古村治彦です。
2022年11月15日、ポーランドのウクライナ国境近くにミサイルの発射体もしくは破片が落下して2人が死亡するという出来事が起きた。この事故について、ロシアのミサイルがポーランドに発射されたものだという非難がウクライナや東欧・中欧の国々から出て、NATOの集団的安全保障が発動されて、NATO軍がウクライナ戦争に参戦することになるのではないかという懸念と緊張が高まった。しかし、当事国ポーランドとアメリカが静観する構えを見せ、ウクライナのミサイルの可能性を指摘して、事態は沈静化した。ロシアはウクライナのポーランドとの国境地帯にミサイルは発射していないと主張している。
2022年2月24日にウクライナ戦争が起きて、早いもので今年も暮れようとしている。ウクライナ戦争は2022年の世界全体に大きな影響を与えた。ヨーロッパから遠く離れた日本で暮らす私たちの生活にも暗い影を落とした。エネルギー価格と食料価格の高騰によって、生活費が高騰している。買い物に行って以前と同じものを買っても出ていくお金は増えているという状況だ。
ウクライナ戦争が世界に暗い影を落とすという状況はこれからもしばらく続きそうだ。それは停戦に向けた動きが見えないからだ。ウクライナは西側諸国に対して「どんどん武器と金と物資を送れ。送らないのは正義に反する行為だ。そして、自分たちはウクライナ東部とクリミア半島を奪還する」と主張している。このような「正義」に基づいた主張には表立って反対しにくい。しかし、このブログでも以前に紹介したように、エネルギー価格の高騰、エネルギー不足で一段と厳しい生活を強いられるヨーロッパ各国の国民は「何とか和平を達成してくれないか」という願いを持ち、「平和」を希求している。より露骨に言えば、「ウクライナはもういい加減戦争を止めてロシアと停戦しろ、こっちだって生活が苦しいんだ。しかも人の武器と金で戦争しているんだぞ」ということになる。
今回のポーランドでの出来事を受けて世界は緊張した。NATO軍、その主力はアメリカ軍ということになるが、NATO軍が参戦することになれば第三次世界大戦、更には核戦争にまで発展するということが人々を恐怖させた。戦争が拡大すれば現在よりも状況が悪化し、世界は不安定になる。そのことを改めて深刻に実感することになった。
ウクライナ戦争が第三次世界大戦につながる危険性をいち早く指摘したのは、私の師である副島隆彦だ。『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』(2022年6月)を読むと、半年近く経っても状況は全く好転していないということが改めて実感できる。是非お読みいただきたい。

プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする
ウクライナが満足する形で停戦が成立するためには、ウクライナ側の主張ヲ基にすれば、ウクライナが東部とクリミア半島を完全に奪還しなければならない。このことがまず可能なのかどうか、そして、可能だというならばそれにかかる時間とコスト(人命、お金、物資など)を冷静に判断しなければならない。そして、ウクライナがこれからどのような国家として存在していくのかということも改めて検討してある程度の道筋をつけなければならない。現在のところ、ウクライナが戦争に勝利して、自分たちの目的を達成することは「ほぼ不可能」である。そのことは、アメリカ軍の制服組トップであるマーク・ミリー米統合参謀本部議長が認めている。そして、ミリーは「政治的解決」を示唆している。これは「停戦交渉をするべき」ということを意味する。
以下の論稿は正義派の考えに基づいて構成されているが、私が問いたいのは「どのタイミングで停戦交渉するのか」「ウクライナに良いタイミングが来るまで待つというが、そのタイミングはいつ来るのか、そもそもそのようなタイミングが来るのか」ということだ。私たちは太平洋戦争で、ミッドウェー海戦敗北とガダルカナル島失陥以降、アメリカの反転攻勢を受けて日本が追い詰められていく過程で、「何とかアメリカ軍に一撃を加えてそれでアメリカ側をひるませて講和に持ち込む」という「一撃講和論」という楽観主義的な考えによって、戦争が長引き、結果として無残な結果となったことを知っている。ウクライナ戦争でウクライナ側が攻勢に出ているが、ロシアが東部とクリミア半島の防御態勢を整えて、膠着状態に陥った場合、ウクライナの求める条件はまず達成できない。そうなれば戦争がだらだら長引く。ウクライナに対する支援をずっと続けられるのかどうか、という問題も出てくる。西側諸国からの支援がなければウクライナは戦争を継続できない。結局、ウクライナは自分たちの目的を達成する前に停戦ということになる。それは現状とほぼ変わらない段階でのことになるだろう。それならばだらだらと続いた期間とその間のコストは無駄ということになる。
私は今年の3月の段階で早期停戦すべきだと述べた。その考えは今も変わらない。ウクライナがロシアに一撃を加えた今がタイミングだと思う。このまま戦争がだらだらと続くことは世界にとって不幸だ。
(貼り付けはじめ)
米軍高官「ウクライナ、軍事的勝利は当面ない」 政治解決に期待
11/17(木) 8:35配信 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/ea4a4cbf2f1838b30306fd58c9f0bf254c7b891c
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシアがウクライナ全土を征服するという戦略目標を実現できる可能性はゼロに近い。ただ、ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。
ミリー氏は「防衛に関して、ウクライナは大成功を収めている。ただ、攻撃に関しては、9月以降にハリコフ州とヘルソン州(の領域奪還)で成功したが、全体から見れば小さな地域だ。ウクライナ全土の約20%を占領するロシア軍を軍事的に追い出すことは非常に難しい任務だ」と指摘した。
一方で、「ロシア軍は、多数の兵士が死傷し、戦車や歩兵戦闘車、(高性能の)第4、5世代戦闘機、ヘリコプターを大量に失い、非常に傷を負っている。交渉は、自分が強く、相手が弱い時に望むものだ。(ウクライナの望む形での)政治的解決は可能だ」と強調した。秋の降雨でぬかるみが増える季節を迎えたことで「戦術的な戦闘が鈍化すれば、政治解決に向けた対話の開始もあり得る」との見解を示した。【ワシントン秋山信一】
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ロシアとの交渉は魅力的であり、そして間違っている(Talking With
Russia Is Tempting—and Wrong)
-ウクライナでの戦争を終結させるための交渉を始めるのは時期尚早である。
ジェイムズ・トラウブ筆
2022年11月16日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2022/11/16/talking-with-russia-is-tempting-and-wrong/
1814年の夏、2年前にイギリスがアメリカに侵攻し始まった戦争を終結させるために、米英両国の交渉官たちがヘント(ベルギー)に集まった。イギリスは勝利の確信を持ち、領土に関するアメリカ側の譲歩を求めた。ジョン・クインシー・アダムスとヘンリー・クレイが率いるアメリカ代表団はイギリスからの強硬な条件をはねつけた。イギリスは、ニューイングランドの一部を含む当時の制圧地域を境界線として描き直すことを提案した。10月初旬にヨーロッパに届いたワシントン焼失のニューズは、アメリカ側にも譲歩を促すものだった。
しかし、アメリカ側は良い知らせを待って交渉を長引かせた。良い知らせは、シャンプラン湖周辺とボルチモアでのアメリカの勝利という形ですぐに届いた。クリスマス直前、イギリスは全ての要求を撤回し、最も争点となる問題を将来の議論に任せて先送りすることに同意した。ヘント条約は、アメリカの主権が脅かされていた時代に終止符を打ったのである。
この逸話の教訓は、戦時中の早まった外交は誤りであり、戦場のダイナミズムが交渉の条件を形成することを許さなければならないということである。マーク・ミリー統合参謀本部議長は、ウクライナがロシア軍と「膠着状態(standstill)」まで戦った今、外交の「好機をつかむ(seize the moment)」ようバイデン政権の同僚に呼びかけている。しかし、それは間違った比喩だ。ウクライナ人はまずロシアの猛攻に耐え、その後でそれを押し返した。1914年9月の協定がニューイングランドの大部分を切り落としたように、1カ月前の外交交渉では、ウクライナが取り戻したケルソンの支配をロシアに譲り渡すことになっていたかもしれない。外交のチャンスはいずれやってくるが、それは今ではない。
以前、ウクライナ問題で進歩主義的な民主党所属の政治家たちがジョー・バイデン米大統領に送った書簡について、私はコラムで左派の反戦外交の主張(left’s antiwar case for diplomacy)には抵抗があることを書いた。しかし、より強い主張は、右派、少なくとも左派ではない勢力から出ている。右派は、ウクライナの領土保全への関心は限りなく高いが、欧米諸国には他にも多くの懸念があり、ウクライナ支援とのバランスを取る必要があると正しく指摘している。ユーラシア・グループのクリフ・カプチャン会長は、『ナショナル・インタレスト』誌の記事の中で、戦争がもたらす重大かつ長期的なコストとして、「脱グローバリゼーション(deglobalization)」の加速、食料・エネルギー価格の上昇とそれらが引き起こす社会・政治不安、核の不安定性、そして何よりもロシアとNATOとの戦争、おそらくロシアによる核兵器の使用という見込みを挙げている。
最近、カプチャンの話を聞いたところ、「ロシアとの話し合いを受け入れるべきだと考えるのは少数派だ」と述べていた。彼が最も懸念するのは、軍事的なコストだ。「プーティンのレッドライン(最終譲歩ライン)はまだ見つかっていない」と彼は言った。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、これまで考えられていたようなリスク回避を受け入れる人物ではない。ウクライナ人がそれを払うに値すると考えるかどうかにかかわらず、彼は自分の体制に対する脅威と見なすものには、核兵器であれ何であれ、西側諸国にとって災難となるようなエスカレーションで対応するかもしれない。カプチャンの兄弟でジョージタウン大学のチャールズ・カプチャン教授(国際問題)も、「ロシア軍がウクライナ東部とクリミアから完全に追放された場合、クレムリンの核兵器への依存は現実的な選択肢となる」と主張している。
これはつまり、ウクライナ人が戦場で大成功を収め、プーティンが世界を引きずり込む前に、西側諸国は外交的な最終案を練り始める必要があるという提案を行うもので、これは外交とタイミングに関して本末転倒な主張だ。このような理屈は、もちろん、核の恐喝が使われる要点ということになる。私がクリフ・カプチャンにこのように言うと、彼は戦争の追加的なコスト、つまり何百人ものウクライナの子どもたちの恐ろしい死について指摘した。しかし、これはウクライナ人自身が喜んで負担しているように見えるコストである。
だからといって、プーティンのハッタリに簡単に応じるのは、狂気の沙汰としか言いようがない。バイデン政権はレッドラインの問題を痛感している。ウクライナに4億ドルの軍需物資を追加供与することを承認しながら、ロシア国内の標的を攻撃できる長距離無人機の供与は拒否した。外交上の主張は、事実上、ワシントンはアメリカだけでなくウクライナも制限しなければならないということになる。そうでなければ、国際関係学者のエマ・アシュフォードが最近書いたように、「戦争に対する慎重に調整された対応が、絶対的な勝利という危険なファンタジーに取って代わられるかもしれない」ということになる。アシュフォードは慎重に中立的な立場を取り、交渉による解決は「今日では不可能に思える」が、アメリカの外交官は「そのようなアプローチが伴う困難な問題を公にして、そしてパートナーに対して提起し始めるべきだ」と示唆している。
ウクライナにロシアとの対話を迫ってはいけないが、必ず来るだろう話し合いに向けて準備を始めるべきだということだ。これは論理的に聞こえる。しかし、本当にそうすべきなのか?
外交問題評議会のロシア専門家であるスティーヴン・セスタノビッチにこの問題を提起してみた。セスタノビッチは、可能性のあるシナリオを公開することさえ、最も貴重な要素であるウクライナの意志を奪うことになりかねないと述べた。彼は次のように語った。「そう、ある時点では、ウクライナ人と座って将来について話すことができる。しかし、彼らはどれだけの損害を受容するのかどうかについては敬意を払わなければならない」。セスタノビッチは、1940年5月、ウィンストン・チャーチルがイタリアの外交打診を拒否したのは、イギリスの士気が下がるのを恐れてのことであったという歴史的な類推(analogy)を使用した。
今、外交官の机の中に最終案の計画が残っているのは、タイミングや戦術だけでなく、外交的リアリストが甘く見がちな他の種類のコストにも関係がある。英国は、1812年の戦争後、アメリカがあまりにも強く、立地も良いため、奪還は不可能であることを悟った。しかし、プーティンは2014年の状態より少し良いものを認める協定によって勇み立つだろう。実際、プーティンは、危害を加える能力を保持している限り、近隣諸国と西側諸国にとって脅威であり続けるだろう。セスタノビッチは、ウクライナが東部で前進を続け、失ったものの多くを取り戻せば、「ロシアは完全にパニックモードになり」、プーティン自身の支配が脅かされることになると示唆している。これは事実上、ウクライナ軍の成功の最良のシナリオである。もちろん、最悪のシナリオは、その脅威に対してプーティンが暴発することである)。
根本的な問題は次のようなものだ。問題は、「それがどの程度問題なのか?」ということだ。これまでのところ、アメリカとヨーロッパは、ウクライナにおけるロシアの侵略を阻止することは、それなりの犠牲を払うに値するという結論に達している。欧米諸国が公言する価値観が本物であることが判明したことは、プーティンにとって当然ショックであり、欧米諸国の多くの人々にとっても、非常に喜ばしいショックであったに違いない。しかし、その意志は無限であるとは言い難い。バイデンをはじめとする指導者たちは、ロシアの賠償金とウクライナの領土の隅々までの返還を含むウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の最大限の条件を達成するために、政治的、経済的負担を負い続けることはないだろう。
外交官たちがその計画を机上から引き上げる時が来るだろう。しかし、その前に、我々の協力でウクライナがプーティンの進撃をどこまで押し返せるか、見届けなければならない。それが私たちの利益であり、ウクライナの利益でもある。
※ジェイムズ・トラウブ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ニューヨーク大学国際協力センター非常勤研究員。著書に『リベラリズムとは何だったか?:過去、現在、そして新しいアイディアの期待(What Was Liberalism? The Past, Present and Promise of A Noble Idea)』がある。ツイッターアカウント:
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