古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:第20回党大会

 古村治彦です。

 日曜日に閉会した中国共産党第20回党大会では、最後に、胡錦涛前国家主席が複数の係員に促され、習近平の隣の椅子から退場させられる場面があった。この時、習近平とは言葉を交わし、李克強首相の方を軽くたたく様子が見られた。栗戦書全国人民代表大会常務委員長が大汗をかきながら胡錦涛から書類を取り上げる姿が映像で写された。
hujintaopartycongress001511
hujintaopartycongress002511

 この胡錦涛の突然の退出については様々な分析がなされている。健康不安説、特に認知症を患っている胡錦涛が最後にどんな行動を取るのか分からないということで退出させたということが言われていたがそれは不自然だ。健康不安だけならば欠席でも良い訳だし(もう引退しているのだから実務などに影響はない)、最高幹部たちもあのような冷淡な態度を取ることはなかったはずだ。不測の事態ということであれば、テレビ中継は途中で停止されるか、全く別の場所を映すかできるはずだが、その様子を中継し続けた。これは、最初からそのように仕組まれたと考えるのが自然なことだ。
 やはり、今回の退出劇は、習近平と側近たちだけで事前に作って、一部の幹部たちだけに知らされたシナリオに沿った動きだったということになるのだろう。現在の最高指導部層は文化大革命時代を生年として過ごして苦労してきた人たちだ。そこから叩き上げ、幾多の競争を勝ち抜き、無数の修羅場を生き抜いてきた人たちだ。どんなに不測の事態が起ころうとも平静を保つことが出来るのだろう。今回の出来事で皆微動だにしなかったのはそういうことだろう。そして、頭脳をフル回転させながら、事態を把握していったはずだ。そして、「共青団派排除の仕上げとしての胡錦涛前主席の排除なのだ」ということをコンマ数秒で理解したのだろう。

 習近平は、この10年で自分の権力基盤を固めることに成功した。江沢民元国家主席をトップとする上海閥を追い落とした。そして、今回の人事では露骨に共青団派を追い落とした。そして、独裁体制を確立した。私はこのブログでも何度も書いているが、習近平が不文律を破って3期目も最高指導者の地位を確保したことは、第二次世界大戦中のアメリカ大統領フランクリン・D・ルーズヴェルトの事績を類推させるものだ。今回、中国は平時モードから戦時モードに切り替えたのだ。「平時の改革などには役立つ共青団系はエリート、お公家様集団で乱世には役に立たない」ということで、切り捨てたということになる。

 習近平が確立しようとしている戦時体制は、中国が世界に出ていって戦争をしようというものではない。アメリカが火をつけて回っている世界の動乱的状況、第三次世界大戦に備えてのものだ。ウクライナ戦争が第三次世界大戦に拡大する可能性もある中、自国の防衛と経済を守るということでの「戦時体制」ということになる。

 共青団(中国共産主義青年団)という組織が潰れた訳ではないし、これからもエリート機関として存続する。そこで育った人材たちは、動乱期を乗り切った後に必要とされる。現在の状況を乗り切るために、幾多の英才を切るということが出来ることは中国の強さということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

一体全体、胡錦涛に何が起きたのか?(What the Hell Just Happened to Hu Jintao?

-習近平の前任者は党大会の場から強制的に追い出された。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年10月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/22/china-xi-jinping-hu-jintao-ccp-congress/?tpcc=recirc_trending062921

中国共産党第20回党大会は土曜日に、珍しくも衝撃的なライヴドラマで幕を閉じた。2002年から2012年まで中国共産党の指導者であった胡錦濤は、党大会の最終投票の直前に、明らかに混乱し動揺した状態で、スタッフによって公然と大会から退場させられた。胡錦濤は習近平国家主席の隣の席で、習主席と李克強首相に質問し、習主席が頷く様子をカメラに収めたが、胡錦濤は書類に手をかけ、書類を取るのを妨げたという。胡錦濤は習近平と李克強首相に質問し、習近平は頷いたが、胡錦濤が書類を取るのを習近平が手で制止し、同じく党幹部の栗戦書は立ち上がり、胡を助けようとしたが、隣に座っていた政治理論家の王滬寧に背広の上着を引っ張られ引き戻された。

胡錦濤は習近平のような権力を持ってはいなかった。胡錦涛はいわゆる集団指導の時代の最高指導者だった。前任の江沢民の強大な影響力と戦わなければならなかった。胡錦濤の在任中、汚職は増加した。そして共産党にとってより危険なことに、汚職に関する報道も増加し、ネット上での言論の自由も、限定的ではあるが市民社会団体やNGOの活動も増加した。これは、胡錦濤が自由主義に傾倒したからではなく、党員の多くが党の方針を貫くことよりも金儲けに夢中になっていたからである。

2012年に中国共産党の最高指導者を退任して以来、習近平とは対照的に、胡錦濤は党メディアから称賛されたが、力は失われた。習近平の粛清により、かつての盟友の多くが逮捕され、特に2015年には胡錦涛の首席補佐官の令計劃が逮捕されている。胡錦濤は、自分と同じ共産主義青年団の元リーダーたちの権力ネットワークと関係があったが、その派閥は事実上壊滅したように見える。

一体、何が起こったのだろうか? 土曜日に中国の国営通信社である新華社が発表した中国共産党大会総会メンバーのリストに胡錦濤の名前はあるが、この事件についての説明はなされておらず、当然のことながら、この件についてオンラインで議論しようとすると厳しく検閲される。中国共産党大会は、実際の政治が数週間から数カ月も前に行われる、極めて厳格に演出されたイヴェントであることを念頭に置いてほしい。つまり、胡錦濤の予告なしの不手際な解任は、不手際もしくは陰謀(a cock-up—or a conspiracy)のどちらかである。

第一の可能性は、健康上の危機ということである。胡錦濤は党大会の期間中、目に見えて衰えていた。中国の指導者は皆、髪を染めているので、過去の時代であれば、それだけで権力を完全に放棄したことになっただろうが、習近平政権では白髪が入り込むことが許されている。しかし、カメラが回っている中で、緊急に彼を排除する必要があり、かつ、彼が深いところでそれを嫌がっているというのは、どのような状態なのかが見えにくい。また、秘密主義と慎重さが常識である中国共産党の内部でさえ、なぜ他の人は体の弱い元同僚を助けないのだろうか?

一つの可能性は、胡錦涛に知らされないで、予想外に新型コロナウイルス感染の診断が出ていたことである。しかし、その場合、指導者に近づく者全員に実施された迅速検査で何も検出されなかったのに、タイミング悪くPCR検査が実施され、陽性となったことになる。

第二の可能性は、習近平が、党大会の全会一致の投票で、胡錦濤が棄権するか、反対票を投じるかもしれないという、恐れるような情報が突然出てきた可能性である。それは、胡錦濤が舞台裏でかつての同僚に言った言葉かもしれないし、あるいは認知症の兆候があって、何かが間違っているかもしれないと思って突然パニックに陥ったのかもしれない。そう考えれば、胡錦濤の混乱は理解できる。

習近平が前任者を意図的に公然と貶めたのは、党の規律と司法による処分を行使する前触れだったのかもしれない。党大会では、習近平が党の「核心(core)」であることがしばしば修正され、ほとんど象徴的な憲法に明記され、前例のない3期目を迎えるにあたって、習近平が前面に立ち、中心的存在であることが強調されたのである。

習近平は冒頭の業務報告で、胡錦濤らには言及しなかったが、「党の指導が弱く、空虚で、水増しされていた」と極めて厳しい表現で就任当時の党内情勢を語っていることに留意してほしい。胡錦濤のマルクス主義理論への貢献である『科学的発展展望』についても、習近平の演説の中でわずかに言及されただけである。 このように胡錦濤を貶めることは、長らく党内で勢力を保ってきた元最高幹部層である「退役長老(retired elders)」に対して、習近平の権力は縛られていないという明確なシグナルを送ることにもなる。その場合、栗戦書が胡錦濤に手を差し伸べたのは、かつての仲間に対する本能的な、しかし危険な優しさであったろう。

しかし、それはまた、外の世界に完全に知られていなかった陰謀を除けば、ほとんど不必要な動きだと言える。中国共産主義青年団派(共青団派)の破壊と胡錦涛の仲間たちの追放または逮捕を考えると、胡錦涛がかつて党内で持っていた力はとっくに失われている。他の引退した指導者との関係を除けば、胡錦涛が習近平にとってもっともらしい脅威であると考えるのは非常に難しい。

また、中国のようなレーニン主義体制に見られる官僚劇を好んで行う、残酷極まりない行為でもあった。このシナリオでは、胡錦濤は単に拘束されるか、健康を理由に内密に軟禁される可能性があった。たとえ恥をかかせるにしても、毛沢東が自分に逆らった指導者に繰り返し行ったように、非公開の会議の中で行うことができたはずだ。中国共産党独自の内部秘密警察である中央規律検査委員会(Central Commission for Discipline InspectionCCDI)は、習近平の下で拷問を使う頻度が高くなるなど、厳しい態度で臨んでいることは有名である。軍高官の徐才厚は2014年、がん治療の最中に拘束され、翌年死亡した。

何年も正確な事実が明らかにならない可能性が高い。胡錦濤の健康状態について発表があるかもしれないし、単に事件が公的に説明されないだけかもしれない。万が一、胡錦濤が中央規律検査委員会に正式に拘束されれば、それは事態が大きく深刻化し、いつものように刑事告発と投獄に至るだろう。

胡錦濤に対して何が起きたとしても、習近平の権力は日曜日にはより明白になる。中央委員会の初期名簿(土曜の会議で指導部の中核である常務委員会を名目上決定し、日曜に発表する約200人)には、現首相で胡錦涛の子飼いの李克強や、汪洋、劉鶴といった比較的経済改革に熱心な人物が含まれていなかった。つまり、常務委員会はほとんど習近平の盟友ばかりになる可能性が高い。

2013年頃から、中国ウォッチャーたちは「胡錦濤の下での自由主義の黄金時代(golden age of liberalism under Hu Jintao)」という冗談を言うようになった。当時は、市民社会がゆっくりと、そしてたどたどしく進歩しながらも、政治的に保守的だった時代をそのように考えるのは不条理に思えた。しかし、その後10年間で、この話は冗談では済まなくなった。相対的に見れば、胡錦濤の時代は今やとんでもなく自由で開放的でありそれが、残酷なフィナーレを迎えているように見える。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。

(貼り付け終わり)
(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今回も中国共産党指導者第7世代に関する論稿をご紹介する。この論稿では第7世代で各省の党常務委員や副省長、中央行政機関の副部長を務める108名の分析となっている。

 現在の段階で、各省レヴェル(中国の各省でも1カ国分くらいある、大都市になれば小国を凌駕する規模になる)の中国共産党常務委員会に入り、各省の重職を担っている人物たちがこれから10年間の最高指導部入りのためにスタートラインに立っているということになる。その数だけで100名以上いる。そこから最終的に「チャイナ・セヴン」と呼ばれる、中国共産党政治局常務委員会(国家主席や国務院総理などを務める)に入ることになる。

 彼らの多くが2018年頃から、それまで金融分野であったり、製造業分野であったりで活躍していたところから、地方の行政機関へと転身している。そして、各地方レヴェルで党常務委員会入りをし、ほとんどの場合が最も若いメンバーということになっている。

 英語の記事であるため、漢字が載っていないので、漢字の名前が分からない人たちも複数いるが、これからどんどんと分かっていくだろう。2022年秋の中国共産党大会で中央委員会に正式な委員、もしくは委員候補として第7世代が多く入ると見込まれている。前回と今回の2回の記事でご紹介した人物たちが入ると思われる。青田買いで写真だけでも眺めておくことは有意義だと思う。

(貼り付けはじめ)

先駆者たち:第20回中国共産党大会における1970年代世代の台頭(Pioneers: The Rise of the Post-1970s Generation at the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーンストン研究所部長)筆

2022年4月10日

『チャイナユーエス・フォーカス』

https://www.chinausfocus.com/2022-CPC-congress/pioneers-the-rise-of-the-post-1970s-generation-at-the-20th-party-congress

中国共産党は長年、政治的エリートの年齢層を過度に気にしてきたといっても過言ではないだろう。中南海(Zhongnanhai)が広大な国土を一党支配するためには、「幹部の世代間排除」(intergenerational deletion of cadresganbu qinghuang bujie)によって政治指導が途絶えることがないようにする必要がある。

1980年代初頭、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で死)をはじめ、陳雲(Chen Yun、1905-1995年、89歳で死)、胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳で死)などの幹部たちは、「第三グループ(third echelondisan tidui)」という概念を提唱した。これらの中国トップは、中国共産党指導部は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)や李鵬(Li Peng、1928-2019年、90歳で死)を後継者に指名するだけでなく、当時30代後半の胡錦涛(Hu Jintao、1942年-、79歳)のような若い幹部たちを、将来、江や李の後継者となる後継層のリーダーとして育成する努力をすべきだと明確に主張していた。

●中国共産党の主要問題:世代間をつなぐ継続性(The CCP’s key issue: Intergenerational continuity

「第3グループ」という言葉は1980年代から1990年代にかけて広く使われるようになった。中国共産党幹部の若いグループを選抜し、育成するというやり方は、この20年間ずっと浸透している。2021年12月、中国共産党中央組織部の陳希(Chen Xi、1953年-、68歳)部長は、複数の中国の公式宣伝媒体で広く報じられた長い論稿の中で、中国が直面している「重要かつ根本的な問題」は、党が後継世代の有能な幹部を育成できるかどうかであると述べた。陳中央組織部長は、強力な中央組織部が若い幹部たちに対して、「複数ポストでの訓練(multi-post training)」と「各層での試験(layer-by-layer tests)」を通じて、指導力を高めるための豊富な経験を提供すると明言した。さらに、陳希は「幹部の忠誠心は中国共産党の統治の魂である(Cadre loyalty is the soul of the CCP’s reign)」と率直に明言した。

当然のことながら、中国共産党当局が若い世代の指導者グループを速やかに高位に登用できなければ、異なる世代間の政治的対立が発生する可能性がある。2018年7月、習近平は中国共産党全国組織工作会議(CCP National Organizational Work Conference)で、「幹部チーム全体がやる気と希望を持てるように、各年代の幹部の熱意を存分に発揮させるべきだ」と発言した。

私の連載において前回では、現在、そして少なくとも今後10年間は、1960年代以降の世代(the post-1960s generation6G)が全国指導部の中で優位を占めていることを説明した。その次の世代である1970年代以降の世代(the post-1970s generation7G)の代表は、来年秋に発足する第20期中国共産党中央委員会でも急速に増えていくだろう。現在376名いる第19期中央委員会では、1970年代生まれの委員は2名(いずれも候補)しかいない。中国科学院副院長の周琪(Zhou Qi、1970年-)と信陽市(河南省)党委書記の蔡松涛(Cai Songtao、1974年-)である。ただし、第7世代のリーダーたちの割合は、現在の中央委員会の0.5%から第20期中央委員会では10%近くまで増加すると予想される。

zhouqi521
周琪

caisongtao521
蔡松涛

●第7世代の急速な台頭(The rapid rise of 7G leaders

現在、中国の31ある省レヴェルの行政機関には、それぞれ少なくとも1人の第7世代のリーダーが副省長に就任している。河北省では3人の副省長が第7世代のメンバーだ。省レヴェルの指導部の入れ替えが進む中、新たに省党常務委員に就任した人物の約3分の1が1970年代生まれである。

私が行った実証研究によると、2022年3月末までに、1970年代生まれの文民指導者が副省長、次官級で合計108人在職していることが分かった。軍事面では、中国の公式資料によると、2020年5月までに、人民解放軍で1970年代生まれの20人以上が軍レベル(junji)で文民指導部の副省長・副部長レヴェルに相当する少将の地位に就いている。例えば、霍建少将(Huo Jiangang、1970年-)は2019年に第49軍集団の司令官に就任した。2021年からは中国人民解放軍国防大学連合作戦学院の学院長を務めている。

huojiangango521
霍建剛

本論稿では、副省長・副部長レヴェルの第7世代の文官指導者たちに焦点を当てる。これら108人の高官のうち、96名(89%)が過去2年間に現職に任命され、73名(3分の2以上)の指導者が2021年以降にこの重要なレヴェルに進んだ(図表1参照)。2016年11月には、当時江西省党常務委員会秘書長で現在は杭州市党委書記を務める劉捷が、全国で初めて第7世代から省の党常務委員会のメンバーとなった。省党常務委員会の第7世代のメンバーは、2021年7月の13名から12月には26名に増え、半年で倍増した。

chinesecommunistparty7thgenerationgraph521
 
第7世代の指導者たちが省レヴェル・中央行政部で副省長、副部長に任命された年(総数=108名)

2022年3月までに、第7世代の省レヴェルの党常務委員は46名に達し、副省長レヴェルに在職している第7世代の指導者の半数以上が常務委員にも就任している。全体として、第7世代の集団は第6世代が支配する省の党常務委員会の委員の11%以上を占めるようになっている。

中国共産党中央組織部は最近、第7世代のリーダーたちの登用に力を注いでいる。2022年3月、諸葛宇傑(1971年-)が上海市党委副書記に就任し、全国で初めて省レヴェルの副書記を務める第7世代のリーダーとなった。これまで、第7世代の幹部で省長・中央の行政機関の部長になった者はいない。このほか、貴州省政法委書記の時光輝(1970年-)、福建省常務副省長の郭寧寧(1970年-)、チベット自治区組織部長のライ・ジィアオ(1972年-)らが第7世代の新星として挙げられる。

また、最近では、第7世代のリーダーたちが重要な省のいくつかの省都を含む主要都市の党書記に任命されている。その代表例が済南党委書記の劉強(Liu Qiang、1971年-)、厦門市党委書記の崔永Cui Yonghui、1970年-)、杭州市党委書記の劉捷(Liu Jie、1970年-)、温州市党委書記の劉小涛(Liu Xiaotao、1970年-)、蘇州市党委書記の曹路宝(Cao Lubao、1971年-)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-)、昆明市党委書記の劉洪建(Liu Hongjian、1973年-)、ウルムチ市党委書記の楊発森(Yang Fasen、1971年-)などが挙げられる。これらの指導者はいずれも各省の党常務委員を兼任している。これらの都市の行政的地位の高さから、前述の市党書記はいずれも第20回中央委員会の初委員に選出(委員候補となる可能性が高いが、委員である可能性もある)となることが予想される。彼らは、やがて国を動かすことになる次期エリート世代の先駆者たちだ。

cuiyonghui521
 
崔永輝

liuxiaotao521
劉小涛

taowei521
韦韬

yangfasen521
楊発森

●第7世代リーダーたちの人格形成における経験と人口学的な特徴(The formative experiences and demographic traits of 7G leaders

第7世代の副省長・副部長クラスの指導者108名中103名(95%)が1970年代前半に生まれている。中央値は1971年である。最も若いのは、チベット自治区常務副主席・党常務委員の任維(Ren Wei、1976年-)で、1976年生まれだ。
renwei521
任維

中国のソーシャルメディアでは最近、1970年代前半に生まれた人々を「中国で最も幸運な年齢層(the luckiest age cohort in the PRC)」と呼ぶ記事が広く流布された。その記事によると、この年齢層は、上の年齢層が経験したひもじさや飢餓の感覚を持たなかったという。なぜなら、彼らが生まれる10年前の1960年代前半に、中国当局は「天災三年(three years of natural disaster)」と呼んでいたものを既に経験していたからである。また、文化大革命世代のように、農村で農民として働く「下放青年(sent-down youths)」としての肉体的苦労を経験するには、彼らは若過ぎた。

1980年代初頭に実施された厳格な家族計画政策によって、一人っ子の家庭で育った「一人っ子世代(single-child generation)」でもない。彼らは、中国都市部の新興中産階級の家庭に生まれた最初の世代であり、「改革時代の子供たち(children of the reform era)」である。2001年の世界貿易機関(World Trade Organization WTO)加盟により、中国が世界経済に大きく組み込まれた時期に人格が掲載された。

この年齢層のリーダーたち108名のうち、女性はわずか7名(6.5%)であり、広西チワン族自治区常務副主席の蔡麗新(Cai Lixin、1971年-)、前述の福建省常務副知事の郭寧寧(1970年-)、湖南省副知事の張迎春(Zhang Yingchun、1970年-)、遼寧省統一戦線部長のフー・リージェ(Hu Lijie、1971年-)など 4名が現在地方の党常任委員を務めている。彼女たちは第20期中央委員会の委員候補の有力候補である。

cailixin521
蔡麗新
zhangyingchun521

 張迎春

当然のことながら、この第7世代のリーダーたち108名のうち97名(90%)は漢民族である。少数民族出身者は、満州族3名、回族2名、モンゴル族1名、チベット族1名、ツジャ族1名、チワン族1名、ウイグル族1名、ゲラオ族1名である。この第7世代の少数民族指導者の中には、例えば、チベット自治区党委員会秘書長の达娃次仁(Dawa Ciren、ダワ・チレン、1972年-、チベット族)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-、チワン族)、遼寧省副省長の張立林(Zhang Lilin、1971年-)、雲南統一戦線部長のチョウ・ジアン(Qiu Jiang、1972年-)、新疆ウイグル自治区党常務委員の伊力扎提・艾合提江(Ilzat Exmetjanイルザット・エクスメジャン、1975年-、チベット族)も第20期中央委員会の委員候補として有力候補であると思われる。
dawaciren521
达娃次仁
zhanglilin521
張立林

出身地別では、遼寧省、江蘇省、湖南省が最も多く、それぞれ12人、10人、9人である。本研究の第7世代リーダーのほとんど、88名(81%)が1990年代に中国共産党に入党している。これらの第7世代のリーダーたちは全員大学を卒業しており、102名(94%)が大学院レヴェルの学位を取得し、そのうち58人(53.7%)が博士号を取得している。第7世代のリーダーたちが最も多く学部教育を受けた大学は、北京の清華大学(8人)、人民大学(7人)である。

このうち3分の1以上(34.3%)は工学を専攻し、27名(25%)が経済、金融、会計を学んでいる。この2つの分野は、第7世代の年齢層における2つの重要な専門分野である。人文科学(言語、歴史、哲学)を専攻したリーダーは17名(15.7%)にのぼる。12名(11.1%)は政治や法律を学んでいる。また、12名(11.1%)は、数学や統計学などの自然科学を専攻している。

また、23人のリーダーたちの公式の経歴には、客員研究員や学位候補生として海外に留学した経験があることが記されている。そのほとんどが欧米諸国への留学で、最も多いのはアメリカ(9名)、次いでイギリス(4名)、シンガポール(4名)となっている。例えば、江西省副省長の任珠峰(Ren Zhufeng、1970年-)は、1999年から2005年までの6年間、イギリスで金属鉱物関係の会社に勤務しながら、ロンドン・ビジネススクールでMBAを取得し、その後、中国中央財経大学で経済学博士号を取得した。中国五鉱集団公司(China Minmetals Corporation)で部長、CEO補佐、総経理、党書記、取締役会議会長を16年務めた後、2021年に江西省副省長兼党常務委員に就任した。renzhufeng522

任珠峰

chinesecommunistparty7thgenerationgraph522

図表2:第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門

図表2は第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門を示している。ほぼ80%が地方指導部に所属している。省庁の指導部や企業・金融機関に勤務する人はそれぞれ5.6%に過ぎない。中国の27の省庁の副部長のうち、第7世代の出身者は朱忠明財務副部長(Zhu Zhongming、1972年-)、叢)亮国家発展改革委員会副部長(Cong Liang、1971年-)など少数にとどまっている。中央の党機関のクラスタは最も低い割合(2.8%)である。その他の中央機関(中国共産主義青年団、中国科学院、新華社通信のリーダーなど)は6.5%である。

zhuzhongming521
朱忠明

congliang521
(叢)亮

この人事配置は、省級指導部が中国共産党の国家指導部への重要な足がかりになるという長年の傾向を再確認するものである。しかし、第7世代の新星たちの経歴を詳しく見てみると、彼らの多くは中国の旗艦企業や大手金融機関でより広範な指導経験を積んでいることがわかる。更に、習近平時代には、地域横断的、部門横断的、政府・企業横断的な経験に基づいてエリートが採用・昇進されることが多くなっている。この重要な現象は、本連載の次のエッセイで取り上げるが、もっと注目されてもよいだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 今年秋の第20回中国共産党大会で習近平の任期延長が決定されると、中国共産党指導部第6世代が最高指導者となる芽がなくなってしまうことになる。習近平が2032年まで中国共産党総書記、2033年まで国家主席を務めるということになると、10年後には第7世代(1970年代生まれ)が最高指導部の適齢期となる。この10年で第7世代が人事面で抜擢、昇進していくだろう。その顔ぶれを見ておくことはこれからの10年にとって重要である。

 1970年代生まれの第7世代は現在、地方の各省の最高幹部(常務委員や副省長など)を務めている。それぞれが金融(銀行)、港湾管理、鉄鋼などの専門分野を持ち、専門分野で成果を挙げて、行政部門へと異動となったのがだいたい2018年後半のようだ。既に、中央の最高指導部(政治局常務委員7名を含む政治局委員25名)もしくはそれらを含む中央委員(200名)に入る競争が始まっている。中国の人口を考えるとこうした最高指導部に入るのは至難の業である。

 習近平体制になって、幹部抜擢の要素としては「政治的道徳性」が必要であるようだ。汚職に手を染めず、習近平体制に忠誠を誓うということが必要なようだ。これから下にある記事にある人物たちが中国政治の表舞台に出てくることになるということで、その顔と名前を今から見ておくことは有意義なこととなる。

(貼り付けはじめ)

中国政治

解説:共産党の台頭するスターたち:のちに最高指導部層に達するかもしれない中国の第7世代指導者たち(Explainer | Communist Party rising stars: China’s seventh-generation leaders who may eventually reach the top

・競争者たちの多くは観光振興、港湾管理、都市計画などの専門分野の経験者が多い。

・1960年代生まれのトップ指導者たちは、トップポストへの挑戦というより、定年まで習近平の下で働き続けることになりそうだ。

ウィリアム・ジェン筆

2021年6月26日

『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙

https://www.scmp.com/news/china/politics/article/3138537/communist-party-rising-stars-chinas-seventh-generation-leaders
中国は来年開催される5年に1度の全国代表大会で、次の大規模な指導部再編を発表する予定だ。そこでは、共産党の最高権力機関である中央委員会(200人)への昇格が、習近平国家主席の将来の後継者となり得るかどうかが注視されることになる。

中央委員会のメンバーになることは、25人の政治局、より排他的な政治局常務委員、さらには総書記のポストへと、党内でさらに昇進するための前提条件だ。

1970年代生まれは「第7世代」と呼ばれ、多くの幹部が定年を迎える中、権力中枢への進出が期待されている。

共産党研究の歴史家たちは、毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平と、歴代の最高幹部たちを特徴づけしてきた。しかし、習近平は2期目以降も留任するようで、第6世代を構成する1960年代生まれの幹部は、自らトップの座を狙うのではなく、定年まで習近平の下で働き続けることになりそうである。

第7世代の高官たちは、各省の事実上の意思決定機関である省レヴェルの党政治局常務委員を務めているか、党組織や政府でトップの地位に就いている。彼らには最高の地位まで上昇する機会がある。彼らの多くはまだ省レヴェルの党常任委員会の下位のポジションにいる。例えば秘書長(secretary general)といった地位だが、これは大抵の場合には常任委員会の中で一番下の地位となる。劉洪建、劉捷、時光輝といった少数の人物たちは治安部門や党の人材部門担当でより高い地位に就いている。これには彼らの個別の能力をテストしようという北京の思惑が見える。

第7世代は中国全土の出身であるが、いくつかの共通点を持っている。彼らは最低限でも大学の卒業生であり、将来の承認に備えて中国共産党中央党学校(party’s Central Party School)で学んだ経験を持つ。

彼らの多くはいくつかの専門分野を持っている。それらは観光振興、港湾管理、都市計画、ハイテク地区開発である。

私たちは第7世代の中で、既に省レヴェルの党常任委員となっている有望人物たちを年齢が若い順に紹介していく。

■劉洪建(Liu Hongjian、1973年-、48歳)
‎liuhongjian513

今年5月、劉は雲南省政法委員会(Yunnan Political and Legal Affairs Commission)書記に昇格し、中国で最年少の省レヴェルの党委常務委員となった。雲南省政法委員会は省内の治安と法執行部門を監督する組織である。

中国南東部の福建省寧徳市福鼎市に生まれ、福建省で最も貧しい地域の1つである寧徳市で20年以上を過ごした。習近平は1988年から1990年にかけて寧徳市党委書記を務めた。

2012年、劉は福建省の観光振興をリードする役職に昇進し、その後、2018年7月に南平市長に就任した。

劉は2020年7月に雲南省の副省長に就任するために福建省を離れた。

■呉浩(Wu Hao、1972年-、49歳)

wuhao511

第7世代で2番目に若い人物である。中国の南西部の江西省党政治局常務委員、省党委書記を務める。

彼の同僚たちと同様、呉は、キャリアのほとんどを故郷の河南省で過ごし、河南省の交通部門や住宅・都市農村開発部門の責任者にまで上り詰めた。

呉は河南省を離れ2020年3月に江西省副省長に就任し、2021年61日に現職に昇格した。

■費高雲(Fei Gaoyun、1971年-、49歳)

feigaoyun521

費高雲は1月に、江蘇省東部の党常務委員兼政法委員会書記に就任した。

中国で尊敬を集める初代首相の周恩来の故郷である江蘇省淮安市に生まれ、電子工学の学位を取得後、江蘇省でキャリアを積んできた。

2008年に江蘇省儀徴市の党委書記、2012年に南通市、2017年に常州市の党委書記を務めるなど、様々な指導的役割を担ってきた。

2018年に江蘇省副省長に就任した後、3年後に省党常務委員会に入り、3年後に現職に就いた。

■諸葛宇傑(Zhuge Yujie、1971年-、50歳)

zhugeyujie521

諸葛宇傑は2017年5月に上海市党常任委員と党委秘書長に昇進した。

諸葛は中国の金融部門の首都とも言うべき上海で生まれ育ち、キャリアの全てで過ごしてきた。上海の港でキャリアをスタートさせ、上海国際港務グループのCEOまで上り詰めた後、2013年に区長として上海市楊浦区のトップに赴任した。

2016年に副秘書長として上海市党委員会に昇格し、2017年に現職に昇格した。

■劉強(Liu Qiang、1971年-、50歳)

liuqiang521

劉強は東部山東省の副省長から、2020年6月に省党常務委員、省党委員会秘書長に昇格した。

劉強は他の多くの同業者と異なり、1993年に国営の中国農業銀行(Agricultural Bank of China ABC)でキャリアをスタートさせた。上海で中国農業銀行の業務責任者を務めた後、2016年に中国銀行の副頭取に転出した。

2018年に山東省副省長に転身し、昨年6月に現在の地位に昇格した。

■連茂君(Lian Maojun、1970年-、50歳)

Lianmaojun

連は2020年4月から天津自由貿易区の区長と天津市党常務委員を務めている。

遼寧省北部に生まれた連は、ITの学位を取得後、キャリアの大半を省都の瀋陽で過ごした。2016年に瀋陽市政府の秘書長に昇格するまでの10年以上、瀋陽の様々なハイテク区の発展をリードしてきた。

2019年11月に北京近郊の主要工業都市の副市長として天津に赴任し、その5カ月後に現職に昇格した。

■周紅波(Zhou Hongbo、1970年-、50歳)

zhouhongbo521

周紅波は2021年1月、南部の海南省にある有名な観光都市である三亜の党委書記、省党常務委員に任命された。

海南省に赴任する前は、主に出身地である広西チワン族自治区で仕事をしていた。農業の専門家であり、同自治区の農業部門を経て、広西チワン族自治区の州都である南寧市の副市長に昇進した。そして、2011年、南寧市長に就任した。

2020年12月に海南省に移動し、1か月後には現在の地位に就いた。

■李雲沢(Li Yunze、1970年-、50歳)

liyunze521

東部の山東省出身の李雲沢は、2021年5月に四川省の党常務委員と南西部地区担当の副省長に昇格した。

土木工学とマルクス主義理論の学位を持つ李雲沢は、山東省の劉強と同じく、国営の中国建設銀行で20年以上働いた。2016年、中国最大の国有銀行である中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of ChinaICBC)の副頭取に転出した。

彼は銀行を離れ、2018年に四川省副省長に就任した。現在の党職への昇進はそれから20カ月後のことだった。

■夏林茂(Xia Linmao、1970年-、51歳)

xialinmao521

夏林茂は、2021年2月に北京市教育委員会主任と北京市党常務委員に就任した。

清華大学を卒業し、建築を専攻した夏林茂は工学博士号を取得している。 北京の都市計画委員会で20年近く過ごし、2011年に北京市石景山区長に昇格した。

教育担当の前に、2017年に北京市美雲区、2018年に東城区の党委書記をそれぞれ務めた。

■劉捷(Liu Jie、51歳)

liujie521

劉捷は2016年5月に東南部の江西省党常務委員会に入り、省党委員会秘書長を務めた。1970年代生まれの政府高官として初めて省党常務委員に就任したことになる。

2018年5月に南西部の貴州省に異動し、同省の常務委員と常務委員会秘書長に就任した。2020年7月には、貴州省の幹部人事を担当する省党組織部長に昇格した。

劉捷は北京科学技術大学冶金学科を卒業し、共産党創立者の毛沢東が生まれた湖南省中部の湘潭市の国有製鉄所で16年間勤務した。

2008年に湖南省商務庁長に昇進し、2011年に江西省新余市の市長に転出した。

時光輝Shi Guanghui、1970年-、51歳)
shiguanghui521

時光輝は2018年11月、南西部貴州省の省政法委員会書記と省党常務委員に就任した。

東部の安徽省に生まれた時光輝は、上海の同済大学道路交通工学科を卒業後、上海市工程建設発展有限公司(Shanghai Municipal Engineering Construction Development Co., Ltd.)で15年間勤務した。2005年には上海市工程管理局副局長に就任した。

2006年から2011年まで上海市江南区と奉賢区で指導的立場を務め、2013年に上海市副市長に就任した。

2018年に貴州省に赴任し、現職に就任した。

その他の人々も見ていく。

以下のメンバーは、現在、地方の党常務委員ではないが、重要なポストを歴任しており、また、党内の出世競争で先頭走者であり、将来の指導者候補と目される人物である。

■郭寧寧(Guo Ningning、1970年-、50歳)

quoningning521
郭寧寧は2018年から東南部の福建省の副知事を務めている。1970年代に生まれた女性党員で唯一、地方の指導者階級に到達している。彼女は地方政権に入る前に、中国銀行と中国農業銀行で豊富な銀行経験を積んだ。

■覃偉中(Qin Weizhong、1971年-、50歳)

qinweizhong521

覃偉中は中国のハイテク産業の「首都」である深圳市の最年少市長に、2021年5月に正式に就任した。名門清華大学を卒業し、現在の中国共産党中央組織部長の陳希(Chen Xi、1953年-、68歳)の子飼いとして広く知られている。

■周亮(Zhou Liang、1971年-、50歳)

zhouliang521

周亮はキャリアの最初で現在国家副主席を務める王岐山の筆頭秘書を務めていた。2018年3月には中国の金融部門の監督機関である中国銀行保険監督管理委員会(China Banking and Insurance Regulatory CommissionCBIRC)の副主席に就任した。

■李欣然(Li Xinran、1972年-、49歳)

lixinran522

李欣然は、そのキャリアのほとんどを中国共産党の反腐敗組織で過ごした。現在、中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)の懲戒部長を務めており、中国共産党の懲戒機関である中央紀律検査委員会を率いる最有力候補と目されている。

=====

北京の指導者「第7世代」が表舞台に登場しつつある(Beijing's "seventh generation" of leaders emerges onto stage

この記事では1970年代生まれの高官たちを取り上げる。彼らの中の1人が習近平から統治を引き継ぐことになるだろう。最高指導者である習近平は中国共産党総書記の座に2032年までとどまり、国家主席には2033年までとどまることが可能だ。10名の高官たちが党のトップの地位に就くために有利な位置にいる。将来の指導者たちに習近平がまず求めるのは「政治的道徳性(political morality)」である。

林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)筆

『アジア・ニューズ』誌

2019年4月19日

https://www.asianews.it/news-en/Beijings-seventh-generation-of-leaders-emerges-onto-stage-46812.html

chinesecommunistparty7thgeneration525
chinesecommunistparty7thgenerationleaders511
北京(アジア・ニュース)発。習近平が政権を去る決意をした時、誰にその遺産を渡すのだろうか。2018年3月、中国の「指導部の中枢(heart of the leadership)」は憲法を改正し、国家主席の任期の制限を撤廃した。 2020年半ばには、中国共産党「第6世代」の高官の多くが引退を始める。従って、中国の将来の多くは、1970年代生まれの「第7世代(7G)」に属する高官の手に委ねられる。これは、香港中文大学教授で、中国に関するいくつかのエッセイの著者である林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム)が支持するテーゼである。その中で、習近平の後継者として期待される新星たちを紹介している。

●導入-第7世代は次の権力者となりうるのか?

中国の将来のほとんどは1970年代生まれの幹部たちの手に握られている。彼らは中国共産党「第7世代(Seventh Generation7G)」に所属している。2018年第4四半期、彼らの中から15名ほどが副省長、行政部の副部長、その他同等の地位といった主張な地域的な重職へと昇進した。習近平国家主席が2018年3月に憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃したことで、習近平は健康状態が許す限り、80歳になる2032年まで党総書記を、2033年まで国家主席を務める可能性が出てきた(Asia.Nikkei.com:2019年3月15日、香港自由新聞:2018年2月25日)。このことは、習近平が中国共産党指導部のいわゆる「終身核心(eternal core)」として、いずれ第7世代にバトンタッチする可能性を提起している。

1980年代に「改革の偉大な設計者(Great Architect of Reform)」鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で死)が確立した継承方式に従い、「第3世代の核心」江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)元国家主席は2002年の第16回党大会で第4世代の胡錦濤(Hu Jintao、1942年-、79歳)に政権を譲り渡した。胡錦濤前主席は2期10年を務めた後、2012年の第18回党大会で第5世代代表の習近平に政権を委ねた。もし習近平が中国共産党の最近の慣例に従うなら、習近平と現在の政治局常務委員の大半は1950年代生まれであり、1960年代生まれの第6世代(sixth generation6G)の幹部が後継者となるはずである。しかし、習近平が2032年の第22回党大会まで党の最高幹部を務めるとすれば、1960年生まれの新星は72歳であり、中国共産党政治局常務委員会の定年である68歳を4年過ぎていることになる[1]。従って、現在25人いる政治局員のうち、胡春華副総理(Hu Chunhua、1963年-、59歳)や陳敏爾重慶市党委書記(Chen Min’er、1960年-、61歳)など、第6世代の有力者は、習近平の後継者候補から既に外れたようである。

huchunha522
胡春華
chenminer521

陳敏爾

第22回党大会はまだ13年先であり、第7世代の幹部たちは現在、次官級のポストにしかいないため、誰が次期総書記の政治的手腕と持続力を備えているかを推測するのは時期尚早だ。しかし、大臣クラスの幹部は通常65歳で引退することから、第6世代所属の幹部の多くは2020年代半ばには引退時期を迎えることになる。2018年7月に開催された党組織に関する全国会議で、習主席は「喫緊の要求と長期的な戦略的ニーズに基づき、指導者に関して全ての地域と部門で特定量の優れた若手幹部を育成すべきだ」と指摘した(中国新聞社:2018年7月10日、中国青年報:2018年7月10日)。最高指導者の指示は、その1週間前に開かれた、中国の特色ある社会主義の新時代に向けた「質の高い若手幹部の発掘、伝播、昇格」を目的とした政治局会議の後に出されたものである。政治局は、党指導部の若返りは「国家の長期統治と永続的な安定という目標だけでなく、党の事業に取り組む後継者を確保するための主要な戦略的任務」だと指摘した(新京報:2018年6月30日、新華社:2018年6月29日)。

●中国共産党第7世代の新進気鋭の人物は誰なのか?

1970年代前半に生まれた10人の官僚(図参照)は、その大半が2018年半ば以降に昇進しており、中国共産党の官僚競争の狡猾な回廊の特徴である地位争いで優位に立っているようだ。工業、工学、金融などの経歴を持つこれらのテクノクラート的な新進気鋭の官僚は、ほとんどが地方行政官として活躍している。この10人のうち、省・直轄市の常務委員(常委[changwei]Member of the CCP Standing CommitteeMSC)に就任したのは3人だ。その3人とは 劉捷(1970年-)は貴州省党委員会の常務委員と秘書長、諸葛宇杰(1971年-)は上海市党委員会の常務委員と秘書長、時光輝(1971年-)は貴州省党委員会の常務委員で、「安定維持(stability maintenanceweiwen、維穏)」の重要政策を含む政法業務担当をそれぞれ務めている。中国には、党委員会、特に党常務委員(changwei)が政策を決定し、それを同じレヴェルの政府組織が実行するという慣行が長く続いている。よって、ある地域の共産党委員会の常務委員(changwei)は、同じ省・市の副省長や副市長よりも上位に位置する。それは副省長や副市長は常務委員にはまだ就任していないかもしれないからだ(Apple Daily [Hong Kong]:2019年3月25日、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:2019年1月5日、Jiangsu.sina.com:2019年1月2日、China Economics Net:2018年12月10日)。

●チャート:中国共産党「第7世代」指導部の主要な台頭しつつある指導者たちChart:

2016年11月、劉捷は46歳で江西省の党常務委員に就任し、第7世代のリーダーとしての記録を打ち立てた。2000年、劉は30歳の若さで湘鋼第二製錬廠の董事長(社長)に就任し、湖南省の鉄鋼業で頭角を現した。2011年に江西省に赴任し、新余市長に就任した。その5年後、江西省委員会の常務委員と秘書長に就任し、劉は大ブレイクを果たした。2018年半ばには貴州省に赴任し、省委員会の常務委員と秘書長に就任した(『新聞[上海]』:2018年5月17日、『捜狐.com』:2018年5月17日)。諸葛宇杰も時光輝も、上海の国営企業でエンジニアとしてキャリアをスタートさせた後、地方の県や都道府県にほぼ相当する市区の行政官となった。諸葛は上海の海事技術部門を経て、楊浦区の党委員会のメンバーに昇進した。45歳で上海市党委員会弁公庁主任となり、昨年、秘書長に昇格した(『聯合早報』[シンガポール]:2018年11月21日、Baidu News:2018年11月20日)。時光輝は上海の名門同済大学を卒業後、15年間、市公共事業当局のさまざまな部署でエンジニアや管理職として働いてきた。上海市静安区の副区長になると、行政に転身した。2011年には奉賢区の党委書記に、2013年には上海市の複数の副市長の1人にまで上り詰めた。2018年末には貴州省の党常務委員に就任した(Phoenix TV :2017年4月24日、Caixin.com:2017年4月24日)。

第7世代の第2グループとしては、主要な省の5人の副知事で構成されている。郭寧寧(1970年-)は、次官相当まで上り詰めた数少ない40代女性の1人である。遼寧省出身で清華大学を卒業後、46歳で中国農業銀行副頭取に就任し、銀行業界でキャリアを積んだ。彼女は2018年末に福建省副省長に就任した。習近平主席が17年間地方行政官として過ごした福建省を担当しているということは、昇進の見込みという点では有利に働く可能性がある(新北京報:2018年11月23日)。今回の第7世代幹部の中で最も若い楊晋柏(Yang Jinbo1973年-)は、エネルギー分野でその技術力と管理能力を証明した。陝西省出身の彼は、41歳で中国南方電網公司の副総経理に上り詰めた。昨年、広西チワン族自治区に赴任し、副主席(副省長相当)の1人に任命された。幹部が最高指導部を目指す場合、少数民族と働いた経験が大きなプラスになるとされることが多い(Caixin.com;2018年11月29日)。

yangjinbo521
楊晋柏

他に第7世代で副省長を務めるのは、李雲沢(1970年-)、劉強(1971年-)、費高雲(1971年-)で、それぞれ四川省、山東省、江蘇省にいる。劉強は、「金融の魔術師(financial wizard)」と呼ばれ、中国人民銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を経て、2016年に世界最大の銀行である中国工商銀行(Industrial and Commercial Bank of China ICBC)の副頭取に就任した。その後、昨年になって、8人いる副省長の1人として四川省に異動した(『人民日報』:2018年9月30日)。福建省の郭と同じく、劉は中国農業銀行で革新的な経営者として頭角を現した。中国銀行の副総裁を短期間務めた後、2018年9月に山東省に移った(Caixin.com:2018年9月14日)。江蘇省出身の費高雲はキャリアのほぼ全てを地元江蘇省の草の根レヴェル、地域レヴェルの行政ポストで過ごした。彼は2017年に大都市常州市の党委書記に上り詰めた後、中国で最も豊かな省の1つである江蘇省の副知事に任命された(Caixin.com:2018年1月31日)。

国務院をはじめ、中央政府には第7世代のメンバーはほとんどいない。これは、習近平主席が国家より党の優位性を主張し、重要な政策は中央と地方の両方で中国共産党幹部が決定することを反映しているのだろう。これまで、第7世代のメンバーは2人確認されている。いずれも国務院の最重要監督機関の1つである中国銀行保険監督管理委員会(China Banking and Insurance Regulatory Commission CBIRC)に所属している。周亮(Zhou Liang、1971年-)は同委員会の6人の副主席の1人である。李欣然(Li Xinran、1972年-)は、CBIRCの規律検査部部長を務めている。周と李はともに、中国の最高レヴェルの反腐敗機関である党中央規律検査委員会(Central Commission for Disciplinary Inspection CCDI)を務めた経験がある(華夏時報:2018年11月19日、証券時報:2018年3月21日).

●第7世代のその他の有望な台頭する人物たち

第7世代指導者のうち、党内ヒエラルキーへの昇格を急ぐ人物たちとは別に、現在、大衆組織や統一戦線組織など、政治的に敏感でない分野で活躍している人物にも注目すべき点がある。共産主義青年団(Communist Youth League CYL)中央委員会常務書記の汪鴻雁(Wang Hongyan、1970年-)はその好例である。汪鴻雁は湖北省の地方行政で成果を挙げ、2008年に共青団の最高幹部となった。習近平国家主席が共青団を馬鹿にするような発言をしたことはありつつも、彼女が主に貢献するのは青年関連の仕事となるだろう(China-onway.com:2019年2月20日)。アメリカで学んだ弁護士の李波(Li Bo、1972年-)は、2004年に中国に帰国後、中国人民銀行法務部、金融政策部などで急成長を遂げ、昨年、中国人民銀行副総裁に就任した。昨年、華僑の間で中国のイメージを高めることなどを使命とする「中華全国帰国華僑連合会(All-China Federation of Returned Overseas Chinese、中全国华侨联合会)」の副会長に就任した(Finance.caixin.com:2018年9月14日)。
wanghongyang521

汪鴻雁

libo521
李波

●習近平が設定する必要条件は「政治的道徳性」

習近平は2012年末に中国共産党総書記に就任して以来、自らの権力拡大の過程で、習近平が個人的に知っている、最高指導者への無条件の忠誠を公言している幹部たちを最高幹部に登用してきた。いわゆる「習一族軍(Xi Family Army)」は、習近平が福建省(1985-2002年)、浙江省(2002―2007年)、上海(2007年)で地方統治を担当した際の部下や仲間で構成されている。その他の習近平の子飼いは、かつての同級生や故郷の陝西省に関係する官僚である(チャイナ・ブリーフ:2018年2月13日)。しかし、第7世代の新進リーダーたちは、党の「最高指揮官(zuigaotongshuai、最高统帅)」と個人的なつながりがあることが知られている者はほとんどいない。しかし、習近平が定めた2つの重要な昇格基準をクリアしていることは重要である。1つ目は、「専門能力と道徳を兼ね備え、道徳を優先すること(decai jianbei, yide weixian / 德才兼以德先)」である。習近平は最近、党の理論誌『真理探究』に発表した論文で、「忠誠心があり、道徳的に清潔で、責任を取れる質の高い幹部を育成する(nurture a corps of high-quality cadres who are loyal and [morally] clean, and who can take up responsibilities)」と誓った。習近平は「道徳(morality)」の問題について、「政治道徳、職業道徳、社会道徳、家庭道徳(political morality, professional morality, social morality and family morality)が含まれており、幹部たちはこれらの面で合格しなければならない」と述べた。最重要なのは、政治的道徳の面で合格しなければならないということだ」(人民日報:2019年1月16日付、人民日報:2019年1月6日)と述べている。

第7世代の幹部の大半は金融や工学などの専門資格を十分に有していることから、習近平の厳しい専門能力要件(stringent requirements on professional capability)を満たすのに最適な人材であると思われる。第7世代の幹部の多くが銀行経験者であることは、国家の社会負債総額がGDPの約3倍と推定される現在、習指導部が財政に慎重であることを反映していると思われる(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト:2019年2月15日)。習近平は2016年の演説で、幹部たちに「新発展概念(new development concepts)」をしっかりと身につけるように促した。これらの概念は、「新発展概念には、時代の特徴が詰まった新しい知識、新しい経験、新しい情報、新しい要件が含まれるため、知的・専門的な要件を指す」と指摘した(人民日報:2016年1月3日)。中央党校の王東起教授によると、「幹部の専門的心構え、専門的達成度、専門的能力の能力とレヴェルを絶え間なく高める」ことは、幹部がより高い政治的地位を獲得し、より多くの政治的責任を負うことにもつながる(『人民日報』201897日)。

先月開催された全国人民代表大会と中国人民政治協商会議では、各級幹部は「習近平同志を核心として、党中央の下でさらに強固に団結する」よう求められた(チャイナ・ブリーフ:2019年3月22日)。習近平とその側近が「政治的道徳性(political morality)」と「党の核心(party core)」への忠誠を同一視しているとすれば、習近平への忠誠を表明することは、職業上の追求と行政の両方で最高のパフォーマンスを発揮することにも取って代わるかもしれない。つまり、習近平が「五湖四海(five lakes and the four seas)」の出身者たち、つまり、経験も派閥のつながりも多様でなければならないという公約を守るかどうかにかかっている(Youth.cn:2015年5月19日)。

※林和立(ウィリー・ウー=ラップ・ラム、Willy Wo-Lap Lam)博士:ジェイムズタウン・ファウンデイション上級研究員、『チャイナ・ブリーフ』定期寄稿者。香港中文大学歴史学部中国研究センター・国際政治経済プログラム修士課程非常勤教授。中国に関する5冊の著作があり、『習近平時代の中国政治』(2015年)がある。

脚注

[] 中国共産党綱領には、総書記の在任期間に関する規定がない。また、国の最高統治機関である政治局常務委員会の委員の定年についても何も書かれていない。しかし、5年ごとの党大会の開催時に、68歳に達した幹部は政治局員になれないという慣例は、よく守られている。しかし、総書記については例外がある。1997年の第15回党大会では、当時71歳だった江沢民が5年間、党委員と総書記を兼任することを許可された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ