付け加えた。曾宝宝の微妙な発言は、国有化された不動産やテクノロジー企業に対して圧力をかけている習近平をターゲットにしているように見える(連合日報:10月8日、ラジオ・フリーアジア:10月7日)。
jiangzemin521
江沢民
zengbaobao521
曾宝宝

曾慶紅の最も深刻な「罪」は、故小民(ライ・シャオミン、Lai Xiaomin、1962-2021年、58歳で死)との付き合いかもしれない。国有企業である中国華融資産管理公司(China Huarong Asset Management Company CHAMCZhongguo huarong zichuan guanli gongsi)を率いていたベテラン銀行家だった。頼小民は昨年末に逮捕され、今年1月に死刑が執行された。彼は約17億9000万元の賄賂を懐に入れ、「党に不誠実である」と非難された。しかし、曾慶紅と頼小民の関係は古い。2人は江西省の隣県の出身で、曾は頼の金融界での出世に一役買っている(ラジオ・フリーアジア:1月22日、Tw.news.yahoo.com:1月6日)。曾宝宝のファンタジア・グループ・ホールディングスは、CHAMCのビジネスパートナーでもあった。網易と捜狐の独占報道では、頼は、王立科(Wang Like)、羅文Luo Wenjin、楊明(Yang Ming)などの江蘇省政法委幹部が習近平に害を及ぼすために計画した「邪悪な裏切り」行為の資金提供者と言われている(News.youth.cn:9月22日;ラジオ・フリーアジア:9月16日)。
laixiaomin521
頼小民

●習近平、ライヴァルの子飼いを警察・司法分野から粛清(Xi Purges Rival’s Protégés from Police Forces, Judiciary

習近平の長年にわたる政法組織(政法、zhengfa)への不信は、長年の宿敵であり、2015年に無期懲役の判決を受けた元政治局常務委員で中華人民共和国公安部長を務めた周永康(Zhou Yongkang、1942年-、79歳)が、警察、秘密警察、司法にいまだに多くの部下や追随者を抱えていることに起因している。これが、習近平が数年がかりで進めている政法体制の粛清の原動力となっている。3人の公安副部長を務めた人物、李東生(Li Dongsheng、1955年-、66歳)、孟宏偉(Meng Hongwei、1953年-、68歳)、王立科(Wang Like、1964年-、57歳)が経済・規律違反でそれぞれ2013年、2018年、2020年に逮捕された後、党中央規律検査委員会(CCDI)は10月2日、傅振華(Fu Zhenhua、1955年-、67歳)前公安筆頭副部長を同様の罪で捜査していると発表した。傅は2013年と2014年に周永康の捜査で重要な役割を果たしたにもかかわらず、王立科など他の周の子飼いと密接な関係を持ったため、習近平の信頼を失ったとされる。失脚した元警察幹部の多くは、内部治安システム内で「閥や派閥を形成した(forming cliques and factions)」と非難されている(VOAChinese.com:10月8日、 theinitium.com:10月5日、China.caixin.com:10月4日)
zhouyongkang521
周永康

中央巡視工作領導小組(Central Leading Group on Inspection WorkCLGIWZhongyang xunshi gongzuo lingdao xiaozu)が懲戒の対象としてきた江蘇省政法委幹部システムのメンバーの中には、定期的に党や政府に検査チームを派遣している者も少なくなく、そうやって中・高級幹部の政治的誠実さや経済犯罪の可能性を査定してきた。昨年、政治局常任委員で党中央規律検査委員会(CCDI)書記の趙楽際が率いる中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、公安部、国家安全部、司法部、検察院・裁判所など複数の政法組織に検査官を派遣した(CCDIウェブサイト:4月20日、MOJ.gov.cn:2020年8月23日付)。現在、2009年に設立されたが、2012年に習近平が党総書記になるまで活動を開始しなかった中央巡視工作領導小組(CLGIW)は、中国人民銀行、大手国営銀行、保険会社などの金融部門と、中国証券監督管理委員会や中国銀行業監督管理委員会などの規制機関を含む25の部門を調査している(Finance.sina.com:9月26日、Finance.caixin.com:9月26日)。王岐山と曾慶紅は公私ともに投資・銀行部門で活躍しており、習近平の政敵とされるこれらの人物の子飼いがまだまだ出てくる可能性がある。

●結論(Conclusion

習近平は多くの演説で、「党の核心」としての権威を、党の「自浄作用と自己再生(self-purification and self-renewal)」を実現する能力と結びつけている。習近平の評判の一部は、経済犯罪や規律問題で比較的多くの「虎たち(tigers)」(幹部)を罷免したことにある。曾慶紅や王岐山との対立は、これまで主に言葉による陰口で表されてきた。例えば、新華社と人民日報は、反腐敗キャンペーンはいかなる「鉄首公主(Iron Head Prince铁头王、Tie tou wang)」も許さないという論評を相次いで掲載した。「反腐敗運動には上限がない」と人民日報は昨年(2020年)1月に宣言した。「中国共産党は問題に正面から向き合い、過ちを正すことを恐れない。私たちは自浄作用と自己再生に長けている」(新華社:7月11日、人民日報:1月15日)。中国共産党の「自己改革と自己浄化(self-reform and self-purify)」能力については、習近平が中国共産党成立100周年記念演説などの主要な演説で繰り返し発言している。清朝の歴代皇帝が上級貴族に与えた称号の一つである「鉄首公主」は、曾慶紅を指すと考えられている。これは、最後の鉄首公主が清の皇太子の称号を持っていたことによる。第20回党大会は、習近平が党総書記、国家主席、党中央軍事委員会主席の地位を10年間維持できることを確認するものである。その一方で、党内の内部抗争は言葉の戦いを超え、少なくとも数人の元政治局員と党中央軍事委員会委員が失脚する可能性がある。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。最新作は『中国の将来のための戦い』(ルートレッジ刊、2019年7月)。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック


アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12





 古村治彦です。

 今回から2回に分けて、中国政治の最新論文をご紹介します。

==========

新しい高位グループが党と政府との間の区別に脅威を与える(
New High-Level Groups Threaten Line Between Party and Government

 

Publication: China Brief Volume: 14 Issue: 7

2014年4月9日 

ウィリー・ラム(Willy Lam)筆

 

http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42208&tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=9c04fb8086372aa9cd6deb00e61e01e7#.U1PR4X-KD4g

 

 

 習近平(Xi Jinping、しゅうきんぺい、1953年~)は、複数の情報が非公開の指導的なグループや委員会に実権を集中させている。中国共産党(Chinese Communist Party)の最高指導者である習近平に、これらの機関は直属している。これらのトップレベルの意思決定・調整機関は、習近平の側近たちは、最高指導者(supremo)である習近平に直属し、報告を行っている。それらの機関とは、中央国家安全委員会(the Central National Security CommissionCNSC)、中央全面深化改革領導小組(the Central Leading Group on Comprehensively Deepening Reforms)、中央互聯網(インターネット)安全情報化改革領導小組(the Central Leading Group on Internet Security and Informatization)である。このような機関に関しては、透明性とチェック&バランス機能の欠如に関する疑問が拭えない。李克強(Li Keqiang、りこっきょう、1955年~)国務院総理は全国人民代表者会議(National People’s CongressNPC)で国務院は「自己革命(self-revolution)を行う決意である」と表明している。この意味は、中央政府の各部(日本で言うと各官庁)は合理化を行い、それぞれが持つ力を縮小し、市場と社会がより大きな役割を果たせるようにするというものである。(チャイナ・ニュース・サーヴィス、2014年3月5日;人民日報、2014年3月5日)

 

 昨年(2013年)11月に開催された中国共産党中央委員会三中全会(the Third Central Committee Plenum)において、中央国家安全委員会と中央全面深化改革領導小組の設置が決定されたが、既に重要な役割を果たすようになっている。しかし、これらの機関に関する情報はほとんど公表されていない。そのスタッフの陣容、中央国家安全委員会の構成と目標は明らかにされていない。ただ、その規約として、党、政府、軍の各機関の連携を図り、国内の安定と「敵意を持った外国勢力」が起因する脅威に対処するというものがある。トップの3名の名前と役職だけが明らかにされている。それぞれ委員長の習近平、副委員長の李克強、そして全人代常務委員会委員長の張徳江(Zhang Dejiang、ちょうとくこう、1946年~)である。この3名のメンバーは、中国最高指導部で強大な力を持つ中国共産党中央政治局常務員会(Politburo Standing CommitteePBSC)に所属している。いくつかのメディアは、中央国家安全委員会を構成することになるであろう諸機関のリストを発表した。しかし、この情報の真偽はまだ確定していない。諸機関には、中国人民解放軍(People’s Liberation Army)、中国人民武装警察部隊(People’s Armed Police)、外交部(Ministry of Foreign Affairs)、公安部(Ministry of Public Security)、国家安全部(Ministry of State Security)、中国共産党中央対外連絡部(CCP’s International Liaison Department)、中国共産党中央宣伝部(Propaganda department)の名前が挙げられている。(文匯報[香港]、2013年3月7日;グローバル・タイムズ・フォーラム、2013年1月25日)

 

公的メディアと香港のマスコミは、複数の全人代の高級幹部たちの「習近平の腹心の一人である栗戦書(Li Zhanshu、りつせんしょ、1950年~)が中央国家安全委員会の総書記となり、あらゆるトラブルに対処している」という発言を引用している。栗戦書は、第18期中国共産党中央政治局委員であり、現在は中国共産党中央弁公庁(Central Committee General OfficeCCGO)主任を務めている。中国共産党中央弁公庁は党全体の神経集中センターのようなものであり、中央政治局常務委員会から中央、地方のあらゆる党機関に対して指示を出す機関である。また、定期的に中国全土に対して発表される主要政策の文書を作成する機関でもある。中央弁公庁は、中央国家安全委員会のために総局と情報センターの規模を倍に拡大した。(チャイナ・ビジネス・ニュース[上海]、2014年3月10日;民報[香港]、2014年3月10日)

 

 栗戦書は、西安市党委書記を務めた経験を持ち、習近平率いる陝西ギャングの中心メンバーである。栗戦書には外交政策の面での経験がない。このことから、中央国家安全委員会が主に国内の治安維持に特化した機関であるという主張には信憑性があることが分かる。栗戦書と彼の親分である習近平は深いつながりを持っている。このことから、最高指導者である習近平が、中央国家安全委員会の名の下で警察国家機能を利用することは難しいことではない。彼は中央国家安全委員会を利用して、反体制活動家たちを厳しく取り締まることから、急速に勢力を拡大しつつある習近平派に敵対する政敵たちを攻撃することまでできるのだ。(大公報[香港]、2014年3月7日;サウスチャイナ・モーニング・ポスト、2014年3月7日)習近平は中央国家安全委員会を支配している。その結果、習近平は、中国の国内治安に関して幅広く独立した力を持ち、コントロールができるようになるだろう。そして、鄧小平(Deng Xiaoping、とうしょうへい、1904~1997年)によって確立された集団指導体制に対して脅威を与えることになるだろう。

 

中央国家安全委員会の顔ぶれを見ると、この改革志向の委員会により大きな権力が集中することが容易に予想される。中央国家安全委員会の主席は習近平であり、副主席は、李克強国務院総理、イデオロギーと宣伝を担当する劉雲山(Liu Yunshan、りゅううんざん、1947年~)中国共産党中央精神文明建設指導委員会主任、張高麗(Zhang Gaoli、ちょうこうれい、1946年~)国務院常務副総理の3名が副主席となっている。彼らは全て党中央政治局常務委員である。彼らの下には、10名の政治局委員が配置されている。その中には、劉延東(Liu Yandong、りゅうえんとう、1945年~)国務院副総理、汪洋(Wang Yang、おうよう、1955年~)国務院副総理、馬凱(Ma Kai、ばがい、1946年~)国務院副総理といった国務院の閣僚級の人々や中国共産党中央各部の責任者たちが含まれている。党の中央各部の責任者で言えば、党中央弁公庁主任の栗戦書、党中央政策研究室(Central Policy Research OfficeCPRO)主任の王滬寧(Wang Huning、おうこねい、1955年~)、党中央宣伝部長の劉奇葆(Liu Qibao、りゅうきほう、1953年~)、党中央組織部長の趙楽際(Zhao Leji、ちょうらくさい、1957年~)が配置されている。更には、全国人民代表者大会常務委員会副委員長の李建国(Li Jianguo、りけんこく、1946年~)、中央軍事委員会(Central Military Commission)副主席の許其亮(Xu Qiliang、きょぎりょう、1950年~)人民解放軍空軍上将、中国共産党中央政法委員会(Central Political-Legal Commission)書記の孟建柱(Meng Jianzhu、もうけんちゅう、1947年~)といった人々も含まれている。(中国青年報、2014年3月13日;民報、2014年1月23日)

 

 王滬寧は上海にある復旦大学の教授を務めた人物であり、国家主席時代の江沢民と胡錦濤の政治アドヴァイザーであった。そして、習近平によって、中央国家安全委員会の総書記に任命された。王滬寧は現在、党中央政策研究室(Central Policy Research OfficeCPRO)主任を務めている。党中央政策研究室は目立たない部署で、公式メディアでその活動が伝えられることはほとんどない。しかし、党中央政策研究室は中国で最高レベルの、国内政策、外交政策に関するシンクタンクなのである。党中央政策研究室はシンクタンク機能の他に、中央国家安全委員会の事務局と情報集積センターの役割を果たしている。中央国家安全委員会には、党中央政策研究室副主任の潘盛洲(Pan Shengzhou、はんせいしゅう)と国務院国家発展和改革委員会(National Development and Reform CommissionNDRC)副主任の穆虹(Mu Hong、むこう)の2人の副総書記がいる。潘盛洲は農業の専門家だ。穆虹の国家発展和改革委員会での仕事は、資産投資管理と主要なプロジェクトの監督である。(Finance.12cn.com、2014年3月10日;香港エコノミック・タイムズ、2014年3月10日)





 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ