古村治彦です。

 

 舛添要一東京都知事が、2015年6月15日に、東京都議会に対して、「2016年6月21日付で辞任したい」と申し出ました。ここ数カ月の舛添氏の政治資金の使い道に対する批判から、与党的立場である自民党と公明党を含む都議会の各会派は都知事に対する不信任案提出を決めていました。不信任案が可決されると、都知事は辞職するか、都議会を解散するかを選択し、決定しなくてはなりません。

 

 舛添氏に対するマスコミの報道と都議会における都議会議員の攻撃に対しては、「やり過ぎだ」「虐めだ」「法律に違反していないのにここまで攻撃するのは前近代的で、部族社会的だ(ここには一種の非西洋的な社会に対する蔑視が含まれていますが)」といった批判が行われています。

 

 今回の舛添氏の辞任騒動について、『ニューヨーク・タイムズ』紙が報道しました。それは以下のような記事です。

 

Tokyo Governor, Yoichi Masuzoe, Resigns Over Spending Scandal

By JONATHAN SOBLE

JUNE 15, 2016

http://www.nytimes.com/2016/06/16/world/asia/tokyo-governor-yoichi-masuzoe-resigns.html?ref=asia&_r=0

 

 記事のタイトルは「舛添要一東京都知事が政治資金支出スキャンダルで辞任」というものです。内容な今回の騒動の内容を客観的に報道しているものです。

 

 その内容を簡単に箇条書きでまとめます。

 

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・東京都知事舛添要一氏が水曜日(2016年6月15日)に辞意表明。政治活動のための資金を個人的な旅行や楽しみのために使ったことを認めた。これで人々の興奮と怒り(furor)を掻き立てた。

 

・ここ2年半で2人目の金銭を巡るスキャンダルで辞任する都知事となった。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催地東京にとっては痛手。

・ここ数カ月、舛添都知事の支出に関しては人々の怒りが醸成されてきた。都知事は今年のリオデジャネイロのオリンピックに出席できるまで都知事を続けさせてほしいと都議会に頼んだ。東京は次回の開催地として注目させるためだ。

 

・「私の懸念はオリンピックなのです」と語った。

 

・支持率の急落と政治的な同盟者の変心と離脱(defection)が辞任の最終的な決め手となった。

 

・舛添氏が自身と家族のために支出した金額は、現代の政治とカネを巡るスキャンダルの基準に照らし合わせてみると、巨額と言うには程遠い。レストランでの食事に数百ドル、ホテル滞在に数千ドルを支出した。

 

・舛添氏が雇った弁護士たちが支出を調査し、そこで、ここ数年の支出のうち、440万円(約4万1000ドル)が「不適切だが、違法ではない(inappropriate, but not illegal)」支出であることが分かった。舛添氏は謝罪し、支出に関して「いくつかの公私混同(some mixing of public and personal)」があったが、意図的にルールを破ったのではないと述べた。

 

・支出が少額であったことが彼の助けにならなかった。

 

・人々の怒りは深まった。今回のエピソードを象徴する言葉が「せこい」だ。せこいは「安い、小さい」を意味する。舛添氏が、少額の税金を納めている納税者と政治資金を寄付した人々のお金を温泉旅行に使ったことで、より人々の神経を逆なでしたと言えるだろう。それは、彼がそれらのお金を全てだまし取ったよりも怒りを掻き立てたと思われる。

 

 右寄りの政党である自由民主党所属の都議会議員である神林茂氏は、弁護士たちによる報告書が出た後、「私は怒っています。せこい、あまりにせこい」と述べた。自民党は舛添氏が政治家のキャリアの大部分を過ごした正当であり、都知事選挙で彼を応援した政党である。「せこい」という言葉は、今回のスキャンダルに言及する際に新聞やSNSで頻繁に使われた。

 

 弁護士たちが不適切な支出だと認めたものの中には、わずか数ドルの漫画本、上海の土産屋で買った絹の書道家用のローブが含まれていた。舛添氏は、政治活動にのみ支出されることを認められた彼の選挙組織にこれらの代金を付けていた。しかし、この法律の政治活動の定義は曖昧で、政治家たちは日常的に政治資金を自身の私的な支出に当てていると専門家たちは述べている。

 

 舛添氏の公務での出張のコストも批判の対象となった。彼はロンドン、ニューヨーク、パリに大規模な職員グループを連れて出張した。飛行機はファーストクラス、滞在先のホテルは高級だった。彼は都庁のリムジンを使って昨年4月までに東京南西にある温泉に48回行ったことが報道された。

 

・ある時、「世界の主要都市のリーダーが二流のビジネスホテルに滞在できますか?」と述べた。オリンピック開催を控え、東京のブランドを高める必要があると彼は述べた。批判が高まるにつれ、舛添氏は悔悟の念を表明するようになったが、ダメージは大きかった。

 

・舛添氏は政治学者、テレビのコメンテイたーの後、政治の世界に入り、2000年代には厚生労働大臣を務めた。2014年には、政治資金スキャンダルで辞任した猪瀬直樹氏の後任の都知事に当選した。

 

 猪瀬氏は2013年12月に、選挙期間中に病院経営者から50万ドル以上のお金を借りたことを認めた。猪瀬氏は、このお金は政治に使う意図のないものであったと否定したが、批判者たちは、これは秘密の政治資金の寄付だと主張した。

 

・自由民主党を含む7会派は水曜日(6月15日)に舛添氏に対する不信任案を提出する準備をしていた。これが彼の辞任の後押しとなった。最近の各新聞の世論調査では、約75%の人々が舛添氏の辞任を望むという結果が出ていた。

 

・舛添氏の後任を決める選挙は7月31日か8月7日に行われると予想される。7月10日には参議院議員選挙もあり、政治的に忙しい日程となる。

 

・猪瀬氏と同じく、舛添氏はオリピックを支持しているが、膨れ上がるコストに歯止めをかけようとした。彼は、デザインのために予算を大幅に上回る建設費を必要とするメイン会場の予算支出の肩代わりを拒絶した。デザインはより安く済むものに変更された。

 

・彼は繰り返し納税者のお金を無駄に使わないと述べたが、これが彼に跳ね返ってくることになった。

 

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 このNYTの記事では、今回の騒動の経過と内容が良くまとまって紹介されています。NYT東京支局のジョナサン・ソーブル記者が執筆した記事ですが、彼の眼には、「せこい」という言葉が印象的だったようです。「せこい」という言葉は、私たち日本人は日常で使う言葉で、あまりいい意味では使いません。「けち」よりももっとお金に執着し、使い方がせせこましいという感じで使いますが、ソーブル記者は、「安い、小さい」という意味だと紹介しています。ちょっと翻訳しにくい言葉です。

 

 この記事の柱は、2本あって、1本目は、「せこい(=安い、小さい)」で表現されるものです。舛添氏の騒動では、約440万円が「不適切だが、違法ではない」支出という調査結果が出ました。この額が政治とおかけのスキャンダルではかなりの少額であるということ、その支出が数百円の漫画本やお土産のローブであったことを書いています。

 

そして、この金額の小ささがと支出内容の小ささが、少ない所得から必死になって税金を支払っている納税者をかえって怒らせたとあります。

 

 ここで読み取れるのは、前任者だった猪瀬直樹氏、その前の都知事であった石原慎太郎氏との対比です。「額の小ささ」「日常感あふれる使い道」に人々は怒りを募らせながら、石原慎太郎氏の尖閣諸島の途による購入で集めた寄付金や新銀行東京につぎ込んだお金などには怒りの矛先は向かわなかったということです。石原氏は「せこく」なかったがゆえに無駄遣いを許されたということができます。「人は小さな嘘は見破るが、大きな嘘は信じてしまう」ということの具体例です。

 

 記事では、政治資金規正法における政治活動の定義が曖昧なために、政治家たちは日常的に私的な支出も政治資金につけ回している、という専門家の主張を紹介しながら、政治資金規正法の不備を紹介しています。政治家にとっては便利な法律かもしれませんが、政治資金収支報告書を精査されてしまえば、何かしら不備やら私的な支出が見つかるようになっている現在の法律は、いつでも、政治家のスキャンダルを作り上げることが出来るようにしているとも言えます。

 

 この記事ではっきりと書かれているのは、舛添氏が東京オリンピックの膨れ上がるコストを肩代わりすることを拒否したという点です。2016年3月末に、森喜朗、遠藤俊明・オリンピック担当大臣、舛添都知事の間で、東京都が国立競技場建設費のうち500億円を支出することに合意したというニュースはありました。しかし、基本的に「納税者のお金は無駄に使わない」というのが舛添氏の姿勢ならば、これからどこまで膨れ上がるか分からないオリピックの経費の大いなる無駄遣いにとっては邪魔な存在であって、その存在を政治資金スキャンダルで葬ってしまおうという動きがあってもおかしくはありません。

 

(終わり)