古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:米中貿易戦争

 古村治彦です。

 アメリカは中国のここまでの台頭をどうして許したのか、そして、どうして台頭を許しておいて紛争を起こすのか、ということは不思議だ。日本は高度経済成長の後、アメリカから鼻っ柱を殴りつけられヘナヘナとなってしまった。それどころか、日本の良さをことごとく消される形で、「アメリカ化」が進められている。日本の現状はアメリカの劣化版だ。ただまだ医療保険制度はアメリカよりも進んでいるが(世界の先進国並みであるというだけのことだが)、これもいつまでもつか分からない。
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 中国のここまでの台頭をアメリカ側で許容したのはヘンリー・キッシンジャー元国務長官だと言われている。そのためにアメリカでは彼に対しての恨み言も噴出している。しかし、中国の伸長を受け入れて、中国とうまく付き合いながら、アメリカへのショックを少なくするというリアリストであるキッシンジャーが両国の間をうまく取り持ってきた。

 キッシンジャーは9月に続いて今週末も中国を訪問した。96歳のキッシンジャーにとってはいくら最高級のファーストクラスでの行き来とは言え、十数時間も飛行機に乗っているのは辛いことだろう。それでも何とか耐えているのは、自分の実入りということはあるだろうが、米中の間で小競り合いは会っても前面衝突まではいかせないという信念があるからだろう。
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 キッシンジャーは訪中で習近平国家主席と王岐山副主席と会談を持った。習主席と王副主席のコンビで中国の舵取りが行われている。キッシンジャーは衝突してはいけないということを中国側に説き、アメリカに帰れば、おそらくドナルド・トランプ大統領か、ジャレッド・クシュナー上級顧問に会って訪中について話をするだろう。現在米中貿易交渉においてアメリカ側で動いているウィルバー・ロス商務長官やロバート・ライトハイザー米国通商代表よりもキッシンジャーの方が格上で、米中両国の首脳クラスに対して細かい話ではなく、大枠の話、グランドデザインを提示できる立場にある。

 米中は対等な交渉を行える関係にある。日本はそれよりも大きくランクが下がる。私たちはそのことを自覚しなければならない。そして、米中の動きを注視しながら、日本の利益はどこにあり、どのようにすれば最大化できるかということを考えねばならない。昔は新年になると、日高義樹ハドソン研究上研究員が司会として出演していたテレビ東京系の番組にキッシンジャーが出てきて、日本の位置の重要性というようなことをお世辞で言ってくれていた。しかし、今やそのような厚遇はない。日本は米中間で行われているビリヤードのボールの1つに過ぎない。両国の思惑に翻弄されるのだが、何の思慮もなく、ただキューで突かれたり、他のボールにぶつかったりするだけでは芸がない。何とか自分たちの意思で動けるようになる、これが重要だ。そのためには現状をしっかり把握する必要がある。

 米中間を取り持つ人物はキッシンジャーが死亡した後は、“チャイニーズ”・ポールソンと呼ばれる、ハンク・ポールソン元財務長官ということになるだろう。しかし、どれだけの影響力を持つのか、キッシンジャー並みに持てるのかということになるとはなはだ心もとない。キッシンジャー亡き後、米中両国は両国の関係の安定装置を組み込んだ形の構造にしなければならない。

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習近平主席、キッシンジャー氏と会見 中米の戦略的意思疎通強化を強調

2019/11/23 09:10 (JST)

©新華社

https://this.kiji.is/570764839332054113?fbclid=IwAR23Bjb4CELvVrV7PfJ_ZwXsQnVIpRkEcDJP5Ayo-CLqA3-NU2DHIZjznpg

 【新華社北京1123日】中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は22日、北京の人民大会堂で米国のキッシンジャー元国務長官と会見した。

 習近平氏は次のように指摘した。現在、中米関係は鍵となる時期を迎え、いくつかの困難と試練に直面している。双方は戦略的な問題について意思疎通を強化し、誤解や誤った判断を防ぎ、相互理解を増進すべきだ。双方は両国人民と世界人民の根本的利益を出発点として、互いに尊重し、小異を残して大同を求め、協力・ウィンウィンを図り、中米関係を正しい方向に前進させなければならない。

 キッシンジャー氏は次のように表明した。この50年間、米中関係には起伏や変化があったが、全体的には一貫して前向きである。現在、時代背景が変わり、米中関係の重要性はさらに際立っている。双方は戦略的意思疎通を強化し、意見の相違を適切に解決する方法を見いだすことに努め、各分野の交流・協力を引き続き展開していく必要がある。これは両国と世界にとって極めて重要である。

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王岐山副主席、米国のキッシンジャー元国務長官と会見

20191124 9:44 発信地:中国 [ 中国 中国・台湾 ]

AFP通信

https://www.afpbb.com/articles/-/3256325

 【1124 Xinhua News】中国の王岐山(Wang Qishan)国家副主席は23日、北京の中南海で米国のヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)元国務長官と会見した。

 王岐山氏は次のように述べた。中米関係は世界的な影響力を持っており、双方の共通点は相違点をはるかに上回っている。協力すれば双方に利益をもたらし、争えばともに傷つく。協力は双方の唯一の正しい選択である。中米双方は習近平(Xi Jinping)主席とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が複数回にわたる会談で決めた方向と原則に基づき、より広い視野とより長期的な観点に立ち、両国関係における一連の重大な戦略的問題を客観的かつ理性的に考え、不動心を保ち、困難を克服し、試練に立ち向かい、協調・協力・安定を基調とする中米関係を共同で推進していかなければならない。

 キッシンジャー氏は次のように表明した。米中関係を把握、処理するには幅広い思想と歴史的・哲学的な思考が必要で、対話と意思疎通は両国関係の基礎である。双方が全力を尽くし、両国関係の発展のために創造的で前向きな成果をもたらすことを希望する。(c)Xinhua News/AFPBB News

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習近平中国主席:中国政府は貿易合意を望んでいるが、しかし「反撃」をすることを恐れない(Chinese President Xi: Beijing wants trade deal, but not afraid to 'fight back'

マーティー・ジョンソン筆

2019年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/trade/471631-chinas-xi-china-wants-trade-deal-but-not-afraid-to-fight-back

習近平中国国家主席は金曜日、中国は現在もアメリカとの貿易に関する合意のために努力を続けたいが、アメリカに対して「反撃」をすることを恐れはしないと述べた。CNBCが報じた。

習主席はアメリカの経済界代表団に対して次のように述べた。「私たちが常に述べているように、私たちは貿易戦争を始めることは望まないが、それを恐れはしない。必要となれば反撃もするが、貿易戦争にならないように努力を続けたい」。

習主席は続けて「私たちは相互尊重と公平を基にしてフェーズ・ワンの合意に至るように努力したい」と述べた。

アメリカからの代表団の中には元アメリカ政府高官が複数参加しており、代表格としては、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とハンク・ポールソン元財務長官が挙げられる。

貿易合意をめぐる米中両国のトーンは最近になって肯定的になっているようであるが、「フェーズ・ワン」の貿易協定の詳細については現在も曖昧なままだ。

これまでの18カ月、中国とアメリカは貿易戦争に突入した。両国はそれぞれの製品に対して数十億ドル規模の関税引き上げを複数回実施してきた。.

貿易交渉は進んでいるように見えるが、トランプ大統領は翌月には中国製品1600億ドルぶんに新たな関税を課す予定となっている。

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キッシンジャーは「中国とアメリカは冷戦の途中にある」と懸念を表明(Kissinger warns China, US are in 'foothills of a cold war'

ジョン・バウデン筆

2019年11月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/471460-kissinger-warns-china-us-are-in-foothills-of-a-cold-war

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は木曜日、世界で1位と2位の経済大国の間で様々な紛争が起き、世界規模で緊張関係を深刻化させている中で、アメリカと中国は冷戦に向かって進んでいると懸念を表明した。

ブルームバーグ・ニュースは、北京のニュー・エコノミー・フォーラムで講演を行い、米中両国は双方の主張と立場の違いを理解するために「努力」することを合意すべきだと主張した、と報じた。

キッシンジャーは次のように述べたと報じられている。「私の考えは以下の通りだ。緊張関係が深刻化している時期には緊張関係の政治的な理由は何かを理解し、双方がその理由を解消するために努力することこそが重要だ。現状は手遅れになりつつある。それは米中両国が冷戦に向かう途中にあるからだ」。

キッシンジャーは更に、アメリカと中国との間で継続されている貿易交渉について言及し、両国経済に大きな影響を与えてきた1年以上続く貿易戦争を終了させるための合意に達するようにすべきだと主張したと報じられている。

キッシンジャーは「貿易交渉は政治に関する議論の小さな始まりに過ぎないということは誰も分かっている。私は貿易交渉が成功して欲しいし、その成功を私は支持している。また、政治に関する議論が実現することを望んでいる」と述べた。96歳になるキッシンジャーは1973年から1977年にかけて国務長官を務めた。

アメリカと中国は2018年半ばごろから知的財産権侵害をはじめとする諸問題をめぐって貿易に関して紛争を起こしている。その結果としてそれ以降の数カ月で数度の関税引き上げと報復的関税引き上げが続いている。

アメリカ政府と中国政府との間の交渉はいまだに包括的な合意に達していない。今年初めには合意に達すると見られていた。

米中両国は南シナ海の領有権争いに関して異なる立場に立っている。中国は南シナ海に人工島を建設しその領有権を主張し、アメリカは南シナ海の様々な航路のパトロールを行っている。

(貼り付け終わり)

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アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

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 古村治彦です。 

 今回、ドナルド・トランプ米大統領の外交交渉は全くうまくいっていない、成功していないということを取り上げている記事をご紹介したい。

 対中国、対イラン、対北朝鮮など、アメリカは国際的な諸問題に直面している。アメリカは、中国とは貿易戦争、イランと北朝鮮に対しては核開発、核兵器廃棄といった問題を抱えている。どれもこれもうまくいっていない。トランプ大統領が脅しをかけてみたり、すかしてみたり、良いことを言ってみたりと様々なことをやっているが、うまくいっていない。暗礁に乗り上げているという状況だ。

 トランプ大統領にとっては日本だけが唯一彼のいうことをほぼ受け入れてくれる国だ。防衛関連品を買えと言えば「はい、喜んで」と言い、トウモロコシがだぶついているので何とかしろと言えば、「是非買わせていただきます」となる。日本との場合は交渉ではなく、厳命、それですらなくて、指示、というくらいのことだ。

 ところが世界各国はそうはいかない。そして、それは、「トランプ大統領にはそもそも交渉術などないからだ」ということになる。トランプ大統領は不動産業で財を成し、自分の苗字「トランプ」をつけた高層ビルやホテル、リゾート施設をアメリカ国内外各地に持っている。自身が一代で今のトランプ・コーポレイションをここまでのグループにし、資産を築き上げた大富豪だ。それはトランプ大統領の実力、特に交渉力のおかげだと考えられている。しかし、長年トランプ大統領と一緒に仕事をしていた人物はそうではないと主張している。

 トランプ大統領の交渉術は「こん棒で叩きまくる」ようなもので、一対一で脅しをかけまくるものだということだ。交渉事というのは相手にも利益が出るように落としどころを探るものだ。「ウィン・ウィン」関係を成立させるものだ。しかし、トランプ大統領の考えは「自分だけが勝つ、得をする」ということで、それはなぜかと問われた時に、「世界には無数の人間がいて、取引するのは1回限りだから」と答えたという。また、脅しだけでなく、お世辞を駆使することもあるということだ。

 トランプは大統領になってもこのビジネスにいそしんでいた時代の交渉術を使っている。脅しで入り、相手が強硬だとお世辞を駆使する、という1つのパターンになっている。パターンになっていると、相手はどう対処すればよいか分かる。だから、放っておかれるということになり、交渉が暗礁に乗り上げるということになる。

 トランプ大統領が当選して3年、最初は突拍子もないことをやるということで、戦々恐々としていたが、だんだんパターンが見切られてしまい、放置されてしまうということになっている。ただ、日本だけは真剣に付き合って、言うことを聞いている。

(貼り付けはじめ)

トランプはどうして交渉を成立させることに失敗するのか(Why Trump Fails at Making Deals

―トランプ大統領は中国、イラン、北朝鮮、インド、最近ではデンマークといった国々との間での交渉に失敗している。彼を長く知っている人々は「現在のアメリカ大統領は実際には交渉能力の低いのだ」と述べているが、数々の失敗はそれを証明している。

マイケル・ハーシュ筆

2019年8月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/08/21/why-trump-cant-make-deals-international-negotiations/

これは彼のアピールの中核である。2015年に突然大統領選挙に出馬して以来、不動産王はアメリカの有権者たちの支持を勝ち取ろうとしてきた。有権者の多くがトランプ個人を嫌いでも支持せざるを得ないようにしてきた。トランプはこれまでずっと自分は交渉の達人であり、アメリカ国民のために多くの新しい合意を勝ち取ることが出来ると主張してきた。 

しかし、大統領選挙当選3周年が近づく中、トランプ大統領は国際的な交渉においてほとんど成果を挙げていないという証拠が山積みになっている。2018年にNAFTAの再編に合意して以来、中国、イラン、北朝鮮、その他の国々との最高レヴェルの交渉を再スタートさせるための彼の努力は全て暗礁に乗り上げている。今週、トランプ大統領は交渉が下手であることを再び見せつけてしまった。トランプ大統領はアメリカの親密な同盟国デンマーク訪問を中止した。デンマーク首相はトランプ大統領の盟友で、彼と同じく反移民の姿勢を取っている。しかし、トランプがグリーンランドの購入を提案し、デンマーク政府はグリーンランド売却を考慮することを拒絶したために、訪問が取りやめになった。技術的にはデンマークはグリーンランドをアメリカに売却することはできない。それはグリーンランドには自治政府があり、首相が選ばれているからだ。

トランプを長年見てきた多くの人々にとって、トランプが大統領になって外交交渉にことごとく失敗していることは、実業界での華々しいキャリアを実態以上に過剰に売り込んだことの結果でしかないということになる。トランプ・オーガナイゼーションで建築家として働いたアラン・ラピダスは「ドナルドの交渉能力は虚構でしかない」と述べた。ラピダスは十代の頃からトランプと知り合い、トランプが不動産業を家族でやっている頃から一緒に働いた人物だ。

ラピダスは本誌の取材に対して、「ドナルドの交渉術は絶叫と脅迫で構成されている。ドナルドには緻密さもないし、ユーモアのセンスもない。こん棒で殴りつける、殴りつける、殴りつける、これだけだ」と述べた。

ラピダスはトランプと彼の事業が交渉に成功したが、それはハーヴェイ・フリーマンやスーザン・ハイルブロンのような幹部社員の交渉能力や技術のおかげだと述べた。2人はトランプ・オーガナイゼーションのアトランティック・シティでの事業やリース事業のほとんどを管掌した。 ラピダスは「彼らは詳細な分析と資料の読み込みを全て行った。トランプがもしこの仕事をやらねばならなかったとしても、まずやらなかっただろう」と述べた。

トランプの仕事仲間や取引先だった人々は、トランプが交渉の席で銀行をやっつけていたと自慢しているのは話を盛り過ぎていると指摘している。その当時のトランプの会計責任者だったスティーヴン・ボレンバックの交渉術によって、トランプは1990年に9億ドルの負債を抱えて個人破産寸前まで追い込まれたが、うまく逃れることが出来たのだ、と彼らは述べている。

トランプの自伝作家で多くの機会でトランプにインタヴューをしてきたマイケル・ダントニオは、ラピダスの発言に同意している。ダントニオも大統領としての交渉術は彼が実業家であった時のものと何も変わらないと認めている。ダントニオは次のように述べている。「彼のスタイルは敵意むき出しで、交渉相手から可能な全ての妥協を引き出すためにいじめ同様の方法を採用する。そして自分の利益を最大化する。トランプが私に語ったところでは、相手と“ウィン・ウィン”ではなく、“私だけが勝つ”取引をすることにしか興味がないということだった。将来またビジネスをするかもしれないので相手に好意を見せるために、相手に何かしらの利益を与えたことはあったかと私が彼に質問したところ、答えは“ノー”だった。そして、世界にはこれだけたくさんの人間がいるのだから、取引は一度きりだ、と語った」。

会社相手ではなく国家相手の交渉をする際には状況は異なる。世界には一定数の国家が存在するだけだ。アメリカ大統領は諸大国と何度も何度も交渉し合意に達するという行為を繰り返すことになる。それは様々な分野で行われるものだが、あくまで友好的になされる。更に言えば、国家は企業のように競争をして負けたからといって退場することはできない。破産を申請することも簡単に解散することもできない。貿易関係においては、「私だけが勝つ」というゼロサムの結果は存在しない。

結局のところ、国の誇りというものが重要になる。交渉を成功させるには、相手方の顔を立てることも必要だ。世界各国の指導者たちは、ビジネス上の取引でやられてしまった人々のように、降伏することもこそこそ逃げ出すこともできない。トランプ大統領はこのような妥協を望まない姿勢を明確にしている。2018年のアメリカ・カナダ・メキシコの協定に関する話し合いで、大統領は義理の息子ジャレッド・クシュナーからの強い働きかけを受けて、カナダとメキシコにしぶしぶではあるが2、3の譲歩をしたと報じられた。の当時、アメリカ通商代表ロバート・ライトハイザーは「ジャレッドの働きかけがなければ、この協定は成立しなかっただろう」と記者団に語っている。

ダントニオは次のように語っている。「トランプ大統領は外交を行うこと、そして主権国家と交渉することの準備がそもそもできていないのだ。二国間もしくは多国間での利益を生み出すためのギヴ・アンド・テイクのやり方を彼は知らない。彼は自己中心的過ぎるために、自分とは異なる考えを持つ人々を敵と認識する。大統領は自分のいじめが通じない相手がいれば自分が攻撃されたと思い、彼の提案に対して自分の考えを述べるような人物には激怒するのだ」。

従って、トランプ大統領は、こん棒で叩きまくるアプローチでは交渉相手によっては交渉が行き詰まり、交渉開始当初よりも交渉が進んでいる段階での方が、合意形成がより難しくなるというパターンが出来上がっていることに気付いている。トランプ大統領は中国と対峙するための12か国からなる環太平洋パートナーシップ協定から離脱した後で、トランプ大統領は彼の方か一方的に中国との貿易戦争を始めた。しかし、結果は、彼の習近平中国国家主席が企業向け補助金と知的財産権侵害の主要な問題に対して何の対策も取らないということであった。市場からは2年間の停滞は国際経済に脅威を与えるという警告が出ていた。トランプ大統領はオバマ政権下で結ばれたイランとの核開発をめぐる合意を「これまでで最悪の合意」と非難した。そして、イランに対する経済制裁を再開した。その中には、イラン外相モハマド・ジャヴァド・ザリフ個人に対する制裁も含まれていた。イランをめぐる情勢は先行きが見えない。トランプ大統領は北朝鮮の最高指導者金正恩と親しくなろうとし、アフガニスタンにおけるアメリカの状況を改善するためにカシミール地方をめぐるインドとパキスタンとの間を仲介しようと無様な提案を行った。これらもまた何も進んでいない。一つの局面では、トランプ大統領はもうすぐある程度の成功を収めることが出来るだろう。それはタリバンとの交渉だ。トランプ大統領は交渉に関しては特使であるザルメイ・ハリルザルドに任せきりだ。専門家の中には、トランプ大統領が公約しているアメリカ軍のアフガニスタンからの撤退は、タリバンに勝利をもたらすだけだと恐怖感を持っている人たちがいる。

トランプ大統領自身は何の心配もしていないふりを続け、ほとんどの問題に関しては解決を「急いでいない」と繰り返し述べている。それでも今週水曜日に記者団に対して中国に対して「私たちは勝利を収めつつある」と述べ、「私は選ばれた人間なのだ」という見当違いのアピールを行った。しかし、彼は2020年に迫った大統領選挙までの時間を浪費することになるだろう。

トランプ大統領は世界各国との交渉にことごとく失敗しているが、国内でも失敗を続けている。トランプ大統領の主要な公約である社会資本(インフラストラクチャー)、移民、医療制度について実質的な話し合いはこれまでなされていない。トランプ大統領は刑法改革法を成立させたが、これは民主党が訴えていた政策であり、こちらも義理の息子クシュナーの交渉術のおかげである。思い返してみれば、今年の1月、トランプ大統領は公約した国境の壁に関して、民主党に完全に屈服した。大統領自身が始めた政府機関の閉鎖が35日間に及んだ。大統領は最終的には連邦政府職員の給料を支払うための一時的な手段を採ることに合意したが、国境の壁への予算はつかなかった。

トランプの交渉スタイルは予測しやすいもので、ある一つのパターンが存在する。別のトランプ伝記作家グゥエンダ・ブレアはこれを「こん棒で殴りつけることと愛情を大袈裟に表現すること(love-bombing)」と呼んでいる。中国とイランに対しては次のようなパターンになる。中国の習近平国家主席とイランのハッサン・ロウハニ大統領に対しては降伏以外にはないというようなことを言っていた。これは両者にとっては不可能ではないにしても政治的に難しいことになる。トランプ大統領は同時にお世辞を言うことも忘れなかった。今週、トランプ大統領はツイッター上で「習近平は中国国民からの大いなる尊敬を集めている偉大な指導者だ」と書き、ロウハニ大統領に関しては別の観点から、「ロウハニ大統領はとても愛すべき人物だと思う」と書いている。

金正恩委員長との関係ではトランプ大統領は最初のうち脅しを繰り返した。ある時点では、当時のレックス・ティラーソン国務長官を北朝鮮との交渉をしようとして「時間を無駄にしている」と非難した。しかし同時にお世辞を繰り返すことも忘れなかった。そして、首脳会談や私的なメッセージの交換を行った。トランプ大統領は金委員長に「核兵器を放棄すれば北朝鮮はとても豊かな国になる」と請け合った。

しかし、トランプ大統領の広報外交(パブリック・ディプロマシー)も大臣レヴェルの交渉者たちの交渉も素晴らしい成果を上げることはできなかった。しかし、金委員長は別だ。一連の外交を通じて、金委員長はこれまでにない程の国際的な関心と認知を受け、彼自身の政権の正統性も認められた。

ブレアは次のように語っている。「中国やデンマークに対してのトランプ大統領のアプローチは古くからのドナルドのやり方だ。彼は自分ともう1人だけが部屋にいる形にしようとする。だから多国間の条件や会議を彼は嫌うのだ。彼は部屋の中に1人だけ入れて、その人に集中して脅しをかけたいのだ」。

ブレアは、グリーンランドをめぐる買い取り要請もトランプのキャリアでのやり方をそのまま使っているものだと述べている。「今起きていることは、ブランド確立ということなのだ。まず、トランプ・コーポレイションのブランド確立があった。それからカジノ、リアリティTV番組、と続き、今は大統領としてのブランド確立が行われているのだ。大統領としてのブランドを確立するためには、世界最大の島を買い取ること以上により良い方法はないではないか?」

ラピダスのトランプ家との家族ぐるみの付き合いはトランプ大統領の父フレッド・トランプにまで遡る。ラピダスはフレッドとも建築士として一緒に仕事をした。トランプ大統領のアプローチは自分の仕事仲間や取引先にとってはおなじみのもので驚きはないとしている。ラピダスは次のように述べている。「トランプ大統領のやり方は彼がビジネスをやっていた時と全く同じだ。彼がやっていることはその継続に過ぎない。とどまることを知らない嘘が続けられる。当時の私はそれを見ながら、なんだかかわいげを感じていた」。

ラピダスは、「トランプの交渉スタイルは、当時も今も、その場しのぎで何の明確な戦略などないのだ。私は、彼が頻繁に更新するツイッターを見てますますその思いを強めている」と述べている。ラピダスは、1980年代のアトランティック・シティでのカジノの件をめぐる裁判での審理のことをよく覚えている。トランプは出廷し宣誓をしたのち、カジノを建設した理由について嘘の証言をした。ラピダスは、何とか嘘を止めねばならないと感じたと述べている。

ラピダスは次のように語った。「その後で私はトランプに、何をやっているんだ、どうしてあんなことを言ったんだと食って掛かった。彼は“アラン、私はね、自分の言葉が口から出るまで私は何を言っているのか自分でも分からないんだよ”と言った。これがドナルド・トランプという人物なのだ」。

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決定版 属国 日本論

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 古村治彦です。

  昨年の7月以降、米中両国間では、完全の引き上げ合戦となっている。(1)2018年7月にアメリカは中国からの輸入品(産業用ロボット、自動車、半導体など)340億ドル分に対して関税25%をかける決定を行い、中国側もアメリカからの輸入品(自動車、牛肉、大豆など)340億ドル分に対して関税25%をかけるという決定を行った。(2)2018年8月にはアメリカは中国からの輸入品160億ドル分(半導体など)に関税25%をかける決定を行い、中国側もアメリカからの輸入品160億ドル分(自動車など)に関税25%を賭ける決定を行った。それからなんと(3)2018年9月にはアメリカは中国からの輸入品(家具、家電など)2000億ドル分に10%の関税をかける決定を行い、中国もアメリカからの輸入品(液化天然ガス、鉱石、コーヒーなど)600億ドル分に10%の関税をかける決定を行った。
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 2018年の7、8、9月で一気に関税の掛け合いを行い、米中貿易戦争は激化した。その後休戦状態に入ったが、米中は合意が出来ず、2019年5月にはアメリカ政府は中国からの輸入品2000億ドル分の関税10%を25%に引き上げる決定を行った。一方、2019年6月には中国がアメリカからの輸入品600億ドル分の関税10%を25%に引き上げる決定を行った。アメリカが中国からの輸入品2500億ドル分に対して関税25%をかけ、中国はアメリカからの輸入品1100億ドル分に関税25%をかけている状況だ。

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関税掛け合い合戦の結果(BBCのウェブサイトから) 

 アメリカの中国からの輸入はだいたい5500億ドル分あり、トランプ大統領は2500億ドル分を差し引いた3000億ドル分に対しても関税をかける、もしくは引き上げる決定を行った。発動は延期されている。中国のアメリカらかの輸入はだいたい1200億ドルあり、もう関税をかける余地はほぼ残されていない。目一杯関税をかけている状況だ。

 このような状況下では相互の輸出入は減る。しかし、アメリカが対中で輸入が輸出を上回り、中国が対米で輸出が輸入を上回る状況は変わっていない。そうなればアメリカの対中貿易赤字が積み上がるだけだ。アメリカの製造業は復活するだろうかと言うと、人件費などのコストがかかるので難しいと私は考える。

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米中貿易関係のグラフ(BBCのウェブサイトから)

 アメリカ国民にとっては安い中国製品が手に入らないということになり、値上げによって実質的には増税と同じ効果ということになる。アメリカ政府に入る関税による税収は増える。しかし、輸入量が減れば税収も落ちるということになる。そうなれば、アメリカ国民、特に低収入のアメリカ国民にとっては物価が上がっただけのことで、しかも質の悪いアメリカ製品を買わねばならないということになれば、生活レヴェルの低下ということになる。

 公定歩合の引き下げを行うことで株高は演出できる。株式に連動している個人年金は守ることが出来る。そうすれば熱心に選挙に行く高齢者の票は獲得できる。しかし、トランプ政権を誕生させた、貧しい人々にとって物価高は増税と同じだ。また、共和党の支持基盤となっている(共和党の色である赤色からレッドステイト、赤い州)農業州では、対中輸出の減少(中国はアメリカ以外の南米やオーストラリアなどからの輸出を増やす)に対して不満が渦巻いている。 

 共和党はそもそも自由貿易を標榜している政党で、高関税や保護貿易は民主党の十八番だ。それが共和党から出ている大統領であるトランプ大統領が保護貿易を実施し、公共事業への投資を行おうとしているというのは、本末転倒の話だ。共和党主流派、エスタブリッシュメントからすればトランプ大統領は邪魔な存在ということになる。

 約1年後に大統領選挙が行われる。民主党では今のところジョー・バイデン前副大統領が指名候補になると見られているが、これから何が起きるか分からない。トランプ大統領はどのような策を練って大統領選挙を迎えるかということになるが、最高の状態は、中東やアフガニスタンからの米軍の撤退もしくは削減、北朝鮮やイランとの交渉が進展、中国との貿易戦争が収束となり、アメリカ全体の景気が好調になっていることだ。これらの中でどの要素がどれだけ思い通りに進まないかで、大統領選挙の結果を左右する影響が出てくることになる。 

 トランプ大統領としては、中国が妥協して、折れてくれるものとばかり思っていただろうが、大きく目論見が外れた。中国は、チキンゲームに付き合ってやる、貿易相手は何もお前だけではない、そのために世界中に投資をしてきたんだ、という姿勢だ。中国をいかに宥めて、外見上だけでもアメリカの勝利を演出したいところだ。

 アメリカのパワーの衰退とアメリカ国内と国際社会の不安定な状況、という大きな流れを掴んで、日本は衰退国家アメリカと勃興国家中国の間をうまく遊泳しなければ、アメリカの衰退に巻き込まれて一緒に沈むことになる。

(貼り付けはじめ)

 貿易戦争が激化する中で、中国のアメリカへの輸出、アメリカからの輸入は減少(Chinese exports to US, imports of US good sink amid worsening trade war

 レイチェル・フラジン筆

2019年9月8日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/finance/trade/460440-chinese-exports-to-us-imports-of-us-good-sink-amid-worsening-trade-war

 アメリカと中国との間の貿易は、両国が貿易戦争を激化させ続けているので、減少し続けていると報じられた。

 中国のアメリカ産品の8月の輸入は103億ドルにまで減少し、前年比22%減となった。一方、中国からのアメリカへの8月の輸出は444億ドルにまで減少し、前年比16%減となった。AP通信が日曜日、関税当局のデータを引用しながら報じた。

 8月の中国の対外輸出の総計は2148億ドルとなり、前年比3%減少となった。輸入総計は1800億ドルで前年比1.7%増となった。中国の貿易黒字は348億ドルにまで増加した。

 アメリカと中国はお互いに対する関税を引き上げている。2019年9月1日、中国からの輸入の1120億ドル分に対して15%の関税をかけるようになった。12月には1600億ドル分に対して関税をかける計画を持っている。中国はアメリカからの輸入に対しての関税率を5%から10%に引き上げることで対抗した。

 アメリカでは、2019年10月1日からは中国からの輸入のうち2500億ドル分にかける関税率を25%から30%に引き上げる予定だ。

 米中両国政府は2019年10月に会議を持つ予定になっているが、開催日時は発表されていない。5月の会議は物別れに終わった。

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