古村治彦です。

 今回も中国共産党指導者第7世代に関する論稿をご紹介する。この論稿では第7世代で各省の党常務委員や副省長、中央行政機関の副部長を務める108名の分析となっている。

 現在の段階で、各省レヴェル(中国の各省でも1カ国分くらいある、大都市になれば小国を凌駕する規模になる)の中国共産党常務委員会に入り、各省の重職を担っている人物たちがこれから10年間の最高指導部入りのためにスタートラインに立っているということになる。その数だけで100名以上いる。そこから最終的に「チャイナ・セヴン」と呼ばれる、中国共産党政治局常務委員会(国家主席や国務院総理などを務める)に入ることになる。

 彼らの多くが2018年頃から、それまで金融分野であったり、製造業分野であったりで活躍していたところから、地方の行政機関へと転身している。そして、各地方レヴェルで党常務委員会入りをし、ほとんどの場合が最も若いメンバーということになっている。

 英語の記事であるため、漢字が載っていないので、漢字の名前が分からない人たちも複数いるが、これからどんどんと分かっていくだろう。2022年秋の中国共産党大会で中央委員会に正式な委員、もしくは委員候補として第7世代が多く入ると見込まれている。前回と今回の2回の記事でご紹介した人物たちが入ると思われる。青田買いで写真だけでも眺めておくことは有意義だと思う。

(貼り付けはじめ)

先駆者たち:第20回中国共産党大会における1970年代世代の台頭(Pioneers: The Rise of the Post-1970s Generation at the 20th Party Congress

チェン・リー(ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーンストン研究所部長)筆

2022年4月10日

『チャイナユーエス・フォーカス』

https://www.chinausfocus.com/2022-CPC-congress/pioneers-the-rise-of-the-post-1970s-generation-at-the-20th-party-congress

中国共産党は長年、政治的エリートの年齢層を過度に気にしてきたといっても過言ではないだろう。中南海(Zhongnanhai)が広大な国土を一党支配するためには、「幹部の世代間排除」(intergenerational deletion of cadresganbu qinghuang bujie)によって政治指導が途絶えることがないようにする必要がある。

1980年代初頭、鄧小平(Deng Xiaoping、1904-1997年、92歳で死)をはじめ、陳雲(Chen Yun、1905-1995年、89歳で死)、胡耀邦(Hu Yaobang、1915-1989年、73歳で死)などの幹部たちは、「第三グループ(third echelondisan tidui)」という概念を提唱した。これらの中国トップは、中国共産党指導部は江沢民(Jiang Zemin、1926年-、95歳)や李鵬(Li Peng、1928-2019年、90歳で死)を後継者に指名するだけでなく、当時30代後半の胡錦涛(Hu Jintao、1942年-、79歳)のような若い幹部たちを、将来、江や李の後継者となる後継層のリーダーとして育成する努力をすべきだと明確に主張していた。

●中国共産党の主要問題:世代間をつなぐ継続性(The CCP’s key issue: Intergenerational continuity

「第3グループ」という言葉は1980年代から1990年代にかけて広く使われるようになった。中国共産党幹部の若いグループを選抜し、育成するというやり方は、この20年間ずっと浸透している。2021年12月、中国共産党中央組織部の陳希(Chen Xi、1953年-、68歳)部長は、複数の中国の公式宣伝媒体で広く報じられた長い論稿の中で、中国が直面している「重要かつ根本的な問題」は、党が後継世代の有能な幹部を育成できるかどうかであると述べた。陳中央組織部長は、強力な中央組織部が若い幹部たちに対して、「複数ポストでの訓練(multi-post training)」と「各層での試験(layer-by-layer tests)」を通じて、指導力を高めるための豊富な経験を提供すると明言した。さらに、陳希は「幹部の忠誠心は中国共産党の統治の魂である(Cadre loyalty is the soul of the CCP’s reign)」と率直に明言した。

当然のことながら、中国共産党当局が若い世代の指導者グループを速やかに高位に登用できなければ、異なる世代間の政治的対立が発生する可能性がある。2018年7月、習近平は中国共産党全国組織工作会議(CCP National Organizational Work Conference)で、「幹部チーム全体がやる気と希望を持てるように、各年代の幹部の熱意を存分に発揮させるべきだ」と発言した。

私の連載において前回では、現在、そして少なくとも今後10年間は、1960年代以降の世代(the post-1960s generation6G)が全国指導部の中で優位を占めていることを説明した。その次の世代である1970年代以降の世代(the post-1970s generation7G)の代表は、来年秋に発足する第20期中国共産党中央委員会でも急速に増えていくだろう。現在376名いる第19期中央委員会では、1970年代生まれの委員は2名(いずれも候補)しかいない。中国科学院副院長の周琪(Zhou Qi、1970年-)と信陽市(河南省)党委書記の蔡松涛(Cai Songtao、1974年-)である。ただし、第7世代のリーダーたちの割合は、現在の中央委員会の0.5%から第20期中央委員会では10%近くまで増加すると予想される。

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周琪

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蔡松涛

●第7世代の急速な台頭(The rapid rise of 7G leaders

現在、中国の31ある省レヴェルの行政機関には、それぞれ少なくとも1人の第7世代のリーダーが副省長に就任している。河北省では3人の副省長が第7世代のメンバーだ。省レヴェルの指導部の入れ替えが進む中、新たに省党常務委員に就任した人物の約3分の1が1970年代生まれである。

私が行った実証研究によると、2022年3月末までに、1970年代生まれの文民指導者が副省長、次官級で合計108人在職していることが分かった。軍事面では、中国の公式資料によると、2020年5月までに、人民解放軍で1970年代生まれの20人以上が軍レベル(junji)で文民指導部の副省長・副部長レヴェルに相当する少将の地位に就いている。例えば、霍建少将(Huo Jiangang、1970年-)は2019年に第49軍集団の司令官に就任した。2021年からは中国人民解放軍国防大学連合作戦学院の学院長を務めている。

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霍建剛

本論稿では、副省長・副部長レヴェルの第7世代の文官指導者たちに焦点を当てる。これら108人の高官のうち、96名(89%)が過去2年間に現職に任命され、73名(3分の2以上)の指導者が2021年以降にこの重要なレヴェルに進んだ(図表1参照)。2016年11月には、当時江西省党常務委員会秘書長で現在は杭州市党委書記を務める劉捷が、全国で初めて第7世代から省の党常務委員会のメンバーとなった。省党常務委員会の第7世代のメンバーは、2021年7月の13名から12月には26名に増え、半年で倍増した。

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第7世代の指導者たちが省レヴェル・中央行政部で副省長、副部長に任命された年(総数=108名)

2022年3月までに、第7世代の省レヴェルの党常務委員は46名に達し、副省長レヴェルに在職している第7世代の指導者の半数以上が常務委員にも就任している。全体として、第7世代の集団は第6世代が支配する省の党常務委員会の委員の11%以上を占めるようになっている。

中国共産党中央組織部は最近、第7世代のリーダーたちの登用に力を注いでいる。2022年3月、諸葛宇傑(1971年-)が上海市党委副書記に就任し、全国で初めて省レヴェルの副書記を務める第7世代のリーダーとなった。これまで、第7世代の幹部で省長・中央の行政機関の部長になった者はいない。このほか、貴州省政法委書記の時光輝(1970年-)、福建省常務副省長の郭寧寧(1970年-)、チベット自治区組織部長のライ・ジィアオ(1972年-)らが第7世代の新星として挙げられる。

また、最近では、第7世代のリーダーたちが重要な省のいくつかの省都を含む主要都市の党書記に任命されている。その代表例が済南党委書記の劉強(Liu Qiang、1971年-)、厦門市党委書記の崔永Cui Yonghui、1970年-)、杭州市党委書記の劉捷(Liu Jie、1970年-)、温州市党委書記の劉小涛(Liu Xiaotao、1970年-)、蘇州市党委書記の曹路宝(Cao Lubao、1971年-)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-)、昆明市党委書記の劉洪建(Liu Hongjian、1973年-)、ウルムチ市党委書記の楊発森(Yang Fasen、1971年-)などが挙げられる。これらの指導者はいずれも各省の党常務委員を兼任している。これらの都市の行政的地位の高さから、前述の市党書記はいずれも第20回中央委員会の初委員に選出(委員候補となる可能性が高いが、委員である可能性もある)となることが予想される。彼らは、やがて国を動かすことになる次期エリート世代の先駆者たちだ。

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崔永輝

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劉小涛

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韦韬

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楊発森

●第7世代リーダーたちの人格形成における経験と人口学的な特徴(The formative experiences and demographic traits of 7G leaders

第7世代の副省長・副部長クラスの指導者108名中103名(95%)が1970年代前半に生まれている。中央値は1971年である。最も若いのは、チベット自治区常務副主席・党常務委員の任維(Ren Wei、1976年-)で、1976年生まれだ。
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任維

中国のソーシャルメディアでは最近、1970年代前半に生まれた人々を「中国で最も幸運な年齢層(the luckiest age cohort in the PRC)」と呼ぶ記事が広く流布された。その記事によると、この年齢層は、上の年齢層が経験したひもじさや飢餓の感覚を持たなかったという。なぜなら、彼らが生まれる10年前の1960年代前半に、中国当局は「天災三年(three years of natural disaster)」と呼んでいたものを既に経験していたからである。また、文化大革命世代のように、農村で農民として働く「下放青年(sent-down youths)」としての肉体的苦労を経験するには、彼らは若過ぎた。

1980年代初頭に実施された厳格な家族計画政策によって、一人っ子の家庭で育った「一人っ子世代(single-child generation)」でもない。彼らは、中国都市部の新興中産階級の家庭に生まれた最初の世代であり、「改革時代の子供たち(children of the reform era)」である。2001年の世界貿易機関(World Trade Organization WTO)加盟により、中国が世界経済に大きく組み込まれた時期に人格が掲載された。

この年齢層のリーダーたち108名のうち、女性はわずか7名(6.5%)であり、広西チワン族自治区常務副主席の蔡麗新(Cai Lixin、1971年-)、前述の福建省常務副知事の郭寧寧(1970年-)、湖南省副知事の張迎春(Zhang Yingchun、1970年-)、遼寧省統一戦線部長のフー・リージェ(Hu Lijie、1971年-)など 4名が現在地方の党常任委員を務めている。彼女たちは第20期中央委員会の委員候補の有力候補である。

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蔡麗新
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 張迎春

当然のことながら、この第7世代のリーダーたち108名のうち97名(90%)は漢民族である。少数民族出身者は、満州族3名、回族2名、モンゴル族1名、チベット族1名、ツジャ族1名、チワン族1名、ウイグル族1名、ゲラオ族1名である。この第7世代の少数民族指導者の中には、例えば、チベット自治区党委員会秘書長の达娃次仁(Dawa Ciren、ダワ・チレン、1972年-、チベット族)、太原市党委書記の韦韬Wei Tao、1970年-、チワン族)、遼寧省副省長の張立林(Zhang Lilin、1971年-)、雲南統一戦線部長のチョウ・ジアン(Qiu Jiang、1972年-)、新疆ウイグル自治区党常務委員の伊力扎提・艾合提江(Ilzat Exmetjanイルザット・エクスメジャン、1975年-、チベット族)も第20期中央委員会の委員候補として有力候補であると思われる。
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达娃次仁
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張立林

出身地別では、遼寧省、江蘇省、湖南省が最も多く、それぞれ12人、10人、9人である。本研究の第7世代リーダーのほとんど、88名(81%)が1990年代に中国共産党に入党している。これらの第7世代のリーダーたちは全員大学を卒業しており、102名(94%)が大学院レヴェルの学位を取得し、そのうち58人(53.7%)が博士号を取得している。第7世代のリーダーたちが最も多く学部教育を受けた大学は、北京の清華大学(8人)、人民大学(7人)である。

このうち3分の1以上(34.3%)は工学を専攻し、27名(25%)が経済、金融、会計を学んでいる。この2つの分野は、第7世代の年齢層における2つの重要な専門分野である。人文科学(言語、歴史、哲学)を専攻したリーダーは17名(15.7%)にのぼる。12名(11.1%)は政治や法律を学んでいる。また、12名(11.1%)は、数学や統計学などの自然科学を専攻している。

また、23人のリーダーたちの公式の経歴には、客員研究員や学位候補生として海外に留学した経験があることが記されている。そのほとんどが欧米諸国への留学で、最も多いのはアメリカ(9名)、次いでイギリス(4名)、シンガポール(4名)となっている。例えば、江西省副省長の任珠峰(Ren Zhufeng、1970年-)は、1999年から2005年までの6年間、イギリスで金属鉱物関係の会社に勤務しながら、ロンドン・ビジネススクールでMBAを取得し、その後、中国中央財経大学で経済学博士号を取得した。中国五鉱集団公司(China Minmetals Corporation)で部長、CEO補佐、総経理、党書記、取締役会議会長を16年務めた後、2021年に江西省副省長兼党常務委員に就任した。renzhufeng522

任珠峰

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図表2:第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門

図表2は第7世代の指導者たちが副省長、副部長レヴェルの指導部に入っている部門を示している。ほぼ80%が地方指導部に所属している。省庁の指導部や企業・金融機関に勤務する人はそれぞれ5.6%に過ぎない。中国の27の省庁の副部長のうち、第7世代の出身者は朱忠明財務副部長(Zhu Zhongming、1972年-)、叢)亮国家発展改革委員会副部長(Cong Liang、1971年-)など少数にとどまっている。中央の党機関のクラスタは最も低い割合(2.8%)である。その他の中央機関(中国共産主義青年団、中国科学院、新華社通信のリーダーなど)は6.5%である。

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朱忠明

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(叢)亮

この人事配置は、省級指導部が中国共産党の国家指導部への重要な足がかりになるという長年の傾向を再確認するものである。しかし、第7世代の新星たちの経歴を詳しく見てみると、彼らの多くは中国の旗艦企業や大手金融機関でより広範な指導経験を積んでいることがわかる。更に、習近平時代には、地域横断的、部門横断的、政府・企業横断的な経験に基づいてエリートが採用・昇進されることが多くなっている。この重要な現象は、本連載の次のエッセイで取り上げるが、もっと注目されてもよいだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)