古村治彦です。


 今回は、楠木誠一郎著『石原莞爾 「満洲国」建国を演出した陸軍参謀』(PHP研究所、2002年)を皆様にご紹介します。

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石原莞爾

 この本を手に取ったのは全くの偶然で、本を処分したいという友人から貰ってきたたくさんの本の中にあった一冊です。石原莞爾については、「満州事変を画策し、満州国建国を実現した人物」「世界最終戦論、日米による世界戦争を目指し、そのために日本がアジアを主導することを目指した異色の軍人」ということしか知りませんでした。


 この本は、石原莞爾が小説仕立てになっており、1928年に関東軍参謀になって以降、特に1931年から1932年の満州事変のほとんどのページを割いています。石原の人生のハイライトが満州事変から満州国建国にあるのでこれは当然のことと言えましょう。


 私は、デモクラシーを信奉する人間として、そして政治学を勉強した人間として、石原莞爾の行動を容認することはできません。どのような思想や考えを持つのも個人として自由ですが、軍人として武力を持って人間が、国家の掣肘を離れて、独自の考えで行動するのは許されません。また、文中にも出てくるのですが、彼は何かあると「統帥権干犯」を持ち出しますが、自分が行っていることが統帥権干犯、命令不服従であるという意識はありません。

 英雄譚を喜んで読むのは楽しいことだし、大きな構想を持つ人間には魅力を感じます。しかし、その手段が間違っていたということについては批判を加えねばなりません。軍人は政治に興味を持つべきではないし、その点で周囲から見て「そこまでやらなくても」というくらいに自制をしなければならないと考えます。現在でもこれは変わらないと思います。これは親族から数名の帝国軍人将官を出した人間としてもそう思います。

何か大きな発見があるとか、新しい解釈がこの本でなされているのではありません。主要な登場人物である板垣征四郎や本庄繁との会話でストーリーが進められ、その合間にト書きのようにその時の状況やが書かれています。そして、著者の楠木が忖度したのであろう感情(怒りや喜び、諦観など)が書き連ねてあります。その点で、この本は小説と言うことができます。しかし、美文調でもなく、また吉村昭のような徹底的な記録文学という訳でもない、中途半端さもまた感じられてしまいます。


それでも読者は様々な理由で本を読みます。満州事変についてとってりばやく知りたい人、難しい言い回しや無味乾燥な歴史書が苦手な人たちにとっては読みやすいし、小説仕立てになっていることで大まかなところを掴むためには手ごろだと思います。

(終わり)