古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:王滬寧

 古村治彦です。

 先週末に中国共産党第20回党大会と第20期中国共産党中央委員会第1回総会(1中総会)が閉幕した。政治局員24名と政治局常務委員7名が発表された。中国国内政治で大きな力を持っていた中国共産主義青年団(共青団)派は追い落とされた。胡春華国務院副総理は政治局員にも残れずに降格となった。第6世代(1960年代生まれ)と共青団派のプリンスが失脚したということになる。政治局常務委員、政治局員はほぼ習近平派に独占された形になる。
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 今回の人事では、金融や銀行業務に精通した人物ではなく、航空、宇宙、軍事といった部門の優秀なテクノクラートたちが引き上げられ、政治局員(24名)に抜擢された。このことについては本ブログで既にご紹介した。下にリンクを張っているので是非お読みいただきたい。

※「第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 2022年9月15日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html

※「習近平体制の延長:フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を彷彿とさせる戦争対応体制の構築ではないか 2022年9月11日」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86579263.html

 中国は国外の動乱、混乱に備える体制を整えつつある。具体的にはウクライナ戦争から端を発する第三次世界大戦とも言える状況に備えるということだ。ウクライナ戦争で世界は既に戦時状況になっている。物価高や食料不足、エネルギー不足の生活への影響は深刻さを増している。習近平の第3期政権は国内外の難題に対処するために構築された戦時体制政権である。

 私たちが危惧するのは、アメリカや日本などにいる、短慮、思慮不足、好戦的な、戦争煽動家たちが「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻撃する」「アメリカと中国が戦う」などという根拠のない誇大妄想的な言辞を振り回し、状況を悪化させ、最悪の結果を引き起こすことだ。中国が今台湾に侵攻するメリットはない。既に着々と経済的な統合を進めている。私たちが恐れるべきはアジア地域での戦争だ。戦争を起こしてはいけない。安倍晋三元首相が銃撃によって暗殺され、日本の好戦的なグループは頭目を失っている状態だ。日本の地理的な位置、アメリカとの関係を考えるならば、日本は実は非常に危うい立場にある。「日本は何があっても戦争をしない」という立場を鮮明にすることが何よりも重要だ。

 話が逸れた。中国にとって、2042年の「アヘン戦争後の屈辱の南京条約締結200年」、2049年の「中華人民共和国建国100年」の2040年代に「中華王国(Middle Kingdom)」として、あらゆる面で世界最大最高の国家に復帰することが何よりも重要だ。その過程で台湾との関係はますます深まって実質的な統一、統合は果たされるだろうし、国家体制もまた変化していくことだろう。私たちは今時代の分岐点、大変化の前の混乱の中にいる。

(貼り付けはじめ)

中国共産党第20回党大会:習近平は圧倒的な人事権を行使するが、経済復活の糸口は見つかっていない(The 20th Party Congress: Xi Jinping Exerts Overwhelming Control Over Personnel, but Offers No Clues on Reviving the Economy

ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)筆

2022年10月24日

『チャイナ・ブリーフ』(ジェイムズタウン財団)

https://jamestown.org/program/the-20th-party-congress-xi-jinping-exerts-overwhelming-control-over-personnel-but-offers-no-clues-on-reviving-the-economy/

習近平・中国共産党中央委員会総書記は、先日閉幕した第20回党大会と第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記が圧倒的な勝利を収めた。習近平が選んだ政治局常務委員たちは、純粋な支持者ばかりだが、イデオロギーやプロパガンダ、「党建設(party construction)」などに精通した官僚が多く、金融や経済に精通した実利的なテクノクラートはほぼ皆無に等しい構成となった。その結果、「新型コロナウイルスゼロ」をはじめとする習近平の保守的で準毛沢東主義的な政策の多くは、当分の間、継続されることになりそうだ。

●習近平派のために他派閥が一掃された

中国共産党の中枢である新しい政治局常務委員会(Politburo Standing CommitteePBSC)では、習近平は引き続き中央委員会総書記と中央軍事委員会主席を兼任する。他の6人の政治局常務委員は習近平派とされる。2002年から2007年まで浙江省で習近平の下で働いた上海市党委書記の李強(Li Qiang)が国務院総理に就任する予定だ。その他、最高意思決定機関には現職の政治局常務委員を含む習近平の盟友が就任する。全国人民代表大会(National People’s Congress)常務委員長に就任する中央紀律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)書記の趙楽際(Zhao Leji)、中国人民政治協商会議(Chinese People’s Political Consultative Conference)主席に就任する思想家の王滬寧(Wang Huning)らが名を連ねる。李強のほか、習近平の子飼いの3人が昇進した。北京市党委書記の蔡奇(Cai Qi)は中国共産党中央書記処書記に、広東省党委書記の李希(Li Xi)は次期中央紀律検査委員会に就任する。中国共産党中央弁公庁(CCP General Office)主任で習近平の秘書長を務める丁薛祥(丁薛祥)は常務副総理に就任予定だ(新華網:10月23日;明報:10月23日;日経アジア:10月23日)。

次期政治局を構成する24人の委員と次期中央委員会を構成する205人のうち、習近平に忠誠を誓う人々が大多数を占めている(新華社・ウェイボ:10月23日)。13人の一般政治局員の引退によって、習近平には習近平派閥の人物たちを系政治局員に登用する機会を与えた。全中央委員205人のうち133人(65%)が新たに就任したため、習近平は反主流派グループや他派閥のメンバーを排除する余地が出た(新華網:10月22日)。新政治局委員24人のほぼ全てが習近平派閥だ(Radio Free Asia:10月23日)。新疆ウイグル自治区の馬興瑞(Ma Xingrui)党委書記は、中国航天科技公司(China Aerospace Science and Technology CorporationCASC)の元総経理で、中国国家宇宙局局長を務めた。遼寧省党委書記である張国清(Zhang Guoqing)は、中国北方工業集団公司(China North Industries Group Corporation)の副社長を務めた。浙江省党委書記の袁家Yuan Jiajun)は中国航天科技公司の経営トップを務めた。山東省党委書記の李干杰著名な核物理学者である(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

次期政治局には、中国共産党の他の2大派閥である共産主義青年団(Communist Youth League FactionCYLF)と上海閥(Shanghai Gang)の代表はいない。元広東省党委書記で元共産主義青年団第一書記の胡春華(Hu Chunhua)副総理は、政治局の一般委員の座と常務副総理に就くと予想されていた。しかし、胡は、政治局常務委員会はおろか、政治局にも残れなかった(Zaobao.com:10月23日;連合日報:10月23日)。この「一党独大(yidangdudaonly one party running the show)」という異常な現象は、最高指導者である習近平の隣に座っていた、共青団派の指導者で胡錦涛元前総書記が、土曜日の第20回党大会閉会式の半分ほどで無残にも引きずり出されたことに起因していると言われている(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月22日)。新華社通信は、この出来事について胡錦濤が急病になったからだと報じた。しかし、オブザーヴァーたちの間では、胡錦濤は新しい中央委員会と政治局常務委員会の名簿に公然と不満を表明しており、それは自分の長い間守ってきた派閥の傍流化を示すものであったからだというのが一致した見方である。文化大革命以来の主要な党大会では、胡錦濤のような公然の反対表明は珍しい(ジャパン・タイムズ:10月23日;Hong Kong Free Press:10月22日)。

習近平のもう一つの大きな業績は、中国共産党綱領を改正し、「新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想(Xi Jinping Thought on socialism with Chinese characteristics for a new era)」を今後の党と国家の指導原理として明記したことである。これは「2つの確立(two establishes、两个确定、Liang ge queli)の1つである。もう1つの「確立」は、習近平が「中央党当局の核心であり全党の核心(core of the central party authorities and the core of the entire party)」であり続けることで、実質的に毛沢東主席と同じ地位に昇格させることだ(Gov.cn:10月22日;人民日報:10月22日)。

●中国式近代化(Chinese-style Modernization

習近平思想の重要な要素は、いわゆる「中国式近代化(Chinese-style modernization、中国式代化、zhongguoshi xiandaihua)であり、習近平は10月16日の党大会冒頭報告で初めて提起した(新華社:10月16日)。事実上、中国式近代化とは、最高指導者である習近平が21世紀の中国の状況に適したと判断したマルクス主義・社会主義の教義のみを全ての政策決定の基盤とすることを意味する。習近平自身が示した定義によれば、「中国式現代化」は、党の厳格な指導、中国式社会主義的教訓の堅持、「質の高い発展(high-quality development)」の実現、人民の「精神世界(spiritual world)」の充実、共同富裕(common prosperity)の達成、人間と自然のバランスの追求、世界平和と「全人類運命共同体(common destiny for all mankind)」の目標の推進といった要素から構成される(VOA Chinese,:10月20日;人民日報:10月19日)。

習近平の大会報告では、鄧小平の「改革開放政策(reform and open door policy)」について4回言及されているが、習近平は経済発展や国際市場の開放よりも、国家の安全や内外の敵との「争斗(waging strugglesdouzheng)」を優先させたことが明らかである。今後の政策では、特に半導体やAIなどの先端分野における自立を意味する「内部循環(internal circulation)」、公企業と民間企業の両方を厳しく管理することを含む経済の党管理、共同富裕の推進、アメリカとその同盟諸国の「反中(anti-China)」政策がもたらす挑戦への言及と見られる「複雑で困難な世界情勢(complex and challenging global situation)」への国民の備えといった、準毛沢東主義的、閉鎖主義的価値観(autarkist values)に重きが置かれるだろう(BBC Chinese :10月16日)。

外交については、習近平チームは、特に中国の台湾再統合と世界のルール設定者としての「中央の王国(Middle Kingdom)」の地位の回復に関連して、ナショナリズムを引き続き昂揚させるだろう。2049年の中華人民共和国建国100周年までに、アメリカとの差を縮め、世界最強の国にすることも、第20回大会以降の中国共産党の優先課題である。改訂された中国共産党綱領では、北京が「台湾独立に断固として反対し、阻止する」ことを初めて指摘した。これに対し、旧綱領は「中国共産党は民族統一を実現する責任がある」とだけ述べていた(Chinanews.com:10月24日;News Radio French International:10月23日)。

●外交・軍事政策(Foreign and Military Policy

習近平による閉会演説を含む第20回党大会期間中、アメリカに対する言及はなかった。しかし、最高指導者の習近平と幹部たちの発言は、アメリカ主導の「反中国(anti-China)」連合との全面的な競争激化を意図したものであったように思われる。習近平は繰り返し、党大会の出席者たちと全ての中国人に、他国の「覇権主義と虐め(hegemonism and bullying)」に対抗することを呼びかけ、「闘争を行う勇気と闘争に長けること(rave enough to wage struggle, and to be good at waging struggle)」を促した(NPC.gov.cn:10月24日;News.cn:10月18日)。国際ビジネスや中国人と欧米人の通常の人的交流の分野でも、習近平は中国当局が経済的配慮よりも国家の安全保障を優先させることを示唆している。習近平と新しい政治局は、軍事的近代化に対してより多くの資源を投入する可能性があり、台湾や南シナ海で「熱い戦争(hot war)」が勃発する可能性が高まる(VOA Chinese:10月18日;Deutsche Welle Chinese:10月16日)。

習近平は、外交政策の遂行を最新鋭の軍に大きく依存していることを反映し、「68歳定年」の常識を破り、中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠(hang Youxia)を更に1期5年続投させた。張副主席は1950年生まれで、今年退任するものと思われていた。しかし、張副主席の父親と習近平の父親が国共内戦以来の親しい間柄であったことから、張は最高司令官である習近平から全幅の信頼を寄せられている。7人の委員からなる中国共産党中央軍事委員会の新任将官2人である、何衛東(He Weidong、1957年生まれ)副主席、苗華(Miao Hua、1955年生まれ)委員は、福建省の第31野戦軍や、福建省と浙江省の南京軍区(現在は消滅)にいた経験がある。習近平は1985年から2007年まで、福建省と浙江省で様々な役職に就いていた時に、この2人の将官と初めて知り合った可能性が高い。何副主席は台湾を管轄する東部戦区司令部の元司令官であり、苗華はヴェテランの政治委員(political commissar)で、現在は中国共産党中央軍事委員会の政治工作部部長を務めている(Businesstoday.com.tw:10月23日;サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:10月23日)。

他の新委員は、軍の規律と腐敗防止を担当する張勝民(Zhang Shengmin、1958年生まれ)、中国人民解放軍陸軍司令員を務め、統合参謀本部参謀総長への就任が予想されている劉振立(Liu Zhenli、1964年生まれ)、航空宇宙技術に優れ、現職の中国共産党中央軍事委員会装備開発部長である李尚福(Li Shangfu、1958年生まれ)の3人だ(Headline News. HK:10月24日;Breakingdefense.com:10月17日)

●結論(Conclusion

社会主義諸国の主要な党大会や会議の多くは具体的な目標への確かな道筋を示すよりも、大言壮語や誓約が多いにもかかわらず、習近平をはじめとする指導者たちの報告が行われた第20回党大会では、「中国式近代化(Chinese-style modernization)」、「中華民族の偉大な復興(the great renaissance of the Chinese nation)」、「闘争の敢行(daring to wage struggles)」など、ほとんど理論化された概念ばかりが強調されている。国家統計局が2022年第3四半期のGDP成長率を3.9%と発表したばかりだが、世界銀行など独立系の研究者やシンクタンクの多くは、中国経済の年間成長率を約2.8%かそれ以下と予想している(Scio.gov.cn:10月24日;CNBC.com:10月18日)。この4カ月間、経済の指揮を執った退任する李克強(Li Keqiang)総理は、外資導入の拡大と新型コロナウイルス感染対応体制の合理化を求め、習主席の訓示に反している(China Brief:7月18日)。しかし、李総理をはじめとする国務院のテクノクラートが推奨する唯一の「切り札(trump card)」は、経済成長を引き上げるためにインフラプロジェクトへの刺激策を強化することだ(Rthk.hk:8月30日;English.gov.cn:7月29日 )。しかし、政府投資は古くからある手段であり、過剰なレバレッジ、無駄、支出に対するリターンの減少を招きやすい。習近平とその取り巻きは今大会での圧勝を喜んでいるが、特に最近アメリカとその同盟諸国から中国に科されている厳しい制裁とボイコットを考えると、彼らは国民と国際社会に対して中国経済の立て直しが可能であると納得させなければならない。

党大会の人事で気になるのは、欧米で教育を受け、市場原理を重視する幹部が次々と退任していることだ。引退した李克強首相の最後の発言の中に、「黄河と長江の水は逆流しない(the waters of the Yellow and Yangtze River won’t flow backwards)」という言葉があった。これは、習近平が行った毛沢東主義復古(restoration)を叱責したものと見られている。この他、習近平の側近だったハーヴァード大学出身の経済学者の劉鶴(Liu He)副首相、アメリカの大学の経済学教授だった中国人民銀行総裁の易綱(Yi Gang)、銀行監督官庁トップの郭樹清(Guo Shuqing)らが欧米諸国で仕事を経験した経歴のある幹部たちが退任することが明らかになった。

新中央委員会メンバー表から、劉鶴に代わる経済担当副首相の候補は国家発展改革委員会主任の何立峰(He Lifeng)が確実視されている(新華網:10月22日)。しかし、何立峰が習近平の信頼を得たのは、主に福建省で長年一緒に仕事をしたことが理由である。何力峰には改革派としての資質がほとんどない。習近平は、数字に強いテクノクラートよりも、プロフェッショナルな党員を好むため、中央委員会と政治局には経済や金融の専門家が少ないという事情もある。この状況を改善し、新型コロナウイルスゼロ体制から厳しい党による経済統制まで、硬直したイデオロギー的教条を形だけ譲歩しない限り、中国が2049年までに超大国の地位を獲得するという夢を実現できるとは、中国と海外の観測筋は信じてくれないだろう。

※ウィリー・ウー=ラップ・ラム(林和立)博士:ジェイムズタウン財団上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部・国際政治経済プログラム修士課程非常勤講師を務める。中国に関する著書が6冊あり、代表作に『習近平時代の中国政治(Chinese Politics in the Era of Xi Jinping)』(2015年)がある。最新作は『中国の未来のための戦い(The Fight for China’s Future)』(ルートレッジ社、2020年)である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 今回は『今の巨大中国は日本が作った』(副島隆彦著、ビジネス社、2018年4月28日)をご紹介します。この本は現在の中国の最新の情報と分析が詰まった一冊となっています。

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今の巨大中国は日本が作った

 

 この本では、森嶋通夫、青木昌彦という2人の日本人経済学者(ノーベル賞に近い日本人学者と言われた)が中国から派遣された優秀な留学生を教え、その留学生たちが現在、中国を運営している、その代表が中国共産党中央政治局常務委員の王滬寧(おうこねい)であることを明らかにしています。

 

 中国は高度経済成長期の日本をよく研究し、参考にしています。1960年代から70年代にかけての日本の高度経済成長の最大の特徴は、大きな格差を生み出さない経済成長(economic growth without inequality)です。経済成長には大きな格差が生じ、それが社会を不安定にするというのが定説ですが、日本では所得の再配分(redistribution of income)によって社会の安定を維持しながら経済成長することに成功しました。中国が目指す路線もまさにこれです

 

 この他にも「中国は民主政治体制(デモクラシー)に移行する」という大胆な予測もなされています。現在、独裁的な力を持つ習近平国家主席の下でこそデモクラシーが実現するというのは興味深い話です。

 

 こうした新しい情報や予測が満載の本となっています。以下にまえがき、目次、あとがきを掲載します。是非手にとってご覧ください。宜しくお願いいたします。

 

(貼り付けはじめ)

 

まえがき

 

この本は、私の中国研究の最新の成果の報告である。いくつか大きな発見があった。

 

本の中心部分は、昨201710月の第19回中国共産党大会(19[だい]という)から今年3月の全人代[ぜんじんだい](中国の国会)で新しいトップ人事が決まったことを受けて、これからの5年の中国はどうなってゆくか、だ。そして、さらにその次の5年後も考える。

 

つまり2022年。そして2027年(習近平時代の終わり)。それまでに中国はどうなってゆくかをテーマとする。

 

2012年に始まった習近平体制は、通常であれば2期目の5年で終わりだった。だが、さらにその次の5年も習近平が政権を担う。3月の全人代で「任期の上限を撤廃する憲法改正案」が採択された。「習近平の独裁体制が死ぬまで続く」と、専門家たちが解説したが、そんなことはない。習近平は2027年(あと9年)で辞める。

 

私の今度の中国研究で行き着いた大事な発見は、その次の2022年からの5年で、中国はデモクラシー(民主政体[せいたい]・民主政治)を実現するということだ。これからの5年間は、確かに習独裁(、、、)である。彼に強い力が集中して、戦争でも騒乱鎮圧でも残酷にやる。だが、その次の2022年からの5年は、中国がデモクラシー体制に移行する準備期間となるだろう。そうしないと世界が納得しないし、世界で通用しないからだ。

 

この説明に際し言っておきたいのは、私は「民主主義」という言葉を使わない。「デモクラチズム(、、、)」という言葉はない。だから、×民主主義は誤訳(ごやく)である。

 

デモクラシー(代議制[だいぎせい]民主政体[せいたい])とは世界基準の政治知識であり、次のようになる。

 

    普通選挙制度 ユニバーサル・サファレッジ universalsuffrage

    複数政党制 マルチ・パーティ・システム multi-party system

 

である。この「①普通選挙」と曲がりなりにも、とにかくも「②複数政党制」を完備すれば、デモクラシー国家と言える。①の普通選挙[エレクション]制度は、18歳以上の男女すべてに一人一票を与え、無記名の投票(ボウティング)で代表者を選ぶ(エレクション)政治体制である。中国は、これに必ず移行していくと私はみている。

 

今のままでは、中国国民の反発、不満も限界に達する。現在の一党独裁は、世界がもう許さない。このことを習近平自身がしみじみとよく分かっている。

 

①の普通選挙制度の前提として、②の複数政党制が必要だ。少なくとも2つ、あるいは3つ、4つの大政党ができなければいけない。そして、選挙で勝った政党によって、中国の政権が作られる政治体制に変わっていくのだ。そのための移行期が2022年からだ。そこでは、もう習近平独裁は行われない。

 

どうして中国がそのように変わるのか。

 

そうした政治体制に変わらなければ世界が納得しないからである。このことは、党の長老も含めた最高指導者たちによる昨年8月に北戴河[ほくたいが](渤海[ぼっかい]湾に面した中国の避暑地)で行われた会議で決定された。

 

習近平が去年の夏、長老たちをねじ伏せるようにして、次の5年と、さらにその次の5年も自分がやると宣言した。そしてここで中国共産主義青年団(共青団[きょうせいだん])系と、習近平の勢力が折り合い、合意した。その証拠の記事をあとのP25に載せた。

 

前国家主席である胡錦濤(こきんとう)が、その場で習近平を一所懸命なだめる形で、「2017年から5年間の政治体制にも、共青団系を半分くらい入れてほしい」と望んだ。習近平はこれを拒否した。かろうじて李克強(りっこきょう)首相(国務院総理。首相)と汪洋(おうよう)副首相が共青団で、チャイナセブンと呼ばれる政治局常務委員、中国のトップ7に入った。

 

その他5人は、すべて習近平の系統で占められた。いやナンバー7の韓正(かんせい)は、どうも江沢民(こうたくみん)の派閥(上海閥[ばつ])である。どうしても古い勢力を1人は入れないと済まないのだろう。共青団系はギリギリまで譲歩せざるを得なかった。

 

江沢民に育てられた習近平(当時、副主席だった)を10年間、熱心に教育したのは胡錦濤だ。「指導者になる者に必要なのは、我慢に我慢だ。私たちは派閥抗争などやっていてはいけない。中国は世界を指導する国になるのだ」と育てた。

 

だが、もっと深く習近平を見込んで育てたのは、鄧小平[とうしょうへい]1904生~1997死)だ。

 

鄧小平が、地獄の底から這い上がった中国を、

「中国は豊かな国になる。もうイデオロギー優先の愚かな国であってはならない。民衆を

貧困から救い出さなければいけない」

として、今の巨大に成長した中国の基礎を作った。鄧小平(89歳のとき。その4年後の

1997年に93歳で死去)は、1993年に40歳のときの習近平と会っている。

 

「お前は、(私の敵である)江沢民(こうたくみん)、曽慶紅(そけいこう)が育てた人材だ。だが、私はお前を次の時代の指導者に選ぶ」と言って、「それまで我慢せよ。指導者に大切なのは我慢することだ」と切々と説いた。

 

だから2017年からの5年間、つまり2022年までは、習近平独裁体制が続く。ここで国内を政治的にも経済的にも安定させながら、「偉大なる中華民族の復興」は、やがて「デモクラシーの政治体制」として実現する。この主張が、この本の揺るぎない骨格である。

 

この本での2つ目の大発見は、今の巨大に成長した中国を作ったのは、特定の日本人経済学者たちであった、という大きな事実だ。

 

今、大繁栄を遂げた中国にその計設図(ドラフト)、OS[オウエス](オペレーティング・システム)を伝授した日本人学者たちがいる。中国が貧しい共産主義国から脱出して急激に豊かになってゆくためのアメリカ理論経済学(、、、、、)の真髄を、超(ちょう)秀才の中国人留学生たちに教えたのは、森嶋通夫[もりしまみちお]1923生~2004死。19701989年ロンドンLSE(エルエスイー)教授。『マルクスの経済学』1974年刊、東洋経済新報社)である。それを名門スタンフォード大学で中国人大(だい)秀才たちに長年、丁寧に授業して叩き込んだのは青木昌彦(まさひこ)教授(1938生~2015死)である。

 

この2人が、「マルクス経済学である『資本論』を、ケインズ経済学のマクロ計量モデルにそのまま置き換えることができるのだ」と計量経済学(エコノメトリックス)の高等数学の手法で、中国人たちに教え込んだ。これが1980年代からの(もう40年になる)巨大な中国の成長の秘訣(ひけつ)、原動力になった。

 

「マルクスが描いた資本家による労働者の搾取率(さくしゅりつ)は、そのままブルジョワ経済学(近代[きんだい]経済学)の利潤率[りじゅんりつ](利益率)と全く同じである」

 

と森嶋通夫が、カール・マルクスの理論を近経[きんけい](=アメリカ経済学)の微分方程式に書き換えた(置き換えた)ものを青木昌彦が教えた。それが今の巨大な中国を作ったOS(オウエス)、青写真、設計図、マニュアル(手法)になったのだ。

 

大秀才の中国人留学生たちは、全米中の大学に留学していた。彼らは電話で連絡を取り合って、巨大な真実を知った。自分たちが腹の底から渇望(かつぼう)していた大きな知識を手に入れた。「この本で私たちは、欧米近代= 近代資本主義(モダンキャピタリズム)とは何だったのかが、分かった。これで中国は大成長(豊かさ)を手に入れることができる」と皆で分かった。

 

このときの留学生とともに、今の中国指導者のナンバー2の王岐山(おうきざん)、つい最近まで中国人民銀行(中国の中央銀行)の総裁だった周小川(しゅうしょうせん)、そして、中国の国家理論家(国師[こくし]。現代の諸葛孔明[しょかつこうめい])の王滬寧(おうこねい)らがいる。彼らはズバ抜けた頭脳を持った人々なのである。日本人は今の中国の指導者たちの頭脳をナメている。自分の足りない頭で、中国人をナメて、軽く見て、見下くだしている。何と愚かな国民であることか。

 

やはり、鄧小平が偉かったのだ。

 

鄧小平が毛沢東の死(197699日)後、1978年から「改革開放」を唱えて、「中国人はもう貧乏をやめた。豊かになるぞ」と大号令をかけた。そしてヘンリー・キッシンジャーと組んで、中国を豊かにするために外国資本をどんどん中国に導入(招き入れ)した。そして驚くほどの急激な成長をとげた。

 

と同時に、鄧小平はキッシンジャー・アソシエイツ(財団)の資金とアメリカ政府の外国人留学生プログラムに頼って、何万人もの優秀な若者を留学生としてアメリカに学ばせた。そのなかの秀才たちが、らんらんと目を輝かせて、「資本主義の成長発展の秘密」を、森嶋通夫と青木昌彦という2人の日本人学者から学び取った。それが今の巨大な中国を作ったのである。この大事なことについては、本書の第3章で詳しく説明する。

 

副島隆彦

 

=====

 

●目次

 

まえがき   3

 

第1章中国国内の権力闘争と2022年からのデモクラシーへの道

 

この先5年と次の5年、民主中国の始まり   22

 

タクシー運転手が知っていた中国の未来像   27

 

習近平の知られざる人生の転機   30

 

鄧小平が40歳の習近平を見込んだ理由   34

 

腐敗の元凶となった江沢民と旧国民党幹部の地主たち   41

 

中国の金持ちはこうして生まれた   42

 

デモクラシーへの第一歩となった共産党の新人事   46

 

今後のカギを握る王岐山の力   49

 

中国を動かす重要な政治家たち   54

 

中国初の野党となる共青団   60

 

台湾はどこへ向かうのか   62

 

バチカン(ローマ・カトリック)と中国の戦い   66

 

人類の諸悪の根源はローマ・カトリック   72

 

チベット仏教について物申す   75

 

第2章人民解放軍vs.習近平のし烈な戦い

 

北朝鮮〝処理〟とその後   82

 

北朝鮮が〝処理〟されてきた歴史   88

 

近い未来に訪れる朝鮮半島の現実   90

 

鄧小平が行った中越戦争[ちゅうえつせんそう]1979年)がモデル   91

 

7軍区から5戦区へと変わった本当の意味   96

 

軍改革と軍人事の行方   101

 

勝てる軍隊作りとミサイル戦略   109

 

第3章今の巨大な中国は日本人学者が作った

 

中国を冷静に見られない日本の悲劇   116

 

日本はコリダー・ネイションである   122

 

日本国の〝真の敗北〟とは何なのか   124

 

現実を冷静に見るということ   126

 

国家が仕込んだ民間スパイ   130

 

中国崩壊論を言った評論家は不明を恥じよ   132

 

「日本は通過点に過ぎない」とハッキリ言い切った人物   136

 

本当のデモクラシーではないのに他国に民主化を説くいびつさ   138

 

アメリカに送り込まれた中国人エリートたちのとまどい   141

 

今の中国の政治社会のOSは日本が作った   144

 

森嶋通夫との浅からぬ縁   146

 

中国社会を作ったもう1人の日本人   151

 

森嶋、青木の頭脳と静かに死にゆく日本のモノづくり   155

 

そしてアメリカは西太平洋から去っていく   158

 

尖閣防衛と辺野古移転というマヤカシ   162

 

第4章 大国中国はアメリカの言いなりにならない

 

中国の成長をバックアップしたアメリカ    170

 

ロックフェラー、キッシンジャーからのプレゼント   175

 

米軍と中国軍は太平洋で住み分ける   182

 

米・中・ロの3大国が世界を動かしている   186

 

チャイナロビーは昔の中国に戻ってほしい   191

 

アメリカと中国の歴史的な結びつき   192

 

中国とイスラエルの知られざる関係   194

 

第5章 AIIB と一帯一路で世界は中国化(シノワゼイション)する

 

日本のGDP25年間で500兆円、中国は今や1500兆円   200

 

世界の統計は?ばかり   204

 

アメリカの貿易赤字の半分は中国   207

 

貿易戦争というマヤカシ   210

 

一帯一路は今どうなっているのか   216

 

アフリカへと着実に広がる経済網   229

 

次の世界銀行はアルマトゥという都市   238

 

世界の〝スマホの首都〟は深?である   242

 

あとがき   250

 

=====

 

●あとがき

 

私は、この10年で計10冊の中国本を書いて出版してきた。この本で11冊目である。

 

この本で書いたとおり、今の巨大中国の設計図(OS[オウエス])を作って与えたのは、森嶋通夫(もりしまみちお)先生(京都大学、ロンドンLSE教授)である。故森嶋通夫は、私の先生である小室直樹先生の先生である。私に、碩学の二人の遺伝子が伝わっている。それでこの本が出来た。お二人の霊にこの本を献(ささ)げる。

 

この本を書いている途中にも中国は次々と新しい顔を見せる。その変貌の激しさにこの私でも付いてゆくのがやっとである。同時代(コンテンポラリー)に私たちの目の前で進行したあまりにも急激な巨大な隣国(しかし帝国[ディグオ])の変化に私自身がたじろいでいる。一体、中国はこれから何をする気か。それでも私は、中国に喰らい付いて、この先も調査研究を続ける。

 

この本の担当編集者の大森勇輝君が大きく尽力してくれた。唐津隆社長からも気配りをいただいた。記して感謝します。

 

20184

副島隆彦

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)


※私の仲間である石井利明さんのデビュー作『福澤諭吉フリーメイソン論』が2018年4月16日に刊行されました。大変充実した内容になっています。よろしくお願いいたします。

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