古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:核兵器

 古村治彦です。

 

 今回は2018年3月20日までにアメリカが北朝鮮を攻撃するという主張の論説をご紹介します。

 

 論稿の著者はジェイムズ・リカーズというアメリカ人です。弁護士で、金融の専門家のようです。1973年にジョンズホプキンズ大学を卒業し、1974年にジョンズホプキンズ大学ポール・ニッツェ記念高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号を取得、ニューヨーク大学法科大学院で法務博士号を取得しています。その後、ヘッジファンドのLTCMの幹部社員を務めるなど、長年にわたり金融業界で活動しているようです。

 

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 古村治彦です。

 

 北朝鮮の最高指導者金正恩朝鮮労働党委員長が新年の挨拶を行い、その様子がテレビで放映されたということです。その中身は、「自分の机の上には核兵器発射のボタンがある」と述べながら、韓国での冬季オリンピックの成功を祈り、北朝鮮からの選手団が参加する用意があるということを表明するものでした。日本の報道では、核兵器発射のボタンの話ばかりが報道されているような印象がありますが、韓国との対話についての言及はとても重要であると思います。

 

 北朝鮮が核兵器とミサイル開発(共に旧ソ連、ロシアの支援を受けてのことでしょう)を推進し、現在、どの程度の実力を有するようになっているのかは未知数です。アメリカ領土を正確に狙い撃ちできるICBMを持っているのか、それに搭載できるだけの小型化された核兵器を所有しているのか、ということは分かりません。この分からなさが北朝鮮の力となり、交渉力となります。本来であれば、この分からなさをできるだけ高く売りつけて、何らかの約束、妥協、条件を引き出そうとするはずです。

 

 アメリカは北朝鮮がアメリカ領土を攻撃できる大量破壊兵器を製造するならば、武力行使もあり得るという立場を取りつつ、レックス・ティラーソン国務長官は交渉を優先するという立場を堅持しています。アメリカは明確な圧倒的な軍事力を背景に条件、譲歩を引き出そうとしています。

 

 金正恩は韓国に対して、対話の用意がある、オリンピックの成功を祈る、北朝鮮選手団が参加する用意があるという発言を行いました。これまでにない柔らかな内容の発言です。韓国側も早速対話の用意があり、オリンピックで北朝鮮選手団を歓迎するというシグナルを送っています。

 

 これはオリンピックが終わるまでは、朝鮮半島の緊張を高めることはないというメッセージであり、国際社会に対する宣言でもあります。このような発言があった以上、アメリカとしてもオリンピックまでは緊張を高めるわけにはいきません。

 

 昨年、米朝間で指導者同士が激しい言葉遣いの応酬をしたために、緊張が高まりすぎてしまったという反省もあっての今回の新年の挨拶になったと思います。

 

 激しい言葉遣いで相手をけん制しながら、自分の持っているカードを高く見せて、取引をするということになる訳ですが、激しい言葉遣いばかりをしていると、その言葉尻を相手にとらえられて、身動きが出来なくなります。

 

 太平洋戦争直前の日本を考えてみるとよくわかります。軍部も政府もアメリカと戦争するつもりなんか全くなく、日中戦争も終わらせたいと思っていました。しかし、意図しない方向、裏目裏目に事態は進んでいきました。メンツにこだわったこと、激しい言葉遣いで挑発的な言辞を繰り返したことで、自分たちを追い詰めていきました。

 

 そうして考えると、北朝鮮は戦前の日本よりもしたたかで、柔軟であると思われます。細い塀の上を落ちないように歩いている、そんな感じです。私はぎりぎりのジェンガを崩さないように慎重にかつ大胆に抜いている、という譬えを使っています。

 

 しかし、そうした状況下で怖いのは突発的な事故で、それを意図的に起こすという人たちもいます。そうなった場合には予想もつかないことが起きる、そうなったら人間ではコントロールできない状況ということも生まれてしまいます。最悪のシナリオは、北朝鮮が暴発して、死なばもろともで核兵器やミサイルを打ちまくるということですが、これはあまりにも可能性が低いシナリオではないかと考えます。

 

 アメリカも北朝鮮も人間のコントロールできる範囲内で何とかしようと動いている、そのように見えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「核のボタンは自分の机の上に 金正恩氏、オリーブの枝も」

 

2018年1月1日 BBCニュース日本語版

http://www.bbc.com/japanese/42532301

 

北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は1日午前9時(日本時間同9時半)、テレビ放映された新年のあいさつで、米国が「戦争を決して始められないよう」に、自分の机には常に核兵器発射のボタンがあると述べた。

 

朝鮮中央テレビが放送した新年のあいさつで、金委員長は、米国全土がすでに北朝鮮の核兵器の射程圏内にあり、「これは脅しではなく、現実だ」と強調した。委員長はさらに、「核弾頭や弾道ミサイルを大量生産し、製造スピードを速めなくてはならない」と述べ、核・ミサイル開発事業の推進に意欲を示した。

 

しかしその一方で、自分には韓国と「対話の用意がある」とも述べ、韓国に対する友好の「オリーブの枝」ともとれる表現をした。

 

委員長は「2018年は北と南の双方にとって、大事な年になる。北は建国70周年を迎え、南は冬季五輪を開催する」と指摘。この表現は、過去1年間の敵対的な姿勢から大きく逸脱したものと受け止められている。

 

金氏はその上で、今年29日から韓国・平昌で予定される冬季五輪に選手団を送る可能性もあると、さらに友好姿勢を示唆した。韓国は以前から、北朝鮮選手団の出場を歓迎すると表明している。

 

「冬季大会に参加すれば、民族の団結を示す良い機会になる。大会の成功を願っている」と委員長は述べ、「両国の担当者が喫緊に会談し、その可能性を協議するかもしれない」と五輪出場に前向きな姿勢を示した。

 

金委員長の警告について記者団に聞かれたドナルド・トランプ米大統領は、「どうなるかこれから分かる」と答えた。トランプ氏は、フロリダ州の私邸リゾート「マール・ア・ラーゴ」で新年を迎えた。

 

北朝鮮が1129日に試射したミサイル「火星15」は、高度4475キロに達し、53分をかけて960キロ飛行した後、日本海に落下した。国際宇宙ステーションの10倍以上の高度で、通常の軌道で発射していれば13000キロ以上飛行した可能性がある。この場合、米本土全土が到達可能だったことになる。ただし、核弾頭をそれだけの距離にわたり運べるかは不明。

 

北朝鮮は、完全に実戦配備可能な核兵器を開発したと主張しているが、専門家の間ではまだ疑問視する声もある。

 

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●「韓国側、正恩氏の新年辞を歓迎 南北協議に応じる考え」

 

1/1() 17:15配信 朝日新聞デジタル

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180101-00000037-asahi-int

 

 韓国大統領府報道官は1日午後の記者会見で、平昌冬季五輪への北朝鮮代表団派遣を巡る南北協議に応じる考えを示した。報道官は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の新年辞について「南北当局間の面会提案を歓迎する」と述べた。

 

 また、「北核(北朝鮮の核)問題を平和的に解決する」と強調。「半島問題の直接の当事者として南北が相対し、緊張緩和と平和定着の解決方法を見つけることを望む」と述べ、五輪問題だけでなく安全保障問題でも主導権を握りたい考えを示した。(ソウル=牧野愛博)

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)








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 古村治彦です。

 

 「中国人民解放軍3万人を北朝鮮に駐屯させるべきだ」という論文をご紹介します。荒唐無稽なようですが、その論理構成を知ることは、現在の北朝鮮をめぐる情勢を考えるうえでも重要だと思います。

 

 論文では、北朝鮮が核兵器やミサイル開発を行っているのは、自国の安全保障と体制転覆に対する恐怖心があるとしています。そして、北朝鮮に安心感を与えることが問題解決の基礎になると主張しています。北朝鮮に安心感を与えるにはどうすべきか、ということで、「少数の(3万人)の人民解放軍を北朝鮮に駐屯させるべきだ」という結論になります。3万という数字は現在、韓国に駐留している米軍の数で、それと同数の中国人民解放軍を駐屯させることで、つり合いがとれるということです。

 

 朝鮮戦争では北朝鮮は鴨緑江まで押し詰められ、敗北寸前でした。この時、中国の人民義勇軍が北朝鮮に来援し、国連軍を押し返しました。300万の将兵のうち、約5分の1が死傷するという大きな犠牲を中国は払いました。中国と北朝鮮はそれ以来の「血の盟約」を結んできました。

 

 しかし、ことはそのように簡単に進みません。北朝鮮は中国に対しても歴史に基づいたある種の不信感を持っています。北朝鮮がアメリカを敵視しているのは当然ですが、中国も同盟国として信頼しているかというとそれは違います。また、朝鮮半島の人々にとって中国人民解放軍の駐屯は誇りを傷つけられる行為だと思います。そうした中で、人民解放軍の駐屯を受け入れさせることはほぼ不可能であると思います。

 

 ただ、確かに中国人民解放軍が駐屯すれば、アメリカは北朝鮮に対する攻撃がやりにくくなります。しかし、中国人民解放軍の駐屯を受け入れることとアメリカ軍の侵攻の危険性を天秤にかけて、どちらを選ぶか、ということになると、北朝鮮政府はどちらも選ばずに、「独立独歩の政策を続けつつ、ミサイルや核開発を交渉カードにして、体制保障を求める」という方向に進むのではないかと思います。

 

 もし中国人民解放軍を受け入れれば、北朝鮮政府はもたないでしょう。朝鮮半島にある政府としての正統性に大きな傷がついてしまいます。アメリカ軍の侵攻があってももたないでしょうから、中国人民解放軍を受け入れないでしょうし、北朝鮮に中国人民解放軍が入る時は、現在の北朝鮮政府が崩壊して、治安維持や復興にあたることになるのだろうと思います。

 

 北朝鮮にとっては体制保障が何よりも重要でしょうが、現状では他国にしてみれば大規模戦争(major war)にならないことが最大の利益ということになるかと思います。大規模戦争を阻止するための小規模な軍事介入という選択肢も存在しているのではないかと考えられます。

 

(貼り付けはじめ)

 

中国は北朝鮮に3万の将兵を送るべきだ(China Should Send 30,000 Troops Into North Korea

―核兵器をめぐる争いを止めさせる唯一の方法はアメリカが北朝鮮に侵攻しないし、できないと金正恩に安心させることだ

 

アルトン・フライ筆

2017年11月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/11/28/china-should-send-30000-troops-into-north-korea-symmetrical-reassurance/

 

北朝鮮は核兵器開発を断固として止めない。これに対処しようとして行っている様々な取り組みはどれも効果を上げていない。朝鮮半島の非核化という目標は失敗している。国連決議もまた失敗している。徐々に締め付けを厳しくしている経済制裁もまた失敗している。 侮辱的な発言は失敗しているだけではなく、金正恩の強硬な姿勢を高めている。北朝鮮政府は最新の挑発行為として、1128日に北朝鮮東方海上に弾道ミサイルの発射テストを再び行った。

 

実際に試みる価値がある選択肢がまだほかに残っているだろうか?冷戦期の経験からある基本的な要素が存在することが示唆される。それは、戦略的安心感を示すことである。戦略的安心感とは、安全を保障することで核兵器開発という選択肢を諦めるように説得することである。

 

北朝鮮を核兵器開発に駆り立てる重大な懸念とは何であろうか?北朝鮮政府は、重大な懸念を「アメリカと韓国が金体制を転覆させるために侵攻を計画している」ことについて恐怖感を持っていると主張している。アメリカ側にしてみれば、そのような恐怖感は馬鹿げているように思われる。レックス・ティラーソン国務長官はそのような意図はないと明確に否定している。しかし、北朝鮮が国力を結集し多くの予算を投入するミサイルと核兵器開発プログラムを行っているのは恐怖感が原動力となっている、そして、こうしたプログラムは金正恩を危険にさらしている。 したがって、アメリカは北朝鮮に対して、第一に北朝鮮侵攻の脅威は現実的ではないと示し、第二に、そのような脅威をなくしたうえで、核兵器とミサイル開発を抑制するようにという国際社会の要求を拒絶し続けることは、自衛ではなくより邪悪な目的を持っていることになる、ということを示すことが重要だ。

 

アメリカ政府と韓国政府による各種の宣言も十分ではない。しかし、より効果的なアプローチが可能である。これらのアプローチは、核兵器開発の可能性のある国々に思いとどまらせるように仕向ける政策を基礎としている。ドイツ、日本、韓国が重要な具体例となる。これらの国々は、核兵器開発の基礎となる技術に関しては、北朝鮮よりもはるかに具体性と実現性を持っている。これらの国々が核兵器開発を自制する選択を行っているのは、多くの要素のためである。しかし、アメリカとの軍事同盟やアメリカ軍基地の自国内での展開 による安全保障のために自制できている。歴史家のマイケル・ハワードは同盟による安心感は、敵国による抑止と同じ程度の効果を持つと主張した。永続的な戦略的安定性は同盟による安心感と敵国による抑止の両方に依存している。

 

北朝鮮の思慮に欠けた行為を止めようとして強制的な外交策と軍事攻撃の脅威を用いるのは理解できる。より強制力の伴った方法を採用する必要性もあるだろう。北朝鮮のミサイルが日本の領土を飛び越える事態が続くならば、それらを迎撃するためにミサイルを発射する大きな理由となる。専門家たちの間でほぼ共通した理解となっているのは、直接的な軍事行動は、大きな戦争へとつながる深刻なリスクを伴うということだ。

 

長年にわたり、議論と断続的な交渉についてのテーマは常に中国政府はこのような悪い状況を止めるためのカギを握っているということだった。中国は金正恩率いる北朝鮮の主要な貿易相手国であり安全保障に関して最強の支援者ではあるが、その影響力を使って北朝鮮政府にコースを変えさせようとしている。中国は明確に北朝鮮の核武装化は自国の利益にかなわないと表明している。徐々にかつ消極的にではあるが、中国政府は北朝鮮に経済的、政治的圧力をかける多国間の行動に参加するようになっている。ここ数カ月で、中国は北朝鮮に対する国連安保理の出した強い内容の決議と厳しい経済制裁に参加している。特に中朝間の貿易を削減することを公約としている。現在の状況が示しているのは、外交上と経済上の厳しい制裁をもってしても金正恩に核兵器とミサイル開発をあきらめさせることが出来るのかどうか疑問だということだ。

 

状況は、恐らく、まったく異なる方法について検討する時期に来ているのだ。アメリカが韓国に安心感を与えているのと同じように中国は北朝鮮に安心感を与えられるか?中国政府は北朝鮮の行動について懸念を高めている状況で、中国は北朝鮮が攻撃を受けた際に支援するという内容の1961年に北朝鮮との間で結んだ協定は有効であると表明している。しかし中国は北朝鮮自身が戦争を始めた場合には金体制を支援しないだろう。これは建設的な姿勢であるが、北朝鮮政府にしてみれば長年にわたる独立独歩政策を正当化するための中国の優柔不断な態度とみなしていることだろう。北朝鮮の若き独裁者金正恩は1950年から1953年にかけての朝鮮戦争で中国がどれほどの大きな犠牲を出したかについてのちしきはほぼもっていないのかもしれない。約300万の将兵が戦闘に参加し、38万以上が負傷、18万以上が戦死した。中国側の戦死・戦傷者数はアメリカ側を大きく上回った。北朝鮮が敗北を認めそうになった時に、中国は支援に入った。

 

中国の介入は韓国を防衛していたアメリカや他の国々にとって歓迎されざるものだった。中国の払った犠牲は中国政府の与える安全保障の信頼性を高めるものだった。中国の与える安全保障がより信頼に足るものとなるには、北朝鮮の領土内に中国人民解放軍が実際に展開されることが伴うものとなる。北朝鮮に韓国と同様の安心感を与えるには中国人民解放軍の将兵3万人が駐屯することも可能性としては否定できない、38度線よりも南の韓国には同数の米軍の将兵が駐屯しているのだ。

 

確かに中国が北朝鮮領土内における軍事力強化を行うというのは常識的ではないと思われるだろう。アメリカの国益に関して言えば、このような行動は非倫理的であると考える人たちもいるだろう。残虐な人権侵害を行っている国家を支援することは安全保障のためには高すぎる代価と言えるかもしれない。しかし、戦争の勃発可能性を引き下げるためには効果的な方法ではある。

 

韓国とアメリカは中国人民解放軍と朝鮮人民軍と戦う戦争が起きるということを常に想定しなければならなかった。しかし、中国軍の少数の将兵が駐屯しても軍事バランスが崩れることはないだろう。韓国とアメリカは既に北朝鮮に侵攻する意思を持っていない。少数の中国軍の駐屯があってもこのような現状を変更することはないであろう。

 

安心感を与える政策を実行し、北朝鮮が攻撃を受けた際に中国は支援するということに関する疑いを払しょくすることが中国にできることである。安心感によって北朝鮮政府が表明しているアメリカによる侵攻の恐怖感から北朝鮮を解放し、状況を不安定化させる核兵器とミサイル開発プログラムの正当性を取り除くことになる。経済制裁と政治的孤立を緩和するためのいくつかの提案と共に安心感を与えることで、金正恩が核兵器とミサイル開発プログラムを停止するための最大の誘因を提示することが出来る。

 

中国がこの進路に進む準備ができるだろうか?現在のところ、中国は北朝鮮を占領する意向も姿勢も示していない。1950年代後半の大規模な介入の後、中国軍は撤退した。ソ連は東欧の衛星諸国に対して長年にわたり大規模な軍隊を駐屯させ、これらの国々を支配したことと比較してみて欲しい。しかし、しかし、現在の状況は全く別の問題を提示している。核不拡散体制の崩壊を防ぎ、大規模戦争の危険性を減らすため、中国政府は朝鮮半島に最低限の軍隊を駐屯させる準備をすべきだ。

 

更に不確定なことがある。北朝鮮は独立独歩を貫いてきたが、このような協定を受け入れるだろうか?1950年に金日成が持っていたもともとの意向は、中国の支援なしに朝鮮半島を統一することであった。しかしながら、金日成の下に集った将官たちは朝鮮人であったが毛沢東率いる中国人民解放軍に参加した経歴を持っていた。中国が国連軍の反撃から北朝鮮を守ったと言っても、金日成と子孫たちは巨大な隣国に対して複雑な感情を持っていた。中国からの支援が必要不可欠だと認識しながら、依存に対する後悔と支援するために来てくれる中国に対する恐怖感を持っていた。このような積極的な中国の安心感を与える行動を歓迎するように説得することは不可能ではないが、困難な仕事となるだろう。

 

北朝鮮を説得するという責務は中国が担うことになるだろう、一方、アメリカは中国人民解放軍の駐屯によって北朝鮮に安心感を与えるという考えに対して韓国が持つであろうと予想される懸念を弱めるために動かねばならない。北朝鮮指導部は中国人民解放軍駐屯の提示を、状況を安定させる提示というよりも、金体制打倒の序章として受け止めるかもしれない。このような疑念を乗り越えるのは歴史的な外交上の挑戦ということになる。しかし、中国政府に残された選択肢は他にはない。金政権に核兵器を放棄させることができる選択肢が他にあるのなら、中国は北朝鮮への人民解放軍の派遣と駐屯を拒絶することができるだろう。しかし実際にはそれは不可能なのだ。複雑な多国間の交渉において約束を守るということは主要な要素となる。

 

北朝鮮が中国人民解放軍の駐屯による安心感を拒絶するならば、北朝鮮が進める核開発プログラムはより敵意を持った目的のためのものではないのかという疑念を認めてしまうことになるだろう。これらの疑問についてのあらゆる推測は必要でもないし、役立つものでもない。これらの疑問に対する最高の答えは、積極的で、革新的な外交によって出されるものだ。現在の状況が示している将来像は、戦争かもしくは北朝鮮が何の規制も受けないで核兵器を製造するというものだ。少なくとも将来的に破滅的な衝突が起きる危険性を高めるというものだ。

 

様々な利益、選択肢、可能性、野心の間の差し引きは複雑だ。皮肉な状況が生み出されてしまっている。北朝鮮に安心感を与えることは、不愉快なことであろうが、事態が悪化すれば戦争に巻き込まれることになるすべての利害を持つ国々にとっては必要不可欠なことなのである。

 

※アルトン・フライ:外交評議会(CFR)名誉上級研究員

 

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(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



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 古村治彦です。

 

 安倍晋三首相の論説が2017年9月17日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説(Opinion)の欄に掲載されました。今回はこの論説をご紹介します。

 

 論説の内容は、北朝鮮の脅威に対して、国際社会が一致協力、連帯して対処しなければならない、制裁を強化し、制裁内容を強制しなければならない、というものです。

 

論説の展開は次のようなものです。①北朝鮮はこれまで国際社会が手を差し伸べてきて、合意をしてきたのに、それらをことごとく無視している。②北朝鮮は幼い少女を含む多くの日本人を拉致してきた。③国連はこれまでにも複数回にわたって制裁決議を可決し、制裁内容も厳しいものであるのに、北朝鮮はミサイル開発、核兵器開発のための物資、資金、技術などを手に入れている。④これは、今でも北朝鮮と交易している国々(主にアジア諸国)があるからだ。⑤日本はアメリカとの強固な同盟関係を確認し、アメリカ、韓国と緊密に協力する。⑥国際社会は連帯して北朝鮮の脅威に対処しなければならない。そのために国連決議の内容の履行を進めねばならない。

 

 「対話を続ける」と中国やロシアの姿勢とは一線を画し、6か国協議の枠組みの参加国のうち、日米韓、と中露を切り離して、日米韓は対話よりも今は制裁の実効を優先するということを主張しています。

 

 「対話を望んでも効果はない、無駄である」「北朝鮮に対話を求めることは、ミサイルや核兵器実験の成功に屈していると北朝鮮に考えさせる可能性が高い」「アジアの国々の中で北朝鮮と交易や労働者受け入れを継続している国々がある(これがミサイルや核兵器開発の資金や物資入手の元手となる)」という文言は中国とロシアに対する強烈な嫌味と批判です。アメリカが言えない分、日本が言わされているという感じです。

 

 この論説の内容は日中戦争時の近衛文麿首相の「国民政府を対手とせず」という「近衛声明」のようなものです。対話や交渉をここまで否定するとなると、どうしようもありません。日本政府が裏できちんと北朝鮮側とつながって話ができて、それで表向きはこのような強い調子の言葉遣いができるのなら良いのですが、そこまでのことができているのか、不安です。日中戦争当時、日中間には複数のチャンネルとなりうる人物たちが存在していましたが、それでも近衛声明の後はコンタクトが難しくなりました。それで日中戦争が泥沼化していくことになりました。日朝間のチャンネルはその時よりも細く、数が少ないものでしょう。それで「安倍声明」を出すことは、問題の解決を遠のかせることになりますし、中国とロシアに不快感を生み出すことにもなり、良いことはありません。

 

 日本は調子に乗って後で痛い目を見るという愚かな行為をまた繰り返すのかと暗澹たる思いになります。

 

(貼り付けはじめ)

 

安倍晋三:北朝鮮の脅威に対する連帯(Shinzo Abe: Solidarity Against the North Korean Threat

 

安倍晋三筆

2017年9月17日

『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2017/09/17/opinion/north-korea-shinzo-abe-japan.html?action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=opinion-c-col-left-region&region=opinion-c-col-left-region&WT.nav=opinion-c-col-left-region

 

東京発。北朝鮮は、世界全体に対して、前代未聞の、深刻な、そして差し迫った脅威を与えている。2017年9月3日、北朝鮮政府は非難されるべき核兵器実験を強行した。先週末、北朝鮮は、わが国、日本を飛び越える弾道ミサイルを発射した。そのわずか2週間前にも同様のミサイル発射テストを行った。北朝鮮政府は繰り返しミサイル発射テストを行ったが、これは、国際連合安全保障理事会のこれまでの決議を侵害することになる。北朝鮮は、アメリカとヨーロッパにまで、ミサイルが届くことを証明した。

 

北朝鮮の行動は国際社会に対する明確な挑戦である。2017年9月11日、国際連合安全保障理事会は、新たなより厳格な制裁内容である決議を満場一致で可決した。制裁内容は、国連加盟国に対して、北朝鮮への原油の売却を制限し、北朝鮮の繊維輸出を禁止し、加盟諸国に対して北朝鮮国民の国外労働を許可することを禁止する、というものだ。

 

これらの処置は重要なステップである。しかし、北朝鮮政府指導部はこれまで複数回出された決議を常に無視してきた。国際社会は一致団結して、制裁を実行しなければならない。

 

北東アジア地域においては、北朝鮮の脅威は25年以上にわたり、現実的なものであった。私たちは短距離、中距離ミサイルの脅威、加えて、化学兵器による攻撃の可能性にも直面している。

 

北朝鮮は、多くの無辜の日本国民を多く拉致することで日本を標的としてきた。拉致された人の中には、1977年に拉致された13歳の少女も含まれている。こうした拉致被害者のほとんどは1970年代から1980年代以降、北朝鮮にとどめられている。

 

これらの挑戦に対して、人々はすべからく平和的な解決がなされることを望んでいる。国際的な連帯が最も重要である。現在までのところ、外交を最優先し、会話の重要性を強調することは北朝鮮に対しては効果を上げていない。歴史が示しているところでは、国際社会全体による圧力が必要不可欠である。

 

1990年代初頭、北朝鮮は核拡散防止条約と国際原子力機関からの離脱を発表した。これが最初の警鐘となった。これに対して、日本、アメリカ、韓国は北朝鮮との対話に関与し、北朝鮮の核プログラムの凍結と最終的な廃棄の代償に、2基の軽水炉の建設と重油を提供することに合意した。日本、アメリカ、韓国は、ヨーロッパとアジア各国の協力を仰ぎ、この計画の財政負担のほとんどを担った。

 

私たちは次に何が起きたかを覚えている。重油供給と軽水炉建設が始まって数年後、北朝鮮はウラニウム濃縮プログラムを遂行中であると認めた。これは合意内容違反であった。

 

2002年の終わりまでに、北朝鮮は国際原子力機関の査察官たちを退去させ、2003年には核不拡散条約から公式に脱退した。中国、ロシアに加えて、日本、アメリカ、韓国が北朝鮮と交渉をするために6か国協議を創設した。北朝鮮は、朝鮮半島における検証可能な非核化を行うことに、再び合意した。しかし現実には、北朝鮮は2005年に原子力発電の所有を宣言し、2006年には核兵器実験を実行した。5か国による対話を通じての問題快活の試みは失敗に終わった。

 

簡潔に述べると、国際社会は、北朝鮮の制約に対する「補償」として制裁の緩和と支援を与えてきたが、北朝鮮政府は履行すべき義務のほとんどを無視し放置してきた。

 

これまでの歴史と現在行っているミサイル発射と核兵器実験を考慮すると、北朝鮮との更なる対話は暗礁に乗り上げるという結末に至る可能性が高い。北朝鮮政府は、更なる交渉を、「他国は我が国のミサイル発射と核兵器実験の成功に屈服した」ことの証明と考えることだろう。今こそ北朝鮮に最大の圧力をかけるときである。これ以上の遅延は許されない。

 

50年以上にわたり北朝鮮が冷酷にミサイル開発と核兵器実験を遂行できたのはどうしてだろうか?国連による10年に及ぶ継続的な制裁の下で、北朝鮮が燃料、部品、強力なエンジンを入手できたのはどうしてだろうか?統計数字によると、現在でも北朝鮮との交易を継続している国々が複数存在している。そのほとんどがアジアの国々だ。更に言うならば、こうした国々と北朝鮮との交易は2016年の段階で前年よりも拡大している。国際連合によると、北朝鮮の弾道ミサイルには外国製の部品が使用されているということだ。北朝鮮からの製品やサーヴィスを購入し続け、あるいは労働者を受け入れ続けている国々も存在している。北朝鮮はアジア地域に複数のフロント企業を設立している。これらを通じて北朝鮮は外貨にアクセスしている。

 

日本はアメリカとの鋼鉄のように強力な同盟関係を再確認することで北朝鮮の行為に対応してきた。日本はアメリカ、韓国と緊密に協力してきた。私は「全てのオプションはテーブル上にある」とするアメリカの立場を強力に支持するものである。

 

最新の核兵器実験への対応として、私は2017年9月11日の国連安保理決議2375号の即時かつ全会一致の可決を訴えた。その内容は北朝鮮に対する更に厳しい制裁を科すものだ。しかし、私は、これらの制裁の可決を単純に独りよがりで喜んでばかりいてはいけないと強調したい。北朝鮮がミサイルと核兵器開発プログラムに必要な物品、技術、資金、人材を手にすることを防ぐために、制裁内容の徹底した強制を行わねばならない。

 

北朝鮮は私たちが生きる世界に対して、深刻な脅威を与え、挑戦してきている。北朝鮮はこれまでの行為によって国際的な核不拡散体制は無視している。私たちは、北朝鮮に対して、挑発行為を止めさせ、核兵器と弾道ミサイル開発を放棄させ、拉致被害者を帰国させるようにしなければならない。それも可及的に速やかに。

 

国際社会における連帯、協力して努力すること、国連の効果的役割がこれまで以上に必要不可欠になっている。

 

※安倍晋三:日本国首相

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12







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