古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:李強

 古村治彦です。

 先週末に中国共産党第20回党大会と第20期中国共産党中央委員会第1回総会(1中総会)が閉幕した。政治局員24名と政治局常務委員7名が発表された。中国国内政治で大きな力を持っていた中国共産主義青年団(共青団)派は追い落とされた。胡春華国務院副総理は政治局員にも残れずに降格となった。第6世代(1960年代生まれ)と共青団派のプリンスが失脚したということになる。政治局常務委員、政治局員はほぼ習近平派に独占された形になる。
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 今回の人事では、金融や銀行業務に精通した人物ではなく、航空、宇宙、軍事といった部門の優秀なテクノクラートたちが引き上げられ、政治局員(24名)に抜擢された。このことについては本ブログで既にご紹介した。下にリンクを張っているので是非お読みいただきたい。

※「第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 2022年9月15日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html

※「習近平体制の延長:フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を彷彿とさせる戦争対応体制の構築ではないか 2022年9月11日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86579263.html

 中国は国外の動乱、混乱に備える体制を整えつつある。具体的にはウクライナ戦争から端を発する第三次世界大戦とも言える状況に備えるということだ。ウクライナ戦争で世界は既に戦時状況になっている。物価高や食料不足、エネルギー不足の生活への影響は深刻さを増している。習近平の第3期政権は国内外の難題に対処するために構築された戦時体制政権である。

 私たちが危惧するのは、アメリカや日本などにいる、短慮、思慮不足、好戦的な、戦争煽動家たちが「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻撃する」「アメリカと中国が戦う」などという根拠のない誇大妄想的な言辞を振り回し、状況を悪化させ、最悪の結果を引き起こすことだ。中国が今台湾に侵攻するメリットはない。既に着々と経済的な統合を進めている。私たちが恐れるべきはアジア地域での戦争だ。戦争を起こしてはいけない。安倍晋三元首相が銃撃によって暗殺され、日本の好戦的なグループは頭目を失っている状態だ。日本の地理的な位置、アメリカとの関係を考えるならば、日本は実は非常に危うい立場にある。「日本は何があっても戦争をしない」という立場を鮮明にすることが何よりも重要だ。

 話が逸れた。中国にとって、2042年の「アヘン戦争後の屈辱の南京条約締結200年」、2049年の「中華人民共和国建国100年」の2040年代に「中華王国(Middle Kingdom)」として、あらゆる面で世界最大最高の国家に復帰することが何よりも重要だ。その過程で台湾との関係はますます深まって実質的な統一、統合は果たされるだろうし、国家体制もまた変化していくことだろう。私たちは今時代の分岐点、大変化の前の混乱の中にいる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回党大会:習近平は圧倒的な人事権を行使するが、経済復活の糸口は見つかっていない(The 20th Party Congress: Xi Jinping Exerts Overwhelming Control Over Personnel, but Offers No Clues on Reviving the Economy

ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)筆

2022年10月24日

『チャイナ・ブリーフ』(ジェイムズタウン財団)

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-jinping-exerts-overwhelming-control-over-personnel-but-offers-no-clues-on-reviving-the-economy/

習近平・中国共産党中央委員会総書記は、先日閉幕した第20回党大会と第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記が圧倒的な勝利を収めた。習近平が選んだ政治局常務委員たちは、純粋な支持者ばかりだが、イデオロギーやプロパガンダ、「党建設(party construction)」などに精通した官僚が多く、金融や経済に精通した実利的なテクノクラートはほぼ皆無に等しい構成となった。その結果、「新型コロナウイルスゼロ」をはじめとする習近平の保守的で準毛沢東主義的な政策の多くは、当分の間、継続されることになりそうだ。

●習近平派のために他派閥が一掃された

中国共産党の中枢である新しい政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)では、習近平は引き続き中央委員会総書記と中央軍事委員会主席を兼任する。他の6人の政治局常務委員は習近平派とされる。2002年から2007年まで浙江省で習近平の下で働いた上海市党委書記の李強(Li Qiang)が国務院総理に就任する予定だ。その他、最高意思決定機関には現職の政治局常務委員を含む習近平の盟友が就任する。全国人民代表大会(National People’s Congress)常務委員長に就任する中央紀律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)書記の趙楽際(Zhao Leji)、中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference)主席に就任する思想家の王滬寧(Wang Huning)らが名を連ねる。李強のほか、習近平の子飼いの3人が昇進した。北京市党委書記の蔡奇(Cai Qi)は中国共産党中央書記処書記に、広東省党委書記の李希(Li Xi)は次期中央紀律検査委員会に就任する。中国共産党中央弁公庁(CCP General Office)主任で習近平の秘書長を務める丁薛祥(丁薛祥)は常務副総理に就任予定だ(新華網:10月23日;明報:10月23日;日経アジア:10月23日)。

次期政治局を構成する24人の委員と次期中央委員会を構成する205人のうち、習近平に忠誠を誓う人々が大多数を占めている(新華社・ウェイボ:10月23日)。13人の一般政治局員の引退によって、習近平には習近平派閥の人物たちを系政治局員に登用する機会を与えた。全中央委員205人のうち133人(65%)が新たに就任したため、習近平は反主流派グループや他派閥のメンバーを排除する余地が出た(新華網:10月22日)。新政治局委員24人のほぼ全てが習近平派閥だ(Radio Free Asia:10月23日)。新疆ウイグル自治区の馬興瑞(Ma Xingrui)党委書記は、中国航天科技公司(China Aerospace Science and Technology CorporationCASC)の元総経理で、中国国家宇宙局局長を務めた。遼寧省党委書記である張国清(Zhang Guoqing)は、中国北方工業集団公司(China North Industries Group Corporation)の副社長を務めた。浙江省党委書記の袁家Yuan Jiajun)は中国航天科技公司の経営トップを務めた。山東省党委書記の李干杰著名な核物理学者である(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

次期政治局には、中国共産党の他の2大派閥である共産主義青年団(Communist Youth League FactionCYLF)と上海閥(Shanghai Gang)の代表はいない。元広東省党委書記で元共産主義青年団第一書記の胡春華(Hu Chunhua)副総理は、政治局の一般委員の座と常務副総理に就くと予想されていた。しかし、胡は、政治局常務委員会はおろか、政治局にも残れなかった(Zaobao.com:10月23日;連合日報:10月23日)。この「一党独大(yidangdudaonly one party running the show)」という異常な現象は、最高指導者である習近平の隣に座っていた、共青団派の指導者で胡錦涛元前総書記が、土曜日の第20回党大会閉会式の半分ほどで無残にも引きずり出されたことに起因していると言われている(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月22日)。新華社通信は、この出来事について胡錦濤が急病になったからだと報じた。しかし、オブザーヴァーたちの間では、胡錦濤は新しい中央委員会と政治局常務委員会の名簿に公然と不満を表明しており、それは自分の長い間守ってきた派閥の傍流化を示すものであったからだというのが一致した見方である。文化大革命以来の主要な党大会では、胡錦濤のような公然の反対表明は珍しい(ジャパン・タイムズ:10月23日;Hong Kong Free Press:10月22日)。

習近平のもう一つの大きな業績は、中国共産党綱領を改正し、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on socialism with Chinese characteristics for a new era)」を今後の党と国家の指導原理として明記したことである。これは「2つの確立(two establishes、两个确定、Liang ge queli)の1つである。もう1つの「確立」は、習近平が「中央党当局の核心であり全党の核心(core of the central party authorities and the core of the entire party)」であり続けることで、実質的に毛沢東主席と同じ地位に昇格させることだ(Gov.cn:10月22日;人民日報:10月22日)。

●中国式近代化(Chinese-style Modernization

習近平思想の重要な要素は、いわゆる「中国式近代化(Chinese-style modernization、中国式代化、zhongguoshi xiandaihua)であり、習近平は10月16日の党大会冒頭報告で初めて提起した(新華社:10月16日)。事実上、中国式近代化とは、最高指導者である習近平が21世紀の中国の状況に適したと判断したマルクス主義・社会主義の教義のみを全ての政策決定の基盤とすることを意味する。習近平自身が示した定義によれば、「中国式現代化」は、党の厳格な指導、中国式社会主義的教訓の堅持、「質の高い発展(high-quality development)」の実現、人民の「精神世界(spiritual world)」の充実、共同富裕(common prosperity)の達成、人間と自然のバランスの追求、世界平和と「全人類運命共同体(common destiny for all mankind)」の目標の推進といった要素から構成される(VOA Chinese,:10月20日;人民日報:10月19日)。

習近平の大会報告では、鄧小平の「改革開放政策(reform and open door policy)」について4回言及されているが、習近平は経済発展や国際市場の開放よりも、国家の安全や内外の敵との「争斗(waging strugglesdouzheng)」を優先させたことが明らかである。今後の政策では、特に半導体やAIなどの先端分野における自立を意味する「内部循環(internal circulation)」、公企業と民間企業の両方を厳しく管理することを含む経済の党管理、共同富裕の推進、アメリカとその同盟諸国の「反中(anti-China)」政策がもたらす挑戦への言及と見られる「複雑で困難な世界情勢(complex and challenging global situation)」への国民の備えといった、準毛沢東主義的、閉鎖主義的価値観(autarkist values)に重きが置かれるだろう(BBC Chinese :10月16日)。

外交については、習近平チームは、特に中国の台湾再統合と世界のルール設定者としての「中央の王国(Middle Kingdom)」の地位の回復に関連して、ナショナリズムを引き続き昂揚させるだろう。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、アメリカとの差を縮め、世界最強の国にすることも、第20回大会以降の中国共産党の優先課題である。改訂された中国共産党綱領では、北京が「台湾独立に断固として反対し、阻止する」ことを初めて指摘した。これに対し、旧綱領は「中国共産党は民族統一を実現する責任がある」とだけ述べていた(Chinanews.com:10月24日;News Radio French International:10月23日)。

●外交・軍事政策(Foreign and Military Policy

習近平による閉会演説を含む第20回党大会期間中、アメリカに対する言及はなかった。しかし、最高指導者の習近平と幹部たちの発言は、アメリカ主導の「反中国(anti-China)」連合との全面的な競争激化を意図したものであったように思われる。習近平は繰り返し、党大会の出席者たちと全ての中国人に、他国の「覇権主義と虐め(hegemonism and bullying)」に対抗することを呼びかけ、「闘争を行う勇気と闘争に長けること(rave enough to wage struggle, and to be good at waging struggle)」を促した(NPC.gov.cn:10月24日;News.cn:10月18日)。国際ビジネスや中国人と欧米人の通常の人的交流の分野でも、習近平は中国当局が経済的配慮よりも国家の安全保障を優先させることを示唆している。習近平と新しい政治局は、軍事的近代化に対してより多くの資源を投入する可能性があり、台湾や南シナ海で「熱い戦争(hot war)」が勃発する可能性が高まる(VOA Chinese:10月18日;Deutsche Welle Chinese:10月16日)。

習近平は、外交政策の遂行を最新鋭の軍に大きく依存していることを反映し、「68歳定年」の常識を破り、中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠(hang Youxia)を更に1期5年続投させた。張副主席は1950年生まれで、今年退任するものと思われていた。しかし、張副主席の父親と習近平の父親が国共内戦以来の親しい間柄であったことから、張は最高司令官である習近平から全幅の信頼を寄せられている。7人の委員からなる中国共産党中央軍事委員会の新任将官2人である、何衛東(He Weidong、1957年生まれ)副主席、苗華(Miao Hua、1955年生まれ)委員は、福建省の第31野戦軍や、福建省と浙江省の南京軍区(現在は消滅)にいた経験がある。習近平は1985年から2007年まで、福建省と浙江省で様々な役職に就いていた時に、この2人の将官と初めて知り合った可能性が高い。何副主席は台湾を管轄する東部戦区司令部の元司令官であり、苗華はヴェテランの政治委員(political commissar)で、現在は中国共産党中央軍事委員会の政治工作部部長を務めている(Businesstoday.com.tw:10月23日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

他の新委員は、軍の規律と腐敗防止を担当する張勝民(Zhang Shengmin、1958年生まれ)、中国人民解放軍陸軍司令員を務め、統合参謀本部参謀総長への就任が予想されている劉振立(Liu Zhenli、1964年生まれ)、航空宇宙技術に優れ、現職の中国共産党中央軍事委員会装備開発部長である李尚福(Li Shangfu、1958年生まれ)の3人だ(Headline News. HK:10月24日;Breakingdefense.com:10月17日)

●結論(Conclusion

社会主義諸国の主要な党大会や会議の多くは具体的な目標への確かな道筋を示すよりも、大言壮語や誓約が多いにもかかわらず、習近平をはじめとする指導者たちの報告が行われた第20回党大会では、「中国式近代化(Chinese-style modernization)」、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」、「闘争の敢行(daring to wage struggles)」など、ほとんど理論化された概念ばかりが強調されている。国家統計局が2022年第3四半期のGDP成長率を3.9%と発表したばかりだが、世界銀行など独立系の研究者やシンクタンクの多くは、中国経済の年間成長率を約2.8%かそれ以下と予想している(Scio.gov.cn:10月24日;CNBC.com:10月18日)。この4カ月間、経済の指揮を執った退任する李克強(Li Keqiang)総理は、外資導入の拡大と新型コロナウイルス感染対応体制の合理化を求め、習主席の訓示に反している(China Brief:7月18日)。しかし、李総理をはじめとする国務院のテクノクラートが推奨する唯一の「切り札(trump card)」は、経済成長を引き上げるためにインフラプロジェクトへの刺激策を強化することだ(Rthk.hk:8月30日;English.gov.cn:7月29日 )。しかし、政府投資は古くからある手段であり、過剰なレバレッジ、無駄、支出に対するリターンの減少を招きやすい。習近平とその取り巻きは今大会での圧勝を喜んでいるが、特に最近アメリカとその同盟諸国から中国に科されている厳しい制裁とボイコットを考えると、彼らは国民と国際社会に対して中国経済の立て直しが可能であると納得させなければならない。

党大会の人事で気になるのは、欧米で教育を受け、市場原理を重視する幹部が次々と退任していることだ。引退した李克強首相の最後の発言の中に、「黄河と長江の水は逆流しない(the waters of the Yellow and Yangtze River won’t flow backwards)」という言葉があった。これは、習近平が行った毛沢東主義復古(restoration)を叱責したものと見られている。この他、習近平の側近だったハーヴァード大学出身の経済学者の劉鶴(Liu He)副首相、アメリカの大学の経済学教授だった中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang)、銀行監督官庁トップの郭樹清(Guo Shuqing)らが欧米諸国で仕事を経験した経歴のある幹部たちが退任することが明らかになった。

新中央委員会メンバー表から、劉鶴に代わる経済担当副首相の候補は国家発展改革委員会主任の何立峰(He Lifeng)が確実視されている(新華網:10月22日)。しかし、何立峰が習近平の信頼を得たのは、主に福建省で長年一緒に仕事をしたことが理由である。何力峰には改革派としての資質がほとんどない。習近平は、数字に強いテクノクラートよりも、プロフェッショナルな党員を好むため、中央委員会と政治局には経済や金融の専門家が少ないという事情もある。この状況を改善し、新型コロナウイルスゼロ体制から厳しい党による経済統制まで、硬直したイデオロギー的教条を形だけ譲歩しない限り、中国が2049年までに超大国の地位を獲得するという夢を実現できるとは、中国と海外の観測筋は信じてくれないだろう。

※ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済プログラム修士課程非常勤講師を務める。中国に関する著書が6冊あり、代表作に『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。最新作は『中国の未来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ社、2020年)である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今年秋の第20回中国共産党大会で習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)中国国家主席は2期10年務めた最高権力者の座から降りることなく、更に1期5年、権力の座にとどまり続けるという話になっている。そうなると10年ごとに若い世代に最高指導部を引き継ぐという江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)と胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)の時に行われた習慣が崩れることになる。ポスト習近平時代の中心と目されていた中国共産党指導部第6世代(1960年代生まれ)から最高指導者(国家主席・中国共産党総書記、中国中央軍事委員会主席を兼ねる)人物は出ないということになる。そして、次の第7世代(1970年代)から最高指導者が出る可能性が取り沙汰されている。最高指導者を出せなかった第6世代は「悲劇の世代」ということになりそうだ。
 習近平がこれから更に2期10年最高指導者を務めるならば、第6世代から最高指導者は出ないが、1期5年で退けば、15年を第6世代からの最高指導者が務める可能性がある。第6世代のトップランナーは胡春華(Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相である。最近になって、習近平が胡春華を重用し始めているという報道もある。習近平が3期目の国家主席となる場合に、胡春華を政治局常務委員に引き上げ、首相のポストを与える可能性もある。そして、習近平が胡春華を最高指導者に引き上げて自身は院政を敷くという可能性もある。現在の政治局員序列第2位の李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相は全国人民代表大会常務委員長か中国政治協商会議主席に転身するということも考えられる。江沢民、胡錦涛の時とは違ったイレギュラーな人事となるが、これであれば第6世代の悲劇性を少しは薄めることもできるだろう。
 習近平は中国共産党中央委員会主席(Chairman of the Central Committee of the Chinese Communist Party)の職位を復活させ、この地位に就くという観測も出ている。党主席は権力が集中するポジションであり、1945年に設置され、毛沢東が亡くなる1976年までその地位に就いていた。その後は1976年から1981年まで華国鋒(Hua Guofeng、1921-2008年、87歳没)、1981年から1982年まで胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳没)が就任したが、権力集中への反省から、鄧小平が廃止した。

 この中国共産党中央委員会主席を復活させて、習近平が権力を掌握する可能性が出ている。現在、中国では習近平が中国共産党の「終身核心(eternal core)」とされている。習近平が権力を掌握したままで、これからの厳しい時代を乗り越えようとしている。中国はこれからの時代に備えようとしている。

(貼り付けはじめ)

分析:習近平は胡春華の「第6世代」全体をスキップする準備をしている(Analysis: Xi prepares to skip over Little Hu's '6th generation'

-習近平国家主席陣営の内外で有望な政治家たちはトップにはなれない。

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習近平主席のゆっくりだが着実な政治改造は中国の他のトップリーダーの生活をも変えようとしている。5月13日、河南省で小麦の収穫を観察する党総書記と複数の側近たち。

カツジ・ナカザワ筆

2022年5月20日

『アジア日経』紙

https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/China-up-close/Analysis-Xi-prepares-to-skip-over-Little-Hu-s-6th-generation

東京発。中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は胡春華Hu Chunhua、1963年-、59歳)副首相をどう見ているのだろうか?

58歳の胡春華副首相は、将来のトップリーダーと目されていた時期があった。胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)前国家主席や李克強(Li Keqiang、1955年-、67歳)首相と同じく、胡春華は共産主義青年団(Communist Youth League)の第一書記を務めた経歴がある。

胡錦涛と同じく、胡春華も長年にわたり、チベット自治区で働いた。チベット自治区は、動乱と民族紛争で知られていた。

胡錦涛前国家主席と同じ苗字だったことから、胡春華は「リトル・フー(Little Hu)」と呼ばれるようになった。

2008年、胡春華は国内最年少で河北省長に就任した。45歳の時だった。毛沢東(Mao Zedong、1893-1976年、82歳没)、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳没)、江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)、胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)、習近平(Xi Jinping、1953年-、69歳)と続く、中国指導者のいわゆる「第6世代(Sixth Generation)」の顔であることは間違いないところだ。

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左から毛沢東主席、鄧小平、江沢民主席、胡錦濤主席、習近平主席。中国に6代目のリーダーが誕生するのは、しばらく先のことかもしれない。

胡春華(リトル・フー)の運命は2012年に習近平が中国共産党総書記に就任し、その直後に国家主席に就任すると一変した。習近平は太子党出身で政治的背景が異なり、2人の胡とは対立する派閥に属していた。

しかし、不安があるにもかかわらず、胡春華(リトル・フー)は生き延びてきた。

だから、2022年5月中旬に習近平(67歳)が河南省を訪問した際、胡春華が大勢の側近の一人として同行したことは特筆すべきことだった。視察に参加した5人の政治局員の1人であるだけでなく、国営放送の中国中央テレビで習主席と歩きながら話す姿も映し出された。

派閥の関係もあってか、胡春華は習主席の視察に常に同行する人物ではない。習近平の側近である劉鶴(Liu He、1952年-、70歳)副首相がその地位を確固として占めている。

劉鶴が習主席の河南省視察に同行しなかったことは噂の種になっている。

習近平と胡春華が手を結んでいるのか? 習近平と胡春華はより接近しているのか?

河南省訪問直前の5月12日、米紙『ウォールストリート・ジャーナル』紙は、中国政府がアメリカとの閣僚級貿易協議の代表を劉鶴から胡春華に交代させることを検討していると報じた。

商務部の報道官は記者会見でこの報道を否定したが、中国の対米窓口担当者を交代させることは、経済関係の行き詰まりを打開する一つの方法となり得るだろう。

胡春華(リトル・フー)にとって、習近平時代の9年間、眠れない夜が続いたに違いない。

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5月13日、河南省南陽市で撮影された習近平と胡春華。北京は、胡春華がアメリカとの閣僚級貿易協議の中国代表に就任するとの噂を否定している。

中国の国会である全国人民代表大会は2022年3月、副首相をより柔軟に任命・解任しやすくする法案を押し通して可決させた。

この新ルールにより、習近平は側近を副首相に昇格させ、その人物を次期首相にする道を開いたとの憶測が飛び交っている。

習近平は同じ全人代で、内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題にした。習近平は内モンゴル自治区の石炭産業の腐敗を問題視し、「関係者を何世代にもわたって炙り出し、徹底的に処罰する」と宣言した。

胡春華はかつて内モンゴル自治区のトップを務めた。

習近平は2022年の5年に1度の中国共産党大会を控え、政治的に敏感な時期にこのような激しい言葉を発したのである。

4年前(2017年)、前回の全国大会の直前、同じく第6世代の新星、孫政才(Sun Zhengcai、1963年-、59歳)が汚職容疑で突然粛清された。孫政才は当時、重慶市のトップで政治局員だった。

孫政才の失脚は、習近平が次代の国家指導者候補の政治生命を決める権利を有していることを思い知らされる衝撃的な失脚であった。

胡春華(リトル・フー)は自分の微妙な立場を自覚し、目立たないように、着実に任務をこなしてきた。

ある古くからの知人は、胡春華の人柄と能力を高く評価している。この人物は「彼は相当な酒豪で、いろいろな話題について自分の意見を言うことができるインテリだが、今の胡は、よく観察しておくしかない」と付け加えた。

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2017年10月、北京の人民大会堂で開催された共産党全国大会において、重慶市共産党の陳敏爾書記が重慶市代表団の討論会に出席した。

2年前、習近平は同様に、胡春華を伴って注目の地方視察を行った。

2019年4月、習近平は重慶にいた。ホスト役を務めたのは側近の陳敏爾(Chen Min'er、1960年-、61歳)、重慶市のトップだった。陳は60歳だ。しかし、そこには胡春華の姿もあった。視察の主目的は、胡春華が副首相として担当する政策分野である貧困撲滅である。

今回の習近平の河南省訪問の主な目的は、「南北分水嶺プロジェクト(South-to-North Water Diversion Project)」の視察であった。胡春華は、水の豊富な中国南部と北部を結ぶメガプロジェクトの責任者だ。

書類上、担当の副首相である胡春華が習近平に同行するのは当然であった。その気になれば、習近平は胡春華が他の政治的な目的で今回の視察同行に選ばれたのではないことを説明できたはずだ。

しかし、チャイナ・ウオッチャーたちがどのような分析を行おうとも、一つだけはっきりしていることがある。胡春華が中国の新しい対米貿易交渉のトップに抜擢されるかどうかはともかく、彼はもはや将来の習近平の後継者候補ではない。

それは胡春華が習近平と対立する派閥に属しているからではない。同じことは、習近平の側近で第6世代に属する陳敏爾や上海市トップの李強(Li Qiang 、1959年-、63歳)にも言える。

陳敏爾と李強は、習近平が浙江省トップを務めていたときの部下であった。彼らは習近平の政治集団の中核をなす「浙江派(Zhejiang faction)」に属している。しかし、習近平が政権を維持する以上、どちらも真の後継者にはなり得ない。

複数の党幹部は「第6世代」の悲劇についてささやき始めた。彼らは、「この言葉は無意味になった」とささやき合っている。

ある中国共産党高官は、「第6世代リーダーを語ることは政治的に難しくなった。この世代は追い越され、現在50歳前後の若い世代に注目が移っている」と語った。

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「李強のような第6世代のリーダーについて語ることは政治的に難しくなっている」。

習近平は2017年、指導者の10年の任期の途中で、将来のトップリーダー候補を少なくとも2人、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)に登用し、後継者として育成できるようにするという長年の党の伝統を破った。

習近平は、2012年に総書記に就任する5年前の2007年に政治局常務委員に就任している。習近平のライバルである現職の李克強首相も2007年に政治局常務委員に就任している。

胡春華をはじめとする第6世代のリーダーたちは、2022年の中国共産党大会に向けて、更なる昇進を目指した戦いに挑むことになる。

しかし、競争に勝って常務委員会に入った者は誰であっても、党の最高指導者への道を歩む名誉を得ることはできない。加えて、政治局常務委員や首相の権限は大幅に縮小されるかもしれない。

習近平は権力を集中的に手中に収めている。習近平は党総書記、国家主席の地位にとどまることなく、さらに高い地位、場合によっては党主席を目指すだろう。

毛沢東が終身在任した党主席という地位は、1982年に鄧小平が独裁を防ぐために正式に廃止した。習近平が復活させれば、政治局常務委員や首相の地位は低下することになる。

一方、習近平の側近たちは、これまでとは違った人生を歩むことになる。2022年の全国代表大会以降に新設される習近平を中心とした中央集権体制のもとで、重要なポストを担うことになるだろう。

新しい統治システムの構築が水面下で始まろうとしている。その制度設計は、人事以上に重要な意味を持つ可能性が高い。
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(終わり)

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