古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:習近平

 古村治彦です。

 2022年の世界規模の大きな課題は、中国と台湾とアメリカの関係とウクライナとロシアの関係であった。これらについては2021年の段階で既に火種がまかれていた。アメリカでジョー・バイデン政権が発足し、アメリカは対ロシア、対中国で強硬姿勢を鮮明にした。サイバー上でロシアと中国がアメリカに攻撃を加えているので、サイバー安全保障を早急に整えねばならないということをバイデン政権は述べていた。私はバイデン政権の動きから、中露両国とアメリカの間でサイバー上において激しい戦いがあると考え、拙著『』(秀和システム)を書いた。

 しかし、実際には人々の死と大規模な破壊を伴う戦争が起きた。ウクライナは欧米諸国(NATO)の対ロシア最前線であった。欧米諸国はウクライナに中途半端に強力な軍事支援を行ってロシアを挑発した。ロシアという国は敵対する勢力と直接国境を接することを極度に怖がるという習性をもっている。これは歴史的に見ても明らかだ。だから、ロシア本国の周りに緩衝国(buffer state)をつくってきた。

冷戦の終結で、ロシアは身ぐるみをはがされて裸にされた形になり、「冷戦に勝った、勝った」と浮かれた欧米諸国はロシアを馬鹿にするだけ馬鹿にして悦に入っていた。それでも旧ソ連時代からのロシア軍の実力を恐れ、何とか封じ込めようとしてきた。東欧まではロシアもまだ我慢した。しかそ、ウクライナと春と話は別だ。ウクライナが中立でなければロシアの南部国境は危うくなる、黒海周辺でのバランスが大きく変わるということになった。

 ジョー・バイデンがバラク・オバマ政権時代に副大統領としてウクライナを私物化し、軍事支援などを積極的に行ってきたことも今から考えれば、ロシアにしてみれば「バイデンが大統領になったらどういうことになるか分からない」という懸念を強めることになっただろう。国務省次官にヴィクトリア・ヌーランドを起用したこともその懸念に拍車をかけたことだろう。結果として、ロシアは誘い込まれるようにして、ウクライナに侵攻した。欧米諸国がロシアの懸念を理解し、ウクライナの中立化(欧米並みの機能する民主政治体制[ネオナチが排除され、汚職や腐敗が撲滅されたもの]ではあるが軍事力は限定的)を進めていれば世界は不幸にならなかった(軍事産業は不幸だっただろうが)。

 中国と台湾の関係はそのまま中国とアメリカの関係ということになる。「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻める」というスローガンが2022年前半にはやかましかった。しかし、その後は静かになった。そもそもアメリカは中国と本気で事を構えることはしたくない。

ウクライナ戦争でアメリカ軍将兵の生命を損耗することなく、武器だけはじゃんじゃん送ってウクライナ人が命を落としながら、武器を大量消費して軍事産業がウハウハという状態になっているが、アメリカ軍自体の武器貯蔵が減ってきて、生産が追い付かないで困っているという状態である。ウクライナ戦争が終わって、武器の貯蔵が回復するまでは、まず中国軍と戦うことはできない。「アメリカ軍が本気で台湾のために戦ってくれない」ということを台湾の人々は良く認識するようになっているので、「アメリカから煽って火をつけないで欲しい」と窘められる始末だ。

2021年の段階で米中関係、中台関係は戦争まで行かないという予想が大半でそれは当たった。ウクライナ戦争については戦争が起きるだろうか、その目的と地域は限定的で、ロシア系住民の保護のためにウクライナ東部に集中するという予測がなされていたが、それははずれる格好になった。

今年に入ってもウクライナ戦争は継続されてもうすぐ1年ということになる。焦点は停戦合意に向けた話し合いになると私は考える。バイデン大統領が仲介をする形になるだろうが、ウクライナが素直に言うことを聞くだろうかという不安がある。バイデンは再選を控えている。

そうした中で、バイデンのバカ息子であるハンターのウクライナとの関係で、ウクライナ側が何か新事実を出すとか、ハンターと汚職企業の関係を調査するとかと言うことになると再選に響く。そうしたことを行わないことを条件にして支援を続けるように、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が交渉する(脅す)ことくらいはやりかねない。困ったバイデンの選択はゼレンスキーの排除ということになる。飛行機事故でもヘリコプター事故でも交通事故でも反感を持つに至った側近による暗殺でも、アメリカのCIAがこれまでやってきたオプションから選ぶだけで良い。

属国の指導者の運命とははかないものである。それを私たちは昨年まざまざと見せつけられた。そして、国際政治は非情なものである。

(貼り付けはじめ)

過去を見返すことで2023年に向けて未来を見通す(Looking Ahead to 2023 by Looking Back

-昨年の外交政策の中で今年の外交政策について教えてくれることが可能なものとは。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/04/looking-ahead-to-2023-by-looking-back/

2023年に入る前に、2022年が私の予想通りであったかどうか、振り返ってみることにした。2021年の最後のコラムで、私は「バイデンの2022年外交政策やること(To-Do)リスト」を紹介した。何が正しくて、何が間違っていたのか、そしてバイデン政権はどの程度の成果を上げたのか?

(1)中国と台湾。私の最初の予想は、「2022年に台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう」であったが、これは正しかった。2022年8月にナンシー・ペロシ前連邦下院議長が無思慮に台湾を訪問したため、若干緊張が高まったが、冷静さ(cooler heads)が勝り、その後、北京とワシントンの双方が当面の温度を下げることを決定した。北京もワシントンも忙しいのだから、この判断は驚くには当たらない。少なくとも今のところ、ジョー・バイデン政権は中国に対する宣戦布告をせずに済んでいるように見えるが、この作戦が成功するかどうかはまだ分からない。アジア(およびヨーロッパ)の同盟諸国は、先端チップ技術の輸出規制や政権の広範な経済計画の保護主義的要素に不満を持っており、これは中国にとって好機となる可能性がある。私は、2023年に東アジアが平和になることを確信している。

(2)ウクライナ。この件に関しては、一部ではあるが、私は間違っていた。2021年12月下旬の記事で、私は、ロシアは侵攻しないと予想した。しかし、100%の確信があったのではなく、もしモスクワが侵攻してきたとしても、ドンバス地方を中心とした「限定的な目標(limited aims)」の侵攻であり、グルジアと同じような「凍結された紛争(frozen conflict)」になる可能性が高いと予想すると私は述べている。私はなぜそう考えたか? 限定的な作戦であれば、「西側からの強力で統一的な反応を引き起こす可能性が低い」からである。限定的な侵略は、ジョー・バイデン大統領とNATOを「勝ち目のない」状況(“no-win” situation)に追い込むことにもなる。「アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で銃撃戦を行う意図をアメリカは持たないからだ。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、大規模な侵攻はウクライナの激しい抵抗を引き起こし、「モスクワには到底払えないような費用のかかる痛み」を生じさせることを理解していると私は考えた。

プーティンはロシアの軍事力を過大評価し、ウクライナの軍事力を過小評価し、侵攻に踏み切ったことは私たちが全員知っていることだ。また、ロシアの当初の目的はドンバス地方に限られたものではなかった。しかし、私はロシアの行動がウクライナの激しい抵抗を招き、欧米諸国が「強力で統一された(strong and unified)」反応を示すと考えたがこれは正しいかった。しかし私は見誤った。それ以来、バイデン政権は、ロシアの自信過剰、度重なるロシアの失態、活発で創造的かつ英雄的なウクライナの抵抗に少なからず助けられながら、かなりの戦術的技術で西側諸国の対応を主導してきた。このバイデンの任務は、私の予想とは異なる結果となったが、戦闘が始まってからの彼と彼のティームの総合的なパフォーマンスは高く評価できる。

しかし、前途に見えているのは厳しい状況である。戦争はまだ終わっておらず、バイデン政権、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が率いる政府、そして他のNATO諸国にとって、2023年は昨年以上に困難な年になると私は危惧している。ロシアによるウクライナのインフラへの攻撃は甚大な被害をもたらしてはいるが、その規模と人口からして、キエフが外部から支援を受けられる限り、消耗戦(war of attrition)が続くが、戦争状態は継続する可能性がある。私が「可能性がある」と言うのは、双方の実損害、予備戦力、将来にわたる戦力維持能力について、公表されている情報だけで信頼できる情報を分析することは困難だからである。ロシアもウクライナも妥協(compromise)しようとする様子がなく、双方が本気で望んでいたとしても、実行可能な取引(workable deal)を考案するのは難しいだろう。ウクライナの戦場での成功は今年も難しいだろう。膠着状態(stalemate)が長引くと、「欧米諸国の支援を強化し、ウクライナがロシアに直接戦いを挑むことを求める」という意見もあれば、「停戦を促すべきだ」とする意見も出てくるはずだ。どちらが勝つかは分からないが、来年もバイデンの話題はウクライナに集中することは間違いない。そして、戦争が長引けば長引くほど、傍観者であり続けた国々(中国、インドなど)が大きな受益者となるであろう。

(3)イスラエルとイラン。2021年、私はバイデンがイランに対する軍事行動への新たな圧力に直面する可能性があると警告した。2022年には、この問題は全く沸騰することはなかった。しかし、ベンジャミン・ネタニヤフがイスラエル首相に返り咲き、イスラエル史上最も右派的な政権を率いている。イランの核開発を制限する新たな合意に達する可能性は、今や夢物語のように思われる。ドナルド・トランプ前大統領は、当初の協定から離脱するという愚かな決断を下したため、テヘランは包括的共同行動計画が有効であったときよりもはるかに爆弾に近づいている。イランの現在の指導部は、新しい制限の交渉よりも、さらに高濃縮ウランの備蓄と核インフラの強化に関心があるようである。イランはウクライナに対抗するためにロシアに無人機(ドローン)を提供することを望んでいるため、この方面での外交的進展はさらに望めなくなった。ネタニヤフ首相はすでに、イランの核開発を阻止することが外交政策の最重要目標の1つであると語っており、それはバイデン政権がより積極的な行動を支持するよう後押しすることを意味する。中東での戦争は、おそらくバイデン大統領とアントニー・ブリンケン米国務長官が今一番望んでいないことだろうが、だからといってネタニヤフ首相とアメリカ国内の彼の同盟者たちが自分たちの主張を押し通すのを止めることはないだろう。何度も何度も繰り返し主張し続けるだろう。

一方、イスラエルの新内閣が占領地におけるイスラエルの不当な制度を深化させることを明確に約束したことは、既に進歩的な人々の間に警鐘を鳴らし、アメリカ国内のイスラエルの支持者の一部からは手厳しい声が上がっている。アメリカは、イスラエルの政策に「懸念(concern)」を表明し、「二国間解決(two-state solution)」という死語のようなお決まりの呪文を唱える以上のことを期待しない方がいい。ネタニヤフ新政権が何を決定しようとも、パレスチナ人の権利を擁護するとか、アメリカがイスラエル支援を縮小するとかと考える人間はネタニヤフ政権にはいない。このような状況は、バイデン政権の民主政治体制と人権に対する美辞麗句と実際の行動との間のギャップを更に露呈することになる。しかし、中東を相手にする場合、このような偽善は目新しいものではない。

(4)信頼性に関する懸念は続く。予想コラムで、私はバイデンには信頼性の問題があると述べた。それは、アフガニスタンからの撤退という彼の正しい決断をしたからではなく、アメリカが世界的な公約を全て果たすことは不可能であり、諸外国はトランプ流のアイソレイショニズム(isolationism)がいずれ再び勢いを増して戻ってくるかもしれないと懸念しているからである。良い点としては、ウクライナ問題への強力かつ効果的な対応と、バイデンがヨーロッパやアジアの伝統的な同盟諸国に働きかけを続けていることが、こうした懸念を一時的に和らげている。しかし、悪いことに、複数のより根本的な構造的問題が残っている。アジアのパートナーたちは、ウクライナが中国への対抗措置の妨げになることを懸念し、ヨーロッパは共和党内にトランプ主義がまだ残っていることを心配し、アメリカ国内のタカ派は、年間1兆ドルに迫る国防予算では米国の遠く離れたグローバルな公約を全て達成するためにはまだ十分でないと言い続けている。

皮肉なことに、アメリカの保護に対する信頼が多少低下しても、他国が自国を守るためにもっと努力するようになり、地域の安定にもっと関与するようになれば、それは有益なことであろう。したがって、バイデンの課題は、今後1年間、アメリカの同盟諸国に対し、もっと頑張るという公約を履行し、今日の決意を明日の能力に変えるよう説得することである。しかし、この目標は、世界的な不況下では、厳しいものとなる可能性がある。

(5)人道的危機(humanitarian crisis)が起きるか? 2021年、私は、人道的危機がどこで、どのような形で発生するかは分からないが、多く発生する可能性が高いと警告した。悲しいことに、これは事実であることが判明した。世界経済フォーラムの報告によると、現在、世界にはウクライナだけで790万人の難民(refugees)が発生し、国内の590万人が国内避難民となっている。ほぼ全ての大陸で悲劇が起こり、大規模な移民の流れ(アメリカ南部国境での危機継続も含む)を助長し続けている。バイデン政権はこれに対する具体的な答えを持っていない。救援物資(relief aid)を送ることしかない。他の誰も答えを持っていない。この問題が来年大幅に減少すると期待するのは、間抜けな楽観主義者だけだろう。この冬、ウクライナの電力網が完全に破壊されれば、本当に恐ろしい結果になる可能性がある。

(6)優先順位を決めそれを守る。2021年、私はバイデンの最後の課題は「最新の危機に巻き込まれないようにすること」だと提案した。その点では、既に手一杯だったという理由だけで、政権はまずまずの成果を上げたといえる。アメリカは今、同時に2つの大国に決定的な敗北をもたらそうとしていることを忘れてはならない。ウクライナがロシアに軍事的敗北を与えるのを助け、中国には先端技術の輸出規制、アメリカ半導体産業への補助金、台湾への軍事支援の強化、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどをこれらの取り組みの背後に配置するキャンペーンを通じて、経済的に大きな敗北を与えようと試みている。これらはかなり野心的な目標であり、追加的な聖戦の余地はほとんどない。バイデンはまた、ロシアのウクライナ侵攻の後に、同様の重大な問題が発生しなかったという点で、幸運でもあった。野球選手の故レフティ・ゴメスの「善良であるよりも幸運である方がいい」という言葉には含蓄がある。バイデンの幸運が続くことを望むのみだ。

(7)国内での戦争。国内の機能不全(domestic dysfunction )について私が最も恐れていたことは現実化しなかった。2021年後半、インフレは上昇し、トランプは再出馬の準備を始め、ほぼ全員が中間選挙での「赤い波(red wave)」を予想し、連邦最高裁は、ほとんどのアメリカ人の意見と大きく対立する保守派に取り込まれ、中間選挙が選挙違反や選挙後の悪ふざけで汚されるのではないかという懸念が広がっていた。このような懸念は、私1人だけのものではなかった。私は、この腐敗を解決するには、大幅な憲法改正しかないとまで言い切った。

ここで、私の考えが間違っていることが証明されたことを喜んでいる。中間選挙は深刻な問題なく終了した。トランプの新しい選挙運動はまだ燃えておらず、法的問題は山積みで、彼が支援した候補者の多くは大敗した。共和党は連邦下院で過半数を僅差で獲得したが、連邦上院では過半数を獲得できず、連邦下院での民主党との僅差の議席差と党内の分裂により、大きな害を与える(あるいは大きな利益をもたらす)には限界があるかもしれない。インフレは徐々に抑制され、アメリカ経済は他の先進資本主義諸国を凌駕している。ジョージ・サントスやその他誰であろうとも、選挙やその他の政治的なふざけ合いが思い出させるように、アメリカはまだ危機を脱したとは言えない。しかし、焦土と化した(scorched-earth)政治を終わらせ、建設的で現実に基づいた党派間競争に戻ることを切望する人々は、昨年起こったことに勇気付けられるはずである。それでも心強くはあるが、満足はしていない。

そして、いつもになく明るい雰囲気の中で、私は皆さんにとって幸せな年となることを願っている。理想を言えば、より平和で豊かな年でありたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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バイデン:アメリカはサイバー安全保障を改善するために「緊急的な」ステップを進んでいる(Biden: US taking ‘urgent’ steps to improve cybersecurity

マギー・ミラー筆

2021年2月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/cybersecurity/537436-biden-says-administration-launching-urgent-initiative-to-improve-nations/

ジョー・バイデン大統領は木曜日、ロシアと中国による悪意のある取り組みへの懸念を指摘し、政権が国家のサイバー安全保障(cybersecurity)を向上させるための「緊急イニシアチヴ(urgent initiative)」を開始すると述べた。

バイデン大統領は、国務省で行われた国家安全保障に関する演説の中で、「私たちは政府内でサイバー問題の地位を高めてきた。私たちは、サイバースペースにおける私たちの能力(capability)、即応性(readiness)、回復力(resilience)を向上させるための緊急イニシアチヴを立ち上げている」と述べた。

バイデン大統領は、サイバーと新興テクノロジー担当の国家安全保障問題担当大統領次席補佐官の新しいポジションの創設を含む、政権による進歩を指摘した。先月、国家安全保障局のサイバー安全保障局長を務めていたアン・ノイバーガーが同職に任命された。

バイデン大統領は、自身の政権が具体的に講じる他の措置について詳しく説明せず、ホワイトハウスは本誌が更なる詳細についてコメントを求めたが答えなかった。

バイデン大統領はこれまでにも、特に最近発覚したロシアによる IT グループ「ソーラーウィンズ(SolarWinds)」社への侵入事件に関するコメントを通じて、サイバー攻撃から国を守ることへの関与を強調しており、連邦政府の大部分に1年以上にわたって危険が及んでいたことを明らかにした。

バイデンは12月の講演で、このハッキングが「国家安全保障に対する重大な脅威(grave threat to national security)」であると述べ、更に同月下旬には、新たなリスクに対処するために国の防衛力を近代化(modernization of the nation’s defenses)することを要求した。

バイデン大統領はまた、1兆9000億ドルの新型コロナウイルス復興提案の一部として、100億ドル以上のサイバー安全保障と情報テクノロジーの資金を盛り込み、提案では国家のサイバー安全保障を「危機(crisis)」と形容している。

バイデン大統領は木曜日午後の演説で、ロシアと中国からの挑戦など、国際的なサイバー安全保障の懸念についても言及した。

バイデン大統領は特にロシアを取り上げ、就任後の最初の電話会談で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対し、様々な干渉行為に対してバイデン政権が反撃することを強調した。

バイデンは、「私はプーティン大統領に、前任者とは全く異なる方法で、アメリカが攻撃的な行動、選挙への干渉、サイバー攻撃、市民の毒殺に直面する時代は終わったと明言した。私たちは、ロシアに対するコストを引き上げ、私たちの重要な利益と国民を守ることに躊躇しない」と述べた。

バイデン大統領はまた、自身の政権がロシアと中国の両政府と協力できることを望む一方で、彼が「我が国にとっての最も深刻な競争相手(our most serious competitor)」と形容した中国の責任も追及すると指摘した。

バイデンは「私たちは中国の経済的濫用に立ち向かい、人権、知的財産(intellectual property)、グローバルガバナンスに対する中国の攻撃を押し返すために、その攻撃的で強制的な行動に対抗するが、アメリカの利益になるときは北京と協力する用意がある」と述べた。

バイデン大統領のロシアに関する発言は、その日のうちに国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンがホワイトハウスで記者団に語った、選挙妨害やソーラーウィンズ事件のような大規模なハッキングなど、「行われた様々な悪質行為についてロシアの責任を問うための措置をとる」という発言に呼応したものだ。

サリヴァンは「そして、そのようなコストと結果を課すことが、今後のロシアの行動に影響を及ぼすと信じている。もちろん、そうではない。もちろんそうではない。しかし、ロシアの侵略や悪行に対して、より強固で効果的な一線を画すことができるようになると私たちは信じているのか? そのように信じている」と述べた。

ロシアはアメリカの各情報機関からも厳しく監視されており、バイデンは先月、選挙干渉やソーラーウィンズ社へのハッキングの影響などの問題について、ロシアの悪意ある取り組みを分析するよう命じた。

国土安全保障省(DHS)の元長官のグループは木曜日、バイデン大統領に対し、ロシアに対して強い姿勢を取るよう求め、ロシアがサイバースペースにおいて脅威を与え続けていることを強調した。

ジョージ・W・ブッシュ大統領に仕えたマイケル・チェルトフ前国土安全保障長官は、カリフォルニア大学バークレー校が主催したインターネット上のイヴェントで、ロシアに言及し、「次期バイデン政権の大きな問題の1つは、私たちは暴力に苦しむことなく、私たちの統一やシステムを破壊する努力に力強く対応するという非常に明確なメッセージを送ることであろう」と述べた。

バラク・オバマ政権時代の国土安全保障長官ジェイ・ジョンソンは、アメリカが過去1年間選挙の保護に固執していた一方で、ロシアのハッカーたちは、ソーラーウィンズ社へのハッキングを通じて別の方法で連邦政府を攻撃したと指摘し、外国の敵が干渉しうる様々な方法に焦点を当てる必要があることを強調した。

ジョンソンは「私が就任時に国土安全保障省の職員に伝えた考えは、前回の攻撃を想定するのではなく、次の攻撃を想定し、敵の次の動きを予測することだった」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 以下の論考は、リアリズムの立場から、アメリカの外交政策に関与することになった人たち、具体的には連邦議会議員やそのスタッフたちに対する「アドヴァイス」である。著者ハーヴァード大学スティーヴン・M・ウォルト教授だ。彼のアドヴァイスの要諦は「現実を認識すること」である。それこそがリアリズムの要諦でもある。アメリカ国内の状況、国際社会の状況とアメリカの国際社会における地位について、自分の先入観やこれまでの歴史にこだわるのではなく、現実の世界を直視するということだ。

 アメリカは第二次世界大戦後には世界の超大国となった。ソ連との冷戦で勝利を収め(ソ連が崩壊したがアメリカは繁栄した)、世界で唯一の超大国となった。西洋社会の普遍的な価値観である民主政治体制、人権、資本主義、法の支配の擁護者にして伝道者を自任して、世界中にそれらを拡散することをアメリカの使命・アメリカの運命と心得ていた。「世界の警察官」という異名を奉られ、世界最強のアメリカ軍を各地に派遣して、敵対勢力を駆逐してきた。これが「素晴らしいアメリカ」の「イメージ」である。

 しかし、アメリカの国力は衰退し、中国が追い上げている。アメリカの軍事力の優越は変わっていないが、最近の介入は失敗続きである。アフガニスタンやイラクと言った国々を見れば分かる。ジョー・バイデン政権は対中、対ロシア強硬姿勢を続けている。対ロシアで言えば、ウクライナという対ロシア最前線でアメリカと西洋諸国、NATO加盟諸国が「火遊び」をした結果として、ウクライナ戦争が勃発した。バイデンは、バラク・オバマ政権の副大統領時代からウクライナに関わってきた。

今回ウクライナ戦争が勃発したことで、明らかになったことは、国際社会の分裂線である。西洋諸国(the West)対それ以外の国々(the Rest)の分裂である。沈みゆく先進諸国と勃興する新興諸国という構図である。GDPを見てみても、先進諸国であるアメリカ(第1位)と日本(第3位)は力を落とし、新興諸国である中国(第2位)とインド(第5位)が伸びている。興味深いのはドイツ(第4位)だ。ドイツは西洋諸国に所属しているが、新興諸国との関係も深めている。どちらの側とはっきりと色分けしにくい。そうした中で、ドイツが日本を再逆転して3位に浮上するのではないかという報道が出た(1968年に日本が当時の西ドイツを抜いて世界2位になった)。アメリカが中国に抜かれ、日本がドイツとインドに抜かれるのは時間の問題ということになっている。

 アメリカは「自分たちは特別なのだ、神に選ばれた国なのだ」という「例外主義(exceptionalism)」という「選民思想」を捨てて、より現実を見なければならない。中露と敵対関係を継続することが果たして国益に適うことなのかを考えねばならない。そして、アメリカの下駄の雪である属国日本もまた同様に良く考えておかねばならない。

(貼り付けはじめ)

おめでとう、皆さんは連邦議会のメンバーになりました。それでは聞いて下さい(Congrats, You’re a Member of Congress. Now Listen Up.

-アメリカ立法部の新しいメンバーたちに対してのいくつかの簡潔な外交政策面でのアドヴァイス

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/11/congrats-youre-a-member-of-congress-now-listen-up/

アメリカでは新しい連邦議会が開会されている。少し手間取ったが、連邦下院の新議長が選出され、連邦上下両院の新連邦議員86人(共和党48人、民主党38人)も誕生した。このコラムは、彼ら(より正確には実際の仕事をするスタッフたち)のために書いたものだ。

まず、皆さんの多くは国際情勢にそれほど関心がないだろうし、有権者の多くもそうだろう。アメリカの外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、世界を管理するために(そして機会があればリベラルな価値観を広めるために)長時間労働をしているかもしれないが、ほとんどのアメリカ人は、911同時多発テロ事件のような悲劇的な事件の後を除いて、外交政策の問題について無知であり、ほとんど関心を持っていない。世界情勢における「積極的な役割(active role)」を広く浅く支持しているが、ほとんどのアメリカ人は国内の問題の方が重要だと考えている。アメリカは世界で大きな役割を果たし、連邦予算の大部分を外交政策と国家安全保障に割いているにもかかわらず、国民の関心は通常、自国内部や自国に近いところに釘付けになっている。このようなパラドックスが存在する。

私は皆さんに再選の方法を教えるようというのではない。皆さんの方が私よりも票を獲得する方法については詳しいということは既に証明されている。その代わり、私は自分の専門にこだわり、より広い世界とその中でのアメリカの位置づけについて、皆さんが知りたいと考えるだろう、いくつかのことに焦点を当てる。もしあなたが資金調達に参加しなければならず、時間がないのであれば「国際関係学の学位を5分で取得する方法」という私の以前のコラムを読んで欲しい。

ここで、最初によく理解して(wrap your brain around)欲しいことがある。世界におけるアメリカの地位は、かつての地位とは違うということがそれだ。誤解しないで欲しいのは、アメリカは依然として世界で最も強力な国であり、国内外で多くの過ちを犯さない限り、その見通しは明るいということだ。アメリカの軍事力は依然として強大であり(1990年代に見られたような全能感[omnipotent]はないにしても)、アメリカ経済は他の多くの国よりも優越な地位を保ち、世界の金融秩序に不釣り合いな影響力を保持している。アメリカの支援と保護は、かつてほどではないにしても、多くの場所で歓迎されている。

それでは相違点はどこかということになる。1990年代初頭にソヴィエト連邦が崩壊した時、アメリカは前例のないほどの優位な立場(unprecedented position of primacy)にあることを認識した。おそらく、皆さんの多くが職業人生を歩み始めた頃、あるいは政治に関心を持ち始めた頃だと思う。この時代、アメリカは他のどの国よりもはるかに強く、ロシアや中国を含む世界の主要諸国全てと比較的良好な関係を持っていた。ロシアが復活し、中国が急成長を続け、アメリカが愚かな戦争で何兆ドルも浪費するなど、「一極集中の時代(unipolar moment)」がなぜ短かったのか、後世の歴史家が正確に論じることになるだろう。しかし、私たちは再び競争的な大国間関係(competing great towers)と利害関係が高まり(rising stakes)、間違いを犯してしまったら本当に深刻な結果になる世界に戻ってきたことを理解しなければならない。このような世界で効果的に競争するためには、自国の利益を明確に理解し、優先順位を決めてそれを守る能力、そしてアメリカのパワーで何ができ、何ができないかを冷静に認識することが必要である。また、国内の分裂を抑制する(within bounds)ことも重要である。党派的争いは決して良いことではないが、そのレヴェルは私たちが受け入れられないほどに深刻化している。

第二に、他国には他国の利益と目標があり、友好諸国の利益と私たちの利益が常に一致するとは限らないことを認識する必要がある。たとえばインドはインド太平洋地域における有用なパートナーだが、ウクライナ紛争については断固として中立を保ち、今でもロシアの石油とガスを大量に購入している。イスラエルとサウジアラビアはアメリカの長年の同盟国だが、どちらもウクライナを助けるために指一本動かそうとしない。サウジアラビアは最近、中国の習近平国家主席を招いて一連の首脳会談を行った。アメリカは、ロシアの戦力低下とインフレ抑制のために石油生産の削減を避けるようにサウジアラビアに求めたが、サウジアラビアはアメリカの要求を拒絶した。ヨーロッパとアジア地域のアメリカの同盟諸国は、世界第2位の経済大国である中国との経済関係を悪化させる恐れがあるため、中国との「チップ戦争」が賢明なことなのかどうかについて疑問を抱いている。

私のアドヴァイスは次のようなものだ。それは「慣れること」だ。出現しつつある多極化する世界(emerging multipolar world)では、私たちが自国の利益を追求するのと同じように、他の国も自国の利益を追求する。もし、私たちが他国からの支持を望むなら、実際望んでいるのだが、私たちは彼らの利益が何であるかを理解する必要があり、彼らが単に一線に並ぶことを期待しないようにしなければならない。

ここでもう1つ知っておいて欲しいことがある。アメリカは関与しないとか、「自制(restraint)」の大戦略(grand strategy)を採用するとか、アイソレイショニズム(isolationism)に退くとかそんなことはまったくない。その逆なのである。アメリカは今、2つの大国に対して同時に決定的な敗北をもたらそうとしている。ウクライナがロシアに軍事的敗北をもたらすのを助けようとしている。戦争が始まった直後にロイド・オースティン米国防長官が言ったように、「ロシアがウクライナに侵攻したようなことができない程度に弱体化することを望んでいる」のである。同時に、中国に経済的、技術的敗北を与え、中国の台頭を遅らせ、今後数十年にわたりアメリカの支配を維持しようと考えている。世界経済を混乱させたり、台湾への攻撃を誘発したり、中国との経済的な関係を維持したい同盟諸国を混乱させたりすることなく、中国を弱体化させようとしているのである。この戦略が何であれ、それは「縮小(retrenchment)」ではない。

ウクライナ戦争は、軍事力を含むハードパワーが引き続き重要であること、そして国家がそれを不用意に使用すると厄介なことになることも明確に示している。軍事力は、国家を守る最高機関が存在しない現実の世界では残念なことではあるが必要なものである。しかし、その効果を予測しにくい粗雑な手段でもある。ロシアのウラジミール・プーティン大統領の不適切な侵攻は、指導者がいかに誤算(miscalculate)を犯しやすいかを示している。しかし、成功した軍事作戦でさえ、意図しない結果を生み出し、それが解決しようとした本来の問題と同様に、新た田事態に対しての処理が困難になる可能性も出てくる。

この問題に言及したのは、連邦議員、行政府の幹部職員、利益団体のロビイスト、外国の大使、あるいはシンクタンクの権威ある専門家などが、一刻も早く対処しなければならない危機が迫っていると言ってくる可能性があるためだ。彼らは、何もしない無策の危険は重大であり、武力行使のリスクは最小であり、今行動することのメリットは非常に大きいと説得しようとしてくる。そして、彼らが正しいということもかろうじてあり得る。

しかし、私からのアドヴァイスは 「懐疑的(skeptical)になること」である。たくさん質問すべきだ。バックアップの計画はあるのか、計画した作戦が完了した後にどうするつもりなのか、といった質問をしてみて欲しい。反対派や第三者がどのように反応すると考えているのか? その予測の裏にはどのような証拠があるのか? 他の選択肢が検討されたかどうかを厳しく追及して欲しい。彼らの評価の根拠となる情報について質問してみる。予防戦争(preemptive war)は国連憲章(U. N. Charter)の下で違法であり、かつてオットー・フォン・ビスマルクが予防戦争を「死を恐れて自殺すること(committing suicide for fear of death)」に例えたことを思い出して欲しい。最近のアメリカの軍事介入は、最初はうまくいったが、結局は金のかかる泥沼状態(quagmires)に陥ったことを指摘することもできるだろう。彼らがオフィスを去った後、スタッフに頼んで異なる見解を持つ人物たちと連絡を取り、そうした人々の言うことに耳を傾けてほしい。アメリカは実際、非常に安全な国であり、武力行使は最後の手段(last resort)であって、第一に起きるべき衝動(impulse)ではないことを忘れてはならない。アメリカは、好戦的・攻撃的(trigger-happy)に見える時よりも、自制と忍耐(restraint and forbearance)をもって行動する時にこそ、他国からより多くの支持を集めることができるという傾向がある。

もう1つ、心に留めておいて欲しいことがある。それは、私たちは相互依存の世界(interdependent world)に生きている、ということだ。確かにアメリカは依然として世界最大の経済大国であり、他の国々に比べれば対外貿易への依存度ははるかに低い。しかし、「依存度が低い(less dependent)」ということは、他国との経済交流から大きな利益を得られないということではない。保護主義(protectionism)が拡大すれば、アメリカ人はより貧しく、そしてより弱くなる。

同様に重要なことは、自国での愚かな政策(boneheaded policies)が、外国や企業に、そして何百万人ものアメリカ人にとって事態を悪化させるような対応を取らせる可能性があるということだ。連邦議会が国家債務上限(debt ceiling)を引き上げられず、アメリカが債務不履行(default)に陥ったとしても問題ないと同僚が言った時、このことを心に留めておいて欲しい。もし、あなたや同僚議員たちが劇的な景気後退を引き起こす手助けをすれば、一見、安全な議席を持つ現職議員でさえ、職を探す羽目に陥ることになるかもしれないのだ。

新しいオフィスや配属された委員会に慣れたら、緊急性の高いものと本当に重要なものを区別するようにして欲しい。24時間365日のニューズサイクルは残酷な愛人(cruel mistress 訳者註:良い面と悪い面の両方があるという意味)である。また、皆さんは既に再選のことを気にしていることだろう。このような状況下では、その時々の危機に対応する誘惑に抗うことは困難だろう。しかし、危険なのは、私たちの長期的な未来に最も大きな影響を与えるトレンドや関係性を見失ってしまうことだ。

私が言いたいのはこういうことだ。現在、ロシアのウクライナ戦争はより直接的な問題であるが、より長期的な課題としては中国が挙げられる。アメリカの経済的将来と安全保障全体は、クリミアやドンバスを誰が最終的に支配することになるかで決まるものではない。個人的にはキエフであって欲しいが、モスクワになったとしても、アメリカにとってはそれほど重要ではないだろう。重要なのは、アメリカが最も重要な先端技術の分野でリードしているかどうか、アメリカ国内の大学や研究機関が依然として世界の羨望の的であるかどうか、そして平均気温が1.5上昇するか2上昇するか、あるいはそれ以上上昇するかということであろう。もしあなたやあなたの同僚たちが、アメリカがこれらの大きな問題で正しい側に立つのを助けることができれば、あなたは将来の世代に大きな恩恵を与えることになるだろう。

最後に、アメリカが政治的に深く対立していることは、今さら皆さんに言わなくても分かっていることだろう。しかし、連邦議員に就任した以上、世界が皆さん方を見ているということを忘れないで欲しい。自分の住む州や地区では良いが、海外では国のイメージに大きなダメージを与えるようなふざけた態度を取ってはいけない。分極化(polarization)と行き詰まり(gridlock)は、アメリカに残された優位性を維持し、アメリカ人がより安全で豊かな生活を送るための政策を実現することを難しくしてしまう。連邦下院の議場でのささいなしかもふざけたじゃれ合い(あるいはそれ以上のもの!)は、アメリカのブランドを汚すことになる。アメリカの指導者たちは、自国の政治システムがこれほどみすぼらしくそして機能不全(tawdry and dysfunctional)に陥っているというのに、どうして他国にその改善策を指示できるだろうか? アメリカの外交官たちが他国に政府を説得し、アメリカの公約と引き換えに行動を修正させることは、次の選挙後もその公約が守られるかどうか分からない状況では、ほぼ不可能である。民主政治体制国家はこの問題を完全に回避することはできないが、最近この国で見られたような極端な気分の変動(extreme mood swings)は、同盟諸国と協力したり、ライヴァル諸国に対して効果的に対処したりする能力を損なうものだ。

私の主張の内容がナイーヴに聞こえることは承知している。政策の違いを真剣に議論し、党派的な大言壮語(grandstanding)、陰謀論(conspiracy theorizing)、裸の自己顕示欲(naked self-promotion)を否定することを期待するのは、絶望的なまでに理想主義的だ。しかし、皆さんの中から、狭い私利私欲を乗り越え、自分のエゴや役得(perquisites)よりも国家を優先してくれる人が出てくることを期待して、とりあえず言っておきたいことがある。マーク・トウェインがかつて忠告したように、「正しいことをしなさい。正しいことをすれば、一部の人は満足し、残りの人は驚くだろう(Do the right thing. It will gratify some and astonish the rest)」。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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(終わり)

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 古村治彦です。

 今や世界において中国の動向は重要な要素となっている。中国がどのように動くかで国際社会の動向が決まるということになっている。アメリカも重要であるが、中国もその重要度を増している。2023年の中国はどのように動くかということに多くの人々は関心を持っている。

 最近の中国に関する報道と言えば、「新型コロナウイルスゼロ」政策を放棄し、行動の緩和が実施されている。そのために新型コロナウイルス感染者数が増大しているが、公式発表では死者数が極端に抑えられているということだ。中国はこれだから信用できないということになる。

対外的には台湾問題に注目が集まっている。昨年2月24日のウクライナ戦争勃発後、「ウクライナの次は台湾だ」、つまり「中国が台湾に侵攻する」という主張が声高に叫ばれ、米中間の関係も緊張をはらむものとなった。最近では台湾からも「あまり危機感を煽らないで欲しい(特に日米両国)」という声が出ている。中国は国内問題もあり、また、現在の国際秩序の中で経済力を高める段階にあり、保守的な状況である。

 下に紹介にした論稿では5つのポイントで中国に関する予測を行っている。簡単にまとめると、「(1)新型コロナウイルス感染拡大で死者数が増える、(2)経済の回復は遅い、(3)旅行業界だけは活況を呈する、(4)人々の不満が小規模な抗議活動ということで噴出する、(5)米中関係は穏やかになり、台湾問題は静けさを保つ」ということになる。

 上記の予測ポイントについて、私なりの考えを書いていきたい。新型コロナウイルス感染拡大に関しては、中国は世界で最初に対処した国であり、その対処方法を模索し、開発し、改善してきた。病院の整備などのスピード感は群を抜いていた。自然免疫に方向転換を行っても、ある程度の管理を行うものと思われる。経済活動は、世界経済と連動している部分もあるが、国内需要がこれから増大していくだろう。そのスピードと規模をうまく予測できる人はいないだろう。ただ、国内需要が経済回復をけん引するだろう。旅行については既に私たちが目撃しているように活況を呈している。人々の不満が収まれば抗議活動は沈静化するだろう。国際関係について言えば、アメリカが敵対姿勢を弱めれば中国も穏やかになるだろうし、台湾問題もアメリカが煽動しなければ落ち着いたまま進んでいくだろう。

 新型コロナウイルス対策もウィズコロナに変更されていく中で、経済と社会が少しずつ動き始めているのは世界共通だ。中国も例外ではない。巨大船舶と同じで、少しの動きが他の小さな船舶に比べれば大きなものとなる。あまりに急激な動きは世界に及ぼす波も大きくなってしまう。中国はそろりそろりと動いてくれるのが最善なのである。

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2023年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2023

-新型コロナウイルスをめぐる悲劇から弱体化する習近平まで、来年に起こる可能性があることを述べていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2022年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/28/china-predictions-2023-covid-xi-jinping/

今年(2022年)は中国にとって非常に悪い年であった。しかし、このニューズレターが昨年予測したように、事態は常に更に悪くなる可能性がある。14億人の人口を抱える国について推測するのは難しいし、中南海(中国政府中枢)のシャッターの内側を覗き込もうとするのもまた難しい。しかし、2023年にどのような悪いことが起き、そしてどのような良いことが起こるかについて、以下に私が最善を尽くして行った予想を書いていく。

(1)新型コロナウイルスに関する悲劇(A COVID-19 Tragedy

中国はつい2度目の新型コロナウイルス感染拡大の危機に直面しており、その様相は悲惨なものとなっている。中国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and PreventionCDC)の内部ブリーフィングによると、2022年12月1日から12月20日の間に2億5000万人が感染したと推定され、12月7日に政府が新型コロナウイルスゼロ政策を解除したのは封じ込めシステムの失敗に対する性急な対応だったことが明白に確認された。中国疾病予防管理センターの推定では、先週の火曜日の1日だけでおよそ3700万人が感染していることになる。

中国の医療制度は、長年の準備不足と治療よりも封じ込めに重点を置いてきたこともあり、既に対応に追われている状況だ。オミクロンBA.2亜型の致死率0.3%に基づいて計算すると、2億5000万人の感染者の中から75万人が死亡する可能性があることになる。この指数関数的な増加率からすると、第一波は2023年1月末までに中国の人口の60%に到達する可能性があります。この場合、9億人が感染し、270万人が死亡することになる。

もちろん、未知の部分も多く、現在中国で流行している変異株は致死率が低い可能性もある。私はそうであって欲しいと願っている。『フォーリン・ポリシー』が正式に確認したのではないが、中国の友人たちは、家から一歩も出ていないのに、新型コロナウイルスに感染したという話を語っており、アパートの集中空調システムを通じて感染している可能性を示唆している。

多数の死者が出れば、特に新型コロナウイルスゼロの価値があるかどうかという点では、心理的に大きな影響を与えるだろう。インドの新型コロナウイルス感染拡大の経験から、中国でもウイルスが猛威を振るえば、2020年には数百万人の死者が出る可能性があった。しかし、救われた命では、それぞれの喪失の悲しみや辛さを軽減することはできない。しかし、中国で公的な政治的危機が起こるとは思わないで欲しい。新型コロナウイルスによる死亡の影響は、犠牲者の多い国においても、世界的には驚くほど小さい。

更に言えば、2億5千万人の感染を経て、12月23日現在、中国が公式に報告した死者はわずか8人である。中国が死者数について明らかに嘘をつき、馬鹿げた計算方法を用い、メディアで危機を取り上げないようにしているのは、国民の怒りを恐れてのことだ。たとえ公式発表の数字が事実でないと分かっていても、危機的状況をテレビ画面から遠ざけることで、かえって危機を身近なものとして感じられるかもしれない。

(2)弱含みの経済回復(Weak Economic Recovery

中国の新型コロナウイルスの死者数は2023年の怪しいデータだけしか存在しないのではない。政治体制は、プロパガンダのためと内部の政治的理由のために、たとえ判断が不可能であっても統計事態は要求する。今回の新型コロナウイルス感染の波の規模からすると、ヴェトナムなどのように新型コロナウイルス感染対策を解除したからと言って、中国経済が以前のレヴェルに回復することはないだろう。

中国においては、消費者の潜在的な需要はたくさん存在が、新型コロナウイルスに感染することへの不安やリスクを回避しようとする志向が強いため、その需要は少しずつ出てくるのではないかと考えられる。厳しい2年間を経て、地方政府も中央政府もポジティブなデータを出すようにという政治的圧力が非常に強くなっている。それは人口の数字にも影響を及ぼしている。研究者たちは、中国の人口はすでに減少しており、新型コロナウイルスによる死亡はその問題をより厳しいものにすると主張している。

更に言えば、新型コロナウイルスは、病気や死亡によって主要な労働者がいなくなることで、サプライチェインに打撃を与える。また、最悪のシナリオでは、大きな流行を経験していない村や小さな町が、感染拡大当初と同じように、訪問者を隔離し、旅行を阻止する方法を採用する可能性がある。中央政府は2020年よりもずっとこうした方法を敵視するだろうが、地方における中央政府の執行能力は遅くしかも弱くなる可能性が高い。

挙句の果てに、中国は新型コロナウイルス感染拡大の結果ではない、多くの経済問題を抱えている。経済成長の大半を支えてきた不動産セクターはゆっくりとした崩壊を続け、アメリカは自国経済と中国経済を切り離す試みを本格化させ、世界的な景気後退の危機が迫っている。中国政府は、景気刺激策で不動産ブームを少しは下支えできるかもしれないが、いつかは現実を直視しなければならないだろう。

同様に、中国のテクノロジーを標的にしたアメリカの政策は、中国のテクノロジー産業に対する中国の公式な巨額の投資を生み出す可能性が高い。しかし、それは政府のコネに依存し、半導体向けのビッグファンドの失敗のように、多くの腐敗を伴うことになるだろう。

(3)旅行ブーム(A Travel Boom

2023年に甦る可能性があるのは旅行業界だ。国内需要は現在の新型コロナウイルス感染の波が過ぎるまで回復しないが、10月の大型連休には過去最高を記録する可能性がある。また、海外旅行もより早く回復するだろう。検疫期間が短縮され、完全に終了する可能性が高いため、中国人は大量に海外旅行に出かけることになる。この記事はクリスマス前に書いたが、検疫は12月26日に終了し、飛行機の予約ラッシュとなった。3年間も世界から隔離されていたため、旅行する余裕のある人は、アメリカの学校に通う子供たちを訪ねたり、タイのビーチに行ったりなど、国外に出ることに必死だ。

また、若者の間では、常に後退しているように見えるこの国から移住したいという願望も存在する。欧米諸国は、移民に対する偏執的な嫌悪感を維持するのではなく、潜在的な才能の大きな波を拾い上げることに目を向けるべきだ。

(4)より小規模な抗議運動(More Small Protests

2022年末の抗議デモの波の後、中国では来年も小規模なデモが続くと考えられる。新型コロナウイルスゼロ政策終了を求めるデモのような統一されたシナリオはないだろう。しかし、不正な金融会社から盗まれたお金を取り戻すか、新型コロナウイルス感染拡大による封鎖を終わらせるかにかかわらず、当局に圧力がかかる可能性があることは明白だ。

習近平国家主席の退陣を求める思想的なデモ参加者は嫌がらせや逮捕を受けたが、新型コロナウイルスゼロ政策反対のデモ参加者のほとんどは報復を免れた。このことは、人々が他の問題についても限界に挑戦することを促すかもしれない。残念ながら、不動産業界にとっては更に悪いニュースだ。過去10年間、中国で最も一般的で成功した抗議活動の1つは、資産税導入の試みに反対するものであった。

また、習近平の立場も非常に弱くなっている。習近平は、中国メディアが常にその成功を誇っていた「新型コロナウイルスゼロ」政策と密接に結びついていた。これに加えて、経済が減速しているため、中国の政治エリートは習近平の指導力に対して深刻な疑念を抱いている。問題は、2022年10月の中国共産党大会で習近平がいかにうまく立ち回ったかを考えると、彼らが何かできるのかということだ。

今年、習近平が国民と中国共産党の両方に対する権力を再強化するために、政治的統制を強化することはあり得る。しかし、長年にわたるイデオロギー的な弾圧の後に、何を締め付けるのだろうか?

(5)より穏健な言葉と静かな海峡(Softer Words and a Quiet Strait

中国の国内問題の数々は、国際舞台では、主に非公式な場でではあるが、より良い言葉につながっているようだ。アメリカをはじめとする外交官たちは、中国側が以前よりも対話に前向きになっていると報告しており、2022年11月のG20サミットでジョー・バイデン米大統領と会談した習近平国家主席は、両国間の経済摩擦の激しさにもかかわらず、笑顔のトーンを維持する可能性がある。

しかし、その部分的な雪解けは非常に不透明であり、ちょっとした危機でも関係が再び凍結する可能性がある。中国の国営メディアは、10年前よりも外国嫌いで反米的であり、中国の問題をアメリカのせいにしようとする強い動機がある。

これら全ての問題は、今年、台湾をめぐる大きなトラブルを期待しない方が良いということを示唆している。中国政府は単に国内で対処すべき問題が多すぎて、戦争はおろか、新たな危機を迎える余裕もないのだ。ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問をめぐる一時的な騒動は、結局のところ大げさなものであったことが判明した。だからといって、いわゆる統一への執着や台湾への政治的干渉がなくなる訳ではなく、おそらく現状維持にとどまるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

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 古村治彦です。

 「アメリカは中国とロシアの間を引き離すように中国に働きかけるべきだ」という声が上がっている。現在、ウクライナ戦争を戦っているロシアに対して、中国は表立って支援を行ってはいない。しかし、中露両国間には正式な条約を結んでの同盟関係、相互防衛関係は存在しないが、中露間の関係は緊密になっている。中国の一帯一路計画や上海協力機構(SCO)にロシアは参加し、ユーラシア同盟としての関係を築いている。ロシアはヨーロッパ志向(思考)を捨て、ユーラシア国家として生きていくという道を選択した。

中国はウクライナとの関係も良好であり、中国初の空母「遼寧」は、ウクライナの空母「ワリヤーグ」(1988年竣工)を購入し、改造したものだ。正確に言えば、ソ連時代に建造した空母であるが、造船所がウクライナにあり、ソ連崩壊の混乱とウクライナの独立があり、造船所がウクライナに国有化されるなどしたため、ロシアとウクライナの間での交渉の結果として海外に売却するということになっていた。ウクライナは所有権を持っていただけのことで、建造したのは旧ソ連ということになる。

 中国とロシアの間は離れがたく見えるが、それでも相違点は存在する。中国は現在の国際秩序の中で、自由貿易体制の利点を利用して高度経済成長を達成している。国際秩序の急速な変更は望んでいない。短期的、中期的には現状維持を望んでいる。ロシアは冷戦時代にアメリカと世界を二分して渡り合った。その前にはロシア帝国としてヨーロッパで覇を競った。ソ連崩壊でロシアはプライドを傷つけられた。ロシア国民はプーティン大統領が国民生活を改善し、ロシア帝国を復活させてくれるということで支持している。ロシアは現状に対する挑戦国となっている。ここが中露両国間の相違点だ。

 アメリカは中国を潜在的な脅威として捉えていて、強硬な対中姿勢を取っている。そうなれば、中国としてはアメリカとバランスを取る必要が出てくるので、ロシアの接近を受け入れるということになる。

ドナルド・トランプ大統領時代に「ヤルタ2.0」という風刺写真が出たことがある。1945年のソ連のヤルタでの米ソ英3カ国の首脳会談(フランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領、ヨシフ・スターリンソ連共産党書記長、ウィンストン・チャーチル英首相)で戦後世界の管理体制が決められた。

このことを受けて、ドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席、ウラジミール・プーティン露大統領の米中露三帝が世界を管理するという意図が風刺写真に込められている。米中露がうまく折り合いをつけてやっていれば、世界は平和だという意図もその写真には込められている。現在は、冷戦初期のような段階になっている。アメリカが中露に対して強硬な姿勢を取り、それぞれとの戦争の可能性も出てきて、世界は第三次世界大戦に近づいている。
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 中国がソ連と中国を離間させて、世界政治を動かしたのはリチャード・ニクソン大統領、ヘンリー・キッシンジャーの国務長官時代のことだ。この時代のことを懐かしみ、「アメリカは中国とロシアの間を引き離すべきだ」という主張が出ている。

 しかし、1970年代と現在では状況が大きく異なっている。アメリカの国力が衰退し、中国とソ連は国力を増大させている。中露は共にアメリカの衰退を待って、国際秩序の変更を行う(その規模やスピードには両国間で相違はあるが)、より露骨に言えば、西洋近代500年の支配を終わらせるという決意をしている。そして、それを西洋以外の新興の国々(the Rest)が支持している。中露は「ザ・レスト」の旗頭になっている。ここでアメリカに近づくことはもうできない。

 ジョー・バイデン政権ではなく、ドナルド・トランプ政権が続いていたら現在の状況はどうなっていただろうかということを考えることがある。そんなことを考えても仕方がない、詮無き事ではあるが、現在のような世界的に厳しい状況になっていなかったのではないかと考えてしまう。2024年にジョー・バイデンが米大統領に再選されることが世界に幸せをもたらすのかということも考えてしまうと、先行きはなかなか暗いと言うしかなくなる。

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ワシントンは中国をロシアに対立させる機会を失いつつある(Washington Is Missing a Chance to Turn China Against Russia

-稀な状況で危機が重なったことで北京が軌道修正する可能性が出てきている。

ロバート・A・マニング、ユン・サン筆

2023年1月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/19/us-china-russia-ukraine-allies-war/?tpcc=recirc_latest062921

直感に反するかもしれないが、ロシアのウクライナ戦争、経済の低迷、反ゼロ新型コロナウイルスの反動、中国の習近平国家主席が一連の政策を撤回したこと、これらの出来事が中国に与える政治・経済的コストによって、ウクライナに関する米中協力のスペースを開く可能性がある。また、ウクライナ戦争が台湾への世界的な支持を集めていることも、北京にとって重荷になる可能性がある。

ウクライナ戦争が始まって以来、中国はロシアを言葉の上では支援し、NATOの行動を非難してきたが、モスクワを実質的に支援することを約束することは避けてきた。中露同盟は、西側諸国でよく見られるように、修正主義的な2つの独裁国家の間の単純なイデオロギー的共感ではない。むしろ、現実的でやや取引的な関係であり、アメリカは少なくとも特定の問題に関して、両者を引き離す機会を逸している可能性がある。

第一に、昨年9月に旧ソ連のカザフスタンを訪問した際、習近平は「断固として(resolutely)」カザフスタンの主権を支持すると約束し、モスクワをけん制(a snub to)した。そして、同じ9月の上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)の会議で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争をめぐる中国の「疑問と懸念(questions and concerns)」を前代未聞の形で公に認めた。2022年10月初旬、中国は国連安保理と総会の両方で、ロシアのドンバス併合を非難する投票に反対票を投じず、棄権(abstain)した。北京はまた、インドとともにウクライナ戦争の終結を訴えた。

これは、傷ついた西側諸国との傷ついた外交関係を修復しようとする試みと並行して行われた。ヨーロッパ連合(EU)当局者によれば、北京はNATOを非難する発言を止め、中国政府当局者たちが、中国はロシアの核使用を容認できないと考えていると語ったという。

中国は、「ウクライナの領土はどの範囲になるか」についてのロシアの解釈を支持する余地を十分に残しつつも、一貫してウクライナの「主権と領土保全(sovereignty and territorial integrity)」への支持を繰り返してきた。このような矛盾した、やりにくい努力を続けている。中国は侵略を正当化しているロシアを含む「当事者全て(all parties)」に自制(restraint)を呼びかけ、ウクライナの現在の状況に失望を表明してきた。それでも、 2022年2月 24日以前からウクライナとの強固な経済的および軍事的関係にもかかわらず、中国のメディアは親ロシアおよび反 NATO の偽情報を絶え間なく流しつつ、中国はウクライナに対してはわずか300万ドル程度の人道援助(humanitarian aid)しか提供していない。

ロシアと中国は、国際秩序が自由主義的民主政治体制家によって不当に支配されているという見解とアメリカの優位性(primacy of the United States)を共有することで結びついた。中露両国は自由主義的な国際秩序に対する地政学的な脅威(geopolitical threats)として認識されており、それは当然、欧米諸国、特にアメリカに対する中露両国が持つ脅威認識と同様だ。こうした地政学的な懸念の共有は、2014年、クリミア危機でロシアが孤立し、バラク・オバマ政権のアジアへの軸足転換(pivot to Asia)で、中国の周辺地域の安全保障環境に対する不安が強まりそして加速した。加えて、習近平の冷戦時代からのロシアへの親近感、絶対的政治指導者(strongman)としてのプーティンへの憧れが、中露の緊密な連携に対するトップリーダーのお墨付きをもう1つ与えることになった。

しかし、中国も他の国と同様、自国の利益を最優先しており、その利益はウクライナをめぐるモスクワの利益とますます乖離している。中国は、農業貿易、軍事技術協力、「一帯一路(Belt and Road)」社会資本(インフラ)整備プロジェクトなどで強固な関係を築いてきたロシアがウクライナに侵攻したことで、かなり困惑している。

プーティンがウクライナに侵攻した際、ウクライナには6000人以上の中国人が滞在していた。北京にはほとんど何の事前通報もなかったために、中国人の避難作戦を開始するために中国政府は東奔西走奔走させられることになった。中国政府は非公式に、避難民の一部が殺害されたことを認めている。このことは、プーティンが習近平に対して、戦争について知らされていなかったという中国当局者の主張を裏打ちしており、何が起こるかについてロシアは中国に対して正直ではなかったことを示唆している。プーティンは中国を、ロシアとの「無制限の(no-limits)」協力と、主権と領土保全に関する基本的な外交政策原則を選択的に、自分に都合が良い形で適用するプーティンとの間で、無駄な努力をする立場に追い込んだ。

プーティンのウクライナ戦争は、中国経済が困難な時期に、中国の経済的利益を直撃することになった。ウクライナ戦争による世界経済の混乱は、中国にとって最大の海外市場のいくつかに打撃を与えている。中国は問題を抱えた発展途上諸国への最大の資金の貸し出し者であるため、ウクライナ戦争と欧米諸国の制裁の影響でエネルギー、食糧、肥料の価格が上昇し、中国の融資返済の努力を複雑にしており、中国の巨額の債務問題を悪化させている。

ウクライナは北京が嫌うアメリカとの同盟関係を強化している。そして、次は自分たちだと恐れる旧ソ連諸国とロシアの関係を弱め、これらの国々がワシントンとの対話に関心を高めるように仕向けている。ウクライナ戦争の影響は、中国の大国としての外交政策の信頼性に疑問を投げかけている。プーティンがアメリカ主導の秩序を害する混乱を自らの利益と見なす破壊者(disrupter)であるのに対し、北京は中国の利益に有利なように世界の制度を再編成することに関心を持っている。この点は、米国の政策に織り込まれるべき、両国の間の重要な違いである。

特に、台湾問題に影響を与えている。岸田首相が「東アジアは明日のウクライナになるかもしれない(East Asia could be the Ukraine of tomorrow)」と言ったように、プーティンの戦争に対する西側諸国の反応と台湾へのアナロジー(類推)は、北京が今後の台北に対する行動を考える上で新たな要素を加えたことはほぼ間違いない。

ロシア経済への制裁が強まる中、中国が半導体などの重要なテクノロジーを提供するかどうかが1つの指標になるだろう。問題を抱えるジュニアパートナーとの協力関係を制限しているのは、中国がロシアと距離を置いていることを示すというよりも、巻き込まれての副次的な制裁を恐れてのことなのかもしれない。いずれにせよ、アメリカは、ウクライナに関する米中協力を可能にするのに十分な新しい機会が開かれるかもしれないという命題を検証することで失うものはほとんどない。

もしアメリカが、ウクライナに関するロシアと中国の見解の間の政治的空間が、米中間の慎重な協力のための新たな機会を開くほど広がっている可能性を見分けるのが遅くなっているが、それは初めてのこととは言えない。冷戦時代の反共産主義の影響力は、中ソが国境で短時間ながら激しい対立を繰り広げた時でさえ、アメリカが中ソの緊張を利用するのを複雑化し遅らせた。中ソの緊張は1950年代半ばにはアメリカの情報アナリストにとっては明白であったが、当時のリチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題大統領補佐官が中国との国交回復を利用し、この時代最大の戦略転換の1つを生み出したのは1971年になってからのことであった。

米国の近視眼(myopia)と確証バイアス(confirmation bias)は、中露両国を互いに接近させ、中国の対ウクライナ政策を過度に単純化することになる。中露同盟の宣言を額面通りに受け取ることで、アメリカは中露両国のそれぞれの国益とアプローチにおける重要な相違点を捉え損ねている。そこをうまく捉えればアメリカ外交のためのスペースを開く可能性が出てくる。

ウクライナ戦争初頭から、ワシントンは中国をロシアの共犯者として糾弾する「私は糾弾する(J'accuse[訳者註:フランスの作家エミール・ゾラがドレフェス事件で出した著作の書名]」を延々と繰り返してきた。プーティンの侵攻計画を中国が事前に知っていたというリークが何度も報道機関に流れたのは、やってもいない犯罪の責任を中国に負わせることが目的だった。プーティンが白紙委任(blank check)したロシアとの「無制限(no-limits)」の協力を進めた習近平は、確かに軽率であり賢明ではなかったと考えられる。しかし、北京の不可能に近いバランス行動、一種の親ロシア的な中立努力は、戦争への積極的参加とは決定的に異なる。

中国がロシアと経済的な関わりを継続していることは問題だが、インドやトルコ、そして南半球の多くの国々も同様である。北京はロシアへの石油・ガスプロジェクトやアジアインフラ投資銀行への融資を中止している。2022年7月までに、複数のアメリカ政府高官は、中国は、ロシアから制裁を科すという脅しを受けながらも、ロシアが制裁を逃れるのを助けず、モスクワの戦争行為に軍事支援をしなかったことを公然と認めている。

北京がロシアを非難したり、制裁を科したりすることを拒否していることは、もちろん道徳的に問題であり、政治的に役に立たないし、一貫して親ロシア的な国内メッセージも同様である。しかし、これは道徳的な問題であると同時に、実際的な問題でもある。

ワシントンは、中露同盟が確立され、揺るぎないものであるという前提で動いているが、現実には、より限定的な戦略的パートナーシップである。両国間には相互防衛に関する第5条のような協定は存在しない。

アメリカが公然と非難を繰り返したところで何の解決にもならない。アメリカとの戦略的競争が中国の対外関係における最も重要なテーマであり続ける限り、特に台湾をめぐる緊張が高まる中で、北京はアメリカに対抗するために必要なパートナーとしてモスクワを見るだろう。しかし、戦争が長引くにつれ、中国の風評被害と経済的コストは増大し、衰退しつつある戦略的資産との悪い取引と見なされつつあることから、いくつかの問題で北京を遠ざけることができるかもしれない。

アメリカは、中露両国の違いを緩和し、橋渡しするのではなく、中露両国間の断層(Sino-Russian fault lines)を探ろうとするはずである。2022年7月にアントニー・ブリンケン米国務長官が中国側に行ったような道徳的な嘆願は、変化をもたらすというよりも、中国のナショナリズムを煽る傾向がある。戦略的競争という文脈の中で、中国との協力や非干渉という戦術的転換(pivot)は、利害が重なったときに移行し、利害に利益をもたらし、おそらくわずかな信頼を再構築することができる。北京の計算を形成するために、ワシントンは単に懲罰的な行動だけでなく、相互の脆弱性(vulnerability)と懸念の分野を指摘する必要がある。

中国が制裁体制外でロシアに経済貢献することを抑止するためのアメリカの警告は聞き入れられそうにない。中国最高指導部序列第3位である栗戦書は、2022年9月にロシアを訪問した際、貿易、インフラ、エネルギーなどに関して、ロシアとの経済協力の強化を約束した。これは昨年(2022年)12月の習近平・プーティン間のズーム会談で更に確認された。北京の見解では、アメリカは中国とロシアとの経済関係、特にエネルギー関連技術やその他の天然資源の領域での協力を永久に阻止することはできない。

ロシアの意思決定に決定的な影響力を持つ数少ない国の1つとして、中国がウクライナ危機の調停(to mediate)を早くから申し出ていることを検証しておく必要がある。中国は紛争の当事者ではないと主張するかもしれないが、紛争を助長してきたのは事実である。大国として、戦争を早期に終結させる責任から逃れることはできないことを明確にする必要がある。

ウクライナに関する米中対話の入口として考えられるのは、プーティンの核兵器使用の公然たる脅威と、77年間の歴史を持つ核に関するタブーを破ることの結果に対する相互懸念である。ジョー・バイデン米大統領は「ハルマゲドン(Armageddon)」の脅威を口にした。中国は「先制不使用(no first use)」を明言しており、ロシアの核兵器使用は北京を自衛不可能な状態に追い込むことになる。また、ウクライナでの核兵器使用が北朝鮮に対する制限を低くし、北東アジアでの核拡散に拍車をかけるという懸念が共有されているので、予防手段(preemptive measures)の議論が急がれているのであろう。

また、戦争終結の方法と手段、更にはウクライナの経済再建の将来についても、戦争の進む方向を見据えて考えなければならない。アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、日本、世界銀行、国際通貨基金、ヨーロッパ復興開発銀行が協調して経済資源を動員することは、政治的困難と資源の枯渇を考えると非常に困難であろう。世界有数の貸し手である中国に、その議論に加わる機会や努力の調整の機会が与えられなければ、中国独自の復興努力が欧米諸国の努力を複雑にしたり妨害したりすることになりかねない。協調的でグローバルなキャンペーンにおいて、中国が公正な役割を果たすための対話が模索されるべきだろう。

問題は、ウクライナに関して利害が一致する可能性のある分野を探るのに十分な政治的空間を開くために、いかにして米中間の相互不満(mutual grievances)を中断するか、あるいは少なくとも区分けする(compartmentalize)かである。アメリカは道徳的なレトリックを抑えて、まずは北京との静かなバックチャンネル・アプローチで関心を探るのが賢明であろう。また、ブリンケンが近く訪中する際には、問題の範囲が限定的かつ現実的であることを強調し、ウクライナのアジェンダを形成するよう努めるべきであろう。

北京がよりソフトなアプローチを示唆しているにもかかわらず、その困難に幻想を抱いてはならない。しかし、ウクライナ情勢がいかに悲惨なものになっているかを考えると、必要は発明の母(necessity may well be the mother of invention)ということになるかもしれない。

そのためには創造的な外交が必要だが、中露間の対立、北京の広範な利益、戦争を終結させ紛争後のウクライナを再建するために北京が果たせる積極的な役割など、冷静な判断も必要となるだろう。このような利害に基づく取引的なアプローチは、自己実現的な予言である北京・モスクワ同盟の強化を回避するのに有効であろう。

※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター、同センター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4

※ユン・サン:スティムソンセンター中国プログラム部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題になって3年余りが経過している。思い返してみればその最初は中国の武漢市であった。その当時、日本でもアメリカでも武漢市での混乱の様子や人々が戸惑い慌てている様子を連日報道していた。中国政府はうまく対応していない、強権的に人々を抑圧している、中国はパンデミックでたいせいに大きな影響が出るのではないかというような主張もなされていた。その後、同じような光景が世界各地で見られた。西側諸国の感染者数や死亡者数(それぞれ1000人あたりの数)を見れば、先進諸国がうまく対応してきたと評価する人は少ないと思う。

 アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌に感染拡大初期の中国の様子を現地に住む人物が回顧して書いた記事が掲載された。その内容は「中国政府がいかに効果的に新型コロナウイルス感染拡大に対応したか」というものだ。著者エリック・リーは英語で文章が書けるくらいの人物であり、おそらく中国以外の英語圏で教育を受けたものと考えられる。中国系の苗字であるが、国籍は中国ではないのではないかとも考えられる。中国の上海に在住し、子供たちは中国の公立学校で教育を受けているところから、中国でこれからも暮らすことを選択しているのだろう。彼の各内容はある程度割り引いて読まねばならないだろうとは思う。

 しかし、中国が新型コロナウイルス感染拡大に対して国家を挙げて、ある程度効果的に対応したということは認めなければならない。私は中国の対応は、「戦時態勢に向けた訓練」という意味が強かったのではないかと思う。第三次世界大戦が勃発し、中国が攻撃を受ける場合を想定しての

 中国の戦時態勢を率いるのが習近平だ。習近平がこれまでの慣例を破って、中国国家主席として3期目に突入しているが、このブログで何度も指摘しているが、戦時態勢構築のためである。中国国民は「賢帝」習近平を先頭にして戦時態勢の準備を進めているということになる。習近平の人気、支持率の高さは一般国民の意思が反映されているという解釈もある。「賢帝」という言葉はいささか過剰な高評価とも思われるが、そういう評価があるということを私たちは知っておくことも良いのだろう。民主的な選挙で選ばれた指導者が「賢帝」になり得ないということを私たちは身近で経験できているのは悲しいことだ。

(貼り付けはじめ)

習近平は「賢帝」である(Xi Jinping Is a ‘Good Emperor’

-一人の中国の擁護者は、なぜ新型コロナウイルス感染拡大によって習近平、党、北京への信頼が高まったかを語る。

エリック・リー筆

2020年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/14/xi-jinping-good-emperor-coronavirus/

上海では、生活も仕事も徐々に平常に戻りつつある。私も同僚もオフィスに戻った。レストランやバーも再開し、入り口で体温チェックをしている。私が出資している中国最大の自転車シェアリング会社「ハローバイク」は、利用者が大流行前の70%に戻ったと報告している。中国の他の地域でも程度の差こそあれ、同じようなことが起こっている。永遠に続くと思われた悪夢は、もう終わったのかもしれない。この機会に、中国の社会と政府について私が学んだ5つのことについて話してみよう。中国は時宜を得て正しい指導者を持つという幸運に恵まれた。

中国の人々は、自分たちの政治機関を信頼している。私たちの中国に対する理解は、権威主義的一党独裁国家(authoritarian one-party state)は国民の真の信頼を維持することができないという定義に支配されてきた。しかし、そろそろそれを脇に置く時期が来ている。大自然がこれほどのインパクトを与えてくれたのだから、もはや現実は無視できない。

2020年1月23日、中国政府は武漢市を封鎖し、更に総人口5600万人の湖北省全域に人類史上最大の検疫(quarantine)を命じた。2日後、チベットを除く全ての省が最高レヴェルの健康緊急事態を宣言し、7億6000万人以上の都市住民が家に閉じこもり、必要な時だけ外出を許され、公共の場ではマスク着用が義務づけられた。ほとんどの農村も閉鎖された。当時、全国で報告された感染者は571人、死亡者は17人であり、その後の世界的な状況を考えると、むしろ少ない方であった。

この措置の大きさには中国全土が驚かされた。人口2400万人の上海で、数日前まで渋滞していた道路が一夜にして人も車もいなくなった。最初は1週間か2週間で終わるだろうと思っていた。しかし、封鎖は継続した。人々は家に留まり、通りは空いたままだった。

何億人もの人々が即座に、そしてほぼ完全に封鎖に従ったことは、私にとって本当に驚きとなった。中国に行ったことがある人なら、中国の人々がどれほど手に負えないように見えるかを知っているだろう。中国の正規の警察は非武装である。上海の街角では、交通違反の切符をめぐって警察官と口論している人を見かけることがよくある。これほど長い間、多くの人がこのような大規模な封鎖に完全に服従したのは、自発的な行動以外に説明のしようがない。確かに、誰も病気になりたくないという利己心で説明できる部分もある。しかし、教養ある若者の大群が政府の命令や警告に公然と反抗してビーチやクラブに集まり(少なくとも初期の段階では)、警察の厳しい取締りが今も続いている他の国々と比較すれば、利己心だけでは説明できないことは明らかである。政治機関の専門性と自分たちを守る能力に対する国民の極めて高度な信頼だけがこのような服従をもたらす。

このような服従は、中国の厳格な治安維持体制によるものだと主張する人もいるかもしれない。これは2つの理由で的外れである。第一に、治安部隊が有効なのは少人数の活動家に対してであり、数億人の膨大な人口が集団で不服従を選択した場合には有効にはならない。第二に、感染拡大期間中、監禁を強制する大規模な強制行動があったという報告はほとんどなく、証拠もほとんどない。

また、中国政府は国民とのコミュニケーションにも余念がない。毎日、市、県、全国的レヴェルで新しいデータが発表された。テレビでは毎時間、政府の専門家たちが新型コロナウイルスと国の対応について詳しく話していた。どの新聞も、ソーシャル・ディスタンシングを置くことの重要性について書いている。つまり、信頼は盲目的なものではなかった。

中国の市民社会は健在だ。2月初旬に中国のソーシャルメディアにどっぷり浸かっていたら、逆の結論になったかもしれない。文化大革命終結後の最大の国民的トラウマの中で、国民の怒りが渦巻いていたのだ。15年前のSARS流行後に政府が構築した、地方当局が北京に早期警報する仕組みは、コロナウイルス発生の初期段階で明らかに失敗していた。その原因は、官僚が悪い知らせを上層部に伝えることを恐れていたためと推測され、中国の政治体制に重大な欠陥があることが露呈された。12月にコロナウイルスの危険性を最初に警告し、地元警察から口止めされた武漢の医師李文亮が自らウイルスに感染し、騒動は最高潮に達した。それだけを見れば、中国のチェルノブイリの瞬間、あるいは「アラブの春」の始まりと見る向きもあろう。しかし、結果はそうではなかった。

中国中央政府が人類史上最も大規模な疫病対策に動員をかけると、国は一つにまとまった。50万人のヴォランティアが湖北省の最前線に向かい、衛生要員、検疫要員、後方支援要員として健康と生命を危険に晒しながら活動した。全国では200万人以上の国民がヴォランティアとして登録し活動した。ソーシャルメディアは、彼らの感動的なストーリーや画像で溢れ始めた。カフェやレストランでは、ビジネスが壊滅的な損失を被っているにもかかわらず、ヴォランティアに食べ物や飲み物を無料で提供していた。ある写真には、武漢のコミュニティワーカーが宅配用の薬包で肩からつま先まで覆われている様子を写したもので、話題になった。ほぼ全ての地域で24時間体制の検問所が設けられ、ヴォランティアと警備員が出入りを管理し、人々の体温をチェックした。また、多くの地域がヴォランティアを組織し、高齢者などの弱い立場の住民の生活をチェックした。14億人もの人々が、全ての道路、全ての地域、全ての村で、このようなことが起こっていることを想像してみて欲しい。犯罪はほぼ皆無だった。

インターネット上では、政府や様々な社会機関がコロナウイルスの特徴やパンデミックの進行状況について膨大な量の情報を発信した。ソーシャルメディアでも大規模な市民参加型の情報発信が行われた。今、私はCNNBBCで、欧米諸国の専門家や当局者たちが、ウイルスが硬い表面やエアロゾル状で生存できる時間の長さなどについて話しているのを見ている。しかし、こうしたことは、2月の時点で既に何千万人もの中国のネットユーザーが毎日、毎時間話していたことだ。

政府はトップダウンで、パンデミックに対する「人民の戦争(people’s war)」を呼びかけた。そして、これはまさにボトムアップで起こったことだった。私はこれまで、中国では権威主義的な政党支配国家が市民社会の発展を許さないから市民社会が弱いのだという、多くの政治思想家の共通認識を、多少なりとも信じていた。しかし、それは、市民社会が国家とは別のもの、あるいは国家と対立するものであるという、一般的なリベラル派の定義に基づいていることに思い至った。中国の市民社会を古典的な定義、すなわちアリストテレスが「コイノニア・ポリティケ(koinonia politike)」(国家と区別されない政治的共同体)と呼んだもので見てみると、このパンデミックを通じて、おそらく世界で最も活気に満ちているように見えた。

中国では、国家の能力は市場よりも重要である。中国に限らず、最も議論が尽きないテーマの一つが、市場と国家の関係(relationship between the market and the state)である。今回は、国家が勝利し、大勝利を収めた。最も熱心な新自由主義者以外には、市場の成長とともに国家の能力を維持することが、何百万人とは言わないまでも何十万人もの死者を出すかもしれない想像を絶する破滅から中国を救ったことは極めて明白である。

1月下旬の疫病対策が始まると、中国国家は行動を開始した。中央政府は国家の医療資源を調整し、いち早く湖北省に集中させた。全国から217の医療チーム、42,000人以上の医療関係者が機材や物資とともに湖北省に派遣された。中央政府は、約17千台の人工呼吸器の湖北への輸送を調整した。その結果、流行の中心地である湖北省では、人工呼吸器が大きく不足することはなかった。

At the onset of the counter-epidemic operation in late January, the Chinese state swung into action. The central government coordinated national medical resources to quickly concentrate on Hubei province. In total, 217 medical teams with more than 42,000 medical personnel were dispatched to Hubei from around the country, along with equipment and supplies. The central government coordinated the shipment of around 17,000 ventilators to Hubei. The result was that the epicenter of the outbreak never experienced any major shortage of ventilators.

武漢では、10日間で1000床の巨大な新病院が建設された。その後、コンヴェンションセンターなどの既存の建造物を利用して、市内16カ所、計1万3000床の仮設病院を建設し、隔離された環境で軽症の患者を治療した。工業用マスクの原料を生産する国営エネルギー大手シノペックは、35日間かけて生産ラインを設計し直し、医療用マスクの生産に対応させた。自動車メーカーも組立ラインからマスクや医療用品を送り出した。マスクの生産量は1月の1日2千万枚から2月下旬には1億1600万枚になった。

それでは、これらのことを誰がやったのか? 全国から湖北に派遣された医師や看護師は、ほとんどが国営病院に勤務する国家公務員であった。病院を建設し、マスクを製造したのも国有企業である。

広大な国土にもかかわらず、この作戦は非常によく組織化されていた。北京から、中央政府が毎週、時には毎日、地方に対策を展開する。北京から、中央政府が週単位、時には日単位で地方に施策を展開し、地方政府には、その地方の事情に合わせた自由な発想で指示が出された。そして、省政府が市や県に同じように下降線を引いていく。また、その逆もある。また、その逆もしかりで、地方政府から北京へも意見が上がってくる。例えば、武漢のある学術チームは、既存の病院では、感染の恐れのある軽症の患者を多数収容することができないことを発見し、「仮設病院」のアイデアを提案した。その結果と提案を北京に送ったところ、承認され、24時間以内に実施するよう命じられた。

また、中国は国家としては経済危機の影響を和らげるために迅速に行動した。企業への直接の補助金に加え、政府は労働法の施行方法を調整し、不況時に従業員に給与を全額支払う義務を免除するようにした。その代わり、各企業は従業員を解雇せず、最低賃金と健康保険を維持するよう求められた。また、地主が国有企業の場合は、家賃の減額や免除を受けることができた。

中国共産党が中心的な役割を果たしてきた。この危機を乗り越えるにあたり、3名の人物が無名から全国的な名声を得るに至った。警告を無視した最初の内部告発者である李医師は、新型コロナウイルスで死亡した。鍾南山は、このパンデミックのための国家公衆衛生総責任者であり、アメリカのアンソニー・ファウチと同様に、対疫病作戦の表の顔として活躍している。張文宏は、上海で流行対策活動を主導してきた華山病院の医師である。経歴も地域も世代も全く異なる3人だが、2つの共通点がある。まず、全員が医師である。コロナウイルスを最初に警告し、警察に口止めされた武漢の医師がウイルスに感染したことで、騒動は最高潮に達した。

この試練の中で、中国共産党は最も目立つ存在であった。張は、私の家の2ブロック先にある病院で働いている。上海防衛のための医療チーム編成について語る彼の姿がヴィデオに収められていた。「党員は問答無用で真っ先に行け!」と叫んでいた。このヴィデオはインターネット上で大いに拡散された。

連日、武漢に向かう中国共産党の旗の前で宣誓する党員ヴォランティアの映像が中国のインターネット上に溢れ、自分の命より他人の命を優先させることを誓った。4月29日現在、前線で死亡した496人の医療従事者とヴォランティアのうち328人が党員である。

中国の習近平国家主席は「賢帝(good emperor)」だ。何年か前に、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマが、「悪帝問題(bad emperor problem)」という言葉を作った。権威主義的な政治体制では、たとえ良い統治者が出るにしても、この体制では悪い統治者が権力を持って国を滅ぼすことを防ぐことはほとんどできないという理論的な意味である。今は、この理論を議論する時期でも場所でもない。しかし、今、私が知っていることは、習近平は「賢帝」だということだ。

1月28日、習近平は世界保健機関(WHO)のトップとの会談で、自分が伝染病対策作戦の直接の責任者であることを国民に告げた。このとき、未来はこれほど暗く、不確かなものではないと感じたが、日和見主義や責任回避はこの最高指導者の性格には存在しない。武漢と湖北を封鎖することは、非常に大きな結果をもたらすので、彼一人の決断であったろう。武漢・湖北の封鎖は、彼一人の決断であったろうが、結果的に国家を破滅から救う決断となった。彼は、政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)の会議を主宰し、政策指示を出し、それを公表するという前代未聞の行動に出た。公の場ではマスクを着用した。17万人の第一線の政府関係者や有志とテレビ会議を行った。まさに「人民の戦争」は、全国民の前で彼自身が主導した。

習近平は強力な指導者として、特に国際的に、しかし国内的にも非難されることが多かったし、今後もそうであることは間違いない。欧米諸国のメディアや政府は、メディアや政治的異論に対する規制を強化し、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する政策が物議を醸しているとして、習近平政権を攻撃している。国内の反対派の中には、北京に政治権力を集中させようとする最近の動きに反対する者もいる。しかし、私の知人や中国の政治評論家の間では、最も厳しい批判をする人たちでさえ、この一世一代の危機における彼の舵取りを認めている。私は、この後、習近平の国民的人気は急上昇すると思っている。

習近平の指導力は、政府全体の社会的信用を高めた。初期段階でミスがあり、その結果、発生時の対応が遅れたことは明らかである。そして、特に内部告発者(whistleblower)である李医師の明らかな口封じに対する正当な怒りもあった。しかし、中国がほとんど知られていないウイルスに不意を突かれたことも事実である。今、中国人は、14億人の人々が数ヶ月にわたって何が起こるかを世界に示した後にもかかわらず、多くの国の政府がパンデミックの抑制に苦心しているのを恐怖の目で見ているため、自国政府の最初の誤りは、検討と反省に値するものの、もはやそれほど許しがたいとは思えない。中国のインターネット上には、武漢に向かうヴォランティアが中国共産党の旗の前で宣誓する画像が溢れかえっていた。

私にとっても、世界中の多くの人にとっても、新型コロナウイルスは生涯で最も特別な出来事であることは間違いない。ビジネスマンとして、政治学を学ぶ者として、確かに影響を与えた。しかし、親として最も感情的な影響を受けたのはこの出来事だった。私の子どもたちは、上海の公立学校に通っている。1月27日、上海は2月に予定されていた春学期の開始を延期すると発表した。子供たちは喜んだ。しかし、その喜びは長くは続かなかった。2週間後、上海市教育局から学校再開の命令が出た。上海市教育局では、全教育課程をオンライン学習に対応させるべく、記録的な速さで準備を進めていた。その新しい教材がメールで送られてきて、プリントアウトするように言われた。2日目に自宅のインクジェットプリンターが壊れた。そこで、業務用のレーザープリンターを購入し、中学校の教科書を1000ページ以上印刷した。

全ての学校は、毎日、朝8時から夕方4時まで、中国語、数学、物理、英語と、普段の学校と同じようにパソコンの画面の前で、次々と授業を続けている。宿題は毎晩、プリントアウトしたものを写真に撮り、学校のシステムにアップロードして提出する。翌朝、採点され、訂正を求められる。子供たちが家にいるのは良いことだ。しかし、私たち親の負担は大変なものだ。子供たちにこれほど怒鳴ったことはなかった。

3月19日の朝、私は目を覚まし、約2カ月間毎朝続けてきたように、前日のコロナウイルスの数値を確認しようとスマホに手を伸ばした。その朝、中国で確認された感染者数は8万928人、累積死亡者数は3245人であることを確認した。「新たな確定症例はゼロ!」となった。

私は急いで1階に降りて、子供たちに良い知らせを伝えた。子供たちの臨時教室になっているダイニングルームに入ると、国歌の前奏が聞こえてきて、私は足を止めた。子供たちは制服姿でパソコンの前に立ち、国旗掲揚の儀式を見守っていた。私は久しぶりに涙を流した。

※エリック・リー:ヴェンチャー・キャピタリスト、政治学者。上海在住。

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(終わり)

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