古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:武器供与

 古村治彦です。

 今回は1カ月前にご紹介しようと考えていたがその後、忙しさなどに取り紛れて忘れていた記事をご紹介する。ウクライナ戦争が始まって1カ月後の3月末にロシアはウクライナの首都キエフの掌握を断念し、ウクライナ東部のドンバス地方の確保に注力するという決定を行った。その際にどのようなことが言われていたのかという観点で記事をお読みいただきたい。

 2022年4月のウクライナ戦争の状況はウクライナ東部のドンバス地方での激戦が展開されてきた。ロシア軍の苦戦が伝えられているが、戦争は膠着状態に陥っていると言える。アゾフ大隊の本拠地マリウポリはロシア軍の攻勢に晒されているが、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はマリウポリが陥落すればロシアとの停戦交渉には応じないという姿勢を示し、マリウポリ死守の姿勢を示している。
 3月までは停戦交渉による停戦ということに対して期待が持たれていたが、4月に入ってから停戦交渉による停戦ということへの関心は低くなっている。ウクライナ軍が善戦しているのでこのままいけばロシア軍をやっつけることができる、という楽観論が広がっている。そのためには欧米諸国はロシアを撃破するためにより高度な武器を供与すべきだという戦争のエスカレートを支持する声が高まっている。これは非常に危険だ。

 ロシアはヨーロッパ諸国のエネルギーの供給源であり、エネルギー分野に関しては対ロシア制裁も例外とされている。ロシアが戦争のエスカレートに合わせて、ヨーロッパへのエネルギー供給を制限するということになれば、ヨーロッパ各国の人々の生活に直撃する。更に言えば、エネルギー価格は高騰し、物価高は日本に暮らす私たちにも影響を与える。

 繰り返しになるが停戦交渉による停戦の実現を望む。しかし、それを許さない状況である。戦争は続き、私たちの生活に大きな影響を与える。世界は第三次世界大戦の戦時下と言えるかもしれない。

(貼り付けはじめ)
ロシアはウクライナ国内で何を望んでいるのか?(What Does Russia Want in Ukraine?

-ロシア政府高官たちは、キエフから手を引くと述べた。しかし、それは侵攻が終わったことを意味しない。

ジャック・デッチ、ロビー・グラマー筆

2022年3月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/29/russia-withdrawal-kyiv-ukraine-war-not-over/?tpcc=recirc_latest062921

アメリカは、ロシアがウクライナの首都キエフ近郊に展開していた戦闘部隊を撤退させ、他の地域に移動する可能性があると見ている。ヨーロッパ駐留のアメリカ軍司令官の将軍は火曜日、連邦議会に出席し、戦争が始まって1カ月が経過し戦線は膠着しており、クレムリンが大きな戦略転換を示す可能性があることを認めた。

ヨーロッパ駐留アメリカ軍司令官でNATOの最高連合司令官であるトッド・ウォルターズ大将は連邦上院の公聴会に出席し、ロシアの決定の存在を認めた。ロシアによる重要な意思変更を示すものである。欧米の各国政府高官たちはこれまで、モスクワがウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領を打倒し、親ロシア派の傀儡政権を樹立するために、200万人以上が住むウクライナの首都キエフを奪取しようと考えていると見ていた。

ここ数週間、ウクライナ軍は首都近郊のブカ、イルピン、ホストメルなどの都市において、断固とした反撃でロシア軍を追い返した。ロシア国防省は2日、キエフとチェルニヒフ方面での「敵対行為の大幅な削減」を選択したと発表した。CNNは、アメリカがすでにロシアの大隊戦術群の東方への移動を確認し始めたと最初に報じた。

アメリカ政府の国防関係の高官は月曜日、記者団に対し、ロシアは親クレムリン派の2つの独立を宣言した国家を含むドンバス地方に軍事作戦を再集中させ、東部のウクライナ軍部隊を孤立させ、この地域に占領体制を確立することでウクライナに対する交渉力を取り戻そうとしていると述べた。この政府高官は、最近機密解除された戦場の最新情報を提供するために匿名を条件に取材に応じ、「ロシアが戦略目標を再評価しているのは今かもしれない」と述べた。

ロシアの突然の撤退の背景には何があるのか? 政府関係者や専門家たちは、ロシアがウクライナの首都から圧力を取り除く動機となり得るいくつかのシナリオについて概説した。

●ウクライナ東部への全力を傾注する攻撃(All-Out Assault on the East

ロシア軍は、いわゆる特別軍事作戦(ウクライナ侵攻に対するクレムリンが使用する呼称)の第1段階は終わったと主張している。金曜日に行われた軍事に関するブリーフィングで、ロシア軍幹部たちはウクライナ東部に焦点を当て、おそらく以前よりも広範囲に離脱地域を切り開く試みを開始することを示唆した。

ロシア国防省のある高官は、部隊の撤退は和平交渉の土台を築くためのものだと述べた。ロシアとウクライナの交渉担当者は火曜日、イスタンブールで2週間ぶりに会談した。

ロシア国防省のアレクサンドル・フォミン副大臣は火曜日、「相互信頼を高め、更なる交渉と最終目標である合意への到達、協定の調印に必要な条件を整えるため、キエフとチェルニヒフ方面での軍事活動を大幅に縮小する決定を下した」とロシアの国営メディアのテレビ番組の中で発言した。

戦争が始まって1カ月が経過し、ロシアはすでに数千人の兵力を失ったと推定される。火曜日の会談では、キエフとその他の地域を武力で制圧するというロシアの当初の取り組みがやや鈍化していることが示された。

火曜日午前のウォルターズ大将のコメントに加え、イギリス国防情報局は今週初め、ロシアがドンバスに外国人戦闘員を補強しており、民間軍事請負業者ワグナー・グループの戦闘員数千人をシリアやアフリカから移動させて戦闘に参加させていると判断を下している。

アメリカ国防総省のジョン・カービー報道官はブリーフィングで、「これは再配置であって、本当の撤退ではないと考える。ウクライナの他の地域に対する大規模な攻勢を監視する準備をすべきだ」と述べた。イギリス国防情報局は24日の声明で、ウクライナ全域でロシア軍は軍事的リセットを試みながら、「阻止態勢」を維持していると述べた。

●外交交渉のためのテコ入れ(Leverage for Diplomatic Talks

ロシアの外交官たちは火曜日、キエフへの攻勢を中止する動きがウクライナ政府に対して戦闘を終わらせるためのオリーブの枝(訳者註:平和や勝利の象徴)となる可能性があることを示唆した。

プーティン大統領の最側近で、ロシアのベラルーシ外交団を率いているウラジミール・メディンスキーは国営放送RTの取材に対し、クレムリンはウクライナの首都キエフを更なる軍事的リスクに晒したくないと考えていると語った。なぜなら外交交渉について「決定を下す」人たちがそこに居住しているからと指摘した。

しかし、西側諸国の首都では、ロシアが首都キエフにミサイルを発射し、何度もロシア連邦保安局のヒットマンを送り込んでゼレンスキー暗殺を試みたと報じられていることから、クレムリンのオリーブの枝には大きな懐疑的な見方が示されている。その代わりに、先週ウクライナの反撃で大きく後退したロシア軍は、クレムリンの外交官たちが交渉の席で譲歩を引き出すために仕事をする一方で、キエフに砲撃を続ける可能性がある。

西側のヴェテラン外交官たちも、ロシアの和平交渉の申し出に懐疑的な声を上げており、クレムリンは2014年のクリミア併合以来、ウクライナ東部の離脱地域への権益を強固にするための政治的隠れ蓑として和平交渉を使ったことがあると主張している。

イギリス国防情報局は火曜日に発表した声明の中で、ロシアは依然としてキエフに攻撃能力を持つ「重大な脅威」を与えていると評価した。ちょうど1週間前、3月20日にロシアがキエフを空爆し、都心のショッピングモールを破壊し、住宅を直撃、8人が死亡した。キエフは、ロシア語を話す地域の中心地であるハリコフやマリウポリなど、戦争で最も大きな被害を受けた都市の惨状を免れているが、クレムリンの攻撃で吹き飛ばされた窓は、1ヶ月の戦争で歓迎されない特徴となっている。

ジョー・バイデン米大統領やヨーロッパ各国の指導者たちとの電話会談で、ボリス・ジョンソン英首相は、ロシアの外交的駆け引きが策略である可能性を警告した。ジョンソン首相は「プーティンは、ウクライナとその同盟国に降伏を強いるために、ウクライナの開いた傷口にナイフをねじ込んでいる」と他の首脳に語ったとイギリス政府の通話記録は伝えている。

●ヨーロッパ諸国を説得する(Getting Europe to Back Down

ロシアのウクライナ戦争によってガソリン価格が世界的に高騰している。既に世界全体が深刻な経済的打撃を受けている。東ヨーロッパ諸国は、ウクライナが戦場で優位に立っているように見えるにもかかわらず、西ヨーロッパ諸国がロシアによる経済的圧力に屈して早々に自分たちの退路を断ってしまうのではないかという懸念が出てきている。

しかし、プーティンがドンバス地域のロシア語を話す人々に対するウクライナ人からの迫害というでっち上げの主張を使ってウクライナ侵攻のための理由を数週間かけて作り上げたように、ロシアの指導者プーティンは、不安に駆られたヨーロッパ諸国を不快な平和協定に誘導するために目的を絞ろうとしている可能性がある。

バラク・オバマ政権下でヨーロッパとNATOを担当した元国防次官補のジム・タウンゼントは「プーティンがやっているのは目的を達したと説明するための土台作りだ。ドンバス周辺での自分たちの立場を改善して、本格的な交渉が始まったときに優位に立てるようにする意図を持っているのだ」と分析している。

それは、ウクライナ人への武器供与を制限するようなロシアの圧力にも現れるかもしれない。週末に行われたNATO諸国への演説で、ゼレンスキーは、ウクライナに戦車やミサイル防衛、対艦兵器などを送る西側の行動があまりにも遅すぎると非難した。実際、アメリカはソ連時代のポーランド製戦闘機ミグ29をウクライナに直接譲渡することも控えている。ロシアがこの動きをエスカレートとみなし、NATO同盟に報復することを恐れている。

ヨーロッパ駐留アメリカ軍司令官ウォルターズ大将は、ロシア軍戦車を無力化するのに有効な無人偵察機「スイッチブレード」を米国はまだウクライナに供与していないと述べた。

在ウクライナ・エストニア大使のカイモ・クースクは本誌にテキスト・メッセージを送りその中で「ウクライナでの成功を恐れるべきではない」と述べた。クークスは続けて「私たちは、ロシアの侵略が成功することを恐れている。しかし、ウクライナが成功すれば、負けたプーティンがエスカレートすることを恐れているようだ。私たちはそれを恐れるべきではない」と述べた。

●ロシアのおとり商法(Russian Bait-and-Switch

ロシア軍は1カ月以上にわたるウクライナでの継続的な戦闘で疲弊しており、モスクワはロシア軍の基幹部隊である大隊戦術群の75%までを紛争に投入したと西側諸国の政府当局者たちは一様に指摘している。そして、キエフ近郊で激しい戦闘が行われている中でウクライナ政府に圧力をかけることで、ロシア軍はその傷を癒し、さらに努力を重ねることができる。そしておそらく、ウクライナ軍を首都キエフから遠ざけ、東方へと誘うことができるだろう。

元国防次官補のタウンゼントは「まるで手品師のようだ。手品師は、もう片方の手で何かをしているときに、こちらを見ているように仕向けるのだ」と述べた。

アメリカとヨーロッパの各政府当局者たちは、ロシアが首都キエフへの電光石火の攻撃で必要以上の後方支援を行った後、より多くの物資を持ち込もうとしている兆候が見られると数週間前から述べている。

ヨーロッパ駐留アメリカ軍司令官のウォルターズ大将は、「ロシアはまた戦車部隊を強化する努力を行っている」と発言した。戦車は、アメリカが提供したジャベリン対戦車ミサイルやイギリスがウクライナに提供した同様の武器による攻撃を受けやすくなっているのだと述べている。戦略的な変化にもかかわらず、ロシアはまだ一部の軍をキエフ近郊に残しており、後に首都に対してさらなる攻撃を行うオプションを残していると当局者たちは述べた。

前述のタウンゼントは「ロシアにやって欲しくないのは、キエフからドンバスに軍を移動させることだ。そうすれば、ロシアはより弱い立場に置かれてしまうので、ロシアは再びキエフを奪還しようとするだろう。ウクライナ政府がウクライナ軍を移動させてくるかどうか、ドンバスの上に餌をぶら下げている可能性もある」と述べた。

※ジャック・デッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障分野担当記者。ツイッターアカウントは@JackDetsch

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障分野担当記者。ツイッターアカウントは@RobbieGramer
(貼り付け終わり)
(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はウクライナ東部にロシア軍が注力する中、ウクライナ軍の抵抗も激化している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は重要拠点マリウポリが陥落すれば、ロシア側とは交渉しないと発言している。マリウポリ死守命令であり、ゼレンスキー大統領は戦争を停止することはないと宣言したようなものだ。そうした中で、ウクライナは国家を挙げて西側諸国により効果の高い武器の供与を求めている。NATO加盟の国々の中には、戦車や重火器支援を行おうとしている国も出ている。こうした支援はただ武器そのものを与えるのではなく、交換用のパーツや整備員(メカニック)も支援することであり、その輸送運搬、資金まで提供することである。
 こうした支援の程度を引き上げることで、ロシアから見れば実質的にこれらの国々はウクライナの共闘者(co-combatant)ということになる。具体的にはヨーロッパ諸国ということになるが、これらの国々は非常に危険な火遊びをしているということになる。「ロシアが攻撃してくるなんてありえない」と甘く考えて後で痛い目に遭うということはあり得る。また、こうした支援をいつまで続けられるのかということもある。武器商人たちは武器が売れて結構なことだが、売り買いということは現金が必要となる。その現金はどうやって調達するのかということになる。ウクライナに支払わせるということは無理だろうから、自国民の血税ということになる。日本でもそうだが戦争によって、一般国民の生活は苦しくなっている。エネルギー価格の高騰によって、新型コロナウイルス感染拡大で傷んだ経済に更なる打撃が加えられている。そこに戦争に巻き込まれる(自分たちが攻撃される、家族に死傷者が出る、自分の親族が所属する軍隊が派遣されるなど)ことまで加わってくる。

 日本は安全で、口先で「どんどんやれ」「いいぞいいぞ」と勇ましく述べるのは簡単だが卑怯だ。そして現実が見えていない。日本はロシアと国境を接している。日本も気を付けて対応しなければどんな事態に巻き込まれるかもわからない。ロシアも「日本はアメリカの属国で色々と大変だ、独自の行動は難しいんだろう」と忖度してくれることもあるだろうが、それは最大限善意で解釈すればの話だ。現状で日本にまで戦争を仕掛けるということはロシアの国力から考えて無理だし、アジアの平和と安定を望む中国(それによって経済成長という利益を得ている)が許さないだろう。しかし、戦争以外の方策で日本にダメージを与えようとしてくるだろう。だから日本は気を付けて行動しなければならない。

 ヨーロッパ諸国はハイエンドな(高度な)武器をウクライナに供与しようとしている。そうなれば戦争はより大規模に、より深刻に、より泥沼になっていく。ヨーロッパ諸国がウクライナ戦争のエスカレーションに踏み切れば、それはもう第三次世界大戦ということになる。

(貼り付けはじめ)

西側諸国は最終的にウクライナにとっての重要な武器を本格展開し始める(The West Finally Starts Rolling Out the Big Guns for Ukraine

-ウクライナ人の中には、これはあまりにも小さ過ぎ、かつ遅過ぎるのではないかと懸念する人もいる。

ロビー・グラマー、ジャック・デッチ、アイミー・マキノン筆

2022年4月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/04/15/tanks-heavy-weapons-ukraine-russia-nato-putin-offensive/?tpcc=recirc_latest062921

アメリカとNATOの同盟諸国は、ウクライナ軍がウクライナ東部のドンバス地方でロシア軍との大規模な戦闘に備えるため、戦車、ヘリコプター、重火器の提供を強化した。

この新しい武器供与は、戦争初期における西側のウクライナ支援からの著しい転換を意味する。当時、欧米諸国の当局者たちは、ウクライナがロシアの大規模な侵攻に対してどの程度持ちこたえられるかを確信できず、ロシアの手に落ちる可能性のある重火器を提供することに慎重になっていた。また、今回の武器供与は、対戦車ロケットなどの防御的なシステムから、戦争の重要な局面でウクライナが必要としているより攻撃的な兵器へのシフトを意味している。

チェコ共和国は今月初め思い切って水門を解放した。2月24日にロシアが侵攻を開始して以来、NATO諸国としては初めて戦車をウクライナに提供した。チェコ共和国はその他にも、ウクライナに装甲戦闘車輛と大砲システムも送った。

NATOの他の国々も、NATOの国境を越えてウクライナに高度な軍用機器を送り、チェコの動きに追随している。スロヴァキアはウクライナにS-300防空システムを送り、アメリカは水曜日に、ウクライナに8億ドル相当の軍需品を追加で供給すると発表した。その中には、MI-17ヘリコプター11機、M113装甲兵員輸送車200台、四輪駆動車ハンヴィー100台、スイッチブレード「カミカゼ」ドローン300機、重榴弾砲、数千発の砲弾、その他の軍需品が含まれている。

戦争の最初の段階では、西側諸国の政府関係者の多くが、キエフは数日のうちにロシア軍の攻撃によって陥落すると考え、生き残れるかどうか分からない政府に重火器を送ることに躊躇していた。

しかし、欧米諸国からの対戦車兵器や小火器に支えられたウクライナの強固な抵抗と、装備の不十分なロシア軍の不手際により、ウクライナ北部でのロシアの大規模な攻勢が停滞したことで状況が大きく変化した。

ウクライナへの重火器の移送は単純な話ではない。重車両や武器そのものの提供以外にも、ウクライナへの重火器の移送は、紛争地域で車両を稼働させ続けるための訓練、交換用部品、整備士など、バックアップのための大規模な物流が必要になる可能性がある。ロシアは、アメリカやNATO諸国の兵器がウクライナに輸送されるのを攻撃すると脅している。

元在ヨーロッパ米軍司令官ベン・ホッジスは次のように述べている。「戦車はただのレンタカーではない。機械化された車両や装甲車の譲渡について話すときはいつでも、交換用部品、メンテナンスパッケージ、訓練、燃料、弾薬など、彼らが作戦を継続できるようにすることも考えなければならない」。

それでも、あるアメリカ国防省高官は月曜日、複数の同盟諸国がウクライナに戦車を提供することをまだ検討中だと語った。提供する戦車のほとんどは、キエフの部隊がすでに訓練を受けているソヴィエト時代のものである。ホッジスは、「これはおそらくウクライナ人が既に慣れ親しんでいる装備なので、訓練にかかる時間は比較的短くてすむだろう」と述べた。

ウクライナの高官は、兵力も人員も不足している軍隊への更なる支援を求めている。しかし、物流の複雑さから、西側諸国の政府の中には、ウクライナへの大型重車両の移送を差し控える動きもある。

また、特にドイツの一部の政治家たちは、ウクライナ軍を重火器で強化することで、西側諸国がロシアの更なる侵略の標的になるのではないかと懸念している。この議論は、ドイツの連立与党内に亀裂を生じさせたとも報じられている。

ドイツの大手兵器メーカーであるラインメタル社は今週初め、中古のレオパード1戦車を最大50台、ウクライナに供給する用意があると語ったが、ドイツ政府はまだこの兵器移送を承認していない。ドイツ政府関係者の中には、東ヨーロッパで一般的なソヴィエト連邦後の兵器システムに精通しているウクライナ人に、西洋製の戦車を訓練するには時間がかかり過ぎると考えて、この案に難色を示す者もいる。ラインメタル社の最高経営責任者であるアルミン・パッパーガー氏は、この議論に反論し、数日で訓練が可能であると述べた。

ウクライナ側からすれば、西側諸国による新たな武器供与は歓迎すべき変化であるが、まだ十分ではないと映る。ウクライナの新旧の政府関係者たちは、戦争の決定的な新段階になると予想される事態を目前に控える状況下で、西側諸国はウクライナをより武装させるためにもっとできることがまだあると口を揃えて訴えている。

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は水曜日、「武器を追加しなければ、この戦争は終わりのない血の海になり、悲惨さと苦しみと破壊を広げるだろう」とツィートし、ロシア軍が軍事攻撃中に民間人に残虐行為を行った都市を列挙した。ゼレンスキーは「マリウポリ、ブチャ、クラマトルスク・・・、リストは続くだろう。ウクライナの重火器以外、誰もロシアを止めることはできない」とツィートした。

ウクライナ政府関係者や政府アカウントは、重火器のさらなる提供を訴えて、ソーシャルメディア上でハッシュタグ「#ArmUkraineNow」を使い始めている。

ウクライナの独立反腐敗防衛委員会の委員長であるオレナ・トレグブは、今回実施される西側からの新たな重火器提供は、数的に優勢なロシア軍との戦いでウクライナを優位に立たせるのに十分ではないと述べた。トレグブは「ウクライナは点滴を打たれて、ゆっくりと死んでいくようなものだ」と述べた。

しかし、米欧の当局者は、今回の新たな重火器提供は、ワシントンと他のヨーロッパの同盟諸国が、ウクライナがロシアの猛攻を生き残るだけでなく、攻勢に転じるのを支援する準備を始めたことを意味する、と述べている。たとえウクライナが不十分だと考えていても、重火器の供与はウクライナの軍事的成功に不可欠であることが証明されるだろうというのがその主張だ。

リトアニアのアルビダス・アヌサウスカス国防相は、「西ヨーロッパ諸国は、この戦争に勝つためにウクライナを支援するためにできる限りのことをしており、この支援は量的にも質的にも増大する一方だ」と、本紙『フォーリン・ポリシー』誌に語っている。

ウクライナからは戦車に対する欲求が高まっており、そして西側諸国が戦車をもっと送るよう圧力をかけている。それは、ウクライナ東部のドンバス地方が平坦な戦場で、戦車の操縦がしやすいことも要因となっている。

ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所のフランツ・ステファン・ガディ研究員は次のように語っている。「ウクライナ東部の大部分は、いわゆる“戦車の国”で、機械化戦争に理想的な平らなオープングラウンドだ。そのため、ウクライナはこの戦いにとどまり、ロシア軍を足止めし、最終的に機会を捉えて反撃するために、主力戦車、歩兵戦闘車、中距離防空システム、徘徊型兵器(訳者註:攻撃型無人航空機)などを必要としている。ウクライナ軍の重要な課題は、優れたロシア軍の火力を前にして、いかに大規模な複合武器作戦を行うかである」。

アメリカは、ウクライナへの最新の武器提供について、ウクライナの広範な希望リストのいくつかのボックスにチェックをつけ始めている。米国防総省の高官は、国防総省が定めた基本規則に基づき匿名を条件に取材に応じ、ウクライナの訓練生たちが東ヨーロッパのNATO加盟諸国で榴弾砲や対砲台レーダーなどの新システムの使い方の訓練を受ける計画が進行中であると述べた。

また、ヨーロッパのNATO諸国がウクライナに軍備を移転する際にも、アメリカは重要な後ろ盾となっている。スロヴァキアがS-300防空システムをウクライナに送った後、アメリカはスロヴァキアにパトリオットミサイル防衛システムの1つを配備し、空白を埋めた。また、アメリカは今月初めにポーランドと大規模な武器取引に調印し、ポーランド軍に250台のエイブラムス戦車を供給することになった。

専門家の中には、米国はさらに踏み込んで、ポーランドなどのNATO加盟諸国がウクライナにミグ戦闘機を譲渡する際に、旧式のF16戦闘機の空軍への補充を提案することで支援すべきだと主張する者もいる。一部の同盟諸国はこの旧式のミグ戦闘機の譲渡に難色を示しており、訓練や兵站を考慮すると複雑化する可能性がある。スロヴァキアはミグ戦闘機のウクライナへの移送を検討していると言われている。

前述の元在ヨーロッパ米軍司令官ホッジスは、こうした軍事支援がロシアとNATO諸国との間の紛争の引き金になるという西側諸国の懸念は誇張されすぎており、ワシントンはウクライナへの武器供与をさらに強化する必要があると主張した。

ホッジスは「私たちはリスクを誇張してきたし、ロシアもそれを知っている。世界史上最も強力な同盟が命がけで戦っている国に25年前の旧式の航空機を提供することにロシア派怯えているのである」と述べている。

ホッジスは更に「もし我々が民主政治体制にとっての兵器庫(the arsenal of democracy)であるならば、民主政治体制にとっての兵器庫として、ドアを開け、ウクライナ人が必要とするものをすべて持ち出そう」と述べた。

この議論は、ロシアがキエフ郊外から撤退した後に再編成し、ウクライナ軍がウクライナ東部の支配をめぐる新たな戦いに直面するためにできる限りの火力を結集している、戦争の重大な局面で行われている。米国防総省当局によると、ロシアはウクライナ東部のドネツク市の南に大砲部隊を配置している。今週初めに公開されたイギリスの国防情報報告書は、クレムリンがドンバスの主要人口拠点に対する空爆を強化すると予測しており、主要鉄道拠点であり、先週のロシアの弾道ミサイル攻撃で59人が亡くなったクラマトスクなどにも空爆を行うと分析している。

セントアンドリュース大学のフィリップス・オブライエン教授(戦略研究専攻)は、「ウクライナはドンバス地方においてロシア軍の重火砲に対してより脆弱となる可能性がある。ウクライナ軍がロシア軍に対して町や都市での戦いを強いるのではなく、より広い場所で争おうとすればロシア軍の重火砲の攻撃に晒されることになる」と指摘した。オブライエンは更に「個人的には、ウクライナに航空戦力を与えるために、防空システムとUAV‘(訳者註:ドローン)から始めるのが良いと考える。長距離砲も非常に有効となるだろう」と述べた。

西側諸国からの武器提供が増大すれば、ロシアがウクライナ東部で攻勢を維持することが難しくなる可能性がある。西側諸国は、クレムリンが5月9日のナチス・ドイツに対するロシアの第二次世界大戦の勝利を記念する祝日に向け、自軍に大きな戦果を挙げることを切望していると考えている。専門家たちは、ロシアは戦争開始後1カ月で大きな損失を被った後、支援歩兵の不足とドンバスでの前進の鈍化によってロシアは困難に直面するだろうと見ている。

前述の国際戦略研究所のフランツ・ステファン・ガディ研究員は、「確かに、攻勢が永遠に続くことはない。私の推測では、ロシアにはこの戦いを6月まで続ける力はないだろう。だから、ウクライナに対してそれまでに何かを与えなければならないということになる」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争が始まってからの重要なポイントとしてNATOによるウクライナ上空の飛行禁止区域(no fly zone)設定がある。飛行禁止区域とは指定された空域で特定の軍隊の航空機の活動を禁止するもので、これに反して飛行すれば撃墜するというものだ。ウクライナ軍は初期段階で航空戦においてロシア軍に負けており、飛行禁止区域をNATOに設定してもらって劣勢を挽回したいと考えていた。それは今も変わらない。しかし、アメリカをはじめとする西側諸国は飛行禁止区域設定に反対している。それは、飛行禁止区域を設定すればその空域を飛行するロシア軍機を撃墜しなければならなくなるからだ。撃墜しなければこのような措置の効果はないので設定する意味はない。しかし、設定してしまうと、空域を飛行するロシア軍機を撃墜しなければならなくなり、それはおそらくアメリカ軍が中心となるであろうNATO軍がロシア軍と直接戦火を交えることになるのだ。

 ウクライナとしては戦争当初から飛行禁止区域設定を要求し続けてきた。ロシア軍が東部に注力するという転換を行った今でもできることならば飛行禁止区域設定を要求したいところだろう。しかし、そうならばアメリカ軍がロシア軍と直接戦闘することになり、それが結果としてどこまでエスカレートするか分からない。核ミサイルを米露間で撃ち合うということになればウクライナだけの問題では済まなくなる。アメリカとしては自分たちが一兵も死なせることなく、戦争が長く続いてアメリカ製の武器がどんどん売れればこんなにおいしいことはない。だから直接戦闘に関与することだけは回避している。この点で国際関係論の専門家たちのほぼ一致したコンセンサスとアメリカ政府の姿勢は同じということになる。

 ウクライナ側もそれが分かってきているので「もっと武器を、もっと武器を」という要求をより声高に行うようになっている。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は焦土作戦を展開しようとしているのではないかと疑いたくなる。これがウクライナ国民の生命と財産にどれほどのダメージを与えるのかということを考えると、それはあまりにも悲惨なことであり、かつ欧米の軍需産業を超え太らせる、軍産複合体に膨大な資金を流すことにつながることだ。そして、その原資は西側先進諸国に住む一般国民の血税である。

ヨーロッパ諸国はロシアからの天然資源輸入に依存し続けている。経済制裁と言いながら、自分たちがロシアからの天然資源輸入の代金支払いに関しては例外事項にしている。ロシアに流れるヨーロッパ諸国の資金がロシア軍の軍費になってウクライナ攻撃に使われているということになる。綺麗ごとをいくら述べても、御身大切、自分が一番大事ということになる。一時的に正義に酔って感情的になることは仕方がないことではあるが、冷静にかつ現状で最善の方法を模索し続けることが大人の態度だ。

(貼り付けはじめ)

調査:専門家たちがウクライナでの飛行禁止区域設定に反対(Poll: Experts Oppose No-Fly Zone Over Ukraine

-国際関係論の学者たちの大多数がアメリカの航空パワーの関与は制御不能なエスカレーションを引き起こす危険性があると述べている。バイデンと彼のアドバイザーも同意見だ。

イレイン・エントリンジャー、ライアン・パワーズ、スーザン・ピーターソン、マイケル・J・ターニー筆

2022年3月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/16/poll-no-fly-zone-ukraine-zelensky-speech-biden/

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、ウクライナの大義のために広く共感を集めている。ロシアの侵攻に直面したウクライナを率いる彼の勇気は、ウィンストン・チャーチルやジョージ・ワシントンといった人物と比較されるほどだ。水曜日、ゼレンスキーはヴィデオ映像を通じてアメリカ連邦議会の合同会議に出席し、アメリカとNATOに対し、「ウクライナの上空を閉鎖し」、飛行禁止区域を実施するよう、今やおなじみの嘆願を繰り返した。

2022年2月24日のロシアの侵攻直後の世論調査では、ウクライナにおけるロシアの更なる空爆を制限するためにアメリカの空軍力を使用することをアメリカ国民が強く支持していることが分かった。このところ、この政策に対する国民の支持はやや低下しているが、一部の連邦議員たちは依然として飛行禁止区域の設定と実施を主張している。ロシアと国境を接するエストニアは月曜日、飛行禁止区域の設置を求める決議をNATO加盟国として初めて自国の議会で採択した。

こうした要求にもかかわらず、バイデン米大統領と補佐官たちは、NATOによるウクライナ上空の飛行禁止区域の設定を一貫して拒否している。彼らは、この政策によってアメリカ軍とロシア軍の直接戦闘にまで発展し、制御不能なエスカレーションを招く危険性があると主張している。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は2022年3月3日、「まさに私たちが避けたいステップ」だと述べた。先週金曜日、バイデンはこの考えを強調した。「私たちはウクライナでロシアと戦争するつもりはない。NATOとロシアが直接対決することは第三次世界大戦であり、我々はそれを防ぐ努力をしなければならない」と述べた。

国際関係論(International RelationsIR)の専門家たちの圧倒的多数はバイデンに同意している。ウィリアム・アンド・メアリー大学グローバル・インスティテュートのティーチング、リサーチ、アンド、インターナショナル・ポリシープロジェクトは、アメリカ国内の大学やカレッジの国際関係論研究者たちに、ウクライナ上空に飛行禁止区域とするためにアメリカの空軍力を行使することについての見解を求めた。以下に報告する結果は、3月10日から14日の間に調査対象となった866人の回答者の回答に基づいている。

これらの専門家のほぼ全員が、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定、実施することに反対している。ウクライナやNATO諸国に対するロシアの核攻撃の可能性など、エスカレーションのリスクを高めることを懸念し、アメリカによる飛行禁止区域の設定に否定的だ。

●国際関係論の専門家たちは飛行禁止区域設定に「ノー」と答えた(IR experts say “no” to a no-fly zone

ロシアによるウクライナ侵攻に対して、アメリカはウクライナ上空に飛行禁止区域を設定することで対応すべきか、という質問に対しては、わずか7%の回答者が「そう思う」と回答した。ロシア政府とその指導者に対する制裁、ウクライナ難民のアメリカへの再定住、ウクライナへの軍事物資の送付、ロシアからの石油と天然ガス購入の禁止、ウクライナへの軍事力の増強など、その他のアメリカの政策対応について、多くの専門家たちが支持している。

飛行禁止区域よりも人気のないアメリカの政策対応は、ロシア軍に対するより一般的な軍事作戦だけであった。ロシア軍に対するサイバー攻撃への支持もかなり低く、わずか29%であった。全体としてこのメッセージは明確である。国際関係論の専門家たちは概して、ロシアがエスカレートしていると見なす可能性のあるアメリカの政策対応を支持したくないということである。

irscholarsnonflyzonepoll511

これまでの約20年間、ティーチング、リサーチ、アンド、インターナショナル・ポリシープロジェクトは国際関係論の専門家たちを対象にして調査を実施してきた。その中で、重大な結果をもたらす現代の政策問題についてこれほど結果が一致したものはこれまでなかった。アメリカによる飛行禁止区域設定に対する圧倒的な反対は、学問的地位、性別、理論的枠組み、専門地域、専門分野に関係なく維持されている。

国際関係論の専門家たちの回答は、飛行禁止区域を広く超党派で支持しているアメリカ国民の世論調査の結果とは反対の内容となっている。3月3日、4日に実施されたロイター通信・イプソス社の共同世論調査の結果では、74%がウクライナ上空の飛行禁止区域設定を支持すると答えている。3月8日から11日にかけて行われたCBSニューズ・YouGovの共同世論調査の結果では、59%の人が飛行禁止区域設定を支持すると答え、41%が反対と答えた。

しかし、最近の調査では、一般市民は飛行禁止区域を支持しながらも、その内容を理解していない可能性があることも示唆されている。3月5日から8日にかけて行われた『エコノミスト』誌・YouGovの世論調査の結果では、アメリカ国民の40%がウクライナ上空の飛行禁止区域の設定に賛成したが、ウクライナ上空のロシア航空機の撃墜には31%しか賛成していないことが明らかになった。飛行禁止区域を設定すれば、NATOがロシア軍機やロシアの防空システムを攻撃することはほぼ間違いなく起きるものだ。

一方、アメリカの政策立案者の中にも、飛行禁止区域を求める世論に同調する人物たちがいる。ロジャー・ウィッカー連邦上院議員やアダム・キンジンガー連邦下院議員(いずれも共和党)は飛行禁止区域設定を支持し、リンゼー・グラハム連邦上院議員はロシアがウクライナで化学兵器を使用した場合に飛行禁止区域設定を支持すると述べた。3月8日には、元外交官や外交政策分野の大物27名が、人道的回廊を保護するために限定的な飛行禁止区域を設けることを求める公開書簡を発表した。一方で、別の書簡では、飛行禁止区域の設定に反対しており、それには78名が署名している。

ウクライナ上空の飛行禁止区域をめぐっては、外交専門家の間でも意見が分かれている印象を与えているが、今回の国際関係論の専門家たちを対象にした調査では、より多くの国際関係論の専門家たちを対象にした調査の結果では飛行禁止区域は望ましくないという圧倒的なコンセンサスが得られている。

●飛行禁止区域はどのような結果をもたらすのだろうか?(What are the potential consequences of a no-fly zone?

国際関係論の専門家たちは、アメリカがウクライナ上空を飛行禁止区域にすることにどういう理由で反対しているのか? 今回の調査で得られた回答から、専門家たちはこのような政策がエスカレートする危険性を懸念していることが分かる。仮に米国が飛行禁止区域を設定するとすれば、それはほぼ間違いなくNATOのパートナー諸国とともに行われるであろう。回答者には、NATOが飛行禁止区域を設定した場合、ロシアがどのような戦術的対応をとるかを考えてもらった。その結果、特にウクライナやNATO諸国に対するロシアの核攻撃のリスクが大幅に高まると判断された。

回答者たちはまず、NATOがウクライナ上空に飛行禁止区域を設定しないと仮定した場合、ロシアが今後30日以内にウクライナやNATOの目標に対して様々な戦術を取る可能性について質問された。次に、これらの専門家に、NATOが直ちに飛行禁止区域を設定し、実施した場合を考え、ロシアが同じ戦術を採用する可能性を推定するよう求めた。その結果、驚くべき結果が明らかになった。

irscholarsnonflyzonepoll512

国際関係論の専門家たちは、飛行禁止区域を設定すれば、ロシアがウクライナ人に対する化学・生物兵器の使用からNATO諸国に対する核兵器の使用まで、私たちが質問したほぼ全ての軍事的エスカレーション戦術を用いる確率が高まると推定している。最も大きな違いは、NATO諸国に対する通常兵器の使用に関する予想である。回答者たちは、ウクライナ上空を飛行禁止区域とした場合、ロシアとNATOが通常兵器で対立する確率は23%から64%へとほぼ3倍になると答えている。

国際政治に最も大きな影響を与えるのは、ロシアが大量破壊兵器を使用する確率に関するものだ。NATOがウクライナ上空に飛行禁止区域を設定した場合、ウクライナやNATO諸国に対する化学兵器、生物兵器、核兵器の使用確率が高くなると国際関係論の専門家たちは予想している。このような兵器の使用は、戦争がウクライナの国境を越えて拡大する可能性を高めることになる。

回答者たちは、飛行禁止区域が設定されれば、ロシアによるNATO諸国への核攻撃のリスクは9%から22%へと実質的に倍増すると判断している。飛行禁止区域がウクライナに対する核攻撃の可能性に及ぼす影響は小さく、19%から 27%に増加すると推定された。これは主に、回答者が高いベースラインから出発したためである。

ロシアがウクライナの人口密集地に対して大規模かつ意図的な通常攻撃を行う場合、飛行禁止区域がエスカレートのリスクを高めると国際関係論の専門家たちが推定しなかった唯一のケースとなった。NATOが飛行禁止区域を設定するか否かにかかわらず、回答者たちはこのような事態が起こりうると判断しているが、これはおそらく、多くの学者がロシアは既にこのような戦術をとっていると想定しているためであろう。決定的ではないが、この結果は、NATOによる飛行禁止区域がロシアによる民間人への攻撃を効果的に防ぐとは専門家たちが考えていないことを示唆している。

ティーチング、リサーチ、アンド、インターナショナル・ポリシープロジェクトの調査結果では、飛行禁止区域に反対する国際関係論の専門家たちが発表した最近の公式声明が、アメリカの専門家集団の圧倒的なコンセンサスを反映していることを強く示唆している。

また、ティーチング、リサーチ、アンド、インターナショナル・ポリシープロジェクトの調査結果を受けて、その理由を説明したいと回答した専門家数名に、Eメールによるフォローアップを行った。ブラウン大学上級講師のニーナ・タネンワルドは、飛行禁止区域は大国間の戦争を引き起こす危険性があるという議論に歴史的な背景を使って説明した。「これはアメリカ軍とロシア軍の直接戦闘を意味する。冷戦時代には、核兵器の使用に発展しかねない極めて危険な状況であったため、私たちはこれを強く避けてきた」と彼女は書いている。

国際関係論の専門家たちはウクライナの危機の大きさを認めながらも、解決策としての飛行禁止区域を否定している。ミネソタ大学のタニシャ・ファザール教授は次のように書いている。「助けたいと思うのは自然な衝動である。しかし、飛行禁止区域がもたらす結果は、ウクライナの近隣諸国にとって悲惨なものであり、ウクライナ自身にとってもさらに悲惨なものとなりかねない。核武装した大国同士の直接対決は避けるべきだ」。

武力紛争を研究する国際関係論の専門家たちも、飛行禁止区域の有効性に疑問を呈している。ウェルズリー大学のステイシー・ゴダード教授は次のように書いている。「そうすることで民間人が狙われなくなるなら、エスカレーションのリスクを取る価値があるかもしれないが、そうはならない。ロシアは民間人を攻撃するために、航空戦力ではなく、主に大砲、巡航ミサイル、弾道ミサイルに頼っているので、飛行禁止区域も効果がないのだ」。

最後に、ハーヴァード大学ケネディ・スクールのエリカ・チェノウェス教授は、このような政策の法的位置づけと政治的効果について説明するために次のように書いている。「飛行禁止区域は“違法”に設定されなければならない。ロシアは国連安全保障理事会での拒否権を行使して、そのような措置を認める決議を阻止するだろうし、理事会を無効化すれば、他の国連加盟国によるロシアの侵略に対する圧倒的な非難を弱めることになる」。

戦費が増大し、ロシアが戦場で目立った前進を見せれば、アメリカの内外でウクライナ上空の飛行禁止区域を求める声が高まるのはほぼ間違いない。しかし、国際関係論と安全保障の専門家たちは、アメリカとNATOの同盟諸国は、ウクライナ上空のロシア航空機やウクライナ、ロシア、ベラルーシのロシア対空戦闘システムと直接交戦し、第三次世界大戦のリスクを避けるべきだという見解で、驚くほど一致している。彼らの専門知識は、ウクライナの地上情勢が悪化しても、飛行禁止区域への反対を揺るがすことはなさそうだ。

イレイン・エントリンジャー:ウィリアム・アンド・メアリー大学のティーチング、リサーチ、アンド、インターナショナル・ポリシープロジェクトのプロジェクト・マネジャー。ツイッターアカウント:@EntringerIrene

※ライアン・パワーズ:ジョージア大学公共・国際問題大学院助教授。ツイッターアカウント:@rmpowers

※スーザン・ピーターソン:ウィリアム・アンド・メアリー大学政治学部長兼ウェンディ・エメリー記念政治学・国際関係論教授。

※マイケル・J・ターニー:ウィリアム・アンド・メアリー大学グローバル・リサーチ・インスティテュート部長兼ジョージ・メリー・ヒルトン記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@MikeTierneyIR

(貼り付け終わり)

(終わり)


bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ