ダニエル・シュルマン
講談社
2015-10-28



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 アメリカの外交誌『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された、日本の謝罪についての記事を皆様にご紹介します。

 

 私がつまらないことを書くよりも、是非すぐにお読みいただければと思います。

 

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戦時中の行動について日本が謝罪するかどうかが問題であろうか?(Does It Matter Whether Japan Says Sorry for Its Wartime Behavior?

―安倍晋三首相は第二次世界大戦における日本の侵略について重要な演説を行おうとしている。しかし、東京では歴史が歴史として受け止められていない

 

デニー・ロヤウガスト筆

2015年8月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/08/13/does-it-matter-whether-japan-says-sorry-for-its-wartime-behavior-shinzo-abe-world-war-2-china-south-korea/

 

 

どれほどの謝罪をすれば十分なのか?2015年4月、日本の首相安倍晋三は日本のテレビ番組に出演し、日本の過去の行動に関する過去の謝罪の基になっている「基本的な考え」は踏襲するとしながらも、「謝罪を繰り返す必要はない」と述べた。当然のことながら、この発言に対して中国と韓国の国民の多くは激怒した。彼らの親族や祖父母たちは、戦時中の日本の犯した過ちの犠牲となり、怒りを感じていた。2015年8月14日に第二次世界大戦がアジアで集結して70周年を記念する演説を安倍首相が行うことが予想されている。その前日、『フィナンシャル・タイムズ』紙は、安倍首相が「個人的には気に入らない言葉遣いではあるが、歴代首相が使ってきた言葉に極めて近い言葉を使って演説を行う可能性が高い」と報じた。中国と韓国、それぞれとの関係が悪化している中で、安倍は彼が基盤としている保守派と怒りを募らせている東アジアの近隣諸国との間で板挟みとなっている。

 

 中国と韓国に対して謝罪をすることの重要性は理解されている。両国は20世紀の日本の侵略の下で苦しんだ。日本政府は1895年から1945年の太平洋戦争終結まで朝鮮半島を支配した。この時期を朝鮮半島の人々は暴力的で、収奪的な暴政が行われた時期として記憶している。1920年代から、日本は中国東北部を植民地化し、1937年には中国の中心部に侵略した。その結果、数百万の中国人が亡くなり、日本軍は多くの暴虐を行った。特に、日本軍は数千の朝鮮と中国の女性たちを強制的に性的な奴隷労働に従事させた。こうした人々は「慰安婦」と呼ばれた。韓国人と中国人は今でも日本軍の行為に対して深い怒りを持っている。韓国と中国の人々は、アメリカが最近、過去の悪行を頑固に反省しない日本をアジア地域における、より積極的な戦略的アクターに仕立てようとしている動きに対して不快の念を持っている。

 

 日本が抱える歴史問題に関して言うと、部分的には1945年から1952年にかけてのアメリカによって占領されていた時期のアメリカの政策に一貫性を欠いていたことが原因となっている。ダグラス・マッカーサー大将の下でアメリカに占領されていた時期、アメリカの占領政府は、日本社会は戦時中の政治的な抑圧にうんざりし、祖国に災いをもたらした愛国主義的主戦論に幻滅していることを発見した。しかしながら、日本国内の保守派のエリートたちは、社会の安定性を維持し、国家の誇りを取り戻し、天皇崇拝のような伝統を維持することが日本の復興の基礎になると確信していた。

 

 占領当局は当初、政治的な自由化に集中した。アメリカは日本に市民の自由を導入した。そして、貧困者救済プログラム、女性の地位の向上、国家と宗教の分離、財閥の解体、労働組合結成の権利の保証、高質を中心とする国家主義的な要素を教育から排除することを通じて、民主的な公民文化を促進し

 

 アメリカとソ連の関係が悪化し続けていた1948年に、アメリカの占領当局は、日本を冷戦におけるアメリカの同盟国として強化する方向に転換した。財閥解体は中止され、新法によって経済に対する国家の統制は強化され、アメリカ政府は日本の戦時中の政府の要人たちの数人を表舞台に復帰させた。安倍の祖父、岸信介は戦時中、商工大臣だったが、戦争犯罪の容疑で収監されていた。彼は刑務所から出て10年もしないうちに首相の地位にまで登りつめた。

 

 アメリカの占領当局は不完全な革命を推進した。アメリカは日本に自由な報道システムと反軍事的な教育システムを設立した。しかし、保守主義者たちを権力の座に残した。そのため、日本はイデオロギー的に分裂し、左派と右派の間で長年にわたり争いが続いた。平和主義の諸原理と戦時中の行為の反省を主張し、アメリカとの同盟関係に反対していた日本社会党からの強力な挑戦に対抗するために、保守政党2党は1955年に合併し、自由民主党、つまり自民党を結成した。自民党は、日本の戦時中の歴史に関する修正主義者の避難所になっている。この自民党がずっと日本政治を支配している。結党以来、4年を除いて、国会の過半数を占め続けている。

 

 今日、自民党所属の国会議員のほとんどと安倍内閣の閣僚の大多数は、日本会議に加入している。日本会議は超国家主義者たちのグループであり、第二次世界大戦における慰安婦の役割と日本の犯罪について修正主義的な立場を取っている。日本の保守派は、彼らが「自虐的な(masochistic)」歴史と呼ぶものを非難している。彼らは、日本は戦争に負けただけなのに、不当に非難を浴びていると主張している。戦時中の日本政府の行動は、実際には西洋諸国の植民地主義からアジアを解放するためのものであったが、日本の敵たちは戦時中の暴虐を誇張したり、でっち上げたりしていると主張している。

 

 これまで保守派からの抵抗もあったが、日本の重要な地位にある人々は、外国からの圧力を受けて、複数回にわたり、戦時中の日本の侵略と暴虐について謝罪をしてきた。過去の謝罪で重要なものは2つある。1つは1993年に官房長官であった河野洋平が行った謝罪と1995年に首相であった村山富市が行った謝罪である。これらは安倍の演説に対する評価の基準となっている。河野談話は、「自分の意思に反して」慰安婦となることを矯正された人々に対する「心からの謝罪と反省」を表明した。しかし、河野は、女性たちの誘拐について、日本政府ではなく、「民間の業者」に責任があるとした。村山談話では、日本の「植民地支配と侵略」を認め、そのためにアジア地域に対して「多大な被害と苦しみ」を与えたと明記した。これについて、村山は「深い後悔」を感じ、「心からの謝罪」を行った。「侵略」という言葉を使用することは、日本の謝罪において重要であり、日本の植民地支配の下での苦しみに言及することは朝鮮の人々にとって重要だ。

 

 こうした主要な表現を繰り返すことは、歴代の首相にとって基準となった。しかし、この自分に鞭打つような態度に対して、国内の人々の中で怒りを持っている人たちがいる。日本の保守派は繰り返し、日本を批判する人々に対していくら謝罪をしても許してもらえないのだ、と不平を漏らしている。日本側が謝罪をしたとしても、2012年に起きた日中関係の急激な悪化を止めることが出来なかった。

 

 しかし、第二次世界大戦中の日本の行動が、東アジアにおいて戦略的な転換をしようとする際に、日本の足かせとなっている。共に民主国家である日本と中国は中国の地域支配を恐れている。しかし、韓国民の多くが日本とのより深い防衛関係の構築に反対している。韓国の朴槿恵大統領と安倍首相はこれまで2人だけで首脳会談を行っていない。中国政府は歴史問題を利用して、米韓と日本を分裂させようとしている。歴史問題が存在することで、中国政府は日本が地域の指導者となることに不適格だと主張し続ける機会を得ている。更に、中国は軍事志向の外交政策を採用し、それによって近隣諸国は不安を覚え、国家安全保障の面での協力関係を構築しようとしている。中国政府は日本の歴史問題を利用し、こうした状況から人々の関心をそらすことが出来る。日本叩きを行うことで、中国の国家主席である習近平は、中国国民のナショナリスティックな感情を背景にして、国内において強力な指導者として自分の正統性を強化している。

 

 アメリカにとって、安倍の主張は痛しかゆしのところがある。アメリカ政府は、長年にわたり、日本政府に対して集団的自衛の原理を採用するに求めてきた。これによって、っク最適な紛争において、日本の自衛隊がアメリカ軍と一緒になって戦うことができるようになる。これまでは日本に対する防衛のみであったが、それを越えることになる。2014年7月、安倍内閣は日本国憲法の新解釈を採用し、これによって、日本は同盟国の防衛を援助できるようになった。この安全保障に関する姿勢を明文化した2つの法案が最近衆議院を通過した。参議院で否決されてもそれを覆せるだけの議席数を安倍の率いる自民党は有している。アメリカ政府は集団的自衛の実施を歓迎しているが、安倍が進めるプログラムに付随している歴史修正主義はアメリカ政府の頭痛の種となっている。韓国の国民は日本の集団的自衛に関して反対している。歴史問題の激化はアメリカ政府を更に困難な立場に置いてしまう。米中間の緊張に対処することがより困難になってしまう。日本の再軍備に対して、中国はアメリカ政府に対して苦情を申し立てている。日本の再軍備は、安倍のような歴史修正主義者の政権の下で行われていることが、これは中国政府にとってより脅威となっている。

 

 しかし、お先真っ暗と言うことでもない。韓国メディアの中には日本に対して激しく怒りを持って報道をしているものもあるが、朴槿恵は歴史問題をもっと重視することはないと述べている。中国政府は経済状況が減速している中で、日中間の経済関係を再び重視する動きが出ているように見える。習近平と安倍が9月初めに首脳会談を行う可能性がある。

 

 日韓関係、日中関係はそれぞれ継続的に回復させるためには、安倍は少なくとも河野談話と村山談話の主要なポイントを再確認する必要がある。そしてできるならば、日本にとってより居心地の良い国際環境ができることの方が日本にとって利益になり、それによっていくら保守派を怒らせることになっても、それを正当化することが出来るのである。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23