古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:林芳正

 古村治彦です。

 以下の論稿は、10月31日の総選挙の前に、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された日本政治分析の記事を紹介する。この記事では、安倍政権の功績を称え、岸田政権の行き先を不安視する内容だったが、結局、岸田文雄首相は政権基盤を固め、邪魔者だった甘利明には選挙で負けた責任を取らせて幹事長を辞任させることに成功した。また、これまでの人事では巧妙に麻生太郎と安倍晋三を外す動きを少しずつ進めている。

 下に紹介する記事は、日本政治の実態を捉えているとは言い難い。しかし、「アメリカ側から見た日本政治の姿」という側面からは良く書けているということになる。安倍政権下での対米従属の深化は、アメリカ側からすれば、日本の手駒としての能力が上がったということである。将棋で言えば、「歩」程度だったが、「飛車」「角行」とまではいかないが、「香車」程度にはなったということである。これで「日本の使い勝手」が良くなったということになる。

 岸田文雄に首相が交代したことでアメリカは警戒感を持っていることだろうが、そこに、ともにハーヴァード大学ケネディ行政大学院で修士号を取得した、茂木敏光を自民党幹事長に配し、林芳正を外相に起用したことで、「アメリカには逆らいません」という姿勢を示すことで、アメリカの警戒感を和らげようとしている。また、ジョージタウン大学卒業の河野太郎も首相候補であることから、これからしばらくは、アメリカで教育を受けた人物たちが首相を務めることになるだろうということをアメリカにシグナルとして送っている。

 この論稿の筆者はアメリカで日本政治を研究する立派な学者であろうが、やはり日本にいないことで、日本分析は隔靴掻痒の感を否めない。安倍首相は偉かった、岸田首相は心配という単純な話では済まないのである。

(貼り付けはじめ)

日本の総選挙は岸田の運命を決めることになるだろう(Japan’s Lower House Elections Will Decide Kishida’s Fate

-「回転ドア」首相は国内と国外に影響を与えることだろう

ナオコ・アオキ筆

『フォーリン・ポリシー』誌

2021年10月29日

https://foreignpolicy.com/2021/10/29/japan-kishida-ldp-prime-minister-revolving-door-lower-house-elections/

日本の下院に当たる衆議院議員選挙が10月31日に実施される。これは新たに首相に就任した岸田文雄首相にとっては最初の大きなテストとなるだろう。彼は前任者である菅義偉が就任後1年で辞職したことを受けて今月初めに首相に就任したばかりだ。今回の首相交代によって首相交代のサイクルがとても早いように見えるかもしれないが、2012年12月から2020年9月までの約8年間、日本を率いた安倍晋三元首相の時代までは、ほぼ毎年、新しい首相が誕生するのが当たり前だった。

菅首相の辞任が、日本の首相の「回転ドア」の連鎖の始まりとなるのか、はたまた、岸田首相も同じ運命をたどるのか、判断するのは時期尚早だ。過去には、政治的な戦いやスキャンダルで辞任する首相もいたし、個人の健康上の理由で辞任する首相もいた。しかし、選挙の敗北の結果として辞任ということが多かった。日曜日の選挙は、岸田首相が権力の座に座り続けられるかどうかを測るリトマス試験紙ということになるだろう。

岸田首相がどれだけ続けられるかが問題ではないという人たちもいるだろう。血胸のところ、日本は法の支配(rule of law)を尊重し、自由で公正な選挙(free and fair elections)が実施され、人々の諸権利(civil rights)が守られている安定した民主政治体制(stable democracy)である。近年、欧米で大きな広がりを見せているポピュリズム(populism)の陥穽も、この国では回避されている。また、政策の策定や効果的な実施に大きな役割を果たす強力な官僚組織があることでも知られている。

しかし、日本の首相の在任期間が日本にとっても世界にとっても重要である複数の理由がある。

1994年以降、日本の政治改革によって、首相の権力は拡大している。同年の選挙改革によって、議会の選挙システムは中選挙区制(multi-seat constituencies)から小選挙区制(single-seat districts)と比例代表制(proportional representation)に代わった。これによって、一つの選挙区の中で、一つの政党が複数の候補者を出して勝利を収めることができなくなった。

これにより、過去70年間、日本の政治を支配してきた自民党内の力学が変化し、かつては選挙区で候補者を出し合っていた自民党の派閥(factions)の間の競争が緩和された。その結果、自民党内の派閥の領袖たちの影響力は低下し、首相が派閥の領袖たちの意向に左右されなくなり、少なくとも理論的には、総理総裁がより個人的な力を発揮できるようになった。

また、1990年代後半から始まった一連の行政改革により、官僚に頼らずに政策を始め、展開できる首相の法的権限が強化された。2001年には政策設計機能と内閣府の創設によって官房長官(Cabinet Secretariat)の力が強化された。内閣府は政策形成の点で首相を直接支援する機能を持っている。安倍政権は2013年に国家安全保障会議(National Security Council)を創設し、外交政策に関する首相の力を強化した。これは、政治の最高指導者の手に安全保障政策形成の力を集中させるものだ。

つまり、現在の日本の首相は、20年前の首相に比べて、国の方向性を決め、政策の優先順位を決定し、改革を実行できるより強い立場にある。

権限は強化されているが、短期でどんどん交代していく首相では、中期的もしくは長期的なヴィジョンを実現するのに十分な時間を持つことはできない。短い在任期間では、首相が国内政治システムの重要な利害関係者から支持を得て、法案を起草して可決し、優先順位の高い政策を実行することはできない。この現象は、遠くない過去に多くの例が存在する。

最近の日本の首相は就任後に自分自身の経済成長戦略をスタートさせてきた。2007年9月から2008年9月まで首相を務めた福田康夫はテクノロジー部門の技術革新を通じて成長を促進する計画を立てた。福田の後任麻生太郎の在任期間は1年弱だった。麻生派自身の「成長イニシアティヴ」を策定した。アジア全体の経済規模を2倍にするために、輸出主導型モデル(export-oriented model)から需要主導型モデル(demand-driven one)に転換することを目指した。しかし、世界的な金融危機に見舞われ、福田も麻生もともに大きな成果は得られなかった。

2009年から2012年にかけて、自民党は野党だった。この時期に出た民主党の首相3人もまた自身の経済プログラムを推進した。たとえば、2011年9月から2012年12月まで482日間在任した野田佳彦は、8カ年経済成長戦略をスタートさせた。この戦略の目的は、「日本再生(rebirth of Japan)」を達成することだった。この計画は、2011年3月に発生した福島第一原発事故の後に導入され、その目的は、医療や再生可能エネルギーのような分野で新しい産業と雇用を生み出すことであった。多くの目標の一つは、2020年までに、ガソリンと電気のハイブリッド、電気、天然ガスなど高燃費効率車が日本の全自動車の50%を占めるようにすることだった。しかし、その計画は頓挫してしまった。2020年の日本の新車販売台数のうち、これらの車の販売台数は36.2%にとどまった。この36.2%の内訳は、環境に優しい完全な電気自動車ではなく、ガソリンと電気のハイブリッド車が大半を占めている。

同じパターンが外交政策でも繰り返されている。福田はこれから30年間のヴィジョンとして、太平洋に面した、環太平洋(Pacific Rim)の諸国のネットワーク化を進め、「太平洋を内海(inland sea)にする」ことを提唱した。このヴィジョンにおいて日本にとって重要政策とされたのは、インド洋において対テロ作戦に従事しているアメリカと外国の艦船に対する燃料補給業務を海上自衛隊に行わせることで、アメリカ主導のテロリズムの戦いに貢献することだった。皮肉なことに、皮肉なことに、福田は自民党が過半数を失った参議院で海上自衛隊の燃料補給業務の再可決法案を可決させることができずに辞任した。一方、麻生は「自由と繁栄の弧(arc of freedom and prosperity)」を議論した。これは、日本が同様の価値観を持つ国々と協力するというものだった。その基本概念は、現在の日本の外交政策にも生きているが、麻生の構想の名前で覚えている人はほぼいない。

安倍首相は約8年首相に在任し、強化された立場を完全に活用することで、これらの常識を覆した。最も注目すべきは、大規模な金融緩和、財政出動、構造改革を組み合わせた「アベノミクス」と呼ばれる経済成長プログラムである。アベノミクスは、日本経済の将来の軌道を根本的に変えるには至らなかったものの、デフレ脱却、失業率の低下、企業収益の向上を実現した。また、マーケティング的にも成功した。日本の首相の名前が、日本の専門家たちの少数グループだけに知られているだけでなく、世界中に知られている政策プログラムに付いているのは珍しいことだ。

経済に加えて、安倍派安全保障分野で成果を残した。日本の自衛隊の使命を拡大することで成果を残した。これらのステップをめぐっては論争が起きた。日本国憲法第9条は戦争を放棄している。これまでの数十年間、自衛隊の役割は増大しているが、安倍の改革は、特定の条件下での集団的自衛権の行使を日本に与えることで、重要な成果を上げた。

安倍首相が長期にわたり首相に在任したことで、日本の外交政策にも貢献した。安倍首相は、外交的そして概念的な構想を推進するために必要な諸外国の指導者との関係を構築する時間を得ることができた。この努力の成果の一つは、自由で開かれたインド太平洋というヴィジョンである。この考えは安倍首相が元々提唱したものだったが、トランプ政権によって採用され、2017年には完全なアメリカの戦略となった。

安倍政権下、2017年にアメリカが協議から脱退した後も、日本は地域の自由貿易協定である環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)を主導した。アメリカが関与しない多極的な枠組みで日本が指導力を示したレアケースだった。

もちろん、安倍元首相の長期にわたった在任期間は、彼の政策目標が全て達成されたということを意味しない。とりわけ、また、1970年代から1980年代にかけて北朝鮮に拉致された日本人に関する問題や、北朝鮮の核・ミサイルの脅威の抑制について、北朝鮮との間で進展させることはできなかった。安倍首相はまた千島列島日本では北方領土と知られる千島列島をめぐるロシアとの領土問題についても何の進展もなかった。

また、首相の政治力を決める要因は、在任期間だけではない。国民からの支持もまた重要だ。安倍元首相は在任期間のほとんどで国民からの支持を享受した。安倍首相の外交・安全保障政策に対しては、中国をはじめとする地域の新たな課題に対処する必要性についての国内のコンセンサスが高まっていたことも追い風となった。

ここで2021年10月31日の選挙の話が出てくる。自民党の選挙結果によって、自民党が岸田を総裁に選んだことと岸田が挙げた公約に対する国民の支持の程度を測定することになるだろう。

現時点では、自民党が議席を増やすかどうかではなく、どれくらい議席を減らすかが問題となっている。最近の世論調査では、自民党の支持率が低下している。岸田首相は自民党の連立相手である公明党との間で衆議院の過半数を維持するという控えめな目標を掲げている。2021年10月14日に国会を解散する(dissolution)前、日本の下院にあたる衆議院465議席のうち、自民党は276議席を占め、公明党は29議席を占めている。岸田の掲げた目標を達成するためには、自民党は72議席を減らすことができる。最近の世論調査では、自公連立政権が過半数を維持する可能性が高いと言われているが、自民党が単独で過半数を維持できるかどうかは不確実である。

日曜日に自民党が予想以上の結果を出せば、党内での岸田首相の影響力が高まり、岸田首相が希望する政策を実行するための時間と場所が確保される可能性が高まる。良くない結果になれば、その可能性は低くなり、公明党の影響力は大きくなる。良くない結果となれば、来年夏の参議院選挙に向けて、自民党はまた新たな総理総裁選出を検討するきっかけにもなるだろう。どちらの結果になるにしても、岸田の仕事はより複雑になっていくだろう。

※ナオコ・アオキ:メリーランド大学国際・安全保障研究センター研究員、アメリカン大学の準教授を務めている。

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日本の選挙:岸田文雄首相は与党自民党の勝利を宣言(Japan election: PM Fumio Kishida declares victory for ruling LDP

BBC

2021年11月1日

https://www.bbc.com/news/world-asia-59110828

日本の岸田文雄首相は彼が率いる与党自由民主党(Liberal Democratic PartyLDP)の勝利を宣言した。

1カ月前に首相に就任したばかりの岸田氏にとって大勝利となった。彼が率いる自民党は衆議院(lower house)で233議席以上の議席を確保した。これは連立のパートナーである公明党の存在がなくても議会の過半数を占める数字だ。

自民党はこれまで数十年にわたり日本政治を支配してきたが、新型コロナウイルス感染拡大対策では批判を浴びた。

岸田首相の前任者菅義偉は就任1年で辞職することになった。

新型コロナウイルス感染者数拡大についての人々の懸念がありながらも東京オリンピック開催を推進し続けたことで自民党の支持率は低下し続けていた。そうした中で、菅首相の辞職が発表された。

64歳の岸田氏は長年にわたり首相の座を狙い続け、2012年から2017年まで外相を務めた。

自民党は465議席中276議席を占める形で総選挙を迎えた。

選挙戦序盤の世論調査では、自民党は過半数を占めるためには連立パートナーの公明党に頼らねばならないという結果が示されていたが、その予測は覆された。

自民党は261議席を獲得し、過半数の233議席を大きく上回った。公明党は32議席を獲得し、連立与党の議席数は合計で293議席となった。

日本の議会は、国会(National Diet)として知られている。国会は下院(lower)に当たる衆議院(House of Representatives)と上院(upper)に当たる参議院(House of Councillors)で構成される。

日曜日の投票はより優位な衆議院に関するものであり、参議院議員選挙は来年実施される。

月曜日、日経225は2.6%の上昇で終えた。投資家たちは自民党が過半数を大きく超えて議席を獲得したことについて、岸田首相の経済刺激策が議会をスムーズに通過するだろうということに賭けた。株価上昇はこのことを意味している。

選挙前、岸田首相は新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにして、世界第三位の経済を支援するために数十兆円規模の支出を行うことを約束した。

日曜日、岸田首相は公営放送であるNHKに出演し、その際、今年の終わりまでに更なる追加予算を策定する計画だと述べた。

●岸田文雄とはどんな人物?

(1)岸田氏は政治家一族の出身であり、彼の父親と祖父も政府に関与した。

(2)彼は1993年に議員に初当選した。2012年から2017年まで外相を務めたがこれは最長記録だ。

(3)2016年のバラク・オバマ大統領の広島(岸田氏の地元)訪問を調整した。広島は核爆弾による攻撃を受けた都市の一つだ。現職のアメリカ大統領による初訪問となった。

(4)名門の東京大学の入学試験に失敗した。これは多くが東京大学で学んだ彼の一族からは「恥(embarrassment)」と見られた。

(5)彼はお酒を飲むのを好む。外相時代にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相に飲み比べを挑んだというエピソードは有名だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 今回は、林芳正外相起用に関する優れた分析記事をご紹介する。私は、岸田首相はかなりしたたかな人物であると見ている。「岸田は3A(安倍、麻生、甘利)の傀儡(かいらい、操り人形)だ」という主張が多くなされていたが、私はそうだろうかと思っていた。甘利明を幹事長に持ってきたときには、「それ見ろ、3Aの言いなりじゃないか」ということになったが、私は「幹事長は総選挙の最高責任者であり、総裁に責任を負わせないために、選挙で負けたら(自民党が議席を減らしたら)、辞任もある。だから短命で終わるかもしれない」と考えていた。実際には、自民党は大敗ということではなかったが、甘利明は自身が小選挙区で落選し、結果として幹事長を辞任することになった。大物が小選挙区で落選するということは、それだけで政治生命に大ダメージを与えることだ。甘利の浮上は難しい。3Aの一角が崩れた。
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林芳正(左)と岸田文雄
 麻生太郎を自民党副総裁という形で遇した。副総裁と言えば何かかなり偉いポジションのようだが、実際は何の権限もないし、お飾り、盲腸のようなもので、「上がり」ポジションだ。「上がり」ポジションとしては、議長というものもあるが、麻生太郎は首相を経験しており、慣例的にそして伝統的に、首相経験者が議長を務めることはないし、その逆もない。ただ、自民党副総裁が脚光を浴びる時、それは、党内で次の総理総裁を決める時に揉めに揉めて、どうしようもない時だ。副総裁は調停役ということになる。椎名悦三郎の「椎名裁定(田中角栄の後に三木武夫を指名した)」や西村英一の「西村裁定(大平正芳首相の急逝を受け鈴木善幸が指名された)」が思い出される。麻生副総裁が存在感を増すとすれば、ポスト岸田で党内が混乱する時だ。調停役となると、派閥的な動きはしにくくなる。麻生副総裁が麻生派を動かしてどうこう言うことも難しくなる。そうこうしているうちに、河野太郎への禅譲ということになる。大宏池会復活のために、岸田派と河野派の合流ということも視野に入ってくる。

 前置きが長くなったが、下の記事にあるように、甘利幹事長辞任を受け、岸田首相は、外相だった茂木敏光(竹下派を継承して茂木派に)を幹事長に据え、後任の外相に林芳正を起用した。これは極めて重要な動きだ。林は長らく参議院議員を務めたが、今回の総選挙で衆議院議員として初当選した。これで、林芳正は総理総裁候補に浮上した。岸田派のプリンスの座を確保した。大臣経験は豊富であり、手堅い手腕は知られているので、後は党務、党三役をこなせば、一気に総理総裁の有力候補となる。年齢が60歳なので、残された時間は10年もないが、65歳までに条件が整えばということになる。

 山口県は安倍晋三元首相のお膝元である。そこで、長年にわたり林芳正は我慢をし続けて、準備をし続けた。林芳正は単純に「中国とぶつかれ」ということにはならない。また、今回、外相起用となったのは、アメリカ政界との深いつながりがあるということもあるだろう。アメリカ時代が馬鹿みたいに中国と対立するという路線を採用しないということになっている。そうした中で、林外相というのは、英語で意思疎通(議論も含めて)ができて、アメリカの意向を掴みやすく、かつ中国から嫌われていないという重要な人物ということになる。

 林芳正外相起用は岸田首相のしたたかさを示している。このしたたかさこそが、自民党保守本流(吉田茂からの流れ、田中角栄と大平正芳の盟友関係を経て、竹下登・宮澤喜一のニューリーダー時代を経ての現在)の真骨頂である。保守本流の、保守傍流に対する新規巻き直しということになる。

(貼り付けはじめ)

日本の外相は中国に対する厳しい姿勢を取ることに直面している(Japan’s Foreign Minister Faces Tough Calls on China

林芳正は派閥を基盤とする人事パターンを壊した

ウィリアム・スポサト筆

2021年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/11/11/yoshimasa-hayashi-japan-new-foreign-minister-qualified-china/

先の総選挙で驚くほどに良い結果を出したことを受けて、日本の岸田文雄新首相は、与党自民党内の派閥政治よりも、経験と国際的な経歴を重視した外務大臣人事を行い、外交政策に影響を与えようとしている。これは日本では珍しいことだ。そして、これに対しては多くの批判が起きている。

日本の内閣人事は、伝統的に自由民主党(Liberal Democratic PartyLDP)内の各派閥に対して便宜を図る形で実施されてきた。自民党は1955年に結党されて以来、ほぼ継続的に日本を統治してきた。内閣の大臣ポストは、大臣が実際に意味のある政策を実行できるようになるずっと前に頻繁に交代させられる。そして、そうした中で、いくつかの伝説的な恥ずべき出来事がいくつも起きた。任命された大臣にしばしば必要な専門知識が欠けていたことが明らかになった。最近で最も際立ったケースとしては、2018年に任命されたサイバーセキュリティ担当大臣が、これまで自分自身でコンピュータを使ったことがないと認めたことだ。

これらの出来事とは対照的に、国際的に名前を知られている林芳正の外相への指名において、岸田首相は自分が外交政策をどのように実行したいと望んでいるかを示すシグナルを送っている。それと同時に、自民党内で最大級の力を誇る2人の重要人物の警告を無視することを示している。その2人とは元首相の安倍晋三と麻生太郎だ。

林の外相になる資格に疑いの余地はない。彼は名門東京大学の出身であり、ハーヴァード大学ジョン・F・ケネディ行政学大学院で修士号を取得した。英語に極めて堪能であり、ワシントンでスティーヴン・ニール連邦下院議員(ノースカロライナ州選出)とウィリアム・ロス連邦上院議員(デラウェア州選出)のスタッフを務めた経験を持つ。最近、林はアメリカの外交政策に関する多くのイヴェントに出席し、演説を行ってきた。彼は1995年に参議院議員に初当選し、多くの内閣ポストを経験してきた。スキャンダルの後、手堅い手腕が必要とされた際によく起用された。彼は経済財政相、農林水産相、防衛相、文部科学相を歴任した。

日本の複数のメディアの報道によると、自民党の2人の大物議員が林の外相起用に反対した理由は、大きく分けて2つある。党内政治のレヴェルでは、安倍と麻生が「林は衆議院議員に初当選した人物だ。それまでの26年間は参議院議員を務めて、今年になって衆議院議員になったばかりだ」と不平を述べた。これは、伝統的に日本の政治とビジネスを主導してきたヒエラルキーを重視する世界では、林は彼の順番が来るまで待たねばならないということになる。

2つ目の不満はより本質的なものだった。2人は、林が中国に対する弱腰市政だと考えている。中国は、自国がアジア地域内最大の大国であり、アメリカとは対等な関係にあるという確信を持っている。そのために、日本の中国に対抗するという熱望が高まっている。中国政府の好戦的な発言の増加、アジアの広大な水域における領有権の主張、敵対する相手に対して経済力で懲罰を加えようとする意欲など受け、日本の政治家の間では反中ムードが高まっている。これに比例して台湾を支持する声は高まっている。台湾は、世界のテクノロジー産業を支える高性能のコンピューターチップを独占的に生産することで経済的な影響力を保有している。このようなアプローチはアメリカ国内でも支持されている。

しかし、林は中国政府に対して柔らかい姿勢を取らないだろうと主張する人たちもいる。東京の上智大学で政治学を教える中野晃一教授は「林は岸田よりも原則的なリベラル派だが、親米派でもある。米国の対中政策に全面的に矛盾するような行動を取ることはないと私は考える」と述べた。

噺自身がこの問題から正面から取り組んだ。2021年11月11日、林は記者会見の席上、日中友好議員連盟(Japan-China Friendship Parliamentarians’ Union)会長職から退くと発表した。日中友好議員連盟は中国政府との友好関係を目指す超党派の国会議員の集まりである。彼は、会長職から退くことについて、外相としての役割において「無用な誤解」を避けることが目的だと述べた。彼もまた中国の様々な行動についての日本の懸念を表明した。林は日本政府が不満や不安を表明する際の言葉遣いを使って次のように述べた。「世界共通の普遍的な価値観に対する深刻な挑戦を目にする機会がどんどんと増えている。この価値観によって平和と国際共同体、国際的秩序の安定が保たれてきたのだ」。

林の外相起用によって中国政府は安堵感を持っているかもしれない。しかし、岸田首相は同時に中国国内の人権状況についての、日本の新しい、より厳しい姿勢を維持することもシグナルで示した。岸田首相は今週、中谷元元防衛省を人権関連諸問題についての特別補佐官に任命した。中国のウイグル族やその他の少数民族、香港の民主活動家たちに対する取り扱いを担当する。中谷は人権侵害を行っている国々に対して制裁を科すことが可能となる法律制定を目指す超党派の議員連盟のメンバーである。日本は中国の人権侵害について話はしているが、アメリカによる中国政府高官に対する制裁や新疆ウイグル自治区からの製品の輸入禁止のような具体的な行動を取るまでには至っていない。

専門家の中には、岸田首相の今回の人事の目的は、タカ派の安倍元首相よりも、より微妙な内容の政策を行うということだと主張している人たちがいる。安倍元首相は2019年に辞任したが、日本史上最長の在任期間を記録した。上智大学の中野教授は次のように述べている。「今回の林外相の起用は、日本政府が中国政策において米国と概ね同調していることを示している。しかし、中谷の起用は、林の外相起用と同様に、岸田が安倍元首相、安倍元首相のよりイデオロギー的で強硬な反中国政策のスタンスにとってのメッセンジャーボーイになりたくないということを示している」。

同時に、中国に対する政治的態度と緊密な貿易関係を切り離すという、これまでの日本の政策方針にも綻びが生じているように見える。

テンプル大学日本校現代アジア研究所長のロバート・ドゥジャラクは次のように述べている。「日本政府には、中国が“問題(problem)”であり、いくつかの点で脅威(threat)であるというコンセンサスが存在する。中国を巨大で差し迫った危険だと考える人もおり、また多少の懸念を持っている人たちもいる。しかしながらそのような人達も北京を全く善良なアクターと見なしていることはない」。

林は、国際的に緊密な人脈を持っている。米国との同盟関係を維持しながら、中国との貿易を維持するという難しい問題を解決するのに有利な立場にあると考えられる。しかし、そのためには彼が十分な任期を持つことが前提となる。

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(終わり)
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