古村治彦です。
今回は人民元の世界通貨への道筋に関する記事をご紹介します。世界の主要通貨は米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円だそうで、それに中国人民元が加わるかどうかがこれから数年の動きだそうです。そのためには為替市場による決定とIMFの特別引出権を構成する通貨となることが重要で、中国はそれに向けて努力しているので、それを認めていくことが全員の利益になるということです。
中国の平和台頭と協調社会への動きはこれからも進んでいくでしょうから、それを日本も自国の利益とするように動いて行かねばなりません。「キライキライ」と言っているだけで済んだ時代はもう終わりました。それが現実的な大人の態度と言うものでしょう。
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人民元の世界通貨への道筋をつけるべきだ(Make Way for the RMB)
―IMFが中国を自陣営に留めたいと望むなら、中国の通貨・人民元をより自由市場による為替決定システムに委ねようとしている中国政府に対して報酬を与えるべきで、そのタイミングは今だ
パオラ・サバッチ(Paola Subacchi)筆
2015年6月16日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2015/06/16/make-way-for-the-rmb-china-reserve-currency-imf-sdr-dollar/?utm_content=buffer42919&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer
人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(Special Drawing Rights)の価値を決定する世界の主要通貨のバスケットに参加するだろうか?中国の通貨・人民元を含むかどうかの決定は、G7諸国にかかっている。これらの国々はIMFにおいて強い影響力を保持している。彼ら自身が自分たちにとって利益になることが分かっているならば、人民元を含むことに賛成するだろう。
これは深い政治的な意図をもった技術的な決定である。人民元がドル、ユーロ、ポンド、円と並んで国際的な主要準備通貨になるための道筋を開くことになる。IMFのクリスティーン・ラガルド専務理事は今年3月、「人民元が国際的な準備通貨になるのは可能性の問題ではなく、その時期の問題になっている」と発言した。今年、もしくは2020年、IMFは特別引出権バスケットの構成を見直す予定である。
現在のところ、人民元をこのバスケットに含むことをためらう理由は存在しない。今年、もしくは少なくとも2016年に人民元をバスケットに含むことで、中国に対して、国際的な通貨・金融共同体において中国が歓迎され、信頼されているのだというメッセージを送ることになる。このメッセージは全ての国々に利益をもたらす。
G7蔵相会議が今月初めにドレスデンで開催された。この時、特別引出権バスケットへの人民元の包含が政治的な理由からどれほど望ましいことであっても、人民元の技術的な評価は、最終決定においてきわめて重要であるという見解を示した。「自由な使用性」のような技術的な基準が評価の基礎になる場合、人民元は含まれない可能性もある。「自由な使用性」とはIMFの専門用語で、ある通貨が世界中のどこでも使えて、両替できるかということである。ドルと違い、中国の通貨・人民元は完全に両替可能な通貨ではない。中国の銀行においては使用者が望むだけの両替ができない通貨なのである。従って、国際的な市場では使いにくい通貨となってしまっている。
IMFは、より有効なアプローチは「国際的な通貨システムにおいてより広範な役割を果たす可能性」を評価し、最近の状況と共に将来に発展について考慮することだと述べている。2010年にIMFは最新の特別引出権の評価を行った。それ以降、中国はいくつかの政策手段を通じて、人民元の国際化を推進した。それらの政策手段の1つとして、中国は香港、ロンドン、シンガポールにおいて人民元決済銀行を設立した。
結果として、中国の総貿易の20%以上が人民元で決済されている。5年前にはこの数字はゼロであった。更に言えば、人民元は、ドル、ユーロ、円、英ポンドに続いて現在世界で5番目に国際的な支払いにおいて使用されている通貨である。準備通貨として人民元を保有する中央銀行と公的機関の数もまた拡大している。投資銀行の総保有資産の0.5から1%は人民元で構成されていると推定されている。非中国・人民元建て建債券の発行高は2010年から2014年までの間に1200億ドルにまで増加したと推定されている。それでも人民元建て債券の発行額は主要通貨建てよりも少ない。
中国の中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁は4月にワシントンを訪問した。この時、周総裁は「人民元の世界での使用を促進する更なる手段は計画中である」と発言した。より大きな為替率の柔軟性が達成されつつあるが、より大きな柔軟性は、中国当局が経済をより国内需要に集中するという再編を行うことで達成されるだろう。その結果、為替率は管理システムから市場が決定するシステムへと移行するだろう。
今年5月、IMFは人民元が安値ではないと発表し、中国の通貨当局が為替率管理のための介入を減らしていると認めた。対照的に、2010年の段階では、IMFは人民元が安値であると評価し、アメリカ連邦議会は中国の通貨捜査について懸念を持っていた。
IMFは人民元を巡る数々の進歩を認めてはいるが、特別引出権バスケットから人民元を排除するかどうかははっきりしない。議論が続いている分野は資本勘定自由化だ。中国当局は資本の流れは促進されるべきだが、予想外の望ましくないそして過剰な出来事を抑えるためにも、しっかりと監視されるべきだという姿勢を崩していない。これは中国式の資本勘定自由化であり、これを周総裁は「管理された自由化」と表現した。IMFの理事会が「管理された自由化」は、通貨の「完全な使用性」を制限することだと決定するならば、「管理された自由化」は人民元の世界通貨への道筋における障害物となる可能性はある。
両替のしにくさがネックになって人民元が特別引出権バスケットに含まれない可能性があるにしても、最終決定は政治判断によるものと思われる。中国は人民元の承認と特別引出権バスケットへの包含が行われると期待している。そして、これによって中国の通貨は、国際通貨としての承認を得ることになる。ここで重要なのは、人民元が国際金融において力と影響力を持つということだ。人民元の国債通貨としての承認は中国の経済と政治の発展、多国間の通貨と金融システムの活動的なメンバーになるための中国の努力の認識において重要なステップとなるだろう。ノーベル賞受賞者ロバート・マンデルは「偉大な国家は偉大な通貨を持っている」と述べたが、これを敷衍するならば、人民元が国際通貨にならなければ中国の台頭は不完全であるということになる。
幸運なことに、中国と中国を支援する国々にとって、過去の例外事例が重要になってくる。例えば、1981年の特別引出権への包含を検討した際、日本円は「完全な使用性」は持っていたが、完全な両替性を持ってはいなかった。人民元に対しても同じことをすることが良い政治であり、より良く経済を動かすことになる。金融セクターにおける開放に向けた中国の努力、金融改革の進み具合、市場が決定する為替への意向をテストする最良の方法は、中国が行っている人民元を「成長した」通貨にするための努力を支援することだ。
従って、問題は、中国が準備通貨の地位に伴う責務を完全に受け入れることを示す証拠を求めることではない。問題は、中国以外の国々が中国が行っているよき世界市民になるための努力を信頼し、その継続を促進するかどうかということだ。
(終わり)