古村治彦です。

 

 2016年8月15日の終戦記念日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」を迎えました。

 

 正午から行われた戦没者追悼式では黙とうの後に、今上天皇と安倍晋三内閣総理大臣の式辞が読まれました。それぞれの式辞は下に貼り付けました。

 

 2つの式辞を比較してみると、この戦没者を追悼し平和を祈念する日と戦没者追悼式への思いが全く違うベクトルとなって平行であることが分かります。

 

 今上天皇の式辞は簡潔明瞭、目で読んでも、耳で聞いても、分かりやすい言葉で、大事なことを人々に伝えよう、分かってもらおうとしていることが伝わってきます。戦争で斃れた人々があるから、今の日本の繁栄と平和がある式の浪花節ではなく、なぜ戦争を防げなかったのか、なぜ悲惨な戦いが続けられたのか、なぜ戦争で斃れた人たちを救うことが出来なかったのかという「反省」の意が込められていることがよく分かります。これだけ明瞭だと外国語に翻訳する場合もその意図は伝わりやすく、今上天皇は世界に向けて語りかけていることが分かります。また、言葉を飾りたてないことで、その意図はまっすぐに伝わるので、明確な強い意志がなければ、簡潔明瞭な言葉は書けません。

 

 一方、安倍首相の式辞には美辞麗句があふれ、安倍首相が日頃は目にもせず、おそらく式辞まで読めもしなかったであろう言葉すら散見されます。大本営発表やアッツ島守備隊玉砕(全滅)に関する 記録されたラジオ放送音源を聞いたことがありますが、そこにも美辞麗句や難しい漢語があふれていました。美辞麗句で飾るというのは、文章の裏にある意図を隠そうとするものです。また、これでは耳で聞いただけでは何を言っているのか分かりませんし、意味が分からない言葉がフックになって人々の注意を引くことはありますが、美辞麗句を使いたがる人は、全国民に伝えようという気持ちがないことが分かります。それは、個の式辞に書かれている浮ついた内容を安倍晋三氏自身が信じていないということが原因です。

 

 美辞麗句で飾り立て、「今の日本の繁栄と平和があるのは皆さまのお蔭です」的な耳触りの良い浪花節を述べ、世界に向かって語りかける気持ちがない(翻訳しにくい言葉で長く書けば、翻訳する場合には難しくなります)、「8月15日だけの平和愛好家」である安倍晋三首相。


 人間は嘘をついたり、思ってもいないことを言う時には多弁で空疎な言葉を並べます。一方、真剣に気持ちを伝えようとするときには、自分がいつも使う言葉を使います。今回の2つの式辞はそれを良く表しています。

 気持ちもこもらず、適当に美辞麗句を並べ立てて、その場をやり過ごすことに終始した式辞は、戦没者に対する冒涜ではないかと私は考えます。

 

(新聞記事転載貼りつけはじめ)

 

天皇陛下のおことば 戦没者追悼式

 

20168151230

http://www.asahi.com/articles/ASJ8G544JJ8GUTIL00Z.html

 

 本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。

 

 終戦以来既に71年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。

 

 ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

 

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安倍首相の式辞全文 戦没者追悼式

 

20168151232

http://www.asahi.com/articles/ASJ8D466JJ8DUTFK00C.html

 

 戦没者追悼式で安倍晋三首相が述べた式辞の全文は次の通り。

 

 本日ここに、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、全国戦没者追悼式を挙行するにあたり、政府を代表し謹んで式辞を申し述べます。

 

 あの苛烈(かれつ)を極めた先の大戦において祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃(たお)れられた御霊(みたま)、戦禍に遭われ、あるいは戦後、はるかな異郷に亡くなられた御霊、皆様の尊い犠牲の上に、私たちが享受する平和と繁栄があることを片時たりとも忘れません。衷心より、哀悼の誠を捧げるとともに、改めて敬意と感謝の念を申し上げます。

 

 いまだ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、脳裏から離れることはありません。おひとりでも多くの方々が、ふるさとに戻っていただけるよう、全力を尽くします。

 

 我が国は戦後一貫して戦争を憎み、平和を重んじる国として、孜々(しし)として歩んでまいりました。世界をよりよい場とするため惜しみない支援、平和への取り組みを、積み重ねてまいりました。

 

 戦争の惨禍を決して繰り返さない。これからも、この決然たる誓いを貫き、歴史と謙虚に向き合い、世界の平和と繁栄に貢献し、万人が心豊かに暮らせる世の中の実現に全力を尽くしてまいります。明日を生きる世代のために、希望に満ちた国の未来を切り開いてまいります。そのことが御霊に報いる途(みち)であると信じて疑いません。

 

 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に永久(とわ)の安らぎと、ご遺族の皆様にはご多幸を心よりお祈りし、式辞といたします。

 

(新聞記事転載貼りつけ終わり)